円周率を評価するとは、有理数や根号で書ける数 $a<b$ について $a<\pi<b$ を証明することである。近似値 $\pi\approx\frac{22}7$ はずれの向きが分からないので評価ではなく、有限個の評価から $\pi$ が無理数だとは分からない。高校の道具では、単位円に内接・外接する正多角形の周で挟む方法($\sin x<x<\tan x$ による)、$\int_0^1\frac{x^4(1-x)^4}{1+x^2}dx=\frac{22}7-\pi$ のように「有理数 $-\pi$」を小さな正の積分として設計する方法、$\arctan$ の級数を小さな $x$ で使う Machin の公式 $\frac\pi4=4\arctan\frac15-\arctan\frac1{239}$ の 3 つがあり、この順に精度が上がる。本記事はこの 3 本の記事への案内である。
円周率 $\pi=3.14159\ldots$ の値を知っていることと、「$3.14<\pi<3.15$ である」ことを証明できることは別である。この記事は、高校で習う道具だけで $\pi$ を有理数や根号で挟む方法を学ぶ 3 本の記事への入口である。ここでは「評価する」とは何かを例で確かめ、各記事で何が分かるかと読む順番を案内する。証明はそれぞれの記事で行う。
有理数や根号で書ける数 $a< b$ について、$a<\pi< b$ が成り立つことを証明することを、円周率を評価する(挟む)という。$b-a$ が小さいほど、精密な評価である。
単位円(半径 $1$)の周の長さは $2\pi$ である。円に内接する正六角形は 1 辺 $1$ の正三角形 6 つでできているので、周の長さは $6$ である。外接する正方形の周の長さは $8$ である。「内接する多角形の周 $<$ 円周 $<$ 外接する多角形の周」から、$6<2\pi<8$、つまり $3<\pi<4$ である。外接する正方形の代わりに外接する正六角形(周 $4\sqrt3$)を使えば、$3<\pi<2\sqrt3=3.464\ldots$ になる。
この不等式がなぜ正しいかは、弦・弧・接線の長さの比較 $\sin x< x<\tan x$($0< x<\frac\pi2$)で証明できる(正多角形で円周率を挟む)。
「$\pi\approx3.14$」や「$\pi\approx\frac{22}7$」は近似値であって、評価ではない。どちら側にずれているかが分からないからである。実際、$3.14<\pi$ だが $\frac{22}7=3.1428\ldots>\pi$ であり、ずれの向きは近似値ごとに違う。$\pi<\frac{22}7$ を示すには証明が要る(積分で円周率を評価する)。
| 方法 | 何を比べるか | なぜ効くか | 誤差の目安 | 記事 |
|---|---|---|---|---|
| 正多角形で挟む | 弧と弦、弧と接線 | $\sin x< x<\tan x$ | 正 $n$ 角形で $\frac1{n^2}$ 程度 | 正多角形で円周率を挟む |
| 積分で挟む | 小さな正の関数の積分 | 正の関数の積分は正 | 設計しだいで非常に小さい | 積分で円周率を評価する |
| 速く収束する級数 | $\arctan$ の級数の打ち切り | 誤差が $x^{2n+1}$ で減る | Machin の公式なら 1 項で約 1.4 桁 | Machinの公式 |
| 無理数性の証明 | 「整数」と「小さい正の数」 | $0$ と $1$ の間に整数はない | (評価ではなく不可能性) | 円周率の無理性 |
図1:方法ごとに得られる、π を挟む区間の幅(対数目盛)。正六角形の 0.46 から、Machin の公式(各 8 項)の 2.5×10^(-12) まで大きく違う
図 1 の棒の長さは、各方法で得られる $a<\pi< b$ の幅 $b-a$ である。上から順に、内接・外接正六角形による $3<\pi<2\sqrt3$(ex-epi-guide-hexagon)、四分円を幅 $\frac1{10}$ の長方形で挟んだ場合(ex-epi-guide-naive)、内接・外接正九十六角形の周による場合(ex-epi-guide-polygon)、$\frac{22}7$ の積分表示による $\frac{22}7-\frac1{630}<\pi<\frac{22}7-\frac1{1260}$(ex-epi-guide-integral)である。最後の 2 本は、Machin の公式で各 3 項・各 8 項まで使った近似値から、誤差の上界を引いた数と足した数で $\pi$ を挟んだ場合で、幅は誤差の上界の 2 倍になる(ex-epi-guide-machin)。
| 高校の計算 | 大学での見方 |
|---|---|
| 微分して $\sin x< x<\tan x$ を示す | 弧の長さは内接する折れ線の長さの上限 |
| 多項式を $x^2+1$ で割る | 複素数 $i$ を代入すること |
| 等比数列の和の公式を積分する | 冪級数と誤差の評価 |
| 正接の加法定理 | 複素数の積と偏角 |
単位円に内接・外接する正十二角形の周の半分は $3(\sqrt6-\sqrt2)=3.1058\ldots$ と $12(2-\sqrt3)=3.2153\ldots$ であり、$3(\sqrt6-\sqrt2)<\pi<12(2-\sqrt3)$ が成り立つ。辺の数を 2 倍にしていくと、正九十六角形で $3.1410<\pi<3.1428$ となる。Archimedes はこの方法で $\frac{223}{71}<\pi<\frac{22}7$ を示した(正多角形で円周率を挟む)。
$$
\int_0^1\frac{x^4(1-x)^4}{1+x^2}\,dx=\frac{22}7-\pi
$$
であり、被積分関数は正なので $\pi<\frac{22}7$ である。分母を $1$ と $2$ で挟むと $\frac{22}7-\frac1{630}<\pi<\frac{22}7-\frac1{1260}$、つまり $3.14126\ldots<\pi<3.14206\ldots$ となる(積分で円周率を評価する)。
積分で $\pi$ を挟むとき、被積分関数をそのまま別の関数で挟むだけでは粗い。たとえば $0< x<1$ で $\frac12<\frac1{1+x^2}<1$ なので、$\frac\pi4=\int_0^1\frac{dx}{1+x^2}$ から $2<\pi<4$ しか出ない。四分円 $\int_0^1\sqrt{1-x^2}\,dx=\frac\pi4$ を幅 $\frac1{10}$ の長方形で挟んでも $2.904<\pi<3.305$ である。精度を上げるには、$\frac{22}7-\pi$ のような「小さな量」そのものを積分で表す設計が要る(積分で円周率を評価する)。
$\frac\pi4=1-\frac13+\frac15-\frac17+\cdots$(Leibniz の級数)は正しいが、1000 項まで足して 4 倍しても、$\pi$ との差は約 $0.001$ 残る。項を 1 つ増やしても誤差がほとんど減らないからである。同じ $\arctan$ の級数でも、$x=\frac15$ や $x=\frac1{239}$ のような小さな値で使うと、項を 1 つ増やすごとに誤差の上界は $\frac1{25}$ 倍以下になる(Machinの公式)。
$\frac\pi4=4\arctan\frac15-\arctan\frac1{239}$ の $\arctan$ を、それぞれ $x-\frac{x^3}3$ の 2 項で近似すると
$$
\pi\approx16\Bigl(\frac15-\frac1{375}\Bigr)-4\Bigl(\frac1{239}-\frac1{3\cdot239^3}\Bigr)=3.1405970\ldots
$$
となり、実際の誤差は $0.000995\ldots$ である。項を増やしたときの誤差は、各 3 項で $2.93\times10^{-5}$ 未満、各 8 項で $1.24\times10^{-12}$ 未満であることが証明できる(Machinの公式。各 8 項での実際の誤差は $1.19\times10^{-12}$ ほど)。
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