Vandermondeの行列式(Vandermonde determinant)とは、点 $x_1,\dots,x_n$ ごとに冪 $1,x_i,\dots,x_i^{n-1}$ を 1 行に並べた正方行列(Vandermonde 行列)の行列式であり、任意の可換環で差の積 $\prod_{i<j}(x_j-x_i)$ に等しい。点が区別されているかを 1 つの値で測る量で、体の上では点が相異なることと行列が正則であることが同値になり、多項式の補間の一意性や相異なる指数関数の 1 次独立性の根拠になる。その 2 乗はモニック多項式の根についての判別式であり、1 の $n$ 乗根での Vandermonde 行列は離散 Fourier 変換の行列である。
$n$ 個の点 $x_1,\dots,x_n$ のそれぞれで $1,x,x^2,\dots,x^{n-1}$ の値をとり、点ごとに 1 行ずつ並べた正方行列を Vandermonde 行列といい、その行列式を Vandermonde の行列式という。成分は $n^2$ 個の冪で、行列式を定義どおり展開すると $n!$ 個の項の和になるが、実際にはそれが差 $x_j-x_i$ の積 $\prod_{i< j}(x_j-x_i)$ に完全に因数分解される。したがってこの行列式は「点がすべて区別されているか」を 1 つの値で測る量であり、多項式の補間の一意性、相異なる指数関数の 1 次独立性、多項式の判別式、1 の冪根の上の離散 Fourier 変換が、どれもこの 1 つの公式から読み取れる。以下では係数を任意の可換環にとって公式を示し、正則になる条件を係数環ごとに正確に述べる。
$R$ を可換環、$m,n\ge1$ とし、$x_1,\dots,x_m\in R$ とする。$(i,j)$ 成分が $x_i^{\,j-1}$($1\le i\le m$、$1\le j\le n$)である $m\times n$ 行列
$$
V_{m,n}(x_1,\dots,x_m):=\begin{pmatrix}1&x_1&x_1^2&\cdots&x_1^{n-1}\\ 1&x_2&x_2^2&\cdots&x_2^{n-1}\\ \vdots&\vdots&\vdots&&\vdots\\ 1&x_m&x_m^2&\cdots&x_m^{n-1}\end{pmatrix}
$$
を $x_1,\dots,x_m$ の Vandermonde 行列 という。ここで $x^0=1$ と約束する($x_i=0$ のときも第 1 列の成分は $1$ である)。$m=n$ のとき $V(x_1,\dots,x_n):=V_{n,n}(x_1,\dots,x_n)$ と書き、その行列式 $\det V(x_1,\dots,x_n)$ を $x_1,\dots,x_n$ の Vandermonde の行列式 という。
行は点に、列は冪の指数に対応する。多項式 $p=c_1+c_2x+\dots+c_nx^{n-1}\in R[x]$ の係数を縦に並べた $c=(c_1,\dots,c_n)^{\top}$ について
$$
V_{m,n}(x_1,\dots,x_m)\,c=\bigl(p(x_1),\dots,p(x_m)\bigr)^{\top}
$$
である。つまり Vandermonde 行列は、次数 $n$ 未満の多項式に $m$ 個の点での値を対応させる写像の、単項式の基底 $1,x,\dots,x^{n-1}$ に関する表現行列である(Lagrange補間 の命題「評価写像の表現行列と基本多項式」)。
行列式の公式(thm-vandermonde-formula)の右辺に現れる積を
$$
\Delta(x_1,\dots,x_n):=\prod_{1\le i< j\le n}(x_j-x_i)
$$
と書く。因子の個数は $N:=n(n-1)/2$ で、$n=1$ のときは空の積として $\Delta(x_1)=1$ である。行列式の側でも $V(x_1)=(1)$ なので $\det V(x_1)=1$ である。
文献によって行と列の役割や冪の並べ方が違う。値を比べるときは次に注意する。
$n=2$ では $\det\begin{pmatrix}1&x_1\\1&x_2\end{pmatrix}=x_2-x_1$ である。$n=3$ では、定義どおり 6 項に展開すると
$$
\det\begin{pmatrix}1&x_1&x_1^2\\1&x_2&x_2^2\\1&x_3&x_3^2\end{pmatrix}=x_2x_3^2-x_2^2x_3-x_1x_3^2+x_1^2x_3+x_1x_2^2-x_1^2x_2
$$
であり、これは $(x_2-x_1)(x_3-x_1)(x_3-x_2)$ を展開したものに等しい。6 項の和が 3 つの 1 次式の積になっている。
$x_i=i$ とすると、各 $j$ について $i=1,\dots,j-1$ の因子 $j-i$ の積は $(j-1)!$ なので
$$
\det V(1,2,\dots,n)=\prod_{j=2}^{n}(j-1)!=\prod_{k=1}^{n-1}k!
