Lovászの局所補題(Lovász local lemma)とは、有限個の事象 $A_1,\dots,A_m$ について、各 $A_i$ が、依存グラフで隣接しない事象をいくつ選んでも、それらがどれも起こらないという事象と独立であり、実数 $x_i\in[0,1)$ が $P(A_i)\le x_i\prod_{j\in\Gamma(i)}(1-x_j)$ を満たすなら、どの $A_i$ も起こらない確率は $\prod_i(1-x_i)$ 以上で正であるという定理である。とくに、各事象の確率が $p$ 以下、依存グラフの次数が $d$ 以下で $ep(d+1)\le1$ なら、どれも起こらない確率は正である。事象の個数によらない局所的な条件だけで存在を示せるので、確率論的方法の道具として、論理式の充足可能性や Ramsey 数・van der Waerden 数の下界に使われる。
確率論的方法 では、望ましい対象を無作為に選び、「悪い事象」$A_1,\dots,A_m$ がどれも起こらない確率が正であることを示す。悪い事象の確率の和が $1$ 未満なら、どれも起こらない確率は正である。悪い事象が互いに独立なら、各 $P(A_i)<1$ だけで、どれも起こらない確率は $\prod_i(1-P(A_i))>0$ である。Lovász の局所補題(Lovász local lemma)は、この 2 つの極端のあいだを埋める。たとえば対称な形では、各事象がほかの高々 $d$ 個の事象を除いた残りと独立(正確には下の依存グラフの意味で)であり、各事象の確率が $\frac1{e(d+1)}$ 以下なら、事象が何個あっても、どれも起こらない確率は正である。
確率の和は事象の個数とともに増えるので、確率の和を $1$ 未満に抑える方法は事象が多いと使えない。局所補題は事象の個数によらない局所的な条件だけを要求するので、充足可能性・彩色・Ramsey 数のように、悪い事象が非常に多い場面で存在を示せる。この記事では、依存グラフを定義して局所補題を証明し、対称な形と、近傍の確率の和による形を導く。応用として、各節が少数の節としか変数を共有しない論理式の充足可能性、対角 Ramsey 数の下界、van der Waerden 数の下界を示す。最後に、仮定を外すと結論が崩れることを反例で確かめる。
以下、確率空間 $(\Omega,\mathcal F,P)$ を 1 つ固定する。応用ではいつも有限確率空間である(有限確率空間)。事象 $A$ の補事象を $\overline A:=\Omega\setminus A$ と書く。添字の集合 $T\subset\{1,\dots,m\}$ について
$$
C_T:=\bigcap_{j\in T}\overline{A_j}\qquad(C_\emptyset:=\Omega)
$$
とおく。$C_T$ は、$T$ に属する悪い事象がどれも起こらないという事象である。
事象 $A_1,\dots,A_m$ と、頂点集合 $\{1,\dots,m\}$ の上の単純グラフ $D$ を考え、$D$ で $i$ に隣接する頂点の集合を $\Gamma(i)$ とする。各 $i$ と、$\Gamma(i)\cup\{i\}$ と交わらないすべての集合 $T\subset\{1,\dots,m\}$ について
$$
P(A_i\cap C_T)=P(A_i)\,P(C_T)
$$
が成り立つとき、$D$ を $A_1,\dots,A_m$ の 依存グラフ という。
$D$ が依存グラフであるとは、各 $A_i$ が、$D$ で隣接しない事象をいくつ選んでも、それらがどれも起こらないという事象と独立であることをいう。とくに、$A_i$ が隣接しない事象の全体の生成する $\sigma$-加法族と独立なら、この条件は満たされる。$D$ に辺を足しても依存グラフのままである(条件を課す $T$ が減るから)。完全グラフはいつも依存グラフであり、辺のないグラフが依存グラフであることは、$A_1,\dots,A_m$ が互いに独立であることと同値である。
対ごとに独立なだけでは、辺のないグラフは依存グラフにならない(ex-lll-counterexamples の 1 行目)。依存グラフを作るには、次の補題を使うことが多い。
