命題論理(propositional logic)とは、命題を真偽だけをもつ命題変数に置き換え、否定 $\lnot$・連言 $\land$・選言 $\lor$・含意 $\to$ で組み立てた論理式を数学的対象として扱う論理の体系であり、命題計算ともいう。論理式の真偽は命題変数への真偽の割り当て(付値)から一意に計算され、すべての付値で真になる式を恒真式という。$n$ 個の命題変数の $2^{2^n}$ 通りの真理関数はどれも $\lnot,\land,\lor$ だけで書け、論理式を論理的同値で分類すると Boole 代数になる。適切な証明体系では、導出できる式と恒真式が一致する(健全性と完全性)。
「執事か庭師が犯人である。執事は犯人でない。ゆえに庭師が犯人である」という推論は、執事や庭師が誰であっても正しい。正しさは「または」「でない」という言葉の使い方だけで決まっているからである。そこで「執事が犯人」を $p$、「庭師が犯人」を $q$ と文字に置き換えると、この推論は「$p\lor q$ と $\lnot p$ から $q$ が出る」という形になり、$p,q$ の真偽の 4 通りの組み合わせを調べ尽くせば正しさを確かめられる。このように、命題を真偽だけをもつ記号に置き換え、「でない」「かつ」「または」「ならば」で組み立てた式を数学的な対象として調べる体系が 命題論理 である。3 つの文字 $p,q,r$ で作った式は、8 通りの真偽の組み合わせそれぞれに真か偽を返すので、$2^8=256$ 通りの「働き」をもちうる。この 256 通りはどれも $\lnot,\land,\lor$ だけで書ける式で実現できる(thm-propositional-logic-dnf)。さらに、真偽を調べ尽くして正しいと分かる推論は、どれも有限個の決まった規則を組み合わせて導ける(thm-propositional-logic-completeness)。
以下の論理式の定め方と記号は 数理論理学 の記事の定義「命題論理の論理式」「真理値割り当てと恒真式」に揃える。論理結合子の日常的な意味と真理値表は 論理と命題 の記事の定義「論理結合子と真理値表」にある。
命題変数 $p_0,p_1,p_2,\dots$ と、記号 $\lnot,\land,\lor,\to,(,)$ を用意する。これらの記号の有限列のうち、次の規則を有限回使って得られるものを 論理式(formula)という。
論理式についての主張は、規則 1〜3 に沿った帰納法(構造帰納法)で示せる。記号列 $\sigma$ について左括弧の個数を $L(\sigma)$、右括弧の個数を $R(\sigma)$ と書くと、数理論理学 の記事の命題「論理式の括弧の均衡」により、論理式 $\varphi$ では $L(\varphi)=R(\varphi)$ であり、$\varphi$ の真の始切片(先頭から始まる、空でも全体でもない部分列)$\sigma$ では $L(\sigma)>R(\sigma)$ である。
任意の論理式は、次のちょうど 1 つの形をしている。
まず、論理式の真の始切片は論理式でない。論理式なら $L=R$、真の始切片なら $L>R$ で両立しないからである。また、帰納法により、論理式の最初の記号は命題変数か左括弧であり、$\lnot$ や $\land$ で始まる論理式はない。
形が 3 つのどれかであることは定義による。命題変数は長さ $1$ で括弧をもたず、2・3 の形は左括弧で始まるので、1 と 2・3 は重ならない。2 の形は 2 番目の記号が $\lnot$ であり、3 の形は 2 番目の記号が論理式 $\varphi$ の最初の記号(命題変数か左括弧)なので、2 と 3 も重ならない。
2 の一意性:$(\lnot\varphi)=(\lnot\varphi')$ なら、両端の記号を取り除いて $\varphi=\varphi'$ である。
3 の一意性:$(\varphi\ast\psi)=(\varphi'\ast'\psi')$ とする。先頭の左括弧を取り除いた記号列を見ると、$\varphi$ と $\varphi'$ はどちらもその始切片なので、一方が他方の始切片である。$\varphi\neq\varphi'$ なら短いほうが長いほうの真の始切片で、しかも論理式になり、最初の段落に反する。よって $\varphi=\varphi'$ であり、続く記号から $\ast=\ast'$、残りの記号列から $\psi=\psi'$ が従う。$\square$
