滑らかな射

同義語:smooth morphismスムーズ射滑らかな射(スキーム)

概要

滑らかな射(smooth morphism)とは、スキームの射 $f\colon X\to S$ で、局所有限表示かつ平坦で、すべての幾何学的ファイバーが正則であるものをいう。局所的に $A[x_1,\dots,x_n]/(f_1,\dots,f_c)$ の形で Jacobi 行列式 $\det(\partial f_i/\partial x_j)_{i,j\le c}$ が単元になる射(陰関数定理の代数版)、また無限小の持ち上げがつねに存在する局所有限表示の射(形式的滑らか)とも同値である。相対微分の層 $\Omega^1_{X/S}$ は階数が相対次元に等しい局所自由層になり、局所的にはアフィン空間へのエタール射を経由する。エタール射は相対次元 $0$ の滑らかな射である。アフィン空間・$\mathbb{G}_m$ は滑らかで、尖点曲線 $y^2=x^3$ は滑らかでない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: スキーム, 平坦射, Kähler微分, 正則局所環, 有限型射, エタール射

定義

滑らかな射は、スキームの射 $f\colon X\to S$ のうち「ファイバーがどれも非特異(正則スキーム)で、しかもファイバーが底 $S$ の上で連続的に(平坦射として)動く」ものである。可微分多様体の沈め込みの代数版であり、$S$ が体のスペクトルのときは「非特異多様体」の概念に帰着する。定義には互いに同値な 3 つの流儀があり、どれを出発点にとるかは文献によって異なる。ここでは 3 つを並べて述べ、同値性を定理として言明する。以下、環はすべて可換で単位元をもつ。

ファイバーによる定義

スキームの射 $f\colon X\to S$ が点 $x\in X$ において滑らか(smooth)であるとは、次の 3 条件をみたす $x$ の開近傍 $U$ が存在することをいう。

  1. $f|_U\colon U\to S$ は局所有限表示である。すなわち $U$ と $S$ のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}B\subset U$、$\operatorname{Spec}A\subset S$ で $f(\operatorname{Spec}B)\subset\operatorname{Spec}A$ なるものをとると、$B$ は有限個の変数の多項式環 $A[x_1,\dots,x_n]$ を有限生成イデアルで割った $A$ 代数と同型である。
  2. $f|_U$ は平坦である。すなわち各点 $y\in U$ で局所環 $\mathcal{O}_{U,y}$ が $\mathcal{O}_{S,f(y)}$ 上平坦な加群である。
  3. $f|_U$ の幾何学的ファイバーはすべて正則である。すなわち $S$ の各点 $s$ と剰余体 $\kappa(s)$ の代数閉包 $\bar\kappa(s)$ に対し、ファイバー積 $U\times_S\operatorname{Spec}\bar\kappa(s)$ の各点の局所環が正則局所環である。
    $f$ が $X$ のすべての点で滑らかなとき、$f$ を滑らかな射、$X$ を $S$ 上滑らかなスキームという。さらに、$f(x)$ 上の幾何学的ファイバー $X\times_S\operatorname{Spec}\bar\kappa(f(x))$ において $x$ の上にある点を通る既約成分の次元(Krull次元)がすべて $n$ に等しいとき、$f$ は $x$ において相対次元 $n$ で滑らかであるという。

条件 3 で「幾何学的」ファイバー(剰余体を代数閉包まで拡大したファイバー)を要求する点が重要である。剰余体が完全体でないときは、ファイバーが正則でも幾何学的ファイバーが正則でないことがある(ex-smooth-morphism-inseparable)。$S=\operatorname{Spec}k$ が体のスペクトルで $k$ が完全体なら、$X\to\operatorname{Spec}k$ が滑らかであることは $X$ が局所有限型かつ正則であることと同値である。

Jacobi判定法による定義

$A$ を環とする。$A$ 代数 $B$ が標準滑らか(standard smooth)であるとは、$A$ 代数として
$$ B\cong A[x_1,\dots,x_n]/(f_1,\dots,f_c),\qquad c\le n $$
と表示でき、しかも $f_1,\dots,f_c$ の最初の $c$ 変数に関する Jacobi行列の行列式
$$ \Delta:=\det\Bigl(\frac{\partial f_i}{\partial x_j}\Bigr)_{1\le i,j\le c} $$
の $B$ における像が $B$ の単元であることをいう。このとき差 $n-c$ を表示の相対次元という。
スキームの射 $f\colon X\to S$ が点 $x$ において滑らかであるとは、$x$ のアフィン開近傍 $\operatorname{Spec}B$ と $f(x)$ のアフィン開近傍 $\operatorname{Spec}A$ で $f(\operatorname{Spec}B)\subset\operatorname{Spec}A$ なるものがあって、$B$ が標準滑らかな $A$ 代数になることをいう。

これは陰関数定理の代数版である。$c$ 本の方程式 $f_1=\dots=f_c=0$ が $n$ 変数のうち $c$ 個について「解ける」(その Jacobi 行列式が消えない)とき、解の集合は残りの $n-c$ 変数を座標とする $n-c$ 次元の「多様体」になる、というのが幾何学的な意味である。

