二重被覆群

同義語:二枚被覆群double covering group

概要

二重被覆群(double covering group)とは、群 $H$ への全射準同型 $p\colon G\to H$ で核が位数 $2$ のものを伴う群 $G$ であり、位相群では $p$ が連続な 2 重の被覆写像であることも課す。核は自動的に中心に含まれる。代表例は単位四元数の群($\mathrm{SU}(2)$ と同型)の共役作用による $\mathrm{SO}(3)$ の二重被覆で、軸 $u$ のまわりの角 $\theta$ の回転に $\pm(\cos\frac{\theta}{2}+\sin\frac{\theta}{2}u)$ が対応し、$\pi_1(\mathrm{SO}(3))\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ が従う。$\mathrm{Spin}(n)\to\mathrm{SO}(n)$ やメタプレクティック群も例である。

$$\newcommand{Ad}[0]{\mathrm{Ad}} \newcommand{bol}[0]{\boldsymbol} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{SO}[0]{\mathrm{SO}} \newcommand{SU}[0]{\mathrm{SU}} \newcommand{x}[0]{\boldsymbol{x}} \newcommand{y}[0]{\bol{y}} $$

前提知識: 群, 群準同型, 位相群, 被覆空間, 四元数環

定義

二重被覆群
  1. $G,H$ を群とする。全射群準同型 $p\colon G\to H$ で、核 $\ker p$ の位数が $2$ であるものを $H$ の二重被覆(double cover)といい、$G$ を $H$ の二重被覆群という。
  2. $G,H$ を位相群(群演算と逆元をとる写像が連続な群)とする。連続な全射準同型 $p\colon G\to H$ が二重被覆準同型であるとは、$p$ が 2 重の被覆写像(被覆空間)であること、すなわち $H$ の各点 $h$ に対し、$h$ の開近傍 $V$ と $G$ の互いに交わらない開集合 $W_1,W_2$ で
    $$ p^{-1}(V)=W_1\sqcup W_2,\qquad p|_{W_j}\colon W_j\to V\ \text{は同相写像}\ (j=1,2) $$
    となるものが存在することをいう。このような $p$ を伴う $G$ を位相群 $H$ の二重被覆群(double covering group、二枚被覆群)という。
  3. 同様に、$n$ 重の被覆写像である連続な全射準同型を伴う $G$ を $H$ の $n$ 重被覆群といい、一般に被覆写像である連続な全射準同型を被覆準同型、$G$ を $H$ の被覆群という。
  1. の意味の二重被覆は (1) の意味の二重被覆でもある。実際、単位元 $e_H$ の近傍 $V$ をとると、$\ker p=p^{-1}(e_H)$ は $W_1,W_2$ にちょうど 1 点ずつ含まれるので位数 $2$ である。逆は成り立たない(exc-dcov-discrete-circle)。以下、とくに断らなければ「二重被覆」は (2) の位相群の意味で使う。有限群など位相を考えない群には離散位相を入れる。離散位相では 1 点集合が開集合なので、(1) を満たせば (2) も満たし、(1) と (2) は同じものになる。
定義の細部

被覆写像の定義には全射性を課さない流儀もある(被覆空間の記事の注意(定義の流儀))が、この記事では $p$ に全射性を課す。文献では主に Lie 群(Lie群)の二重被覆群が扱われる。二重被覆準同型は局所同相写像(同相写像)なので、$p$ の微分は $G$ と $H$ の Lie 環(Lie環)の同型を与える。$\mathrm{Spin}(n)\to\mathrm{SO}(n)$ がその典型である(thm-dcov-spin)。

直感

二重被覆 $p\colon G\to H$ では、$H$ の各元の上に $G$ の元がちょうど 2 つ乗っている。局所的には $G$ は $H$ の 2 枚の写しに見えるが、大域的には 2 枚がつながっていることがあり、そのときは $H$ のあるループを一周すると $G$ ではもう一方の写しに移る。代表例は回転群 $\mathrm{SO}(3)$ と単位四元数の群 $\mathrm{Sp}(1)\cong\mathrm{SU}(2)$ である。単位四元数 $q$ は空間のベクトル $x$ を $qxq^{-1}$ で回し、$q$ と $-q$ は同じ回転を与える。軸 $u$ のまわりの角 $\theta$ の回転には半角を含む $\pm(\cos\frac{\theta}{2}+\sin\frac{\theta}{2}u)$ が対応するので、回転角を $0$ から $2\pi$ まで回すと、回転は元に戻るのに四元数は $1$ から $-1$ に移る。この「一周しても符号が戻らない」ことが二重被覆の本質であり、物理ではスピン $1/2$ の粒子の性質として現れる。位相的には、$H$ が局所弧状連結(局所弧状連結空間)で $G$ が連結(連結空間)なら、二重被覆 $p$ は $H$ の基本群の指数(指数(群論))$2$ の部分群 $p_*\pi_1(G)$ を定める(prop-dcov-pi1、rem-dcov-components)。

例と反例

例

円周の二乗写像

円周群 $S^1=\{z\in\mathbb{C}\mid\lvert z\rvert=1\}$(単位円周。複素数の積を演算とする位相群)に対し、$p(z):=z^2$ は $S^1$ から $S^1$ への連続な全射準同型で($(zw)^2=z^2w^2$、任意の $w\in S^1$ は平方根をもつ)、核は $\{1,-1\}$ である。$w\in S^1$ に対し $-w$ を除いた円周の逆像は向かい合う 2 つの開半円で、それぞれの上で $p$ は同相写像になるので、$S^1$ は $S^1$ の二重被覆群である。$\mathrm{SO}(2)\cong S^1$ なので、これは平面の回転群の二重被覆 $\mathrm{Spin}(2)\to\mathrm{SO}(2)$ でもある。

局所自明性の確認を開く

$w=e^{i\phi}$ の近傍 $V:=\{e^{it}\mid\lvert t-\phi\rvert<\pi\}$($-w$ を除いた円周)の逆像は、2 つの開弧 $W_\pm:=\{\pm e^{is}\mid\lvert s-\phi/2\rvert<\pi/2\}$ の交わらない和である。各 $W_\pm$ 上で $p$ は $\pm e^{is}\mapsto e^{2is}$ と書けて $V$ への同相写像である(逆写像は $e^{it}\mapsto\pm e^{it/2}$、$\lvert t-\phi\rvert<\pi$)。

位数 4 の巡回群

$p\colon\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$、$p(n\bmod4):=n\bmod2$ は全射準同型で、核 $\{0,2\}$ は位数 $2$ である。よって(離散位相で)巡回群 $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ は $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ の二重被覆群である。第 1 成分への射影 $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ も二重被覆であり、同型でない二重被覆群がありうる(exc-dcov-not-product)。

$\mathrm{SU}(2)\to\mathrm{SO}(3)$

単位四元数の群 $\mathrm{Sp}(1)\cong\mathrm{SU}(2)$ の共役作用は、核が $\{\pm1\}$ の二重被覆準同型 $\mathrm{Sp}(1)\to\mathrm{SO}(3)$ を与え、$\pi_1(\mathrm{SO}(3))\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ が従う。この記事の主要な例であり、後の節で証明する(thm-dcov-main、cor-dcov-so3-pi1)。四元数群 $Q_8=\{\pm1,\pm i,\pm j,\pm k\}$ に制限すると、座標軸のまわりの $\pi$ 回転と単位行列からなる位数 $4$ の群への二重被覆が得られる。