一意読み取りにより、論理式の組み立て方に沿った再帰的な定義が矛盾なくできる。
真理値 $\mathrm{T}$(真)、$\mathrm{F}$(偽)を考える。命題変数全体から $\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}$ への写像 $v$ を 付値(truth assignment)という。付値 $v$ は、次の規則で論理式全体の上の写像(同じ $v$ で書く)に一意に拡張される。
$\varphi,\psi$ を論理式、$\Sigma$ を論理式の集合とする。
命題論理は、推論のうち「言葉の中身によらず、『でない』『かつ』『または』『ならば』のつながり方だけで正しい」部分を切り出したものである。論理式は命題の「骨組み」であり、付値は骨組みに具体的な真偽を当てはめることにあたる。恒真式はどの当てはめでも真になる骨組み、$\Sigma\vDash\varphi$ は「前提がすべて真なら結論も真」という推論の正しさを表す。命題論理には 2 つの顔がある。付値で真偽を計算する 意味 の側と、決まった規則で記号列を変形して結論を導く 証明 の側である。両者が一致すること(thm-propositional-logic-completeness)が、命題論理が「計算で決着のつく論理」であることの中身である。
付値 $v,w$ が論理式 $\varphi$ に現れるすべての命題変数で同じ値をとるなら、$v(\varphi)=w(\varphi)$ である。
$\varphi$ が命題変数なら仮定そのものである。$\varphi=\lnot\psi$ なら $\psi$ に現れる変数は $\varphi$ に現れるので、帰納法の仮定から $v(\psi)=w(\psi)$ であり、$v(\varphi)$ と $w(\varphi)$ は def-propositional-logic-valuation の規則によってこの共通の値から同じように決まる。$\varphi=\psi\ast\chi$ の場合も、$v(\psi)=w(\psi)$、$v(\chi)=w(\chi)$ から同様である。$\square$
$n\ge1$ とし、命題変数 $p_1,\dots,p_n$ だけを含む論理式 $\varphi$ を考える。$a=(a_1,\dots,a_n)\in\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}^n$ に対し、$v(p_i)=a_i$ となる付値 $v$ をとって $f_\varphi(a):=v(\varphi)$ とおく。lem-propositional-logic-coincidence により値は $v$ の選び方によらない。写像 $f_\varphi\colon\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}^n\to\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}$ を $\varphi$ の 真理関数 という。$\varphi\equiv\psi$ は $f_\varphi=f_\psi$ と同値である。
$n\ge1$ とする。任意の写像 $f\colon\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}^n\to\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}$ に対して、$p_1,\dots,p_n$ と $\lnot,\land,\lor$ だけから作られた論理式 $\varphi$ で $f_\varphi=f$ となるものがある。したがって、$p_1,\dots,p_n$ だけを含む論理式の論理的同値による類はちょうど $2^{2^n}$ 個ある。
$a\in\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}^n$ に対し、$a_i=\mathrm{T}$ なら $\ell_i^a:=p_i$、$a_i=\mathrm{F}$ なら $\ell_i^a:=\lnot p_i$ とし、$C_a:=\ell_1^a\land\ell_2^a\land\cdots\land\ell_n^a$(括弧は左から順に付ける)とおく。$v(C_a)=\mathrm{T}$ は、すべての $i$ で $v(\ell_i^a)=\mathrm{T}$、すなわち $v(p_i)=a_i$ であることと同値である。よって $f_{C_a}(b)=\mathrm{T}\iff b=a$ である。