$$
である。$n=4,5,6$ では $12$、$288$、$34560$ となる。たとえば $n=3$ では $\det\begin{pmatrix}1&1&1\\1&2&4\\1&3&9\end{pmatrix}=(2-1)(3-1)(3-2)=2=1!\cdot2!$ である。
公式は係数環によらない。そこで、まず点を変数そのものにした場合、すなわち整数係数の多項式環 $A:=\mathbb{Z}[X_1,\dots,X_n]$ の中の恒等式として示し、次に変数に環の元を代入して一般の場合へ移す。
$A=\mathbb{Z}[X_1,\dots,X_n]$ において $D:=\det V(X_1,\dots,X_n)$ とおくと、$D=\Delta(X_1,\dots,X_n)$ である。
$n$ についての帰納法で示す。$n=1$ では両辺とも $1$ である。$n\ge2$ とし、$n-1$ 変数では成り立つとする。$A$ は整域である(多項式環 の命題「次数の公式と整域性」を変数ごとに使う)。また、行列式は成分の整数係数の多項式(Leibniz の公式)なので、環準同型 $\varphi$ を成分ごとに施した行列について $\det\varphi(M)=\varphi(\det M)$ が成り立つ。これを以下で何度も使う。
段 1($D$ は各 $X_j-X_i$ で割り切れる).$i< j$ を固定し、$A$ を $B:=\mathbb{Z}[X_k\mid k\ne j]$ 上の 1 変数の多項式環 $B[X_j]$ とみる。$X_j$ に $X_i$ を代入する準同型 $A\to B$ を $V(X_1,\dots,X_n)$ に施すと、第 $i$ 行と第 $j$ 行が等しい行列になるので、その行列式は $0$ である(行列式 の定理「多重線形性と交代性」の 2。可換環の上でも同じ証明で成り立つことは同記事の注意「可換環上の行列式」)。よって $D$ に $X_j=X_i$ を代入すると $0$ になり、因数定理(多項式環 の系「剰余定理と因数定理」を $B[X_j]$ で使う)により $X_j-X_i$ は $D$ を割り切る。
段 2($D$ は積 $\Delta$ で割り切れる).$i< j$ の組を $P_1,\dots,P_N$ と並べ、$P_l=(i_l,j_l)$ の因子を $d_l:=X_{j_l}-X_{i_l}$ とする。段 1 の議論を、すでにくくり出した因子の残りの商に繰り返し当てると、$D=d_1\cdots d_N\,Q=\Delta\cdot Q$ となる $Q\in A$ が得られる。ここで整域であることを使う。
$D=d_1\cdots d_k\,Q_k$ となる $Q_k\in A$ があることを $k$ についての帰納法で示す。$k=1$ は段 1 である。$D=d_1\cdots d_{k-1}Q_{k-1}$ とし、$P_k=(i,j)$ について $X_j$ に $X_i$ を代入する準同型を $\varphi$ とする。段 1 より $\varphi(D)=0$ である。一方 $l< k$ の $d_l=X_b-X_a$ では $\{a,b\}\ne\{i,j\}$ なので、$X_j$ を $X_i$ に替えても異なる 2 つの変数の差のままであり($a,b$ の一方が $j$ なら、もう一方は $i$ でない)、$\varphi(d_l)\ne0$ である。整域なので $\varphi(Q_{k-1})=0$ となり、因数定理により $Q_{k-1}=d_kQ_k$ と書ける。$k=N$ とすれば $D=\Delta\cdot Q$($Q:=Q_N$)である。
任意の可換環 $R$、任意の $n\ge1$ と $x_1,\dots,x_n\in R$ に対し
$$
\det V(x_1,\dots,x_n)=\prod_{1\le i< j\le n}(x_j-x_i)
$$
が成り立つ。
lem-vandermonde-universal の $A=\mathbb{Z}[X_1,\dots,X_n]$ から $R$ への環準同型 $\varphi$ で $X_i\mapsto x_i$ となるものがただ 1 つある(多項式環 の系「多変数の普遍性と変数の順序」、$\mathbb{Z}\to R$ は $1\mapsto1$ で定まる準同型)。$\varphi$ を成分ごとに施すと $V(X_1,\dots,X_n)$ は $V(x_1,\dots,x_n)$ に写り、行列式は成分の整数係数の多項式だから
$$
\det V(x_1,\dots,x_n)=\varphi\bigl(\det V(X_1,\dots,X_n)\bigr)=\varphi\bigl(\Delta(X_1,\dots,X_n)\bigr)=\prod_{i< j}(x_j-x_i)
