Weierstrass点

同義語:Weierstrass point

概要

Weierstrass点(Weierstrass point)とは、種数 $g\ge1$ のコンパクトなリーマン面 $X$ の点 $P$ で、$P$ だけに極をもつ有理型関数の極の位数として現れない自然数(空隙値)の並びが $1,2,\dots,g$ と異なるものである。Riemann–Roch の定理により空隙値はどの点でもちょうど $g$ 個で $2g-1$ 以下にあり(Weierstrass の空隙定理)、$P$ が Weierstrass 点であることは、$P$ で $g$ 位以上の零点をもつ正則微分形式($0$ でないもの)があることと同値である。Weierstrass 点の重みの総和は $g^3-g$ であり、$g\ge2$ なら Weierstrass 点は $2g+2$ 個以上 $g^3-g$ 個以下あって、ちょうど $2g+2$ 個になるのは超楕円曲線の場合に限る。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: リーマン面, Riemann–Rochの定理, 標準因子, 超楕円曲線

コンパクトなリーマン面 $X$ の点 $P$ を 1 つ決め、$P$ 以外では正則で $P$ だけに極をもつ有理型関数を考える。極の位数として実際に現れる自然数と、現れない自然数がある。種数 $g$ が $1$ 以上なら、現れない自然数(空隙値)はちょうど $g$ 個あり、すべて $2g-1$ 以下にある。これが Weierstrass の空隙定理である。ほとんどの点では空隙値は $1,2,\dots,g$ になるが、特別な有限個の点では並びがずれる。この特別な点が Weierstrass 点 である。Weierstrass 点は曲線だけから決まる有限集合なので、曲線が超楕円曲線であるかどうかの判定や、曲線の自己同型の研究の手がかりになる(Hurwitzの自己同型定理)。
この記事では、空隙値と Weierstrass 点を定義し、空隙定理を Riemann–Rochの定理 から証明する。次に空隙値を正則微分形式の零点の位数で言い換え、超楕円曲線の Weierstrass 点が 2 重被覆の $2g+2$ 個の分岐点であることを示す。最後に Wronski 行列式を使って、Weierstrass 点の重みの総和が $g^3-g$ であることを証明し、平面 4 次曲線で確かめる。

設定と定義

この記事では、$X$ はコンパクトで連結なリーマン面(複素数体上の滑らかで連結な射影代数曲線と同じもの。Riemann–Rochの定理 の節「設定と記号」)、$g$ はその種数とする。点 $P$ での位数 $\operatorname{ord}_P$、因子、$L(D)$、$\ell(D)=\dim L(D)$、標準因子 $K$ の記号は Riemann–Rochの定理 と同じである。$L(nP)$($n\ge0$)は、$P$ 以外で正則で $P$ での極の位数が $n$ 以下の有理型関数と $0$ のなす空間である。

空隙値と Weierstrass 半群

$P\in X$ と整数 $n\ge1$ をとる。$P$ 以外では正則で $P$ でちょうど $n$ 位の極をもつ有理型関数が $X$ 上に存在するとき、$n$ を $P$ の非空隙値(non-gap)といい、存在しないとき空隙値(gap)という。$0$ と非空隙値の全体を
$$ H(P)\subset\mathbb{Z}_{\ge0} $$
と書き、$P$ の Weierstrass 半群という。

$L(nP)\setminus L((n-1)P)$ の元はちょうど $n$ 位の極をもつ関数なので、
$$ n\text{ が非空隙値}\iff\ell(nP)>\ell((n-1)P) $$
である。$P$ だけにそれぞれ $a$ 位、$b$ 位の極をもつ関数 $f,h$ の積 $fh$ は $P$ だけに $a+b$ 位の極をもつので、$H(P)$ は加法について閉じており、$0$ を含む。補集合 $\mathbb{Z}_{\ge0}\setminus H(P)$ が有限であることを次の定理が示すので、$H(P)$ は数値半群(数値半群環 の記事の対象)である。

Weierstrass の空隙定理

Weierstrass の空隙定理

$g\ge1$ とする。各点 $P\in X$ について、$P$ の空隙値はちょうど $g$ 個あり、すべて $1$ 以上 $2g-1$ 以下である。$1$ はつねに空隙値である。$g=0$ なら空隙値はない。