Spin 群による回転群の二重被覆

$n\geq2$ とする。実 $n$ 次元 Euclid 空間(Euclid空間)の Clifford 代数(Clifford代数)の可逆元の群の中に、連結なコンパクト Lie 群 $\mathrm{Spin}(n)$(Spin群)と、核が $\{\pm1\}$ の連続な全射準同型 $\mathrm{Spin}(n)\to\mathrm{SO}(n)$ が構成され、$\mathrm{Spin}(n)$ は $\mathrm{SO}(n)$ の二重被覆群である。$n\geq3$ のとき $\mathrm{Spin}(n)$ は単連結で、$\pi_1(\mathrm{SO}(n))\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ である。低次元では $\mathrm{Spin}(3)\cong\mathrm{SU}(2)$、$\mathrm{Spin}(4)\cong\mathrm{SU}(2)\times\mathrm{SU}(2)$ である。

Spin 群の定理の出典

Clifford 代数による $\mathrm{Spin}(n)$ の構成と上の性質の証明は BtD85 Chapter I §6 に譲る。$n=3$ では $\mathrm{Spin}(3)\cong\mathrm{Sp}(1)$ であり、この同一視のもとで二重被覆は thm-dcov-main の $\rho$ にあたる。

Lorentz 群の二重被覆

$\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ は、$2\times2$ の Hermite 行列(Hermite行列)$X$ への作用 $X\mapsto AXA^*$ を通じて、固有順時 Lorentz 群 $\mathrm{SO}^+(1,3)$(SL(2,C)とSO^+(1,3))の二重被覆群になる(核は $\{\pm I\}$)。証明はSL(2,C)による固有順時Lorentz群の二重被覆の記事と Nab12 のスピノルの章(spinor map)に譲る。

作用の形を開く

$X=\begin{pmatrix}t+z&x-iy\\ x+iy&t-z\end{pmatrix}$ を Minkowski 空間の点 $(t,x,y,z)$ と同一視すると $\det X=t^2-x^2-y^2-z^2$ である。$A\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ に対し $X\mapsto AXA^*$ は Hermite 行列を Hermite 行列に写し、$\det(AXA^*)=\det X$ を満たす。これにより $\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})\to\mathrm{SO}^+(1,3)$ が得られ、全射で核は $\{\pm I\}$、2 重の被覆写像である。$A$ を $\mathrm{SU}(2)$ に、$X$ をトレース $0$ の Hermite 行列($t=0$)に制限したものが、座標の取り方を除いて thm-dcov-main の $\mathrm{SU}(2)\to\mathrm{SO}(3)$ にあたる。

$\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})$ の被覆群

行列式 $1$ の実 $2\times2$ 行列の群 $\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})$ について $\pi_1(\mathrm{SL}(2,\mathbb{R}))\cong\mathbb{Z}$ である。各 $n\geq1$ に対し、$\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})$ の連結な $n$ 重被覆群が同型を除いて一意に存在し、その核は巡回群 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ である。$n=2$ のものをメタプレクティック群 $\mathrm{Mp}(2,\mathbb{R})$ という。$\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})$ の普遍被覆群の任意の有限次元連続表現(群の表現)は $\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})$ の表現を経由する。したがって $\mathrm{Mp}(2,\mathbb{R})$ をはじめ、$\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})$ の自明でない連結被覆群は忠実な有限次元表現をもたず、行列群として実現できない。

$\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})$ の被覆群の出典

連結な被覆空間が基本群の部分群と対応することは Hat02 §1.3 Theorem 1.38(連結な Lie 群は弧状連結・局所弧状連結・半局所単連結(半局所単連結空間)なので仮定を満たす)に譲る。$H$ が連結な Lie 群(より一般に弧状連結かつ局所弧状連結な位相群)なら、連結な被覆空間 $p\colon(\tilde X,\tilde e)\to(H,e)$ には、$\tilde e$ を単位元とし $p$ を準同型にする群構造がただ 1 つ入る。写像 $(x,y)\mapsto p(x)p(y)^{-1}$ は基本群の上で $(a,b)\mapsto a-b$ を誘導する(位相群の基本群は可換)ので、持ち上げの基準(Hat02 §1.3 Proposition 1.33)により $\tilde X\times\tilde X\to\tilde X$ に持ち上がり、群の公理は持ち上げの一意性(同 Proposition 1.34)から従う。したがって連結な被覆群も基本群の部分群と対応する。連結 Lie 群の普遍被覆が被覆群となる群構造をもつこと、および $\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})$ の普遍被覆群の有限次元表現がすべて $\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})$ を経由することは Hal15 Chapter 5 に譲る。$\mathbb{Z}$ の部分群は $n\mathbb{Z}$ の形なので、連結被覆群は $n$ ごとに 1 つである。

$\pi_1(\mathrm{SL}(2,\mathbb{R}))\cong\mathbb{Z}$ の証明、表現の経由、忠実な表現がないことを開く

$S^1\times\mathbb{R}^2$ との同相:$g\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})$ の第 1 列を $v_1=ge_1\neq0$ とし、$k(g)\in\mathrm{SO}(2)$ を $k(g)e_1=v_1/\|v_1\|$ となる回転行列とする。$k(g)$ は $v_1/\|v_1\|\in S^1$ から連続に定まる。$k(g)^{-1}g$ は第 1 列が $(\|v_1\|,0)^{\mathrm{T}}$ で行列式が $1$ なので、$k(g)^{-1}g=\begin{pmatrix}r&s\\0&1/r\end{pmatrix}$、$r=\|v_1\|>0$、$s\in\mathbb{R}$ と書ける。写像 $g\mapsto(k(g),r,s)$ は連続であり、逆写像 $(k,r,s)\mapsto k\begin{pmatrix}r&s\\0&1/r\end{pmatrix}$ も連続で、互いに逆である。

$\mathrm{SO}(2)\cong S^1$($\theta\mapsto e^{i\theta}$)、$\mathbb{R}_{>0}\cong\mathbb{R}$($\log$)なので $\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})\cong S^1\times\mathbb{R}^2$ である。$\mathbb{R}^2$ は可縮(可縮空間)なので $\pi_1(\mathrm{SL}(2,\mathbb{R}))\cong\pi_1(S^1)\cong\mathbb{Z}$ である($\pi_1(S^1)\cong\mathbb{Z}$ は Hat02 §1.1 Theorem 1.7)。

経由することの議論の筋:$\mathfrak{sl}(2,\mathbb{R})$ の表現は $\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C})$ の表現に複素化され、単連結な $\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})$ の表現に積分されて、$\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})$ に制限される。

$\mathrm{Mp}(2,\mathbb{R})$ が忠実な有限次元表現をもたないこと:$\mathrm{Mp}(2,\mathbb{R})$ の有限次元表現 $\sigma$ を普遍被覆 $\tilde G\to\mathrm{Mp}(2,\mathbb{R})$(核は $2\mathbb{Z}$ に対応)と合成すると $\tilde G$ の表現になり、それは $\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})$ を経由するので、その核は $\tilde G\to\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})$ の核($\mathbb{Z}$ に対応)を含む。ゆえに $\sigma$ は $\mathrm{Mp}(2,\mathbb{R})\to\mathrm{SL}(2,\mathbb{R})$ の核 $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ 上で自明であり、忠実でない。