形式的滑らかさによる定義

スキームの射 $f\colon X\to S$ が形式的滑らか(formally smooth)であるとは、任意のアフィン $S$ スキーム $T'=\operatorname{Spec}C'$ と、$C'$ の冪零イデアル $N$ で $N^2=0$ をみたすものが定める閉部分スキーム $T=\operatorname{Spec}(C'/N)$ に対して、任意の $S$ 射 $T\to X$ が $S$ 射 $T'\to X$ に延びる(無限小の持ち上げがつねに存在する)ことをいう(形式的滑らかさ)。
$f$ が滑らかであるとは、$f$ が局所有限表示かつ形式的滑らかであることをいう。

3 つの定義の同値性

スキームの射 $f\colon X\to S$ について、次は同値である。

  1. $f$ は def-smooth-morphism-fiber の意味で(すべての点で)滑らかである。
  2. $f$ は def-smooth-morphism-jacobi の意味で(すべての点で)滑らかである。
  3. $f$ は def-smooth-morphism-formal の意味で滑らかである。
    さらに、点 $x$ での相対次元 $n$ は、$x$ の近傍での標準滑らかな表示の相対次元 $n-c$ に等しく、また $x$ での $\Omega^1_{X/S}$ の階数(prop-smooth-morphism-differentials)にも等しい。
同値性の出典

1 と 3 の同値は Grothendieck–Dieudonné EGA4 IV 17.5.1・17.5.2(形式的滑らかさと「平坦かつ幾何学的ファイバーが正則」の同値。証明は $0_{\mathrm{IV}}$ §19・§22 の局所環論による)、2 と 3 の同値は EGA4 IV 17.11.4 と Stacks の Algebra 章「Smooth ring maps」節(標準滑らかな代数による局所表示)と Morphisms 章「Smooth morphisms」節に譲る。2 から 1 への向きのうち「ファイバーが正則」の部分は prop-smooth-morphism-jacobi-regular で証明し、「平坦」の部分は rem-smooth-morphism-flat で出典を示す。松村 Mat89 §28・§29 は環論の言葉で 1 と 3 の同値(正則性と形式的滑らかさの関係)を扱う。

直感

複素多様体の間の正則写像 $f\colon X\to S$ が各点で沈め込み(微分が全射)であれば、陰関数定理により $f$ は局所的に射影 $\mathbb{C}^{m}\times\mathbb{C}^{n}\to\mathbb{C}^m$ の形をしており、各ファイバーは $n$ 次元の複素多様体である。滑らかな射はこの状況の代数版であり、3 つの定義はそれぞれ「ファイバーが非特異でファイバー族が連続(平坦)」「方程式の Jacobi 行列式が消えない(陰関数定理)」「無限小の変形がつねに持ち上がる(形式的な柔らかさ)」という 3 つの側面を切り出している。
ただし代数的な状況では、滑らかな射が Zariski 局所的に $\mathbb{A}^n_S\to S$ の開部分スキームと同型になるわけではない(たとえば楕円曲線 $E\to\operatorname{Spec}k$ は滑らかだが、$E$ は有理曲線でないので、$E$ の空でない開集合が $\mathbb{A}^1_k$ の開集合と同型になることはない)。代わりに成り立つのは「局所的に、$\mathbb{A}^n_S$ へのエタール射を経由して $S$ に落ちる」という主張であり(thm-smooth-morphism-local-structure)、エタール射は代数的な局所同型の代用品である。この意味で、エタール射は相対次元 $0$ の滑らかな射にほかならない(prop-smooth-morphism-etale)。

例と反例

アフィン空間と射影空間

任意のスキーム $S$ に対し、アフィン空間 $\mathbb{A}^n_S=S\times_{\operatorname{Spec}\mathbb{Z}}\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x_1,\dots,x_n]$ は $S$ 上相対次元 $n$ で滑らかである。実際 $S$ のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ の上で $\mathbb{A}^n_S$ は $\operatorname{Spec}A[x_1,\dots,x_n]$ であり、これは方程式の個数 $c=0$ の標準滑らかな表示である(空行列の行列式は $1$)。射影空間 $\mathbb{P}^n_S$ は $n+1$ 個の開集合 $D_+(x_i)\cong\mathbb{A}^n_S$ で覆われ、滑らかさは局所的な性質だから、$\mathbb{P}^n_S\to S$ も相対次元 $n$ で滑らかである。同様に、$S$ 上滑らかなスキームの開部分スキームは $S$ 上滑らかである。