有限集合 $V$ と、各 $v\in V$ について有限確率空間 $(\Omega_v,P_v)$ が与えられたとし、$\Omega:=\prod_{v\in V}\Omega_v$ に積の確率 $P(\{\omega\})=\prod_vP_v(\{\omega_v\})$ を入れる。事象 $A_1,\dots,A_m\subset\Omega$ のそれぞれについて、$A_i$ に属するかどうかが座標の部分集合 $U_i\subset V$ の値 $(\omega_v)_{v\in U_i}$ だけで決まるとする。$U_i\cap U_j\neq\emptyset$ となる $i\neq j$ を結んだグラフ $D$ は、$A_1,\dots,A_m$ の依存グラフである。
$i$ と、$\Gamma(i)\cup\{i\}$ と交わらない $T$ をとる。$W:=\bigcup_{j\in T}U_j$ とおくと、$D$ の定め方から $W\cap U_i=\emptyset$ であり、$C_T$ に属するかどうかは $W$ の座標だけで決まる。$U:=U_i$ とし、$\omega$ を $U$ の部分 $\omega_U$、$W$ の部分 $\omega_W$、残り $\omega_R$ に分ける。積の確率の定義から、$U$ の座標の値の組 $a$ について $P(\omega_U=a)=\prod_{v\in U}P_v(\{a_v\})$ であり、$W$・$R$ についても同様で、$P(\omega_U=a,\ \omega_W=b)=P(\omega_U=a)\,P(\omega_W=b)$ である(残り $R$ の座標について和をとると、その因子の和は $1$ になる)。$A_i$ を与える $U$ の値の集合を $\mathcal A$、$C_T$ を与える $W$ の値の集合を $\mathcal C$ とすると
$$
P(A_i\cap C_T)=\sum_{a\in\mathcal A}\sum_{b\in\mathcal C}P(\omega_U=a)\,P(\omega_W=b)=P(A_i)\,P(C_T)
$$
である。$\square$
$D$ を事象 $A_1,\dots,A_m$ の依存グラフとし、実数 $x_1,\dots,x_m\in[0,1)$ が、すべての $i$ について
$$
P(A_i)\le x_i\prod_{j\in\Gamma(i)}(1-x_j)
$$
を満たすとする。このとき
$$
P\Bigl(\bigcap_{i=1}^m\overline{A_i}\Bigr)\ge\prod_{i=1}^m(1-x_i)>0
$$
である。とくに、どの $A_i$ も起こらない $\omega\in\Omega$ が存在する。
$x_i$ は「ほかの悪い事象が起こらないと分かったときの $A_i$ の確率」の上限の見積もりである。証明の中心は、この見積もりが本当に成り立つことを、条件に使う事象の個数についての帰納法で示すことにある。
主張。 $T\subset\{1,\dots,m\}$、$i\notin T$ で $P(C_T)>0$ なら、$P(A_i\mid C_T)\le x_i$ である。
$\lvert T\rvert$ についての帰納法で示す。$T_1:=T\cap\Gamma(i)$、$T_2:=T\setminus T_1$ とおく。$T_2$ は $\Gamma(i)\cup\{i\}$ と交わらないので、依存グラフの条件から $P(A_i\cap C_{T_2})=P(A_i)P(C_{T_2})$ であり、$C_T\subset C_{T_2}$ から $P(C_{T_2})\ge P(C_T)>0$ である。
$T_1=\emptyset$ なら $T=T_2$ で、$P(A_i\mid C_T)=P(A_i)\le x_i$ である($x_i$ に掛かる積は $1$ 以下)。$T_1=\{j_1,\dots,j_r\}$($r\ge1$)とする。$C_T=C_{T_1}\cap C_{T_2}$ なので
$$
