豊富な可逆層(ample invertible sheaf)とは、Noether スキーム $X$ 上の可逆層 $\mathcal{L}$ で、任意の連接層 $\mathcal{F}$ に対し十分大きいすべての $n$ で $\mathcal{F}\otimes\mathcal{L}^{n}$ が大域切断で生成されるものをいう。射影空間のひねり層 $\mathcal{O}(1)$ が原型で、はめ込みによる $\mathcal{O}(1)$ の引き戻しを非常に豊富な可逆層という。豊富であることは、ある冪が非常に豊富であること、ある冪の切断の非零点集合がアフィン開集合で $X$ を覆うこと、固有スキームでは $\mathcal{L}^{n}$ でひねった連接層の高次コホモロジーが消えること(Serre の判定)と同値であり、固有スキームは豊富な可逆層をもつときに限り射影的である。
前提知識: スキーム, 可逆層, 連接層, 準連接層, 射影空間, 層コホモロジー, 因子
豊富な可逆層は、スキーム $X$ 上の可逆層のうち、十分高い冪をひねればどんな連接層も大域切断で生成できるものである。これは「$X$ が射影空間へ埋め込める」という性質(射影射)を可逆層の言葉で言い換えたものであり、豊富な可逆層の存在が $X$ の射影性を特徴づける。以下 $X$ は Noether スキーム(Noetherスキーム。有限個のアフィンスキーム $\operatorname{Spec}A_i$、$A_i$ は Noether環、で覆われるスキーム)とし、可逆層 $\mathcal{L}$ の $n$ 回テンソル積を $\mathcal{L}^{n}$、その双対 $\mathcal{L}^{\vee}$(可逆層の記事の意味でテンソル逆)の $n$ 乗を $\mathcal{L}^{-n}$、$\mathcal{F}\otimes_{\mathcal{O}_X}\mathcal{L}^{n}$ を $\mathcal{F}\otimes\mathcal{L}^{n}$ と書く。
$X$ をスキーム、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の準連接層とする。$\mathcal{F}$ が大域切断で生成される(globally generated;略して大域生成)とは、大域切断の族 $(s_i)_{i\in I}$、$s_i\in\Gamma(X,\mathcal{F})$、が存在して、各点 $x\in X$ で茎 $\mathcal{F}_x$ が $s_i$ の芽 $(s_i)_x$ によって $\mathcal{O}_{X,x}$ 加群として生成されることをいう。これは $\mathcal{O}_X$ 加群層の射 $\mathcal{O}_X^{\oplus I}\to\mathcal{F}$、$(a_i)_i\mapsto\sum_ia_is_i$、が全射であることと同値である。
$\mathcal{L}$ が可逆層のとき、$\mathcal{L}_x\cong\mathcal{O}_{X,x}$ は局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$ 上の階数 1 の自由加群である。したがって中山の補題により、$\mathcal{L}$ が大域生成であることは、各点 $x$ で $s_x\notin\mathfrak{m}_x\mathcal{L}_x$ となる大域切断 $s$ が存在すること、すなわち
$$
X_s:=\{x\in X\mid s_x\notin\mathfrak{m}_x\mathcal{L}_x\}
$$
($s$ が消えない点の集合。開集合である)が $s$ を動かして $X$ を覆うことと同値である。
$X$ を Noether スキーム、$\mathcal{L}$ を $X$ 上の可逆層とする。$\mathcal{L}$ が豊富(ample)である、または豊富な可逆層(ample invertible sheaf。ベクトル束の言葉では豊富な直線束)であるとは、$X$ 上の任意の連接層 $\mathcal{F}$ に対して自然数 $n_0$ が存在し、すべての $n\ge n_0$ で $\mathcal{F}\otimes\mathcal{L}^{n}$ が大域切断で生成されることをいう。Cartier因子 $D$ が豊富であるとは、対応する可逆層 $\mathcal{O}_X(D)$ が豊富であることをいう。
$A$ を Noether 環、$X$ を $A$ 上有限型(有限型射)のスキーム、$\mathcal{L}$ を $X$ 上の可逆層とする。$\mathcal{L}$ が $A$ 上($\operatorname{Spec}A$ 上)非常に豊富(very ample)であるとは、ある $n$ と $A$ 上のはめ込み $i\colon X\to\mathbb{P}^n_A$(開部分スキームへの閉埋め込み)が存在して $\mathcal{L}\cong i^{*}\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n_A}(1)$ となることをいう。ここで $\mathcal{O}(1)$ は射影空間 $\mathbb{P}^n_A=\operatorname{Proj}A[x_0,\dots,x_n]$ のひねり層(射影空間)、$i^{*}$ は引き戻しである。