乗法群と超曲面

$A$ を環とし、$f\in A[x_1,\dots,x_n]$ を 1 つの多項式とする。$B:=A[x_1,\dots,x_n]/(f)$ が $A$ 上滑らかであるための十分条件は、偏導関数 $\partial f/\partial x_1,\dots,\partial f/\partial x_n$ の $B$ における像が $B$ の単位イデアルを生成することである。実際、点 $x\in\operatorname{Spec}B$ をとると、ある $i$ について $\partial f/\partial x_i$ は $x$ で消えないので、基本開集合 $D(\partial f/\partial x_i)\subset\operatorname{Spec}B$ は $x$ を含む。変数を並べ替えて $i=1$ とし、$g:=\partial f/\partial x_1$ とおくと、
$$ B_g\cong A[x_1,\dots,x_n,t]/(f,\;gt-1) $$
であり、変数を $x_1,t,x_2,\dots,x_n$ の順に並べると、最初の 2 変数 $x_1,t$ に関する Jacobi 行列式は $\det\begin{pmatrix}g&0\\ \partial g/\partial x_1\cdot t& g\end{pmatrix}=g^2$ で、$B_g$ の単元である。よって $B_g$ は標準滑らかであり、$\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A$ は $x$ で相対次元 $n-1$ で滑らかである。
とくに乗法群スキーム $\mathbb{G}_{m,A}=\operatorname{Spec}A[x,y]/(xy-1)$ は $\partial(xy-1)/\partial y=x$ が単元なので $A$ 上相対次元 $1$ で滑らかである。また $k$ を体、$f\in k[x_1,\dots,x_n]$ とし、$f$ と $\partial f/\partial x_1,\dots,\partial f/\partial x_n$ が代数閉包 $\bar k$ の点 $a\in\bar k^n$ に共通零点をもたなければ、超曲面 $V(f)\subset\mathbb{A}^n_k$ は $k$ 上滑らかである(Hilbertの零点定理により、$\bar k^n$ に共通零点がないことと $k[x_1,\dots,x_n]/(f)$ で単位イデアルを生成することは同値である)。標数 $p$ の体上の $f=x_1^p+\dots+x_n^p-1$ のように、$f$ 自身は非零でも偏導関数がすべて $0$ になる多項式ではこの判定は使えず、実際 $f=(x_1+\dots+x_n-1)^p$ なので $V(f)$ は被約スキームでなく、滑らかでない。

反例:尖点をもつ曲線

$k$ を体、$X:=\operatorname{Spec}k[x,y]/(y^2-x^3)$ とする。$X\to\operatorname{Spec}k$ は局所有限表示・平坦(体上の加群はすべて平坦)だが、原点 $\mathfrak{m}=(x,y)$ で滑らかでない。実際、Zariski接空間 $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ は $x,y$ の類で張られ、$y^2-x^3\in\mathfrak{m}^2$ だから $\dim_k\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2=2$ であるのに、$X$ は 1 次元なので、局所環 $\mathcal{O}_{X,\mathfrak{m}}$ は正則でない。$k$ の代数閉包に底変換しても同じ計算が成り立つから、幾何学的ファイバーが正則という条件が破れる。Jacobi 判定法でいえば $\partial(y^2-x^3)/\partial x=-3x^2$、$\partial/\partial y=2y$ は原点で共に消える。prop-smooth-morphism-differentials の立場では、$\Omega^1_{X/k}$ は $dx,dy$ で生成され関係 $2y\,dy=3x^2\,dx$ をもち、原点での茎は自由でない($\Omega^1_{X/k}\otimes\kappa(x)$ の次元が原点で $2$、生成点で $1$ と食い違う。$X$ は整スキームなので、局所自由なら階数は一定でなければならない)。これは、「平坦かつ局所有限表示」だけでは滑らかさが従わないことを示す例である。

反例:被約でないファイバー

$k$ を体、$X:=\operatorname{Spec}k[x]/(x^2)$ とする。$X\to\operatorname{Spec}k$ は有限(有限射)かつ平坦だが、唯一の点の局所環 $k[x]/(x^2)$ は被約環でなく、したがって正則でない。よって滑らかでない。形式的滑らかさの立場では、$C':=k[y]/(y^3)$、$N:=(y^2)$ とおき、$k$ 代数の射 $k[x]/(x^2)\to C'/N=k[y]/(y^2)$ を $x\mapsto y$ で定めると、これを $C'$ に持ち上げるには $x\mapsto y+ay^2$($a\in k$)と定めるしかないが、$(y+ay^2)^2=y^2\ne0$ が $C'$ で成り立つので持ち上げは存在しない。すなわち $X$ は $k$ 上形式的滑らかでない。

反例:純非分離拡大

$k$ を標数 $p>0$ の体、$K:=k(t)$、$L:=K(t^{1/p})=K[u]/(u^p-t)$ とし、$f\colon\operatorname{Spec}L\to\operatorname{Spec}K$ を考える。$f$ は有限・平坦・局所有限表示で、唯一のファイバー $\operatorname{Spec}L$ は体のスペクトルだから正則である。しかし幾何学的ファイバーは
$$ L\otimes_K\bar K=\bar K[u]/(u^p-t)=\bar K[u]/\bigl((u-t^{1/p})^p\bigr) $$
のスペクトルで、被約でない。よって $f$ は滑らかでない。また $\Omega^1_{L/K}$ は $du$ を基底とする階数 $1$ の自由 $L$ 加群(自由加群)であり($d(u^p-t)=pu^{p-1}du=0$ なので関係が消える)、相対次元 $0$ であるにもかかわらず $\Omega^1$ が消えない。この例は、def-smooth-morphism-fiber の条件 3 で「幾何学的」ファイバーを「ファイバー」に弱められないこと、および分離拡大でない体の拡大がエタール射でないことを示す。$K$ が完全体なら有限次拡大はすべて分離的なので、この現象は起こらない。