反例

二重被覆の定義に含まれる条件と、二重被覆から「言えそうで言えない」ことを、反例で切り分ける。

外す条件・言えそうなこと反例成り立たなくなること
局所自明性(被覆写像であること)離散位相の円周 $S^1_{\mathrm{d}}\to S^1$、$z\mapsto z^2$位相群の二重被覆
核の位数が $2$$z\mapsto z^3$、$\det\colon\mathrm{O}(3)\to\{\pm1\}$、$\mathbb{R}\to S^1$二重被覆
「$G\cong H\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$」$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$、$\mathrm{SU}(2)\to\mathrm{SO}(3)$直積への分解
「$H$ が連結なら $G$ も連結」射影 $H\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\to H$$G$ の連結性(rem-dcov-components)
連続な全射準同型でも被覆写像とは限らない

$S^1_{\mathrm{d}}$ を、円周群 $S^1$ に離散位相を入れた位相群とし、$p\colon S^1_{\mathrm{d}}\to S^1$、$p(z)=z^2$ とする(値域は通常の位相)。離散空間からの写像なので $p$ は連続で、全射準同型、核は $\{\pm1\}$ である。したがって (1) の意味では二重被覆であるが、被覆写像でない。

理由を開く

もし $1$ の開近傍 $V$ と開集合 $W\subset S^1_{\mathrm{d}}$ で $p|_W\colon W\to V$ が同相写像となるものがあれば、$W$ は離散空間なので $V$ も離散空間になる。しかし円周の空でない開集合は開弧を含み、その 1 点は開集合でないから矛盾する。


満たす性質:連続な全射準同型で、核が位数 $2$(各ファイバーが 2 点)。満たさない性質:被覆写像。破る含意:「(1) の意味の二重被覆で連続 $\Rightarrow$ (2) の意味の二重被覆」。局所自明性の条件は落とせない。

核の位数が 2 でない被覆

$z\mapsto z^3$ は $S^1$ から $S^1$ への連続な全射準同型で、ex-dcov-circle と同様に被覆写像であるが、核 $\{1,e^{2\pi i/3},e^{4\pi i/3}\}$ は位数 $3$ なので二重被覆ではない(3 重被覆)。$t\mapsto e^{2\pi it}$ は $\mathbb{R}$ から $S^1$ への被覆準同型だが、核 $\mathbb{Z}$ は無限群である。また $\det\colon\mathrm{O}(3)\to\{\pm1\}$ は全射準同型だが、核 $\mathrm{SO}(3)$ は無限群なので二重被覆ではない。満たす性質:全射準同型(前の 2 つは被覆写像でもある)。満たさない性質:核の位数が $2$。破る含意:「被覆写像である連続な全射準同型 $\Rightarrow$ 二重被覆」(前の 2 つ。$\det$ は「全射準同型 $\Rightarrow$ 二重被覆」を破る)。定義の「核の位数が $2$」の条件は落とせない。

直積に分解するとは限らない

満たす性質:$p\colon G\to H$ が二重被覆である。満たさない性質:$G\cong H\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$(群として)。破る含意:「二重被覆 $\Rightarrow$ $G$ は $H$ と位数 $2$ の群の直積」。
(a) $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$(ex-dcov-z4)。$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ は位数 $4$ の元 $1$ をもつが、$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ はもたない。
(b) $\mathrm{SU}(2)\to\mathrm{SO}(3)$(thm-dcov-main)。位数 $2$ の元は $\mathrm{SU}(2)$ では $-I$ だけだが、$\mathrm{SO}(3)\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ には複数ある。

位数 2 の元の数え上げを開く

$A\in\mathrm{SU}(2)$ が $A^2=I$ を満たすとする。$\det A=1$ の $2\times2$ 行列については Cayley–Hamiltonの定理から $A^2=(\mathrm{tr}\,A)A-I$ なので、$(\mathrm{tr}\,A)A=2I$ である。$\mathrm{tr}\,A=0$ なら $0=2I$ となって矛盾するので $\mathrm{tr}\,A\neq0$、よって $A=\lambda I$($\lambda\in\mathbb{C}$)であり、$\det A=\lambda^2=1$ から $A=\pm I$ である。一方 $\mathrm{SO}(3)\times\{\pm1\}$ には $(D,1)$、$(I,-1)$、$(D,-1)$($D=\mathrm{diag}(-1,-1,1)$、$z$ 軸のまわりの $\pi$ 回転)など位数 $2$ の元が複数ある。

性質

核の元は中心に属する

$p\colon G\to H$ を (1) の意味の二重被覆とし、$\ker p=\{e,k\}$、$k\neq e$ とする。
(i) $k^2=e$ であり、任意の $g\in G$ に対して $gk=kg$ である。すなわち $\ker p$ は $G$ の中心(群の中心)に含まれる。
(ii) 各 $h\in H$ に対し、$p(g)=h$ となる $g$ を 1 つとると $p^{-1}(h)=\{g,kg\}$ であり、$g\neq kg$ である。
この主張に位相や連結性は要らない。

(i) $\ker p$ は位数 $2$ の群なので、$k^2\in\ker p$ である。$k^2=k$ なら両辺に $k^{-1}$ を掛けて $k=e$ となり矛盾するので、$k^2=e$ である。核は正規部分群なので、任意の $g\in G$ について $gkg^{-1}\in\ker p$ であり、$gkg^{-1}=e$ なら $k=e$ となって矛盾するから $gkg^{-1}=k$、すなわち $gk=kg$ である。
(ii) $p(g')=h=p(g)$ は $p(g'g^{-1})=e_H$、すなわち $g'g^{-1}\in\{e,k\}$ と同値なので、$p^{-1}(h)=\{g,kg\}$ である。$kg=g$ なら $k=e$ となるので $g\neq kg$ である。$\square$

この命題から、「核が位数 $2$ の中心的部分群である全射準同型」と言っても (1) と同じことになる。位数 $2$ の正規部分群は自動的に中心に含まれるからである。

中心的な位数 2 の部分群による商

$G$ を $T_1$ 位相群(1 点集合が閉集合である位相群。T1空間)とし、$k\in G$ を $k\neq e$、$k^2=e$ を満たす中心的な元、$K:=\{e,k\}$ とする。商群(商群)$G/K$ に商位相(商空間)を入れると $G/K$ は位相群であり、商写像 $q\colon G\to G/K$ は二重被覆準同型である。すなわち $G$ は $G/K$ の二重被覆群である。
逆に、$p\colon G\to H$ が二重被覆準同型ならば、$p$ が誘導する写像 $\bar p\colon G/\ker p\to H$ は位相群の同型(群の同型かつ同相写像)である。

要点:$e$ の開近傍 $W$ を $W^{-1}W$ が $k$ を含まないように小さくとると、$gW$ と $kgW$ は交わらず、$q$ はそれぞれの上で同相写像になる。

詳しい証明を開く

$K$ は中心的なので正規部分群であり、商群 $G/K$ が定まる。$G$ の開集合 $O$ に対し $q^{-1}(q(O))=O\cup kO$ は開なので(左移動 $x\mapsto kx$ は同相写像)、商位相の定義により $q(O)$ は開であり、$q$ は開写像(開写像)である。正規部分群による商群に商位相を入れたものが位相群であることは標準的である(Bou98 Chapter III §2)。

