和と積分の対応表

同義語:correspondence between sums and integrals

概要

和と積分の対応表は、差分 $\Delta f(k)=f(k+1)-f(k)$ を微分に、和 $\sum_{k=a}^{b-1}$ を積分 $\int_a^b$ に読みかえた対応である。$\Delta F=f$ なら $\sum_{k=a}^{b-1}f(k)=F(b)-F(a)$(和の基本定理)である。$k^{(m)}=k(k-1)\cdots(k-m+1)$ は $\Delta k^{(m)}=mk^{(m-1)}$ で $x^m$ に、$2^k$ は $\Delta2^k=2^k$ で $e^x$ に、調和数 $H_k$ は $\Delta H_k=\frac1{k+1}$ で $\log x$ に、部分積分は部分和分に当たる。一方 $\Delta k^2=2k+1$ で、置換積分に当たるものはない。刻み $h$ の差分でも同じ規則が成り立つ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 微分係数と導関数の定義(高校数学), 定積分, 部分積分, 階差数列, 指数関数, 対数関数

微分を「差分」に、積分を「和」に読みかえると、微分積分の公式の多くが和の公式にそっくり移る。$x^2$ には $k(k-1)$ が、$e^x$ には $2^k$ が、$\log x$ には調和数 $H_k$ が、部分積分には部分和分が対応する。この記事では、この対応表の各行を両側で計算して確かめ、対応がどこで崩れるかを調べる。最後に、差分の刻みを $0$ に近づけると、刻みつきの指数関数と冪が $e^x$ と $x^m$ に近づき、和の公式が微分積分の公式の形に移っていく様子を見る。この記事は 積分と和の類似 から始まる 5 本の記事の 2 本目で、次の 和と積分の差 では、和と積分の値のずれを調べる。

高校での出発点

高校で習う和の計算と積分の計算を、3 組並べる。

1 次式の和と 1 次式の積分

$$ \sum_{k=1}^nk=\frac{n(n+1)}2,\qquad\int_0^nx\,dx=\frac{n^2}2 $$
である。$n=10$ なら和は $55$、積分は $50$ である。どちらも「$n^2$ の半分くらい」になっている。

階差数列と微分積分学の基本定理

数列 $a_k=k^2$ の階差数列は $b_k=a_{k+1}-a_k=(k+1)^2-k^2=2k+1$ である。階差数列の公式により、$n\ge2$ で
$$ a_n=a_1+\sum_{k=1}^{n-1}b_k=1+\sum_{k=1}^{n-1}(2k+1) $$
である。実際 $n=4$ なら $1+(3+5+7)=16=4^2$ である。
積分では、$F(x)=x^2$ の導関数が $F'(x)=2x$ なので、$F(n)=F(0)+\int_0^n2x\,dx$ である。「もとの関数の値 = 初めの値 + 変化の割合を足したもの」という形が共通している。

$S$ から $2S$ を引く計算と部分積分

$S=\sum_{k=1}^nk\,2^k=1\cdot2+2\cdot2^2+\cdots+n\cdot2^n$ を求める。$2S=1\cdot2^2+2\cdot2^3+\cdots+n\cdot2^{n+1}$ と並べて引くと、同じ $2^j$ どうしの係数の差がどれも $1$ になるので
$$ S-2S=2+2^2+\cdots+2^n-n\cdot2^{n+1}=(2^{n+1}-2)-n\cdot2^{n+1} $$
である(等比数列の和の公式を使った)。よって $S=(n-1)2^{n+1}+2$ である。$n=3$ なら $2+8+24=34$、公式は $2\cdot16+2=34$ である。
積分では、部分積分により
$$ \int_0^nxe^x\,dx=\bigl[xe^x\bigr]_0^n-\int_0^ne^x\,dx=ne^n-(e^n-1)=(n-1)e^n+1 $$
である。答えの形「$(n-1)\times$(底の累乗)$+$ 定数」がよく似ている。

3 組とも、和と積分は似た形の答えになるが、ぴったり同じではない。そこで次の問いを立てる。

  1. 微分積分学の基本定理に当たる和の定理は何か。→ thm-sic-fundamental
  2. $x^m$、$e^x$、$\log x$ に当たる数列は何か。→ prop-sic-falling、prop-sic-exp、prop-sic-harmonic
  3. 部分積分に当たる和の公式は何か。→ thm-sic-parts
  4. 対応はどこで崩れるか。→ ex-sic-power-rule〜ex-sic-harmonic-log
  5. 和と積分は、どういう意味で「同じ」なのか。→ prop-sic-step-exp、prop-sic-step-falling

対応表

この記事で確かめる対応を、先に表にしておく。左が微分積分、右が差分と和である。記号 $k^{(m)}$ と $H_k$ は、あとで定義する。

微分・積分差分・和ボックス
導関数 $f'(x)$差分 $\Delta f(k)=f(k+1)-f(k)$def-sic-difference
$\int_a^bf(x)\,dx$$\sum_{k=a}^{b-1}f(k)$def-sic-sum
不定積分(原始関数)不定和def-sic-antidifference
$F'=f$ なら $\int_a^bf\,dx=F(b)-F(a)$$\Delta F=f$ なら $\sum_{k=a}^{b-1}f(k)=F(b)-F(a)$thm-sic-fundamental
$(x^m)'=mx^{m-1}$$\Delta k^{(m)}=m\,k^{(m-1)}$prop-sic-falling
$\int x^m\,dx=\frac{x^{m+1}}{m+1}$($m\ne-1$)$\sum k^{(m)}=\frac{k^{(m+1)}}{m+1}$($m\ne-1$)cor-sic-falling-sum
$(e^{ax})'=a\,e^{ax}$、とくに $(e^x)'=e^x$$\Delta(1+a)^k=a\,(1+a)^k$、とくに $\Delta2^k=2^k$prop-sic-exp
$(\log x)'=x^{-1}$$\Delta H_k=k^{(-1)}$prop-sic-harmonic
部分積分部分和分thm-sic-parts
置換積分対応するものがないex-sic-no-chain

