多重ゼータ値の連結和法(connected sum method for multiple zeta values)とは、複数の級数をコネクターで結んだ補助級数を作り、望遠鏡和や部分分数分解から得る輸送関係を用いて、一方の境界値を他方へ移す証明法である。階乗コネクターは添字の末尾操作を左右の級数間で交換し、多重ゼータ値の双対性を反復積分なしに導く。
多重ゼータ値の等式には、級数表示から直接見ると左辺と右辺の形が大きく異なるものがある。連結和法は、二つの添字集合をコネクターと呼ばれる因子で結んだ補助級数を導入し、その上で単純な局所変形を繰り返して一方の境界値を他方の境界値へ運ぶ方法である。Seki--Yamamotoはこの方法を用いて、反復積分を使わずに多重ゼータ値の双対性を証明した SY19。
模式的には、示したい等式 $A=B$ の間に
$$
A=Z_0=Z_1=\cdots=Z_N=B
$$
という補助量の列を作る。端点を元の対象へ戻す等式を境界条件、隣接する補助量を結ぶ等式を輸送関係という。実際の連結和は、単なる補間ではなく、輸送関係が望遠鏡和や部分分数分解で証明できるよう設計される。
多重ゼータ値の連結和法(connected sum method for multiple zeta values)とは、次の三段階で多重ゼータ値の関係式を示す方法である。
連結和という名称は、位相多様体の連結和とは別の文脈で使われている。本記事では多重ゼータ値の級数を結ぶ方法だけを扱う。
正整数の有限列
$$
\boldsymbol{k}=(k_1,\ldots,k_r)
$$
をインデックスという。空列を $\varnothing$ と書く。空でないインデックスについて
$$
\boldsymbol{k}_{\rightarrow}:=(k_1,\ldots,k_r,1),
\qquad
\boldsymbol{k}_{\uparrow}:=(k_1,\ldots,k_r+1)
$$
とおき、$\varnothing_{\rightarrow}:=(1)$ と約束する。最後の成分が $2$ 以上のインデックスを許容インデックスという。
許容インデックス $\boldsymbol{k}$ に対する多重ゼータ値は
$$
\zeta(\boldsymbol{k})
=\sum_{0< m_1<\cdots< m_r}
\frac{1}{m_1^{k_1}\cdots m_r^{k_r}}
$$
である。本記事は分母の添字を小さい順に並べる規約を採るので、許容条件は最後の成分 $k_r\geq2$ である。
インデックスを $0,1$ の語
$$
W(\boldsymbol{k})
:=1\,0^{k_1-1}\cdots1\,0^{k_r-1}
$$
で符号化する。語を逆順にし、さらに $0$ と $1$ を交換する操作を $\tau$ と書く。
許容インデックス $\boldsymbol{k}$ の双対インデックス $\boldsymbol{k}^{\dagger}$ を
$$
W(\boldsymbol{k}^{\dagger})=\tau(W(\boldsymbol{k}))
$$
によって定める。
例えば
$$
W((3))=100,\qquad \tau(100)=110=W((1,2))
$$
なので $(3)^{\dagger}=(1,2)$ である。また双対操作を二回行えば元に戻る。
任意の許容インデックス $\boldsymbol{k}$ に対して
$$
(\boldsymbol{k}^{\dagger})^{\dagger}=\boldsymbol{k}
$$
が成り立つ。
有限語を逆順にする操作も、各文字 $0,1$ を交換する操作も、それぞれ二回行えば恒等操作になる。この二操作は可換だから $\tau^2$ は恒等操作である。したがって
$$
W((\boldsymbol{k}^{\dagger})^{\dagger})
=\tau^2(W(\boldsymbol{k}))
=W(\boldsymbol{k}).