$\ell_n:=\ell(nP)$ とおく。Riemann–Rochの定理 の補題「$\ell(D)$ の基本性質」の 2 と 5 により $\ell_0=1$、$\ell_{n-1}\le\ell_n\le\ell_{n-1}+1$ である。$n\ge2g-1$ なら $\deg(nP)>2g-2$ なので、同記事の系「Riemann–Rochの定理の帰結」の 3 により $\ell_n=n+1-g$ である。
$g=0$ なら、すべての $n\ge0$ で $\ell_n=n+1$ なので $\ell_n-\ell_{n-1}=1$ がつねに成り立ち、空隙値はない。
$g\ge1$ とする。$n\ge2g$ では $\ell_n-\ell_{n-1}=(n+1-g)-(n-g)=1$ なので、$2g$ 以上の空隙値はない。$n=1,\dots,2g-1$ の増分 $\ell_n-\ell_{n-1}$ はそれぞれ $0$ か $1$ で、その和は $\ell_{2g-1}-\ell_0=g-1$ である。よって増分が $1$ の $n$(非空隙値)はちょうど $g-1$ 個、増分が $0$ の $n$(空隙値)はちょうど $(2g-1)-(g-1)=g$ 個ある。
$1$ が空隙値であることは $\ell(P)=1$ と同値である。標準因子 の命題「標準線形系は基点をもたない」により $g\ge1$ なら $\ell(K-P)=g-1$ であり、Riemann–Roch の定理 $\ell(P)-\ell(K-P)=2-g$ から $\ell(P)=1$ である。$\square$

この定理の主張と証明は GR79 Ch. VII §7.6, Theorem 5(p. 229)にもある。証明は Riemann–Roch の定理とその帰結しか使わないので、任意の代数閉体の上の滑らかで連結な射影曲線について、まったく同じ主張が成り立つ(Riemann–Rochの定理 は代数閉体の上で述べられている)。

Weierstrass 点と重み

$g\ge1$ とし、点 $P\in X$ の空隙値を $n_1< n_2<\cdots< n_g$ とする(thm-wp-gap)。これを $P$ の空隙列という。空隙列が $1,2,\dots,g$ でない点を $X$ の Weierstrass 点(Weierstrass point)といい、
$$ w(P):=\sum_{j=1}^{g}(n_j-j) $$
を $P$ の Weierstrass 重みという。

$n_1,\dots,n_g$ は相異なる正の整数を小さい順に並べたものなので $n_j\ge j$ であり、$w(P)\ge0$ である。等号 $w(P)=0$ はすべての $j$ で $n_j=j$ となることと同値なので、$P$ が Weierstrass 点であることは $w(P)>0$ と同値である。

直感

$n$ を $0,1,2,\dots$ と増やすと $\ell(nP)$ は $1$ から始まって $0$ か $1$ ずつ増え、$n\ge2g-1$ では毎回 $1$ ずつ増える。$n=0$ から $n=2g-1$ までの $2g-1$ 歩のうち、上がるのは $g-1$ 歩だけで、残りの $g$ 歩は「足踏み」である。足踏みの場所が空隙値である。足踏みはなるべく早い段階に起こり、一般の点では最初の $g$ 歩がすべて足踏みになる。Weierstrass 点は、早い段階で極の位数が実現できてしまう(たとえば $2$ が非空隙値になる)特別な点である。

正則微分形式による言い換え

空隙値は、Riemann–Roch の定理によって、正則微分形式(正則 1 形式)の零点の位数の言葉に言い換えられる。

空隙値と正則微分形式の零点

$g\ge1$、$P\in X$ とする。

  1. 整数 $n\ge1$ が $P$ の空隙値であることは、$\operatorname{ord}_P(\omega)=n-1$ となる正則微分形式 $\omega\ne0$ が存在することと同値である。
  2. $0$ でない正則微分形式 $\omega$ の $P$ での位数 $\operatorname{ord}_P(\omega)$ として現れる値の全体は、ちょうど $g$ 個の整数 $n_1-1,\dots,n_g-1$ からなる。
  3. $P$ が Weierstrass 点であることは、$\operatorname{ord}_P(\omega)\ge g$ となる正則微分形式 $\omega\ne0$ が存在することと同値であり、また $\ell(gP)\ge2$ と同値である。

