錐体の体積とHilbertの第3問題は、底面積 $B$、高さ $h$ の錐体の体積が $\frac13Bh$ になる理由と、その証明に極限が欠かせない理由である。底面積と高さが等しい錐体はどの高さでも断面積が等しいので Cavalieri の原理により体積が等しく、三角柱は体積の等しい 3 つの四面体に分けられるので、錐体の体積は柱体の $\frac13$ になる。平面では面積の等しい多角形はいつも切り貼りで移り合うが、空間ではそうでない。Dehn は、辺の長さと二面角から作る Dehn 不変量が分割で変わらないことを示し、正四面体の二面角 $\arccos\frac13$ が $\pi$ の有理数倍でないことから、正四面体と同じ体積の立方体、また底面積と高さの等しいある 2 つの四面体が、有限個の小片の切り貼りでは移り合わないことを導いた。
前提知識: 体積と回転体, 空間ベクトルと1次独立, 三角関数, 有理数
角錐や円錐の体積は
$$
V=\frac13\times(\text{底面積})\times(\text{高さ})
$$
で求める。柱体の体積「底面積 × 高さ」の $\dfrac13$ である。平面では三角形の面積が「底辺 × 高さ ÷ 2」で、この $\dfrac12$ は、三角形を 2 つ並べると平行四辺形になることから分かる。では、空間の $\dfrac13$ はどこから来るのだろうか。まず、うまく切ると $\dfrac13$ が見える例を 2 つ挙げる。
1 辺 $1$ の立方体 $0\le x,y,z\le1$ を考え、頂点 $A(1,1,1)$ を共有する 3 つの四角錐に分ける(図 1)。
立方体を、頂点 (1,1,1) を共有する合同な 3 つの四角錐に分ける(見やすいように少し離して描いた)
1 辺 $a$ の立方体の中心 $G$ と 6 つの面を結ぶと、底面が 1 辺 $a$ の正方形、高さ $\dfrac a2$ の合同な正四角錐が 6 つできる。1 つの体積は $\dfrac{a^3}6$ で、これは $\dfrac13\times a^2\times\dfrac a2=\dfrac{a^3}6$ に一致する。
しかし、これらは特別な形の角錐である。底面が不等辺三角形で、頂点が斜めにずれた四面体を、立方体や柱体からきれいに切り出せるとは限らない。この記事では次の 4 つの問いに答える。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 断面積の比較(Cavalieri の原理) | 底面積と高さが等しい錐体は体積が等しい | 積分(Fubini の定理の特別な場合) |
| 三角柱を 3 つに分ける | 柱体の $\dfrac13$ | Euclid『原論』第 XII 巻 命題 7 |
| $\sum k^2$ で階段の体積を挟む | 極限で $\dfrac13$ が現れる | 取り尽くし法、Riemann 和 |
| 三角形を切って平行四辺形に並べ直す | 平面では切り貼りで面積が比べられる | Bolyai–Gerwien の定理 |
| 正四面体の二面角 $\arccos\dfrac13$ | $\pi$ の有理数倍でない角 | Dehn 不変量(Dehn不変量)、Hilbert の第 3 問題(Hilbertの第3問題) |
「切り貼り」を言葉にしておく。平面の多角形と空間の多面体を同時に扱う。凸多面体 とは、有限個の平面で空間を区切った片側(平面を含む)の共通部分として表される、有界で中身のある立体のことである。四面体、直方体、角錐(底面が凸多角形のもの)は凸多面体である。
多角形 $P$ が多角形 $P_1,\dots,P_m$ に 分割 されるとは、$P=P_1\cup\cdots\cup P_m$ であり、どの 2 つ $P_i,P_j$($i\ne j$)も周の上でしか重ならないことをいう。2 つの多角形 $P,Q$ が 分割合同 であるとは、$P$ を $P_1,\dots,P_m$ に、$Q$ を $Q_1,\dots,Q_m$ に分割して、各 $i$ で $P_i$ と $Q_i$ が合同(移動と裏返しで重なる)にできることをいう。
空間では、多角形を凸多面体に、周を表面に置き換えて同じように定める。この記事では、空間の分割の小片は凸多面体とする。凸でない小片を使う切り貼りも、小片をさらに四面体に切り分ければこの定義の分割になる(この記事では証明しない)ので、この制限で失うものはない。
分割合同な図形は、面積(体積)が等しい。小片ごとに等しい面積(体積)をもち、重なりは面積(体積)をもたないからである。平面の三角形は、実際に切り貼りで長方形にできる。
三角形 $ABC$ の最も長い辺を $AB$ とし、その長さを $b$、$AB$ を底辺としたときの高さを $h$ とする。$AB$ が最も長い辺なので、$A$ と $B$ の内角はどちらも $90^\circ$ より小さく、$C$ から直線 $AB$ に下ろした垂線の足は線分 $AB$ 上にある。
段 1:辺 $CA$ の中点 $M$ と辺 $CB$ の中点 $N$ を結ぶ線分で切ると、上に小さな三角形 $CMN$、下に台形 $ABNM$ ができる。中点連結定理により $MN$ は $AB$ に平行で、$MN$ と $AB$ の距離は $\dfrac h2$ である。