$G$ が $T_1$ なので $G\setminus\{k\}$ は $e$ の開近傍である。写像 $(x,y)\mapsto x^{-1}y$ は $(e,e)$ で連続なので、$e$ の開近傍 $W$ で $W^{-1}W\subset G\setminus\{k\}$ となるものがとれる。このとき $W\cap kW=\emptyset$ である。実際 $w=kw'$($w,w'\in W$)なら、$k$ が中心的なので $w'^{-1}w=w'^{-1}kw'=k\in W^{-1}W$ となり矛盾する。

$g\in G$ に対し $gW$ は $g$ の開近傍で、$gW\cap kgW=g(W\cap kW)=\emptyset$ である。$V:=q(gW)$ は $q(g)$ の開近傍で、$q^{-1}(V)=gW\sqcup kgW$ である。$q|_{gW}\colon gW\to V$ は連続な全射で、$gW$ が $K$ の剰余類の 2 点を同時には含まないので単射であり、開写像の開集合への制限として開写像なので同相写像である。$kgW$ についても同様である。よって $q$ は 2 重の被覆写像であり、全射準同型なので二重被覆準同型である。

逆の主張:$\bar p$ は全単射な連続準同型である。被覆写像は開写像である(被覆空間の記事の命題(被覆写像の基本性質))ので、$G/\ker p$ の開集合 $U$ の像 $\bar p(U)=p(q'^{-1}(U))$($q'\colon G\to G/\ker p$ は商写像)は開であり、$\bar p$ は開写像、したがって同相写像である。$\square$

基本群との関係

$p\colon G\to H$ を二重被覆準同型とし、$G$ は弧状連結(弧状連結空間)とする。このとき $H$ も弧状連結で、$p_*\colon\pi_1(G,e)\to\pi_1(H,e_H)$ は単射であり、その像は指数 $2$ の部分群である。特に $G$ が単連結(単連結空間)ならば $\pi_1(H,e_H)\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ であり、その自明でない元は、$e$ から $k$ への $G$ 内の道を $p$ で写したループで代表される。

要点:被覆空間の記事の定理(基本群との関係)により、弧状連結な被覆ではファイバーの点の個数が $p_*\pi_1(G,e)$ の指数に等しい。ファイバーは 2 点である。

詳しい証明を開く

$H=p(G)$ は弧状連結空間の連続像なので弧状連結である。$p$ は被覆写像なので、被覆空間の記事の定理(基本群との関係)により $p_*$ は単射で、全空間と底空間が弧状連結のときファイバーの点の個数は $p_*\pi_1(G,e)$ の指数に等しい。ファイバーは 2 点なので指数は $2$ である。$G$ が単連結なら $p_*\pi_1(G,e)$ は自明群であり、その指数が $2$ なので $\pi_1(H,e_H)$ は位数 $2$、すなわち $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ である。

代表元について:$e$ から $k$ への道 $\tilde\gamma$ をとると、$\gamma:=p\circ\tilde\gamma$ は $e_H$ を基点とするループで、その $e$ を始点とする持ち上げ $\tilde\gamma$ の終点は $k\neq e$ である。定値ループの持ち上げは定値なので、持ち上げの終点がホモトピー類で定まること(同記事の系(道のホモトピー類と持ち上げの終点))により $[\gamma]$ は単位元でない。$\square$

連結性と成分

$H$ が連結でも $G$ は連結とは限らない。たとえば直積 $H\times C_2$($C_2$ は離散位相の位数 $2$ の群)から $H$ への射影は二重被覆準同型だが、$G=H\times C_2$ は 2 つの連結成分をもつ。$H$ が連結かつ局所連結(局所連結空間)なら、$G$ の連結成分は高々 2 つであり、$G$ が連結であることと $k$ が単位元の連結成分 $G_0$ に入ることとは同値である。

理由を開く

$G$ も局所連結(被覆写像は局所同相)なので $G_0$ は開部分群であり、$p(G_0)$ は連結群 $H$ の開部分群(被覆写像は開写像)なので $p(G_0)=H$ である。したがって $G=G_0\cup kG_0$ である。


$H$ が連結かつ局所弧状連結で $G$ が連結なら、$G$ は弧状連結であり、$p_*\pi_1(G)$ は $\pi_1(H)$ の指数 $2$ の部分群である(prop-dcov-pi1)。したがって $\pi_1(H)$ が奇数位数の有限群なら、連結な二重被覆群は存在しない。$H$ が連結な Lie 群なら、逆に指数 $2$ の部分群ごとに連結な二重被覆群がある(rem-dcov-sl2-source の対応)。

$\mathrm{SU}(2)$ による $\mathrm{SO}(3)$ の二重被覆

主要な例 $\mathrm{SU}(2)\to\mathrm{SO}(3)$ を四元数で構成し、二重被覆であることを証明する。回転軸の定理と四元数を準備してから、両者を共役作用で結ぶ。

回転群と回転軸

3 次元の特殊直交群

$$ \mathrm{SO}(3):=\{R\in M_3(\mathbb{R})\mid R^{\mathrm{T}}R=I,\ \det R=1\} $$
とおく。ここで $M_3(\mathbb{R})$ は実 $3\times3$ 行列全体、$R^{\mathrm{T}}$ は転置、$I$ は単位行列である。$\mathrm{SO}(3)$ は行列の積について群をなし、$M_3(\mathbb{R})\cong\mathbb{R}^9$ の部分空間として位相を入れると位相群になる。

$R^{\mathrm{T}}R=I$ は $R$ が直交行列であること、すなわち標準的な内積 $\langle x,y\rangle=x^{\mathrm{T}}y$ を保つことと同値である。$\mathrm{SO}(3)$ はコンパクト(コンパクト空間)な Hausdorff空間である。

理由を開く

積と逆元(転置)は成分の多項式なので連続である。$\mathrm{SO}(3)$ は $\mathbb{R}^9$ の有界閉集合(各成分の絶対値は $1$ 以下で、条件は多項式の等式)なのでコンパクトであり、$\mathbb{R}^9$ の部分空間なので Hausdorff である。


$z$ 軸のまわりの角 $\theta$ の回転を
$$ R_3(\theta):=\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta&0\\\sin\theta&\cos\theta&0\\0&0&1\end{pmatrix}\in\mathrm{SO}(3) $$
と書く。$R_3(\theta)$ は $e_3=(0,0,1)^{\mathrm{T}}$ を動かさず、$xy$ 平面を角 $\theta$ だけ回す。

動かない実ベクトルの存在

$R\in\mathrm{SO}(3)$ ならば $\det(R-I)=0$ である。したがって $Rv=v$ を満たす $v\in\mathbb{R}^3$、$v\neq0$ が存在する。すなわち $1$ は $R$ の固有値であり、対応する固有ベクトルを実ベクトルにとれる。

$RR^{\mathrm{T}}=I$ を使って $R-I=R-RR^{\mathrm{T}}=R(I-R^{\mathrm{T}})$ と書ける。行列式の乗法性、$\det R=1$、転置で行列式が変わらないことから
$$ \det(R-I)=\det R\cdot\det(I-R^{\mathrm{T}})=\det\bigl((I-R)^{\mathrm{T}}\bigr)=\det(I-R)=(-1)^3\det(R-I) $$
となる。最後の等号は、$3\times3$ 行列の各行に $-1$ を掛けると行列式が $(-1)^3$ 倍になることによる。よって $2\det(R-I)=0$、すなわち $\det(R-I)=0$ である。$R-I$ は実行列で行列式が $0$ なので、その列ベクトルは $\mathbb{R}$ 上で一次従属であり、$(R-I)v=0$ となる実ベクトル $v\neq0$ がある。$\square$