$K=\operatorname{div}(\omega_0)$ となる有理型微分形式 $\omega_0$ を固定する。$m\ge0$ に対し、$f\mapsto f\omega_0$ は $L(K-mP)$ から
$$ A_m:=\{\omega\text{ は正則微分形式で},\ \omega=0\text{ または }\operatorname{ord}_P(\omega)\ge m\} $$
への線形同型である。実際 $\operatorname{div}(f\omega_0)=\operatorname{div}(f)+K$ なので、$\operatorname{div}(f)+K-mP\ge0$ は $f\omega_0$ がすべての点で位数 $0$ 以上かつ $P$ で位数 $m$ 以上であることと同じである(標準因子 の命題「標準線形系は基点をもたない」の証明と同じ対応)。
1:Riemann–Roch の定理を $D=nP$ と $D=(n-1)P$ に使って差をとると
$$ \ell(nP)-\ell((n-1)P)=1-\bigl(\ell(K-(n-1)P)-\ell(K-nP)\bigr)=1-\dim A_{n-1}/A_n $$
である。$\dim A_{n-1}/A_n$ は $0$ か $1$ で、$1$ であることは $A_{n-1}\setminus A_n$ が空でないこと、すなわち $\operatorname{ord}_P(\omega)=n-1$ となる $\omega$ があることと同値である。よって $n$ が空隙値(左辺が $0$)であることは、そのような $\omega$ があることと同値である。
2:1 により、$m\ge0$ が位数として現れることは $m+1$ が空隙値であることと同値である。空隙値の全体は $\{n_1,\dots,n_g\}$ なので、位数の全体は $\{n_1-1,\dots,n_g-1\}$ である。
3:$P$ が Weierstrass 点でないことは $n_g=g$ と同値である($n_j\ge j$ で、$n_g=g$ ならすべての $j$ で $n_j=j$)。したがって $P$ が Weierstrass 点であることは $n_g\ge g+1$、すなわち 2 により位数 $n_g-1\ge g$ の $\omega$ があることと同値である。逆に $\operatorname{ord}_P(\omega)\ge g$ となる $\omega$ があれば、その位数に $1$ を足した $g+1$ 以上の数が空隙値なので $n_g\ge g+1$ である。最後に、$\ell(gP)=1+\#\{n\in[1,g]\mid n\text{ は非空隙値}\}$ であり、$P$ が Weierstrass 点でないことは $g$ 個の空隙値がすべて $[1,g]$ にあること、すなわち $\ell(gP)=1$ と同値である。$\square$

正則微分形式の空間は $g$ 次元で(Riemann–Rochの定理 の系「Riemann–Rochの定理の帰結」の 1)、2 は「$g$ 次元の空間の元の $P$ での位数はちょうど $g$ 通りの値をとる」という一般的な事実の具体例でもある。正則微分形式 $\omega$ の位数で $A_m$ をとると $A_m/A_{m+1}$ は高々 1 次元なので、次元が落ちる $m$ がちょうど $g$ 個ある。

超楕円曲線の Weierstrass 点

超楕円曲線 は、種数 $g\ge2$ で、次数 $2$ の正則写像 $X\to\mathbb{P}^1$ をもつ曲線である(同記事の定義「超楕円曲線」。複素数体上では次数 $2$ の有限射と次数 $2$ の正則写像は同じものである)。

非空隙値 2 と次数 2 の写像

$g\ge2$、$P\in X$ とする。$2$ が $P$ の非空隙値であることは、次数 $2$ の正則写像 $\pi\colon X\to\mathbb{P}^1$ で $P$ が $\pi$ の分岐点(局所分岐指数 $2$)であるものが存在することと同値である。とくに、そのとき $X$ は超楕円曲線である。

