逆三角関数(inverse trigonometric functions)とは、三角関数の定義域を狭義単調になる区間に制限して得られる逆関数の総称で、$\arcsin\colon[-1,1]\to[-\frac{\pi}{2},\frac{\pi}{2}]$、$\arccos\colon[-1,1]\to[0,\pi]$、$\arctan\colon\mathbb{R}\to(-\frac{\pi}{2},\frac{\pi}{2})$ などがある。$\arctan x$ は複素数 $1+ix$ の偏角の主値であり、ここから加法公式と Machin の公式が従う。$\arctan$ と $\arcsin$ は積分表示と $[-1,1]$ 上の冪級数展開をもち、端点では $\frac{\pi}{4}$ や $\frac{\pi}{2}$ の級数表示を与える。複素数の範囲では対数で表される。
正弦 $\sin$、余弦 $\cos$、正接 $\tan$ は周期関数なので単射でなく、そのままでは逆関数をもたない。定義域を、関数が狭義単調になる区間に制限すると逆関数が定まる。こうして得られる $\arcsin$、$\arccos$、$\arctan$ などを 逆三角関数 という。逆三角関数は、角を辺の比から読み戻す関数であると同時に、$\frac1{1+t^2}$ や $\frac1{\sqrt{1-t^2}}$ の原始関数として積分の計算に現れ、級数を通じて円周率の計算にも使われる。
$\arctan x$ は複素数 $1+ix$ の偏角であり、そこから加法公式(thm-itr-addition)が従う。また $\arctan$ と $\arcsin$ は積分で表され(thm-itr-integral)、$\arcsin$ の冪級数は端点 $\pm1$ でも成り立つ(thm-itr-arcsin-series)。$\tan$ と $\sin$ の狭義単調性、$\arctan$ と $\arcsin$ の導関数は 三角関数 の記事の命題「正接と逆正接・逆正弦」で示されている。高校数学の範囲での導入と計算練習は 逆三角関数(高校数学) の記事にある。
以下、$\sin,\cos,\tan$ は 三角関数 の記事の定義「冪級数による余弦と正弦」のとおり冪級数で定め、$\frac\pi2$ は $\cos$ の最小の正の零点とする。角は弧度で測る。
1 と 3 の全単射性は 三角関数 の記事の命題「正接と逆正接・逆正弦」にある。2 は 1 から従う。三角関数 の記事の定理「周期と零点」の 2 により $\cos x=\sin(\frac\pi2-x)$ であり、$x\mapsto\frac\pi2-x$ は $[0,\pi]$ から $[-\frac\pi2,\frac\pi2]$ への狭義単調減少な全単射なので、$\cos$ は $[0,\pi]$ 上で狭義単調減少で値の集合は $[-1,1]$ である。同時に
$$
\arccos y=\frac\pi2-\arcsin y\qquad(-1\le y\le1)
$$
が分かる。4 も同様に、$\cot x=\frac{\cos x}{\sin x}=\tan(\frac\pi2-x)$($0< x<\pi$)から $\operatorname{arccot}y=\frac\pi2-\arctan y$ である。$\arcsin y$ を $\sin^{-1}y$ と書くこともあるが、$\frac1{\sin y}$ と紛れるので注意を要する。正割・余割の逆関数 $\operatorname{arcsec}y=\arccos\frac1y$、$\operatorname{arccsc}y=\arcsin\frac1y$($|y|\ge1$)も使われることがある。
狭義単調な関数の逆関数は、もとの関数が連続でなくても連続である(単調関数 の記事の系「狭義単調関数の逆関数の連続性」)。したがって $\arcsin,\arccos$ は端点 $\pm1$ を含めて $[-1,1]$ 上で連続であり、$\arctan$ は $\mathbb{R}$ 上で連続である。$\arcsin,\arctan$ は狭義単調増加、$\arccos,\operatorname{arccot}$ は狭義単調減少である。
$\arcsin y$ は「正弦が $y$ になる角のうち、$-\frac\pi2$ と $\frac\pi2$ の間にあるもの」である。単位円で言えば、高さ $y$ の点のうち右半分にある点の角である。高さ $y$ の点は円周上に 2 つあり、角としては $2\pi$ の整数倍の差も含めて無数にあるので、1 つを選ぶ約束が主値である。同様に $\arctan y$ は、傾き $y$ の直線と $x$ 軸の正の向きのなす角を $(-\frac\pi2,\frac\pi2)$ で測ったものであり、点 $(1,y)$ の偏角でもある(lem-itr-argument)。逆三角関数の関係式の多くは、この「選んだ範囲からはみ出すと $\pi$ の倍数だけずれる」ことに注意すれば、三角関数の公式から読み取れる。