反例:平坦でない射

$k$ を体とし、閉点 $0$ の閉埋め込み $i\colon\operatorname{Spec}k\to\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$($t\mapsto0$)を考える。$i$ は有限型で、ファイバーは $0$ の上では $\operatorname{Spec}k$(正則)、他の点の上では空であり、幾何学的ファイバーがすべて正則という条件をみたす。しかし $k=k[t]/(t)$ は $k[t]$ 加群として $t$ 倍で消える捩れをもつので平坦でなく、$i$ は滑らかでない。より一般に、像が開集合でない閉埋め込みは滑らかでない。滑らかな射は開写像だからである(rem-smooth-morphism-flat)。
もう 1 つの例として、原点でのブローアップ $\pi\colon\operatorname{Bl}_0\mathbb{A}^2_k\to\mathbb{A}^2_k$ を考える。$\pi$ は原点以外では同型だが、原点上のファイバーは $\mathbb{P}^1_k$ で 1 次元である。局所Noetherスキームの間の平坦射 $f\colon X\to S$ では、各点 $x$ でファイバー $X_{f(x)}$ の局所環の次元が $\dim\mathcal{O}_{X_{f(x)},x}=\dim\mathcal{O}_{X,x}-\dim\mathcal{O}_{S,f(x)}$ をみたす(EGA4 IV 6.1.2)。例外因子 $E\cong\mathbb{P}^1_k$ の閉点 $x$ では $\dim\mathcal{O}_{X,x}=2=\dim\mathcal{O}_{\mathbb{A}^2,0}$ だから右辺は $0$ であるのに、左辺は $\dim\mathcal{O}_{E,x}=1$ である。よって $\pi$ は平坦でなく、したがって滑らかでない。この 2 例は、ファイバーがすべて正則でも平坦性なしには滑らかさが従わないことを示す。

性質

Kähler 微分と Jacobi 判定法

滑らかな射のもっとも基本的な帰結は、相対Kähler微分の層 $\Omega^1_{X/S}$ が局所自由層になることである。これは可微分多様体の沈め込みで相対接束がベクトル束になることの代数版であり、de Rhamコホモロジーの定義($\Omega^p_{X/S}=\bigwedge^p\Omega^1_{X/S}$ が階数 $\binom np$ の局所自由層であること)の前提になる。

相対微分の層の局所自由性

$f\colon X\to S$ が点 $x$ において相対次元 $n$ で滑らかならば、$x$ のある開近傍 $U$ の上で $\Omega^1_{X/S}|_U$ は階数 $n$ の自由 $\mathcal{O}_U$ 加群(自由加群)である。より精密に、$x$ の近傍で $f$ が標準滑らかな表示 $B=A[x_1,\dots,x_{n+c}]/(f_1,\dots,f_c)$(最初の $c$ 変数に関する Jacobi 行列式 $\Delta$ が単元)をもてば、$\Omega_{B/A}$ は $dx_{c+1},\dots,dx_{n+c}$ を基底とする階数 $n$ の自由 $B$ 加群である。

余法完全列による計算

def-smooth-morphism-jacobi により、$x$ のアフィン開近傍 $\operatorname{Spec}B$ と $f(x)$ のアフィン開近傍 $\operatorname{Spec}A$ で、$B=P/I$、$P:=A[x_1,\dots,x_N]$、$I:=(f_1,\dots,f_c)$、$N:=n+c$ という標準滑らかな表示をもつものがとれる(相対次元の一致は thm-smooth-morphism-equivalence による)。$\Omega^1_{X/S}|_{\operatorname{Spec}B}$ は $\Omega_{B/A}$ に付随する準連接層だから、$\Omega_{B/A}$ が $dx_{c+1},\dots,dx_N$ を基底とする自由加群であることを示せばよい。
Kähler 微分の余法完全列(Kähler微分の記事の基本完全列。Har77 II.8.4A、Mat89 定理 25.2)により、$B$ 加群の完全列
$$ I/I^2\xrightarrow{\ \delta\ }\Omega_{P/A}\otimes_PB\longrightarrow\Omega_{B/A}\longrightarrow0,\qquad\delta(\bar g)=dg\otimes1 $$
がある。$\Omega_{P/A}$ は $dx_1,\dots,dx_N$ を基底とする自由 $P$ 加群だから(Mat89 §26)、$\Omega_{P/A}\otimes_PB$ は $dx_1,\dots,dx_N$ を基底とする自由 $B$ 加群 $B^{\oplus N}$ である。$I/I^2$ は $B$ 加群として $\bar f_1,\dots,\bar f_c$ で生成されるので、$\delta$ の像は
$$ \omega_i:=df_i\otimes1=\sum_{j=1}^N\frac{\partial f_i}{\partial x_j}\,dx_j\qquad(1\le i\le c) $$
が生成する部分加群である。ここで $B^{\oplus N}$ の元の組 $(\omega_1,\dots,\omega_c,dx_{c+1},\dots,dx_N)$ を考える。基底 $(dx_1,\dots,dx_N)$ に関するその係数行列は、$c\times c$ の左上ブロックが $J:=(\partial f_i/\partial x_j)_{1\le i,j\le c}$、右下ブロックが単位行列、左下ブロックが零行列のブロック三角行列であり、その行列式は $\det J=\Delta$ で $B$ の単元である。したがってこの係数行列は $B$ 上の可逆行列であり、$(\omega_1,\dots,\omega_c,dx_{c+1},\dots,dx_N)$ は $B^{\oplus N}$ の基底である(自由加群の基底の変換行列が可逆なら像も基底である)。ゆえに
$$ \Omega_{B/A}\cong B^{\oplus N}\Big/\bigl(B\omega_1+\dots+B\omega_c\bigr)\cong\bigoplus_{j=c+1}^NB\,dx_j $$
は $dx_{c+1},\dots,dx_N$ を基底とする階数 $N-c=n$ の自由 $B$ 加群である。