$2$ が非空隙値なら、$P$ だけにちょうど $2$ 位の極をもつ有理型関数 $f$ がある。$f$ を正則写像 $f\colon X\to\mathbb{P}^1$ と見ると、$\infty$ の逆像は $P$ だけで、そこでの局所分岐指数は極の位数 $2$ である。局所分岐指数の和は写像の次数に等しい(被覆次数 の命題「局所次数の和」)ので $f$ の次数は $2$ であり、$P$ は分岐点である。逆に $\pi$ がそのような写像なら、$\mathbb{P}^1$ の座標を $\pi(P)=\infty$ となるように選べば、$P$ での局所分岐指数 $2$ だけで次数 $2$ を使い切るので $\pi^{-1}(\infty)=\{P\}$ であり、$\pi$ は $P$ 以外で正則な関数で、$P$ での極の位数はちょうど $2$ である。$\square$

超楕円曲線の Weierstrass 点

$X$ を種数 $g\ge2$ の超楕円曲線、$\pi\colon X\to\mathbb{P}^1$ を次数 $2$ の正則写像とする。このとき $X$ の Weierstrass 点は、$\pi$ の $2g+2$ 個の分岐点とちょうど一致する。各分岐点の空隙列は $1,3,5,\dots,2g-1$ で、重みは $g(g-1)/2$ である。とくに、分岐点の集合は $\pi$ の選び方によらない。

$\mathbb{P}^1$ の座標 $x$ を、$\infty$ が分岐値でないように選ぶ(分岐値は有限個)。超楕円曲線 の定理「超楕円曲線の標準形」により、$X$ は次数 $2g+1$ または $2g+2$ の重根をもたない多項式 $f$ による $y^2=f(x)$ の滑らかなモデルと同型であり、$\pi=x$ である。同記事の命題「超楕円対合とその固定点」の 1 により、次数が奇数なら $\infty$ の上の点は 1 つで分岐点になるから、次数は $2g+2$ である。このとき $\pi$ の分岐点は $f$ の $2g+2$ 個の根 $a$ の上の点 $(a,0)$ であり(同命題)、無限遠の上には分岐しない 2 点 $\infty_\pm$ がある。$\omega_0:=dx/y$ とおくと、正則微分形式は $h(x)\omega_0$($h$ は次数 $g-1$ 以下の多項式)の形のものですべてであり、$\operatorname{div}(\omega_0)=(g-1)(\infty_++\infty_-)$ である(Riemann–Rochの定理 の例「超楕円曲線の正則な微分形式」)。とくに $\omega_0$ はアフィン部分 $y^2=f(x)$ の上で零点も極ももたない。
分岐点 $P=(a,0)$ では $y$ が局所座標で、$x-a$ は $P$ で $2$ 位の零点をもつ(同例の位数の計算)。次数 $g-1$ 以下の多項式は $(x-a)^i$($0\le i\le g-1$)の 1 次結合なので、$(x-a)^i\omega_0$ が正則微分形式の基底であり、その $P$ での位数は $2i$ である。位数が相異なる $g$ 個の基底なので、正則微分形式の $P$ での位数の全体は $\{0,2,\dots,2g-2\}$ である。prop-wp-differential の 2 により空隙列は $1,3,\dots,2g-1$ であり、重みは $\sum_{j=1}^g((2j-1)-j)=g(g-1)/2>0$ である。
分岐点でない点 $Q$ を考える。$Q=(a,b)$、$b\ne0$ なら $x-a$ が局所座標で、$\operatorname{ord}_Q(h(x)\omega_0)=\operatorname{ord}_{x=a}h\le\deg h\le g-1$ である。$Q=\infty_\pm$ なら $1/x$ が局所座標で、$\operatorname{ord}_Q(h(x)\omega_0)=(g-1)-\deg h\le g-1$ である。よって $\operatorname{ord}_Q(\omega)\ge g$ となる正則微分形式 $\omega\ne0$ はなく、prop-wp-differential の 3 により $Q$ は Weierstrass 点でない。Weierstrass 点は $X$ だけから決まるので、最後の主張が従う。$\square$

prop-wp-two と合わせると、$g\ge2$ のとき、$2\in H(P)$ となる点 $P$ があることと $X$ が超楕円曲線であることは同値である。これは次数 $2$ の因子 $H$ で $\ell(H)=2$ となるものがあることとも同値であり、そのような曲線では、$\ell(D)\ge1$ かつ $\ell(K-D)\ge1$ の因子 $D$ のうち Clifford の不等式 $\ell(D)\le\frac{\deg D}2+1$ の等号が成り立つものは、$0$、$K$ と $H$ の倍数に線形同値なものに限られる(Cliffordの定理(代数曲線) の定理「Clifford の定理の等号条件」)。