図 1 は、表の 3 つの行を並べてグラフにしたものである。
左から、x^2 と k^(2)=k(k-1)、e^x と 2^k、log x と H_k。曲線が微分積分の側、点が差分と和の側である 左から、x^2 と k^(2)=k(k-1)、e^x と 2^k、log x と H_k。曲線が微分積分の側、点が差分と和の側である
どの組も、点(和の側)と曲線(積分の側)は形が似ているが、値は一致しない。形が似ている理由は、差分と導関数が同じ規則を満たすからである。以下、表を上から順に確かめる。

差分と和の基本定理

以下、関数 $f$ は整数 $k$(またはある範囲の整数)に対して実数 $f(k)$ を決めるものとする。数列 $(a_k)$ は、$k\mapsto a_k$ という関数と同じものと考える。

差分

関数 $f$ に対して
$$ \Delta f(k):=f(k+1)-f(k) $$
で決まる関数 $\Delta f$ を、$f$ の 差分 という。

導関数 $f'(x)$ は $\frac{f(x+h)-f(x)}h$ で $h\to0$ とした極限であった。差分は $h=1$ に固定して、極限をとらないものである。数列の差分は、高校でいう階差数列である。
差分は導関数と同じく 線形 である。つまり、定数 $c$ と関数 $f,g$ について $\Delta(f+g)=\Delta f+\Delta g$、$\Delta(cf)=c\,\Delta f$ が成り立つ。また、定数関数の差分は $0$ である。

差分の線形性を定義から確かめる

def-sic-difference に当てはめる。整数 $k$ について
$$ \Delta(f+g)(k)=\bigl(f(k+1)+g(k+1)\bigr)-\bigl(f(k)+g(k)\bigr)=\bigl(f(k+1)-f(k)\bigr)+\bigl(g(k+1)-g(k)\bigr)=\Delta f(k)+\Delta g(k) $$
である。同じように
$$ \Delta(cf)(k)=c\,f(k+1)-c\,f(k)=c\bigl(f(k+1)-f(k)\bigr)=c\,\Delta f(k) $$
である。定数関数 $f(k)=c$ では $\Delta f(k)=f(k+1)-f(k)=c-c=0$ である。

差分を計算する
  • $\Delta k^2=(k+1)^2-k^2=2k+1$。
  • $\Delta k^3=(k+1)^3-k^3=3k^2+3k+1$。
  • $\Delta k(k-1)=(k+1)k-k(k-1)=k\{(k+1)-(k-1)\}=2k$。
  • $\Delta\frac1{k+1}=\frac1{k+2}-\frac1{k+1}=\frac{(k+1)-(k+2)}{(k+1)(k+2)}=-\frac1{(k+1)(k+2)}$。
    1 つ目と 2 つ目は、微分の公式 $(x^2)'=2x$、$(x^3)'=3x^2$ から余分な項がついている。3 つ目は $(x^2)'=2x$ と同じ形である。4 つ目は、$\left(\frac1x\right)'=-\frac1{x^2}$ とよく似た形である。

積分の $\int_a^b$ に当たる和を、次のように決めておく。

積分に当たる和

整数 $a\le b$ について、積分 $\int_a^bf(x)\,dx$ に当たる和を
$$ \sum_{k=a}^{b-1}f(k)=f(a)+f(a+1)+\cdots+f(b-1) $$
とする($a=b$ のときは何も足さないので $0$)。上の端 $b$ での値 $f(b)$ は入らない。

区間 $[a,b]$ を幅 $1$ の小区間 $[k,k+1]$ に分け、各小区間の左端の値 $f(k)$ に幅 $1$ を掛けて足したもの、と考えるとよい。長方形の面積の和が積分に近づくことは 区分求積と積分の定義 で扱った。ここでは幅を $1$ のままにして、極限をとらない。

不定和

関数 $f$ に対して、$\Delta F=f$ を満たす関数 $F$ を $f$ の 不定和 という。

不定和は、不定積分(原始関数)に当たるものである。ex-sic-difference から、$k^2$ は $2k+1$ の不定和であり、$\frac{k(k-1)}2$ は $k$ の不定和である。

和の基本定理

$a< b$ を整数とする。

  1. $a\le k\le b$ で定義された関数 $F$ が、$a\le k\le b-1$ で $\Delta F(k)=f(k)$ を満たすならば
    $$ \sum_{k=a}^{b-1}f(k)=F(b)-F(a) $$
    である。
  2. $x\ge a$ の整数 $x$ について $S(x):=\sum_{k=a}^{x-1}f(k)$(とくに $S(a)=0$)とおくと、$\Delta S(x)=f(x)$ である。
  3. 整数全体で定義された関数 $G$ がすべての整数 $k$ で $\Delta G(k)=0$ を満たすならば、$G$ は定数である。したがって、整数全体で定義された不定和は、定数の差を除いてただ 1 つである。

1 は $\int_a^bf(x)\,dx=F(b)-F(a)$ に、2 は「$\int_a^xf(t)\,dt$ を $x$ で微分すると $f(x)$ に戻る」に、3 は「導関数が $0$ なら定数」に当たる。

