Lebesgue積分

同義語:ルベーグ積分Lebesgue integral

概要

Lebesgue積分(Lebesgue integral)とは、Lebesgue 測度をはじめとする測度に関する積分であり、非負の可測関数に対しては、その関数以下の単関数(有限個の値をとる可測関数)について「値×その値をとる集合の測度」の和をとり、その上限として定義される。定義域ではなく値の側を分けるので、Riemann 積分できない $1_{\mathbb{Q}\cap[0,1]}$ も積分でき(値は $0$)、有界閉区間上の Riemann 積分可能な関数では Riemann 積分と一致する。単調収束定理・優収束定理によって極限と積分を交換でき、2 乗可積分な関数の空間 $L^2$ などの関数空間の土台になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Riemann積分, 一様収束, Lebesgue測度

高校の区分求積では、区間 $[a,b]$ を細かく等分し、各小区間の幅に関数の値を掛けて足し合わせた和の極限として定積分を求める(区分求積と積分の定義)。Riemann積分は分け方を一般の分割に広げたものだが、どちらも定義域($x$ 軸)を区間に分けるところは同じである。Lebesgue 積分は逆に値($y$ 軸)の側を分ける。関数の値がおよそ $y$ になる点の集合を集め、その集合の大きさ(Lebesgue測度)に $y$ を掛けて足す。点の集合は区間でなくてよいので、有理数で $1$、無理数で $0$ をとる関数のように Riemann 積分できない関数も積分でき、その値は「値 $1$ をとる集合の測度 $0$」に $1$ を掛けた $0$ になる。この積分では、単調収束定理や優収束定理によって関数列の極限と積分を交換できる範囲が大きく広がり、2 乗可積分な関数の空間 $L^2$ のような、解析学の基本的な関数空間が作れる。

定義

以下、$(X,\mathcal{F},\mu)$ を測度空間とする(Lebesgue測度 の記事の定義「σ-代数と測度」)。主な場合は、$X=\mathbb{R}$(またはその区間)、$\mathcal{F}=\mathcal{L}$ が Lebesgue 可測集合全体、$\mu=\lambda$ が Lebesgue 測度の場合である。$[0,\infty]$ の中の計算では $0\cdot\infty=\infty\cdot0=0$ と約束する。集合 $A$ の指示関数を $1_A$($A$ 上で $1$、それ以外で $0$)と書く。

可測関数

関数 $f\colon X\to[-\infty,\infty]$ が $\mathcal{F}$-可測(可測)であるとは、すべての実数 $a$ について $\{x\in X\mid f(x)>a\}\in\mathcal{F}$ であることをいう。$(\mathbb{R},\mathcal{L},\lambda)$ の場合は Lebesgue 可測関数という。

$E\in\mathcal{F}$ の指示関数 $1_E$、区間上の連続関数・単調関数は可測である。実数値の可測関数の和・積、および可測関数の列の $\sup$・$\inf$・$\limsup$・$\liminf$・各点での極限は可測である(Axler20 2.41・2.43・2.46・2.48・2.53)。たとえば $\{\sup_nf_n>a\}=\bigcup_n\{f_n>a\}$ は可測集合の可算個の和である。

単関数とその積分

$A_1,\dots,A_m\in\mathcal{F}$ を互いに交わらない集合、$c_1,\dots,c_m\in[0,\infty)$ として
$$ s=\sum_{i=1}^mc_i\,1_{A_i} $$
と書ける関数を非負単関数といい、その積分を
$$ \int s\,d\mu:=\sum_{i=1}^mc_i\,\mu(A_i)\in[0,\infty] $$
と定める。

1 つの単関数には多くの書き方があるが、積分の値は書き方によらない(lem-lebesgue-integral-simple)。

非負可測関数の積分

可測関数 $f\colon X\to[0,\infty]$ に対し、
$$ \int f\,d\mu:=\sup\Bigl\{\int s\,d\mu\ \Big|\ s\text{ は非負単関数で }0\le s\le f\Bigr\}\in[0,\infty] $$
を $f$ の $\mu$ に関する Lebesgue 積分という。