段 2:三角形 $CMN$ を点 $N$ のまわりに $180^\circ$ 回すと、$C$ は $B$ に移り($N$ は $CB$ の中点だから)、$M$ は直線 $MN$ 上の点 $M'$($NM'=NM$)に移る。台形と合わせると、$AB$ と $MM'$ を向かい合う辺とする平行四辺形 $ABM'M$ になる。$MM'=2MN=AB=b$ だからである。高さは $\dfrac h2$ である。
段 3:$M$ から $AB$ に下ろした垂線の足 $H$ は、$A$ と「$C$ からの垂線の足」の中点なので、線分 $AB$ 上にある。直角三角形 $AHM$ を切り取り、ベクトル $\overrightarrow{AB}$ だけ平行移動して辺 $BM'$ の側に付けると、底辺 $b$、高さ $\dfrac h2$ の長方形になる。
よって三角形は長方形 $b\times\dfrac h2$ と分割合同で、面積は $\dfrac12bh$ である。三角形の面積の $\dfrac12$ は、有限回の切り貼りで説明できる。
もっと強く、平面では次が成り立つ。
面積の等しい 2 つの多角形は分割合同である。
この定理は Bolyai–Gerwien の定理と呼ばれ、この記事では証明しない(証明の考え方は、多角形を三角形に分け、ex-pyv-triangle-cut のように各三角形を長方形にし、長方形を 1 辺が一定の長方形に直して積み上げることである)。詳しくは Bolyai–Gerwienの定理 で扱う。
空間でも、切り貼りでうまくいく例はある。
1 辺 $1$ の立方体を平面 $z=\dfrac12$ で 2 つの直方体 $1\times1\times\dfrac12$ に切り、横に並べると直方体 $2\times1\times\dfrac12$ になる。よって、この 2 つは分割合同である。体積はどちらも $1$ である。
では空間でも、体積の等しい多面体はいつも分割合同なのだろうか。もしそうなら、錐体の $\dfrac13$ も、三角形の $\dfrac12$ と同じく、極限を使わずに切り貼りだけで説明できるはずである。答えは「いいえ」で、それがこの記事の後半の主題である(thm-pyv-dehn)。その前に、極限を使って $\dfrac13$ を証明する。
平面 $\alpha$ 上の図形 $F$(面積 $B$ をもつもの)と、$\alpha$ 上にない点 $A$ について、$A$ と $F$ の点を結ぶ線分をすべて集めた立体を、$F$ を 底面、$A$ を 頂点 とする 錐体 という。$A$ と平面 $\alpha$ の距離 $h$ を 高さ という。底面が多角形のものを角錐、円板のものを円錐という。底面が三角形の角錐は四面体である。
錐体を底面に平行な平面で切った断面は、底面を縮小した形になる。
底面積 $B$、高さ $h$ の錐体を、頂点からの距離が $t$($0\le t\le h$)で底面に平行な平面 $\alpha_t$ で切ると、断面は、底面 $F$ を頂点 $A$ を中心として $\dfrac th$ 倍に縮小した図形である。特に断面積は $\left(\dfrac th\right)^2B$ である。
方針:底面の点と頂点を結ぶ線分が、平面 $\alpha_t$ とどこで交わるかを調べる。
段 1(線分と平面の交点)。底面の点 $X$ をとる。線分 $AX$ 上の点は $Y=A+s(X-A)$($0\le s\le1$)と書ける。$Y$ から、$A$ を通って底面に平行な平面までの距離は、$s$ に比例して $0$ から $h$ まで増えるので $sh$ である。よって $Y$ が $\alpha_t$ 上にあるのは $sh=t$、つまり $s=\dfrac th$ のときに限る。
段 2(断面は縮小図形)。段 1 により、断面の点は $A+\dfrac th(X-A)$($X\in F$)の形の点であり、逆にこの形の点はすべて錐体の点で $\alpha_t$ 上にある。これは、$F$ を $A$ を中心に $\dfrac th$ 倍に縮小(相似拡大)した図形である。
段 3(面積)。相似比 $k$ の平面図形の面積は $k^2$ 倍になる。$k=\dfrac th$ として、断面積は $\left(\dfrac th\right)^2B$ である。$\square$
断面積が底面積と高さだけで決まるので、体積と回転体 の Cavalieri の原理(断面積が各位置で等しい 2 つの立体は体積が等しい。同記事の系「Cavalieriの原理」で証明されている)が使える。
底面積と高さがそれぞれ等しい 2 つの錐体は、体積が等しい。
方針:2 つの錐体を、底面が同じ平面に乗り、頂点が同じ側にくるように置き、同じ高さの断面積を比べる。
段 1(置き方)。2 つの錐体を動かして、どちらも底面が平面 $z=0$ 上にあり、頂点が平面 $z=h$ 上にあるようにする。動かしても体積は変わらない。
段 2(断面積)。平面 $z=c$($0\le c\le h$)は、どちらの錐体でも頂点からの距離が $h-c$ の、底面に平行な平面である。lem-pyv-section により、断面積はどちらも $\left(\dfrac{h-c}h\right)^2B$ で等しい。$c<0$ や $c>h$ では、どちらの断面も空である。
段 3(結論)。断面積は $c$ の連続関数で、各位置で等しいので、Cavalieri の原理により体積は等しい。$\square$
次に、三角柱を 3 つの四面体に分ける。これは Euclid の『原論』第 XII 巻 命題 7 の分け方である(Euc08)。