隣り合う項を消す

方針:1 では $f(k)$ を $F(k+1)-F(k)$ に書きかえて足す。2 は和の定義から直接計算する。3 は $G(k+1)=G(k)$ を順にたどる。
1 について。$k=a,a+1,\dots,b-1$ で $f(k)=F(k+1)-F(k)$ なので
$$ \sum_{k=a}^{b-1}f(k)=\bigl(F(a+1)-F(a)\bigr)+\bigl(F(a+2)-F(a+1)\bigr)+\cdots+\bigl(F(b)-F(b-1)\bigr) $$
である。$F(a+1),\dots,F(b-1)$ は、それぞれ $+$ で 1 回、$-$ で 1 回現れて打ち消し合う。残るのは $F(b)$ と $-F(a)$ だけなので、和は $F(b)-F(a)$ である。
2 について。$S(x+1)$ は $f(a)$ から $f(x)$ までの和、$S(x)$ は $f(a)$ から $f(x-1)$ までの和である。引くと共通の項 $f(a),\dots,f(x-1)$ が消えて
$$ \Delta S(x)=S(x+1)-S(x)=\sum_{k=a}^{x}f(k)-\sum_{k=a}^{x-1}f(k)=f(x) $$
である。
3 について。すべての整数 $k$ で $G(k+1)-G(k)=0$、つまり $G(k+1)=G(k)$ である。$k=0,1,2,\dots$ と順に使うと $G(0)=G(1)=G(2)=\cdots$ である。$k=-1,-2,\dots$ と使うと $G(0)=G(-1)=G(-2)=\cdots$ である。よって $G$ はすべての整数で $G(0)$ に等しく、定数である。$F_1,F_2$ がどちらも $f$ の不定和なら、差分の線形性(ex-sic-difference-linear)から $\Delta(F_1-F_2)=\Delta F_1-\Delta F_2=f-f=0$ なので、$F_1-F_2$ は定数である。$\square$

基本定理を使って和を求める
  • $F(k)=k^2$ は $\Delta F(k)=2k+1$ を満たす(ex-sic-difference)。1 を $a=0$、$b=n$ で使うと $\sum_{k=0}^{n-1}(2k+1)=n^2-0^2=n^2$ である。$n=4$ なら $1+3+5+7=16$ である。奇数を小さい方から $n$ 個足すと $n^2$ になる。
  • $F(k)=-\frac1{k+1}$ は $\Delta F(k)=\frac1{(k+1)(k+2)}$ を満たす(ex-sic-difference の 4 つ目の符号を変えたもの)。1 を $a=0$、$b=n$ で使うと
    $$ \sum_{k=0}^{n-1}\frac1{(k+1)(k+2)}=-\frac1{n+1}-\left(-\frac11\right)=1-\frac1{n+1} $$
    である。$n=3$ なら $\frac12+\frac16+\frac1{12}=\frac{6+2+1}{12}=\frac34=1-\frac14$ である。
  • ex-sic-kaisa の階差数列の公式は、1 を $F=a$、$f=b$、区間の端を $1$ と $n$ にして使ったものである。
和と積分がぴったり一致する例

ex-sic-fundamental の 2 つ目の和 $\sum_{k=0}^{n-1}\frac1{(k+1)(k+2)}=1-\frac1{n+1}$ を、積分と比べる。
$$ \int_1^{n+1}\frac{dx}{x^2}=\left[-\frac1x\right]_1^{n+1}=-\frac1{n+1}-\left(-1\right)=1-\frac1{n+1} $$
で、和と同じ値になる。これは偶然ではない。幅 $1$ の区間 $[k+1,k+2]$ で積分すると
$$ \int_{k+1}^{k+2}\frac{dx}{x^2}=\left[-\frac1x\right]_{k+1}^{k+2}=\frac1{k+1}-\frac1{k+2}=\frac{(k+2)-(k+1)}{(k+1)(k+2)}=\frac1{(k+1)(k+2)} $$
なので、和の各項がちょうど幅 $1$ の区間での積分になっている。$k=0,\dots,n-1$ について足すと、区間についての加法性から $\int_1^{n+1}\frac{dx}{x^2}$ になる。$n=3$ なら、どちらも $\frac34$ である。

冪:$x^m$ と下降階乗冪

ex-sic-difference で見たように、$\Delta k^2=2k+1$ には、微分の公式 $(x^2)'=2x$ にない余分な $1$ がつく。ところが $k(k-1)$ の差分は $2k$ で、余分な項がない。そこで、差分の世界では $k^m$ の代わりに次の積を「冪」として使う。

下降階乗冪

$m$ を正の整数とする。
$$ k^{(m)}:=k(k-1)(k-2)\cdots(k-m+1)\qquad(m\text{ 個の因子の積}) $$
を $k$ の $m$ 次の下降階乗冪 という。$k^{(0)}:=1$ とする。さらに負の番号を
$$ k^{(-m)}:=\frac1{(k+1)(k+2)\cdots(k+m)}\qquad(m\text{ 個の因子の積の逆数}) $$
で定める(分母が $0$ になる $k=-1,\dots,-m$ では考えない)。

下降階乗冪の値
  • $5^{(2)}=5\cdot4=20$、$5^{(3)}=5\cdot4\cdot3=60$、$5^{(5)}=5\cdot4\cdot3\cdot2\cdot1=120=5!$。
  • $3^{(4)}=3\cdot2\cdot1\cdot0=0$。$0$ 以上の整数 $n$ と $m>n$ では、因子 $n-n=0$ が入るので $n^{(m)}=0$ である。
  • $k^{(1)}=k$、$k^{(2)}=k(k-1)=k^2-k$、$k^{(3)}=k(k-1)(k-2)=k^3-3k^2+2k$。
  • $k^{(-1)}=\frac1{k+1}$、$2^{(-2)}=\frac1{3\cdot4}=\frac1{12}$。
    $0$ 以上の整数 $n$ について、$n^{(m)}$ は $n$ 個から $m$ 個を選んで並べる順列の数 ${}_n\mathrm{P}_m$ である。
下降階乗冪の差分