$$
符号化 $W$ は単射なので結論を得る。
非負整数 $m,n$ に対して
$$
C(m,n):=\frac{m!n!}{(m+n)!}
=\binom{m+n}{m}^{-1}
$$
とおく。これが双対性の連結和に使うコネクターである。$C(m,n)=C(n,m)$ であり、$C(m,0)=C(0,m)=1$ である。
$m\geq0$、$n\geq1$ に対して
$$
\sum_{a=m+1}^{\infty}\frac{1}{a}C(a,n)
=\frac{1}{n}C(m,n)
$$
が成り立つ。
各 $a\geq1$ について
$$
\frac{1}{a}C(a,n)
=\frac{(a-1)!n!}{(a+n)!}.
$$
一方、
$$
\frac{1}{n}\bigl(C(a-1,n)-C(a,n)\bigr)
$$
$$
=\frac{1}{n}\left(
\frac{(a-1)!n!}{(a+n-1)!}
-\frac{a!n!}{(a+n)!}
\right)
=\frac{(a-1)!n!}{(a+n)!}
$$
である。したがって部分和は
$$
\sum_{a=m+1}^{N}\frac{1}{a}C(a,n)
=\frac{1}{n}\bigl(C(m,n)-C(N,n)\bigr)
$$
となる。固定した $n\geq1$ に対して
$$
C(N,n)=\frac{n!}{(N+1)(N+2)\cdots(N+n)}\longrightarrow0
$$
だから、$N\to\infty$ として主張を得る。
この恒等式の右辺に現れる $1/n$ が、一方のインデックスの末尾にある $1$ を、他方のインデックスの最後の成分の増加へ移す。
空でないインデックス
$$
\boldsymbol{k}=(k_1,\ldots,k_r),\qquad
\boldsymbol{l}=(l_1,\ldots,l_s)
$$
に対して
$$
Z(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l})
:=\sum_{\substack{0< m_1<\cdots< m_r\\0< n_1<\cdots< n_s}}
\frac{1}{m_1^{k_1}\cdots m_r^{k_r}}
C(m_r,n_s)
\frac{1}{n_1^{l_1}\cdots n_s^{l_s}}
$$
と定める。これを双対性の連結和という。空の側については、許容インデックス $\boldsymbol{k}$ に対し境界条件
$$
Z(\boldsymbol{k};\varnothing)
=Z(\varnothing;\boldsymbol{k})
:=\zeta(\boldsymbol{k})
$$
で定める。
一般に非許容なインデックスを含む多重ゼータ級数は発散しうる。しかし二つの側が空でない連結和では、階乗コネクターが十分な減衰を与え、ここで用いる級数は絶対収束する。この収束性を含む構成は SY19 の導入部とTheorem 2.2--Corollary 2.3 を参照されたい。全項が非負なので、以下の証明ではTonelliの定理により和の順序を交換できる。
適切に定義されるインデックスに対して
$$
Z(\boldsymbol{k}_{\rightarrow};\boldsymbol{l})
=Z(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l}_{\uparrow}),
$$
$$
Z(\boldsymbol{k}_{\uparrow};\boldsymbol{l})
=Z(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l}_{\rightarrow})
$$
が成り立つ。第1式では $\boldsymbol{k}$ が空でもよく、第2式では $\boldsymbol{l}$ が空でもよい。
まず $\boldsymbol{l}\ne\varnothing$ とする。$\boldsymbol{k}_{\rightarrow}$ の末尾の和の変数を $a$、その直前を $m_r$ と書く。$\boldsymbol{k}=\varnothing$ のときは $m_r=0$ と読む。$a$ に依存する部分へ補題を適用すると
$$
\sum_{a=m_r+1}^{\infty}\frac{1}{a}C(a,n_s)
=\frac{1}{n_s}C(m_r,n_s).