三角柱 ABC-DEF を 3 つの四面体 ABCF、ABEF、ADEF に分ける
三角柱 $ABC\text{-}DEF$($D,E,F$ はそれぞれ $A,B,C$ を同じベクトル $\vec w$ だけ平行移動した点)は、3 つの四面体 $ABCF$、$ABEF$、$ADEF$ に分割され、この 3 つの体積は等しい。したがって、どれも三角柱の体積の $\dfrac13$ である。
方針:分割になっていることを確かめ、lem-pyv-equal を 2 回使って、3 つの体積が等しいことを示す。
段 1(分割)。三角柱の点は、$A$ を原点とする斜めの座標 $A+u\overrightarrow{AB}+v\overrightarrow{AC}+r\vec w$($u,v\ge0$、$u+v\le1$、$0\le r\le1$)で表せる。$A,B,C,D,E,F$ の座標 $(u,v,r)$ は $(0,0,0)$、$(1,0,0)$、$(0,1,0)$、$(0,0,1)$、$(1,0,1)$、$(0,1,1)$ である。各四面体の 4 つの面を求めると、$ABCF$ の面は $r=0$、$u=0$、$r=v$(面 $ABF$)、$u+v=1$(面 $BCF$)、$ADEF$ の面は $r=1$、$u=0$、$v=0$、$r=u+v$(面 $AEF$)、$ABEF$ の面は $v=0$、$r=v$、$r=u+v$、$u+v=1$ である。したがって三角柱の中で、$ABCF$ は $r\le v$、$ABEF$ は $v\le r\le u+v$、$ADEF$ は $u+v\le r$ を満たす部分である。三角柱のどの点も、$r$ と $v$、$u+v$($v\le u+v$)の大小によってこのどれかに入り、2 つに同時に入るのは等号 $r=v$ または $r=u+v$ が成り立つ平面上の点だけである。
段 2($ABCF$ と $ADEF$)。$ABCF$ を底面 $ABC$、頂点 $F$ の四面体とみる。$ADEF$ を底面 $DEF$、頂点 $A$ の四面体とみる。$DEF$ は $ABC$ の平行移動なので底面積は等しい。高さはどちらも、平行な 2 平面 $ABC$ と $DEF$ の距離である。lem-pyv-equal により体積は等しい。
段 3($ABEF$ と $ADEF$)。どちらも頂点 $F$ の四面体とみる。底面はそれぞれ三角形 $ABE$ と $ADE$ で、これは平行四辺形 $ABED$ を対角線 $AE$ で 2 つに分けたものなので、面積は等しい。底面は同じ平面 $ABED$ 上にあるので、高さはどちらも $F$ とこの平面の距離である。lem-pyv-equal により体積は等しい。
段 4(結論)。3 つの体積は等しく、和は三角柱の体積なので、どれも三角柱の $\dfrac13$ である。$\square$
底面積 $B$、高さ $h$ の錐体の体積は $\dfrac13Bh$ である。
方針:lem-pyv-equal で、底面積と高さが同じ四面体に取り替え、その四面体を三角柱の $\dfrac13$ として求める。
段 1(四面体に取り替える)。平面 $z=0$ 上に面積 $B$ の三角形 $ABC$ をとり、$\vec w=(0,0,h)$ として $D,E,F$ を定める。四面体 $ABCF$ は底面積 $B$、高さ $h$ の錐体である。lem-pyv-equal により、与えられた錐体の体積は $ABCF$ の体積に等しい。
段 2(三角柱の体積)。三角柱 $ABC\text{-}DEF$ は、どの高さ $z$($0\le z\le h$)で切っても断面が三角形 $ABC$ の平行移動で、面積 $B$ である。よって体積は $Bh$ である(体積と回転体 の例「斜めの柱と錐」の (1))。
段 3(結論)。lem-pyv-prism により、$ABCF$ の体積は $\dfrac13Bh$ である。段 1 と合わせて、与えられた錐体の体積も $\dfrac13Bh$ である。$\square$
証明のどこに極限が隠れているのだろうか。prf-pyv-prism の分割は有限回の切り分けだが、2 つの四面体の体積が等しいことは lem-pyv-equal、つまり Cavalieri の原理で示した。Cavalieri の原理は、体積を内側と外側から小さな直方体で近づけて証明される(体積と回転体)。その近づけ方を、錐体で直接やってみる。
底面が正方形(面積 $B$)で、頂点が底面の中心の真上にある高さ $h$ の正四角錐を考える。高さを $n$ 等分し、上から $k$ 番目の層(頂点からの距離が $\dfrac{(k-1)h}n$ から $\dfrac{kh}n$)を考える(図 3)。lem-pyv-section により、この層の上端の断面は面積 $\left(\dfrac{k-1}n\right)^2B$、下端の断面は面積 $\left(\dfrac kn\right)^2B$ の正方形で、中心はどちらも同じ鉛直線上にある。
| $n$ | 左辺 $\div Bh$ | 右辺 $\div Bh$ |
|---|---|---|
| $5$ | $\dfrac{30}{125}=0.24$ | $\dfrac{55}{125}=0.44$ |
| $10$ | $\dfrac{57}{200}=0.285$ | $\dfrac{77}{200}=0.385$ |