すべての整数 $m$ について
$$ \Delta k^{(m)}=m\,k^{(m-1)} $$
である(負の番号では、両辺が定義される $k$ について)。

共通の因子でくくる

方針:$(k+1)^{(m)}$ と $k^{(m)}$ に共通する因子をくくり出す。$m$ が正、$0$、負の場合に分ける。
$m=0$ のとき。$k^{(0)}=1$ は定数なので $\Delta k^{(0)}=0=0\cdot k^{(-1)}$ である。
$m\ge1$ のとき。定義から
$$ (k+1)^{(m)}=(k+1)\cdot k(k-1)\cdots(k-m+2),\qquad k^{(m)}=k(k-1)\cdots(k-m+2)\cdot(k-m+1) $$
である。どちらにも $k(k-1)\cdots(k-m+2)$ が入っている。これは $k$ から始めて $m-1$ 個の因子を掛けたものなので $k^{(m-1)}$ である($m=1$ のときは因子がなく $1=k^{(0)}$)。よって
$$ \Delta k^{(m)}=(k+1)\,k^{(m-1)}-k^{(m-1)}\,(k-m+1)=k^{(m-1)}\bigl\{(k+1)-(k-m+1)\bigr\}=m\,k^{(m-1)} $$
である。
$m=-j$($j\ge1$)のとき。定義から
$$ (k+1)^{(-j)}=\frac1{(k+2)(k+3)\cdots(k+j+1)},\qquad k^{(-j)}=\frac1{(k+1)(k+2)\cdots(k+j)} $$
である。通分して、共通の分母を $(k+1)(k+2)\cdots(k+j+1)$ にする。1 つ目は分子と分母に $k+1$ を、2 つ目は分子と分母に $k+j+1$ を掛ければよい。
$$ \Delta k^{(-j)}=\frac{(k+1)-(k+j+1)}{(k+1)(k+2)\cdots(k+j+1)}=\frac{-j}{(k+1)(k+2)\cdots(k+j+1)}=-j\,k^{(-j-1)} $$
である。$m=-j$ なので、これは $m\,k^{(m-1)}$ と同じである。$\square$

微分の公式 $(x^m)'=mx^{m-1}$ と、ちょうど同じ形である。これと thm-sic-fundamental を合わせると、積分の公式 $\int x^m\,dx=\frac{x^{m+1}}{m+1}$ の和の版が得られる。

下降階乗冪の和

$m\ne-1$ を整数、$a< b$ を整数とする($m\le-2$ のときは $a\ge0$ とする)。このとき
$$ \sum_{k=a}^{b-1}k^{(m)}=\frac{b^{(m+1)}-a^{(m+1)}}{m+1} $$
である。

不定和を見つける

$m\ne-1$ なので $m+1\ne0$ で割れる。$F(k):=\frac{k^{(m+1)}}{m+1}$ とおくと、差分の線形性(ex-sic-difference-linear)と prop-sic-falling(番号 $m+1$ で使う)により
$$ \Delta F(k)=\frac1{m+1}\Delta k^{(m+1)}=\frac1{m+1}(m+1)\,k^{(m)}=k^{(m)} $$
である。$m\le-2$ のとき $a\ge0$ なので、$a\le k\le b$ で分母は $0$ にならない。thm-sic-fundamental の 1 により、和は $F(b)-F(a)$ に等しい。$\square$

2 次の下降階乗冪の和と $x$ の 2 乗の積分

cor-sic-falling-sum を $m=2$、$a=0$、$b=n$ で使うと、$0^{(3)}=0$ なので
$$ \sum_{k=0}^{n-1}k(k-1)=\frac{n^{(3)}}3=\frac{n(n-1)(n-2)}3 $$
である。$n=4$ なら左辺は $0+0+2+6=8$、右辺は $\frac{4\cdot3\cdot2}3=8$ である。積分では $\int_0^4x^2\,dx=\frac{64}3=21.33\cdots$ で、答えの形 $\frac{n^3}3$ と $\frac{n(n-1)(n-2)}3$ が対応している。

2 乗の和の公式を導く

$k^2$ を下降階乗冪で書くと $k^2=k(k-1)+k=k^{(2)}+k^{(1)}$ である。和の線形性と cor-sic-falling-sum($m=2$ と $m=1$)により
$$ \sum_{k=0}^{n-1}k^2=\frac{n^{(3)}}3+\frac{n^{(2)}}2=\frac{n(n-1)(n-2)}3+\frac{n(n-1)}2=\frac{n(n-1)\{2(n-2)+3\}}6=\frac{n(n-1)(2n-1)}6 $$
である。$n=4$ なら左辺は $0+1+4+9=14$、右辺は $\frac{4\cdot3\cdot7}6=14$ である。$n$ を $n+1$ に取りかえると、高校の公式 $\sum_{k=1}^nk^2=\frac{n(n+1)(2n+1)}6$ になる($k=0$ の項は $0$)。

負の番号の和と $x$ の $-2$ 乗の積分

cor-sic-falling-sum を $m=-2$、$a=0$、$b=n$ で使う。$m+1=-1$ なので
$$ \sum_{k=0}^{n-1}k^{(-2)}=\frac{n^{(-1)}-0^{(-1)}}{-1}=-\frac1{n+1}+1=1-\frac1{n+1} $$
である。これは ex-sic-fundamental の 2 つ目の和と同じもので、積分 $\int x^{-2}\,dx=\frac{x^{-1}}{-1}$ と同じ形の計算で求まった。

$m=-1$ が除かれているのは、積分の公式 $\int x^m\,dx=\frac{x^{m+1}}{m+1}$ で $m=-1$ が除かれるのと同じ理由である($m+1=0$ で割れない)。積分では $m=-1$ のとき $\log x$ が現れる。和で何が現れるかは、あとの prop-sic-harmonic で見る。
$k^m$ の和の一般の公式($k^m$ を下降階乗冪で書く方法、Bernoulli 数を使った公式)は 数列の和と差分 で扱っている。

指数:$e^x$ と $2^k$

微分しても変わらない関数は $e^x$ であった(指数関数の微分)。差分しても変わらない数列は $2^k$ である。

指数関数の差分

$a$ を $-1$ でない実数とすると、
$$ \Delta(1+a)^k=a\,(1+a)^k $$
である。とくに $a=1$ のとき $\Delta2^k=2^k$ である。

共通の因子でくくる

$(1+a)^{k+1}=(1+a)^k(1+a)$ なので
$$ \Delta(1+a)^k=(1+a)^k(1+a)-(1+a)^k=(1+a)^k\bigl\{(1+a)-1\bigr\}=a\,(1+a)^k $$
である。$a=1$ を代入すると $\Delta2^k=2^k$ である。$\square$

