完全写像(perfect map)とは、連続かつ閉写像で、各点のファイバー $f^{-1}(y)$ がコンパクトな写像 $f\colon X\to Y$ のことである。コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続写像が持つ良い性質を、定義域がコンパクトでない場合にも使えるように写像の条件として取り出したもので、コンパクト集合の逆像がコンパクトになり、終域の部分集合への制限と合成で保たれる。全射の完全写像は Hausdorff 性・正則性・正規性・局所コンパクト性を像へ、コンパクト性・Lindelöf 性を逆像へ遺伝させる。コンパクト空間を因子とする積の射影が基本例で、終域が局所コンパクト Hausdorff 空間なら「コンパクト集合の逆像がコンパクト」という固有写像の条件と一致する。
前提知識: 位相空間, 連続写像, 閉写像, コンパクト空間, Hausdorff空間, 逆像
閉写像と連続写像は別の条件であり、どちらか一方を他方から導くことはできない。また「各ファイバーがコンパクト」と「すべてのコンパクト集合の逆像がコンパクト」は別の主張である。後者は三条件を合わせて初めて導かれる(prop-perfect-map-inv-cpt)。
文献により定義に差がある。Engelking89 §3.7 は定義域 $X$ が Hausdorff であることを完全写像の定義に含め、Bou98 Chapter I §10 は「任意の位相空間 $Z$ に対し $f\times\operatorname{id}_Z\colon X\times Z\to Y\times Z$ が閉写像である」ことを proper map の定義とし、これが「閉写像かつ各ファイバーが(準)コンパクト」と同値であることを示している(thm-perfect-map-bourbaki)。また全射性を定義に含める文献もある。一方、「コンパクト集合の逆像がつねにコンパクトである連続写像」を固有写像(proper map)と呼ぶ流儀も広く使われる。一般の位相空間では完全写像と固有写像は一致しないが、終域が局所コンパクト空間なら一致する(prop-perfect-map-proper)。本記事の「完全写像」は上の三条件で固定する。perfect set(完全集合:孤立点を持たない閉集合)は集合に対する別の概念であり、完全写像とは関係がない。
完全写像は、コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続写像が持つ良い性質(閉写像であり、ファイバーがコンパクトである。prop-perfect-map-cpt-to-haus)を、定義域がコンパクトでない場合にも使えるように写像の側の条件として取り出したものである。「終域の一点の上に載っている部分がコンパクトで、しかも閉集合が閉集合に写る」という条件により、終域のコンパクト集合の逆像がコンパクトになり(prop-perfect-map-inv-cpt)、Hausdorff 性・正則性・正規性・局所コンパクト性が像へ、コンパクト性・Lindelöf空間であることが逆像へ遺伝する(thm-perfect-map-image)。完全写像は「コンパクト空間と同じくらい扱いやすい写像」であり、固有写像・商写像・閉写像と比較しながら理解するとよい。
コンパクト空間 $X$ から一点空間 $\{*\}$ への唯一の写像は完全写像である。実際、一点空間への写像は連続であり、その像は空集合か一点空間全体なので閉写像でもある。唯一のファイバーは $X$ であり、仮定によりコンパクトである。
単位円周 $S^1=\{z\in\mathbb{C}\mid|z|=1\}$ 上の写像 $z\mapsto z^2$ は完全写像である。$S^1$ はコンパクトで Hausdorff であり、二乗写像は連続なので、prop-perfect-map-cpt-to-haus を適用できる。$w\in S^1$ に対し、$z^2=w$ を満たす $z$ を一つとれば、$w$ の上のファイバーは二点集合 $\{z,-z\}$ である。同様に、コンパクト Hausdorff 空間の間の任意の連続写像、たとえば閉区間 $[0,1]$ 上の $t\mapsto t^2$ は完全写像である。
$X$ を任意の位相空間、$K$ をコンパクト空間とすると、直積位相を入れた積からの射影 $p\colon X\times K\to X$ は完全写像である。証明は prop-perfect-map-product-projection に置く。この例は一般の射影が完全だという主張ではなく、第 2 因子のコンパクト性を仮定する。