P(A_i\mid C_T)=\frac{P(A_i\cap C_{T_1}\cap C_{T_2})}{P(C_{T_1}\cap C_{T_2})}\le\frac{P(A_i\cap C_{T_2})}{P(C_{T_1}\cap C_{T_2})}=\frac{P(A_i)}{P(C_{T_1}\mid C_{T_2})}
$$
である。分母は 条件付き確率 の命題「乗法公式」により
$$
P(C_{T_1}\mid C_{T_2})=\prod_{l=1}^r\Bigl(1-P\bigl(A_{j_l}\bigm|C_{T_2\cup\{j_1,\dots,j_{l-1}\}}\bigr)\Bigr)
$$
と書ける。条件の事象はどれも $C_T$ を含むので確率が正であり、$T_2\cup\{j_1,\dots,j_{l-1}\}$ は $j_l$ を含まず、要素の個数は $\lvert T\rvert-1$ 以下である。帰納法の仮定から各因子は $1-x_{j_l}$ 以上であり、$\{j_1,\dots,j_r\}\subset\Gamma(i)$ と $0<1-x_j\le1$ から
$$
P(C_{T_1}\mid C_{T_2})\ge\prod_{j\in T_1}(1-x_j)\ge\prod_{j\in\Gamma(i)}(1-x_j)>0
$$
である。仮定 $P(A_i)\le x_i\prod_{j\in\Gamma(i)}(1-x_j)$ と合わせて $P(A_i\mid C_T)\le x_i$ を得る。
結論。 $k=1,\dots,m$ について $Q_k:=C_{\{1,\dots,k\}}$、$Q_0:=\Omega$ とおく。$P(Q_{k-1})>0$ なら主張から
$$
P(Q_k)=P(Q_{k-1})\bigl(1-P(A_k\mid Q_{k-1})\bigr)\ge P(Q_{k-1})(1-x_k)>0
$$
であり、$P(Q_0)=1$ から順に $P(Q_k)\ge\prod_{i\le k}(1-x_i)$ が成り立つ。$k=m$ として結論を得る。$\square$
同じ主張は KT17 Lemma 16.14(pp. 326–328)にある(そこでは $0< x_i<1$ とする)。結論の下界 $\prod_i(1-x_i)$ は事象の個数について指数関数的に小さくなりうる。局所補題は存在を保証するが、無作為に 1 回選ぶだけで望ましい対象が高い確率で得られることまでは述べない。
事象 $A_1,\dots,A_m$ の依存グラフ $D$ で各頂点の次数が $d$ 以下であり、すべての $i$ で $P(A_i)\le p$ であって
$$
e\,p\,(d+1)\le1
$$
を満たすなら、$P(\bigcap_i\overline{A_i})>0$ である。ここで $e$ は自然対数の底である。
$d=0$ なら $\Gamma(i)=\emptyset$ なので、$x_i:=p\le1/e<1$ とおけば thm-lll-main の仮定が成り立つ。$d\ge1$ なら $x_i:=\frac1{d+1}$ とおく。$(1+\frac1d)^d\le e$($\log(1+t)\le t$ による)なので $(1-\frac1{d+1})^d=(1+\frac1d)^{-d}\ge\frac1e$ であり、$\lvert\Gamma(i)\rvert\le d$ から
$$
x_i\prod_{j\in\Gamma(i)}(1-x_j)\ge\frac1{d+1}\Bigl(1-\frac1{d+1}\Bigr)^d\ge\frac1{e(d+1)}\ge p\ge P(A_i)
$$
である。thm-lll-main により結論を得る。$\square$
KT17 Lemma 16.15(p. 328)は、$d\ge1$ の場合を $e\,p\,(d+1)<1$ の形で述べている。確率がそろっていないときは、次の形が便利である。
事象 $A_1,\dots,A_m$ の依存グラフ $D$ について、すべての $i$ で
$$
\sum_{j\in\Gamma(i)\cup\{i\}}P(A_j)\le\frac14
$$