$X$ が $A$ 上固有(固有射)なら、はめ込み $i$ の像は閉なので $i$ は閉埋め込みにとれる(射影射の記事の「固有射と非常に豊富な可逆層」)。一般の射 $f\colon X\to Y$ に関して相対的に非常に豊富な可逆層の定義と、射影射との関係も射影射の記事で扱う。
可逆層 $\mathcal{L}$ が有限個の大域切断 $s_0,\dots,s_n$ で生成されるとき、$X_{s_i}$ 上で $s_j/s_i\in\Gamma(X_{s_i},\mathcal{O}_X)$ を座標 $x_j/x_i$ に送る射 $X_{s_i}\to D_+(x_i)\subset\mathbb{P}^n_A$ を貼り合わせて $A$ 上の射 $\varphi\colon X\to\mathbb{P}^n_A$ が定まり、$\varphi^{*}\mathcal{O}(1)\cong\mathcal{L}$、$\varphi^{*}x_i=s_i$ となる。逆に射 $\varphi\colon X\to\mathbb{P}^n_A$ からは可逆層 $\varphi^{*}\mathcal{O}(1)$ とそれを生成する切断 $\varphi^{*}x_0,\dots,\varphi^{*}x_n$ が得られ、両者は互いに逆の対応である(Har77 II 定理 7.1)。したがって $\mathcal{L}$ が非常に豊富であることは、$\mathcal{L}$ を生成する有限個の大域切断で、対応する射 $\varphi$ がはめ込みになるものが存在することと同値である。
可逆層 $\mathcal{L}$ の大域切断は「$X$ 上の関数の代用品」である。アフィンスキームでは正則関数が豊富にあり、どんな準連接層も大域切断で生成される(準連接層)が、射影空間のような固有なスキームでは大域的な正則関数は定数しかない。豊富な可逆層は、その欠落を「$\mathcal{L}^{n}$ の切断」で補うものである。$\mathcal{L}^{n}$ の切断 $s$ を適切にとると $X_s$ はアフィン開集合になり(thm-ample-invertible-sheaf-affine-criterion)、$X$ はこれらのアフィン開集合で覆われる。射影空間 $\mathbb{P}^n$ で $\mathcal{L}=\mathcal{O}(1)$、$s=x_i$ ととれば $X_s=D_+(x_i)\cong\mathbb{A}^n$ であり、豊富な可逆層とは、この「超平面の補集合はアフィン」という射影空間の構造を抽象化したものにほかならない。層コホモロジーの言葉では、豊富な可逆層でひねれば連接層の高次コホモロジーが消える(thm-ample-invertible-sheaf-serre)。
$A$ を Noether 環とする。$\mathbb{P}^n_A$ 上の $\mathcal{O}(1)$ は、恒等射をはめ込みとみて非常に豊富である。さらに豊富である。実際、Serre の定理(Har77 II 定理 5.17)により、$\mathbb{P}^n_A$ 上の任意の連接層 $\mathcal{F}$ に対して $n_0$ があって、$n\ge n_0$ で $\mathcal{F}(n)=\mathcal{F}\otimes\mathcal{O}(n)$ は有限個の大域切断で生成される。その系(Har77 II 系 5.18)は、任意の連接層 $\mathcal{F}$ が有限直和 $\bigoplus_{i=1}^{r}\mathcal{O}(-n_i)$ の商であることを述べる(cor-ample-invertible-sheaf-quotient の形)。$d>0$ に対する $\mathcal{O}(d)=\mathcal{O}(1)^{d}$ は prop-ample-invertible-sheaf-tensor の 1 により豊富であり、実際には $d$ 次の Veronese 埋め込み(Veronese埋め込み)$\mathbb{P}^n_A\to\mathbb{P}^{N}_A$($N=\binom{n+d}{d}-1$、$d$ 次単項式すべてを座標にとる閉埋め込み)による $\mathcal{O}(1)$ の引き戻しなので非常に豊富でもある(Har77 II 演習 5.13)。
