可解群

概要

可解群(solvable group)とは、商因子がすべてアーベル群となる正規列 $\{e\}=G_0\trianglelefteq G_1\trianglelefteq\cdots\trianglelefteq G_r=G$ を持つ群のことである。各項が $G$ の正規部分群であるような列が取れること、交換子部分群を繰り返し取る導来列が有限段で自明群に達することと同値である。可解群の部分群と剰余群は可解群であり、アーベル群でない単純群は可解群でない。アーベル群・$3$ 次対称群・整数上の Heisenberg 群は可解群だが、$5$ 次交代群 $A_5$ はアーベル群でない単純群なので可解群でなく、$n\ge5$ の $S_n$ も可解群でない。名称は、代数方程式が冪根で解けることとその Galois 群が可解群であることの対応に由来する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: , 正規部分群, 剰余群, 正規列

定義

$G$ の部分群の有限列 $\{e\}=G_0\le G_1\le\cdots\le G_r=G$ で各 $G_i$$G_{i+1}$ の正規部分群であるものを $G$正規列といい、剰余群 $G_{i+1}/G_i$ をその商因子という。$N$$H$ の正規部分群であることを $N\trianglelefteq H$ と書く。

可解群

$G$可解群(solvable group)であるとは、正規列 $\{e\}=G_0\trianglelefteq G_1\trianglelefteq\cdots\trianglelefteq G_r=G$ であって、各 $i$$0\le i< r$)について商因子 $G_{i+1}/G_i$ がアーベル群となるものが存在することをいう(DF04 §6.1)。

同値な言い換えのために、交換子と導来列を定義する。

交換子部分群と導来列

$H$ の元 $x,y$ に対し $[x,y]:=xyx^{-1}y^{-1}$交換子という。$H$ の交換子全体が生成する部分群、すなわち有限個の交換子の積として書ける元の全体を $[H,H]$ と書き、$H$交換子部分群(導来部分群)という($[x,y]^{-1}=[y,x]$ なので、交換子の積の全体は逆元でも閉じている)。群 $G$ に対し $D_0:=G$$D_{i+1}:=[D_i,D_i]$ で定まる部分群の降下列 $G=D_0\ge D_1\ge D_2\ge\cdots$$G$導来列という。

直感

可解群は、アーベル群という最も扱いやすい部品を正規列に沿って有限段階で積み重ねてできる群である。各段の商因子がアーベル群なので、非可換性はどの一段にも現れず、段の積み重ね方にだけ現れる。「可解」の名は、体の代数方程式が冪根で解けることと、その Galois 群が可解群であることが対応するという事実に由来する(rem-solvable-group-galois)。導来列は「非可換性を交換子で削り取っていく」列で、可解性は導来列が有限段で自明群に達することと同値である(thm-solvable-group-equivalence)。

例と反例

置換の積は右側を先に適用する。

アーベル群

アーベル群 $G$ は可解群である。実際、長さ $1$ の正規列 $\{e\}\trianglelefteq G$ の唯一の商因子 $G/\{e\}\cong G$ はアーベル群である。

$3$ 次対称群

$S_3$ は可解群である。$A_3:=\{e,(1\,2\,3),(1\,3\,2)\}$$(1\,2\,3)$ が生成する位数 $3$ の巡回部分群で、$S_3$ における指数は $6/3=2$ なので正規部分群である(lem-solvable-group-index-two)。正規列 $\{e\}\trianglelefteq A_3\trianglelefteq S_3$ の商因子は、位数 $3$ の巡回群 $A_3$ と位数 $2$ の群 $S_3/A_3$ で、いずれもアーベル群である(位数が素数の群は巡回群であり、巡回群はアーベル群である)。

Heisenberg群

$H:=\mathbb{Z}^3$ に積 $(a,b,c)(a',b',c'):=(a+a',\,b+b',\,c+c'+ab')$ を入れると $H$ は非アーベル群になる。$Z:=\{(0,0,c)\mid c\in\mathbb{Z}\}$ とおくと $\{e\}\trianglelefteq Z\trianglelefteq H$ は商因子がアーベル群の正規列であり、$H$ は可解群である(prop-solvable-group-heisenberg)。

