Fréchet空間(Fréchet space)とは、局所凸で距離化可能かつ完備な位相ベクトル空間のことである。位相は点を分ける可算個の半ノルム $p_1,p_2,\dots$ で定まり、$d(x,y)=\sum_k2^{-k}p_k(x-y)/(1+p_k(x-y))$ が位相を与える平行移動不変な距離になる。Banach空間のほか、開集合上の連続関数や滑らかな関数の空間、正則関数の空間、Schwartz空間 $\mathcal{S}(\mathbb{R}^n)$ が例であり、滑らかな関数の空間や $\mathcal{S}(\mathbb{R}^n)$ の位相はどのノルムからも生じない。完備距離空間なのでBaireの定理が使え、Fréchet空間から局所凸空間への連続線形写像の族は各点で有界なら同程度連続で、連続線形写像の各点収束極限は連続になる。
前提知識: 位相ベクトル空間, Banach空間, 完備距離空間, Baireのカテゴリー定理
Banach空間 は 1 つのノルムで大きさを測る空間である。しかし解析で使う関数空間には、1 つのノルムでは測りきれないものが多い。たとえば開集合 $\Omega\subset\mathbb R^n$ 上の滑らかな関数の空間 $C^\infty(\Omega)$ で「$f_j\to f$」と言いたいのは、どの階数の導関数も、どのコンパクト集合の上でも一様に収束することであり、これは可算無限個の半ノルムを同時に小さくするという条件である。Fréchet 空間 は、このように可算個の半ノルムで位相が決まり、しかも完備な位相ベクトル空間である。完備な距離空間なので Baire のカテゴリー定理が使え、一様有界性の原理などの Banach 空間の基本定理の多くが Fréchet 空間に拡張される(Bre11 Chapter 2 の Comments 2、p. 48)。
この記事で示すことは次のとおりである。
$\mathbb K$ を $\mathbb R$ または $\mathbb C$ とする。位相ベクトル空間 の記事と同じく、位相ベクトル空間は Hausdorff とし、半ノルム・局所凸・均衡の語もそこでの意味で使う。位相ベクトル空間 $V$ の点列 $(x_j)$ が Cauchy 列 であるとは、$0$ の任意の近傍 $U$ に対してある $N$ があり、$j,l\ge N$ なら $x_j-x_l\in U$ となることをいう。ノルム空間ではこれは通常の Cauchy 列と同じである。
位相ベクトル空間 $V$ が次の 3 条件を満たすとき、$V$ を Fréchet 空間(Fréchet space)という。
Banach空間 は Fréchet 空間である。条件 1・2 だけを満たす空間は Fréchet 空間でないこともある(後の反例の表)。定義は位相と線形構造だけで述べてあり、どの距離を使うかには依らない。実際に計算するときは、次の節のように可算個の半ノルムで書き直して使う(Tay18b §3、pp. 13–14 はこの形を定義として採っている)。
$V$ を $\mathbb K$ 上のベクトル空間とし、半ノルムの列 $p_1,p_2,\dots$ が 点を分ける、すなわち $x\ne0$ ならある $k$ で $p_k(x)>0$ となるとする。位相ベクトル空間 の定理「局所凸性と半ノルム族」の 1 により、有限個の条件 $p_{k_1}(y-x)<\varepsilon,\dots,p_{k_m}(y-x)<\varepsilon$ で $x$ の基本近傍を定めると、$V$ は局所凸な位相ベクトル空間になる。この位相を半ノルムの列が 定める位相 という。
$p_k$ を $\max(p_1,\dots,p_k)$ に取り替えても、定まる位相と下の Cauchy 列の条件は変わらない(有限個の $p_{k_i}$ についての条件は、その中の最大の番号 $K$ の $\max(p_1,\dots,p_K)$ についての条件と同じである)。そこで thm-frechet-metric より後では、必要なら $p_1\le p_2\le\cdots$ と仮定する($d$ は列の取り方で変わるので、thm-frechet-metric の 1・2 はこの仮定なしに示す)。このとき $x$ の基本近傍は $\{y\mid p_k(y-x)<\varepsilon\}$($k\ge1$、$\varepsilon>0$)の形だけで足りる。