$X\subset\mathbb{P}^n_A$ を閉部分スキーム(閉部分スキーム)、$i$ をその閉埋め込みとし、$\mathcal{O}_X(1):=i^{*}\mathcal{O}(1)$ とおく。定義により $\mathcal{O}_X(1)$ は非常に豊富であり、thm-ample-invertible-sheaf-power-very-ample により豊富である。$A=k$ を体、$X$ を整(整スキーム)な射影多様体とし、$X$ を含まない超平面 $H=V(\ell)$($\ell$ は 1 次形式)をとると、$\ell|_X\in\Gamma(X,\mathcal{O}_X(1))$ は零でない切断で、その零点スキーム $X\cap H$ は有効 Cartier 因子である。これを $X$ の超平面切断(hyperplane section)といい、$\mathcal{O}_X(X\cap H)\cong\mathcal{O}_X(1)$ なので超平面切断は豊富な因子である。その補集合 $X\setminus H=X\cap D_+(\ell)$ は、アフィン空間 $D_+(\ell)\cong\mathbb{A}^n_k$ の閉部分スキームなのでアフィンである。すなわち豊富な因子の補集合はアフィンであり、これは thm-ample-invertible-sheaf-affine-criterion の一例である。アフィン多様体 $U\subset\mathbb{A}^n_k$ の射影閉包 $\bar U\subset\mathbb{P}^n_k$ をとり、無限遠超平面との交わり $\bar U\setminus U$ を豊富な因子とみる操作は、de Rhamコホモロジーの代数的な取り扱いで基本的である。
$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の非特異(非特異多様体)な射影曲線、$D$ を $X$ 上の因子とすると、$D$ が豊富であることと $\deg D>0$ とは同値である(prop-ample-invertible-sheaf-curve-degree)。たとえば 1 点 $P$ に対応する $\mathcal{O}_X(P)$ は豊富である。種数 $g$ の曲線では $\deg D\ge2g+1$ なら $D$ は非常に豊富であり(Har77 IV 系 3.2)、$X=\mathbb{P}^1_k$ では $\mathcal{O}(1)=\mathcal{O}(P)$ がすでに非常に豊富である。
$k$ を体、$p,q$ を $\mathbb{P}^m_k\times_k\mathbb{P}^n_k$ から各因子への射影とし、$\mathcal{O}(a,b):=p^{*}\mathcal{O}(a)\otimes q^{*}\mathcal{O}(b)$ とおく。$\mathcal{O}(a,b)$ が豊富であることと $a>0$ かつ $b>0$ とは同値である(prop-ample-invertible-sheaf-product)。$\mathcal{O}(1,1)$ は Segre 埋め込み(Segre埋め込み)$\mathbb{P}^m\times\mathbb{P}^n\to\mathbb{P}^{mn+m+n}$(射影射の記事の「Segre埋め込みは閉埋め込みである」)による $\mathcal{O}(1)$ の引き戻しなので非常に豊富である。
$\mathbb{P}^1_k\times\mathbb{P}^1_k$ 上の $\mathcal{O}(1,0)=p^{*}\mathcal{O}(1)$ は、大域生成な $\mathcal{O}(1)$ の引き戻しなので大域生成であり、$\mathcal{O}(1,0)^{n}=\mathcal{O}(n,0)$ の大域切断は $2$ 変数斉次 $n$ 次式の分だけ豊富にある。しかし prop-ample-invertible-sheaf-product により豊富ではない。破れる含意は「大域生成 $\Rightarrow$ 豊富」である。直接に見るには、点 $x\in\mathbb{P}^1$ に対する閉埋め込み $j\colon\{x\}\times\mathbb{P}^1\to\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ による引き戻し $j^{*}\mathcal{O}(1,0)\cong\mathcal{O}_{\mathbb{P}^1}$ が豊富でない(次の例)ことと prop-ample-invertible-sheaf-finite-pullback を使えばよい。$\mathcal{O}(1,0)$ の切断が定める射は第 1 射影 $p$ であり、これははめ込みではない。
$k$ を代数閉体、$E$ を $k$ 上の楕円曲線(種数 1 の非特異射影曲線)、$P\in E$ を閉点とし、$\mathcal{L}=\mathcal{O}_E(2P)$ とおく。$\deg 2P=2>0$ なので $\mathcal{L}$ は豊富である(prop-ample-invertible-sheaf-curve-degree)が、非常に豊富ではない。破れる含意は「豊富 $\Rightarrow$ 非常に豊富」であり、thm-ample-invertible-sheaf-power-very-ample が「ある冪が」という留保を外せないことを示す。