重みの上界と総和

重みの上界

$g\ge1$、$P\in X$ とし、空隙列を $n_1<\cdots< n_g$ とする。すべての $j$ で $n_j\le2j-1$ であり、したがって $w(P)\le g(g-1)/2$ である。$g\ge2$ のとき、等号が成り立つことは $2$ が $P$ の非空隙値であることと同値である。

要点:空隙値 $n$ より小さい非空隙値 $m$ ごとに $n-m$ も空隙値になる。

詳しい証明を開く

$n:=n_j$ とする。$m< n$ が非空隙値なら $n-m$ は空隙値である($n-m$ が非空隙値なら、$H(P)$ が加法で閉じているので $n=m+(n-m)$ も非空隙値になる)。$1,\dots,n-1$ のうち空隙値は $n_1,\dots,n_{j-1}$ の $j-1$ 個なので、非空隙値は $(n-1)-(j-1)=n-j$ 個あり、$m\mapsto n-m$ はそれらを $1,\dots,n-1$ の中の相異なる空隙値に写す。よって $n-j\le j-1$、すなわち $n_j\le2j-1$ である。和をとって $w(P)\le\sum_j(j-1)=g(g-1)/2$ を得る。

等号はすべての $j$ で $n_j=2j-1$、すなわち空隙列が $1,3,\dots,2g-1$ のときに限る。$g\ge2$ ならこのとき $n_1=1$、$n_2=3$ なので $2$ は非空隙値である。逆に $2$ が非空隙値なら $H(P)$ はすべての偶数を含むので、空隙値は $2g-1$ 以下の奇数に限られる(thm-wp-gap)。そのような奇数はちょうど $g$ 個なので、空隙列は $1,3,\dots,2g-1$ である。$\square$

Weierstrass 点の重みの総和

$g\ge1$ とする。$X$ の Weierstrass 点は有限個で、
$$ \sum_{P\in X}w(P)=g^3-g=(g-1)g(g+1) $$
が成り立つ。

証明には Wronski 行列式を使う。$\omega_1,\dots,\omega_g$ を正則微分形式の基底とし、局所座標 $z$ で $\omega_j=\varphi_j(z)\,dz$ と書いて
$$ W_z:=\det\bigl(\varphi_j^{(i-1)}(z)\bigr)_{1\le i,j\le g}\qquad(\varphi^{(k)}\text{ は }k\text{ 階導関数}) $$
とおく。$N:=g(g+1)/2$ とする。

要点は次の 3 つである。(a) $W_z\,(dz)^{\otimes N}$ は座標によらず、$X$ 上の正則な $K^{\otimes N}$ の切断 $W$ を定める。(b) 点 $P$ で $\operatorname{ord}_P(W)=w(P)$ である。(c) $W\ne0$ なので、$W$ の零点の位数の総和は $\deg(NK)=N(2g-2)=(g-1)g(g+1)$ である(標準因子 の定理「標準因子の次数」)。(b) から $w(P)>0$ の点は $W$ の零点で、$W\ne0$ の零点は孤立するので有限個である。