証明では、$R$ が直交行列であること、$\det R=1$、次元 $3$ が奇数であること($(-1)^3=-1$)の 3 つを使った。どれか 1 つを外すと結論は成り立たない。

外す条件反例成り立たなくなること
次元が奇数平面の回転 $\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix}$($0<\theta<2\pi$)。$\det(R-I)=2-2\cos\theta\neq0$$0$ でない動かないベクトルがある
$\det R=1$$R=-I$($3\times3$)。$Rv=-v$$0$ でない動かないベクトルがある
直交行列$R=\mathrm{diag}(2,2,\tfrac14)$。$\det R=1$ だが固有値は $2,2,\tfrac14$$1$ が固有値
回転軸の定理

任意の $R\in\mathrm{SO}(3)$ に対し、長さ $1$ のベクトル $u$、$u$ と直交する長さ $1$ のベクトル $u_1$、実数 $\theta$ で、$u_2:=u\times u_1$(ベクトル積)、$P:=(u_1\ u_2\ u)$(この順に列を並べた行列)とおくと $P\in\mathrm{SO}(3)$ かつ
$$ R=P\,R_3(\theta)\,P^{\mathrm{T}} $$
となるものが存在する。すなわち $R$ は $u$ を固定し、$u$ に直交する平面を $u_1$ から $u_2$ の向きに角 $\theta$ だけ回す。このとき $R$ を $u$ を軸とする角 $\theta$ の回転という($u_1$ の選び方によらないことは lem-dcov-axis-lift から分かる)。

要点:lem-dcov-fixed-vector で得た単位ベクトル $u$ を第 3 列とする $P$ をとると、$S:=P^{\mathrm{T}}RP$ は $e_3$ を固定する $\mathrm{SO}(3)$ の元であり、そのような元は $R_3(\theta)$ の形に限る。

詳しい証明を開く($P\in\mathrm{SO}(3)$ の確認と $S$ の形)

lem-dcov-fixed-vector の $v$ から $u:=v/\|v\|$ とおくと $Ru=u$ である。$u$ と直交する長さ $1$ のベクトル $u_1$ を 1 つとる($u$ と平行でないベクトルから $u$ 方向の成分を引いて正規化すればよい)。$u_2=u\times u_1$ は $u,u_1$ の両方と直交し、$\|u_2\|=\|u\|\|u_1\|=1$ である。よって $P=(u_1\ u_2\ u)$ の列は正規直交で $P^{\mathrm{T}}P=I$ である。さらに、スカラー三重積 $\det(a\ b\ c)=\langle a\times b,c\rangle$ と、ベクトル三重積の公式 $a\times(b\times c)=\langle a,c\rangle b-\langle a,b\rangle c$ から$$\det P=\langle u_1\times u_2,\,u\rangle,\qquad u_1\times(u\times u_1)=\langle u_1,u_1\rangle u-\langle u_1,u\rangle u_1=u$$なので $\det P=\langle u,u\rangle=1$ であり、$P\in\mathrm{SO}(3)$ である。

$S:=P^{\mathrm{T}}RP\in\mathrm{SO}(3)$ は、$Pe_3=u$ から $Se_3=P^{\mathrm{T}}Ru=P^{\mathrm{T}}u=e_3$ を満たす。したがって $S$ の第 3 列は $e_3$ であり、$S^{\mathrm{T}}=S^{-1}$ も $e_3$ を固定するので第 3 行も $(0,0,1)$ である。よって $S=\begin{pmatrix}A&0\\0&1\end{pmatrix}$($A\in M_2(\mathbb{R})$)と書け、$A^{\mathrm{T}}A=I$、$\det A=1$ である。

詳細

$A$ の第 1 列を $(\alpha,\beta)^{\mathrm{T}}$ とすると $\alpha^2+\beta^2=1$ である。第 2 列は長さ $1$ で第 1 列と直交する平面ベクトルなので $\pm(-\beta,\alpha)^{\mathrm{T}}$ のどちらかであり、行列式が $1$ になるのは $+$ の方である。$(\alpha,\beta)=(\cos\theta,\sin\theta)$ となる $\theta$ をとれば $S=R_3(\theta)$ である。

よって $R=PSP^{\mathrm{T}}=PR_3(\theta)P^{\mathrm{T}}$ である。正規直交基底 $(u_1,u_2,u)$ に関する座標で見ると、$R$ は $R_3(\theta)$ で表される。$\square$

四元数と $\mathrm{SU}(2)$

四元数の積・共役・ノルム

$\mathbb{H}$ を、$1,i,j,k$ を基底とする実 4 次元ベクトル空間に
$$ i^2=j^2=k^2=ijk=-1 $$
から定まる結合的な積($ij=-ji=k$、$jk=-kj=i$、$ki=-ik=j$)を入れた実代数とする。$q=a+bi+cj+dk$($a,b,c,d\in\mathbb{R}$)に対し、共役 $\bar q:=a-bi-cj-dk$、ノルム $N(q):=a^2+b^2+c^2+d^2$ とおく。実部 $a$ が $0$ の四元数を純四元数といい、その全体を $\mathrm{Im}\,\mathbb{H}$ と書く。

四元数環 $\mathbb{H}$ について次の等式が成り立つ。いずれも成分で展開すれば確かめられる。
$$ q\bar q=\bar qq=N(q),\qquad \overline{pq}=\bar q\,\bar p,\qquad N(pq)=N(p)N(q). $$
1 つ目から、$q\neq0$ なら $q^{-1}=\bar q/N(q)$ である。

3 つ目の導き方と、$\mathbb{R}^4$ との同一視を開く

$N(pq)=pq\,\bar q\,\bar p=N(q)\,p\bar p=N(p)N(q)$ である(実数 $N(q)$ は $p$ と可換)。$\mathbb{H}$ を $\mathbb{R}^4$ と同一視すると $N(q)$ はユークリッドノルムの 2 乗であり、$p,q$ の標準内積は $p\bar q$ の実部に等しい。$x\in\mathbb{H}$ が純四元数であることは $\bar x=-x$ と同値である。


純四元数 $bi+cj+dk$ を $(b,c,d)^{\mathrm{T}}\in\mathbb{R}^3$ と同一視すると、純四元数どうしの積は内積とベクトル積で
$$ xy=-\langle x,y\rangle+x\times y\qquad(x,y\in\mathrm{Im}\,\mathbb{H}\cong\mathbb{R}^3) $$
と書ける(両辺を $i,j,k$ の係数で展開して比べればよい)。特に $x,y$ が直交すれば $xy=x\times y$ であり、$x$ の長さが $1$ なら $x^2=-1$ である。

単位四元数の群

$$ \mathrm{Sp}(1):=\{q\in\mathbb{H}\mid N(q)=1\} $$
を単位四元数の群という。$N(pq)=N(p)N(q)$ から積で閉じ、$q^{-1}=\bar q$ も $\mathrm{Sp}(1)$ に属するので群である。$\mathbb{H}\cong\mathbb{R}^4$ の部分空間として 3 次元球面 $S^3$ そのものであり、コンパクトで弧状連結な位相群である。