1:$\rho(a):=a/(1+a)$($a\ge0$)は増加関数で、$\rho(a)\le a$、$\rho(a)\le1$ を満たし、
$$
\rho(a+b)=\frac{a}{1+a+b}+\frac{b}{1+a+b}\le\rho(a)+\rho(b)
$$
である。$p_k(x-z)\le p_k(x-y)+p_k(y-z)$ に増加関数 $\rho$ を当ててからこの不等式を使うと、各項について三角不等式が成り立つので、$d$ も三角不等式を満たす。級数は $\sum2^{-k}=1$ 以下で収束し、$p_k(-x)=p_k(x)$ から対称である。$d(x,y)=0$ ならすべての $k$ で $p_k(x-y)=0$ なので、点を分けることから $x=y$ である。平行移動不変性は $x-y$ だけで書けていることから分かる。
位相の一致を示す。どちらの位相でも、開集合は「各点のまわりにその点の基本近傍を含む集合」なので、各点 $x$ で次の (i)(ii) を示せばよい。
(i) $r>0$ に対し $2^{-N}< r/2$ となる $N$ をとると、$k\le N$ のすべてで $p_k(y-x)< r/2$ なら($\rho(a)\le a$ から)
$$
d(x,y)\le\sum_{k\le N}2^{-k}p_k(y-x)+\sum_{k>N}2^{-k}<\frac r2+2^{-N}< r
$$
である。よって半径 $r$ の球は基本近傍 $\{y\mid p_k(y-x)< r/2\ (k\le N)\}$ を含む。
(ii) $k$ と $\varepsilon>0$ に対し $r:=2^{-k}\rho(\varepsilon)$ とおく。$d(x,y)< r$ なら $2^{-k}\rho(p_k(y-x))\le d(x,y)<2^{-k}\rho(\varepsilon)$ なので $\rho(p_k(y-x))<\rho(\varepsilon)$、$\rho$ が増加なので $p_k(y-x)<\varepsilon$ である。よって基本近傍 $\{p_k(y-x)<\varepsilon\}$ は半径 $r$ の球を含む。
2:$0$ の基本近傍は有限個の $k$ についての条件 $p_k<\varepsilon$ で書けるので、(a) と (b) は同値である。$d(x_j,x_l)=d(x_j-x_l,0)$ に (i)(ii) を $x=0$ で当てると (b) と (c) も同値である。
3:$d_0$ を $V$ の位相を与える距離とし、$U_n:=\{x\mid d_0(x,0)<1/n\}$ とおく。位相ベクトル空間 の定理「局所凸性と半ノルム族」の証明の 2 では、$0$ の近傍 $O$ ごとに、凸かつ均衡な $0$ の近傍 $A\subset O$ をとり、その Minkowski 汎関数 $p_A$ が連続な半ノルムで $\{p_A<1\}\subset A$ となることを示している。$O=U_n$ に当てて得た半ノルムを $q_n$ とする。$x\ne0$ なら Hausdorff 性からある $n$ で $x\notin U_n$ であり、もし $q_n(x)=0$ なら $q_n(x)<1$ から $x\in\{q_n<1\}\subset U_n$ となって矛盾するので、$q_n(x)>0$ である。よって $(q_n)$ は点を分ける。各 $q_n$ は連続なので、$(q_n)$ の定める位相は元の位相より弱い。逆に元の位相での $x$ の近傍は、ある $x+U_n$ を含み、$x+U_n\supset\{y\mid q_n(y-x)<1\}$ なので、$(q_n)$ の定める位相での近傍でもある。
最後の主張は、1・2・3 と、定める位相が局所凸であることを合わせたものである。$\blacksquare$
1 の距離の形は Tay18b §3 の式 (3.3)(p. 14)と同じである。この距離そのものに意味はなく、半ノルムの列の取り方を変えれば別の距離になる。どの $p_k$ も小さいことを 1 つの数で表すための道具である。
Banach 空間の間の線形写像が連続であることは $\|Tx\|\le C\|x\|$ と同値だった(ノルム空間 の定理「連続性と有界性の同値」)。Fréchet 空間では、ある 1 つの $p_k$ で抑えられることがその代わりになる。