コンパクトでない空間、たとえば実数直線 $\mathbb{R}$ から一点空間への定値写像は、ex-perfect-map-1 と同じ理由で連続かつ閉であるが、唯一のファイバーが $\mathbb{R}$ なので完全写像でない。この例が破る含意は「連続かつ閉写像ならば完全写像」である。同様に、局所コンパクト空間 $X$ からその一点コンパクト化 $X^*$ への包含写像(局所コンパクト空間の記事の定理(一点を付け加えるコンパクト化))は、$X$ がコンパクトでないとき $X$ が $X^*$ で閉でないので閉写像でなく、完全写像でない。
包含写像 $(0,1)\hookrightarrow\mathbb{R}$ は連続で、各ファイバーは高々一点だからコンパクトだが、閉集合 $(0,1)$ 全体の像 $(0,1)$ が $\mathbb{R}$ で閉でないので閉写像でない。この例が破る含意は「連続かつ各ファイバーがコンパクトならば完全写像」である。指数写像 $e\colon\mathbb{R}\to S^1$、$t\mapsto e^{2\pi it}$ も連続で全射だが、ファイバー $e^{-1}(1)=\mathbb{Z}$ は無限離散位相空間なのでコンパクトでなく、閉集合 $\{n+1/n\mid n\ge2\}$ の像は $1$ を集積点に持つのに $1$ を含まないので閉写像でもない。
$X$ がコンパクト空間、$Y$ が Hausdorff 空間なら、任意の連続写像 $f\colon X\to Y$ は完全写像である。
コンパクト空間の記事の命題(保存と閉性)を使う。閉集合 $C\subset X$ はコンパクト空間の閉部分集合なのでコンパクトで、その連続像 $f(C)$ もコンパクトである。Hausdorff 空間のコンパクト部分集合は閉なので $f(C)$ は $Y$ で閉であり、$f$ は閉写像である。また Hausdorff 空間の一点集合 $\{y\}$ は閉だから、連続性より $f^{-1}(y)$ は $X$ で閉であり、したがってコンパクトである。連続性は仮定されているので三条件がそろう。$\square$
終域の Hausdorff 性は省けない。二点離散空間 $\{0,1\}$ から Sierpinski空間(開集合が $\emptyset,\{1\},\{0,1\}$)への恒等集合写像は連続で、定義域はコンパクトだが、閉集合 $\{1\}$ の像 $\{1\}$ が終域で閉でないため完全写像でない。
$f\colon X\to Y$ が完全写像で $W\subset Y$ なら、制限 $f_W\colon f^{-1}(W)\to W$ も完全写像である。
連続写像の制限なので $f_W$ は連続である。$A\subset f^{-1}(W)$ が閉なら、相対位相の定義により $X$ の閉集合 $C$ で $A=C\cap f^{-1}(W)$ となるものがある。このとき
$$
f_W(A)=f(C\cap f^{-1}(W))=f(C)\cap W
$$
であり、$f(C)$ は $Y$ で閉だから右辺は $W$ で閉である。さらに $w\in W$ に対して $f_W^{-1}(w)=f^{-1}(w)$ はコンパクトである。よって $f_W$ は完全写像である。$\square$
ここで制限するのは終域を $W$ に、定義域をその逆像 $f^{-1}(W)$ に同時に狭めた写像である。定義域の任意の部分集合へ制限しても完全写像になるとは主張していない(ex-perfect-map-not-closed の包含写像は、完全写像 $\operatorname{id}_{\mathbb{R}}$ の定義域を $(0,1)$ に制限したものである)。
$f\colon X\to Y$ を閉写像とし、$U\subset X$ を開集合とする。$U^\flat:=Y\setminus f(X\setminus U)$ とおくと、$U^\flat$ は $Y$ の開集合で、$f^{-1}(U^\flat)\subset U$ であり、$A\subset Y$ が $f^{-1}(A)\subset U$ を満たせば $A\subset U^\flat$ である。さらに $f$ が全射で $U\cap V=\emptyset$ なら $U^\flat\cap V^\flat=\emptyset$ である。