$f(a)=\mathrm{T}$ となる $a$ があれば、そのような $a$ 全体を $a^{(1)},\dots,a^{(k)}$ として $\varphi:=C_{a^{(1)}}\lor\cdots\lor C_{a^{(k)}}$ とおく。$f_\varphi(b)=\mathrm{T}$ は、ある $j$ で $b=a^{(j)}$、すなわち $f(b)=\mathrm{T}$ と同値なので、$f_\varphi=f$ である。そのような $a$ がなければ $\varphi:=p_1\land\lnot p_1$ とおくと、$f_\varphi$ はつねに $\mathrm{F}$ で $f$ に等しい。
後半:$\varphi\mapsto f_\varphi$ は同値類の集合から $\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}^n$ 上の真理値の関数全体への単射であり、前半により全射である。関数全体は $2^{2^n}$ 個ある。$\square$
この形の論理式(リテラル $p_i,\lnot p_i$ の連言の選言)を 選言標準形 という。$\lor$ と $\land$、$p_i$ と $\lnot p_i$ の役割を入れ替えれば、連言標準形(選言の連言)でも同じことができる(MBTZ25 第 45 章、pp. 369–374)。$n=3$ なら $2^{2^3}=256$ であり、冒頭で述べた 256 通りの働きがすべて論理式で実現される。
論理式の言語に、$v(\varphi\uparrow\psi)=\mathrm{F}\iff v(\varphi)=v(\psi)=\mathrm{T}$ で真理値が決まる結合子 $\uparrow$(否定論理積、NAND)を加える。このとき、$\lnot,\land,\lor$ だけから作られた任意の論理式 $\varphi$ に対し、同じ命題変数と $\uparrow$ だけから作られた論理式 $\varphi^{\uparrow}$ で $\varphi\equiv\varphi^{\uparrow}$ となるものがある。したがって $\uparrow$ ひとつで任意の真理関数が書ける。
次の 3 つの同値は、$v(\varphi),v(\psi)$ の 4 通りを調べれば確かめられる。
$$
\lnot\varphi\equiv\varphi\uparrow\varphi,\qquad \varphi\land\psi\equiv(\varphi\uparrow\psi)\uparrow(\varphi\uparrow\psi),\qquad \varphi\lor\psi\equiv(\varphi\uparrow\varphi)\uparrow(\psi\uparrow\psi).
$$
たとえば 3 つ目は、右辺が偽になるのが $\varphi\uparrow\varphi$ と $\psi\uparrow\psi$ がともに真、すなわち $\varphi,\psi$ がともに偽のときに限ることからわかる。論理式の組み立てに沿って $\varphi^{\uparrow}$ を定める:命題変数 $p$ では $p^{\uparrow}:=p$、$(\lnot\psi)^{\uparrow}:=\psi^{\uparrow}\uparrow\psi^{\uparrow}$、$(\psi\land\chi)^{\uparrow}:=(\psi^{\uparrow}\uparrow\chi^{\uparrow})\uparrow(\psi^{\uparrow}\uparrow\chi^{\uparrow})$、$(\psi\lor\chi)^{\uparrow}:=(\psi^{\uparrow}\uparrow\psi^{\uparrow})\uparrow(\chi^{\uparrow}\uparrow\chi^{\uparrow})$。帰納法の仮定 $v(\psi^{\uparrow})=v(\psi)$、$v(\chi^{\uparrow})=v(\chi)$ と上の同値から、各付値で $v(\varphi^{\uparrow})=v(\varphi)$ である。最後の主張は thm-propositional-logic-dnf と合わせて従う。$\square$