なら、$P(\bigcap_i\overline{A_i})\ge\prod_i(1-2P(A_i))>0$ である。
$x_i:=2P(A_i)$ とおく。仮定から $x_i\le\frac12<1$ である。$0\le t_j\le1$ について $\prod_j(1-t_j)\ge1-\sum_jt_j$($t_j$ の個数についての帰納法)なので
$$
x_i\prod_{j\in\Gamma(i)}(1-x_j)\ge2P(A_i)\Bigl(1-2\sum_{j\in\Gamma(i)}P(A_j)\Bigr)\ge2P(A_i)\Bigl(1-\frac12\Bigr)=P(A_i)
$$
である。thm-lll-main により結論を得る。$\square$
以下の応用では、いずれも有限個の独立な「硬貨」を投げて対象を作り、悪い事象が少数の硬貨だけで決まることを lem-lll-variables で依存グラフに読み替え、cor-lll-symmetric を当てる。
命題変数 $p_1,\dots,p_N$ と、そのリテラル($p_i$ か $\lnot p_i$)を考える。相異なる $k$ 個の命題変数のリテラルの選言 $\ell_1\lor\cdots\lor\ell_k$ を $k$ 節 といい、$k$ 節の有限個の連言を $k$-CNF 論理式 という(連言標準形 の定義「選言標準形と連言標準形」の特別な場合)。論理式を真にする真理値の割り当て(付値)があるとき、論理式は 充足可能 であるという。2 つの節が 変数を共有する とは、両方に現れる命題変数(符号は問わない)があることをいう。
$k\ge1$ とする。$k$-CNF 論理式 $\Phi$ の各節が、自分以外の高々 $d$ 個の節としか変数を共有せず、$e(d+1)\le2^k$ なら、$\Phi$ は充足可能である。
各命題変数の真理値を独立に確率 $\frac12$ ずつで決める($2^N$ 通りの付値が等確率の有限確率空間)。節 $c$ が偽になる事象を $A_c$ とする。$c$ が偽になるのは $c$ の $k$ 個のリテラルがすべて偽のときで、それらは相異なる変数のリテラルなので $P(A_c)=2^{-k}$ である。$A_c$ は $c$ に現れる変数の値だけで決まるので、lem-lll-variables により、変数を共有する節どうしを結んだグラフは依存グラフであり、その次数は $d$ 以下である。$e\cdot2^{-k}(d+1)\le1$ なので、cor-lll-symmetric により、どの節も偽にならない付値が存在する。$\square$
$k\ge1$ とする。$k$-CNF 論理式で、各命題変数が高々 $\dfrac{2^k}{ek}$ 個の節にしか現れないなら、充足可能である。
節がなければ明らかなので、節が 1 つ以上あるとし、各変数が現れる節の個数の最大値を $t$ とする($1\le t\le2^k/(ek)$)。節 $c$ と変数を共有するほかの節は、$c$ の $k$ 個の変数のそれぞれについて高々 $t-1$ 個なので、次数は $d:=k(t-1)$ 以下であり、$d+1\le kt\le2^k/e$ である。thm-lll-ksat による。$\square$
たとえば $k=10$ なら、各節がほかの $375$ 個以下の節としか変数を共有しなければ($e\cdot376\approx1022.1\le1024$)、節が何個あっても充足可能である。確率の和を $1$ 未満に抑える議論では、節の個数が $2^k$ 未満の場合しか扱えない。
Ramseyの定理 の定義「Ramsey 数」の $R(k,k)$ は、$K_n$ の辺をどう 2 色に塗っても単色の $K_k$ が現れるような最小の $n$ である。
$k\ge3$、$n\ge k$ とする。
$$
e\cdot2^{1-\binom k2}\Bigl(\binom k2\binom{n-2}{k-2}+1\Bigr)\le1
$$
なら、$K_n$ の辺の 2 色の塗り分けで単色の $K_k$ をもたないものがあり、$R(k,k)>n$ である。