可積分関数とその積分

可測関数 $f\colon X\to[-\infty,\infty]$ に対し $f^+:=\max(f,0)$、$f^-:=\max(-f,0)$ とおく($f=f^+-f^-$、$\lvert f\rvert=f^++f^-$)。$\int f^+\,d\mu$ と $\int f^-\,d\mu$ の少なくとも一方が有限のとき
$$ \int f\,d\mu:=\int f^+\,d\mu-\int f^-\,d\mu\in[-\infty,\infty] $$
と定める。両方が有限のとき、$f$ は可積分(integrable)であるという。$E\in\mathcal{F}$ に対し $\int_Ef\,d\mu:=\int f1_E\,d\mu$ とおく。Lebesgue 測度についての積分は $\int_{[a,b]}f\,d\lambda$、$\int_{[a,b]}f(x)\,dx$ などと書く。

単関数 $s$ について、def-lebesgue-integral-nonnegative の意味の積分と def-lebesgue-integral-simple の積分は一致する(lem-lebesgue-integral-simple の単調性による)。Axler20 3.3 は、$X$ を有限個の可測集合に分けて各集合での $f$ の下限と測度の積を足した和の上限として積分を定義しているが、これは上の定義と同じ値を与える(Axler20 3.9)。

単調収束定理と積分の基本性質

単関数の積分の性質

$s,t$ を非負単関数、$c\ge0$ とする。

  1. $\int s\,d\mu$ は $s$ の書き方によらない。
  2. $\int(s+t)\,d\mu=\int s\,d\mu+\int t\,d\mu$、$\int cs\,d\mu=c\int s\,d\mu$。
  3. $s\le t$ ならば $\int s\,d\mu\le\int t\,d\mu$。
  4. $E\mapsto\int_Es\,d\mu$ は $(X,\mathcal{F})$ 上の測度である。

要点:2 つの書き方の集合の共通部分に細かく分ければ、どの主張も有限和の等式・不等式になる。

詳しい証明を開く

係数 $0$ の集合を付け加えて、書き方 $s=\sum_ic_i1_{A_i}$、$t=\sum_jd_j1_{B_j}$ の集合 $A_i$、$B_j$ はそれぞれ $X$ の分割になっているとしてよい(付け加えた項は積分に $0$ しか寄与しない)。$C_{ij}:=A_i\cap B_j$ は $X$ の分割で、$\mu(A_i)=\sum_j\mu(C_{ij})$、$\mu(B_j)=\sum_i\mu(C_{ij})$ である。

1. $t$ を $s$ の別の書き方とする。$C_{ij}\neq\emptyset$ なら、その点で $c_i=s=d_j$ なので $\sum_ic_i\mu(A_i)=\sum_{i,j}c_i\mu(C_{ij})=\sum_{i,j}d_j\mu(C_{ij})=\sum_jd_j\mu(B_j)$($C_{ij}=\emptyset$ の項は $0$)。

2. $s+t=\sum_{i,j}(c_i+d_j)1_{C_{ij}}$ なので $\int(s+t)\,d\mu=\sum_{i,j}(c_i+d_j)\mu(C_{ij})=\int s\,d\mu+\int t\,d\mu$。$cs$ は明らか。

3. $C_{ij}\neq\emptyset$ なら $c_i\le d_j$ なので $\sum_{i,j}c_i\mu(C_{ij})\le\sum_{i,j}d_j\mu(C_{ij})$。

4. $\int_Es\,d\mu=\sum_ic_i\mu(A_i\cap E)$ は、測度 $E\mapsto\mu(A_i\cap E)$ の有限個の非負結合なので、可算加法的である。$\square$

非負可測関数 $f\le g$ については、定義から $\int f\,d\mu\le\int g\,d\mu$ である($f$ 以下の単関数は $g$ 以下でもある)。次が Lebesgue 積分の最も基本的な定理である。

単調収束定理

可測関数の列 $f_n\colon X\to[0,\infty]$ が $0\le f_1\le f_2\le\cdots$ を満たし、各点で $f(x):=\lim_{n\to\infty}f_n(x)$ とおく。このとき $f$ は可測で
$$ \int f\,d\mu=\lim_{n\to\infty}\int f_n\,d\mu. $$