同様に $\varphi\lor\psi\equiv\lnot(\lnot\varphi\land\lnot\psi)$ により、$\lnot$ と $\land$ の 2 つだけでも足りる(MBTZ25 第 46 章、pp. 375–379)。
$\land,\lor,\to$ だけで作った論理式 $\varphi$ は、すべての命題変数を $\mathrm{T}$ にする付値 $v_{\mathrm{T}}$ で必ず $\mathrm{T}$ になる。命題変数では明らかであり、$\mathrm{T}\land\mathrm{T}$、$\mathrm{T}\lor\mathrm{T}$、$\mathrm{T}\to\mathrm{T}$ はどれも $\mathrm{T}$ なので、帰納法で従う。したがって $\lnot p_1$ と論理的に同値な論理式はこの 3 つの結合子だけでは作れない($v_{\mathrm{T}}(\lnot p_1)=\mathrm{F}$)。満たす性質:$\land,\lor,\to$ を含む。満たさない性質:関数的完全性(任意の真理関数を表せること)。破る含意:「よく使う結合子をいくつか集めれば関数的に完全」は成り立たない。
$n\ge1$ とし、$p_1,\dots,p_n$ だけを含む論理式全体を $\mathrm{Fm}_n$、その論理的同値による類の集合を $B_n:=\mathrm{Fm}_n/{\equiv}$ とする。
$$
[\varphi]\vee[\psi]:=[\varphi\lor\psi],\quad [\varphi]\wedge[\psi]:=[\varphi\land\psi],\quad [\varphi]':=[\lnot\varphi],\quad 0:=[p_1\land\lnot p_1],\quad 1:=[p_1\lor\lnot p_1]
$$
は代表元によらずに定まり、$B_n$ は Boole代数 になる。その順序は「$[\varphi]\le[\psi]\iff\varphi\to\psi$ が恒真式」で与えられる。さらに $B_n$ は $\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}^n$ の冪集合と同型であり、元の個数は $2^{2^n}$、原子は prf-propositional-logic-dnf の $[C_a]$($2^n$ 個)である。
代表元によらないこと:$\varphi\equiv\varphi'$、$\psi\equiv\psi'$ なら、各付値で $v(\varphi\lor\psi)$ は $v(\varphi)=v(\varphi')$ と $v(\psi)=v(\psi')$ だけで決まるので $\varphi\lor\psi\equiv\varphi'\lor\psi'$ である。$\land$ と $\lnot$ も同様である。
$S:=\{\mathrm{T},\mathrm{F}\}^n$ とし、$\Phi\colon B_n\to\mathcal{P}(S)$ を $\Phi([\varphi]):=\{a\in S\mid f_\varphi(a)=\mathrm{T}\}$ で定める。$\varphi\equiv\psi\iff f_\varphi=f_\psi$ なので $\Phi$ は定義され単射であり、thm-propositional-logic-dnf により全射である。付値の規則から $\Phi([\varphi\lor\psi])=\Phi([\varphi])\cup\Phi([\psi])$、$\Phi([\varphi\land\psi])=\Phi([\varphi])\cap\Phi([\psi])$、$\Phi([\lnot\varphi])=S\setminus\Phi([\varphi])$、$\Phi(0)=\emptyset$、$\Phi(1)=S$ である。$\mathcal{P}(S)$ は Boole 代数であり(Boole代数 の記事の例「冪集合と 2 元の Boole 代数」)、$\Phi$ は演算を保つ全単射なので、Boole 代数の各等式は $\mathcal{P}(S)$ から $B_n$ に移り、$B_n$ は Boole 代数で $\Phi$ は同型である。順序:$[\varphi]\le[\psi]$ は $\Phi([\varphi])\subset\Phi([\psi])$、すなわち「$\varphi$ を真にする付値はすべて $\psi$ を真にする」ことであり、これは $\varphi\to\psi$ が恒真式であることと同値である。元の個数は $2^{|S|}=2^{2^n}$ で、原子は 1 点集合 $\{a\}=\Phi([C_a])$ に対応する。$\square$