三角関数 の記事の命題「特別な角での値」から、$\arcsin\frac12=\frac\pi6$、$\arcsin\frac{\sqrt2}2=\frac\pi4$、$\arccos\frac12=\frac\pi3$、$\arccos(-\frac12)=\pi-\frac\pi3=\frac{2\pi}3$、$\arctan1=\frac\pi4$、$\arctan\sqrt3=\frac\pi3$、$\arctan\frac1{\sqrt3}=\frac\pi6$ である。$\arccos(-\frac12)$ は thm-itr-identities の 3 による。
$a>0$ のとき、$\frac{d}{dx}\frac1a\arctan\frac xa=\frac1a\cdot\frac{1/a}{1+x^2/a^2}=\frac1{a^2+x^2}$ と $\frac{d}{dx}\arcsin\frac xa=\frac{1/a}{\sqrt{1-x^2/a^2}}=\frac1{\sqrt{a^2-x^2}}$($|x|< a$)から、
$$
\int_0^x\frac{dt}{a^2+t^2}=\frac1a\arctan\frac xa,\qquad\int_0^x\frac{dt}{\sqrt{a^2-t^2}}=\arcsin\frac xa
$$
である。たとえば $\int_0^1\frac{dt}{4+t^2}=\frac12\arctan\frac12=0.2318\ldots$ である。有理関数の積分は部分分数分解により多項式・対数・逆正接の組み合わせで表せる。
要点:主値の範囲では $\cos$ の符号が決まるので、平方の関係 $\cos^2+\sin^2=1$ から平方根の符号が選べる。範囲の外の角は、$\sin(t+\pi)=-\sin t$ と奇関数性で範囲の中へ戻す。
1:$\theta:=\arcsin y\in[-\frac\pi2,\frac\pi2]$ では $\cos\theta\ge0$ である(三角関数 の記事の定理「周期と零点」の 3 と、端点で $\cos(\pm\frac\pi2)=0$)。$\cos^2\theta=1-\sin^2\theta=1-y^2$(同記事の系「余弦と正弦の平方の和」)なので $\cos\theta=\sqrt{1-y^2}$ である。$\varphi:=\arctan y\in(-\frac\pi2,\frac\pi2)$ では $\cos\varphi>0$ であり、$1+\tan^2\varphi=\frac1{\cos^2\varphi}$ から $\cos\varphi=\frac1{\sqrt{1+y^2}}$、$\sin\varphi=\tan\varphi\cos\varphi=\frac y{\sqrt{1+y^2}}$ である。
2:$t:=x-k\pi\in[-\frac\pi2,\frac\pi2]$ とおく。同記事の定理「周期と零点」の 2 により $\sin(t+\pi)=-\sin t$ なので、$k$ についての帰納法で $\sin x=\sin(t+k\pi)=(-1)^k\sin t=\sin\bigl((-1)^kt\bigr)$ である($k< 0$ では $\sin(t-\pi)=-\sin t$ を使う。最後は $\sin$ が奇関数であることによる)。$(-1)^kt\in[-\frac\pi2,\frac\pi2]$ なので、$\arcsin$ の定義から $\arcsin(\sin x)=(-1)^kt$ である。後半:$\arcsin$ の値は $[-\frac\pi2,\frac\pi2]$ にあるので、$\arcsin(\sin x)=x$ なら $x$ はこの区間にある。逆は定義そのものである。
3:$\sin$ と $\tan$ は奇関数で、値の範囲 $[-\frac\pi2,\frac\pi2]$、$(-\frac\pi2,\frac\pi2)$ は $0$ について対称なので、$-\arcsin y$ は正弦が $-y$ になる範囲内の角であり、$\arcsin(-y)=-\arcsin y$ である。$\arctan$ も同じである。$\arccos$ については、定義の後の式 $\arccos y=\frac\pi2-\arcsin y$ から $\arccos(-y)=\frac\pi2+\arcsin y=\pi-\arccos y$ である。
4:$y>0$ とし $\varphi:=\arctan y\in(0,\frac\pi2)$ とおく。$\frac\pi2-\varphi\in(0,\frac\pi2)$ であり、$\tan(\frac\pi2-\varphi)=\frac{\sin(\pi/2-\varphi)}{\cos(\pi/2-\varphi)}=\frac{\cos\varphi}{\sin\varphi}=\frac1y$ なので、$\arctan\frac1y=\frac\pi2-\varphi$ である。$y< 0$ のときは 3 により $-y$ の場合に帰着する。