| $100$ | $0.32835$ | $0.33835$ |
正四角錐(横から見た図)を n = 5 層の四角柱で内側と外側から挟む。体積は 30/125 Bh と 55/125 Bh
thm-pyv-volume だけなら、断面積を積分して $\displaystyle\int_0^hB\frac{t^2}{h^2}\,dt=\frac13Bh$ と直接求めることもできる(体積と回転体 の例「斜めの柱と錐」の (2))。この記事で Euclid の分け方を使ったのは、極限が必要な箇所を「底面積と高さが等しい四面体の体積の比較」(lem-pyv-equal)の一点に絞るためである。
ex-pyv-staircase では、$\dfrac13$ は $\dfrac1{n^3}\sum k^2\to\dfrac13$ から生まれた。これは $\displaystyle\int_0^1t^2\,dt=\dfrac13$ の Riemann 和である(区分求積と積分の定義)。平面の三角形で同じことをすると、断面(線分)の長さが距離に比例するので $\dfrac1{n^2}\sum k\to\dfrac12$ となり、$\displaystyle\int_0^1t\,dt=\dfrac12$ が現れる。次元が 1 つ上がると、断面積が $t^2$ に比例するので $\dfrac12$ が $\dfrac13$ に変わる。
Euclid は『原論』第 XII 巻で、角錐の体積を取り尽くし法(ここで見た「内側と外側から挟む」議論の原型)で比べ、命題 7 の系として「どの角錐も、底面と高さが等しい角柱の 3 分の 1 である」と述べた(Euc08 第 XII 巻 命題 5・7)。平面の三角形では $\dfrac12$ を切り貼りだけで説明できた(ex-pyv-triangle-cut)。錐体でも、極限を使わない切り貼りの証明はあるのだろうか。
1900 年、Hilbert はパリの国際数学者会議で講演し、その印刷版で、これからの数学の問題を 23 個挙げた。その 3 番目がこの問いである。Hilbert は、Gauss が友人 Gerling への 2 通の手紙で、立体の体積のある種の定理が取り尽くし法(極限)に頼っていることを惜しんだことに触れ(Gauss が特に挙げたのは、高さの等しい三角錐の体積は底面積に比例するという Euclid の定理、Euc08 第 XII 巻 命題 5 である)、次のことを求めた:底面積と高さが等しい 2 つの四面体で、合同な四面体に分割し合えず、さらに合同な四面体を付け足しても分割合同な 2 つの多面体にできないものを具体的に挙げよ(Hil02 の問題 3。ここでは内容を要約した)。これができれば、thm-pyv-volume のような体積の定理には、極限を使わない切り貼りの証明がありえないことになる。
この問題は、まもなく Hilbert の学生 Dehn が解決した(Hil02 の脚注によれば 1900 年に短報が出ており、論文は 1901 年の Deh01。解説は AZ18 の第 10 章)。以下では Dehn の考えを、高校数学の言葉で述べる。鍵は、正四面体の二面角 $\arccos\dfrac13$ が $\pi$ の有理数倍でないことである。
実数の集合 $W$ が、足し算と有理数倍について閉じている($x,y\in W$、$r$ が有理数なら $x+y\in W$、$rx\in W$)とする。関数 $f\colon W\to\mathbb{R}$ が 有理数倍を保つ加法的な関数 であるとは、すべての $x,y\in W$ と有理数 $r$ について
$$
f(x+y)=f(x)+f(y),\qquad f(rx)=rf(x)
$$
が成り立つことをいう。
$f(rx)=rf(x)$ で $r=0$ とすると $f(0)=0$ である。また、たとえば $f(\pi)=0$ なら、$\dfrac\pi2=\dfrac12\cdot\pi$ なので $f\left(\dfrac\pi2\right)=\dfrac12f(\pi)=0$ となり、$\pi$ の有理数倍にはすべて $0$ が対応する。
$W=\{p+q\sqrt2\mid p,q\text{ は有理数}\}$ とし、$f(p+q\sqrt2)=q$ と定める。$\sqrt2$ は無理数なので、$p+q\sqrt2=p'+q'\sqrt2$ なら $p=p'$、$q=q'$ である($q\ne q'$ なら $\sqrt2=\dfrac{p-p'}{q'-q}$ が有理数になってしまう)。よって $f$ は矛盾なく定まる。
$$
f\bigl((p+q\sqrt2)+(p'+q'\sqrt2)\bigr)=q+q',\qquad f\bigl(r(p+q\sqrt2)\bigr)=rq
$$
なので、$f$ は有理数倍を保つ加法的な関数である。$f(1)=0$、$f(\sqrt2)=1$、$f(3-5\sqrt2)=-5$ である。$\sqrt2$ の無理数性の証明は 実数とは何か:無理数の証明 にある。
この例の「$1$ と $\sqrt2$」の代わりに「$\pi$ と正四面体の二面角」を使う。そのために、二面角が $\pi$ の有理数倍でないことを示す。
$\varphi:=\arccos\dfrac13$($0<\varphi<\pi$、$\cos\varphi=\dfrac13$)とすると、$\dfrac\varphi\pi$ は無理数である。