各辺の色を独立に確率 $\frac12$ ずつで決める。$k$ 個の頂点の集合 $S$ ごとに、$S$ の中の $\binom k2$ 本の辺が同じ色になる事象を $A_S$ とすると、$P(A_S)=2\cdot2^{-\binom k2}$ である。$A_S$ は $S$ の中の辺の色だけで決まるので、lem-lll-variables により、$S$ と $T$ が辺を共有する、すなわち $\lvert S\cap T\rvert\ge2$ のときに結んだグラフは依存グラフである。$\lvert S\cap T\rvert\ge2$ となる $T\neq S$ は、$S\cap T$ に含まれる 2 頂点を選び($\binom k2$ 通り)、残りの $k-2$ 頂点を選ぶ($\binom{n-2}{k-2}$ 通り)ことで、重複を許してすべて数えられるので、次数は $d:=\binom k2\binom{n-2}{k-2}$ 以下である。仮定は $e\,P(A_S)(d+1)\le1$ なので、cor-lll-symmetric により、どの $A_S$ も起こらない塗り分けがある。$\square$
Ramseyの定理 の定理「Erdős の下界」の証明は、単色の $K_k$ の個数の期待値 $\binom nk2^{1-\binom k2}$ を $1$ 未満にする。2 つの議論が保証する $n$ の最大値を計算すると次のようになる。
| $k$ | 期待値を $1$ 未満にする議論 | thm-lll-ramsey |
|---|---|---|
| $10$ | $R(10,10)>100$ | $R(10,10)>98$ |
| $12$ | $R(12,12)>231$ | $R(12,12)>250$ |
| $15$ | $R(15,15)>792$ | $R(15,15)>947$ |
| $20$ | $R(20,20)>5817$ | $R(20,20)>7741$ |
$k$ が小さいうちは期待値の議論のほうが強いが、$k$ が大きくなると局所補題のほうが強くなる。期待値の議論では $\binom nk$ 個の悪い事象の確率をすべて足すのに対し、局所補題では 1 つの事象に関係する高々 $\binom k2\binom{n-2}{k-2}$ 個($n$ の次数が $\binom nk$ より $2$ 低い)だけが効くからである。
van der Waerdenの定理 の定義「van der Waerden数」の $W(2,k)$ は、$[N]:=\{1,\dots,N\}$ をどう 2 色に塗っても単色の $k$ 項の等差数列(公差は $1$ 以上)が現れるような最小の $N$ である。
$k\ge2$、$n\ge1$ が $e\,k\,n\le2^{k-2}$ を満たすなら、$[n]$ の 2 色の塗り分けで単色の $k$ 項の等差数列をもたないものがあり、$W(2,k)>n$ である。
$[n]$ の各元の色を独立に確率 $\frac12$ ずつで決める。$[n]$ の中の $k$ 項の等差数列 $Q$ ごとに、$Q$ が単色になる事象を $A_Q$ とすると $P(A_Q)=2^{1-k}$ である。$A_Q$ は $Q$ の元の色だけで決まるので、lem-lll-variables により、共通の元をもつ等差数列どうしを結んだグラフは依存グラフである。
その次数を数える。$x\in[n]$ を含む $k$ 項の等差数列は、$x$ が何項目か($k$ 通り)と公差 $\delta$ で決まる。$x$ が $j+1$ 項目($0\le j\le k-1$)なら、最初の項 $x-j\delta\ge1$ と最後の項 $x+(k-1-j)\delta\le n$ から $(k-1)\delta\le n-1$ である。よって $x$ を含むものは高々 $k\frac{n-1}{k-1}$ 個である。$Q$ と共通の元をもつ $Q'\neq Q$ は $Q$ の $k$ 個の元のどれかを含むので、高々 $k^2\frac{n-1}{k-1}\le2k(n-1)$ 個である($k\ge2$ で $\frac{k}{k-1}\le2$)。$d:=2k(n-1)$ とおくと $d+1\le2kn$ なので