5:$\theta:=\arcsin y\in(-\frac\pi2,\frac\pi2)$ とすると、1 により $\cos\theta=\sqrt{1-y^2}>0$ なので $\tan\theta=\frac y{\sqrt{1-y^2}}$ であり、$\theta$ は $\arctan$ の値の範囲にあるので $\theta=\arctan\frac y{\sqrt{1-y^2}}$ である。
$\arctan$ は複素数の偏角と結びつく。$0$ でない複素数 $z$ の偏角のうち $(-\pi,\pi]$ にあるものを $\operatorname{Arg}z$ と書く(対数関数 の記事の定義「対数の主値」)。
実数 $x$ について $1+ix=\sqrt{1+x^2}\,e^{i\arctan x}$ であり、$\arctan x=\operatorname{Arg}(1+ix)$ である。
thm-itr-identities の 1 と Euler の公式(三角関数 の記事の定理「Euler の公式」)により $\sqrt{1+x^2}\,e^{i\arctan x}=\sqrt{1+x^2}\bigl(\frac1{\sqrt{1+x^2}}+i\frac x{\sqrt{1+x^2}}\bigr)=1+ix$ である。$\arctan x\in(-\frac\pi2,\frac\pi2)\subset(-\pi,\pi]$ なので、これは偏角の主値である。
実数 $x,y$ について、次が成り立つ。
$\alpha:=\arctan x$、$\beta:=\arctan y$、$\theta:=\alpha+\beta$ とおくと $\theta\in(-\pi,\pi)$ である。lem-itr-argument と指数法則により
$$
(1-xy)+i(x+y)=(1+ix)(1+iy)=\sqrt{(1+x^2)(1+y^2)}\;e^{i\theta}
$$
である。実部と虚部を比べると、$r:=\sqrt{(1+x^2)(1+y^2)}>0$ として $r\cos\theta=1-xy$、$r\sin\theta=x+y$ である。
1:$xy< 1$ なら $\cos\theta>0$ である。$\theta\in(-\pi,\pi)$ で $\cos\theta>0$ となるのは $\theta\in(-\frac\pi2,\frac\pi2)$ のときに限る($\frac\pi2\le|\theta|<\pi$ では $\cos\theta=-\cos(\pi-|\theta|)\le0$)。$\tan\theta=\frac{r\sin\theta}{r\cos\theta}=\frac{x+y}{1-xy}$ で $\theta$ は $\arctan$ の値の範囲にあるので、$\theta=\arctan\frac{x+y}{1-xy}$ である。
2:$xy>1$ なら $x,y$ は同符号で $\cos\theta< 0$ である。$x>0$ なら $\alpha,\beta>0$ なので $\theta\in(0,\pi)$ であり、$\cos\theta< 0$ と合わせて $\theta\in(\frac\pi2,\pi)$ である。$\theta-\pi\in(-\frac\pi2,0)$ であり、$\sin(\theta-\pi)=-\sin\theta$、$\cos(\theta-\pi)=-\cos\theta$ から $\tan(\theta-\pi)=\tan\theta=\frac{x+y}{1-xy}$ なので、$\theta-\pi=\arctan\frac{x+y}{1-xy}$ である。$x< 0$ なら $\theta\in(-\pi,-\frac\pi2)$ で、同様に $\theta+\pi=\arctan\frac{x+y}{1-xy}$ である。
3:$xy=1$ なら $\cos\theta=0$ なので $\theta=\pm\frac\pi2$ であり、符号は $\sin\theta$ の符号、すなわち $x+y$ の符号($x$ の符号と同じ)で決まる。
1:三角関数 の記事の命題「正接と逆正接・逆正弦」により $\arctan'(t)=\frac1{1+t^2}$、$(-1,1)$ 上で $\arcsin'(t)=\frac1{\sqrt{1-t^2}}$ であり、$\arctan0=\arcsin0=0$ なので、微分積分学の基本定理 の記事の定理「原始関数による積分の計算」により 2 つの等式を得る。$\arcsin$ は $1$ で連続なので(定義の後の注意)、$\int_0^x\frac{dt}{\sqrt{1-t^2}}=\arcsin x\to\arcsin1=\frac\pi2$($x\to1-$)であり、これが広義積分の値である。