証明。Riemann–Rochの定理(Har77 IV 定理 1.3)により $h^0(\mathcal{L})-h^0(\omega_E\otimes\mathcal{L}^{-1})=\deg\mathcal{L}+1-g=2$ であり、$\omega_E\cong\mathcal{O}_E$(標準因子)と $\deg(\mathcal{L}^{-1})=-2<0$ から $h^0(\omega_E\otimes\mathcal{L}^{-1})=0$、よって $h^0(\mathcal{L})=2$ である。$\mathcal{L}$ が非常に豊富なら閉埋め込み $i\colon E\to\mathbb{P}^n_k$ で $i^{*}\mathcal{O}(1)\cong\mathcal{L}$ となるものがあり、座標 $x_0,\dots,x_n$ の引き戻し $i^{*}x_j\in\Gamma(E,\mathcal{L})$ が張る部分空間 $V$ は次元 $\dim V\le2$ である。$i^{*}x_j$ の間の 1 次関係 $\sum c_ji^{*}x_j=0$ は $i(E)$ が超平面 $V(\sum c_jx_j)$ に含まれることを意味するので、$i(E)$ は $\mathbb{P}^n_k$ の $\dim V-1\le1$ 次元の線型部分空間 $\Lambda$ に含まれ、$i$ は閉埋め込み $E\to\Lambda$ を誘導する。$\dim V=1$ なら $\Lambda$ は 1 点で、$E$ は 1 点ではないので不可能である。$\dim V=2$ なら $\Lambda\cong\mathbb{P}^1_k$ で、$E$ は $\mathbb{P}^1_k$ の既約な 1 次元閉部分スキーム、すなわち $\mathbb{P}^1_k$ 自身と同型になるが、$\mathbb{P}^1_k$ の種数は $0$ で $E$ の種数 $1$ と異なるので矛盾する。よって $\mathcal{L}$ は非常に豊富でない。なお $\mathcal{L}$ の 2 つの切断が定める射 $E\to\mathbb{P}^1_k$ は次数 2 の全射で、単射ですらない。一方 $\mathcal{L}^{2}=\mathcal{O}_E(4P)$ は $\deg=4\ge2g+1=3$ なので非常に豊富である(Har77 IV 系 3.2)。
まず、大域生成な準連接層のテンソル積は大域生成である。実際 $\mathcal{F}$ が $(s_i)$、$\mathcal{G}$ が $(t_j)$ で生成されるなら、各点 $x$ で $(\mathcal{F}\otimes\mathcal{G})_x=\mathcal{F}_x\otimes_{\mathcal{O}_{X,x}}\mathcal{G}_x$ は $(s_i)_x\otimes(t_j)_x$ で生成される。また、大域生成な準連接層の射 $f\colon Y\to X$ による引き戻し $f^{*}\mathcal{F}$ は、切断 $f^{*}s_i$ で生成される($(f^{*}\mathcal{F})_y=\mathcal{F}_{f(y)}\otimes_{\mathcal{O}_{X,f(y)}}\mathcal{O}_{Y,y}$)。大域生成な層の商も大域生成である。これらを以下で断りなく使う。
$X$ を Noether スキーム、$\mathcal{L},\mathcal{M}$ を $X$ 上の可逆層とする。
$f\colon Y\to X$ を Noether スキームの間の有限射、$\mathcal{L}$ を $X$ 上の豊富な可逆層とすると、$f^{*}\mathcal{L}$ は $Y$ 上の豊富な可逆層である。とくに、$X$ の閉部分スキーム $Y$ への制限 $\mathcal{L}|_Y$ は豊富である。
$\mathcal{G}$ を $Y$ 上の連接層とする。$f$ は有限射なので、順像 $f_{*}\mathcal{G}$ は $X$ 上の連接層である(Har77 II 演習 5.5)。$\mathcal{L}$ が豊富なので、$n\ge n_0$ で $f_{*}\mathcal{G}\otimes\mathcal{L}^{n}$ は大域生成であり、したがってその引き戻し $f^{*}(f_{*}\mathcal{G}\otimes\mathcal{L}^{n})=f^{*}f_{*}\mathcal{G}\otimes f^{*}\mathcal{L}^{n}$ も大域生成である。ここで随伴射 $f^{*}f_{*}\mathcal{G}\to\mathcal{G}$ が全射であることを示す。$f$ はアフィン射なので、$X$ のアフィン開集合 $V=\operatorname{Spec}B$ に対し $f^{-1}(V)=\operatorname{Spec}C$ はアフィンで、$\mathcal{G}|_{f^{-1}(V)}=\widetilde{M}$($M$ は $C$ 加群)と書ける。すると $f_{*}\mathcal{G}|_V=\widetilde{M_B}$($M$ を $B$ 加群とみたもの)、$f^{*}f_{*}\mathcal{G}|_{f^{-1}(V)}=(M\otimes_BC)^{\sim}$ であり、随伴射は $M\otimes_BC\to M$、$m\otimes c\mapsto cm$ に対応する。これは $m=m\otimes1$ の像なので全射である。よって $\mathcal{G}\otimes f^{*}\mathcal{L}^{n}$ は大域生成な層 $f^{*}f_{*}\mathcal{G}\otimes f^{*}\mathcal{L}^{n}$ の商として、$n\ge n_0$ で大域生成である。閉埋め込みは有限射なので、後半が従う。