反例:可解でない群

次の例は「任意の有限群は可解群である」が成り立たないことを示す。$5$ 次対称群 $S_5$ の元のうち偶数個の互換の積として書けるものの全体を $5$ 次交代群 $A_5$ という($A_5$ は積と逆元で閉じるので $S_5$ の部分群である。互換の個数の偶奇が積の書き方によらないこと、$|A_5|=60$ であることは DF04 §3.5 を引用する)。$A_5$ はアーベル群でない:$3$-サイクル $(1\,2\,3)=(1\,3)(1\,2)$$(1\,4\,5)=(1\,5)(1\,4)$$A_5$ に属し、右を先に適用する規約で $(1\,2\,3)(1\,4\,5)=(1\,4\,5\,2\,3)$$(1\,4\,5)(1\,2\,3)=(1\,2\,3\,4\,5)$ で異なる。さらに $A_5$ は自明でない正規部分群を持たない群(単純群)である。この単純性は本記事では証明せず引用にとどめる(DF04 §4.6)。アーベル群でない単純群は可解群でない(prop-solvable-group-simple)ので、$A_5$ は可解群でない。また可解群の部分群は可解群だから(prop-solvable-group-subgroup)、$A_5$ を部分群として含む $S_5$ や、$n\ge5$$S_n$ も可解群でない。

性質

指数 $2$ の部分群は正規部分群

$G$ の部分群 $M$ の指数が $2$ ならば $M\trianglelefteq G$ である。

$g\in M$ なら $gM=M=Mg$$g\notin M$ なら左剰余類は $M$$gM$ の二つで $gM=G\setminus M$、右剰余類も $M$$Mg$ の二つで $Mg=G\setminus M$、よって $gM=Mg$。任意の $g$$gM=Mg$ なので $gMg^{-1}=M$ である。$\square$

交換子部分群とアーベル商

$H$ と正規部分群 $N\trianglelefteq H$ について次が成り立つ。

  1. $[H,H]$$H$ の正規部分群であり、$H/[H,H]$ はアーベル群である。
  2. $H/N$ がアーベル群であることと $[H,H]\le N$ であることは同値である。
  3. $G$ を群とする。$G$ の正規部分群 $K$ に対し $[K,K]$$G$ の正規部分群である。特に $G$ の導来列の各項 $D_i$$G$ の正規部分群である。

任意の $g\in H$ について $g[x,y]g^{-1}=[gxg^{-1},gyg^{-1}]$ である(両辺を展開すれば $gxyx^{-1}y^{-1}g^{-1}$$gxg^{-1}\,gyg^{-1}\,gx^{-1}g^{-1}\,gy^{-1}g^{-1}$ で等しい)。よって交換子の積の共役は交換子の積であり、$[H,H]\trianglelefteq H$
(2) を先に示す。$N\trianglelefteq H$ とし、$\pi\colon H\to H/N$ を自然な全射とする。$H/N$ がアーベル群なら、任意の $x,y$$\pi([x,y])=\pi(x)\pi(y)\pi(x)^{-1}\pi(y)^{-1}=e$、すなわち $[x,y]\in N$ であり、交換子の積も $N$ に属するので $[H,H]\le N$。逆に $[H,H]\le N$ なら、$\pi(x)\pi(y)\pi(x)^{-1}\pi(y)^{-1}=\pi([x,y])=e$ なので $\pi(x)\pi(y)=\pi(y)\pi(x)$$\pi$ は全射だから $H/N$ はアーベル群である。
(1) の後半は (2) を $N=[H,H]$ に適用すれば従う。
(3) $K\trianglelefteq G$$g\in G$ とする。$k,k'\in K$ に対し $g[k,k']g^{-1}=[gkg^{-1},gk'g^{-1}]$ で、$gkg^{-1},gk'g^{-1}\in K$ なのでこれは $K$ の交換子である。よって $g[K,K]g^{-1}\subset[K,K]$ が任意の $g$ で成り立ち、$[K,K]\trianglelefteq G$$D_0=G\trianglelefteq G$ から始めて帰納的に $D_i\trianglelefteq G$ を得る。$\square$

可解性の同値な特徴づけ

$G$ について次は同値である。文献によっては、2 または 3 を可解群の定義として採用することもある。

  1. $G$ は可解群である。
  2. 各項が $G$ の正規部分群で、商因子がすべてアーベル群であるような正規列(不変正規列)が存在する。
  3. 導来列が有限段で自明群に達する。すなわちある $r$ について $D_r=\{e\}$ である。

(2)⇒(1):不変正規列は正規列である($N_1,N_2\trianglelefteq G$$N_1\le N_2$ なら $N_1\trianglelefteq N_2$)。
(1)⇒(3):正規列 $\{e\}=G_0\trianglelefteq\cdots\trianglelefteq G_r=G$ で商因子がアーベル群のものをとる。$D_i\le G_{r-i}$$i$ について帰納的に示す。$i=0$$D_0=G=G_r$$D_i\le G_{r-i}$ なら $D_{i+1}=[D_i,D_i]\le[G_{r-i},G_{r-i}]$ であり、$G_{r-i}/G_{r-i-1}$ がアーベル群なので lem-solvable-group-commutator (2) により $[G_{r-i},G_{r-i}]\le G_{r-i-1}$、よって $D_{i+1}\le G_{r-i-1}$$i=r$$D_r\le G_0=\{e\}$
(3)⇒(2):$D_r=\{e\}$ とし、$N_i:=D_{r-i}$$0\le i\le r$)とおく。$\{e\}=N_0\le N_1\le\cdots\le N_r=G$ であり、lem-solvable-group-commutator (3) により各 $N_i$$G$ の正規部分群である。$N_{i+1}/N_i=D_{r-i-1}/[D_{r-i-1},D_{r-i-1}]$ は同補題 (1) によりアーベル群である。$\square$