微分では $(e^{ax})'=a\,e^{ax}$ であった。$e^{ax}$ には $(1+a)^k$ が対応する。$a=1$ では、$e^x$ に $2^k$ が対応する。差分では「$1$ 進むと何倍になるか」が大事で、$2^k$ は $1$ 進むと $2$ 倍、つまり増える量 $2^{k+1}-2^k$ がちょうど今の値 $2^k$ に等しい。

等比数列の和と指数関数の積分
  • prop-sic-exp より $F(k)=2^k$ は $2^k$ の不定和なので、$\sum_{k=0}^{n-1}2^k=2^n-2^0=2^n-1$ である。積分では $\int_0^ne^x\,dx=e^n-1$ である。$n=5$ なら、和は $1+2+4+8+16=31$、積分は $e^5-1=147.41\cdots$ である。
  • $a=2$ とすると $\Delta3^k=2\cdot3^k$ なので、$F(k)=\frac{3^k}2$ が $3^k$ の不定和である。$\sum_{k=0}^{n-1}3^k=\frac{3^n-1}2$ である。$n=3$ なら $1+3+9=13=\frac{27-1}2$ である。積分では $\int_0^ne^{2x}\,dx=\frac{e^{2n}-1}2$ で、「$2$ で割る」ところまで対応している。

図 1 の中央のグラフでは、$2^k$ は $e^x$ よりずっとゆっくり増える。$e>2$ なので、$x>0$ では $e^x>2^x$ である。差分の世界の「$e$」が $2$ になるのは、$\Delta b^k=(b-1)b^k$ が $b^k$ に等しくなる底が $b=2$ だからである。

対数:$\log x$ と調和数

調和数

$0$ 以上の整数 $k$ について
$$ H_k:=1+\frac12+\frac13+\cdots+\frac1k,\qquad H_0:=0 $$
を 調和数 という。

調和数の差分

$0$ 以上の整数 $k$ について
$$ \Delta H_k=\frac1{k+1}=k^{(-1)} $$
である。

定義から計算する

$H_{k+1}$ は $1$ から $\frac1{k+1}$ までの和、$H_k$ は $1$ から $\frac1k$ までの和である($k=0$ では $H_1=1$、$H_0=0$)。引くと共通の項が消えて $H_{k+1}-H_k=\frac1{k+1}$ である。def-sic-falling により $\frac1{k+1}=k^{(-1)}$ である。$\square$

微分では $(\log x)'=\frac1x=x^{-1}$ であった。cor-sic-falling-sum で除かれた $m=-1$ の場合、$k^{(-1)}$ の不定和として調和数が現れる。積分で $x^{-1}$ の原始関数として $\log x$ が現れるのと、ちょうど同じ構造である。

調和数の差と $\log 2$

prop-sic-harmonic と thm-sic-fundamental の 1($a=n$、$b=2n$)により
$$ \sum_{k=n}^{2n-1}\frac1{k+1}=\frac1{n+1}+\frac1{n+2}+\cdots+\frac1{2n}=H_{2n}-H_n $$
である。積分では $\int_n^{2n}\frac{dx}x=\log2n-\log n=\log2=0.69315$ である(小数第 5 位まで)。値を比べると

$n$$1$$10$$100$
$H_{2n}-H_n$$0.5$$0.66877$$0.69065$

で、$n$ を大きくすると $\log 2$ に近づいていく。$n=1$ では $H_2-H_1=\frac12$ である。

部分和分:部分積分の和の版

積の微分 $(fg)'=f'g+fg'$ から部分積分が得られた。積の差分からは、部分和分が得られる。まず小さな数で積の差分を計算してみる。

積の差分を計算する

$f(k)=k$、$g(k)=2^k$ とする。$f(k)g(k)=k\,2^k$ の差分は
$$ \Delta(k\,2^k)=(k+1)2^{k+1}-k\,2^k=2^k\{2(k+1)-k\}=(k+2)\,2^k $$
である。一方 $\Delta f(k)=1$、$\Delta g(k)=2^k$ なので、微分の積の公式をそのまま真似た $f\,\Delta g+g\,\Delta f$ は $k\,2^k+2^k=(k+1)2^k$ であり、$(k+2)2^k$ と一致しない。$g$ を $1$ つずらした $f(k)\,\Delta g(k)+g(k+1)\,\Delta f(k)$ にすると $k\,2^k+2^{k+1}=(k+2)2^k$ となって一致する。

部分和分

関数 $f,g$ と整数 $a< b$ について、次が成り立つ。

  1. $\Delta(fg)(k)=f(k)\,\Delta g(k)+g(k+1)\,\Delta f(k)$。
  2. $\displaystyle\sum_{k=a}^{b-1}f(k)\,\Delta g(k)=f(b)g(b)-f(a)g(a)-\sum_{k=a}^{b-1}g(k+1)\,\Delta f(k)$。
積の差分を足し合わせる

方針:1 は右辺を展開して左辺と比べる。2 は 1 を $k=a,\dots,b-1$ について足し、左辺に thm-sic-fundamental を使う。
1 について。右辺を差分の定義で書くと
$$ f(k)\bigl\{g(k+1)-g(k)\bigr\}+g(k+1)\bigl\{f(k+1)-f(k)\bigr\} $$
である。展開すると $f(k)g(k+1)-f(k)g(k)+g(k+1)f(k+1)-g(k+1)f(k)$ となる。1 項目と 4 項目は同じもの($f(k)g(k+1)$)の $+$ と $-$ なので消える。残りは $f(k+1)g(k+1)-f(k)g(k)$ で、これは $\Delta(fg)(k)$ である。
2 について。1 の式を $k=a,a+1,\dots,b-1$ について足すと
$$ \sum_{k=a}^{b-1}\Delta(fg)(k)=\sum_{k=a}^{b-1}f(k)\,\Delta g(k)+\sum_{k=a}^{b-1}g(k+1)\,\Delta f(k) $$
である。左辺は、$F=fg$ として thm-sic-fundamental の 1 を使うと $f(b)g(b)-f(a)g(a)$ である。右辺の 2 つ目の和を左辺に移すと 2 の式になる。$\square$