$$
左辺は $Z(\boldsymbol{k}_{\rightarrow};\boldsymbol{l})$ に現れる末尾変数の和であり、右辺の $1/n_s$ は $l_s$ を $l_s+1$ に変える。残りの変数について和を取れば
$$
Z(\boldsymbol{k}_{\rightarrow};\boldsymbol{l})
=Z(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l}_{\uparrow})
$$
を得る。
定義と $C(m,n)=C(n,m)$ から
$$
Z(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l})=Z(\boldsymbol{l};\boldsymbol{k})
$$
である。第1式にこの対称性を適用すれば
$$
Z(\boldsymbol{k}_{\uparrow};\boldsymbol{l})
=Z(\boldsymbol{l};\boldsymbol{k}_{\uparrow})
=Z(\boldsymbol{l}_{\rightarrow};\boldsymbol{k})
=Z(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l}_{\rightarrow})
$$
となり、第2式も従う。空の側を含む端点では、これは上で定めた境界条件と同じ極限等式である。
任意の許容インデックス $\boldsymbol{k}$ に対して
$$
\zeta(\boldsymbol{k})=\zeta(\boldsymbol{k}^{\dagger})
$$
が成り立つ。
境界条件から出発して
$$
\zeta(\boldsymbol{k})=Z(\boldsymbol{k};\varnothing)
$$
と書く。左側のインデックスの末尾を一文字ずつ処理する。
$W(\boldsymbol{k})$ の末尾が $0$ なら、$\boldsymbol{k}=\boldsymbol{h}_{\uparrow}$ と一意に書ける。輸送関係の第2式を右向きに使い
$$
Z(\boldsymbol{h}_{\uparrow};\boldsymbol{l})
=Z(\boldsymbol{h};\boldsymbol{l}_{\rightarrow})
$$
とする。この操作は左の語の末尾の $0$ を消し、右の語の末尾に $1$ を加える。
$W(\boldsymbol{k})$ の末尾が $1$ なら、$\boldsymbol{k}=\boldsymbol{h}_{\rightarrow}$ と一意に書ける。輸送関係の第1式を右向きに使い
$$
Z(\boldsymbol{h}_{\rightarrow};\boldsymbol{l})
=Z(\boldsymbol{h};\boldsymbol{l}_{\uparrow})
$$
とする。この操作は左の語の末尾の $1$ を消し、右の語の末尾に $0$ を加える。
したがって、左の語を右端から順に消すたびに、消した文字を $0\leftrightarrow1$ と交換して右の語へ付け加える。有限回後には左側が空になり、右側の語は
$$
\tau(W(\boldsymbol{k}))=W(\boldsymbol{k}^{\dagger})
$$
となる。よって
$$
Z(\boldsymbol{k};\varnothing)
=Z(\varnothing;\boldsymbol{k}^{\dagger})
=\zeta(\boldsymbol{k}^{\dagger}).
$$
左端は $\zeta(\boldsymbol{k})$ なので結論を得る。
$(3)^{\dagger}=(1,2)$ に対する輸送は具体的に
$$
Z((3);\varnothing)
=Z((2);(1))
=Z((1);(1,1))
=Z(\varnothing;(1,2))
$$
である。最初の二回は末尾の指数を一つ下げ、その $0$ を右側の $1$ へ移す。最後は左側の末尾の $1$ を右側の最後の指数増加へ移す。境界条件により
$$
\zeta(3)=\zeta(1,2)
$$
を得る。
階乗コネクターは、単に二つの和を掛け合わせる装飾ではない。望遠鏡和
$$
\frac{1}{a}C(a,n)
=\frac{C(a-1,n)-C(a,n)}{n}
$$
が、添字操作 $\rightarrow$ と $\uparrow$ を交換する輸送関係を生む。この「コネクターの差分恒等式」と「境界で元の値を回復すること」の両方がそろって初めて連結和法になる。
コネクターを恒等的に $1$ と置き換えると、最も単純な中間量だけでも
$$
\sum_{m\geq1}\sum_{n\geq1}\frac{1}{mn}
$$
となって発散する。また望遠鏡和の差分恒等式も失われる。したがって「任意の補助二重和が連結和法を与える」という主張は誤りであり、この級数が反例になる。収束と輸送可能性を同時に満たすコネクターの設計が方法の核心である。
双対性以外にも、コネクターを変えることでOhno関係式、その $q$ 類似、調和積・シャッフル積に関する関係式へ連結和法を応用できる。ただし、それぞれ収束領域、境界条件、輸送関係が異なる。本記事の階乗コネクターの式を仮定なしに流用することはできない。発展例とコネクターの比較は Sek20 を参照されたい。
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