逆向きの言明と局所自由性の使いどころ

逆に、$f$ が局所有限表示・平坦で、各点 $x$ で $\Omega^1_{X/S}$ が $x$ の近傍で階数 $\dim_xX_{f(x)}$ の局所自由層ならば、$f$ は滑らかである(EGA4 IV §17.15、Stacks Morphisms 章「Smooth morphisms」節)。したがって「平坦かつ $\Omega^1$ が正しい階数の局所自由層」も滑らかさの特徴づけになる。この命題の $S=\operatorname{Spec}k$ の場合は、$X$ が $k$ 上滑らかな多様体なら $\Omega^p_{X/k}$ が階数 $\binom np$ の局所自由層(代数的な微分形式の束)になることを与え、微分形式の複体 $\Omega^\bullet_{X/k}$ を定義する土台になる。ex-smooth-morphism-cusp と ex-smooth-morphism-inseparable は、滑らかでないとき $\Omega^1$ がそれぞれ「局所自由でない」「階数が相対次元を超える」例である。

Jacobi 判定法の表示から幾何学的ファイバーの正則性が従うことは、Zariski 接空間の次元を数えることで直接に示せる。

標準滑らかな代数のファイバーの正則性

$k$ を代数閉体、$B=k[x_1,\dots,x_N]/(f_1,\dots,f_c)$ を $k$ 上標準滑らかな代数(最初の $c$ 変数に関する Jacobi 行列式 $\Delta$ が $B$ の単元)とする。このとき $\operatorname{Spec}B$ は正則スキームで、その既約成分はすべて次元 $N-c$ をもつ。したがって def-smooth-morphism-jacobi の意味で滑らかな射の幾何学的ファイバーは正則であり、その各点での次元は表示の相対次元 $N-c$ に等しい。

接空間の次元と Krull の定理

$P:=k[x_1,\dots,x_N]$、$I:=(f_1,\dots,f_c)$、$B=P/I$ とおく。$k$ が代数閉体だから、Hilbert の零点定理により $\operatorname{Spec}B$ の閉点は $k$ 有理点 $a=(a_1,\dots,a_N)\in k^N$($f_i(a)=0$)と対応し、対応する極大イデアルは $\mathfrak{m}_a:=(x_1-a_1,\dots,x_N-a_N)/I$ である。
まず閉点 $a$ での局所環 $B_{\mathfrak{m}_a}$ が正則であることを示す。$\mathfrak{n}:=(x_1-a_1,\dots,x_N-a_N)\subset P$ とおく。$\mathfrak{n}/\mathfrak{n}^2$ は $k$ 上 $x_1-a_1,\dots,x_N-a_N$ の類を基底とする $N$ 次元ベクトル空間で、$g\in\mathfrak{n}$ の類は $a$ での Taylor展開の 1 次の部分 $\sum_j\frac{\partial g}{\partial x_j}(a)\,(x_j-a_j)$ である。$B_{\mathfrak{m}_a}$ の極大イデアルを $\mathfrak{m}$ と書くと $\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2\cong\mathfrak{n}/(\mathfrak{n}^2+I)$ であり、$I\subset\mathfrak{n}$ の $\mathfrak{n}/\mathfrak{n}^2$ での像は、$gf_i\equiv g(a)f_i\pmod{\mathfrak{n}^2}$($g\in P$)に注意すると、$f_1,\dots,f_c$ の 1 次の部分 $\ell_i:=\sum_j\frac{\partial f_i}{\partial x_j}(a)\,(x_j-a_j)$ が張る部分空間である。よって
$$ \dim_k\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2=N-\operatorname{rank}\Bigl(\frac{\partial f_i}{\partial x_j}(a)\Bigr)_{1\le i\le c,\ 1\le j\le N}. $$
$\Delta$ が $B$ の単元だから $\Delta(a)\ne0$ であり、この $c\times N$ 行列は $c\times c$ の非零小行列式をもつので階数はちょうど $c$ である。ゆえに $\dim_k\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2=N-c$。
一方、$\operatorname{Spec}B=V(f_1,\dots,f_c)\subset\mathbb{A}^N_k$ の各既約成分は、Krullの単項イデアル定理(Mat89 定理 13.5、Har77 I.1.11A)により次元 $N-c$ 以上である。$a$ を含む既約成分 $Z$ をとると、$k$ 上有限型のスキームでは閉点での局所環の次元はその点を含む既約成分の次元の最大値に等しいので(Har77 II 演習 3.20)、$\dim B_{\mathfrak{m}_a}\ge\dim Z\ge N-c$。他方、任意の Noether 局所環(Noether環である局所環)で $\dim\le\dim_k\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ が成り立つ(Mat89 §13・§14)。合わせて $\dim B_{\mathfrak{m}_a}=N-c=\dim_k\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2$ となり、$B_{\mathfrak{m}_a}$ は正則局所環である。同時に、$a$ を含む既約成分の次元はすべて $N-c$ 以下かつ以上、すなわち $N-c$ に等しい。既約成分はどれも閉点を含むので、$\operatorname{Spec}B$ のすべての既約成分の次元は $N-c$ である。
閉点でない点 $\mathfrak{p}$ での局所環 $B_{\mathfrak{p}}$ は、$\mathfrak{p}$ を含むある極大イデアル $\mathfrak{m}_a$ について正則局所環 $B_{\mathfrak{m}_a}$ の局所化であり、正則局所環の素イデアルでの局所化は正則である(Serre の定理、Mat89 定理 19.3)。よって $\operatorname{Spec}B$ は正則スキームである。
最後に、$A$ 代数 $B=A[x_1,\dots,x_N]/(f_1,\dots,f_c)$ が標準滑らかなら、$S=\operatorname{Spec}A$ の点 $s$ 上の幾何学的ファイバーは $B\otimes_A\bar\kappa(s)=\bar\kappa(s)[x_1,\dots,x_N]/(\bar f_1,\dots,\bar f_c)$ のスペクトルで、$\Delta$ の像はその単元だから、これは $\bar\kappa(s)$ 上標準滑らかである。上の議論を $k=\bar\kappa(s)$ に適用すればよい。

