集合の圏の初等理論

同義語:Elementary Theory of the Category of SetsETCS

概要

集合の圏の初等理論(Elementary Theory of the Category of Sets、ETCS)とは、所属関係ではなく集合と写像を基本にとり、集合の圏が満たす性質を圏の一階の公理として述べた Lawvere の集合論である。今日の形では、自然数対象をもち、すべてのエピ射が切断をもち(選択公理)、終対象 $1$ が射を区別する(well-pointed)、退化していないトポスの理論として述べられる。その中では写像が元 $1\to A$ での値で決まり、真理値はちょうど 2 つになる。ZFC の集合の圏はそのモデルであり、ETCS は有界 Zermelo 集合論と等無矛盾である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 圏, トポス, 部分対象分類子, 自然数対象, 選択公理

ZFC公理系では、すべての対象が集合であり、基本の関係は所属 $x\in y$ である。写像は順序対の集合として、自然数は $\emptyset,\{\emptyset\},\{\emptyset,\{\emptyset\}\},\dots$ として組み立てられる。これに対し Lawvere は、集合と写像を基本にとり、集合と写像のなす圏が満たす性質を、圏の言葉の一階の公理として書き下した(Law05 pp. 7–8)。これが 集合の圏の初等理論(Elementary Theory of the Category of Sets、ETCS)である。ETCS では、集合 $A$ の元とは 1 点集合 $1$ からの写像 $1\to A$ のことであり、元は、属する集合と写像による関係のほかに性質をもたない(Law05 pp. 2–3 の McLarty による解説)。
今日の言葉では、ETCS は、自然数対象をもち選択公理を満たす well-pointed なトポスの理論である(Shu18 §4, p. 16、MM92 第 VI 章の冒頭, p. 268)。この記事では、この形で ETCS を定義し、ETCS の中では元が射を決めること(単射・全射・同型の判定)、真理値がちょうど 2 つであること、Cantor の定理を証明する。さらに、ZFC の集合と写像の圏が ETCS の公理を満たすことを証明し、逆向きの比較(有界 Zermelo 集合論との等無矛盾性)を引用して述べる。

定義

射の合成は $g\circ f$(先に $f$)と書く。終対象を $1$、始対象を $0$ と書き、対象 $A$ から $1$ への唯一の射を $!_A$ と書く。

元

終対象 $1$ をもつ圏で、射 $x\colon1\to A$ を対象 $A$ の 元(大域元)という。射 $f\colon A\to B$ と $A$ の元 $x$ に対し、$B$ の元 $f\circ x$ を $f(x)$ とも書く。

ETCS

圏 $\mathcal S$ が次の 4 条件を満たすとき、$\mathcal S$ を ETCS のモデル という。

  1. (トポス)$\mathcal S$ は有限極限と有限余極限をもち、Cartesian 閉であり(Cartesian閉圏)、部分対象分類子 $\mathrm{true}\colon1\to\Omega$ をもつ。
  2. (無限)$\mathcal S$ は自然数対象 $(N,0,s)$ をもつ。
  3. (well-pointed)次の (a)(b) が成り立つ。
    • (a) $1$ が生成する:射 $f,g\colon A\to B$ について、$A$ のすべての元 $x$ で $f\circ x=g\circ x$ ならば $f=g$ である。
    • (b) 退化していない:射 $1\to0$ は存在しない。
  4. (選択)すべてのエピ射 $p\colon X\to I$ は切断をもつ。すなわち $p\circ s=\operatorname{id}_I$ となる射 $s\colon I\to X$ がある。
    条件 1〜4 は、対象・射・合成についての一階の文として書ける。これらを公理とする(古典論理の)一階の理論を 集合の圏の初等理論(ETCS)という。

条件 1 は $\mathcal S$ が初等トポス(トポス の定義「初等トポス」)であることにあたる。トポスでは有限余極限の存在は残りの条件から従う(MM92 第 IV 章の冒頭, p. 161)が、ここでは公理に含めておく。