$$
である。$\square$
変数の場合に示せば代入でどの環にも移せる、というのがこの証明の要点である。補題の中で整域であることを使ったのは $A$ についてだけで、$R$ には零因子があってもよい。
可換環 $R$ の中で直接計算することもできる。要点:第 $j$ 列から第 $j-1$ 列の $x_1$ 倍を引く操作を $j=n,n-1,\dots,2$ の順に行うと、第 1 行が $(1,0,\dots,0)$ になり、第 $i$ 行($i\ge2$)から $x_i-x_1$ がくくり出せて、$\det V(x_1,\dots,x_n)=\prod_{i=2}^n(x_i-x_1)\cdot\det V(x_2,\dots,x_n)$ となる。
$j$ の大きい方から操作するので、第 $j$ 列を書き換える時点で第 $j-1$ 列はまだもとのままである。操作後の $(i,j)$ 成分($j\ge2$)は $x_i^{\,j-1}-x_1x_i^{\,j-2}=x_i^{\,j-2}(x_i-x_1)$ で、$i=1$ では $0$ になる。ある列に別の列の定数倍を加えても行列式は変わらない(行列式 の定理「多重線形性と交代性」の 4 と命題「転置と行列式」。可換環の上でも同じ)。第 1 行で余因子展開すると、残るのは第 1 行と第 1 列を除いた $n-1$ 次の行列で、その第 $i$ 行(もとの番号で $i=2,\dots,n$)は $(x_i-x_1)\,(1,x_i,\dots,x_i^{\,n-2})$ である。各行から $x_i-x_1$ をくくり出すと(多重線形性)、残りは $V(x_2,\dots,x_n)$ である。$n$ についての帰納法により $\det V(x_2,\dots,x_n)=\prod_{2\le i< j\le n}(x_j-x_i)$ なので、公式を得る。
公式によって、Vandermonde 行列が逆行列をもつかどうかは差 $x_j-x_i$ だけで決まる。係数環が体かどうかで言い方が変わるので、両方を述べる。
2 の前半は整域でなければ成り立たない。たとえば $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ で $x=(0,2,3)$ は相異なるが、$\det V=(2-0)(3-0)(3-2)=6=0$ である。また整域でない環では、$\det V\ne0$ でも $V$ が正則とは限らない(ex-vandermonde-counterexamples の $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ の例)。1 は、Lagrange補間 の命題「可換環の上の補間」の仮定(差がすべて可逆元)が、Vandermonde 行列が正則であることとちょうど同じであることを示している。
体の上では、prop-vandermonde-invertible を定義のすぐ後に述べた「$Vc$ は多項式の値を並べたもの」という見方と合わせると、補間の存在と一意性が得られる。
$K$ を体、$x_1,\dots,x_n\in K$ を相異なる元とする。任意の $y_1,\dots,y_n\in K$ に対し、$p(x_i)=y_i$($i=1,\dots,n$)を満たす次数 $n$ 未満の多項式 $p\in K[x]$ がただ 1 つあり、その係数の列は $V(x_1,\dots,x_n)^{-1}y$ である。$V(x_1,\dots,x_n)^{-1}$ の第 $i$ 列は、Lagrange の基本多項式 $L_i(x)=\prod_{j\ne i}\dfrac{x-x_j}{x_i-x_j}$ の係数を $1,x,\dots,x^{n-1}$ の順に並べたものである。
$p$ の係数の列を $c$ とすると、条件は $Vc=y$ である。$V$ は正則なので $c=V^{-1}y$ がただ 1 つの解である。$L_i(x_j)$ は $j=i$ で $1$、$j\ne i$ で $0$ なので、$L_i$ の係数の列 $\ell_i$ は $V\ell_i=e_i$(第 $i$ 標準基底ベクトル)を満たし、$\ell_i=V^{-1}e_i$ は $V^{-1}$ の第 $i$ 列である(Lagrange補間 の命題「評価写像の表現行列と基本多項式」と同じ議論)。$\square$
$x=(0,1,2)$ の基本多項式は $L_1=\frac12(x-1)(x-2)=1-\frac32x+\frac12x^2$、$L_2=-x(x-2)=2x-x^2$、$L_3=\frac12x(x-1)=-\frac12x+\frac12x^2$ である。係数を列に並べて
$$
