対称モデル

同義語:symmetric model対称拡大symmetric extension

概要

対称モデル(symmetric model)とは、ZFCの可算推移モデル $M$ のジェネリック拡大 $M[G]$ のうち、強制概念の自己同型の群と部分群の正規フィルターに関して遺伝的に対称な名前の値だけを集めた部分モデルであり、ZFの推移的なモデルになる。自己同型 $\pi$ について、条件 $p$ が言明を強制することと、$\pi p$ が名前を $\pi$ で動かした言明を強制することは同値であり(対称性補題)、これが構成の基本になる。基本Cohenモデルでは、加えた可算個のCohen実数の集合 $A$ が無限でありながら可算無限部分集合をもたず、実数全体を整列できないので選択公理が成り立たない。置換モデルで示した選択公理の弱い形どうしの独立性をZFへ移す道具でもある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 強制法, ジェネリック拡大, 選択公理

対称モデルとは

対称モデル(symmetric model)は、ZFC のモデルのジェネリック拡大 $M[G]$ から、強制概念の自己同型の群に関して「ほとんど動かない」名前の値だけを集めた部分モデルである。ジェネリック拡大は選択公理を満たすが、対称モデルは ZF を満たしながら選択公理を満たさないことがある。Cohen はこの種の構成で、ZF が無矛盾なら ZF に選択公理の否定を加えた理論も無矛盾であることを示した(選択公理 の定理「Cohenによる選択公理の否定の相対的無矛盾性」)。
発想の元は、原子(元をもたない対象)を許す集合論 ZFA の置換モデル(Fraenkel–Mostowski のモデル)にある。原子を入れ替える置換の群に関して対称な集合だけを残すと、原子全体の集合は残るが、その整列や数え上げは残らない。ZF には原子がないので、ジェネリックに加えた Cohen 実数に原子の役を担わせ、強制概念の自己同型で名前を入れ替える。
この記事では、自己同型による名前の変換と対称性補題を証明し、対称モデルを定義する。そのうえで基本 Cohen モデルで、無限なのに可算無限部分集合をもたない実数の集合があることを証明する。対称モデルが ZF を満たすことは引用する。

自己同型と名前

以下、$M$ を可算推移的な ZFC のモデル、$\mathbb P=(P,\le,\mathbf 1)\in M$ を強制概念(半順序)とし、名前と評価は ジェネリック拡大 の定義「名前の値とジェネリック拡大」に従う。強制関係 $p\Vdash\varphi(\tau_1,\dots,\tau_k)$ は、「$p\in G$ となる $M$ 上ジェネリックな任意のフィルター $G$ について $M[G]\models\varphi(\tau_1^G,\dots,\tau_k^G)$」と定める(Kun80 Chapter VII の Definition 3.1、p. 194)。この関係は $M$ の中で定義でき、$M[G]$ で真な言明は $G$ のある元に強制される(強制法 の定理「強制定理の要点」)。

自己同型と名前への作用

$\mathbb P$ の自己同型とは、$M$ に属する全単射 $\pi\colon P\to P$ で、任意の $p,q$ について $p\le q\iff\pi p\le\pi q$ を満たすものである。$\pi\mathbf 1=\mathbf 1$ が従う。自己同型 $\pi$ は名前に、階数に関する再帰
$$ \pi\tau:=\{(\pi\sigma,\pi p)\mid(\sigma,p)\in\tau\} $$
で作用する。

自己同型の基本性質

$\pi,\rho$ を $\mathbb P$ の自己同型、$G$ を $M$ 上ジェネリックなフィルターとする。

  1. すべての $x\in M$ について $\pi\check x=\check x$ である。また $(\pi\rho)\tau=\pi(\rho\tau)$ であり、$\tau\mapsto\pi^{-1}\tau$ は $\tau\mapsto\pi\tau$ の逆である。
  2. $\pi[G]$ は $M$ 上ジェネリックなフィルターであり、$M[\pi[G]\,]=M[G]$ である。
  3. すべての名前 $\tau$ について $(\pi\tau)^{\pi[G]}=\tau^G$ である。

1:$\check x=\{(\check y,\mathbf 1)\mid y\in x\}$ と $\pi\mathbf 1=\mathbf 1$ から、$y$ についての帰納法で従う。後半も階数についての帰納法である。
2:$\pi$ は順序同型なので、$\pi[G]$ は空でなく、弱い条件へ閉じ、二元が $\pi[G]$ の中に共通の強化をもつ。$D\in M$ が稠密なら $\pi^{-1}[D]\in M$ も稠密なので $G$ と交わり、$D$ は $\pi[G]$ と交わる。$\pi\in M\subset M[G]$ なので $\pi[G]\in M[G]$ であり、ジェネリック拡大 の定理「ジェネリック拡大の最小性」により $M[\pi[G]\,]\subset M[G]$ である。$G=\pi^{-1}[\pi[G]\,]$ に同じ議論を当てて逆の包含を得る。
3:$\tau$ の階数についての帰納法で、
$$ (\pi\tau)^{\pi[G]}=\{(\pi\sigma)^{\pi[G]}\mid(\sigma,p)\in\tau,\ \pi p\in\pi[G]\}=\{\sigma^G\mid(\sigma,p)\in\tau,\ p\in G\}=\tau^G $$
である。$\square$