部分積分の公式 $\int_a^bf(x)g'(x)\,dx=\bigl[f(x)g(x)\bigr]_a^b-\int_a^bg(x)f'(x)\,dx$ と同じ形である。違いは、右辺の和の中の $g$ が $1$ つずれて $g(k+1)$ になっていることだけである。部分和分は、解析学では Abel の級数変形法とも呼ばれる(Abelの級数変形法とその応用)。部分積分で何を微分する側に選ぶかの考え方は、高校数学の記事 部分積分の使い方 にある。部分和分でも同じ考え方で $f$ と $g$ を選ぶ。

$k\,2^k$ の和と $xe^x$ の積分

$f(k)=k$、$g(k)=2^k$ とすると $\Delta g(k)=2^k$、$\Delta f(k)=1$、$g(k+1)=2^{k+1}$ である。thm-sic-parts の 2 を $a=0$、$b=n$ で使うと
$$ \sum_{k=0}^{n-1}k\,2^k=n\,2^n-0\cdot2^0-\sum_{k=0}^{n-1}2^{k+1}=n\,2^n-(2^{n+1}-2)=(n-2)\,2^n+2 $$
である($\sum_{k=0}^{n-1}2^{k+1}=2+4+\cdots+2^n=2^{n+1}-2$)。$n=4$ なら左辺は $0+2+8+24=34$、右辺は $2\cdot16+2=34$ である。
積分の側は、ex-sic-s2s で計算した $\int_0^nxe^x\,dx=ne^n-(e^n-1)=(n-1)e^n+1$ である。計算の手順が 1 行ずつ対応している。ex-sic-s2s の $S-2S$ の計算は、部分和分をこの場合に行ったものである。実際、$n$ を $n+1$ に取りかえると $\sum_{k=1}^{n}k\,2^k=(n-1)2^{n+1}+2$ となり、ex-sic-s2s の答えと一致する($k=0$ の項は $0$)。

調和数の和と対数の積分

$f(k)=H_k$、$g(k)=k$ とすると $\Delta g(k)=1$、$\Delta f(k)=\frac1{k+1}$(prop-sic-harmonic)、$g(k+1)=k+1$ である。thm-sic-parts の 2 を $a=0$、$b=n$ で使うと
$$ \sum_{k=0}^{n-1}H_k=n\,H_n-0\cdot H_0-\sum_{k=0}^{n-1}(k+1)\cdot\frac1{k+1}=n\,H_n-n $$
である。$n=3$ なら左辺は $H_0+H_1+H_2=0+1+\frac32=\frac52$、右辺は $3\cdot\frac{11}6-3=\frac{11}2-3=\frac52$ である。
積分では、$f(x)=\log x$、$g(x)=x$ として部分積分すると
$$ \int_1^n\log x\,dx=\bigl[x\log x\bigr]_1^n-\int_1^nx\cdot\frac1x\,dx=n\log n-(n-1) $$
である。$H_n\leftrightarrow\log n$ と読みかえると、$nH_n-n$ と $n\log n-n+1$ が対応している。

対応が崩れるところ

対応表はよくできているが、微分積分の規則がすべて差分と和に移るわけではない。崩れるところを表にまとめる。

微分積分で成り立つこと差分と和ではボックス
$(x^2)'=2x$$\Delta k^2=2k+1$(余分な項がつく)ex-sic-power-rule
積の公式 $(fg)'=f'g+fg'$$\Delta(fg)$ には $\Delta f\,\Delta g$ が余分につくex-sic-product
合成関数の微分と置換積分対応する公式がないex-sic-no-chain
実数上で $G'=0$ なら $G$ は定数実数上で $\Delta G=0$ でも定数とは限らないex-sic-periodic
$\int_1^n\frac{dx}x=\log n$$H_n$ と $\log n$ の差は $0$ にならないex-sic-harmonic-log
反例:冪の公式は普通の冪では成り立たない

$(x^m)'=mx^{m-1}$ と同じ形の $\Delta k^m=mk^{m-1}$ は、$m=2$ で $\Delta k^2=2k+1\ne2k$ となって成り立たない。$m=3$ でも $\Delta k^3=3k^2+3k+1\ne3k^2$ である。そのため $\sum_{k=0}^{n-1}k^2$ は $\frac{n^3}3$ にならず、$\frac{n^3}3-\frac{n^2}2+\frac n6$ になる(ex-sic-square-sum の答えを展開したもの)。冪を下降階乗冪に取りかえると、公式が成り立つようになる(prop-sic-falling)。

反例:積の差分には余分な項がつく

thm-sic-parts の 1 で $g(k+1)=g(k)+\Delta g(k)$ と書きかえると
$$ \Delta(fg)(k)=f(k)\,\Delta g(k)+g(k)\,\Delta f(k)+\Delta f(k)\,\Delta g(k) $$
となる。微分の積の公式と比べると、最後の項 $\Delta f\,\Delta g$ が余分である。$f(k)=g(k)=k$ なら $\Delta f=\Delta g=1$ で、$\Delta(k\cdot k)=k+k+1=2k+1$ となる。ex-sic-power-rule の余分な $1$ は、この項から来ている。微分では、この項に当たるものは $h\to0$ の極限で消えてしまう($h$ の 2 乗の大きさの項だからである)。

反例:置換積分に当たる公式がない

合成関数の微分により $\left(e^{x^2}\right)'=2x\,e^{x^2}$ なので(置換積分 $t=x^2$ をしても同じ)
$$ \int_0^n2x\,e^{x^2}\,dx=e^{n^2}-1 $$
である。これを真似て $\sum_{k=0}^{n-1}(2k+1)\,2^{k^2}=2^{n^2}-1$ となるかを調べると

$n$$1$$2$$3$
$\sum_{k=0}^{n-1}(2k+1)\,2^{k^2}$$1$$1+3\cdot2=7$$7+5\cdot2^4=87$
$2^{n^2}-1$$1$$15$$511$