V(0,1,2)=\begin{pmatrix}1&0&0\\1&1&1\\1&2&4\end{pmatrix},\qquad V(0,1,2)^{-1}=\begin{pmatrix}1&0&0\\-\frac32&2&-\frac12\\ \frac12&-1&\frac12\end{pmatrix}
$$
を得る。たとえば $V$ の第 3 行 $(1,2,4)$ と $V^{-1}$ の第 1 列の積は $1-3+2=0$ で、$L_1(2)=0$ に当たる。$\det V(0,1,2)=(1-0)(2-0)(2-1)=2$ で、$V^{-1}$ の成分の分母に $2$ が現れる。
公式は解析の問題にも使える。次の命題は、微分して $t=0$ を代入すると Vandermonde 行列が現れる典型例である。
$\lambda_1,\dots,\lambda_n\in\mathbb{C}$ が相異なるとき、$\mathbb{R}$ 上の関数 $e^{\lambda_1t},\dots,e^{\lambda_nt}$ は $\mathbb{C}$ 上線形独立である。
$c_1,\dots,c_n\in\mathbb{C}$ がすべての $t\in\mathbb{R}$ で $\sum_ic_ie^{\lambda_it}=0$ を満たすとする。両辺を $k$ 回微分して $t=0$ を代入すると、$k=0,1,\dots,n-1$ について $\sum_ic_i\lambda_i^{\,k}=0$ を得る。これは $V(\lambda_1,\dots,\lambda_n)^{\top}c=0$($c=(c_1,\dots,c_n)^{\top}$)ということである。$\det V^{\top}=\det V=\prod_{i< j}(\lambda_j-\lambda_i)\ne0$ なので $V^{\top}$ は正則で、$c=0$ である。$\square$
同じ議論は 線形独立 の例「指数関数」でも使われている。定数係数の線形微分方程式の特性根が相異なるとき、解 $e^{\lambda_it}$ が基本解系になる理由も、同じ行列の正則性である。
正方でない Vandermonde 行列には行列式がないが、正方の部分行列を取り出せば 1 次独立性が分かる。
$K$ を体、$x_1,\dots,x_m\in K$ とする。
1 は、点が少なくとも $n$ 通りあれば、次数 $n$ 未満の多項式はそこでの値で決まるということである。点の数 $m$ が $n$ より多いと方程式 $V_{m,n}c=y$ は一般に解をもたず、最も近い値を与える $c$ を探すことになる(ex-vandermonde-least-squares)。
prop-vandermonde-invertible と cor-vandermonde-interpolation の仮定を 1 つずつ外すと、次のように結論が崩れる(確認は表の下の例)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 点が相異なる | $\mathbb{Q}$ 上で $x=(1,1,2)$ | 正則性、補間の存在と一意性 |
| 係数が体(差が可逆元) | $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ 上で $x=(0,2)$ | 正則性、補間の存在と一意性($\det V=2\ne0$ なのに正則でない) |
| 行列が正方 | $\mathbb{Q}$ 上で $V_{3,2}(0,1,2)$ | 行列式の定義と補間の存在(列の 1 次独立性は残る) |
1 行目:$V(1,1,2)$ は第 1 行と第 2 行がともに $(1,1,1)$ なので行列式は $0$ で、公式でも因子 $x_2-x_1=0$ が現れる。値 $y=(0,1,5)$ は $p(1)$ に $0$ と $1$ を同時に求めるので、補間する多項式はない。値 $y=(0,0,0)$ なら $0$ と $(x-1)(x-2)$ がともに補間するので、一意性も崩れる。重なった点では値の代わりに導関数の条件を課せばよい(Lagrange補間 の定理「Hermite 補間」)。
点 $1$ を 2 回使う代わりに $p(1)$、$p'(1)$、$p(2)$ を指定すると、$p=c_1+c_2x+c_3x^2$ の係数に対する行列は $$\begin{pmatrix}1&1&1\\0&1&2\\1&2&4\end{pmatrix}$$ になり(第 2 行は $p'(1)=c_2+2c_3$)、行列式は $1\cdot(4-4)-1\cdot(0-2)+1\cdot(0-1)=1\ne0$ で正則である。