対称性補題

$\pi$ を $\mathbb P$ の自己同型とする。任意の式 $\varphi$、名前 $\tau_1,\dots,\tau_k$、条件 $p$ について
$$ p\Vdash\varphi(\tau_1,\dots,\tau_k)\iff\pi p\Vdash\varphi(\pi\tau_1,\dots,\pi\tau_k) $$
が成り立つ。

$p\Vdash\varphi(\vec\tau)$ とし、$H$ を $\pi p\in H$ となる $M$ 上ジェネリックなフィルターとする。$G:=\pi^{-1}[H]$ は prop-symmetric-model-automorphism の 2 によりジェネリックで、$p\in G$ を満たす。よって $M[G]\models\varphi(\vec\tau^G)$ である。同じ命題の 2・3 により $M[H]=M[G]$、$(\pi\tau_i)^H=\tau_i^G$ なので、$M[H]\models\varphi((\pi\tau_1)^H,\dots,(\pi\tau_k)^H)$ である。$H$ は任意なので $\pi p\Vdash\varphi(\pi\vec\tau)$ である。逆向きは $\pi^{-1}$ に同じ議論を当てればよい。$\square$

対称な名前と対称モデル

正規フィルターと対称モデル

$\mathcal G\in M$ を $\mathbb P$ の自己同型からなる群とする。$\mathcal G$ の部分群からなる空でない集合 $\mathcal F\in M$ が正規フィルターであるとは、次を満たすことをいう。

  1. $H\in\mathcal F$ かつ $H\subset K$($K$ は部分群)なら $K\in\mathcal F$。
  2. $H,K\in\mathcal F$ なら $H\cap K\in\mathcal F$。
  3. $\pi\in\mathcal G$、$H\in\mathcal F$ なら $\pi H\pi^{-1}\in\mathcal F$。
    名前 $\tau$ の対称群を $\operatorname{sym}(\tau)=\{\pi\in\mathcal G\mid\pi\tau=\tau\}$ とし、$\operatorname{sym}(\tau)\in\mathcal F$ のとき $\tau$ は対称であるという。$\tau$ が対称で、$(\sigma,p)\in\tau$ となる $\sigma$ がすべて遺伝的に対称であるとき、$\tau$ は遺伝的に対称であるという(階数に関する再帰)。遺伝的に対称な名前の全体を $\mathrm{HS}$ と書き、
    $$ N:=\{\tau^G\mid\tau\in\mathrm{HS}\} $$
    を $(\mathcal G,\mathcal F)$ が定める対称モデル(対称拡大)という。
対称な名前の基本性質
  1. $\pi\in\mathcal G$ について $\operatorname{sym}(\pi\tau)=\pi\operatorname{sym}(\tau)\pi^{-1}$ であり、$\tau\in\mathrm{HS}$ なら $\pi\tau\in\mathrm{HS}$ である。
  2. すべての $x\in M$ について $\check x\in\mathrm{HS}$ である。
  3. $N$ は推移的であり、$M\subset N\subset M[G]$ を満たす。

1:$\rho\tau=\tau$ なら $(\pi\rho\pi^{-1})(\pi\tau)=\pi\rho\tau=\pi\tau$ であり、逆も同様なので等式が成り立つ。正規フィルターの条件 3 により、$\tau$ が対称なら $\pi\tau$ も対称である。$\pi\tau$ の対の第一成分は $\pi\sigma$($\sigma$ は $\tau$ の対の第一成分)なので、階数についての帰納法で $\pi\tau\in\mathrm{HS}$ が従う。
2:$\mathcal F$ は空でなく条件 1 を満たすので $\mathcal G\in\mathcal F$ である。prop-symmetric-model-automorphism の 1 により $\operatorname{sym}(\check x)=\mathcal G$ であり、$\check x$ の対の第一成分も標準名なので、帰納法で $\check x\in\mathrm{HS}$ である。
3:$y\in\tau^G$($\tau\in\mathrm{HS}$)なら、ある $(\sigma,p)\in\tau$ について $p\in G$、$y=\sigma^G$ であり、$\sigma\in\mathrm{HS}$ なので $y\in N$ である。2 と $\check x^G=x$ から $M\subset N$ であり、$N\subset M[G]$ は定義から明らかである。$\square$