$\mathrm{SU}(2)$ は、行列式 $1$ の $2\times2$ ユニタリ行列全体 $\{A\in M_2(\mathbb{C})\mid A^*A=I,\ \det A=1\}$ である($A^*$ は共役転置)。

$\mathrm{Sp}(1)$ と $\mathrm{SU}(2)$ の同型

$q=a+bi+cj+dk$ に対し
$$ \varphi(q):=\begin{pmatrix}a+bi&c+di\\-c+di&a-bi\end{pmatrix} $$
とおく。$\varphi\colon\mathbb{H}\to M_2(\mathbb{C})$ は単射な実線形写像で、$\varphi(pq)=\varphi(p)\varphi(q)$、$\det\varphi(q)=N(q)$ を満たす。$\varphi$ は $\mathrm{Sp}(1)$ から $\mathrm{SU}(2)$ への位相群の同型を与え、$\varphi(-1)=-I$ である。

要点:$\varphi(i),\varphi(j),\varphi(k)$ が四元数の関係式を満たすので $\varphi$ は積を保つ。$\mathrm{SU}(2)$ の元はちょうど $\begin{pmatrix}\alpha&\beta\\-\bar\beta&\bar\alpha\end{pmatrix}$($\lvert\alpha\rvert^2+\lvert\beta\rvert^2=1$)の形の行列である。

詳しい証明を開く

積:$\varphi(1)=I$、$\varphi(i)=\begin{pmatrix}i&0\\0&-i\end{pmatrix}$、$\varphi(j)=\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}$、$\varphi(k)=\begin{pmatrix}0&i\\i&0\end{pmatrix}$ であり、$\varphi$ は実線形である。行列の積を計算すると $\varphi(i)^2=\varphi(j)^2=\varphi(k)^2=-I$、$\varphi(i)\varphi(j)=\varphi(k)=-\varphi(j)\varphi(i)$、$\varphi(j)\varphi(k)=\varphi(i)=-\varphi(k)\varphi(j)$、$\varphi(k)\varphi(i)=\varphi(j)=-\varphi(i)\varphi(k)$ である。四元数の積は基底どうしの積から双線形に定まるので、$\varphi(pq)=\varphi(p)\varphi(q)$ である。$\det\varphi(q)=(a+bi)(a-bi)-(c+di)(-c+di)=N(q)$ であり、$\varphi(q)=0$ なら $a=b=c=d=0$ なので $\varphi$ は単射である。

$\mathrm{SU}(2)$ の元の形:$A=\begin{pmatrix}\alpha&\beta\\\gamma&\delta\end{pmatrix}\in\mathrm{SU}(2)$ なら、$\det A=1$ から $A^{-1}=\begin{pmatrix}\delta&-\beta\\-\gamma&\alpha\end{pmatrix}$ であり、これが $A^*=\begin{pmatrix}\bar\alpha&\bar\gamma\\\bar\beta&\bar\delta\end{pmatrix}$ に等しいので $\delta=\bar\alpha$、$\gamma=-\bar\beta$、$\det A=\lvert\alpha\rvert^2+\lvert\beta\rvert^2=1$ である。逆にこの形の行列は $A^*A=(\lvert\alpha\rvert^2+\lvert\beta\rvert^2)I=I$、$\det A=1$ を満たす。

全単射:$\varphi(q)$ は $\alpha=a+bi$、$\beta=c+di$ としたこの形の行列で、$\lvert\alpha\rvert^2+\lvert\beta\rvert^2=N(q)$ である。よって $N(q)=1$ なら $\varphi(q)\in\mathrm{SU}(2)$ であり、逆に $\mathrm{SU}(2)$ の元は $q=\mathrm{Re}\,\alpha+(\mathrm{Im}\,\alpha)i+(\mathrm{Re}\,\beta)j+(\mathrm{Im}\,\beta)k\in\mathrm{Sp}(1)$ の像である。$\varphi$ とその逆写像は成分の実線形写像の制限なので連続であり、$\varphi$ は同相写像である。$\square$

この同型により、以下の $\mathrm{Sp}(1)$ についての主張はそのまま $\mathrm{SU}(2)$ についての主張になる。

共役作用による二重被覆

共役作用が回転を与えること

$q\in\mathrm{Sp}(1)$ と $x\in\mathrm{Im}\,\mathbb{H}$ に対し $\rho(q)(x):=qx\bar q\ (=qxq^{-1})$ とおく。
(i) $\rho(q)(x)\in\mathrm{Im}\,\mathbb{H}$ であり、$\rho(q)\colon\mathrm{Im}\,\mathbb{H}\to\mathrm{Im}\,\mathbb{H}$ は実線形でノルムを保つ。
(ii) $\mathrm{Im}\,\mathbb{H}\cong\mathbb{R}^3$ の基底 $i,j,k$ に関する $\rho(q)$ の表現行列は $\mathrm{SO}(3)$ に属する。
(iii) $\rho\colon\mathrm{Sp}(1)\to\mathrm{SO}(3)$ は連続な群準同型である。

要点:共役は純四元数を純四元数に写してノルムを保つので、表現行列は直交行列である。行列式は $\pm1$ の値を $q$ について連続にとり、$\mathrm{Sp}(1)$ は弧状連結で $\rho(1)=I$ なので、つねに $1$ である。

詳しい証明を開く

(i) $\overline{qx\bar q}=q\,\bar x\,\bar q=-qx\bar q$ なので $qx\bar q$ は純四元数である(純四元数であることは $\bar x=-x$ と同値)。線形性は積の双線形性から従い、$N(qx\bar q)=N(q)N(x)N(\bar q)=N(x)$ である。

(ii) 内積は $\langle x,y\rangle=\frac12\bigl(\|x+y\|^2-\|x\|^2-\|y\|^2\bigr)$ とノルムで書けるので、(i) から $\rho(q)$ は内積も保ち、表現行列は直交行列である。$q=a+bi+cj+dk$ として $qi\bar q$、$qj\bar q$、$qk\bar q$ を展開すると、表現行列は$$\rho(q)=\begin{pmatrix}a^2+b^2-c^2-d^2&2(bc-ad)&2(bd+ac)\\2(bc+ad)&a^2-b^2+c^2-d^2&2(cd-ab)\\2(bd-ac)&2(cd+ab)&a^2-b^2-c^2+d^2\end{pmatrix}$$である。成分が $a,b,c,d$ の多項式なので、行列式は $q$ について連続で $\pm1$ の値をとる。$\mathrm{Sp}(1)$ は弧状連結で $\rho(1)=I$ なので、行列式はつねに $1$ である。

詳細

連続性によらない確かめ方:この行列を $M$ と書くと、$a,b,c,d$ を不定元とする多項式の恒等式として $M^{\mathrm{T}}M=N(q)^2I$、$\det M=N(q)^3$ が成り立つ(展開して確かめられる)。$N(q)=1$ を代入すれば $\rho(q)\in\mathrm{SO}(3)$ である。

(iii) $\rho(pq)(x)=pqx\,\bar q\,\bar p=\rho(p)\bigl(\rho(q)(x)\bigr)$ なので $\rho(pq)=\rho(p)\rho(q)$ である。表現行列の成分は多項式なので $\rho$ は連続である。$\square$