$$
e\,P(A_Q)(d+1)\le e\cdot2^{1-k}\cdot2kn=\frac{e\,k\,n}{2^{k-2}}\le1
$$
である。cor-lll-symmetric により、どの $A_Q$ も起こらない塗り分けがある。$\square$
$[n]$ の中の $k$ 項の等差数列は $\frac{n^2}{2(k-1)}$ 個未満なので、期待値を $1$ 未満にする議論は $n^2\le(k-1)2^k$ なら使えるが、それで得られる $n$ は $\sqrt k\,2^{k/2}$ の程度にとどまる。thm-lll-vdw は $n$ が $2^k/k$ の程度まで届く。たとえば $k=30$ では、前者は $n\le176461$、後者は $n\le3291729$ で $W(2,30)>n$ を与える。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 依存グラフの条件(対ごとの独立に弱める) | 2 枚の硬貨 $X,Y$ と $A_1=\{X=\text{表}\}$、$A_2=\{Y=\text{表}\}$、$A_3=\{X=Y\}$。辺のないグラフと $x_i=\frac12$ | thm-lll-main の結論 $P(\bigcap_i\overline{A_i})\ge\frac18$ |
| cor-lll-symmetric の定数 $e$($p(d+1)\le1$ に弱める) | 事象 $A$ とその補事象 $\overline A$、$P(A)=\frac12$ | どちらも起こらない確率が正であること |
| thm-lll-ksat の $e(d+1)\le2^k$ | 同じ $k$ 個の変数の上の、符号の付け方をすべて並べた $2^k$ 個の節 | 充足可能であること |
1 行目。 4 通りの結果が等確率である。$P(A_i)=\frac12$ で、$A_1\cap A_2$、$A_1\cap A_3$、$A_2\cap A_3$ はどれも「$X=Y=\text{表}$」なので確率 $\frac14$ であり、どの 2 つも独立である。どれも起こらないのは $X=Y=\text{裏}$ の場合に限られるが、そのとき $X=Y$ で $A_3$ が起こるので、$\bigcap_i\overline{A_i}=\emptyset$ である。辺のないグラフでは $\Gamma(i)=\emptyset$ なので、仮定 $P(A_i)\le x_i$ は $x_i=\frac12$ で満たされる。それでも結論が崩れるのは、辺のないグラフが依存グラフでないからである。実際 $T=\{1,2\}$ は $\{3\}$ と交わらないが、$C_T=\{X=Y=\text{裏}\}\subset A_3$ なので $P(A_3\cap C_T)=\frac14\neq\frac12\cdot\frac14$ である。
2 行目。 $A_1:=A$、$A_2:=\overline A$ の依存グラフとして 1 本の辺をとると、$d=1$、$p=\frac12$ で $p(d+1)=1$ である。$\overline{A_1}\cap\overline{A_2}=\overline A\cap A=\emptyset$ なので、どちらも起こらない確率は $0$ である。$e\,p\,(d+1)=e>1$ なので cor-lll-symmetric の仮定は満たさない。
3 行目。 変数 $p_1,\dots,p_k$ の上の $k$ 節は、各変数に符号を付ける $2^k$ 通りある。どの付値でも、そのもとですべてのリテラルが偽になる節がちょうど 1 つあるので、論理式は充足可能でない。各節はほかの $2^k-1$ 個の節すべてと変数を共有するので $d=2^k-1$ であり、$e(d+1)=e\,2^k>2^k$ である。この例から、thm-lll-ksat の条件 $e(d+1)\le2^k$ は、定数 $e$ を $1$ に替えると成り立たなくなることも分かる。
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