方針:$\cos n\varphi=\dfrac{a_n}{3^n}$ と書くと、整数 $a_n$ はどれも $3$ で割り切れないことを示す。$\varphi$ が $\pi$ の有理数倍なら、ある $n$ で $\cos n\varphi=\pm1$ となって矛盾する。
段 1(漸化式)。和積の公式 $\cos(n+1)\varphi+\cos(n-1)\varphi=2\cos\varphi\cos n\varphi$(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)により、$n\ge1$ で
$$
\cos(n+1)\varphi=\frac23\cos n\varphi-\cos(n-1)\varphi
$$
である。
段 2($a_n$ は整数)。$a_0=1$、$a_1=1$、$a_{n+1}=2a_n-9a_{n-1}$($n\ge1$)で整数 $a_n$ を定める。$\cos0=1=\dfrac{a_0}{3^0}$、$\cos\varphi=\dfrac13=\dfrac{a_1}{3^1}$ である。$\cos(n-1)\varphi=\dfrac{a_{n-1}}{3^{n-1}}$、$\cos n\varphi=\dfrac{a_n}{3^n}$ なら、段 1 により
$$
\cos(n+1)\varphi=\frac23\cdot\frac{a_n}{3^n}-\frac{a_{n-1}}{3^{n-1}}=\frac{2a_n-9a_{n-1}}{3^{n+1}}=\frac{a_{n+1}}{3^{n+1}}
$$
である。数学的帰納法により、すべての $n\ge0$ で $\cos n\varphi=\dfrac{a_n}{3^n}$ である。
段 3($3$ で割った余り)。$a_{n+1}=2a_n-9a_{n-1}$ で $9a_{n-1}$ は $3$ の倍数なので、$a_{n+1}$ を $3$ で割った余りは $2a_n$ を $3$ で割った余りに等しい。$a_1=1$ は $3$ で割り切れない。$a_n$ が $3$ で割り切れなければ、$3$ は素数なので $2a_n$ も割り切れず、$a_{n+1}$ も割り切れない。よって $n\ge1$ のすべての $a_n$ は $3$ で割り切れない。
段 4(背理法)。$\dfrac\varphi\pi=\dfrac pq$($p,q$ は正の整数)と仮定する。$q\varphi=p\pi$ なので $\cos q\varphi=\cos p\pi=\pm1$ である。段 2 により $a_q=\pm3^q$ で、$q\ge1$ だから $a_q$ は $3$ で割り切れる。これは段 3 に矛盾する。よって $\dfrac\varphi\pi$ は無理数である。$\square$
$a_n$ は $1,\ 1,\ -7,\ -23,\ 17,\ 241,\ 329,\dots$ と続き、$3$ で割った余りは $1,1,2,1,2,1,2,\dots$ で $0$ にならない。実際、
$$
\cos2\varphi=2\cos^2\varphi-1=\frac29-1=-\frac79,\qquad \cos3\varphi=4\cos^3\varphi-3\cos\varphi=\frac4{27}-1=-\frac{23}{27}
$$
で、段 2 の $\dfrac{a_2}{3^2}$、$\dfrac{a_3}{3^3}$ と一致する。$\cos n\varphi$ を $\cos\varphi$ の多項式で表すのが Chebyshev多項式 である。
有理数倍を保つ加法的な関数を、$\pi$ で $0$、$\varphi$ で $1$ になるように作る。
$c_1,\dots,c_N$ を実数とし、$\pi,\varphi,c_1,\dots,c_N$ の有理数係数の 1 次結合
$$
r_0\pi+r_1\varphi+s_1c_1+\cdots+s_Nc_N\qquad(r_0,r_1,s_1,\dots,s_N\text{ は有理数})
$$
全体を $W$ とする。このとき、$W$ 上の有理数倍を保つ加法的な関数 $f$ で、$f(\pi)=0$、$f(\varphi)=1$ を満たすものがある。
方針:ex-pyv-additive と同じく、$W$ の数を「重ならない基本の数」の有理数係数の 1 次結合で一通りに表し、$\varphi$ の係数を $f$ の値とする。
段 1(基本の数を選ぶ)。$b_1=\pi$、$b_2=\varphi$ から始め、$c_1,c_2,\dots,c_N$ を順に見ていく。$c_j$ が、それまでに選んだ数の有理数係数の 1 次結合で書けないときだけ、$c_j$ を選ぶ。選び終わった数を $b_1,b_2,\dots,b_m$ とする。選ばなかった $c_j$ は選んだ数の 1 次結合で書けるので、$W$ のどの数も $b_1,\dots,b_m$ の有理数係数の 1 次結合で書ける。