$X$ が Noether 環 $A$ 上固有なら、可逆層 $\mathcal{L}$ が豊富であることは、$X_{\mathrm{red}}$(被約スキーム)への制限が豊富であることと同値であり、$X$ の既約成分ごとの制限がすべて豊富であることとも同値である(Har77 III 演習 5.7)。また準コンパクトなはめ込み(開埋め込みを含む)による引き戻しも豊富である(Stacks Tag 0B3E)。他方、一般の射による引き戻しは豊富性を保たない。ex-ample-invertible-sheaf-not-ample-generated の $\mathcal{O}(1,0)=p^{*}\mathcal{O}(1)$ がその例である。
$k$ を体とする。$\mathbb{P}^m_k\times_k\mathbb{P}^n_k$ 上の可逆層 $\mathcal{O}(a,b)$ が豊富であることと $a>0$ かつ $b>0$ とは同値である。
$a,b>0$ とする。対称性から $a\le b$ としてよい。$\mathcal{O}(a,b)=\mathcal{O}(1,1)^{a}\otimes\mathcal{O}(0,b-a)$ であり、$\mathcal{O}(1,1)$ は非常に豊富(ex-ample-invertible-sheaf-product)なので thm-ample-invertible-sheaf-power-very-ample により豊富、よって $\mathcal{O}(1,1)^{a}$ は prop-ample-invertible-sheaf-tensor の 1 により豊富である。$\mathcal{O}(0,b-a)=q^{*}\mathcal{O}(b-a)$ は、$b-a\ge0$ より大域生成な $\mathcal{O}(b-a)$ の引き戻しなので大域生成である。したがって prop-ample-invertible-sheaf-tensor の 2 により $\mathcal{O}(a,b)$ は豊富である。
逆に $\mathcal{O}(a,b)$ が豊富とする。閉点 $x\in\mathbb{P}^m_k$ をとり、閉埋め込み $j\colon\mathbb{P}^n_k\cong\{x\}\times\mathbb{P}^n_k\to\mathbb{P}^m_k\times\mathbb{P}^n_k$ を考えると $j^{*}\mathcal{O}(a,b)\cong\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n_k}(b)$ であり($p\circ j$ は定値射なので $j^{*}p^{*}\mathcal{O}(a)$ は自明)、prop-ample-invertible-sheaf-finite-pullback により $\mathcal{O}_{\mathbb{P}^n_k}(b)$ は豊富である。ex-ample-invertible-sheaf-trivial-negative により $b>0$ である。同様に $a>0$ である。
$A$ を Noether 環、$X$ を $A$ 上有限型のスキーム、$\mathcal{L}$ を $X$ 上の可逆層とする。$\mathcal{L}$ が豊富であるための必要十分条件は、ある $m\ge1$ について $\mathcal{L}^{m}$ が $A$ 上非常に豊富であることである。とくに非常に豊富な可逆層は豊富である。
証明は Har77 II 定理 7.6(Noether 環上の場合。一般の場合は EGA2 4.5.10、相対版は 4.6.11)に譲り、筋だけ述べる。
(非常に豊富 $\Rightarrow$ 豊富)$\mathcal{L}=i^{*}\mathcal{O}(1)$、$i\colon X\to\mathbb{P}^n_A$ をはめ込みとし、$\bar X$ を $i(X)$ の閉包(被約でなくてよい閉部分スキーム構造を入れる)とすると、$X$ は $\bar X$ の開部分スキームである。$X$ 上の連接層 $\mathcal{F}$ は $\bar X$ 上の連接層 $\bar{\mathcal{F}}$ に拡張でき(Har77 II 演習 5.15)、Serre の定理(Har77 II 定理 5.17)により $\bar{\mathcal{F}}\otimes\mathcal{O}_{\bar X}(n)$ は $n\gg0$ で大域生成である。これを $X$ に制限すれば $\mathcal{F}\otimes\mathcal{L}^{n}$ が大域生成であることが従う。この方向は prop-ample-invertible-sheaf-finite-pullback と同じ考え方で、閉埋め込みに加えて開埋め込みを扱うために連接層の拡張を使っている。$\mathcal{L}^{m}$ が非常に豊富なら $\mathcal{L}^{m}$ は豊富で、prop-ample-invertible-sheaf-tensor の 1 により $\mathcal{L}$ は豊富である。