$p=a+bx$ の値は $\bigl(a,\ a+2b\bigr)$ である。$p(2)-p(0)=2b$ は $0,2,4$ のどれかなので、差が $1$ の値の組はとれない。値の組 $36$ 通りのうち、とれるのは $18$ 通りだけである。
変数を並べ替えると、Vandermonde の行列式は符号だけが変わる。
$R$ を可換環、$x_1,\dots,x_n\in R$、$\sigma$ を $\{1,\dots,n\}$ の置換とする。このとき
$$
\det V\bigl(x_{\sigma(1)},\dots,x_{\sigma(n)}\bigr)=\operatorname{sgn}(\sigma)\det V(x_1,\dots,x_n)
$$
であり、したがって $\Delta\bigl(x_{\sigma(1)},\dots,x_{\sigma(n)}\bigr)=\operatorname{sgn}(\sigma)\,\Delta(x_1,\dots,x_n)$ である。
左辺の行列を $W$ とすると $W_{ij}=x_{\sigma(i)}^{\,j-1}=V_{\sigma(i),j}$ で、$W$ は $V$ の行を並べ替えた行列である。Leibniz の公式で、$\tau$ の項を $k=\sigma(i)$ で書き直すと
$$
\det W=\sum_{\tau}\operatorname{sgn}(\tau)\prod_{i}V_{\sigma(i),\tau(i)}=\sum_{\tau}\operatorname{sgn}(\tau)\prod_{k}V_{k,\tau\sigma^{-1}(k)}
$$
である。$\rho:=\tau\sigma^{-1}$ は $\tau$ とともにすべての置換をわたり、$\operatorname{sgn}(\tau)=\operatorname{sgn}(\rho)\operatorname{sgn}(\sigma)$ なので、$\det W=\operatorname{sgn}(\sigma)\det V$ である。後半は thm-vandermonde-formula による。$\square$
変数の置換で $\operatorname{sgn}(\sigma)$ 倍になる多項式を交代多項式という。後半の等式は 置換の符号 の注意「交代式と行列式」で転倒数から直接示されているもので、ここでは行列式の側から得た。逆に、整数係数の交代多項式はすべて $\Delta$ で割り切れ、商は対称多項式である(Schur多項式 の補題「交代多項式の基本性質」の 3。3 文字の場合は 差積 の定理「交代式は差積で割り切れる」)。Schur 多項式を、行列 $\bigl(x_i^{\,\lambda_j+n-j}\bigr)$ の行列式(交代多項式)を冪が降順の Vandermonde の行列式で割った商として定義できるのは、このためである。
次に、根の差の積の 2 乗である判別式との関係を述べる。
$K$ を体、$f\in K[x]$ を $n$ 次のモニック多項式とし、ある拡大体 $L$ で $f=\prod_{i=1}^n(x-\alpha_i)$($\alpha_i\in L$)と分解するとする。$p_k:=\sum_{i=1}^n\alpha_i^{\,k}$($p_0=n$)とおくと、$f$ の判別式 $\operatorname{disc}(f)$(判別式 の記事の $\Delta(f)$。ここでは差積の記号 $\Delta$ と区別する)について
$$
\operatorname{disc}(f)=\bigl(\det V(\alpha_1,\dots,\alpha_n)\bigr)^2=\det\bigl(p_{j+k-2}\bigr)_{1\le j,k\le n}
$$
が成り立つ。
判別式 の定義「多項式の判別式」でモニック($a_n=1$)の場合は $\operatorname{disc}(f)=\prod_{i< j}(\alpha_i-\alpha_j)^2$ であり、$(\alpha_i-\alpha_j)^2=(\alpha_j-\alpha_i)^2$ なので、thm-vandermonde-formula により $\bigl(\det V(\alpha)\bigr)^2$ に等しい。また $V=V(\alpha_1,\dots,\alpha_n)$ について $V^{\top}V$ の $(j,k)$ 成分は $\sum_i\alpha_i^{\,j-1}\alpha_i^{\,k-1}=p_{j+k-2}$ であり、$\det(V^{\top}V)=\det V^{\top}\det V=(\det V)^2$ である(行列式 の定理「積の行列式」と命題「転置と行列式」)。$\square$
冪和 $p_k$ は根の対称式なので、対称多項式 の定理「Newton の恒等式」で係数から計算できる。したがって右辺の行列式は、根を求めずに判別式を計算する方法を与える。