対称モデルは ZF のモデル

$N$ は ZF の推移的なモデルである。

証明の所在

この記事では証明しない。Jech73 Theorem 5.14(p. 65)は、$N$ が推移的で Gödel 演算について閉じ、ほぼ普遍的であることを示して結論を得ている(そこでは完備Boole代数の自己同型を使う。強制概念の自己同型はその Boole 完備化の自己同型を引き起こし、同書 §5.3(p. 66)の基本 Cohen モデルはこの形で作られている)。強制概念の自己同型による形の主張は Hal12 Proposition 17.1(pp. 326–327)にもある。選択公理は一般には $N$ で成り立たず、ジェネリックフィルター $G$ も一般には $N$ に属さない。たとえば下の基本 Cohen モデルで $G\in N$ とすると、$\bigcup G$ から $n\mapsto a_n$ が $N$ の中で作れて thm-symmetric-model-dedekind-finite に反する。

基本 Cohen モデル

$\mathbb P=\operatorname{Fn}(\omega\times\omega,2,{<}\omega)$ を、$\omega\times\omega$ の有限部分集合から $\{0,1\}$ への関数全体を延長で順序づけた強制概念とする($M$ の中で作る)。$M$ の中の $\omega$ の置換 $\pi$ は、
$$ \operatorname{dom}(\hat\pi p)=\{(\pi(n),k)\mid(n,k)\in\operatorname{dom}p\},\qquad(\hat\pi p)(\pi(n),k)=p(n,k) $$
によって $\mathbb P$ の自己同型 $\hat\pi$ を定める。$\mathcal G=\{\hat\pi\mid\pi\text{ は }\omega\text{ の置換}\}$ とし、$\omega$ の有限部分集合 $E$ について $\operatorname{fix}(E)=\{\hat\pi\in\mathcal G\mid(\forall n\in E)\ \pi(n)=n\}$ とおく。ある有限集合 $E$ について $\operatorname{fix}(E)\subset H$ となる部分群 $H$ の全体を $\mathcal F$ とする。$\operatorname{fix}(E)\cap\operatorname{fix}(E')=\operatorname{fix}(E\cup E')$ と $\hat\pi\operatorname{fix}(E)\hat\pi^{-1}=\operatorname{fix}(\pi[E])$ から、$\mathcal F$ は正規フィルターである。
各 $n\in\omega$ について名前 $\dot a_n=\{(\check k,p)\mid p\in P,\ p(n,k)=1\}$ と $\dot A=\{(\dot a_n,\mathbf 1)\mid n\in\omega\}$ を置き、$a_n=\dot a_n^G\subset\omega$、$A=\dot A^G=\{a_n\mid n\in\omega\}$ とおく。$a_n$ は $G$ の第 $n$ 行が定める Cohen 実数である。

実数の集合 A は対称モデルに属し無限
  1. $\hat\pi\dot a_n=\dot a_{\pi(n)}$、$\hat\pi\dot A=\dot A$ である。特に $\dot a_n,\dot A\in\mathrm{HS}$ で、$a_n,A\in N$ である。
  2. $n\ne m$ なら $\mathbf 1\Vdash\dot a_n\ne\dot a_m$ である。特に $A$ は $N$ で無限集合である。

1:$\hat\pi\check k=\check k$ であり、$q=\hat\pi p$ が $P$ 全体を動くとき $q(\pi(n),k)=p(n,k)$ なので、$\hat\pi\dot a_n=\{(\check k,q)\mid q(\pi(n),k)=1\}=\dot a_{\pi(n)}$ である。よって $\operatorname{sym}(\dot a_n)\supset\operatorname{fix}(\{n\})\in\mathcal F$ であり、対の第一成分 $\check k$ は $\mathrm{HS}$ に属するので $\dot a_n\in\mathrm{HS}$ である。$\hat\pi\dot A=\{(\dot a_{\pi(n)},\mathbf 1)\}=\dot A$ なので $\operatorname{sym}(\dot A)=\mathcal G$ であり、$\dot A\in\mathrm{HS}$ である。
2:$D=\{p\mid(\exists k)\ (n,k),(m,k)\in\operatorname{dom}p,\ p(n,k)\ne p(m,k)\}\in M$ は稠密である($p$ の定義域に現れない $k$ を選び、$(n,k)$ に $1$、$(m,k)$ に $0$ を置けばよい)。任意のジェネリックな $G$ は $D$ の元 $p$ を含む。$p(n,k)=1$、$p(m,k)=0$ なら $k\in a_n$ であり、$k\in a_m$ とすると、$q(m,k)=1$ となる $q\in G$ があり、$q$ と $p$ が両立しなくなって、$G$ の二元が両立することに反する。よって $k\notin a_m$ である。逆の値でも同様なので $a_n\ne a_m$ である。よって $A$ は $M[G]$ で無限であり、$N\subset M[G]$ なので、$N$ の中の $A$ から自然数への全単射もなく、$A$ は $N$ でも無限である。$\square$