$V$ の位相が点を分ける半ノルムの列 $p_1\le p_2\le\cdots$ で定まるとする。$W$ を局所凸な位相ベクトル空間とし、その位相を定める半ノルムの族 $\mathcal Q$ を 1 つとる(たとえば連続な半ノルム全体)。線形写像 $T\colon V\to W$ について次は同値である。
1 から 2:$q\in\mathcal Q$ について $\{w\mid q(w)<1\}$ は $W$ の $0$ の近傍なので、ある $k$ と $\varepsilon>0$ があって、$p_k(x)<\varepsilon$ なら $q(Tx)<1$ となる。$p_k(x)>0$ のとき $z:=\varepsilon x/(2p_k(x))$ は $p_k(z)=\varepsilon/2<\varepsilon$ を満たすので $q(Tz)<1$、すなわち $q(Tx)<(2/\varepsilon)p_k(x)$ である。$p_k(x)=0$ のときはすべての $t>0$ で $p_k(tx)=0<\varepsilon$ なので $t\,q(Tx)<1$ となり、$q(Tx)=0$ である。$C:=2/\varepsilon$ とすればよい。
2 から 1:$W$ の $0$ の基本近傍 $\{w\mid q_1(w)<\varepsilon,\dots,q_m(w)<\varepsilon\}$($q_i\in\mathcal Q$)をとる。2 の $k_i$、$C_i$ について $k:=\max k_i$、$C:=1+\max C_i$ とおくと、$p_k(x)<\varepsilon/C$ なら $q_i(Tx)\le C_ip_{k_i}(x)\le C_ip_k(x)<\varepsilon$ である。よって $T$ は $0$ で連続であり、位相ベクトル空間 の定理「線形写像の原点での判定」により連続である。$\blacksquare$
この形の評価は Tay18b §4 の式 (4.5)(p. 16)で、Fréchet 空間上の連続線形汎関数について述べられている。$W=\mathbb K$ の場合が連続線形汎関数で、緩増加超関数とFourier変換 の緩増加超関数は Schwartz 空間上のこの意味で連続な線形汎関数である。
$\mathbb K^{\mathbb N}$ に座標ごとの積位相を入れると、半ノルム $p_m(x)=\max_{1\le j\le m}\lvert x_j\rvert$ がこの位相を定める(位相ベクトル空間 の節「局所凸性と半ノルム」)。点列 $a^{(1)},a^{(2)},\dots\in\mathbb K^{\mathbb N}$ について $p_m(a^{(j)}-a^{(l)})\to0$ がすべての $m$ で成り立つなら、各座標が $\mathbb K$ の Cauchy 列なので座標ごとに収束し、極限 $a$ について $p_m(a^{(j)}-a)\to0$ である。よって $\mathbb K^{\mathbb N}$ は Fréchet 空間である。
$\Omega\subset\mathbb R^n$ を空でない開集合とする。$m=1,2,\dots$ に対し
$$
K_m:=\bigl\{x\in\Omega\ \big\vert\ \lvert x\rvert\le m,\ \operatorname{dist}(x,\mathbb R^n\setminus\Omega)\ge1/m\bigr\}
$$
とおく($\Omega=\mathbb R^n$ のときは距離の条件を外す)。$K_m$ は有界閉集合なのでコンパクトで、$K_m$ は開集合 $\{\lvert x\rvert< m+1,\ \operatorname{dist}(x,\mathbb R^n\setminus\Omega)>1/(m+1)\}$ に含まれ、その開集合は $K_{m+1}$ に含まれる。$\Omega$ の各点はある $K_m$ に属するので、$\Omega$ のコンパクト集合 $K$ は $K_{m+1}$ の内部たちの有限個で覆われ、ある $K_m$ に含まれる。$\Omega$ 上の複素数値関数について
$$
p_m(f):=\sup_{x\in K_m}\lvert f(x)\rvert,\qquad