$f=x^2+bx+c$ では $p_0=2$、$p_1=-b$、$p_2=(\alpha_1+\alpha_2)^2-2\alpha_1\alpha_2=b^2-2c$ なので
$$
\operatorname{disc}(f)=\det\begin{pmatrix}2&-b\\-b&b^2-2c\end{pmatrix}=2b^2-4c-b^2=b^2-4c
$$
で、よく知られた判別式に一致する。3 次式 $x^3-3x+1$ では同じ計算で $\operatorname{disc}(f)=81$ となり、判別式 の例「2 次式と 3 次式の判別式の値」の値と一致する。
根と係数の関係から $\sum_i\alpha_i=0$、$\sum_{i< j}\alpha_i\alpha_j=-3$ なので $p_0=3$、$p_1=0$、$p_2=0^2-2\cdot(-3)=6$ である。各根が $\alpha^3=3\alpha-1$ を満たすことから $p_3=3p_1-3=-3$、$p_4=3p_2-p_1=18$ である。よって $$\operatorname{disc}(f)=\det\begin{pmatrix}3&0&6\\0&6&-3\\6&-3&18\end{pmatrix}=3(108-9)+6(0-36)=297-216=81$$ である。
点を 1 の $n$ 乗根にとると、Vandermonde 行列は離散 Fourier 変換の行列になり、逆行列が転置と複素共役だけで書ける。
$n\ge1$、$\zeta:=e^{2\pi i/n}$ とし、$\Phi:=V(1,\zeta,\zeta^2,\dots,\zeta^{n-1})$($(j,k)$ 成分が $\zeta^{(j-1)(k-1)}$)とおく。$\Phi^*$ を $\Phi$ の転置の複素共役とすると
$$
\Phi^*\Phi=nI_n
$$
が成り立つ。したがって $\Phi^{-1}=\frac1n\Phi^*$ であり、$\lvert\det\Phi\rvert^2=n^n$ である。
$(\Phi^*\Phi)_{jk}=\sum_{l=1}^n\overline{\zeta^{(l-1)(j-1)}}\,\zeta^{(l-1)(k-1)}=\sum_{m=0}^{n-1}\zeta^{m(k-j)}$ である($\lvert\zeta\rvert=1$ なので $\overline{\zeta}=\zeta^{-1}$)。1の冪根 の定理「1 の $n$ 乗根の冪の和」により、この和は $n\mid k-j$ なら $n$、そうでなければ $0$ である。$\lvert k-j\rvert< n$ なので $n\mid k-j$ となるのは $j=k$ のときだけであり、$\Phi^*\Phi=nI_n$ を得る。両辺の行列式をとると、$\det\Phi^*=\overline{\det\Phi}$ なので $\lvert\det\Phi\rvert^2=\det(nI_n)=n^n$ である。$\square$
thm-vandermonde-formula と合わせると、$\bigl\lvert\prod_{0\le k< l\le n-1}(\zeta^l-\zeta^k)\bigr\rvert^2=n^n$ という、根を具体的に計算しなくても分かる等式が得られる($n=3$ では $\det\Phi=(\zeta-1)(\zeta^2-1)(\zeta^2-\zeta)=-3\sqrt3\,i$)。また $\Phi^{-1}=\frac1n\Phi^*$ は、離散Fourier変換と反転公式 の反転公式を行列で書いたものである。
変換 $\widehat f(t)=\sum_{k=0}^{n-1}f(k)\zeta^{-tk}$ は、数列 $f=(f(0),\dots,f(n-1))^{\top}$ に行列 $\overline{\Phi}$(成分ごとの複素共役)を掛けたものである。$\Phi$ は対称行列($\Phi^{\top}=\Phi$)なので $\Phi^*=\overline{\Phi}$ であり、prop-vandermonde-roots-of-unity は $\overline{\Phi}\,\Phi=nI_n$、すなわち $\overline{\Phi}^{-1}=\frac1n\Phi$ を意味する。これが反転公式 $f(k)=\frac1n\sum_t\widehat f(t)\zeta^{tk}$ である。
$x^n-1=\prod_{k=0}^{n-1}(x-\zeta^k)$ なので、prop-vandermonde-discriminant により $\operatorname{disc}(x^n-1)=(\det\Phi)^2$ であり、絶対値は $n^n$ である。符号まで込めると