$f=\sup_nf_n$ は可測である。$f_n\le f_{n+1}\le f$ なので $\int f_n\,d\mu$ は増加し、極限 $L$ は $\int f\,d\mu$ 以下である。逆向きを示す。$s=\sum_{i}c_i1_{A_i}$ を $0\le s\le f$ である単関数($A_i$ は $X$ の分割)、$0< c<1$ とし、
$$ E_n:=\{x\in X\mid f_n(x)\ge c\,s(x)\}=\bigcup_i\bigl(A_i\cap\{f_n\ge c\,c_i\}\bigr) $$
とおく。$E_n$ は可測で、$f_n$ の単調性から $E_1\subset E_2\subset\cdots$ である。さらに $\bigcup_nE_n=X$ である。実際、$s(x)=0$ なら $x\in E_1$ であり、$s(x)>0$ なら $f(x)\ge s(x)>c\,s(x)$ なので、十分大きい $n$ で $f_n(x)>c\,s(x)$ となる。単関数 $c\,s\,1_{E_n}$ は $f_n$ 以下なので
$$ \int f_n\,d\mu\ \ge\ \int c\,s\,1_{E_n}\,d\mu=c\sum_ic_i\,\mu(A_i\cap E_n). $$
$n\to\infty$ とすると、測度の下からの連続性(Lebesgue測度 の記事の命題「測度の単調性と連続性」の 2)により右辺は $c\sum_ic_i\mu(A_i)=c\int s\,d\mu$ に収束する。よって $L\ge c\int s\,d\mu$ であり、$c\to1$ とし、$s$ について上限をとれば $L\ge\int f\,d\mu$ を得る。$\square$

単調収束定理を使うには、可測関数を単関数の増加列で近似できればよい。

単関数による近似

可測関数 $f\colon X\to[0,\infty]$ に対し
$$ s_n(x):=\min\Bigl\{n,\ 2^{-n}\lfloor2^nf(x)\rfloor\Bigr\}\qquad(f(x)=\infty\text{ のときは }s_n(x):=n) $$
とおくと、$s_n$ は非負単関数で、$s_1\le s_2\le\cdots$、各点で $s_n\to f$ である。

$s_n$ の値は $k2^{-n}$($0\le k\le n2^n$)のどれかで、$\{s_n=k2^{-n}\}$ は $k< n2^n$ なら $\{k2^{-n}\le f<(k+1)2^{-n}\}$、$k=n2^n$ なら $\{f\ge n\}$ であり、どれも可測である。$2^{-n}\lfloor2^ny\rfloor\le2^{-n-1}\lfloor2^{n+1}y\rfloor$($2\lfloor z\rfloor\le\lfloor2z\rfloor$)と $n< n+1$ から $s_n\le s_{n+1}$ である。$f(x)<\infty$ なら $n>f(x)$ で $0\le f(x)-s_n(x)<2^{-n}$、$f(x)=\infty$ なら $s_n(x)=n\to\infty$ である。$\square$

積分の線形性と単調性
  1. 可測関数 $f,g\colon X\to[0,\infty]$、$c\ge0$ について $\int(f+g)\,d\mu=\int f\,d\mu+\int g\,d\mu$、$\int cf\,d\mu=c\int f\,d\mu$。
  2. 実数値の可積分関数 $f,g$ と $a,b\in\mathbb{R}$ について、$af+bg$ は可積分で $\int(af+bg)\,d\mu=a\int f\,d\mu+b\int g\,d\mu$。さらに $f\le g$ なら $\int f\,d\mu\le\int g\,d\mu$ であり、$\bigl\lvert\int f\,d\mu\bigr\rvert\le\int\lvert f\rvert\,d\mu$。
  1. lem-lebesgue-integral-approximation の単関数の増加列 $s_n\uparrow f$、$t_n\uparrow g$ をとると、$s_n+t_n$ は $f+g$ に増加して収束する単関数の列である。lem-lebesgue-integral-simple の 2 と thm-lebesgue-integral-monotone-convergence により $\int(f+g)=\lim\int(s_n+t_n)=\lim\int s_n+\lim\int t_n=\int f+\int g$。$cf$ も同様である。
  2. 要点:正の部分と負の部分に分けて 1 に帰着する。
    詳細