$X\setminus U$ は閉集合なので $f(X\setminus U)$ は閉であり、$U^\flat$ は開である。$x\in f^{-1}(U^\flat)$ なら $f(x)\notin f(X\setminus U)$ なので $x\notin X\setminus U$、すなわち $x\in U$ である。$f^{-1}(A)\subset U$ とし $y\in A$ とすると、$f(x)=y$ となる $x$ はすべて $U$ に属するので $y\notin f(X\setminus U)$、すなわち $y\in U^\flat$ である。最後に、$y\in U^\flat\cap V^\flat$ とすると $f^{-1}(y)\subset U\cap V=\emptyset$ であるが、$f$ が全射なら $f^{-1}(y)\neq\emptyset$ なので矛盾する。$\square$
$f\colon X\to Y$ を完全写像とする。
この命題は一点ファイバーのコンパクト性より強く、完全写像の閉写像性も使っている。閉写像性を落とすと成り立たない:包含写像 $(0,1)\hookrightarrow\mathbb{R}$ について $[0,1]$ の逆像 $(0,1)$ はコンパクトでない。
$f\colon X\to Y$ と $g\colon Y\to Z$ が完全写像なら、$g\circ f\colon X\to Z$ は完全写像である。
連続写像の合成は連続であり、閉写像の合成は閉写像なので、$g\circ f$ は連続かつ閉である。$z\in Z$ に対し $K:=g^{-1}(z)$ はコンパクトである。制限 $f_K\colon f^{-1}(K)\to K$ は prop-perfect-map-restriction により完全写像なので、prop-perfect-map-inv-cpt により
$$
(g\circ f)^{-1}(z)=f^{-1}(g^{-1}(z))=f^{-1}(K)
$$
はコンパクトである。よって合成は完全写像である。$\square$
$X$ を任意の位相空間、$K$ をコンパクト空間とする。射影 $p\colon X\times K\to X$ は完全写像である。
射影 $p$ は連続であり、各 $x\in X$ のファイバー $\{x\}\times K$ は $K$ と同相(同相写像が存在する)だからコンパクトである。閉集合 $A\subset X\times K$ と $x\notin p(A)$ をとる。各 $k\in K$ について $(x,k)\notin A$ なので、直積位相の定義により開集合 $U_k\subset X$ と $V_k\subset K$ を
$$
(x,k)\in U_k\times V_k\subset(X\times K)\setminus A
$$
となるようにとれる(各 $k$ について一組ずつ選ぶので、$K$ が無限集合のときは選択公理を使う)。$K$ のコンパクト性により有限個の $V_{k_1},\dots,V_{k_n}$ が $K$ を覆う。$U:=\bigcap_{i=1}^nU_{k_i}$ とすれば $x\in U$ で、$U\times K\subset\bigcup_i U_{k_i}\times V_{k_i}$ は $A$ と交わらない。したがって $U\cap p(A)=\emptyset$ であり、$X\setminus p(A)$ は開である。ゆえに $p$ は閉写像である。$\square$
$K$ がコンパクトでない場合、射影は完全とは限らない。たとえば $\mathbb{R}\times\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ のファイバーは $\mathbb{R}$ と同相でコンパクトでなく、閉集合 $\{(s,t)\mid st=1\}$ の像 $\mathbb{R}\setminus\{0\}$ は閉でない。
$Y$ を局所コンパクト空間(本記事の意味で Hausdorff を含む)とし、$f\colon X\to Y$ を連続写像とする。このとき $f$ が完全写像であることと、$Y$ の任意のコンパクト集合 $K$ に対し $f^{-1}(K)$ がコンパクトであること(この流儀で $f$ が固有写像であること)は同値である。