$$
\operatorname{disc}(x^n-1)=(-1)^{(n-1)(n-2)/2}\,n^n
$$
で、$n=2,3,4,5$ では $4$、$-27$、$-256$、$3125$ となる。
判別式 の命題「導関数による表示」により $\operatorname{disc}(f)=(-1)^{n(n-1)/2}\prod_kf'(\zeta^k)$ である。$f'(\zeta^k)=n\zeta^{k(n-1)}$ の積は $n^n\bigl(\zeta^{n(n-1)/2}\bigr)^{n-1}$ で、$\zeta^{n(n-1)/2}=e^{\pi i(n-1)}=(-1)^{n-1}$ と $(n-1)^2\equiv n-1\pmod 2$ から $n^n(-1)^{n-1}$ に等しい。よって $\operatorname{disc}(x^n-1)=(-1)^{n(n-1)/2+(n-1)}n^n$ であり、指数の差 $\frac{n(n-1)}2+(n-1)-\frac{(n-1)(n-2)}2=2(n-1)$ が偶数なので上の形になる。
点が多すぎて prop-vandermonde-rectangular の 1 の状況になると、$V_{m,n}c=y$ は一般に解をもたない。そこで $\|V_{m,n}c-y\|$ を最小にする $c$ を探すと、$c$ は正規方程式 $V_{m,n}^{\top}V_{m,n}\,c=V_{m,n}^{\top}y$ の解になる(正射影と射影行列 の定理「最小二乗解と正規方程式」)。$V_{m,n}c$ は、$y$ を $V_{m,n}$ の列の張る部分空間へ直交射影したものである。
点 $t=(0,1,3,4)$、値 $y=(1,2,2,4)$ に直線 $c_1+c_2t$ をあてはめる。$V:=V_{4,2}(0,1,3,4)$ の列は $(1,1,1,1)^{\top}$ と $(0,1,3,4)^{\top}$ で
$$
V^{\top}V=\begin{pmatrix}4&\sum t_i\\ \sum t_i&\sum t_i^2\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}4&8\\8&26\end{pmatrix},\qquad V^{\top}y=\begin{pmatrix}\sum y_i\\ \sum t_iy_i\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}9\\24\end{pmatrix}
$$
である。$\det V^{\top}V=104-64=40$ で、解は $c_1=\frac{9\cdot26-8\cdot24}{40}=\frac{21}{20}$、$c_2=\frac{4\cdot24-8\cdot9}{40}=\frac35$、あてはめた直線は $y=\frac{21}{20}+\frac35t$ である。
一般に $m$ 点 $t_1,\dots,t_m$ で
$$
\det\bigl(V_{m,2}^{\top}V_{m,2}\bigr)=m\sum_it_i^2-\Bigl(\sum_it_i\Bigr)^2=\sum_{i< j}(t_j-t_i)^2
$$
である(上の例では右辺は $1+9+16+4+9+1=40$)。
$\sum_{i< j}(t_j-t_i)^2=\frac12\sum_{i,j}(t_i-t_j)^2=\frac12\sum_{i,j}\bigl(t_i^2-2t_it_j+t_j^2\bigr)=\frac12\bigl(2m\sum_it_i^2-2(\sum_it_i)^2\bigr)$ による。
prop-vandermonde-invertible は、点が相異なれば正則であることを保証するが、点が近いと逆行列の成分は大きくなり、$Vc=y$ を数値的に解くと誤差が大きく拡大しうる。
区間 $[0,1]$ を $m-1$ 等分した $m$ 点の $m$ 次正方 Vandermonde 行列の 2 ノルムに関する条件数(最大特異値と最小特異値の比)は、$m=5$ で約 $6.9\times10^2$、$m=10$ で約 $1.5\times10^7$、$m=15$ で約 $4.0\times10^{11}$ である。解の相対誤差は、データや丸めの相対誤差の最大で条件数倍まで拡大しうるので、倍精度(相対精度は約 $10^{-16}$)で解いても、$m=15$ では係数の相対誤差の見積もりが $10^{-5}$ 程度にまで悪化する。
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