    $\lvert af+bg\rvert\le\lvert a\rvert\lvert f\rvert+\lvert b\rvert\lvert g\rvert$ と 1 から $af+bg$ は可積分である。$h:=f+g$ とすると $h^+-h^-=f^+-f^-+g^+-g^-$ より $h^++f^-+g^-=h^-+f^++g^+$ であり、1 を両辺に使うと、すべての項が有限なので移項して $\int h=\int f+\int g$ を得る。$a\ge0$ なら $(af)^\pm=af^\pm$、$a<0$ なら $(af)^+=\lvert a\rvert f^-$、$(af)^-=\lvert a\rvert f^+$ なので $\int af=a\int f$。$f\le g$ なら $\int g-\int f=\int(g-f)\ge0$ である。最後に $-\lvert f\rvert\le f\le\lvert f\rvert$ から $\lvert\int f\rvert\le\int\lvert f\rvert$。$\square$

零集合と「ほとんど至るところ」

$\mu(N)=0$ である $N\in\mathcal{F}$ を零集合という。性質 $P(x)$ が零集合の外のすべての $x$ で成り立つとき、$P$ は ほとんど至るところ(almost everywhere、a.e.)成り立つという。

零集合と積分

$f,g\colon X\to[0,\infty]$ を可測関数とする。

  1. (Markov の不等式)$t>0$ について $\mu(\{f\ge t\})\le\frac1t\int f\,d\mu$。
  2. $\int f\,d\mu=0$ ならば、ほとんど至るところ $f=0$ である。$\int f\,d\mu<\infty$ ならば、ほとんど至るところ $f<\infty$ である。
  3. ほとんど至るところ $f=g$ ならば $\int f\,d\mu=\int g\,d\mu$ である。
  1. 単関数 $t\,1_{\{f\ge t\}}$ は $f$ 以下なので $t\,\mu(\{f\ge t\})\le\int f\,d\mu$。
  2. 1 から $\mu(\{f\ge1/k\})=0$ であり、$\{f\ge1/k\}$ は $k$ について増加して和が $\{f>0\}$ になるので、下からの連続性(Lebesgue測度 の記事の命題「測度の単調性と連続性」の 2)により $\{f>0\}$ は零集合である。また $\mu(\{f=\infty\})\le\mu(\{f\ge t\})\le\frac1t\int f\,d\mu$ がすべての $t>0$ で成り立つので $\mu(\{f=\infty\})=0$。
  3. 零集合 $N$ の外で $f=g$ とする。単関数 $s\le f1_N$ は $N$ の外で $0$ なので、係数が正の項の集合は $N$ に含まれ、$\int s\,d\mu=0$ である。よって $\int f1_N\,d\mu=0$、同様に $\int g1_N\,d\mu=0$ である。$f1_{X\setminus N}=g1_{X\setminus N}$ と thm-lebesgue-integral-linear の 1 から $\int f=\int f1_{X\setminus N}+\int f1_N=\int g1_{X\setminus N}+\int g1_N=\int g$。$\square$

3 により、零集合の上で関数の値を変えても積分は変わらない。可積分関数はほとんど至るところ有限なので、零集合の上で $0$ に取り替えて実数値の関数として扱ってよい。

極限と積分の交換

Fatouの補題

可測関数 $f_n\colon X\to[0,\infty]$ について
$$ \int\liminf_{n\to\infty}f_n\,d\mu\le\liminf_{n\to\infty}\int f_n\,d\mu. $$

$g_k:=\inf_{n\ge k}f_n$ は可測で、$g_1\le g_2\le\cdots$、$\lim_kg_k=\liminf_nf_n$ である。$n\ge k$ なら $g_k\le f_n$ なので $\int g_k\,d\mu\le\inf_{n\ge k}\int f_n\,d\mu$。thm-lebesgue-integral-monotone-convergence により
$$ \int\liminf_nf_n\,d\mu=\lim_k\int g_k\,d\mu\le\lim_k\inf_{n\ge k}\int f_n\,d\mu=\liminf_n\int f_n\,d\mu.\qquad\square $$

