Baerの判定法(Baer's criterion)とは、環 $R$ 上の左加群 $E$ が入射的であるための必要十分条件は、$R$ の任意の左イデアル $\mathfrak a$ からの準同型 $f\colon\mathfrak a\to E$ がすべて $R$ に延びる($f(r)=re$ となる $e\in E$ がある)ことだ、という定理である。証明は、生成元を 1 つ足す障害がイデアルからの延長問題になることと Zorn の補題による。同値な形は $\operatorname{Ext}^1_R(R/\mathfrak a,E)=0$ であり、Dedekind 整域の上で可除加群が入射的であること、左 Noether 環の上で入射加群の直和が入射的であることがここから出る。確かめるイデアルを有限生成のものに減らすと一般には成り立たない。
環 $R$ 上の加群 $E$ が入射的であるとは、どんな加群 $B$ とその部分加群 $A$ についても、準同型 $A\to E$ が $B$ 全体に延びることである。この定義は、あらゆる加群とあらゆる部分加群を相手にするので、そのままでは確かめにくい。Baer の判定法(Baer's criterion)は、確かめるべき包含を、環 $R$ 自身の左イデアル $\mathfrak a\subset R$ だけに減らす。左イデアル $\mathfrak a$ からの準同型 $f$ が延びることは、$f(r)=re$($r\in\mathfrak a$)をみたす $e\in E$ があることと同じなので、条件は「ある方程式が $E$ の中で解ける」という具体的な形になる。たとえば単項イデアル整域の上では、条件は「$0$ でない元で割り算ができる」こと(可除性)になる。入射加群の概念は R. Baer が 1940 年に導入した(Wei94 §2.3, p. 38)。
この記事では、判定法を述べて証明し、Ext関手 による言い換え、可除加群や可逆イデアルとの関係、Noether 環の上で入射加群の直和が入射的であることを示す。最後に、確かめるイデアルを有限生成のものや単項のものに減らすと判定法が成り立たなくなる例を挙げる。入射対象一般の性質(Hom 関手の完全性による特徴づけ、十分な入射対象の存在、入射包)は 入射対象 で扱う。
以下、$R$ は単位元をもつ環(可換とは限らない)とし、加群は左 $R$ 加群とする。
左 $R$ 加群 $E$ が入射加群(injective module)であるとは、任意の左 $R$ 加群 $B$、その部分加群 $A\subset B$、$R$ 準同型 $f\colon A\to E$ に対して、$g|_A=f$ をみたす $R$ 準同型 $g\colon B\to E$ が存在することをいう。$g$ を $f$ の $B$ への延長という。
これは左 $R$ 加群の圏 $R\text{-}\mathbf{Mod}$ の入射対象であることと同じである(入射対象 の定義「入射加群の定義」)。延長の一意性は要求しない。
左 $R$ 加群 $E$ が Baer の条件をみたすとは、$R$ の任意の左イデアル $\mathfrak a$ と任意の $R$ 準同型 $f\colon\mathfrak a\to E$ に対して、
$$
f(r)=re\qquad(\text{すべての }r\in\mathfrak a)
$$
をみたす $e\in E$ が存在することをいう。
$R$ 準同型 $g\colon R\to E$ は $e:=g(1)$ で決まり、$g(r)=g(r\cdot1)=re$ である。逆に任意の $e\in E$ について $r\mapsto re$ は $R$ 準同型である。したがって Baer の条件は「$R$ の任意の左イデアル $\mathfrak a$ について、$\mathfrak a$ からの準同型がすべて $R$ に延びる」と言い換えられる。
Wei94 は右加群と右イデアルで述べ、Mat89 は可換環で述べているが、証明は左加群でも同じである。
必要性。 $E$ が入射的なら、包含 $\mathfrak a\subset R$ に定義を当てはめれば、$f\colon\mathfrak a\to E$ は $g\colon R\to E$ に延びる。$e:=g(1)$ とおけば、$r\in\mathfrak a$ について $f(r)=g(r)=re$ である。