平坦性と同値性の残りの部分

def-smooth-morphism-jacobi の意味で滑らかな射が平坦であることの証明の筋は次のとおりである。標準滑らかな $B=A[x_1,\dots,x_N]/(f_1,\dots,f_c)$ について、まず $A$ を有限生成 $\mathbb{Z}$ 代数(したがって Noether環)に取り替えてよく(係数を含む部分環への降下)、Noether 環 $A$ の各素イデアル $\mathfrak{p}$ での局所化で考えると、prop-smooth-morphism-jacobi-regular によりファイバー $\kappa(\mathfrak{p})[x]/(\bar f)$ は次元 $N-c$ の正則スキームなので $\bar f_1,\dots,\bar f_c$ はファイバーの各局所環で正則列をなし、平坦性の局所判定法(Mat89 定理 22.3・22.5)により $B$ は $A$ 上平坦である。完全な証明は EGA4 IV 17.5.1・§11.3、Stacks Algebra 章「Smooth ring maps」節(標準滑らかな代数が相対的完全交叉で平坦なこと)に譲る。逆に def-smooth-morphism-fiber の意味で滑らかな射が局所的に標準滑らかな表示をもつこと(thm-smooth-morphism-equivalence の 1 から 2)は、ファイバーの正則性から Jacobi 行列式の消えない方程式系を選び、平坦性を使って底変換で表示が保たれることを示す議論であり、EGA4 IV 17.5.2・§17.11 と Stacks Morphisms 章「Smooth morphisms」節に譲る。
平坦性の帰結として、滑らかな射は開写像である(局所有限表示の平坦射は開写像。EGA4 IV 2.4.6)。また滑らかな射のファイバーは幾何学的に正則、とくに幾何学的に被約かつ幾何学的に正規である(EGA4 IV §17.5)。

底変換と合成

滑らかさの局所性

滑らかさは $X$ と $S$ の双方について局所的な性質である。すなわち、$f\colon X\to S$ が $x$ で滑らかなら、$x$ を含む任意のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}B\subset X$ と $f(x)$ を含む任意のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A\subset S$ で $f(\operatorname{Spec}B)\subset\operatorname{Spec}A$ なるものに対し、$x\in D(g)$ なる $g\in B$ があって $B_g$ は標準滑らかな $A$ 代数になる(Stacks Algebra 章「Smooth ring maps」節、Morphisms 章「Smooth morphisms」節)。とくに標準滑らかな $A$ 代数 $B$ と $g\in B$ について $B_g$ は標準滑らかである。実際 $B=A[x_1,\dots,x_N]/(f_1,\dots,f_c)$ のとき $B_g=A[x_1,\dots,x_N,t]/(f_1,\dots,f_c,\tilde gt-1)$($\tilde g$ は $g$ の持ち上げ)であり、変数を $x_1,\dots,x_c,t,x_{c+1},\dots,x_N$ の順に並べると Jacobi 行列式はブロック三角行列の行列式 $\Delta\cdot\tilde g$ で、$B_g$ の単元である。以下の証明ではこの局所性を用いる。