で、$n=2$ から一致しない。実際の差分は
$$ \Delta2^{k^2}=2^{(k+1)^2}-2^{k^2}=2^{k^2}\left(2^{2k+1}-1\right) $$
であり、$(2k+1)\,2^{k^2}$ とは違う。合成関数の微分は「中の関数 $x^2$ が少し変わると、外の関数がその変化に比例して変わる」ことに基づく。差分では中の関数 $k^2$ が一度に $2k+1$ も変わるので、外の関数 $2^{(\cdot)}$ の差分の公式をそのまま使えない。

反例:実数の上では差分が 0 でも定数とは限らない

$G(x)=\sin2\pi x$ を実数全体で考えると、すべての実数 $x$ で
$$ G(x+1)-G(x)=\sin(2\pi x+2\pi)-\sin2\pi x=0 $$
である。しかし $G(0)=0$、$G\left(\frac14\right)=\sin\frac\pi2=1$ なので、$G$ は定数ではない。thm-sic-fundamental の 3 は、$G$ が 整数の上だけで 定義されていることを使っている。整数の上では $G(k)=\sin2\pi k=0$ で定数なので、定理とは矛盾しない。実数の上で考えると、不定和は定数ではなく「$G(x+1)=G(x)$ を満たす関数(周期 $1$ の関数)」の差を除いてしか決まらない。

反例:調和数は対数に等しくない

対応表で $H_k$ と $\log x$ は同じ行にあるが、値は一致しない。$n=10$ で $H_{10}=2.92897$、$\log10=2.30259$ である。差 $H_n-\log n$ は $n=100$ で $0.58221$、$n=1000$ で $0.57772$ となり、$0$ ではなく $0.5772\cdots$(Euler の定数)に近づく。この差がなぜ収束するのかは 和と積分の差 で、差をさらにくわしく表す方法は Euler–Maclaurinの公式(高校数学) で扱う。

刻みを小さくすると:どの意味で同じか

ここまでの差分は、刻みが $1$ に固定されていた。刻みを正の数 $h$ にした差分を考えると、差分と和の公式が、$h\to0$ で微分と積分の公式に近づいていく様子が見える。これが、この記事の問い「和と積分はどういう意味で同じか」への答えである。

刻み $h$ の差分

$h>0$ とする。実数 $x$ で定義された関数 $f$ について
$$ \Delta_hf(x):=\frac{f(x+h)-f(x)}h $$
を、刻み $h$ の差分という。

$h=1$ なら $\Delta_1=\Delta$ である。$h\to0$ とした極限が導関数 $f'(x)$ である。

刻み $h$ の和の基本定理

$h>0$、$N$ を正の整数、$b=a+Nh$ とする。$a\le x\le b$ で定義された関数 $F$ が、点 $x=a,\ a+h,\ \dots,\ a+(N-1)h$ で $\Delta_hF(x)=f(x)$ を満たすならば
$$ h\sum_{j=0}^{N-1}f(a+jh)=F(b)-F(a) $$
である。

刻み $h$ で望遠鏡和を作る

$\Delta_hF(x)=f(x)$ の両辺に $h$ を掛けると $h\,f(x)=F(x+h)-F(x)$ である。$x=a+jh$($j=0,1,\dots,N-1$)として足すと、右辺は
$$ \bigl(F(a+h)-F(a)\bigr)+\bigl(F(a+2h)-F(a+h)\bigr)+\cdots+\bigl(F(a+Nh)-F(a+(N-1)h)\bigr) $$
となり、prf-sic-fundamental の 1 と同じく途中の項が打ち消し合って $F(a+Nh)-F(a)=F(b)-F(a)$ が残る。$\square$

左辺 $h\sum_{j=0}^{N-1}f(a+jh)$ は、区間 $[a,b]$ を幅 $h$ で $N$ 等分したときの左端和(長方形の面積の和)である。

刻みを 0 に近づけたときの見方

$F$ を、微分できて導関数 $F'$ が連続な関数とする。prop-sic-step-sum を $f:=\Delta_hF$ として使うと、どの $h=\frac{b-a}N$ でも
$$ h\sum_{j=0}^{N-1}\Delta_hF(a+jh)=F(b)-F(a) $$
がぴったり成り立つ。$N\to\infty$(つまり $h\to0$)とすると、各点で $\Delta_hF(x)\to F'(x)$ であり、左辺は $\int_a^bF'(x)\,dx$ に近づく。こうして、形の上では微分積分学の基本定理 $\int_a^bF'(x)\,dx=F(b)-F(a)$ に移る。
ただし、最後の「左辺が $\int_a^bF'(x)\,dx$ に近づく」ことの根拠(平均値の定理と、$F'$ の一様連続性)は、この記事では証明しない。ここでは、刻み $h$ の規則が形の上で微分積分の規則に移ることを見るにとどめる。連続関数の左端和が積分に近づくことそのものは、区分求積と積分の定義 で証明している。

次に、指数関数と冪について、刻み $h$ の版が $h\to0$ で $e^x$ と $x^m$ に近づくことを確かめる。こちらは証明する。

刻み $h$ の指数関数

$0< h$ について $E_h(x):=(1+h)^{x/h}$ とおく。

  1. すべての実数 $x$ で $\Delta_hE_h(x)=E_h(x)$、$E_h(0)=1$ である。
  2. 各実数 $x$ について、$h\to0$($h>0$)のとき $E_h(x)\to e^x$ である。
定義の計算と対数をとった極限

方針:1 は prf-sic-exp と同じ計算をする。2 は対数をとり、対数関数の微分係数に帰着させる。
1 について。$E_h(x+h)=(1+h)^{(x+h)/h}=(1+h)^{x/h}(1+h)^1=E_h(x)(1+h)$ なので
$$ \Delta_hE_h(x)=\frac{E_h(x)(1+h)-E_h(x)}h=\frac{E_h(x)\cdot h}h=E_h(x) $$
である。また $E_h(0)=(1+h)^0=1$ である。
2 について。$E_h(x)>0$ なので対数をとれて
$$ \log E_h(x)=\frac xh\log(1+h)=x\cdot\frac{\log(1+h)-\log1}h $$
である($\log1=0$ を引いておいた)。右の分数は、関数 $\log t$ の $t=1$ での平均変化率なので、$h\to0$ で微分係数 $(\log t)'\big|_{t=1}=\frac11=1$ に近づく。よって $\log E_h(x)\to x$ である。$e^t$ は連続なので、$E_h(x)=e^{\log E_h(x)}\to e^x$ である。$\square$