段 2(1 次独立)。有理数 $t_1,\dots,t_m$ について $t_1b_1+\cdots+t_mb_m=0$ ならすべて $0$ であることを、選んだ順に示す。まず $t_1\pi+t_2\varphi=0$ で $t_2\ne0$ なら $\dfrac\varphi\pi=-\dfrac{t_1}{t_2}$ が有理数になり、lem-pyv-irrational に反する。よって $t_2=0$ で、$t_1\pi=0$ から $t_1=0$ である。次に、$b_k$ を加えた段階で $t_1b_1+\cdots+t_kb_k=0$、$t_k\ne0$ なら、$b_k=-\dfrac{t_1}{t_k}b_1-\cdots-\dfrac{t_{k-1}}{t_k}b_{k-1}$ となって、$b_k$ を選んだ理由に反する。よって $t_k=0$ で、それより前の数についてはすでに示したことから、残りもすべて $0$ である。
段 3(表し方は一通り)。$x=\sum t_ib_i=\sum t_i'b_i$ なら $\sum(t_i-t_i')b_i=0$ なので、段 2 によりすべて $t_i=t_i'$ である。
段 4(f を定める)。$x=t_1\pi+t_2\varphi+t_3b_3+\cdots+t_mb_m$ に対し $f(x):=t_2$ とおく。段 3 により矛盾なく定まる。係数は足し算と有理数倍でそのまま足され・有理数倍されるので、$f$ は有理数倍を保つ加法的な関数である。$\pi$ の係数の組は $(1,0,0,\dots)$、$\varphi$ は $(0,1,0,\dots)$ なので $f(\pi)=0$、$f(\varphi)=1$ である。$\square$
凸多面体 $P$ の辺 $e$ の 二面角 $\theta(e)$ とは、$e$ の途中の点を通って $e$ に垂直な平面で $P$ を切ったとき、切り口の多角形のその点での内角のことである。辺の両側の面に、辺上の同じ点から辺に垂直な線分を引いたときの 2 つの線分のなす角といってもよい。凸多面体の二面角は $0$ より大きく $\pi$ より小さい。
$W$ を足し算と有理数倍について閉じた実数の集合、$f$ を $W$ 上の有理数倍を保つ加法的な関数で $f(\pi)=0$ を満たすものとする。二面角がすべて $W$ に属する凸多面体 $P$ について
$$
D_f(P):=\sum_{e}\ell(e)\,f\bigl(\theta(e)\bigr)
$$
($e$ は $P$ のすべての辺を動き、$\ell(e)$ は辺の長さ)を、$P$ の($f$ についての)Dehn 不変量 という。
合同な 2 つの凸多面体は、対応する辺の長さと二面角が等しいので、Dehn 不変量も等しい。
1 辺 2 の正四面体 ABCD。辺 CD の中点 M から A、B へ引いた線分はどちらも CD に垂直で、そのなす角 ∠AMB が二面角 arccos(1/3) ≈ 70.53° である
Dehn 不変量が役に立つのは、分割しても変わらないからである。$f(\pi)=0$ がなぜ必要かを、先に例で見ておく。
$f(x)=x$(有理数倍を保つ加法的な関数だが $f(\pi)=\pi\ne0$)として、$\sum\ell(e)f(\theta(e))$ を計算する。
凸多面体 $P$ が凸多面体 $P_1,\dots,P_m$ に分割され、$P$ と各 $P_i$ の二面角がすべて $W$ に属するとする。$f$ は def-pyv-dehn のとおりとする。このとき
$$
D_f(P)=D_f(P_1)+\cdots+D_f(P_m)
$$
である。
方針:$P$ と小片のすべての辺を、小さな線分に切りそろえる。小さな線分ごとに、各小片の「その線分での角」を足すと、$P$ のその線分での角になることを示す。
段 1(小さな線分に切る)。$P$ と各小片の辺をすべて集める。辺は有限個で、それぞれある直線上にある。そのような直線 $g$ の 1 本と、1 つの小片 $Q$(または $P$)を考えると、$Q$ は凸なので、$g$ と $Q$ の共通部分、$g$ と $Q$ の各面の共通部分は、どれも線分か 1 点か空である。これらの端点をすべて $g$ 上に印として付ける。印は有限個で、辺はこの印で有限個の小さな線分 $s$ に切られる。印の付け方から、小さな線分 $s$ の途中の点では、各小片 $Q$ に対する位置($Q$ の辺の上、$Q$ の面の中で辺の上でない、$Q$ の内部、$Q$ の外)が一定である。$P$ に対しても同じである。
段 2(その線分での角)。小さな線分 $s$ と小片 $Q$ について、$s$ が $Q$ の辺の上にあればその二面角を、面の中にあれば $\pi$ を、内部にあれば $2\pi$ を、外にあれば $0$ を $\alpha_Q(s)$ とおく。どれも $W$ に属する。$P$ についても同じく $\alpha_P(s)$ を定める。このとき
$$
D_f(Q)=\sum_s\ell(s)\,f\bigl(\alpha_Q(s)\bigr)
$$
である($s$ はすべての小さな線分を動く)。実際、$Q$ の各辺 $e$ はその上の小さな線分に分かれ、それらでは $\alpha_Q(s)=\theta(e)$ で長さの和は $\ell(e)$ なので、合わせて $\ell(e)f(\theta(e))$ を与える。ほかの小さな線分では $f(\alpha_Q(s))$ は $f(\pi)=0$、$f(2\pi)=2f(\pi)=0$、$f(0)=0$ のどれかである。$P$ についても同じ式が成り立つ。