(豊富 $\Rightarrow$ ある冪が非常に豊富)thm-ample-invertible-sheaf-affine-criterion により、$\mathcal{L}^{n}$ の有限個の切断 $s_1,\dots,s_r$(冪を取り直して $n$ は共通にできる)で、各 $X_{s_i}$ がアフィンで $X$ を覆うものがある。$X_{s_i}=\operatorname{Spec}B_i$ とすると $B_i$ は有限生成 $A$ 代数(有限生成代数)で、その生成元 $b_{ij}$ は、$k$ を十分大きくとれば $s_i^{k}b_{ij}$ が $\Gamma(X,\mathcal{L}^{nk})$ の切断 $c_{ij}$ に延びる(Har77 II 補題 5.14)。$\mathcal{L}^{nk}$ の切断 $s_i^{k}$ と $c_{ij}$ が定める射 $\varphi\colon X\to\mathbb{P}^N_A$(rem-ample-invertible-sheaf-morphism)は、$X_{s_i}$ を $\varphi^{-1}(D_+(y_i))$ に閉埋め込みとして写す(座標環の全射 $A[y_j/y_i,z_{ij}/y_i]\to B_i$ を誘導する)ので、$\varphi$ は開集合 $\bigcup_iD_+(y_i)$ へのはめ込みであり、$\mathcal{L}^{nk}=\varphi^{*}\mathcal{O}(1)$ は非常に豊富である。
固有なスキームがいつ射影的かという問い、すなわち「$A$ 上固有な $X$ が射影的 $\Leftrightarrow$ 豊富な可逆層をもつ」は、この定理の系として射影射の記事で扱う。
$X$ を Noether スキーム、$\mathcal{L}$ を $X$ 上の可逆層とする。次は同値である。
1 $\Rightarrow$ 2 は Har77 II 定理 7.6 の証明の前半(点 $x$ の閉包のイデアル層と、$x$ のアフィン近傍の補集合のイデアル層 $\mathcal{J}$ に対して $\mathcal{J}\otimes\mathcal{L}^{n}$ の切断で $x$ で消えないものをとり、$X_s$ がアフィン開集合の中で 1 つの関数の非零点集合になることを見る)で示され、2 $\Rightarrow$ 1 を含む多数の同値条件が Stacks Tag 01Q3(準コンパクトなスキーム上)と EGA2 4.5.2 にある。2 $\Leftrightarrow$ 3 は $X$ の準コンパクト性による。Noether でない準コンパクトなスキームでも、1 の「連接層」を有限型の準連接層に置き換えれば同じ同値が成り立つ(Stacks Tag 01Q3)。
帰結を 2 つ挙げる。第 1 に、自明な可逆層 $\mathcal{O}_X$ が豊富であることと $X$ が準アフィン(準アフィンスキーム。あるアフィンスキームの準コンパクトな開部分スキームと同型)であることとは同値である(EGA2 5.1.2)。実際 $\mathcal{O}_X$ の切断 $s$ に対して $X_s=D(s)$ であり、$\mathbb{A}^2_k\setminus\{0\}$ は $D(x)$ と $D(y)$ で覆われるので $\mathcal{O}$ が豊富だがアフィンではない。したがって $\mathcal{O}_X$ が豊富であることは $X$ がアフィンであることより弱い。第 2 に、豊富な可逆層をもつスキームは分離的(分離射)である(Stacks Tag 09MP)。$X_s\cap X_t=X_{st}$ もアフィンで、$\Gamma(X_s,\mathcal{O}_X)\otimes\Gamma(X_t,\mathcal{O}_X)\to\Gamma(X_{st},\mathcal{O}_X)$ が全射になるからである。これらは豊富な可逆層をもつスキームが「準アフィン的に貼り合わされている」ことを表す。
$A$ を Noether 環、$X$ を $A$ 上固有なスキーム、$\mathcal{L}$ を $X$ 上の可逆層とする。次は同値である。
証明は Har77 III 命題 5.3 に譲る。1 $\Rightarrow$ 2 は、thm-ample-invertible-sheaf-power-very-ample により $X$ が $A$ 上射影的で $\mathcal{L}^{m}$ が非常に豊富になることから、$\mathcal{F}\otimes\mathcal{L}^{r}$($0\le r< m$)に射影スキーム上の Serre の消滅定理(Har77 III 定理 5.2、連接層の記事)を適用して得られる。2 $\Rightarrow$ 1 は、閉点 $x$ のイデアル層 $\mathcal{I}_x$ に対する完全列 $0\to\mathcal{I}_x\mathcal{F}\to\mathcal{F}\to\mathcal{F}\otimes\kappa(x)\to0$ をひねって $H^1$ の消滅から大域切断を持ち上げ、$x$ の近傍で $\mathcal{F}\otimes\mathcal{L}^{n}$ が生成されることを示し、Noether 性で有限個の近傍にまとめる。条件 2 を「$n\ge n_0$ かつ $q\ge1$ で $H^q(X,\mathcal{F}\otimes\mathcal{L}^{n})=0$」の形で使うのが Serre の消滅定理である。たとえば $X$ が射影的で $Y$ が豊富な因子の台なら、$Y$ に極をもつ微分形式の層 $\Omega^p_X(*Y)=\varinjlim_n\Omega^p_X\otimes\mathcal{O}_X(nY)$ の高次コホモロジーが $H^q$ と帰納極限の交換により消え、これがde Rhamコホモロジーの代数的比較定理で豊富性が使われる仕方である。