底変換と合成
  1. (底変換)$f\colon X\to S$ が相対次元 $n$ で滑らかなら、任意の射 $S'\to S$ に対し、底変換 $f'\colon X':=X\times_SS'\to S'$ は相対次元 $n$ で滑らかである。
  2. (合成)$f\colon X\to Y$ が相対次元 $n$ で滑らか、$g\colon Y\to Z$ が相対次元 $m$ で滑らかならば、合成 $g\circ f\colon X\to Z$ は相対次元 $n+m$ で滑らかである。
  3. (積)$X\to S$、$Y\to S$ が滑らかなら $X\times_SY\to S$ は滑らかである。
Jacobi 行列式の計算
  1. $x'\in X'$ をとり、その $X$ での像を $x$、$S'$ での像を $s'$ とする。def-smooth-morphism-jacobi により、$x$ のアフィン開近傍 $\operatorname{Spec}B$ と $f(x)$ のアフィン開近傍 $\operatorname{Spec}A$ で、$B=A[x_1,\dots,x_N]/(f_1,\dots,f_c)$ が標準滑らか(Jacobi 行列式 $\Delta$ が単元、$N-c=n$)なものがとれる。$s'$ のアフィン開近傍 $\operatorname{Spec}A'$ を $\operatorname{Spec}A$ の逆像の中にとると、ファイバー積の構成により $\operatorname{Spec}B\times_{\operatorname{Spec}A}\operatorname{Spec}A'=\operatorname{Spec}(B\otimes_AA')$ は $x'$ のアフィン開近傍であり、
    $$ B\otimes_AA'\cong A'[x_1,\dots,x_N]/(f_1,\dots,f_c) $$
    である(多項式環と剰余環はテンソル積と交換する)。$f_i$ の $A'$ 係数での偏導関数は $A$ 係数での偏導関数の像だから、Jacobi 行列式は $\Delta$ の像であり、単元の像は単元である。よって $B\otimes_AA'$ は $A'$ 上相対次元 $n$ の標準滑らかな代数であり、$f'$ は $x'$ で相対次元 $n$ で滑らかである。
  2. $x\in X$ をとり、$y:=f(x)$、$z:=g(y)$ とおく。$z$ のアフィン開近傍 $\operatorname{Spec}C$ と、$g^{-1}(\operatorname{Spec}C)$ に含まれる $y$ のアフィン開近傍 $\operatorname{Spec}B$ をとると、rem-smooth-morphism-local により $B$ を基本開集合に取り替えて $B=C[x_1,\dots,x_N]/(f_1,\dots,f_c)$ が標準滑らか(Jacobi 行列式 $\Delta_f$、$N-c=m$)としてよい。次に $f^{-1}(\operatorname{Spec}B)$ に含まれる $x$ のアフィン開近傍 $\operatorname{Spec}A$ をとり、同様に $A=B[y_1,\dots,y_M]/(g_1,\dots,g_d)$ が標準滑らか(Jacobi 行列式 $\Delta_g$、$M-d=n$)としてよい。$g_j\in B[y]$ の係数を $C[x]$ に持ち上げた多項式を $\tilde g_j\in C[x_1,\dots,x_N,y_1,\dots,y_M]$ とすると、
    $$ A\cong C[x_1,\dots,x_N,y_1,\dots,y_M]/(f_1,\dots,f_c,\tilde g_1,\dots,\tilde g_d) $$
    である。変数を $x_1,\dots,x_c,y_1,\dots,y_d,x_{c+1},\dots,x_N,y_{d+1},\dots,y_M$ の順に並べ、方程式を $f_1,\dots,f_c,\tilde g_1,\dots,\tilde g_d$ の順に並べると、最初の $c+d$ 変数に関する Jacobi 行列は、左上に $(\partial f_i/\partial x_j)_{i,j\le c}$、右下に $(\partial\tilde g_i/\partial y_j)_{i,j\le d}$、右上に零行列($f_i$ は $y$ を含まない)をもつブロック三角行列である。その行列式は $\det(\partial f_i/\partial x_j)\cdot\det(\partial\tilde g_i/\partial y_j)$ であり、$A$ における像は $\Delta_f$ の像と $\Delta_g$ の積である。$\Delta_f$ は $B$ の単元だから $A$ でも単元であり、$\partial\tilde g_i/\partial y_j$ の $A$ での像は $\partial g_i/\partial y_j$ の像に等しいので後者の因子は $\Delta_g$ で、これも単元である。よって $A$ は $C$ 上標準滑らかで、その相対次元は $(N+M)-(c+d)=m+n$ である。
  3. $X\times_SY\to Y$ は $X\to S$ の底変換だから 1 により滑らかであり、$Y\to S$ との合成が $X\times_SY\to S$ だから 2 により滑らかである。

エタール射と局所構造

エタール射との関係

スキームの射 $f\colon X\to S$ について次は同値である。

  1. $f$ はエタール射である(局所有限表示・平坦・不分岐射)。
  2. $f$ は相対次元 $0$ で滑らかである。
  3. $f$ は滑らかかつ $\Omega^1_{X/S}=0$ である。
エタール射との関係の出典

証明は EGA4 IV 17.6.1・17.6.2 と Stacks Morphisms 章「Étale morphisms」節、Milne Mil80 I §3 に譲る。2 から 3 は prop-smooth-morphism-differentials の帰結である。標準滑らかな表示の言葉では、エタール射とは方程式の個数と変数の個数が一致する($c=N$)標準滑らかな表示を局所的にもつ射、すなわち $A[x_1,\dots,x_c]/(f_1,\dots,f_c)$ で $\det(\partial f_i/\partial x_j)$ が単元となるものである。滑らかな射は一般には準有限射でないが、エタール射は準有限である。