部分群と剰余群への遺伝

可解群の部分群は可解群である。可解群の正規部分群による剰余群は可解群である。

thm-solvable-group-equivalence の (3) を使う。$H\le G$ なら、$H$ の交換子は $G$ の交換子なので $[H,H]\le[G,G]$ であり、帰納的に $H$ の導来列 $D_i(H)$$D_i(G)$ に含まれる。$D_r(G)=\{e\}$ なら $D_r(H)=\{e\}$
$N\trianglelefteq G$$\pi\colon G\to G/N$ を自然な全射とする。$\pi([x,y])=[\pi(x),\pi(y)]$ であり $\pi$ は全射なので、$\pi([G,G])=[G/N,G/N]$、帰納的に $\pi(D_i(G))=D_i(G/N)$ である。$D_r(G)=\{e\}$ なら $D_r(G/N)=\pi(\{e\})=\{e\}$$\square$

アーベル群でない単純群は可解でない

$G$ を単純群($\{e\}$$G$ 以外に正規部分群を持たない群)でアーベル群でないものとする。$G$ は可解群でない。

$G$ が可解群だとし、thm-solvable-group-equivalence (2) の不変正規列 $\{e\}=N_0\le\cdots\le N_r=G$ をとる。各 $N_i$$G$ の正規部分群なので $\{e\}$$G$ である。$N_0=\{e\}$$N_r=G$ だから、$N_{i}=\{e\}$ かつ $N_{i+1}=G$ となる $i$ が存在し、その商因子 $N_{i+1}/N_i\cong G$ はアーベル群でなければならない。これは仮定に反する。$\square$

Heisenberg 群の可解性

ex-solvable-group-heisenberg$H$ は群で、$Z=\{(0,0,c)\}$$H$ の正規部分群であり、$Z$$H/Z$ はアーベル群である。$H$ はアーベル群でない。

結合律:三つ組の積の第 $3$ 成分は括弧の付け方によらず $c+c'+c''+ab'+ab''+a'b''$ になり、第 $1$$2$ 成分は整数の和である。単位元は $(0,0,0)$$(a,b,c)$ の逆元は $(-a,-b,-c+ab)$ である。$(1,0,0)(0,1,0)=(1,1,1)\neq(1,1,0)=(0,1,0)(1,0,0)$ なので非アーベル。
写像 $\varphi\colon H\to\mathbb{Z}^2$$\varphi(a,b,c):=(a,b)$ は積の定義から準同型で全射であり、核は $Z$ である。よって $Z\trianglelefteq H$ で、$H/Z\cong\mathbb{Z}^2$ はアーベル群である。$Z$ の積は $(0,0,c)(0,0,c')=(0,0,c+c')$ なので $Z\cong\mathbb{Z}$ はアーベル群である。$\square$

名称の由来(引用)

標数 $0$ の体上の多項式が冪根で解けることと、その Galois 群が可解群であることは同値である(Galois の定理、DF04 §14.7)。$n\ge5$$S_n$ が可解でないこと(rem-solvable-group-counterexample)が、$5$ 次以上の一般の代数方程式が冪根で解けないことの群論的背景である。本記事ではこれらを証明せず引用にとどめる。

補足:可解性の判定の例

可解根拠
アーベル群はいex-solvable-group-abelian
$S_3$はい$\{e\}\trianglelefteq A_3\trianglelefteq S_3$ex-solvable-group-s3
Heisenberg 群 $H$はい$\{e\}\trianglelefteq Z\trianglelefteq H$prop-solvable-group-heisenberg
$A_5$$S_n$$n\ge5$いいえ単純性の引用と prop-solvable-group-simpleprop-solvable-group-subgroup

可解群のクラスは部分群・剰余群で閉じる(prop-solvable-group-subgroup)。列の各項の正規性や商因子にさらに強い条件を課した群のクラス(超可解群、冪零群など)もあるが、本記事では扱わない。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, Wiley(3rd ed.), 2004, §6.1(可解群・導来列)、§3.5(交代群の定義と位数)、§4.6($A_5$ の単純性)、§14.7(冪根による可解性と Galois 群)。原本の節番号は未確認

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