(a)・(b) の証明を開く

(a):別の座標 $u$ で $z=z(u)$ とし、$\psi_j(u):=\varphi_j(z(u))z'(u)$ とおくと $\omega_j=\psi_j\,du$ である。帰納法により、$i\ge1$ について$$\psi_j^{(i-1)}=(z')^{i}\,\varphi_j^{(i-1)}(z(u))+\sum_{k=1}^{i-1}c_{ik}(u)\,\varphi_j^{(k-1)}(z(u))$$と書け、係数 $c_{ik}$ は $j$ によらない($i=1$ は定義そのもの。右辺を $u$ で微分すると、第 1 項から $(z')^{i+1}\varphi_j^{(i)}$ と $\varphi_j^{(i-1)}$ の項が、和の各項から $\varphi_j^{(k)}$ と $\varphi_j^{(k-1)}$ の項が出て、係数はどれも $z$ と $c_{ik}$ の導関数だけで決まる)。第 $i$ 行から第 $k$ 行($k< i$)の $c_{ik}$ 倍を引く行基本変形で$$W_u=\Bigl(\prod_{i=1}^g(z')^{i}\Bigr)W_z=(z')^{N}\,W_z$$となり、$(du)^{\otimes N}=(z')^{-N}(dz)^{\otimes N}$ と合わせて $W_u(du)^{\otimes N}=W_z(dz)^{\otimes N}$ である。基底を取り替えると $W$ はその変換行列の行列式($0$ でない定数)倍になる。

(b):$P$ の空隙列を $n_1<\cdots< n_g$ とし、$a_j:=n_j-1$ とおく。prop-wp-differential の 2 により、$\operatorname{ord}_P(\omega_j)=a_j$ となる基底をとれる(位数が $a_j$ の元を 1 つずつ選べば、位数が相異なるので 1 次独立)。$P$ を中心とする座標 $z$ で $\varphi_j=\sum_{m\ge0}b_{j,m}z^{a_j+m}$、$b_{j,0}\ne0$ と書くと$$\varphi_j^{(i-1)}=\sum_{m\ge0}b_{j,m}\,(a_j+m)_{i-1}\,z^{a_j+m-i+1}$$である。ここで $(a)_k:=a(a-1)\cdots(a-k+1)$ で、$a_j+m< i-1$ の項は係数 $(a_j+m)_{i-1}=0$ により消える。したがって $\varphi_j^{(i-1)}=z^{a_j-(i-1)}h_{ij}(z)$ と書け、$h_{ij}$ は $z$ の冪級数で $h_{ij}(0)=b_{j,0}(a_j)_{i-1}$ である。第 $j$ 列から $z^{a_j}$、第 $i$ 行から $z^{-(i-1)}$ をくくり出すと$$W_z=z^{\sum_ja_j-\sum_i(i-1)}\det\bigl(h_{ij}(z)\bigr)$$であり、$\det(h_{ij}(0))=\prod_jb_{j,0}\cdot\det\bigl((a_j)_{i-1}\bigr)$ である。$(a)_{i-1}$ は $a$ の最高次係数 $1$ の $i-1$ 次多項式なので、行基本変形で $\det((a_j)_{i-1})=\det(a_j^{\,i-1})=\prod_{j< k}(a_k-a_j)$ となり、$a_j$ が相異なるので $0$ でない。よって $\operatorname{ord}_P(W)=\sum_j(n_j-1)-\sum_j(j-1)=w(P)$ である。とくに $W$ は恒等的に $0$ でない。

(b) の最後の行列式が $0$ でないことは、複素数体(標数 $0$)の上にいることを使う。標数が正のときは、この行列式が消えることがあり、総和の公式も有限性も一般には成り立たない(ex-wp-counterexamples)。

Weierstrass 点の個数

$g\ge2$ とし、$X$ の Weierstrass 点の個数を $N_W$ とする。このとき
$$ 2g+2\le N_W\le g^3-g $$
である。とくに Weierstrass 点は必ず存在する。$N_W=2g+2$ となるのは $X$ が超楕円曲線であるときに限る。

Weierstrass 点の重みは $1$ 以上 $g(g-1)/2$ 以下なので(lem-wp-weight-bound)、thm-wp-count から $N_W\le g^3-g$、$N_W\cdot g(g-1)/2\ge g^3-g$、すなわち $N_W\ge2(g+1)$ である。$X$ が超楕円曲線なら thm-wp-hyperelliptic により $N_W=2g+2$ である。逆に $N_W=2g+2$ なら、総和 $g^3-g=N_W\cdot g(g-1)/2$ からすべての Weierstrass 点の重みが上界 $g(g-1)/2$ に等しい。$N_W>0$ なので Weierstrass 点 $P$ があり、lem-wp-weight-bound により $P$ で $2$ が非空隙値となるから、prop-wp-two により $X$ は超楕円曲線である。$\square$