十分性。 $E$ が Baer の条件をみたすとし、部分加群 $A\subset B$ と $R$ 準同型 $f\colon A\to E$ をとる。延長の候補の集合
$$
\mathcal S:=\{(C,h)\mid A\subset C\subset B\ \text{は部分加群},\ h\colon C\to E\ \text{は}\ R\ \text{準同型},\ h|_A=f\}
$$
に、$(C,h)\le(C',h')\iff C\subset C'$ かつ $h'|_C=h$ で順序を入れる。$(A,f)\in\mathcal S$ なので $\mathcal S$ は空でない。
$\mathcal S$ の空でない全順序部分集合 $\{(C_\lambda,h_\lambda)\}_{\lambda\in\Lambda}$ をとり、$C^*:=\bigcup_\lambda C_\lambda$ とおく。$x,y\in C^*$ はそれぞれある $C_\lambda$、$C_\mu$ に属し、全順序性から一方が他方を含むので、$x+y$ と $rx$($r\in R$)は $C^*$ に属する。よって $C^*$ は部分加群である。$x\in C_\lambda$ について $h^*(x):=h_\lambda(x)$ と定める。$x\in C_\lambda\cap C_\mu$ で $(C_\lambda,h_\lambda)\le(C_\mu,h_\mu)$ なら $h_\mu(x)=h_\lambda(x)$ なので、$h^*$ は $\lambda$ の選び方によらない。同じく 2 元を共通の $C_\lambda$ に入れて計算すれば、$h^*$ は $R$ 準同型で、$h^*|_A=f$ である。$(C^*,h^*)$ はこの全順序部分集合の上界である。Zornの補題により、$\mathcal S$ は極大元 $(C_0,h_0)$ をもつ。
$C_0=B$ を示す。$C_0\neq B$ と仮定して $b\in B\setminus C_0$ をとり、
$$
\mathfrak a:=\{r\in R\mid rb\in C_0\}
$$
とおく。$r,s\in\mathfrak a$、$t\in R$ なら $(r+s)b=rb+sb\in C_0$、$(tr)b=t(rb)\in C_0$ なので、$\mathfrak a$ は左イデアルである。$\varphi\colon\mathfrak a\to E$、$\varphi(r):=h_0(rb)$ は $R$ 準同型である($\varphi(tr)=h_0(t\,rb)=t\,h_0(rb)$)。Baer の条件により、すべての $r\in\mathfrak a$ について $h_0(rb)=re$ をみたす $e\in E$ がある。部分加群 $C_1:=C_0+Rb$ の上で
$$
h_1(c+rb):=h_0(c)+re\qquad(c\in C_0,\ r\in R)
$$
と定める。これは表し方によらない。実際 $c+rb=c'+r'b$ なら $(r-r')b=c'-c\in C_0$ なので $r-r'\in\mathfrak a$ であり、
$$
h_0(c')-h_0(c)=h_0\bigl((r-r')b\bigr)=(r-r')e
$$
から $h_0(c)+re=h_0(c')+r'e$ を得る。$h_1$ が加法的で $h_1(t(c+rb))=h_0(tc)+tre=t\,h_1(c+rb)$ をみたすことは式から分かり、$h_1|_{C_0}=h_0$ である。よって $(C_1,h_1)\in\mathcal S$ で、$b\in C_1\setminus C_0$ なので $(C_0,h_0)<(C_1,h_1)$ となり、極大性に反する。ゆえに $C_0=B$ であり、$h_0$ が $f$ の $B$ への延長である。$\blacksquare$
証明の要は、生成元を 1 つ付け加えるときの障害が、左イデアル $\mathfrak a=\{r\mid rb\in C_0\}$ からの準同型を $R$ に延ばす問題にちょうどなることである。付け加える生成元は無限個あるかもしれないので、その順番の処理を Zorn の補題に任せている。
左 $R$ 加群 $E$ について、次は同値である(Wei94 Lemma 4.1.11, p. 94)。