Lawvere の公理系

Lawvere の元の論文は、圏の公理に加えて次の 8 つを置く(Law05 pp. 8–19。そこでは合成を $fg$=「$f$ のあとに $g$」と書く)。

8 つの公理を開く
  1. 有限の極限と余極限(終対象・始対象・積・和・等化子・余等化子)が存在する。
  2. 指数 $B^A$ が存在する。
  3. 自然数の対象(Dedekind–Peirce 対象)$N$ が存在する。
  4. $1$ が生成する。
  5. 選択公理:$f$ の始域が元をもてば、$f\circ g\circ f=f$ となる $g$ がある。
  6. 始対象でない対象は元をもつ。
  7. 和の元はどちらかの入射の元から来る。
  8. 2 つ以上の元をもつ対象がある。

部分対象分類子は公理に含まれていない。Lawvere 自身の注釈によれば、この論文では選択公理などからトポスの性質(特性関数による部分対象の表現)が導かれている(Law05 p. 5)。Shu18 p. 16 は、Lawvere の ETCS を「自然数対象をもち古典論理と選択公理を満たす well-pointed なトポスの理論」として扱っている。

直感

ETCS の集合には「中身」がない。集合 $A$ について語れるのは、$A$ に出入りする写像だけである。それでも条件 3(a) により、写像は元での値で決まり、ふだんの集合の議論がそのまま書ける。積・指数・部分対象分類子は、直積集合・写像の集合・冪集合を普遍性で特徴づけたものであり、ZFC のように特定の集合として作ったものではない。そのため ETCS の定理はどれも同型で不変であり、たとえば「$3\in5$ か」のような、自然数の作り方に依存する問いは立てられない(Law05 p. 7、pp. 2–3 の McLarty による解説)。

ZFC の言葉ETCS の言葉
集合 $A$、元 $a\in A$対象 $A$、元 $a\colon1\to A$
写像 $f\colon A\to B$(順序対の集合)射 $f\colon A\to B$(基本の概念)
部分集合 $S\subset A$部分対象 $S\rightarrowtail A$、または射 $A\to\Omega$
直積 $A\times B$、写像の集合 $B^A$積 $A\times B$、指数 $B^A$
冪集合 $\mathcal P(A)$指数 $\Omega^A$
自然数 $\omega$自然数対象 $(N,0,s)$
選択公理エピ射が切断をもつ
$x\in y\in z$意味をもたない

元が射を決める

ETCS では、射の性質が元での振る舞いで判定できる。射 $f\colon A\to B$ が元について 単射 であるとは、$A$ の元 $x,x'$ について $f(x)=f(x')$ なら $x=x'$ となることをいい、全射 であるとは、$B$ の任意の元 $y$ に対し $f(x)=y$ となる $A$ の元 $x$ があることをいう。

元による判定

$\mathcal S$ を ETCS のモデルとし、$f\colon A\to B$ を射とする。

  1. $f$ がモノ射であることと、$f$ が元について単射であることは同値である。
  2. $f$ がエピ射であることと、$f$ が元について全射であることは同値である。
  3. $f$ が同型であることと、$f$ が元について単射かつ全射であることは同値である。
    1 は条件 3(a) だけを使い、2・3 は条件 3(a) と 4 を使う。
生成と切断

1:モノ射なら、元 $x,x'\colon1\to A$ について $f\circ x=f\circ x'$ から $x=x'$ が従う。逆に $f$ が元について単射で、射 $g,h\colon T\to A$ が $f\circ g=f\circ h$ を満たすとする。$T$ の任意の元 $t$ について $f(g\circ t)=f(h\circ t)$ なので $g\circ t=h\circ t$ であり、条件 3(a) により $g=h$ である。
2:$f$ が元について全射で、射 $g,h\colon B\to C$ が $g\circ f=h\circ f$ を満たすとする。$B$ の元 $y$ に対し $f\circ x=y$ となる元 $x$ をとると、$g\circ y=g\circ f\circ x=h\circ f\circ x=h\circ y$ である。条件 3(a) により $g=h$ なので、$f$ はエピ射である。逆に $f$ がエピ射なら、条件 4 により $f\circ s=\operatorname{id}_B$ となる $s$ があり、$B$ の元 $y$ について $x:=s\circ y$ が $f\circ x=y$ を満たす。
3:同型なら逆射により元について単射かつ全射である。逆に $f$ が元について単射かつ全射なら、1・2 により $f$ はモノ射かつエピ射である。条件 4 により $f\circ s=\operatorname{id}_B$ となる $s$ がある。すると $f\circ(s\circ f)=f=f\circ\operatorname{id}_A$ で、$f$ はモノ射なので $s\circ f=\operatorname{id}_A$ である。よって $s$ は $f$ の逆射である。$\square$