優収束定理

$f_n,f\colon X\to\mathbb{R}$ を可測関数とし、各点で $f_n(x)\to f(x)$ とする。実数値の可積分関数 $g$ があって、すべての $n$ と $x$ で $\lvert f_n(x)\rvert\le g(x)$ ならば、$f$ は可積分で
$$ \lim_{n\to\infty}\int\lvert f_n-f\rvert\,d\mu=0,\qquad \lim_{n\to\infty}\int f_n\,d\mu=\int f\,d\mu. $$

$\lvert f\rvert=\lim\lvert f_n\rvert\le g$ なので $f$ は可積分である。$\lvert f_n-f\rvert\le2g$ だから $h_n:=2g-\lvert f_n-f\rvert\ge0$ で、各点で $h_n\to2g$ である。lem-lebesgue-integral-fatou と積分の線形性($\int2g<\infty$)により
$$ \int2g\,d\mu\le\liminf_n\int h_n\,d\mu=\int2g\,d\mu-\limsup_n\int\lvert f_n-f\rvert\,d\mu $$
となり、$\limsup_n\int\lvert f_n-f\rvert\,d\mu\le0$ である。さらに $\bigl\lvert\int f_n-\int f\bigr\rvert\le\int\lvert f_n-f\rvert\to0$。$\square$

lem-lebesgue-integral-null の 3 により、仮定の「各点で収束」「すべての $x$ で $\lvert f_n\rvert\le g$」は「ほとんど至るところ」に弱めてよい(例外の零集合の和で関数を $0$ に取り替える)。$\mu(X)<\infty$ で $f_n$ が一様に有界なら定数関数が優関数になる。有界閉区間の上で一様収束する連続関数の列は十分先の $n$ で一様に有界であり、極限も連続であるから(Riemann 積分との一致は thm-lebesgue-integral-riemann)、その列の積分が極限の積分に収束すること(一様収束 の記事の定理「一様収束と積分の交換」)は、優収束定理の特別な場合として再び得られる。

Riemann 積分との関係

Riemann積分との一致

$a< b$ とし、$f\colon[a,b]\to\mathbb{R}$ を Riemann 積分可能な関数とする。このとき $f$ は Lebesgue 可測かつ可積分で
$$ \int_{[a,b]}f\,d\lambda=\int_a^bf(x)\,dx $$
(右辺は Riemann 積分)である。

要点:下限和・上限和はそれぞれ階段関数の Lebesgue 積分であり、分割を細かくした階段関数の極限 $g\le f\le h$ について、優収束定理で $\int g=\int h=\int_a^bf$ となる。$h-g\ge0$ の積分が $0$ なので、$f$ はほとんど至るところ $g$ に等しい。

詳しい証明を開く

$\lvert f\rvert\le M$ とする。Riemann積分 の記事の定理「可積分性の判定条件」により、各 $n\ge1$ について $U(P,f)-L(P,f)<1/n$ となる分割 $P$ があり、そのような $P_n$ を $n$ ごとに選ぶ(可算選択公理)。$Q_n:=P_1\cup\cdots\cup P_n$ とすると $Q_{n+1}$ は $Q_n$ の細分で、同じ記事の補題「細分による和の比較」から $L(P_n,f)\le L(Q_n,f)\le\int_a^bf\le U(Q_n,f)\le U(P_n,f)$ である。すべての $Q_n$ の分点の集合 $Z$ は可算なので零集合である。

$x\in[a,b]\setminus Z$ に対し、$x$ を内部に含む $Q_n$ の小区間を $[x_{i-1},x_i]$ として $g_n(x):=\inf_{[x_{i-1},x_i]}f$、$h_n(x):=\sup_{[x_{i-1},x_i]}f$ とおき、$x\in Z$ では $g_n(x)=h_n(x):=f(x)$、$[a,b]$ の外では $0$ とおく。$g_n$ は、$Q_n$ の小区間の内部から $Z$ を除いた集合の指示関数の有限個の結合と、$Z$ の外で $0$ になる関数 $f1_Z$ との和であり(零集合の部分集合は可測なので $f1_Z$ は可測)、可測である。$\int g_n\,d\lambda=L(Q_n,f)$、$\int h_n\,d\lambda=U(Q_n,f)$ である($Z$ 上の値は積分に寄与しない)。細分では小区間が小さくなるので $g_n$ は増加、$h_n$ は減少し、$g_n\le f\le h_n$ である。極限を $g$、$h$ とすると、$\lvert g_n\rvert,\lvert h_n\rvert\le M\,1_{[a,b]}$ なので thm-lebesgue-integral-dominated-convergence により $\int g=\lim L(Q_n,f)=\int_a^bf$、$\int h=\lim U(Q_n,f)=\int_a^bf$ である。