p^{(\infty)}_m(f):=\max_{\lvert\alpha\rvert\le m}\ \sup_{x\in K_m}\lvert\partial^\alpha f(x)\rvert
$$
とおく($\alpha$ は多重指数、空集合の上の上限は $0$ とする)。連続関数の空間 $C(\Omega)$ には $(p_m)$ で、滑らかな関数の空間 $C^\infty(\Omega)$ には $(p^{(\infty)}_m)$ で位相を入れる。$f\ne0$ ならある点で $f(x)\ne0$ で、その点はある $K_m$ に属するので、どちらの列も点を分ける。$C^\infty(\Omega)$ で $f_j\to f$ とは、各 $\alpha$ について $\partial^\alpha f_j\to\partial^\alpha f$ が各コンパクト集合の上で一様に成り立つことである。コンパクト集合はある $K_m$ に入るので、この位相は $K_m$ の選び方に依らない。
1($C(\Omega)$):すべての $m$ で $p_m(f_j-f_l)\to0$ とする。各点で $(f_j(x))$ は Cauchy 列なので極限 $f(x)$ がある。各 $K_m$ の上で $f_j$ は一様 Cauchy なので $f$ に一様収束し、$K_{m+1}$ の内部($K_m$ を含む開集合)の上でも一様収束する。連続関数の一様極限は連続なので($\lvert f(y)-f(x)\rvert\le2\sup\lvert f-f_j\rvert+\lvert f_j(y)-f_j(x)\rvert$ による。一様収束 の定理「連続関数の一様極限の連続性」と同じ論法)、$f$ は $\Omega$ 上で連続である。$p_m(f_j-f)\to0$ である。
1($C^\infty(\Omega)$):すべての $m$ で $p^{(\infty)}_m(f_j-f_l)\to0$ とする。$m\ge\lvert\alpha\rvert$ なら $p_m(\partial^\alpha f_j-\partial^\alpha f_l)\le p^{(\infty)}_m(f_j-f_l)$ であり($p_m$ は $m$ について増加なので $m\ge\lvert\alpha\rvert$ の場合で足りる)、上の場合から $\partial^\alpha f_j$ は連続関数 $g_\alpha$ に各 $K_m$ の上で一様収束する。次を示す。
補題:$h_j\in C^1(\Omega)$ が $h$ に、$\partial_ih_j$ が $g$ に、各コンパクト集合の上で一様収束するなら、$\partial_ih$ が存在して $g$ に等しい。
$x\in\Omega$ と、閉球 $\overline B(x,r)\subset\Omega$ をとる。$\lvert t\rvert< r$ について、実部と虚部それぞれに微分積分学の基本定理を当てて $h_j(x+te_i)-h_j(x)=\int_0^t\partial_ih_j(x+se_i)\,ds$ である。線分は $\overline B(x,r)$ に含まれ、その上で一様収束するので、極限をとって $h(x+te_i)-h(x)=\int_0^tg(x+se_i)\,ds$ を得る。$g$ は連続なので $t=0$ で $t$ について微分でき、$\partial_ih(x)=g(x)$ である。
補題を $\lvert\alpha\rvert$ についての帰納法で使うと、$g_0$ のすべての偏導関数が存在して $\partial^\alpha g_0=g_\alpha$ であり、これらは連続なので $g_0\in C^\infty(\Omega)$ である。よって $p^{(\infty)}_m(f_j-g_0)\to0$ である。
2:$C(U)$ の位相での収束は各コンパクト集合の上での一様収束であり、各点の閉円板近傍はコンパクトなので、局所一様収束でもある。Cauchyの積分公式 の系「Weierstrass の定理」により、正則関数の列の極限は正則である。よって $\mathcal O(U)$ は $C(U)$ の閉部分空間である。完備距離空間の閉部分集合は完備なので(thm-frechet-metric の距離 $d$ について)、$\mathcal O(U)$ は Fréchet 空間である。