$X$ を Noether スキーム、$\mathcal{L}$ を豊富な可逆層とすると、$X$ 上の任意の連接層 $\mathcal{F}$ に対して $n_0$ があり、$n\ge n_0$ ならある $r$ と全射 $(\mathcal{L}^{-n})^{\oplus r}\to\mathcal{F}$ が存在する。
$n_0$ を、$n\ge n_0$ で $\mathcal{G}:=\mathcal{F}\otimes\mathcal{L}^{n}$ が大域切断の族 $(s_i)_{i\in I}$ で生成されるようにとる。$\mathcal{G}$ は連接層である。各点 $x\in X$ に対して、茎 $\mathcal{G}_x$ は $\mathcal{O}_{X,x}$ 上有限生成なので、有限個の $s_{i_1},\dots,s_{i_p}$ の芽で生成される。射 $u\colon\mathcal{O}_X^{\oplus p}\to\mathcal{G}$、$(a_j)\mapsto\sum_ja_js_{i_j}$ の余核 $\operatorname{coker}u$ は連接層で、$x$ での茎が $0$ である。連接層の台は閉集合なので(連接層)、$x$ の開近傍 $U_x$ で $\operatorname{coker}u|_{U_x}=0$、すなわち $u$ は $U_x$ 上で全射である。$X$ は準コンパクトなので有限個の $U_{x_1},\dots,U_{x_q}$ で覆われ、対応する有限個の切断をすべて集めた $s_1,\dots,s_r$ が定める射 $\mathcal{O}_X^{\oplus r}\to\mathcal{G}$ は各点の茎で全射、したがって全射である。両辺に $\mathcal{L}^{-n}$ をテンソルすれば(可逆層とのテンソル積は完全関手であり $\mathcal{G}\otimes\mathcal{L}^{-n}\cong\mathcal{F}$、可逆層)、全射 $(\mathcal{L}^{-n})^{\oplus r}\to\mathcal{F}$ を得る。
この系は、射影スキーム上の任意の連接層を $\mathcal{O}(-n)^{\oplus r}$ の商として表す Serre の定理(Har77 II 定理 5.17)の抽象化であり、Noether スキーム上の連接層が局所自由層(局所自由層)による分解をもつこと、$\mathcal{L}^{-n}$ のコホモロジーから一般の連接層のコホモロジーを帰納的に調べること(Har77 III 定理 5.2 の証明)に使われる。
$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の非特異射影曲線、$D$ を $X$ 上の因子とする。$D$ が豊富であるための必要十分条件は $\deg D>0$ である。
以下、$\mathcal{L}=\mathcal{O}_X(D)$ とおき、可逆層の次数 $\deg\mathcal{L}:=\deg D$ を使う。これは $\mathcal{L}$ の零でない有理切断 $t$ の因子 $\operatorname{div}(t)$ の次数に等しく、$\operatorname{div}(t)$ の線型同値類は $t$ によらない(因子、Har77 II §6)。とくに $\mathcal{L}$ が零でない大域切断 $s$ をもてば、$\operatorname{div}(s)$ は有効因子なので $\deg\mathcal{L}\ge0$ であり、さらに $\deg\mathcal{L}=0$ なら $\operatorname{div}(s)=0$ で $\mathcal{L}\cong\mathcal{O}_X$ である。また $\deg(\mathcal{L}_1\otimes\mathcal{L}_2)=\deg\mathcal{L}_1+\deg\mathcal{L}_2$ である(可逆層の記事の「Cartier因子の加法とテンソル積」)。