例:種数 1・2 と平面 4 次曲線

低い種数の場合

$g=1$ なら、零点をもたない正則微分形式 $\omega$ が定数倍を除いてただ 1 つあり(Riemann–Rochの定理 の命題「種数が 1 の曲線の $\ell(nO)$」の 1)、どの点でも位数は $0$ だけなので、空隙列は $1$ で Weierstrass 点はない。これは総和 $g^3-g=0$ と合う。$g=2$ の曲線はすべて超楕円曲線であり(超楕円曲線 の節「超楕円対合と正則微分形式」の末尾。この記事では証明しない)、thm-wp-hyperelliptic により Weierstrass 点は 2 重被覆の $6$ 個の分岐点で、どれも空隙列 $1,3$、重み $1$ である。総和は $6=2^3-2$ である。

$\mathbb{P}^2$ の滑らかな 4 次曲線 $X=V(F)$ は種数 $3$ である(Riemann–Rochの定理 の例「平面曲線の種数」)。次数 $d$ の滑らかな平面曲線の標準層は $\mathcal{O}_X(d-3)$ と同型なので(Har77 II, Example 8.20.3、p. 183)、$d=4$ では $\Omega^1_X\cong\mathcal{O}_X(1)$ である。1 次形式 $\lambda$ を $X$ に制限する写像 $H^0(\mathbb{P}^2,\mathcal{O}(1))\to H^0(X,\mathcal{O}_X(1))$ は単射($X$ は直線に含まれない)で、両辺とも $3=g$ 次元なので同型である。よって正則微分形式は 1 次形式 $\lambda$ と 1 対 1 に対応し、$\lambda_0(P)\ne0$ となる 1 次形式 $\lambda_0$ をとれば、対応する $\omega_\lambda$ は $\omega_\lambda=(\lambda/\lambda_0)\,\omega_{\lambda_0}$ で $\omega_{\lambda_0}$ は $P$ で消えないので、
$$ \operatorname{ord}_P(\omega_\lambda)=\dim_k\mathcal{O}_{X,P}/(\lambda/\lambda_0)=I(P,X\cap L)\qquad(L:=V(\lambda)) $$
である($\mathcal{O}_{X,P}$ は射影平面の局所環を $F/\lambda_0^4$ で割ったもので、右辺はBézoutの定理 の記事の交点数)。

滑らかな平面 4 次曲線の Weierstrass 点

$P\in X$ を通る直線 $L$ では $I(P,X\cap L)\ge1$ で、$I(P,X\cap L)\ge2$ となるのは接線 $T_P$ だけである(双対曲線 の命題「接線の存在と一意性」)。$m_P:=I(P,X\cap T_P)$ とおくと、Bézoutの定理 により交点数の和は $4$ なので $2\le m_P\le4$ である。したがって正則微分形式の $P$ での位数の全体は $\{0,1,m_P\}$ であり、prop-wp-differential の 2 により空隙列は $1,2,m_P+1$、重みは $w(P)=m_P-2$ である。

  • $m_P=2$(接線が 2 位で接する)なら空隙列は $1,2,3$ で、$P$ は Weierstrass 点でない。
  • $m_P=3$($P$ は通常の変曲点)なら空隙列は $1,2,4$、重み $1$ である。
  • $m_P=4$(接線が 4 位で接する)なら空隙列は $1,2,5$、重み $2$ である。
    Weierstrass 点は変曲点($m_P\ge3$ の点)にほかならず、thm-wp-count から変曲点を $m_P-2$ の重みで数えると $3^3-3=24$ 個ある。どの点でも $2$ は空隙値なので、prop-wp-two により滑らかな平面 4 次曲線は超楕円曲線でない。
Fermat の 4 次曲線