3:$r_N$ は半ノルムで、$r_0(\varphi)=\sup\lvert\varphi\rvert$ が点を分ける。すべての $N$ で $r_N(\varphi_j-\varphi_l)\to0$ とする。$K_m$ の上の上限は $\mathbb R^n$ 全体の上限以下なので $p^{(\infty)}_m\le r_m$ であり、1 から $\varphi_j$ はある $\varphi\in C^\infty(\mathbb R^n)$ に $C^\infty$ の位相で収束する。$\alpha,\beta$ を固定すると、$x^\alpha\partial^\beta\varphi_j$ は $\mathbb R^n$ 上で一様 Cauchy なので有界な関数に一様収束し、その極限は各点の極限 $x^\alpha\partial^\beta\varphi$ に等しい。よって $\sup\lvert x^\alpha\partial^\beta\varphi\rvert<\infty$、すなわち $\varphi\in\mathcal S(\mathbb R^n)$ であり、$r_N(\varphi_j-\varphi)\to0$ である。$\blacksquare$
$r_N$ たちは、緩増加超関数とFourier変換 の定義「Schwartz空間」で使う半ノルム $\sup\lvert x^\alpha\partial^\beta\varphi\rvert$ を有限個ずつまとめたものなので、同じ位相を定める。Tay18b §3(p. 14)は $C^\infty(M)$($M$ はコンパクト多様体の増大列の和)、$L^p_{\mathrm{loc}}$、$\mathcal S(\mathbb R^n)$ を Fréchet 空間の例に挙げている。
位相ベクトル空間 $V$ が ノルム化可能 であるとは、あるノルムがあって、その距離の位相が $V$ の位相に一致することをいう。次の定理は、半ノルムの列を見るだけでこれを判定する。
$V$ の位相が点を分ける半ノルムの列 $p_1\le p_2\le\cdots$ で定まるとする。$V$ がノルム化可能であるための必要十分条件は、ある $\ell$ があって、すべての $m$ に対して定数 $C_m$ で $p_m\le C_mp_\ell$ となることである。そのとき $p_\ell$ 自身がノルムで、$V$ の位相を定める。
十分性:$p_\ell(x)=0$ ならすべての $m$ で $p_m(x)\le C_mp_\ell(x)=0$ なので $x=0$ であり、$p_\ell$ はノルムである。基本近傍 $\{p_m<\varepsilon\}$ は、$m\le\ell$ なら $\{p_\ell<\varepsilon\}$ を、$m>\ell$ なら $\{p_\ell<\varepsilon/(C_m+1)\}$ を含む。逆に $\{p_\ell<\varepsilon\}$ 自身が基本近傍である。よって $p_\ell$ の位相は $V$ の位相に一致する。
必要性:ノルム $\|\cdot\|$ が $V$ の位相を定めるとする。開単位球 $\{\|x\|<1\}$ は $0$ の近傍なので、ある $\ell$ と $\varepsilon>0$ で $\{p_\ell<\varepsilon\}\subset\{\|x\|<1\}$ となる。一方 $m$ を固定すると $\{p_m<1\}$ は $0$ の近傍なので、ある $\delta_m>0$ で $\{\|x\|<\delta_m\}\subset\{p_m<1\}$ となる。よって $p_\ell(x)<\varepsilon$ なら $\|\delta_mx\|<\delta_m$ なので $p_m(\delta_mx)<1$、すなわち $p_m(x)<1/\delta_m$ である。$p_\ell(x)>0$ ならこれを $\varepsilon x/(2p_\ell(x))$ に当てて $p_m(x)<\frac{2}{\varepsilon\delta_m}p_\ell(x)$ を得る。$p_\ell(x)=0$ ならすべての $t>0$ で $p_m(tx)<1/\delta_m$ なので $p_m(x)=0$ である。よって $C_m:=2/(\varepsilon\delta_m)$ とすればよい。$\blacksquare$