刻み $h$ の指数関数の値

$x=3$ での $E_h(3)=(1+h)^{3/h}$ の値は次のとおりである(小数第 2 位まで)。

$h$$1$$\frac12$$\frac14$$\frac1{16}$$\frac1{100}$$\frac1{1000}$
$(1+h)^{3/h}$$8$$11.39$$14.55$$18.36$$19.79$$20.06$

$e^3=20.09$ にゆっくり近づいていく。$h=1$ では $E_1(x)=2^x$ で、prop-sic-exp の $2^k$ である。$h=\frac12$ では $E_{1/2}(3)=1.5^6=11.390625$ である。
$x=1$、$h=\frac1n$ とすると $E_{1/n}(1)=\left(1+\frac1n\right)^n$ である。これが $e$ に近づくことは、高校数学の記事 (1+1/n)^nの極限 でも別の方法で扱っている。

刻み h の指数関数 (1+h)^(x/h)(h=1, 1/2, 1/4, 1/16)の点と、e^x のグラフ。h を小さくすると点が e^x の曲線に近づく 刻み h の指数関数 (1+h)^(x/h)(h=1, 1/2, 1/4, 1/16)の点と、e^x のグラフ。h を小さくすると点が e^x の曲線に近づく

刻み $h$ の下降階乗冪

$h>0$、$m$ を正の整数として
$$ x^{(m)}_h:=x(x-h)(x-2h)\cdots\bigl(x-(m-1)h\bigr),\qquad x^{(0)}_h:=1 $$
とおく。

  1. $\Delta_hx^{(m)}_h=m\,x^{(m-1)}_h$ である。
  2. 各実数 $x$ について、$h\to0$ のとき $x^{(m)}_h\to x^m$ である。
共通の因子でくくり、各因子の極限をとる

1 について。prf-sic-falling の $m\ge1$ の場合と同じく、$(x+h)^{(m)}_h=(x+h)\cdot x(x-h)\cdots(x-(m-2)h)$ と $x^{(m)}_h=x(x-h)\cdots(x-(m-2)h)\cdot(x-(m-1)h)$ は共通の因子 $x(x-h)\cdots(x-(m-2)h)=x^{(m-1)}_h$ をもつ。よって
$$ \Delta_hx^{(m)}_h=\frac{x^{(m-1)}_h\bigl\{(x+h)-(x-(m-1)h)\bigr\}}h=\frac{x^{(m-1)}_h\cdot mh}h=m\,x^{(m-1)}_h $$
である。
2 について。$x^{(m)}_h$ は $m$ 個の因子 $x,\ x-h,\ \dots,\ x-(m-1)h$ の積である。$i=0,1,\dots,m-1$ について、$h\to0$ で $x-ih\to x$ である。有限個の因子の積の極限は極限の積なので、$x^{(m)}_h\to x\cdot x\cdots x=x^m$ である。$\square$

刻みを小さくした 2 次の下降階乗冪の和

prop-sic-step-falling の 1 から、$F(x)=\frac{x^{(3)}_h}3$ は $\Delta_hF=x^{(2)}_h$ を満たす。prop-sic-step-sum を $a=0$、$b=1$、$h=\frac1N$ で使うと
$$ h\sum_{j=0}^{N-1}(jh)(jh-h)=\frac{1^{(3)}_h-0}3=\frac{1\cdot(1-h)(1-2h)}3 $$
である。$h=\frac1{10}$ なら右辺は $\frac{1\cdot0.9\cdot0.8}3=0.24$ で、左辺も $\frac1{1000}\sum_{j=0}^9j(j-1)=\frac{240}{1000}=0.24$ である($\sum_{j=0}^9j(j-1)=\frac{10\cdot9\cdot8}3=240$、ex-sic-falling-square の $n=10$)。$h=\frac1{100}$ なら $\frac{0.99\cdot0.98}3=0.3234$ である。$h\to0$ で $\frac13=\int_0^1x^2\,dx$ に近づく。

まとめると、和と積分は次の意味で「同じ」である。刻み $h$ の差分と和は、どの $h>0$ でも、微分積分とまったく同じ形の規則(基本定理、冪の公式、指数関数の性質)を ぴったり 満たす。ただし、そこに現れる関数($(1+h)^{x/h}$、$x^{(m)}_h$)は $e^x$ や $x^m$ とは少し違う。$h\to0$ とすると、関数は $e^x$ や $x^m$ に近づく(prop-sic-step-exp、prop-sic-step-falling。証明した)。規則の方も、形の上では微分積分の規則に移る(rem-sic-step-limit。極限の根拠は証明していない)。刻み $1$ の和と積分がずれるのは、刻みが $0$ でないためであり、その「ずれ」の大きさを調べるのが次の 和と積分の差 と、その先の Euler–Maclaurinの公式(高校数学) である。

さらに先へ

  • $k^m$ の和の公式(Stirling 数による展開、Bernoulli 数、Faulhaber の公式)は 数列の和と差分 で扱う。
  • 差分と和の計算の体系(有限微積分)は GKP94 第 2.6 節にくわしい。そこでは $k^{(m)}$ を $k^{\underline m}$ と書く。
  • 部分和分は、級数の収束の判定や、$\sum_{n\le x}\frac1n$ の評価に使われる(Abelの級数変形法とその応用)。
  • 差分の方程式(漸化式)は、この記事の対応で 微分方程式 と並べて解ける。たとえば $\Delta a_k=a_k$ の解は $a_k=a_0\,2^k$ で、$y'=y$ の解 $y=y(0)e^x$ に対応する。

関連項目

参考文献

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