段 3(角は足し合わさる)。小さな線分 $s$ の途中の点 $X$ をとり、$X$ を中心とし $s$ に垂直な平面上の小さな円板を考える。半径を十分小さくとると、$X$ を含む小片 $Q$ はこの円板の中で、中心角 $\alpha_Q(s)$ の扇形に見える(辺の上なら二面角の扇形、面の中なら半円板、内部なら円板全体)。小片どうしは表面でしか重ならないので、これらの扇形は半径の上でしか重ならず、合わせると $P$ の扇形(中心角 $\alpha_P(s)$)になる。半径 $\rho$、中心角 $\alpha$ の扇形の面積は $\dfrac12\rho^2\alpha$ なので、面積を比べて
$$
\sum_Q\alpha_Q(s)=\alpha_P(s)
$$
である。$X$ を含まない小片は $\alpha_Q(s)=0$ なので、和に入れてもよい。
段 4(足す)。段 2 と $f$ の加法性、段 3 により
$$
\sum_{i=1}^mD_f(P_i)=\sum_s\ell(s)\sum_if\bigl(\alpha_{P_i}(s)\bigr)=\sum_s\ell(s)\,f\Bigl(\sum_i\alpha_{P_i}(s)\Bigr)=\sum_s\ell(s)\,f\bigl(\alpha_P(s)\bigr)=D_f(P)
$$
である。$\square$
段 3 の「小さな円板の中で扇形に見える」ことは、凸多面体の辺や面の近くの様子を述べたもので、ここでは図形の直観に頼った。より詳しい証明は AZ18 の章「Hilbert's third problem: decomposing polyhedra」(第 6 版では第 10 章、pp. 67–75)にある。
方針:分割合同だと仮定し、分割に現れる角をすべて含む $W$ の上で lem-pyv-f の $f$ を作る。lem-pyv-additive により両者の Dehn 不変量は等しくなるはずだが、計算すると異なる。
段 1(1 の仮定)。1 辺 $b$ の正四面体 $T$ と 1 辺 $a$ の立方体 $C$ が分割合同で、$T$ が $T_1,\dots,T_m$ に、$C$ が $C_1,\dots,C_m$ に分割され、$T_i$ と $C_i$ が合同だとする。
段 2($W$ と $f$)。$T_1,\dots,T_m$ のすべての二面角と、$T$、$C$ の二面角を並べて $c_1,\dots,c_N$ とし、lem-pyv-f の $W$ と $f$ をとる。$C_i$ の二面角は $T_i$ と同じなので、これも $W$ に属する。
段 3(等しくなるはず)。lem-pyv-additive と、合同な多面体の Dehn 不変量が等しいことから
$$
D_f(T)=\sum_iD_f(T_i)=\sum_iD_f(C_i)=D_f(C)
$$
である。
段 4(矛盾)。ex-pyv-dehn-values により $D_f(C)=0$、$D_f(T)=6b\,f(\varphi)=6b\ne0$ である。これは段 3 に矛盾する。よって 1 が成り立つ。
段 5(2 の角)。$K$ の 6 本の辺のうち、座標軸上の 3 本(長さ $1$)では、両側の面が座標平面なので二面角は $\dfrac\pi2$ である。残りの 3 本(長さ $\sqrt2$)では、たとえば辺 $(1,0,0)$–$(0,1,0)$ の中点 $N\left(\frac12,\frac12,0\right)$ から $O$ と $(0,0,1)$ へのベクトル $\left(-\frac12,-\frac12,0\right)$、$\left(-\frac12,-\frac12,1\right)$ はどちらも辺の向き $(-1,1,0)$ に垂直で、なす角 $\psi$ は
$$
\cos\psi=\frac{\frac14+\frac14}{\frac{\sqrt2}2\cdot\frac{\sqrt6}2}=\frac{1}{\sqrt3}
$$
を満たす。$\cos2\psi=2\cos^2\psi-1=-\dfrac13=\cos(\pi-\varphi)$ で、$\cos\psi>0$ より $0<2\psi<\pi$、また $0<\pi-\varphi<\pi$ なので、$2\psi=\pi-\varphi$、つまり $\psi=\dfrac\pi2-\dfrac\varphi2$ である。
段 6(2 の仮定と Dehn 不変量)。$K$ と $L$ が分割合同だとし、段 1・段 2 と同じく、$K$ 側の小片、$K$、$L$ のすべての二面角を $c_1,\dots,c_N$ として、lem-pyv-f の $W$ と $f$ を作る。$\psi=\frac12\pi-\frac12\varphi\in W$ で $f(\psi)=\frac12f(\pi)-\frac12f(\varphi)=-\frac12$ なので
$$
D_f(K)=3\cdot1\cdot f\left(\frac\pi2\right)+3\sqrt2\cdot f(\psi)=0-\frac{3\sqrt2}2\ne0
$$
である。