条件 4 を仮定しなくても、古典論理のもとで条件 1・3 を満たす圏では、正則エピ射であることと元について全射であることが同値になり、3 も成り立つ(Shu18 Corollary 4.5, p. 15 と Lemma 4.7 (i)(ii), p. 15。この記事では証明しない)。上の証明は選択公理を使って短くしたものである。

真理値はちょうど 2 つ

トポスの真理値は $\Omega$ の元であり、一般には 2 つとは限らない(部分対象分類子 の定理「前層圏の分類子」)。ETCS では 2 つに限られる。$0$ は厳密な始対象である(始対象 の命題「デカルト閉な圏の始対象は厳密」)ので、$0\to A$ はモノ射であり(同じ記事の系「厳密な始対象からの射はモノ射」)、$A$ の部分対象 $0\rightarrowtail A$ を定める。$\mathrm{false}\colon1\to\Omega$ を $0\rightarrowtail1$ の特性射と定める。

2 値性

$\mathcal S$ が条件 1 と 3 を満たす圏とする。

  1. 元をもたない対象は始対象である。
  2. $1$ の部分対象は、$0\rightarrowtail1$ と $\operatorname{id}_1$ のどちらかと同じ部分対象である。
  3. $\Omega$ の元はちょうど $\mathrm{true}$ と $\mathrm{false}$ の 2 つで、$\mathrm{true}\ne\mathrm{false}$ である。
2 つの特性射を元で比べる

1:$A$ が元をもたないとする。$A$ の 2 つの部分対象 $\operatorname{id}_A$ と $0\rightarrowtail A$ の特性射を $\chi_1,\chi_0\colon A\to\Omega$ とする。$A$ には元がないので、「すべての元 $x$ で $\chi_1\circ x=\chi_0\circ x$」は成り立ち、条件 3(a) により $\chi_1=\chi_0$ である。特性射と部分対象は一対一に対応する(部分対象分類子 の命題「特性射と部分対象の対応」)ので、$\operatorname{id}_A$ と $0\rightarrowtail A$ は同じ部分対象であり、ある同型 $u\colon A\to0$ がある。よって $A\cong0$ である。
2:$m\colon U\rightarrowtail1$ をモノ射とする。$U$ が元 $u\colon1\to U$ をもてば、$m\circ u\colon1\to1$ は $\operatorname{id}_1$ に等しい。すると $m\circ(u\circ m)=m=m\circ\operatorname{id}_U$ で、$m$ はモノ射なので $u\circ m=\operatorname{id}_U$ である。よって $m$ は同型で、$m$ は $\operatorname{id}_1$ と同じ部分対象である。$U$ が元をもたなければ、1 により $U$ は始対象で、$m$ は $0\rightarrowtail1$ と同じ部分対象である。
3:$\Omega$ の元 $1\to\Omega$ は $1$ の部分対象と一対一に対応し、$\mathrm{true}$ は $\operatorname{id}_1$ に、$\mathrm{false}$ は $0\rightarrowtail1$ に対応する。2 により $\Omega$ の元はこの 2 つである。$0\rightarrowtail1$ と $\operatorname{id}_1$ が同じ部分対象なら $1\cong0$ となり、射 $1\to0$ があることになって条件 3(b) に反する。よって $\mathrm{true}\ne\mathrm{false}$ である。$\square$