左イデアル $\mathfrak a$ について短完全列 $0\to\mathfrak a\to R\to R/\mathfrak a\to0$ に $\operatorname{Hom}_R(-,E)$ を施すと、Ext関手 の長完全列
$$
\operatorname{Hom}_R(R,E)\xrightarrow{\ \rho\ }\operatorname{Hom}_R(\mathfrak a,E)\longrightarrow\operatorname{Ext}^1_R(R/\mathfrak a,E)\longrightarrow\operatorname{Ext}^1_R(R,E)
$$
を得る。$\rho$ は制限写像である。$R$ は自由加群なので射影的であり、$\operatorname{Ext}^1_R(R,E)=0$ である。よって $\operatorname{Ext}^1_R(R/\mathfrak a,E)\cong\operatorname{coker}\rho$ であり、$\operatorname{Ext}^1_R(R/\mathfrak a,E)=0$ は「$\mathfrak a$ からの準同型がすべて $R$ に延びる」ことと同値である。すべての $\mathfrak a$ について合わせると、2 は Baer の条件そのものであり、thm-baer-main により 1 と同値である。$\blacksquare$
同じ考え方を入射分解の余核に当てはめると、入射次元の判定が得られる。$\operatorname{id}_RE\le n$ であることは、すべての左イデアル $\mathfrak a$ について $\operatorname{Ext}^{n+1}_R(R/\mathfrak a,E)=0$ であることと同値である(可換環の場合は 入射次元 の定理「Ext による入射次元の判定」、Mat89 §18 Lemma 1, p. 139)。さらに、左大域次元はすべての左イデアル $\mathfrak a$ にわたる $\operatorname{pd}_R(R/\mathfrak a)$ の上限に等しい(大域次元 の定理「巡回加群による大域次元」、Wei94 Global Dimension Theorem 4.1.2, p. 91)。どちらも、すべての加群についての条件を巡回加群 $R/\mathfrak a$ についての条件に減らす点で、Baer の判定法の言い換えになっている。
入射性の定義を直接確かめるには、すべての加群 $B$ とすべての部分加群 $A$ を調べなければならない。Baer の判定法は、この無限の検査を「$R$ の左イデアル」という $R$ だけで決まる集合の上の検査に置き換える。左イデアル $\mathfrak a$ からの準同型 $f$ を $R$ に延ばすとは、すべての $r\in\mathfrak a$ について連立方程式 $re=f(r)$ をみたす $e\in E$ を見つけることである。
$R=\mathbb Z$ のときを考える。$\mathbb Z$ のイデアルは $n\mathbb Z$($n\ge0$)であり、$f\colon n\mathbb Z\to E$ は $f(n)$ で決まる。条件は $ne=f(n)$ が解けること、すなわち $f(n)$ が $n$ で割り切れることである。$f(n)$ は $E$ の任意の元をとれるので、条件は「$E$ のすべての元がすべての正の整数で割り切れる」こと、すなわち $E$ が可除群であることになる。$\mathbb Q$ や $\mathbb Q/\mathbb Z$ は入射的で、$\mathbb Z$ や $0$ でない有限アーベル群は入射的でない(入射対象 の例「有理数の群と $\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$」、例「反例:有限アーベル群と有限生成の入射$\mathbb{Z}$加群」)。イデアルが単項でない環では、1 つの元で割るだけでは足りず、複数の生成元についての方程式を同時に解く必要がある。その差が ex-baer-counterexamples の 3 に現れる。
可換環 $R$ 上の加群 $M$ が可除であるとは、$R$ の任意の非零因子 $a$ について $aM=M$ が成り立つことをいう(入射対象 の定義「可除加群の定義」)。可換環上の入射加群はつねに可除である(入射対象 の命題「単項イデアル整域上の入射加群」の 1)。逆向きは、$R$ が単項イデアル整域なら Baer の判定法から直ちに出る。