命題変数を全部使う論理式全体でも、同じ演算で論理的同値類の集合は Boole 代数になる(Lindenbaum–Tarski 代数)。Boole 代数の公理の各等式は有限個の論理式しか含まず、それらに現れる有限個の命題変数だけを使う論理式の同値類について、$p_1,\dots,p_n$ の代わりにその変数を使った上の証明がそのまま通るからである(lem-propositional-logic-coincidence により、同値かどうかは使う変数の範囲を広げても変わらない)。こうして、命題の論理的同値による分類が Boole 代数の典型例になる。De Morgan の法則などの個々の恒真式は、この Boole 代数の等式として読める(論理と命題 の記事の命題「基本的な恒真式」、De Morganの法則)。
真理値の計算とは別に、記号の変形の規則だけで論理式を導く方法を 1 つ定める。ここでは、規則が付値の計算と 1 対 1 に対応していて完全性の証明が短く書ける シーケント計算 の一形式を使う。
論理式の有限集合 $\Gamma,\Delta$ の組を $\Gamma\Rightarrow\Delta$ と書き、シーケント という。$\Gamma\cup\{A\}$ を $\Gamma,A$ と書く。付値 $v$ が $\Gamma\Rightarrow\Delta$ を 満たす とは、「$\Gamma$ のすべての元が $v$ で真ならば、$\Delta$ のある元が $v$ で真」であることをいい、すべての付値が満たすシーケントを 妥当 という。
規則は、結論の中の 1 つの論理式(主論理式)を、その直前の部分論理式に分解する形をしている。左辺の論理式は「すべて真」、右辺は「どれかが真」と読むので、左辺の $A\land B$ は $A,B$ の 2 つに分かれ、右辺の $A\land B$ は 2 つの前提に分かれる。規則は Zac25 §10.2(pp. 163–164)の命題の規則をもとにしているが、ここでは $\Gamma,\Delta$ を列でなく集合とし、始シーケントを広げ、$\land$ の左規則と $\lor$ の右規則を 2 つの論理式を一度に扱う 1 本の規則に、$\to$ の左規則を 2 つの前提で文脈を共有する形に改めている。これにより弱化・縮約・交換の構造規則が要らなくなり、どの規則も可逆になる(lem-propositional-logic-invertible)。
各規則について、任意の付値 $v$ に対し、$v$ が結論を満たすことと、$v$ がすべての前提を満たすことは同値である。
規則の $\Gamma,\Delta$(主論理式を除いた部分)について、$\Gamma$ のある元が偽であるか、$\Delta$ のある元が真であるなら、結論も前提もすべて $v$ に満たされる。そこで $\Gamma$ がすべて真、$\Delta$ がすべて偽の場合を調べる。このとき各シーケントを満たすかどうかは、残りの論理式の真偽だけで決まる。
シーケント $\Gamma\Rightarrow\Delta$ について、$\vdash\Gamma\Rightarrow\Delta$ であることと、$\Gamma\Rightarrow\Delta$ が妥当であることは同値である。特に、論理式 $\varphi$ について $\vdash\ \Rightarrow\varphi$ は $\varphi$ が恒真式であることと同値であり、有限集合 $\Sigma$ について $\vdash\Sigma\Rightarrow\varphi$ は $\Sigma\vDash\varphi$ と同値である。
健全性(導出可能 $\Rightarrow$ 妥当):導出の長さに関する帰納法で示す。始シーケント $\Gamma\Rightarrow\Delta$ は、共通の論理式 $A$ があるので、$\Gamma$ がすべて真なら $A\in\Delta$ が真であり、妥当である。規則の前提がすべて妥当なら、lem-propositional-logic-invertible によりどの付値も結論を満たすので、結論も妥当である。