さらに、well-pointed なトポスは Boolean である。すなわち任意の部分対象 $S\rightarrowtail E$ について $S\vee\neg S=E$ が成り立つ(MM92 第 VI 章 §1 Proposition 7, p. 276。この記事では証明しない)。ETCS の内部では、古典論理の推論がそのまま使える。

Cantor の定理

ETCS のモデルで、どの対象 $A$ についても、エピ射 $A\to\Omega^A$ は存在しない。

確かめを開く

$\neg\colon\Omega\to\Omega$ を、モノ射 $\mathrm{false}\colon1\to\Omega$ の特性射とする。$\Omega$ の元 $x$ について、引き戻しの性質から「$\neg\circ x=\mathrm{true}$ ⟺ $x$ が $\mathrm{false}$ を経由する ⟺ $x=\mathrm{false}$」である($1\to1$ は $\operatorname{id}_1$ だけなので、経由するなら $x=\mathrm{false}$)。prop-etcs-two-valued の 3 により、$\neg\circ\mathrm{false}=\mathrm{true}$、$\neg\circ\mathrm{true}=\mathrm{false}$ であり、$\neg$ は元の不動点をもたない。一方、エピ射 $g\colon A\to\Omega^A$ があれば、thm-etcs-elements の 2 により $g$ は元について全射であり、Cartesian閉圏 の定義「弱い点全射」の後の段落により弱い点全射である。すると同じ記事の定理「Lawvere の不動点定理」により $\neg$ は不動点をもつことになり、矛盾する。

自然数対象については、Lawvere が ETCS の公理から Peano の公理(後者関数が単射であること、$0$ が後者でないこと、部分対象についての帰納法)を導いている(Law05 Theorem 2, pp. 20–21)。一般のトポスでの帰納法と $1+N\cong N$ は 自然数対象 の定理「帰納法」と定理「Lambek の同型と商」にある。

主定理:集合の圏は ETCS のモデルである

集合の圏は ETCS の公理を満たす

ZFC で、すべての集合と写像のなす圏 $\mathbf{Set}$ は def-etcs-main の条件 1〜4 を満たす。

公理を 1 つずつ確かめる

1 点集合 $1=\{\emptyset\}$ を終対象、$\emptyset$ を始対象とし、写像 $x\colon1\to A$ を元 $x(\emptyset)\in A$ と同一視する。これは $A$ の元と、$\mathbf{Set}$ での $A$ の元(def-etcs-element)との一対一対応である。
条件 1。積は直積集合 $A\times B$ と射影、等化子は $f,g\colon A\to B$ に対する $\{a\in A\mid f(a)=g(a)\}$ と包含写像、和は $(\{0\}\times A)\cup(\{1\}\times B)$、余等化子は $B$ を $\{(f(a),g(a))\mid a\in A\}$ が生成する同値関係で割った商集合である。どれも分出の公理で作れ、普遍性はふつうの集合の議論で確かめられる。指数 $B^A$ は $A$ から $B$ への写像全体($\mathcal P(A\times B)$ の部分集合)で、$\operatorname{ev}(h,a)=h(a)$ とする。写像 $u\colon X\times A\to B$ に $x\mapsto(a\mapsto u(x,a))$ を対応させると $\operatorname{Hom}(X\times A,B)\to\operatorname{Hom}(X,B^A)$ の全単射になる。部分対象分類子は $\Omega=\{0,1\}$ と $\mathrm{true}(\emptyset)=1$ である。

部分対象分類子の確かめを開く

単射 $m\colon S\to X$ に対し、$\chi_m(x)=1$ が $x\in m(S)$ と同値になるように $\chi_m\colon X\to\Omega$ を定める。$\mathrm{true}$ の $\chi_m$ に沿う引き戻しは $\{x\in X\mid\chi_m(x)=1\}=m(S)$ と包含写像であり、$m\colon S\to m(S)$ は全単射なので、$m$ を左辺とする正方形も引き戻しである。逆に $\chi\colon X\to\Omega$ で同じ正方形が引き戻しになるなら、$x\in X$ について「$\chi(x)=1$ ⟺ $x$ が $m$ を経由する ⟺ $x\in m(S)$」なので $\chi=\chi_m$ である。