$h-g\ge0$ で $\int(h-g)=0$ なので、lem-lebesgue-integral-null の 2 により零集合 $N$ の外で $g=h$、したがって $[a,b]$ 上で $f=g$ である。$f1_{[a,b]}$ は可測関数 $g$ と零集合 $N$ の上でしか違わないので、$\{f1_{[a,b]}>t\}=(\{g>t\}\setminus N)\cup(\{f1_{[a,b]}>t\}\cap N)$ は可測であり、lem-lebesgue-integral-null の 3 から $\int_{[a,b]}f\,d\lambda=\int g\,d\lambda=\int_a^bf$ である。$\square$

この定理の逆は成り立たない(下の Dirichlet 関数)。Riemann 積分可能であることは、有界で不連続点の集合が零集合であることと同値である(Axler20 3.34、Riemann積分 の記事の注意「可積分な関数の範囲」)。
非負の連続関数については、広義積分も Lebesgue 積分と一致する。

非負関数の広義積分との一致

$f\colon[a,\infty)\to[0,\infty)$ を連続関数とすると、$\int_{[a,\infty)}f\,d\lambda=\lim_{R\to\infty}\int_a^Rf(x)\,dx$(値は $[0,\infty]$)である。有界区間の端 $(a,b]$ で有界でない連続関数 $f\ge0$ についても、$\int_{(a,b]}f\,d\lambda=\lim_{\varepsilon\to+0}\int_{a+\varepsilon}^bf(x)\,dx$ である。

$f1_{[a,n]}$ は $n$ について増加し、各点で $f1_{[a,\infty)}$ に収束する。$f$ は $[a,n]$ 上で連続なので Riemann 積分可能であり(Riemann積分 の記事の定理「連続関数の可積分性」)、thm-lebesgue-integral-riemann から $\int f1_{[a,n]}\,d\lambda=\int_a^nf$ である。thm-lebesgue-integral-monotone-convergence により $\int_{[a,\infty)}f\,d\lambda=\lim_n\int_a^nf$ であり、$R\mapsto\int_a^Rf$ は増加なので、これは $R\to\infty$ の極限に等しい。$(a,b]$ の場合は $f1_{[a+1/n,b]}$ を使って同様である。$\square$

例と反例

Dirichlet関数

$D:=1_{\mathbb{Q}\cap[0,1]}$ は単関数で、$\lambda(\mathbb{Q}\cap[0,1])=0$(可算集合)なので $\int_{[0,1]}D\,d\lambda=0$ である。一方、$D$ はどの分割でも下限和 $0$、上限和 $1$ となり、Riemann 積分可能でない(Riemann積分 の記事の例「反例:至るところ不連続な関数」)。$[0,1]$ の有理数を $r_1,r_2,\dots$ と並べ、$f_k:=1_{\{r_1,\dots,r_k\}}$ とおくと、$f_k$ は Riemann 積分可能で積分 $0$、$f_k\uparrow D$ である。Riemann 積分では極限 $D$ が積分できなくなるが、Lebesgue 積分では単調収束定理により $\int D=\lim\int f_k=0$ がそのまま成り立つ。

有界でない関数 $1/\sqrt{x}$

$f(x)=1/\sqrt x$ は $(0,1]$ 上で有界でないので Riemann 積分可能でないが、prop-lebesgue-integral-improper により
$$ \int_{(0,1]}\frac{d\lambda(x)}{\sqrt x}=\lim_{\varepsilon\to+0}\int_\varepsilon^1\frac{dx}{\sqrt x}=\lim_{\varepsilon\to+0}\bigl(2-2\sqrt\varepsilon\bigr)=2 $$
であり、$f$ は $(0,1]$ 上で Lebesgue 可積分である。広義積分として求めた値(広義積分 の記事の定理「冪関数の広義積分」の $p=1/2$)と一致する。Lebesgue 積分では、有界でない関数も特別な定義なしに扱える。