段 7($L$ の Dehn 不変量は 0)。1 辺 $1$ の立方体は、6 つの四面体 $\{(x_1,x_2,x_3)\mid1\ge x_{i}\ge x_{j}\ge x_{k}\ge0\}$($(i,j,k)$ は $(1,2,3)$ の並べ替え 6 通り)に分割される。どの点も座標を大きい順に並べる方法が少なくとも 1 つあり、2 つに同時に入るのは座標に等しいものがある点だけだからである。$(i,j,k)=(1,2,3)$ のものが $L$ で、ほかは座標の入れ替え(長さを変えない変換)で $L$ に重なるので、すべて $L$ と合同である。$L$ の二面角は $W$ に属し(段 6 で $c_j$ に入れた)、立方体の二面角 $\frac\pi2=\frac12\pi$ も属するので、lem-pyv-additive により $0=D_f(\text{立方体})=6D_f(L)$、つまり $D_f(L)=0$ である。
段 8(結論)。段 3 と同じ理由で $D_f(K)=D_f(L)$ となるはずだが、段 6・段 7 により $-\frac{3\sqrt2}2\ne0$ である。よって 2 が成り立つ。$\square$
底面積 1/2、高さ 1 の 2 つの四面体 K と L。体積はどちらも 1/6 だが、分割合同でない
$L$ の 4 つの面は、平面 $z=0$、$x=1$、$y=z$、$x=y$ の上にある。二面角を計算すると次のとおりで、どれも $\pi$ の有理数倍である。したがって $f(\pi)=0$ の $f$ ではすべての項が $0$ になり、段 7 とは別の方法でも $D_f(L)=0$ が分かる。
| 辺 | 長さ | 両側の面 | 二面角 |
|---|---|---|---|
| $(0,0,0)$–$(1,0,0)$ | $1$ | $z=0$、$y=z$ | $\dfrac\pi4$ |
| $(0,0,0)$–$(1,1,0)$ | $\sqrt2$ | $z=0$、$x=y$ | $\dfrac\pi2$ |
| $(0,0,0)$–$(1,1,1)$ | $\sqrt3$ | $y=z$、$x=y$ | $\dfrac\pi3$ |
| $(1,0,0)$–$(1,1,0)$ | $1$ | $z=0$、$x=1$ | $\dfrac\pi2$ |
| $(1,0,0)$–$(1,1,1)$ | $\sqrt2$ | $x=1$、$y=z$ | $\dfrac\pi2$ |
| $(1,1,0)$–$(1,1,1)$ | $1$ | $x=1$、$x=y$ | $\dfrac\pi4$ |
たとえば辺 $(1,1,0)$–$(1,1,1)$ は $z$ 軸に平行で、垂直な平面 $z=\frac12$ で切ると、切り口は $(1,1)$、$(1,\frac12)$、$(\frac12,\frac12)$ を頂点とする直角二等辺三角形($xy$ 座標)になる。頂点 $(1,1)$ での内角は $\dfrac\pi4$ である。
thm-pyv-dehn の 2 は、Hilbert が求めた「底面積と高さが等しい 2 つの四面体で、分割合同でないもの」の例である。四面体の体積が「底面積 × 高さ ÷ 3」であることを、有限回の切り貼りだけで示すことはできない。$K$ を切り貼りして $L$ を作れないからである。
Hilbert はさらに、合同な四面体を付け足しても分割合同にならないことも求めていた。考え方は次のとおりである。凸でない多面体も凸多面体に分け、小片の Dehn 不変量の和で $D_f$ を定めれば、$K$ と $L$ に合同な多面体 $R$ を付け足したとき、両側に $D_f(R)$ が同じだけ加わるので、$D_f(K)+D_f(R)\ne D_f(L)+D_f(R)$ のままである。ただし、この記事では $D_f$ と lem-pyv-additive を凸多面体についてしか扱っておらず、凸でない多面体への広げ方が分け方によらずに定まることは確かめていない。そのため、付け足す場合の主張はこの記事では証明しない。錐体の体積の $\dfrac13$ には、ex-pyv-staircase のような極限の議論が欠かせない。平面の三角形の $\dfrac12$ が切り貼りで済んだ(ex-pyv-triangle-cut、thm-pyv-bolyai-gerwien)のとは、ここが違う。
| 変えた条件 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 空間を平面に替える | 等積でも分割合同とは限らない(平面では等積なら必ず分割合同) | ex-pyv-triangle-cut、thm-pyv-bolyai-gerwien |
| $f(\pi)=0$ を外す | 分割しても $\sum\ell(e)f(\theta(e))$ は変わらない | ex-pyv-why-fpi0 |
| 正四面体を直方体 $2\times1\times\frac12$ に替える | 立方体と分割合同でない | ex-pyv-box、ex-pyv-box-dehn |
| $K$ を $L$ に替える(二面角がすべて $\pi$ の有理数倍) | Dehn 不変量が $0$ でない | ex-pyv-orthoscheme |
ex-pyv-box の立方体 $1\times1\times1$ と直方体 $2\times1\times\frac12$ は分割合同だった。どちらも二面角はすべて $\dfrac\pi2$ なので、Dehn 不変量はどちらも $0$ で、lem-pyv-additive と矛盾しない。Dehn 不変量が等しいことは、分割合同であるための必要条件である。
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