(豊富 $\Rightarrow\deg D>0$)$\mathcal{L}$ が豊富とすると、thm-ample-invertible-sheaf-power-very-ample によりある $m\ge1$ について $\mathcal{L}^{m}$ は非常に豊富で、閉埋め込み $i\colon X\to\mathbb{P}^n_k$ により $\mathcal{L}^{m}\cong i^{*}\mathcal{O}(1)$ と書ける。$i(X)$ は 1 次元なので、$i(X)$ を含まない超平面 $V(\ell)$ が存在し、$s:=i^{*}\ell\in\Gamma(X,\mathcal{L}^{m})$ は零でない大域切断である。よって $m\deg\mathcal{L}=\deg\mathcal{L}^{m}\ge0$ である。もし $\deg\mathcal{L}=0$ なら $\mathcal{L}^{m}\cong\mathcal{O}_X$ となるが、$X$ は $k$ 上固有で整なので $\Gamma(X,\mathcal{O}_X)=k$ であり(Har77 I 定理 3.4、または II 演習 4.5)、$\mathcal{O}_X\cong i^{*}\mathcal{O}(1)$ の生成切断 $i^{*}x_0,\dots,i^{*}x_n$ はすべて定数、したがって $i$ は $X$ を 1 点に写す(rem-ample-invertible-sheaf-morphism)。これは $i$ が閉埋め込みであることに反する。ゆえに $\deg D=\deg\mathcal{L}>0$ である。
($\deg D>0\Rightarrow$ 豊富)$g$ を $X$ の種数とする。$n\ge(2g+1)/\deg D$ なる $n$ をとると $\deg(nD)\ge2g+1$ であり、このとき $nD$ は非常に豊富である(Har77 IV 系 3.2。Riemann–Roch の定理により $\deg(nD-P-Q)\ge2g-1$ から $h^0(nD-P-Q)=h^0(nD)-2$ が任意の閉点 $P,Q$ について成り立ち、完備線型系(線型系)$|nD|$ が点と接ベクトルを分離することによる)。したがって thm-ample-invertible-sheaf-power-very-ample により $D$ は豊富である。
$\mathcal{O}_E(2P)$ の例(ex-ample-invertible-sheaf-elliptic)が示すように、$\deg D>0$ でも $D$ 自身が非常に豊富とは限らない。曲線の場合の次数による判定を高次元に拡張したものが次の数値的判定である。
$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上固有なスキーム、$\mathcal{L}$ を $X$ 上の可逆層とする。
曲面の場合の Nakai–Moishezon の判定は Har77 V 定理 1.10 に証明がある。一般の場合と Kleiman の判定は Kleiman Kle66 が原論文で、Laz04 第 1 章(§1.2 の Nakai–Moishezon–Kleiman の判定、§1.4 の Kleiman の判定)に整理された証明がある。1 の条件は $\dim Y=1$ の場合に $\deg(\mathcal{L}|_Y)>0$ であり、prop-ample-invertible-sheaf-curve-degree はその特別な場合である。しかし曲線の場合と異なり、高次元では「すべての曲線への制限が正の次数」だけでは豊富にならない(Mumford の例、Laz04 1.5.2)。豊富な可逆層の類は $\operatorname{Pic}(X)$ の数値同値による商 $N^1(X)$ の中で開凸錐(豊富錐)をなす。
スキームの射 $f\colon X\to Y$($Y$ 準コンパクト、$f$ 準コンパクト)と $X$ 上の可逆層 $\mathcal{L}$ について、$\mathcal{L}$ が $f$ に関して豊富($f$-ample、相対的に豊富)であるとは、$Y$ のアフィン開集合 $V$ ごとに $\mathcal{L}|_{f^{-1}(V)}$ が豊富であることをいう(EGA2 4.6.1・4.6.4。アフィン開被覆のとり方によらない)。$Y=\operatorname{Spec}A$ なら $f$ に関する豊富性は本記事の豊富性と一致する。$f$ が固有で $Y$ が Noether のとき、$f$ に関して豊富な可逆層が存在することは $f$ が射影射であることと同値であり、$f$ に関して豊富な可逆層のある冪が $f$ に関して非常に豊富である(EGA の意味の射影射。EGA2 4.6.11・§5.5、射影射の記事)。相対的な Serre の判定($R^if_{*}(\mathcal{F}\otimes\mathcal{L}^{n})=0$、$i>0$、$n\gg0$)も成り立つ(EGA3 2.2.1)。さらに豊富性はファイバーについて開な性質である:$Y$ が局所 Noether、$f$ が固有で、$y\in Y$ の上のファイバー $X_y$ で $\mathcal{L}|_{X_y}$ が豊富なら、$y$ の開近傍 $V$ があって $\mathcal{L}|_{f^{-1}(V)}$ は $f^{-1}(V)\to V$ に関して豊富である(EGA3 4.7.1)。この開性は、ファイバーが射影空間である固有射が局所的に射影的であることを示すときなど、Severi–Brauer多様体やBrauer群の理論で使われる。
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