完全写像ならコンパクト集合の逆像がコンパクトであることは prop-perfect-map-inv-cpt である。逆を示す。一点集合はコンパクトなので、各ファイバー $f^{-1}(y)$ はコンパクトである。閉写像であることを示すため、閉集合 $C\subset X$ と $y\in\overline{f(C)}$ をとる。$y$ のコンパクト近傍 $K$ をとると、$f^{-1}(K)\cap C$ はコンパクト集合 $f^{-1}(K)$ の閉部分集合なのでコンパクトで、その像 $f(f^{-1}(K)\cap C)=f(C)\cap K$ はコンパクトであり、Hausdorff 空間 $Y$ の閉集合である。$y$ の任意の開近傍 $W$ に対し、$W\cap\operatorname{Int}K$ は $y$ の開近傍なので $f(C)$ と交わり、その交点は $f(C)\cap K$ に属する。よって $y\in\overline{f(C)\cap K}=f(C)\cap K\subset f(C)$ である。ゆえに $f(C)$ は閉集合であり、$f$ は完全写像である。$\square$
終域の局所コンパクト性は落とせない。$\mathbb{R}$ に余可算位相(開集合は空集合と補集合が高々可算な集合)を入れた空間 $Y$ のコンパクト部分集合は有限集合に限る:$K\subset Y$ が無限集合なら可算無限部分集合 $A\subset K$ をとり、$a\in A$ ごとに開集合 $U_a:=(\mathbb{R}\setminus A)\cup\{a\}$ を考えると、これらは $Y$ を覆うが各 $U_a$ は $A$ の点を一つしか含まないので、$K$ は有限個では覆えない。したがって離散位相を入れた $\mathbb{R}$ から $Y$ への恒等写像 $g$ は連続で、コンパクト集合(有限集合)の逆像はつねにコンパクトだが、閉集合 $(0,1)$ の像 $(0,1)$ は $Y$ で閉でない($Y$ の閉集合は高々可算な集合と $\mathbb{R}$ だけである)ので閉写像でなく、完全写像でない。この例が破る含意は「コンパクト集合の逆像がすべてコンパクトな連続写像は完全写像である」であり、終域 $Y$ は Hausdorff でも局所コンパクトでもない。
lem-perfect-map-saturation の記号を使う。
全射性は落とせない。空集合から任意の位相空間への写像は完全写像であり、この場合に終域について何も言えないのは明らかである。また閉写像性を落とすと 4 は成り立たない:$\mathbb{Q}$ に離散位相を入れた空間から通常の位相の $\mathbb{Q}$ への恒等写像は連続な全単射でファイバーはすべて一点であり、定義域は局所コンパクトだが、終域は局所コンパクトでない(局所コンパクト空間の記事の例(反例:有理数全体))。この写像は閉写像でない(有理数の無限部分集合で $\mathbb{Q}$ で閉でないものの像を考えよ)。
$f\colon X\to Y$ を連続写像とする。任意の位相空間 $Z$ に対し $f\times\operatorname{id}_Z\colon X\times Z\to Y\times Z$ が閉写像であることと、$f$ が閉写像で各ファイバー $f^{-1}(y)$ がコンパクトであること、すなわち $f$ が完全写像であることは同値である。
この同値は Bou98 Chapter I §10.2 Theorem 1 で証明されており、そこでは前者の条件を proper map の定義としている。Engelking89 §3.7 も同じ特徴づけを扱う。本記事では証明を再掲せず、この同値により完全写像の概念が直積と両立する(完全写像の積 $f_1\times f_2$ は完全写像である)ことだけを注意しておく。積 $f_1\times f_2$ が完全であることは $(f_1\times f_2)\times\mathrm{id}_Z=(f_1\times\mathrm{id}_{Y_2\times Z})\circ(\mathrm{id}_{X_1}\times f_2\times\mathrm{id}_Z)$ と合成の完全性から従う。
完全写像は位相的性質の遺伝を統一的に扱う道具である。本記事で証明したもののほかに、パラコンパクト性は完全逆像に遺伝し(パラコンパクト空間、Engelking89 §5.1)、距離化可能空間であることは全射の完全像で保たれる(Engelking89 §4.4)。これらは本記事の範囲を超えるので出典を示すにとどめる。完全写像に属する条件のうち、閉写像性は商写像であること(全射の場合)を導く。さらに閉写像性とファイバーのコンパクト性を合わせると、終域のコンパクト集合の逆像がコンパクトになる。両方をあわせて初めて、コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続写像と同程度に良い振る舞いが得られる。
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