Banach–Steinhausの定理(一様有界性の原理)は、各点で有界な有界線形作用素の族は作用素ノルムでも有界であることを述べる。証明に使うのは定義域が完備距離空間であることだけなので、Fréchet 空間でも成り立つ。ノルムの代わりに、1 つの半ノルムによる共通の評価が結論になる。
$V$ を Fréchet 空間とし、その位相を半ノルムの列 $p_1\le p_2\le\cdots$ が定めるとする。$W$ を局所凸な位相ベクトル空間とし、その位相を定める半ノルムの族 $\mathcal Q$ をとる。$\mathcal F$ を $V$ から $W$ への連続線形写像の族とし、各 $x\in V$ と各 $q\in\mathcal Q$ について $\sup_{T\in\mathcal F}q(Tx)<\infty$ とする。このとき各 $q\in\mathcal Q$ に対して $k$ と $C\ge0$ があり、
$$
q(Tx)\le C\,p_k(x)\qquad(T\in\mathcal F,\ x\in V)
$$
が成り立つ。
$q\in\mathcal Q$ を固定し、$N=1,2,\dots$ について $E_N:=\{x\in V\mid\text{すべての }T\in\mathcal F\text{ で }q(Tx)\le N\}$ とおく。$x\mapsto q(Tx)$ は連続なので($T$ と $q$ が連続)、$E_N$ は閉集合の共通部分として閉である。仮定から $V=\bigcup_NE_N$ である。$V$ は thm-frechet-metric の距離 $d$ で空でない完備距離空間なので、Baireのカテゴリー定理 の系「閉集合による可算被覆」により、ある $E_N$ は内点 $x_0$ をもつ。よってある $k$ と $\delta>0$ で、$p_k(y)<\delta$ なら $x_0+y\in E_N$ となる。そのような $y$ と $T\in\mathcal F$ について
$$
q(Ty)\le q\bigl(T(x_0+y)\bigr)+q(Tx_0)\le2N
$$
である。$p_k(y)>0$ なら $z:=\delta y/(2p_k(y))$ に当てて $q(Ty)\le(4N/\delta)p_k(y)$ を得る。$p_k(y)=0$ ならすべての $t>0$ で $q(T(ty))\le2N$ なので $q(Ty)=0$ である。$C:=4N/\delta$ とすればよい。$\blacksquare$
結論の評価は $\mathcal F$ のすべての $T$ に共通なので、prop-frechet-continuity の評価が族全体で一様にとれること、つまり $\mathcal F$ が同程度連続であることを言っている。$W$ が Banach 空間のときのこの形は Tay18b §5 の式 (5.18)(p. 27)に述べられている。
$V$、$W$、$\mathcal Q$ を thm-frechet-banach-steinhaus のとおりとし、連続線形写像の列 $T_j\colon V\to W$ が各点で収束する、すなわち各 $x$ で $W$ の中の極限 $Tx:=\lim_jT_jx$ があるとする。このとき $T$ は連続線形写像である。
$T$ の線形性は極限の線形性から従う。$q\in\mathcal Q$ について $\lvert q(a)-q(b)\rvert\le q(a-b)$ なので、$q(T_jx)\to q(Tx)$ であり、収束する実数列は有界だから $\sup_jq(T_jx)<\infty$ である。thm-frechet-banach-steinhaus から $q(T_jx)\le C\,p_k(x)$ がすべての $j$ で成り立ち、極限をとって $q(Tx)\le C\,p_k(x)$ を得る。prop-frechet-continuity により $T$ は連続である。$\blacksquare$