数え上げ測度による積分と級数

$X=\mathbb{N}$、$\mathcal{F}=\mathcal{P}(\mathbb{N})$、$\mu(A):=A$ の元の個数(無限集合なら $\infty$)とすると、$\mu$ は測度である(数え上げ測度)。$f\colon\mathbb{N}\to[0,\infty)$ に対し $f1_{\{0,\dots,n\}}$ は単関数で積分は $\sum_{k=0}^nf(k)$ であり、これは $f$ に増加して収束するので、単調収束定理により
$$ \int f\,d\mu=\sum_{k=0}^{\infty}f(k) $$
である。したがって $f\colon\mathbb{N}\to\mathbb{R}$ が可積分であることは、級数 $\sum_kf(k)$ が絶対収束することと同値であり、そのとき積分は級数の和である。条件収束する級数 $\sum_k(-1)^k/(k+1)$ に対応する関数は、$\int f^+=\int f^-=\infty$ となり可積分でない。級数の理論は、この意味で Lebesgue 積分の特別な場合である。

定理の仮定を外すと、極限と積分の交換は成り立たなくなる。以下の関数はすべて $\mathbb{R}$ 上の Lebesgue 測度についてのものである。

外す条件反例成り立たなくなること
単調収束定理の「単調増加」$f_n=n\,1_{(0,1/n)}$各点で $f_n\to0$ だが $\int f_n=1$
優収束定理の「可積分な優関数」$f_n=1_{[n,n+1]}$各点で $f_n\to0$ だが $\int f_n=1$
単調収束定理の「非負」$f_n=-1_{[n,\infty)}$$f_n$ は増加して $0$ に収束するが $\int f_n=-\infty$
可積分性($\lvert f\rvert$ の積分が有限)$(\sin x)/x$ の $[1,\infty)$ 上広義積分は収束するが Lebesgue 積分は定まらない
可測性Vitali 集合 $V$ の指示関数 $1_V$積分の定義の外にある
反例の確認

上の 3 つの関数列は、いずれも各点で $0$ に収束するが、積分は $0$ に収束しない。$(\sin x)/x$ は正の部分と負の部分の積分がどちらも $\infty$ になり、$1_V$ は可測関数でない。

各行の確認を開く
  • $f_n=n\,1_{(0,1/n)}$:$x\le0$ なら常に $f_n(x)=0$、$x>0$ なら $n>1/x$ で $f_n(x)=0$ なので各点で $0$ に収束する。$\int f_n=n\cdot\frac1n=1$。$f_n$ は単調でなく、$\sup_nf_n$ は $(0,1)$ 上で $1/(2x)$ 以上なので可積分でない(prop-lebesgue-integral-improper と 広義積分 の記事の定理「冪関数の広義積分」の $p=1$)。単調収束定理と優収束定理のどちらの仮定も満たさない。
  • $f_n=1_{[n,n+1]}$:どの $x$ でも $n>x$ なら $f_n(x)=0$。$\int f_n=1$。「質量」が無限遠に逃げており、$\sup_nf_n=1_{[0,\infty)}$ は可積分でない。
  • $f_n=-1_{[n,\infty)}$:$f_n\le f_{n+1}$ で各点で $0$ に収束するが、$\int f_n^-=\lambda([n,\infty))=\infty$ なので $\int f_n=-\infty$ であり、$\lim\int f_n=-\infty\neq0$。
  • $(\sin x)/x$:広義積分 の記事の例「条件収束する広義積分」により $\int_1^\infty\frac{\sin x}{x}dx$ は収束し、$\int_1^\infty\frac{\lvert\sin x\rvert}{x}dx=\infty$ である。prop-lebesgue-integral-improper から $\int_{[1,\infty)}\lvert f\rvert\,d\lambda=\infty$。もし $\int f^+$ と $\int f^-$ の一方が有限なら、$\int_1^Rf=\int f^+1_{[1,R]}-\int f^-1_{[1,R]}$ の収束から他方も有限になり $\int\lvert f\rvert<\infty$ に反するので、両方とも $\infty$ であり、$\int_{[1,\infty)}f\,d\lambda$ は定義されない。
  • $1_V$:選択公理 の記事の例「Vitali集合の構成」の $V$ は Lebesgue 可測でないので、$\{1_V>1/2\}=V$ から $1_V$ は可測関数でない。