条件 2。無限の公理による $\omega$ と $0=\emptyset$、$s(n)=n\cup\{n\}$ が自然数対象である(自然数対象 の例「集合の圏」)。
条件 3。(a) $f\ne g\colon A\to B$ なら $f(a)\ne g(a)$ となる $a\in A$ があり、対応する元 $x$ で $f\circ x\ne g\circ x$ である。(b) $\{\emptyset\}$ から $\emptyset$ への写像はない。
条件 4。まずエピ射 $p\colon X\to I$ は全射である。実際、$i\in I$ が $p$ の像にないとすると、$i$ でだけ $1$ をとる写像 $\chi\colon I\to\{0,1\}$ と定数写像 $c_0$ は異なるが、$\chi\circ p=c_0\circ p$ となり、エピ射であることに反する。よって $\{p^{-1}(i)\}_{i\in I}$ は空でない集合の族であり、選択公理による選択関数 $s$($s(i)\in p^{-1}(i)$)が $p\circ s=\operatorname{id}_I$ を満たす。$\square$

確かめに使ったのは、外延性・空集合・対・合併・冪集合・無限と、有界な論理式(量化子がすべて「$\forall x\in b$」「$\exists x\in b$」の形)についての分出、それに条件 4 のための選択公理だけである(MM92 第 VI 章 §10, p. 332)。この確かめは ETCS の ZFC の中への解釈を与えるので、ETCS から矛盾が導かれれば ZFC からも矛盾が導かれる。すなわち ZFC が無矛盾なら ETCS も無矛盾である。
逆向きには、ETCS のモデルの中で、整礎で外延的な根付きグラフを集合とみなすことにより、所属関係をもつ集合論のモデルが作れる(Shu18 p. 2、MM92 第 VI 章 §10, pp. 334–337。MM92 は整礎な剛い木を使う)。その結果、次が知られている。ここで 有界 Zermelo 集合論 BZC とは、外延性・空集合・対・合併・冪集合・基礎・無限・選択の公理と、有界な論理式についての分出図式からなる体系である(MM92 p. 332)。

ETCS の強さ
  1. ETCS と BZC は等無矛盾である。すなわち一方が無矛盾なら他方も無矛盾である(Shu18 Corollary 8.51, p. 38、MM92 第 VI 章 §10, p. 332)。
  2. ETCS に構造的な置換(または構造的な収集)の公理を加えた理論は、ZFC と等無矛盾である(Shu18 Corollary 8.53, p. 38)。
    この記事では証明しない。

BZC の公理はすべて $V_{\omega+\omega}$ で成り立つ(ZFC公理系 の定理「$V_{\omega+\omega}$ は置換を満たさない」)ので、ZFC は BZC の無矛盾性を証明する。1 の両向きの構成は初等算術の中で形式化できる(MM92 p. 332)ので、ZFC は ETCS の無矛盾性も証明する。置換にあたる公理を加えると、ZFC と等無矛盾になる(2)。

例と反例

ETCS の条件を満たす圏と満たさない圏
  1. 集合と写像の圏 $\mathbf{Set}$ は ETCS のモデルである(thm-etcs-set-model)。
  2. 有限集合と写像の圏 $\mathbf{FinSet}$ は条件 1・3・4 を満たすが、自然数対象をもたない(自然数対象 の例「反例:有限集合の圏には自然数対象がない」)。
  3. 集合の対の圏 $\mathbf{Set}\times\mathbf{Set}$(対象は集合の対 $(A,A')$、射は写像の対)は条件 1・2・3(b)・4 を満たすが、3(a) を満たさない。
  4. ただ 1 つの対象とその恒等射だけからなる圏は、条件 1・2・3(a)・4 を満たすが、$0\cong1$ なので 3(b) を満たさない。

条件 3(a)・3(b)・2 を 1 つずつ外した反例を表にまとめる(条件 4 を外しても thm-etcs-elements の 3 は成り立つ)。最後の行は Lawvere の元の公理系(rem-etcs-lawvere-axioms)についてのもので、その行の圏は Lawvere の公理のうち公理 5 だけを満たさない(Law05 pp. 16–17)。