$R$ を単項イデアル整域、$M$ を可除な $R$ 加群とすると、$M$ は入射的である。
thm-baer-main により、イデアル $(a)$ と $f\colon(a)\to M$ について $f(r)=re$ となる $e$ を見つければよい。$a=0$ なら $f=0$ で $e=0$ とする。$a\neq0$ なら、可除性により $ax=f(a)$ をみたす $x\in M$ がある。$(a)$ の元は $ra$ と書け、$f(ra)=rf(a)=r(ax)=(ra)x$ なので $e=x$ でよい。
とくに $R$ の商体 $K$ は可除なので入射的であり、可除加群の商は可除なので $K/R$ も入射的である。$R$ が素元 $t$ をもつ離散付値環なら、$K/R=\bigcup_{n\ge1}t^{-n}R/R$ は剰余体の入射包であり、局所コホモロジーや Cousin複体 の計算で $0\to R\to K\to K/R\to0$ が $R$ の入射分解として使われる(入射包 の例を参照)。$R=\mathbb Z$ なら $\mathbb Q$、$\mathbb Q/\mathbb Z$、Prüfer 群 $\mathbb Z/p^\infty$ が入射的である(Wei94 Corollary 2.3.2 と Example 2.3.3, p. 39)。
単項でないイデアルを扱うには、イデアルの生成元をまとめて「割る」必要がある。整域で可逆なイデアルについては、これが可除性だけでできる。整域 $R$ の商体を $K$ とし、$0$ でないイデアル $I$ について $I^{-1}:=\{x\in K\mid xI\subset R\}$ とおく。$II^{-1}=R$ のとき $I$ は可逆である(Dedekind整域 の定義「分数イデアルと可逆イデアル」)。
$R$ を整域、$I$ を $R$ の $0$ でない可逆イデアル、$M$ を可除な $R$ 加群とする。このとき任意の $R$ 準同型 $f\colon I\to M$ について、すべての $r\in I$ で $f(r)=re$ となる $e\in M$ が存在する。
$II^{-1}=R$ なので、$a_1,\dots,a_n\in I$ と $b_1,\dots,b_n\in I^{-1}$ で $\sum_ia_ib_i=1$ となるものがある。$0$ でない $s\in R$ を、すべての $i$ について $c_i:=sb_i\in R$ となるようにとる(各 $b_i$ の分母の積でよい)。$M$ は可除なので $sy_i=f(a_i)$ をみたす $y_i\in M$ がある。$e:=\sum_ic_iy_i$ とおく。
$r\in I$ とする。$b_i\in I^{-1}$ なので $rb_i\in R$ であり、$r=r\sum_ia_ib_i=\sum_i(rb_i)a_i$ は $R$ 係数の和である。$f$ の $R$ 線形性から
$$
f(r)=\sum_i(rb_i)f(a_i)=\sum_i(rb_i)\,s\,y_i=\sum_irc_iy_i=re
$$
となる($(rb_i)s=rc_i$ は $R$ の中の等式)。$\blacksquare$
$R$ を Dedekind整域 とする。$R$ 加群 $M$ が入射的であることと、可除であることは同値である。
入射的なら可除であることは上に述べた。逆に $M$ を可除とする。Dedekind 整域の $0$ でないイデアルは可逆である(Dedekind整域 の定理「Dedekind整域のイデアル論的特徴づけ」の条件 3)。よって $0$ でないイデアルからの準同型は prop-baer-invertible により $R$ に延び、零イデアルからの準同型は零写像に延びる。thm-baer-main により $M$ は入射的である。$\blacksquare$
同じ主張は Dedekind整域 の定理「入射加群と可除加群」が局所化を使って証明している。上の証明は、可逆性の式 $\sum a_ib_i=1$ だけを使う。Dedekind でない整域ではこの同値は成り立たない(入射対象 の例「反例:可除だが入射的でない加群」の末尾の注意。この記事では証明しない)。具体例は ex-baer-counterexamples の 3 である。