空間 $L^1$ と $L^2$

積分で関数の大きさを測ると、関数の集合がノルム空間や内積空間になる。ほとんど至るところ等しい関数は積分では区別できないので、それらを同一視する。

空間 $L^1$ と $L^2$

$p=1,2$ について、可測関数 $f\colon X\to\mathbb{R}$ で $\int\lvert f\rvert^p\,d\mu<\infty$ を満たすもの全体を $\mathcal{L}^p(\mu)$ とし、ほとんど至るところ等しいという同値関係で割った集合を $L^p(\mu)$ と書く。$f$ の同値類を再び $f$ と書き、
$$ \| f\|_1:=\int\lvert f\rvert\,d\mu,\qquad \| f\|_2:=\Bigl(\int\lvert f\rvert^2\,d\mu\Bigr)^{1/2},\qquad \langle f,g\rangle:=\int fg\,d\mu\quad(f,g\in L^2(\mu)) $$
と定める。区間 $I$ 上の Lebesgue 測度については $L^p(I)$ と書く。

$L^1$ と $L^2$ の構造
  1. $L^1(\mu)$ は $\|\cdot\|_1$ についてノルム空間である。
  2. $f,g\in L^2(\mu)$ なら $fg$ は可積分であり、$\langle\cdot,\cdot\rangle$ は $L^2(\mu)$ の内積で、そのノルムが $\|\cdot\|_2$ である。
  3. $L^1(\mu)$ と $L^2(\mu)$ は完備である。

値がほとんど至るところ等しい関数の積分は等しいので(lem-lebesgue-integral-null の 3)、$\|\cdot\|_p$ と $\langle\cdot,\cdot\rangle$ は同値類の上で定まる。

  1. $\lvert f+g\rvert\le\lvert f\rvert+\lvert g\rvert$ と積分の線形性・単調性から、$L^1$ は線形空間で三角不等式が成り立つ。$\| f\|_1=0$ なら lem-lebesgue-integral-null の 2 により $f=0$(ほとんど至るところ)である。
  2. $\lvert fg\rvert\le\frac12(f^2+g^2)$、$(f+g)^2\le2f^2+2g^2$ から、$fg$ は可積分で $L^2$ は線形空間である。$\langle\cdot,\cdot\rangle$ は対称で双線形、$\langle f,f\rangle=\| f\|_2^2\ge0$ であり、$\langle f,f\rangle=0$ なら $f^2=0$(ほとんど至るところ)から $f=0$ である。したがって内積であり、内積空間 の記事の定理「三角不等式と平行四辺形の等式」により $\|\cdot\|_2$ はノルムである。
  3. 完備性は証明を割愛する(Axler20 7.24。1 以上のすべての $p$ について $L^p(\mu)$ が完備であることを示している)。$\square$

$L^2(\mu)$ は完備な内積空間、すなわち Hilbert空間である(Axler20 8.22)。区間上の関数を三角関数で展開する Fourier級数の理論は、$L^2$ の内積を使って述べられる。複素数値の関数についても同様に定義でき、そのときは内積を $\int f\overline{g}\,d\mu$ とする。

補足

確率論との関係

確率空間 $(\Omega,\mathcal{F},P)$ は全体の測度が $1$ の測度空間であり、確率変数 $X$ の期待値は Lebesgue 積分 $\int X\,dP$ として定義される。有限個や可算個の値をとる確率変数では、数え上げ測度の例と同じく、期待値は値と確率の積の和になる。単調収束定理・優収束定理は、確率論では期待値と極限の交換を正当化する基本的な道具である。

選択公理との関係

Lebesgue 測度の可算加法性は、外測度の可算劣加法性を通して可算選択公理に依存している(Lebesgue測度 の記事の注意「選択公理との関係」)。この記事の証明で新たに選択を使うのは、thm-lebesgue-integral-riemann で分割の列 $P_n$ を選ぶ箇所だけである。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する