軸のまわりの回転の持ち上げ

$u,u_1\in\mathrm{Im}\,\mathbb{H}$ を長さ $1$ の直交するベクトルとし、$u_2:=u\times u_1$、$P:=(u_1\ u_2\ u)$ とする。任意の $\theta\in\mathbb{R}$ について
$$ \rho\Bigl(\cos\tfrac{\theta}{2}+\sin\tfrac{\theta}{2}\,u\Bigr)=P\,R_3(\theta)\,P^{\mathrm{T}}. $$
特に $u=k$、$u_1=i$ とすると $P=I$ で、$\rho\bigl(\cos\frac{\theta}{2}+\sin\frac{\theta}{2}\,k\bigr)=R_3(\theta)$ である。

要点:両辺が基底 $u_1,u_2,u$ を同じ行き先に写すことを確かめる。$q:=\cos\frac\theta2+\sin\frac\theta2\,u$ は $u$ と可換なので $u$ を固定し、$qu_1\bar q$ を純四元数の積の公式で展開すると、倍角の公式により $\cos\theta\,u_1+\sin\theta\,u_2$ になる。

詳しい証明を開く

右辺:$P$ の列は正規直交なので $P^{\mathrm{T}}u_1=e_1$、$P^{\mathrm{T}}u_2=e_2$、$P^{\mathrm{T}}u=e_3$ であり、$PR_3(\theta)P^{\mathrm{T}}$ は $u\mapsto u$、$u_1\mapsto\cos\theta\,u_1+\sin\theta\,u_2$、$u_2\mapsto-\sin\theta\,u_1+\cos\theta\,u_2$ と写す。

左辺:$c:=\cos\frac\theta2$、$s:=\sin\frac\theta2$ とおくと $N(q)=c^2+s^2=1$ である。$q$ は $u$ と可換なので $\rho(q)(u)=uq\bar q=u$ である。次に$$qu_1\bar q=(c+su)\,u_1\,(c-su)=c^2u_1+cs(uu_1-u_1u)-s^2\,uu_1u=(c^2-s^2)u_1+2cs\,u_2=\cos\theta\,u_1+\sin\theta\,u_2$$である。

詳細

$uu_1u=u_2u=u_2\times u$ であり、ベクトル積の反交換性とベクトル三重積の公式 $a\times(b\times c)=\langle a,c\rangle b-\langle a,b\rangle c$ から $u_2\times u=-u\times(u\times u_1)=-(\langle u,u_1\rangle u-\langle u,u\rangle u_1)=u_1$ である。よって $-s^2\,uu_1u=-s^2u_1$ となる。最後に倍角の公式 $c^2-s^2=\cos\theta$、$2cs=\sin\theta$ を使った。

最後に $u_2=uu_1$ で、共役 $x\mapsto qx\bar q$ は積を保つ($\bar qq=1$)ので、$\rho(q)(u_2)=\rho(q)(u)\,\rho(q)(u_1)=u(\cos\theta\,u_1+\sin\theta\,u_2)=\cos\theta\,u_2-\sin\theta\,u_1$ である($uu_2=u\times u_2=-u_1$ を使った)。基底 $u_1,u_2,u$ の行き先が右辺と一致するので、両辺は等しい。$\square$

主定理

$\mathrm{SU}(2)$ による $\mathrm{SO}(3)$ の二重被覆

$\rho\colon\mathrm{Sp}(1)\to\mathrm{SO}(3)$ は連続な全射準同型で、$\ker\rho=\{1,-1\}$ であり、2 重の被覆写像である。したがって $\mathrm{Sp}(1)$ は $\mathrm{SO}(3)$ の二重被覆群である。prop-dcov-sp1-su2 の同型 $\varphi$ と合成した $\rho\circ\varphi^{-1}\colon\mathrm{SU}(2)\to\mathrm{SO}(3)$ も核が $\{\pm I\}$ の二重被覆準同型であり、$\mathrm{SU}(2)$ は $\mathrm{SO}(3)$ の二重被覆群である。

連続な準同型であることは lem-dcov-conjugation (iii) で示した。
全射性 $R\in\mathrm{SO}(3)$ とする。thm-dcov-rotation-axis により $R=PR_3(\theta)P^{\mathrm{T}}$ と書け、lem-dcov-axis-lift により $R=\rho\bigl(\cos\frac\theta2+\sin\frac\theta2\,u\bigr)$ である。
核 $q\in\ker\rho$ とは、すべての純四元数 $x$ について $qx\bar q=x$、すなわち $qx=xq$ となることである。$i$ とも $j$ とも可換な四元数は実数に限るので、$\ker\rho=\{a\in\mathbb{R}\mid a^2=1\}=\{1,-1\}$ である。

詳細

$q=a+bi+cj+dk$ について展開すると $iq-qi=-2d\,j+2c\,k$、$jq-qj=2d\,i-2b\,k$ なので、$q$ が $i$ および $j$ と可換なら $b=c=d=0$ である。逆に実数はすべての四元数と可換である。


被覆写像であること 要点:$q$ を中心とする開半球面 $U_q$ と反対側 $U_{-q}=-U_q$ をとると、$\rho^{-1}(\rho(U_q))=U_q\sqcup U_{-q}$ であり、$\rho$ は各半球面から $\rho(U_q)$ への同相写像になる(コンパクト空間から Hausdorff 空間への連続写像は閉写像であることを使う)。
詳しい証明を開く(局所自明性)

$q\in\mathrm{Sp}(1)$ を固定し、$U_q:=\{p\in\mathrm{Sp}(1)\mid\mathrm{Re}(p\bar q)>0\}$、$E_q:=\{p\in\mathrm{Sp}(1)\mid\mathrm{Re}(p\bar q)=0\}$ とおく。$\mathrm{Re}(p\bar q)$ は $p$ と $q$ の内積なので、$U_q$ は $q$ を中心とする開半球面、$E_q$ はその境界の 2 次元球面であり、$\mathrm{Sp}(1)=U_q\sqcup E_q\sqcup U_{-q}$、$U_{-q}=-U_q$ である。

核が $\{\pm1\}$ なので、各 $R\in\mathrm{SO}(3)$ の逆像はある $p$ について $\{p,-p\}$ である(prop-dcov-kernel-central (ii))。$\mathrm{Re}(-p\bar q)=-\mathrm{Re}(p\bar q)$ なので、$\{p,-p\}$ は「$U_q$ と $U_{-q}$ に 1 点ずつ」か「2 点とも $E_q$」のどちらかである。したがって $V:=\rho(U_q)$ とおくと $\mathrm{SO}(3)=V\sqcup\rho(E_q)$、$\rho^{-1}(V)=U_q\sqcup U_{-q}$ であり、$\rho|_{U_q}\colon U_q\to V$ と $\rho|_{U_{-q}}\colon U_{-q}\to V$ は全単射である。

$V$ が開集合であること:$E_q$ はコンパクトな $\mathrm{Sp}(1)$ の閉集合なのでコンパクトであり、その連続像 $\rho(E_q)$ はコンパクトである。$\mathrm{SO}(3)$ は Hausdorff 空間なので $\rho(E_q)$ は閉集合であり、補集合 $V$ は開集合である。

$\rho|_{U_q}$ が同相写像であること:連続な全単射なので、開写像であることを示せばよい。$W\subset U_q$ を開集合とする。$W\cup(-W)$ は $\{p,-p\}$ の形の組を丸ごと含むか全く含まない集合なので、$\rho(W)=\mathrm{SO}(3)\setminus\rho\bigl(\mathrm{Sp}(1)\setminus(W\cup(-W))\bigr)$ である。$\mathrm{Sp}(1)\setminus(W\cup(-W))$ は閉集合なのでコンパクトであり、上と同じ理由でその像は閉集合である。よって $\rho(W)$ は開集合である。$U_{-q}$ についても同様である。