$m\ge1$ とし、$R:=\mathbb Z/m$ とする。$R$ は $R$ 加群として入射的である。$R$ のイデアルは $m$ の正の約数 $d$ について $d R$ の形である。$f\colon dR\to R$ について $f(\bar d)=\bar y$ とおく。$(m/d)\bar d=\bar m=0$ なので $(m/d)\bar y=f((m/d)\bar d)=0$、すなわち $m\mid(m/d)y$ であり、$d\mid y$ となる。$y=dz$ と書くと $f(r\bar d)=r\bar y=(r\bar d)\bar z$ なので、$e=\bar z$ でよい。一方 $R$ は $\mathbb Z$ 加群としては($m\ge2$ なら)可除でないので入射的でない。入射性は係数の環に依存する性質である。
入射加群の直積は入射的である(入射対象 の命題「入射対象の直積」)。直和については、確かめるイデアルが有限生成なら、像が有限個の成分に収まるので、有限直和(=有限直積)に帰着できる。
thm-baer-main により、左イデアル $\mathfrak a$ と $f\colon\mathfrak a\to E$ について、$f(r)=re$ となる $e\in E$ を見つければよい。$R$ は左 Noether なので $\mathfrak a=Ra_1+\cdots+Ra_n$ と書ける。直和の元は有限個の成分を除いて $0$ なので、有限集合 $\Lambda_0\subset\Lambda$ で、すべての $j$ について $f(a_j)\in E_0:=\bigoplus_{\lambda\in\Lambda_0}E_\lambda$ となるものがある。$f(\sum_jr_ja_j)=\sum_jr_jf(a_j)$ なので $f(\mathfrak a)\subset E_0$ である。$E_0$ は有限個の入射加群の直和、すなわち直積なので入射的であり、thm-baer-main の必要性により $f(r)=re$($r\in\mathfrak a$)をみたす $e\in E_0\subset E$ がある。$\blacksquare$
逆に、入射左加群の任意の直和が入射的になる環は左 Noether 環に限る(入射対象 の注意「直和・直和因子・分裂」)。Noether 性を外したときに直和が入射的でなくなる具体例を、次の節の 1 で与える。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 環の左 Noether 性 | 体 $k$ の可算個の直積 $R=\prod_nk$ と、入射加群 $Re_n$ の直和 | 入射加群の直和が入射的であること(thm-baer-noether-sum) |
| 確かめる左イデアルが「すべて」であること(有限生成のものだけにする) | 同じ $R$ の上の加群 $\bigoplus_nRe_n$ | 有限生成の左イデアルからの延長だけで入射性がいえること |
| 確かめるイデアルが「すべて」であること($0$ でない元が生成する単項イデアルだけにする) | $R=k[x,y]$ の上の $k(x,y)/R$ | 可除性だけで入射性がいえること |
1・2 では、$k$ を体、$R:=\prod_{n\in\mathbb N}k$(成分ごとの和と積)とし、$e_n\in R$ を第 $n$ 成分だけが $1$ の元とする。$x\in R$ の台を $\operatorname{supp}x:=\{n\mid x_n\neq0\}$、部分集合 $S\subset\mathbb N$ の特性関数を $\chi_S\in R$ と書く。$I:=\{x\in R\mid \operatorname{supp}x\ \text{は有限}\}$ は $R$ のイデアルで、加群として $I=\bigoplus_nRe_n$(内部直和)である。