外す条件反例成り立たなくなること
3(a) $1$ が生成する$\mathbf{Set}\times\mathbf{Set}$元をもたない対象は始対象(prop-etcs-two-valued の 1)
3(b) 退化していない1 対象 1 射の圏$\mathrm{true}\ne\mathrm{false}$(prop-etcs-two-valued の 3)
2 自然数対象$\mathbf{FinSet}$自然数対象の存在
Lawvere の公理 5(選択)半順序集合と単調写像の圏元について全単射なら同型(thm-etcs-elements の 3)
反例の確かめを開く

1 行目:$\mathbf{Set}\times\mathbf{Set}$ では極限・余極限・指数・部分対象分類子 $(\{0,1\},\{0,1\})$・自然数対象 $(\omega,\omega)$ を成分ごとにとれ、エピ射は成分ごとにエピ射、したがって成分ごとに全射なので、成分ごとに切断をもつ。終対象は $(1,1)$、始対象は $(\emptyset,\emptyset)$ で、$(1,1)\to(\emptyset,\emptyset)$ はない。$(1,1)$ から $(\{0\},\emptyset)$ への射はないので $(\{0\},\emptyset)$ は元をもたないが、$(\{0\},\emptyset)$ から $(\emptyset,\emptyset)$ への射がないので始対象ではない。3(a) も実際に破れる:$(\emptyset,\{0,1\})$ の恒等射と、第 2 成分の入れ替えは異なるが、元がないので元での値では区別できない。

2 行目:唯一の対象 $\ast$ は終対象かつ始対象で、この圏はすべての極限・余極限・指数をもち、$(\ast,\operatorname{id})$ は部分対象分類子かつ自然数対象である。射が 1 つなので 3(a) と 4 は成り立つ。$\Omega=\ast$ の元は 1 つで、$\mathrm{true}=\mathrm{false}$ である。

3 行目:$\mathbf{FinSet}$ がトポスであることは トポス の例「反例:有限集合の圏」にあり、有限集合の写像は値で決まり、空でない有限集合の間の全射は選択公理を使わずに切断をもつ(各元の逆像の要素を 1 つずつ有限回選ぶ)。自然数対象がないことは 自然数対象 の例に証明がある。

4 行目:2 元集合 $\{a,b\}$ に自明な順序を入れたもの $D$ と、$a< b$ の順序を入れたもの $C$ をとり、$f\colon D\to C$ を恒等写像とする。$f$ は単調で元について全単射だが、逆写像 $C\to D$ は $a\le b$ を保たないので単調でなく、$f$ は同型でない。Lawvere の公理 5 も、$f\circ g\circ f=f$ を満たす単調な $g$ がないので破れる(Law05 p. 17)。

関連項目

参考文献

[1]
F. William Lawvere (commentary by Colin McLarty and F. William Lawvere), An elementary theory of the category of sets (long version) with commentary, Reprints in Theory and Applications of Categories, 2005, 1–35(pp. 2–3:McLarty による解説、p. 5:著者の注釈、pp. 7–19:公理 1〜8、pp. 16–17:選択公理と半順序集合の圏、pp. 20–21:Theorem 2(Peano の公理))
[2]
Michael Shulman, Comparing material and structural set theories, arXiv:1808.05204v3, 2018, §1.1(pp. 1–2)、§4(Corollary 4.5・Lemma 4.7, pp. 15–16、ETCS の定義 p. 16)、Corollary 8.51・8.53(p. 38)
[3]
Saunders Mac Lane, Ieke Moerdijk, Sheaves in Geometry and Logic: A First Introduction to Topos Theory, Universitext, Springer, 1992, 第 IV 章の冒頭(p. 161:トポスは有限余極限をもつ)、第 VI 章の冒頭(p. 268)、VI.1(p. 275:選択公理と well-pointed の定義、Proposition 7, p. 276)、VI.10(pp. 331–337:RZC と well-pointed トポスの等無矛盾性、木による RZC のモデル pp. 334–337)

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