滑らかな射の局所構造

$f\colon X\to S$ が点 $x$ で相対次元 $n$ で滑らかならば、$x$ の開近傍 $U$ と $S$ 上のエタール射 $\pi\colon U\to\mathbb{A}^n_S$ が存在する。すなわち $f|_U$ は $U\xrightarrow{\pi}\mathbb{A}^n_S\to S$ と分解する。

標準滑らかな表示の並べ替え

def-smooth-morphism-jacobi により、$x$ のアフィン開近傍 $\operatorname{Spec}B$ と $f(x)$ のアフィン開近傍 $\operatorname{Spec}A$ で $B=A[x_1,\dots,x_{n+c}]/(f_1,\dots,f_c)$ が標準滑らかなものがとれる。$A':=A[x_{c+1},\dots,x_{n+c}]$ とおくと $\operatorname{Spec}A'=\mathbb{A}^n_{\operatorname{Spec}A}$ であり、
$$ B=A'[x_1,\dots,x_c]/(f_1,\dots,f_c) $$
は $A'$ 代数として、最初の $c$ 変数に関する Jacobi 行列式が同じ $\Delta$ である標準滑らかな表示をもつ。その相対次元は $c-c=0$ だから、prop-smooth-morphism-etale により $\pi\colon\operatorname{Spec}B\to\operatorname{Spec}A'=\mathbb{A}^n_{\operatorname{Spec}A}\subset\mathbb{A}^n_S$ はエタール射である。$U:=\operatorname{Spec}B$ とすればよい。

局所構造の出典と使いどころ

この定理は Grothendieck–Dieudonné EGA4 IV 17.11.4 の言明であり、上の証明は同値性 thm-smooth-morphism-equivalence と prop-smooth-morphism-etale を認めたうえでのものである。座標関数 $x_{c+1},\dots,x_{n+c}$ の $U$ への引き戻し $t_1,\dots,t_n$ を $x$ の近傍のエタール座標といい、$dt_1,\dots,dt_n$ は $\Omega^1_{X/S}|_U$ の基底である(prop-smooth-morphism-differentials)。エタール座標は、可微分多様体の局所座標の代用として、滑らかな多様体上の微分形式の局所計算や正規交叉因子の定義に使われる。

体上の場合と Hensel 局所環上の場合

$S=\operatorname{Spec}k$ が体のスペクトルのとき、局所有限型の $X\to\operatorname{Spec}k$ が滑らかであることは $X$ が幾何学的に正則(任意の拡大体 $k'$ について $X\otimes_kk'$ が正則)であることと同値であり、$k$ が完全体ならこれは $X$ が正則であることと同値である(EGA4 IV 17.5.2・§6.7、Har77 III.10.2 は $k$ が代数閉体の場合)。$k=\mathbb{C}$ のとき、$X$ が $\mathbb{C}$ 上相対次元 $n$ で滑らかなら、その解析化 $X^{\mathrm{an}}$ は $n$ 次元の複素多様体である(GAGA。Jacobi 判定法と正則関数の陰関数定理による)。
$A$ が Hensel局所環、$k$ をその剰余体とし、$X\to\operatorname{Spec}A$ が滑らかなら、$k$ 有理点 $X(k)$ の任意の元は $A$ 有理点 $X(A)$ に持ち上がる(EGA4 IV 18.5.17、Bosch–Lütkebohmert–Raynaud BLR90 2.3 命題 5)。これは形式的滑らかさ(無限小の持ち上げ)を Hensel 環上の実際の持ち上げに変える主張であり、群スキームのコホモロジーの比較定理やエタール位相と fppf位相 の比較で使われる。

関連項目

参考文献

[1]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique IV : Étude locale des schémas et des morphismes de schémas, Publications Mathématiques de l'IHÉS 20, 24, 28, 32, 1964, IV 2.4.6(平坦・局所有限表示な射は開写像)、6.1.2(平坦射のファイバー次元)、§6.7(幾何学的正則性)、§11.3(ファイバーによる平坦性判定)、17.5.1・17.5.2(滑らかさの同値な特徴づけ)、17.6.1・17.6.2(エタール射)、§17.11・17.11.4(局所構造:アフィン空間へのエタール射)、§17.15($\Omega^1$ による判定)、18.5.17(Hensel 局所環上の有理点の持ち上げ)
[2]
The Stacks Project Authors, The Stacks Project, The Stacks Project Authors, 閲覧日 2026年9月22日
[3]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, I.1.11A(Krull の単項イデアル定理)、I.5(非特異性と Jacobi 判定法)、II 演習 3.20、II.8.4A(余法完全列)、III.10(滑らかな射、10.2)
[4]
Hideyuki Matsumura, Commutative Ring Theory, Cambridge University Press, 1989, §13・§14(次元と正則局所環、定理 13.5)、定理 19.3(正則局所環の局所化)、定理 22.3・22.5(平坦性の局所判定)、定理 25.2(余法完全列)、§26(多項式環の微分加群)、§28・§29(形式的滑らかさ)
[5]
James S. Milne, Étale Cohomology, Princeton University Press, 1980, I §3(エタール射と滑らかな射)
[6]
Siegfried Bosch, Werner Lütkebohmert, Michel Raynaud, Néron Models, Springer, 1990, 2.2(滑らかな射の基本性質)、2.3 命題 5(Hensel 局所環上の有理点の持ち上げ)

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