(a) 各 $Re_n$ は入射的である。 イデアル $\mathfrak a$ と $f\colon\mathfrak a\to Re_n$ をとる。$Re_n$ の元 $y$ は $y=e_ny$ をみたし、$r\in R$ について $e_nr=r_ne_n$ である。$\mathfrak a$ のすべての元の第 $n$ 成分が $0$ なら、$f(r)=e_nf(r)=f(e_nr)=f(0)=0$ なので $e=0$ でよい。第 $n$ 成分が $0$ でない $x\in\mathfrak a$ があれば $e_n=(x_n^{-1}e_n)x\in\mathfrak a$ であり、$r\in\mathfrak a$ について $f(r)=e_nf(r)=f(e_nr)=r_nf(e_n)$、また $rf(e_n)=r\,e_nf(e_n)=r_nf(e_n)$ なので、$e=f(e_n)$ でよい。thm-baer-main により $Re_n$ は入射的である。
(b) $I$ は入射的でない。 入射的なら恒等写像 $I\to I$ が包含 $I\subset R$ に沿って $g\colon R\to I$ に延びる。$u:=g(1)\in I$ の台は有限なので、台の外の $n$ をとると $e_n=g(e_n)=e_ng(1)=e_nu=0$ となり、矛盾する。
1。 (a)・(b) により、入射加群 $Re_n$ の直和 $I$ は入射的でない。$R$ は Noether でない($R\chi_{\{0\}}\subsetneq R\chi_{\{0,1\}}\subsetneq\cdots$ が止まらない)ので、thm-baer-noether-sum と矛盾しない。
2。 $R$ の有限生成イデアルは、ある冪等元 $\varepsilon$ で $R\varepsilon$ と書ける。実際 $x_1,\dots,x_m$ が生成するイデアルについて $S:=\bigcup_i\operatorname{supp}x_i$ とおくと $x_i=x_i\chi_S$ である。逆に $y_i\in R$ を、$n\in\operatorname{supp}x_i\setminus\bigcup_{j=1}^{i-1}\operatorname{supp}x_j$ のとき第 $n$ 成分 $(x_i)_n^{-1}$、それ以外で $0$ と定めると $\sum_iy_ix_i=\chi_S$ である。よって生成されるイデアルは $R\chi_S$ である。冪等元 $\varepsilon$ と任意の加群 $M$、$f\colon R\varepsilon\to M$ について、$r\in R\varepsilon$ は $r=r\varepsilon$ をみたすので $f(r)=f(r\varepsilon)=rf(\varepsilon)$ であり、$e=f(\varepsilon)$ でよい。したがって $I$ は有限生成イデアルについての Baer の条件をみたすが、(b) により入射的でない。
3。 $R=k[x,y]$、$K=k(x,y)$ とする。$K/R$ は可除である。$0\neq a\in R$ と $f\colon Ra\to K/R$ について、$K/R$ の可除性から $ae=f(a)$ をみたす $e$ があり、$f(ra)=rf(a)=(ra)e$ となる。よって $K/R$ は $0$ でない元が生成する単項イデアルについての Baer の条件をみたす。しかし $K/R$ は入射的でない(入射対象 の例「反例:可除だが入射的でない加群」が、イデアル $(x,y)$ からの延びない準同型を作っている)。prop-baer-invertible と合わせると、イデアル $(x,y)$ は可逆でないこともわかる。
加群の圏で左イデアルが果たした役割を、生成対象 $U$ の部分対象が果たす。AB5 をみたし生成対象をもつアーベル圏では、$U$ の部分対象からの射がすべて $U$ に延びる対象は入射的である。この形の判定法を使って、そのような圏が十分な入射対象をもつことが示される(入射対象 の注意「Grothendieck 圏の入射対象」、Grothendieck圏)。
判定法と証明は Wei94 Baer's Criterion 2.3.1(p. 39)に、可換環での主張は Mat89 Theorem B3(p. 277)にあり、Ext による言い換えは Wei94 Lemma 4.1.11(p. 94)、Noether 環上の直和は Mat89 Theorem 18.5 (i)(p. 146)にある。可逆イデアルからの延長(prop-baer-invertible)と ex-baer-counterexamples の 1・2 の証明は、この記事で組み立てたものである。
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