$X=V(x^4+y^4+z^4)\subset\mathbb{P}^2_{\mathbb{C}}$ とする。$z=0$ 上の点 $P=(a:b:0)$($a^4+b^4=0$、4 点)の接線は $T_P=V(a^3x+b^3y)$ である($z$ の偏微分は $P$ で $0$)。$T_P$ の点を $(b^3s:-a^3s:t)$ と書いて代入すると、$a^{12}=-b^{12}$ から
$$ (b^3s)^4+(-a^3s)^4+t^4=(a^{12}+b^{12})s^4+t^4=t^4 $$
となり、$T_P$ は $X$ と $t=0$ の点 $(b^3:-a^3:0)=P$($b^4=-a^4$ による)だけで交わる。交点数は代入した式の根の重複度なので(Bézoutの定理 の例「直線と曲線:代入して解の個数を数える」)、$m_P=4$、$w(P)=2$ である。$x=0$、$y=0$ の上の点も同じで、合わせて $12$ 点が重み $2$ をもつ。重みの和はすでに $24=g^3-g$ に達するので、Weierstrass 点はこの $12$ 点だけである。$2g+2=8$ より多いことは、$X$ が超楕円曲線でないことと合う(cor-wp-number)。

反例:条件を外すと

外す条件反例成り立たなくなること
cor-wp-number の $g\ge2$種数 $1$ の曲線Weierstrass 点が存在すること
thm-wp-gap のコンパクト性種数 $1$ のコンパクトなリーマン面から 1 点 $Q$ を除いた面$1$ がつねに空隙値であること
thm-wp-count の標数 $0$標数 $3$ の代数閉体の上の 4 次曲線 $x^4+y^4+z^4=0$Weierstrass 点が有限個であること
thm-wp-hyperelliptic の超楕円性複素数体上の Fermat の 4 次曲線Weierstrass 点が $2g+2$ 個で、空隙列が $1,3,\dots,2g-1$ であること
反例の確かめ

1 行目は ex-wp-low-genus である。4 行目は ex-wp-fermat で、$g=3$ だが Weierstrass 点は $12$ 個、空隙列は $1,2,5$ である。
2 行目.$E$ を種数 $1$ のコンパクトなリーマン面、$Q\ne P$ を 2 点とし、$Y:=E\setminus\{Q\}$ とする。Riemann–Rochの定理 の系「Riemann–Rochの定理の帰結」の 3 により $\ell(P+Q)=2$ なので、定数でない $f\in L(P+Q)$ がある。$f$ は $P$ で単純な極をもつ(もたなければ $f\in L(Q)$ で、$\ell(Q)=1$ から定数になる)。$f$ を $Y$ に制限すると、$P$ 以外で正則で $P$ でちょうど $1$ 位の極をもつ。$n\ge2$ でも $\ell(nP)=n>\ell((n-1)P)$ なので、$Y$ の上ではすべての $n\ge1$ が非空隙値である。
3 行目.$k$ を標数 $3$ の代数閉体、$F=x^4+y^4+z^4$ とする。$\partial F/\partial x=4x^3=x^3$ などは $(0,0,0)$ でしか同時に消えないので、$X=V(F)$ は滑らかで種数 $3$ であり、$\Omega^1_X\cong\mathcal{O}_X(1)$ と上の位数の式もそのまま成り立つ(Har77 II, Example 8.20.3 は代数閉体の上で述べられている)。thm-wp-gap と prop-wp-differential の証明は Riemann–Roch の定理しか使わないので、この $X$ でも成り立つ。点 $P=(a_0:a_1:a_2)\in X$ の接線は $T_P=V(\sum_ia_i^3x_i)$ である。$T_P$ 上の別の点 $R=(r_0:r_1:r_2)$ をとると、標数 $3$ では $(u+v)^4=(u^3+v^3)(u+v)$ なので
$$ F(P+tR)=\sum_ia_i^4+t\sum_ia_i^3r_i+t^3\sum_ia_ir_i^3+t^4\sum_ir_i^4=t^3\Bigl(\sum_ia_ir_i^3+t\sum_ir_i^4\Bigr) $$
となる($P\in X$、$R\in T_P$ により第 1 項と第 2 項は $0$)。よって $m_P=I(P,X\cap T_P)\ge3=g$ であり、prop-wp-differential の 3 により すべての点 が Weierstrass 点である。Wronski 行列式の議論では $\det((a_j)_{i-1})$ が整数 $\prod_{j< k}(a_k-a_j)$ に等しく、位数が $0,1,3$ の点では値 $1\cdot3\cdot2=6$ が標数 $3$ で $0$ になる。

関連項目

参考文献

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