以上で $\rho(q)$ の開近傍 $V$ について $\rho^{-1}(V)=U_q\sqcup U_{-q}$、各制限が同相写像となることが示された。$\rho$ は全射なので $\mathrm{SO}(3)$ の各点はある $\rho(q)$ の形であり、$\rho$ は 2 重の被覆写像である。$\mathrm{SU}(2)$ についての主張は $\varphi$ が位相群の同型であることから従う。$\square$

状況を図式にまとめると次のようになる。横の列は、左の群が右の写像の核であることを表す。
$$ \xymatrix{ \{\pm1\} \ar@{^{(}->}[r] \ar[d]_{\varphi} & \mathrm{Sp}(1) \ar@{->>}[r]^{\rho} \ar[d]_{\varphi}^{\cong} & \mathrm{SO}(3) \ar@{=}[d] \\ \{\pm I\} \ar@{^{(}->}[r] & \mathrm{SU}(2) \ar@{->>}[r]_{\rho\circ\varphi^{-1}} & \mathrm{SO}(3) } $$
図式が可換であるとは、右の四角形について $(\rho\circ\varphi^{-1})\circ\varphi=\rho$ が成り立ち、左の四角形について $\varphi$ が $\{\pm1\}$ を $\{\pm I\}$ に写すことである。
各回転の上には 2 つの単位四元数 $\pm q$ が乗る。$q$ の近くの点は $R=\rho(q)$ の近くに 1 対 1 に写り、$-q$ の近くの点も同じように写る。
$$ \xymatrix{ q \ar@{|->}[dr]_{\rho} & & -q \ar@{|->}[dl]^{\rho} \\ & R=\rho(q)=\rho(-q) & } $$
すなわち $\rho(q)=\rho(-q)=R$ である。

回転の半角表示

長さ $1$ の $u\in\mathbb{R}^3\cong\mathrm{Im}\,\mathbb{H}$ と $\theta\in\mathbb{R}$ に対し、$u$ を軸とする角 $\theta$ の回転(thm-dcov-rotation-axis の意味)は $u_1$ の選び方によらず
$$ \rho\Bigl(\pm\bigl(\cos\tfrac{\theta}{2}+\sin\tfrac{\theta}{2}\,u\bigr)\Bigr) $$
に等しく、これを与える単位四元数はこの 2 つだけである。

lem-dcov-axis-lift の左辺は $u_1$ を含まないので、回転 $PR_3(\theta)P^{\mathrm{T}}$ は $u_1$ の選び方によらない。これを与える単位四元数は、核が $\{\pm1\}$ なので $\cos\frac\theta2+\sin\frac\theta2\,u$ とその $-1$ 倍の 2 つだけである(prop-dcov-kernel-central (ii))。$\square$

たとえば $\theta=2\pi$ とすると回転は恒等写像だが、$\cos\pi+\sin\pi\,u=-1$ である。道 $t\mapsto\cos\frac t2+\sin\frac t2\,k$($0\leq t\leq2\pi$)は $\mathrm{Sp}(1)$ の中で $1$ から $-1$ へ向かい、$\rho$ で写すと $\mathrm{SO}(3)$ の中で単位行列から出て単位行列に戻るループ $t\mapsto R_3(t)$ になる。

回転群の基本群

$\pi_1(\mathrm{SO}(3))\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ であり、その自明でない元は $2\pi$ 回転のループ $t\mapsto R_3(t)$($0\leq t\leq2\pi$)で代表される。$\rho$ は $\mathrm{SO}(3)$ の普遍被覆(普遍被覆空間)であり、$\mathrm{SO}(3)$ は 3 次元実射影空間 $\mathbb{RP}^3$(実射影空間)と同相である。

要点:$\mathrm{Sp}(1)=S^3$ は単連結なので(Hat02 §1.1 Proposition 1.14)、prop-dcov-pi1 を $\rho$ に当てはめる。

詳しい証明を開く

thm-dcov-main と prop-dcov-pi1 により $\pi_1(\mathrm{SO}(3))\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ であり、自明でない元は $1$ から $-1$ への道 $t\mapsto\cos\frac t2+\sin\frac t2\,k$ の像、すなわち lem-dcov-axis-lift によりループ $t\mapsto R_3(t)$ で代表される。単連結な被覆空間なので $\rho$ は普遍被覆である。また prop-dcov-quotient の後半により、$\rho$ は位相群の同型 $\mathrm{Sp}(1)/\{\pm1\}\cong\mathrm{SO}(3)$ を誘導し、$S^3$ の対蹠点を同一視した空間 $S^3/\{\pm1\}$ が $\mathbb{RP}^3$ である。$\square$

このループを 2 周させた $4\pi$ 回転のループは縮む(ベルトのトリック)。

理由と文献を開く

$0\leq t\leq4\pi$ のループの持ち上げ $t\mapsto\cos\frac t2+\sin\frac t2\,k$ は $1$ に戻る閉じた道であり、単連結な $S^3$ の中で縮むので、その像も縮む。行列 Lie 群としての扱いは Hal15 Chapter 1 や Sti08 §2.3 にある。

Pauli 行列による記述との関係

$\varphi(i),\varphi(j),\varphi(k)$ に $-i$ を掛けると順に Pauli 行列(Hermite行列)$\sigma_3,\sigma_2,\sigma_1$ になる。物理で使われる Pauli 行列による $\mathrm{SU}(2)\to\mathrm{SO}(3)$ の記述(その計算はSO(3)とSU(2)の記事にある)は、上の構成の座標を取り替えたものである(SO(3)とSU(2)の記事は四元数と行列の別の同一視を使うので、座標軸の名前と回転の向きの符号が入れ替わって見える)。

対応の詳細を開く

$\varphi$ で $\mathrm{Sp}(1)$ を $\mathrm{SU}(2)$ に移すと、純四元数 $i,j,k$ はトレース $0$ の反 Hermite 行列 $\varphi(i),\varphi(j),\varphi(k)$ に対応し、$\rho$ は $X\mapsto AXA^{-1}$($A\in\mathrm{SU}(2)$)という行列の共役になる。四元数による回転の表示は Sti08 §1.5 にある。

関連項目

参考文献

[1]
[2]
[3]
Brian C. Hall, Lie Groups, Lie Algebras, and Representations: An Elementary Introduction, 2nd ed.(Graduate Texts in Mathematics 222), Springer, 2015, Chapter 1(行列 Lie 群の例と位相的性質、SU(2) から SO(3) への準同型)、Chapter 5(Lie 群の普遍被覆群、SL(2,R) の普遍被覆群の有限次元表現が SL(2,R) を経由すること)
[4]
John Stillwell, Naive Lie Theory, Undergraduate Texts in Mathematics, Springer, 2008, §1.5(四元数による空間の回転の表示)、§2.3(群 SU(2) と SO(3))
[5]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, §1.1 Theorem 1.7(円周の基本群)、Proposition 1.14(球面の単連結性)、§1.3 Proposition 1.33、1.34(持ち上げの基準と一意性)、Theorem 1.38(被覆空間の分類)

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