完全性(妥当 $\Rightarrow$ 導出可能):論理式 $A$ に現れる結合子の個数を $|A|$ とし、シーケント $S=(\Gamma\Rightarrow\Delta)$ について $c(S):=\sum_{A\in\Gamma}|A|+\sum_{A\in\Delta}|A|$ とおく。妥当な $S$ が導出可能であることを $c(S)$ に関する帰納法で示す。
$\Gamma\cap\Delta\neq\emptyset$ なら $S$ は始シーケントである。以下 $\Gamma\cap\Delta=\emptyset$ とする。
$\Gamma,\Delta$ の元がすべて命題変数の場合:付値 $v$ を、$\Gamma$ に属する命題変数で $\mathrm{T}$、それ以外で $\mathrm{F}$ と定めると、$\Gamma$ はすべて真で、$\Delta$ の元は $\Gamma$ に属さない命題変数なのですべて偽である。これは $S$ が妥当であることに反するので、この場合は起こらない。
そうでない場合:命題変数でない論理式 $C$ が $\Gamma$ か $\Delta$ のちょうど一方にある。$C\in\Gamma$ なら $\Gamma_0:=\Gamma\setminus\{C\}$ とおくと、$S$ は $C$ の結合子の左規則の、文脈 $\Gamma_0,\Delta$ での結論である($C\in\Delta$ なら右規則で同様)。lem-propositional-logic-invertible により、$S$ が妥当なのでその前提はすべて妥当である。各前提では $C$ が取り除かれ、代わりに $C$ の直前の部分論理式(結合子の個数の合計は $|C|-1$ 以下)が加わるだけなので、$c(\text{前提})< c(S)$ である。帰納法の仮定により前提はすべて導出可能であり、その規則を使えば $S$ も導出可能である。
最後の主張:$\emptyset\Rightarrow\{\varphi\}$ を満たす付値は $\varphi$ を真にする付値であり、$\Sigma\Rightarrow\{\varphi\}$ が妥当であることは $\Sigma\vDash\varphi$ の定義そのものである。$\square$
完全性の証明は、妥当なシーケントの導出を実際に組み立てる手続きになっている。規則を下から上へ逆に使うたびに $c$ が減るので手続きは必ず止まり、止まった所ですべての枝が始シーケントになっていれば導出が得られ、そうでなければ最後の段落の付値が $\Gamma\Rightarrow\Delta$ を偽にする反例を与える。たとえば Peirce の法則は、次の順で導出できる。$p\Rightarrow p,q$ は始シーケントであり、$\to$ の右規則で $\Rightarrow p,\ p\to q$ を得る。これと始シーケント $p\Rightarrow p$ から $\to$ の左規則で $(p\to q)\to p\Rightarrow p$ を得て、$\to$ の右規則で $\Rightarrow((p\to q)\to p)\to p$ を得る。
命題論理の証明体系には、公理と前件肯定だけを使う Hilbert 型の体系や、仮定を置いて外す自然演繹もある。直観主義論理 の記事は Hilbert 型の体系を扱い、それに排中律を加えると古典論理になることを述べている。自然演繹について、MBTZ25 第 22 章(pp. 182–186)は健全かつ完全であることを述べ、第 48 章(p. 390 以降)で健全性を証明しているが、完全性の証明は同書の範囲外としている。体系が違っても、恒真式と導出可能な式が一致するという結論は共通である。
無限集合 $\Sigma$ について $\Sigma\vDash\varphi$ なら $\Sigma$ のある有限部分集合 $\Sigma_0$ で $\Sigma_0\vDash\varphi$ となること(コンパクト性定理)も成り立つ。この記事では証明しない(コンパクト性定理(命題論理) の記事の系「帰結の有限性」が証明している)。命題変数 $p_i$ を 1 変数の述語記号 $P_i$ と定数記号 $c$ による $P_i(c)$ に置き換えると、付値と構造が対応するので、命題論理のコンパクト性は一階述語論理のコンパクト性(完全性定理 の記事の系「コンパクト性定理」)の特別な場合として得られる。一階述語論理では、量化子のために完全性の証明が本質的に難しくなる(完全性定理)。
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