2:$N\ge1$ について、等比数列の和の公式から $t\in\mathbb{R}$ で
$$
\frac1{1+t^2}=\sum_{n=0}^{N-1}(-t^2)^n+\frac{(-1)^Nt^{2N}}{1+t^2}
$$
である。$0$ から $x$ まで積分して 1 を使うと
$$
\arctan x=\sum_{n=0}^{N-1}\frac{(-1)^nx^{2n+1}}{2n+1}+R_N(x),\qquad R_N(x):=(-1)^N\int_0^x\frac{t^{2N}}{1+t^2}\,dt
$$
であり、$|R_N(x)|\le\bigl|\int_0^xt^{2N}\,dt\bigr|=\frac{|x|^{2N+1}}{2N+1}$ である。$|x|\le1$ ならこれは $N\to\infty$ で $0$ に近づくので、級数は $\arctan x$ に収束する。$|x|>1$ なら項の絶対値 $\frac{|x|^{2n+1}}{2n+1}$ は $n\to\infty$ で発散するので、級数は収束しない。
2 の $x=1$ の場合が Leibniz の級数 $\frac\pi4=1-\frac13+\frac15-\cdots$ である(円周率 の記事の定理「Leibnizの級数」)。2 は Leb2 Exercise 11.4.11 の (c)・(d)(p. 168)にある。$x=1$ での収束は遅いが、ex-itr-machin の公式のように小さい $x$ に帰着すると誤差 $\frac{|x|^{2N+1}}{2N+1}$ は速く小さくなる。
逆正弦の級数は、係数が中心二項係数で表される。
$c_n:=\dfrac{1}{4^n}\dbinom{2n}{n}$ とおく。$-1\le x\le1$ について
$$
\arcsin x=\sum_{n=0}^\infty\frac{c_n}{2n+1}x^{2n+1}=x+\frac12\cdot\frac{x^3}3+\frac{1\cdot3}{2\cdot4}\cdot\frac{x^5}5+\frac{1\cdot3\cdot5}{2\cdot4\cdot6}\cdot\frac{x^7}7+\cdots
$$
であり、級数は $[-1,1]$ 上で一様に収束する。とくに $\displaystyle\frac\pi2=\sum_{n=0}^\infty\frac{c_n}{2n+1}$ である。
段 1($\frac1{\sqrt{1-u}}$ の級数).$c_0=1$ で、$c_{n+1}=\frac{(2n+2)(2n+1)}{4(n+1)^2}c_n=\frac{2n+1}{2n+2}c_n$ なので $0< c_n\le1$ である。したがって $g(u):=\sum_{n\ge0}c_nu^n$ は $|u|< 1$ で収束する($\sum|u|^n$ との比較)。冪級数 の記事の定理「項別微分」により $(-1,1)$ 上で $g'(u)=\sum_{n\ge0}(n+1)c_{n+1}u^n$ であり、漸化式 $2(n+1)c_{n+1}=(2n+1)c_n$ を使うと
$$
2(1-u)g'(u)=\sum_{n\ge0}2(n+1)c_{n+1}u^n-\sum_{n\ge1}2nc_nu^n=\sum_{n\ge0}\bigl((2n+1)c_n-2nc_n\bigr)u^n=g(u)
$$
である。$\varphi(u):=\sqrt{1-u}\,g(u)$ とおくと $\varphi'(u)=\frac{-g(u)+2(1-u)g'(u)}{2\sqrt{1-u}}=0$ なので、$\varphi$ は $(-1,1)$ 上で定数 $\varphi(0)=1$ であり(平均値の定理 の記事の系「導関数が0なら定数」)、$g(u)=\frac1{\sqrt{1-u}}$ である。
段 2($|x|< 1$).$|t|< 1$ で $\frac1{\sqrt{1-t^2}}=g(t^2)=\sum_nc_nt^{2n}$ であり、この $t$ の冪級数は $|t|< 1$ で収束する。冪級数 の記事の定理「項別積分」と thm-itr-integral の 1 により、$|x|< 1$ で $\arcsin x=\sum_n\frac{c_n}{2n+1}x^{2n+1}$ である。