$u_j$ を $\mathcal S(\mathbb R^n)$ 上の連続線形汎関数(緩増加超関数とFourier変換 の意味の緩増加超関数)の列とし、各 $\varphi\in\mathcal S$ で $u_j(\varphi)$ が収束するとする。thm-frechet-smooth の 3 により $\mathcal S$ は Fréchet 空間なので、$W=\mathbb C$(半ノルム $\lvert\cdot\rvert$)として cor-frechet-pointwise-limit を当てると、極限 $u(\varphi):=\lim_ju_j(\varphi)$ は再び緩増加超関数である。さらに $N$ と $C$ があって、すべての $j$ で $\lvert u_j(\varphi)\rvert\le C\,r_N(\varphi)$ となる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 完備性 | 有限個の項を除いて $0$ の数列の空間 $c_{00}$ に上限ノルム、$T_jx:=j\,x_j$ | 一様有界性の原理(thm-frechet-banach-steinhaus) |
| 半ノルムが可算個 | 非可算集合 $I$ についての $\mathbb K^I$(積位相) | 平行移動不変な距離で位相を与えること(thm-frechet-metric) |
| 局所凸 | $L^p(0,1)$、$0< p<1$、距離 $d(f,g)=\int_0^1\lvert f-g\rvert^p$ | 半ノルムの族で位相を与えること(thm-frechet-metric の 3) |
| 半ノルムが点を分ける | $C(\mathbb R)$ に 1 つの半ノルム $p(f)=\lvert f(0)\rvert$ | $d$ が距離であること($d(f,g)=0$ でも $f\ne g$ となる) |
1 行目:$c_{00}$ はノルム空間なので局所凸で距離化可能である。各 $x\in c_{00}$ は $j$ が大きければ $x_j=0$ なので $\sup_j\lvert T_jx\rvert<\infty$ だが、第 $j$ 単位ベクトル $e_j$ について $\lvert T_je_j\rvert=j$、$\|e_j\|=1$ なので、共通の $C$ で $\lvert T_jx\rvert\le C\|x\|$ とはできない。完備でないことは、$\sum_k2^{-k}e_k$ の部分和が Cauchy 列なのに $c_{00}$ の中に極限をもたないことから分かる。
2 行目:$\mathbb K^I$ は座標ごとの半ノルム $\lvert x_i\rvert$($i\in I$)が定める局所凸空間で、座標ごとの収束により完備である。$0$ の可算個の近傍 $U_1,U_2,\dots$ は、それぞれ有限個の座標だけに条件を課す基本近傍を含むので、どの $U_n$ の中の基本近傍にも現れない座標 $i$ がある。すると $0$ の近傍 $\{\lvert x_i\rvert<1\}$ はどの $U_n$ も含まない($U_n$ の中の基本近傍は $x_i$ を自由に動かせる)。$0$ が可算な近傍の基をもたないので、$\mathbb K^I$ は距離化可能でない。
3 行目:$d$ で位相ベクトル空間になり、局所凸でないことは 位相ベクトル空間 の命題「$0< p<1$ の $L^p$ は局所凸でない」による。$d$ について完備でもある。
$(f_j)$ を $d$ について Cauchy 列とし、$d(f_{j_{k+1}},f_{j_k})<2^{-k}$ となる部分列をとる。$0< p<1$ では $(a+b)^p\le a^p+b^p$($a,b\ge0$)なので、$g:=\sum_k\lvert f_{j_{k+1}}-f_{j_k}\rvert$ は単調収束定理により $\int g^p\le\sum_k2^{-k}<\infty$ を満たし、ほとんど至るところ有限である。よって $f_{j_k}$ はほとんど至るところある $f$ に収束し、Fatou の補題から $d(f_{j_k},f)\le\sum_{l\ge k}2^{-l}\to0$ である。Cauchy 列が収束する部分列をもつので、列全体も $f$ に収束する。
4 行目:$p$ は半ノルムだが、$f(0)=g(0)$ となる相異なる $f,g$ について $d(f,g)=0$ である。この位相は Hausdorff でない。
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