段 3($x=\pm1$).$a_n:=\frac{c_n}{2n+1}>0$ とおく。$0< x< 1$ と $N$ について、項が正なので段 2 から $\sum_{n=0}^Na_nx^{2n+1}\le\arcsin x\le\frac\pi2$ である。$x\to1-$ とすると $\sum_{n=0}^Na_n\le\frac\pi2$ であり、部分和は上に有界な増加列なので $S:=\sum_na_n$ は収束し $S\le\frac\pi2$ である。逆に $0< x< 1$ では $\arcsin x=\sum_na_nx^{2n+1}\le S$ であり、$x\to1-$ とすると $\arcsin$ の $1$ での連続性から $\frac\pi2\le S$ である。よって $S=\frac\pi2=\arcsin1$ である。$x=-1$ は奇関数性による。最後に $|x|\le1$ で $|a_nx^{2n+1}|\le a_n$ かつ $\sum a_n<\infty$ なので、Weierstrass の判定法により級数は $[-1,1]$ 上で一様に収束する。
$x=\frac12$ では $\arcsin\frac12=\frac\pi6$ なので、$\pi=6\bigl(\frac12+\frac1{2\cdot3\cdot2^3}+\frac{3}{8\cdot5\cdot2^5}+\cdots\bigr)$ となる。最初の 4 項で $6\times0.523525\ldots=3.14115\ldots$ である。$x=1$ では項 $a_n=\frac{c_n}{2n+1}$ は $1,\ 0.1666\ldots,\ 0.075,\ 0.04464\ldots$ と減るが、収束は遅い。$c_n=\prod_{k=1}^n\frac{2k-1}{2k}$ であり、$k\ge2$ で $\bigl(\frac{2k-1}{2k}\bigr)^2\ge\frac{k-1}k$(分母を払うと $4k^2-4k+1\ge4k^2-4k$)なので、$c_n^2\ge\frac14\prod_{k=2}^n\frac{k-1}k=\frac1{4n}$、すなわち $c_n\ge\frac1{2\sqrt n}$ である。したがって $a_n\ge\frac1{2\sqrt n\,(2n+1)}$ であり、項は $n^{-3/2}$ の定数倍より速くは小さくならない。
$\tan$ と $\sin$ は複素数全体で定義されているので(三角関数 の記事の定義「冪級数による余弦と正弦」)、方程式 $\tan w=z$、$\sin w=z$ を複素数の範囲で解くことができる。
要点:$E:=e^{2iw}$(2 では $E:=e^{iw}$)とおくと、$\tan w=z$ は 1 次方程式 $E(1-iz)=1+iz$ に、$\sin w=z$ は 2 次方程式 $E^2-2izE-1=0$ になる。これを解いて対数をとる。
1:$E:=e^{2iw}$ とおく。Euler の公式により $\cos w=\frac{e^{iw}+e^{-iw}}2$、$\sin w=\frac{e^{iw}-e^{-iw}}{2i}$ なので、$\cos w\ne0$ は $E\ne-1$ と同値であり、そのとき $\tan w=\frac{E-1}{i(E+1)}$ である。$\tan w=z$ は $E-1=iz(E+1)$、すなわち $E(1-iz)=1+iz$ と同値である。$z=-i$ では左辺が $0$、右辺が $2$ で解がない。$z=i$ では $E\cdot2=0$ となるが、$E=e^{2iw}\ne0$ なので解がない。$z\ne\pm i$ なら $E=\frac{1+iz}{1-iz}=:q$ であり、$q\ne0$、$q\ne-1$($q=-1$ なら $1+iz=-1+iz$ で矛盾)である。$e^{2iw}=q$ となる $2iw$ は $\operatorname{Log}q+2\pi ik$($k\in\mathbb{Z}$)に限るので(対数関数 の記事の定義「対数の主値」と 三角関数 の記事の定理「周期と零点」の 4)、$w=\frac1{2i}\operatorname{Log}q+k\pi$ である。$z=x$ が実数のとき、lem-itr-argument により $1+ix=\sqrt{1+x^2}e^{i\alpha}$、$1-ix=\sqrt{1+x^2}e^{-i\alpha}$($\alpha:=\arctan x$)なので $q=e^{2i\alpha}$ で、$2\alpha\in(-\pi,\pi)$ だから $\operatorname{Log}q=2i\alpha$、$w=\alpha$ である。
2:$E:=e^{iw}$ とおくと $\sin w=z$ は $E-E^{-1}=2iz$、すなわち $E^2-2izE-1=0$ と同値である。これは $(E-iz)^2=1-z^2$ と同値なので、$s:=E-iz$ とおけば $s^2=1-z^2$、$e^{iw}=iz+s$ である。逆に $s^2=1-z^2$ のとき $iz+s\ne0$ である($iz+s=0$ なら $s^2=-z^2$ となり $1-z^2=-z^2$ で矛盾)。$e^{iw}=iz+s$ となる $w$ は存在し(指数関数 の記事の節「複素数の指数関数」で、$\exp\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}\setminus\{0\}$ は全射)、このとき上の同値変形を逆にたどって $\sin w=z$ である。複素数には平方根が存在するので、すべての $z$ について $s$ がとれ、$\sin$ は全射である。
1 の主値 $\frac1{2i}\operatorname{Log}\frac{1+iz}{1-iz}$ を $\operatorname{Arctan}z$ と書くことがある。実数の範囲では $\sin$ の値は $[-1,1]$ に限られるが、2 により複素数の $\sin$ はたとえば $\sin w=2$ の解をもつ。$s=\pm\sqrt{-3}=\pm\sqrt3\,i$ として $e^{iw}=(2\pm\sqrt3)i$、すなわち $w=\frac\pi2-i\log(2\pm\sqrt3)+2\pi k$ である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $x\in[-\frac\pi2,\frac\pi2]$(thm-itr-identities の 2) | $x=\pi$ | $\arcsin(\sin x)=x$ |
| $xy< 1$(thm-itr-addition の 1) | $x=y=2$ | $\arctan x+\arctan y=\arctan\frac{x+y}{1-xy}$ |
| $y>0$(thm-itr-identities の 4) | $y=-1$ | $\arctan y+\arctan\frac1y=\frac\pi2$ |
| $\lvert x\rvert\le1$(thm-itr-integral の 2) | $x=2$ | $\arctan$ の級数の収束 |
| $\lvert y\rvert< 1$(逆正弦の導関数) | $y=1$ | $\arcsin$ の $y$ での微分可能性 |
| $z\ne\pm i$(thm-itr-complex の 1) | $z=i$ | $\tan w=z$ の解の存在 |
1 行目:$\arcsin(\sin\pi)=\arcsin0=0\ne\pi$ である。thm-itr-identities の 2 で $k=1$ とすると $(-1)^1(\pi-\pi)=0$ と合う。2 行目:$\arctan2+\arctan2=2\times1.1071\ldots=2.2142\ldots$ だが $\arctan\frac{4}{-3}=-0.9272\ldots$ であり、差はちょうど $\pi$ である(thm-itr-addition の 2)。3 行目:$\arctan(-1)+\arctan(-1)=-\frac\pi2$ である。4 行目:項の絶対値 $\frac{2^{2n+1}}{2n+1}$ は発散するので級数は収束しないが、$\arctan2$ 自体は定まっている。冪級数の収束半径は $1$ で、$\frac1{1+t^2}$ が $t=\pm i$ で定義されないことに対応する。5 行目:$\arcsin$ は $[-1,1]$ 上で連続だが、$y\to1-$ で $\arcsin'(y)=\frac1{\sqrt{1-y^2}}\to\infty$ であり、平均値の定理により差分商 $\frac{\arcsin1-\arcsin y}{1-y}$ も $\infty$ に発散するので(平均値の定理)、$1$ で(左)微分可能でない。6 行目:thm-itr-complex の証明で見たとおり、$\tan w=i$ は $e^{2iw}=0$ を要求し、解がない。
thm-itr-complex の対数による表示は、双曲線関数 の逆関数の対数による表示と結びつく。$-1< x< 1$ の実数 $x$ について、1 の主値の式に $z=ix$ を代入すると、$\frac{1+i\cdot ix}{1-i\cdot ix}=\frac{1-x}{1+x}$ は正の実数なので $\operatorname{Log}$ は実数の対数になり、
$$
\frac1{2i}\log\frac{1-x}{1+x}=\frac i2\log\frac{1+x}{1-x}=i\operatorname{artanh}x
$$
となる。ここで $\operatorname{artanh}x=\frac12\log\frac{1+x}{1-x}$ は逆双曲線正接である。三角関数と双曲線関数が $\cos(iz)=\cosh z$、$\sin(iz)=i\sinh z$ で結ばれることの、逆関数の側での表れである。
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