次の定理が基本 Cohen モデルの要点である。$A$ の元を一つずつ並べる関数 $n\mapsto a_n$ は $M[G]$ にはあるが、その標準的な名前 $\sigma$(ex-symmetric-model-counterexamples)を動かさない置換は恒等置換だけで、$\sigma$ は対称でない。実際、次の定理により、$N$ には $A$ の元を無限個並べる関数が一つもない。

A は Dedekind 有限

$N$ の中に単射 $f\colon\omega\to A$ は存在しない。すなわち $A$ は $N$ で、無限だが可算無限部分集合をもたない集合(Dedekind 有限な集合)である。

単射 $f\colon\omega\to A$ が $N$ に属するとし、$f=\tau^G$($\tau\in\mathrm{HS}$)とする。「$f$ は $\omega$ から $A$ への単射である」は推移的なクラスの間で真偽が変わらない言明なので、$M[G]$ でも成り立つ。強制定理により、ある $p_0\in G$ が「$\tau$ は $\check\omega$ から $\dot A$ への単射である」を強制する。
$\tau$ は対称なので、ある有限集合 $E\subset\omega$ について $\operatorname{fix}(E)\subset\operatorname{sym}(\tau)$ である。prop-symmetric-model-cohen-set の 2 により $\{a_n\mid n\in E\}$ はちょうど $|E|$ 個の元からなり、$f(0),\dots,f(|E|)$ は相異なるので、ある $i$ とある $n\notin E$ について $f(i)=a_n$ である。強制定理により、$p\Vdash\tau(\check i)=\dot a_n$ となる $p\in G$ があり、$G$ の中で $p_0$ と共通の強化をとって $p\le p_0$ としてよい。
$p$ の定義域は有限なので、$n'\notin E\cup\{n\}$ で、$(n',k)\in\operatorname{dom}p$ となる $k$ がないものを選べる。$\pi$ を $n$ と $n'$ を入れ替える互換とする。$\hat\pi\in\operatorname{fix}(E)\subset\operatorname{sym}(\tau)$ なので $\hat\pi\tau=\tau$ であり、$\hat\pi\check i=\check i$、$\hat\pi\dot a_n=\dot a_{n'}$ である。thm-symmetric-model-symmetry-lemma により
$$ \hat\pi p\Vdash\tau(\check i)=\dot a_{n'} $$
である。$p$ と $\hat\pi p$ は両立する。実際、第 $n$ 行と第 $n'$ 行以外では $\hat\pi p$ と $p$ は同じ値をとり、$\hat\pi p$ の第 $n$ 行は $p$ の第 $n'$ 行から来るので空である。$\hat\pi p$ の第 $n'$ 行は $p$ の第 $n$ 行から来るが、$p$ の第 $n'$ 行は空である。よって $r=p\cup\hat\pi p$ は条件で、$r\le p$、$r\le\hat\pi p$ である。
$r$ を含むジェネリックな $H$ をとると(ジェネリックフィルター の系「可算推移モデル上の存在」)、$r\le p\le p_0$ なので $M[H]$ で $\tau^H$ は関数であり、$p,\hat\pi p\in H$ から $\dot a_n^H=\tau^H(i)=\dot a_{n'}^H$ となる。これは $n\ne n'$ と prop-symmetric-model-cohen-set の 2 に反する。$\square$

対称モデルでの選択公理の否定

$N$ は ZF のモデルで、選択公理が成り立たない。特に $N$ では実数全体の集合 $\mathcal P(\omega)$ を整列できない。

$N$ が ZF のモデルであることは thm-symmetric-model-zf による。ZF の中で、整列できる無限集合 $X$ には単射 $\omega\to X$ がある(整列順序の最初の $\omega$ 個の元をとる)。thm-symmetric-model-dedekind-finite により、$N$ で $A$ は整列できない。$A\subset\mathcal P(\omega)$ なので、$\mathcal P(\omega)$ も $N$ で整列できない。ZF のもとで選択公理は整列可能定理と同値なので(選択公理、整列可能定理)、$N$ では選択公理が成り立たない。$\square$

Jech73 Lemma 5.15(pp. 67–68)は同じモデルで $A$ の整列ができないことを示し、Hal12 pp. 328–330 は $A$ が Dedekind 有限であることを示している。可算推移モデルの存在は ZF の無矛盾性からは従わないので、相対無矛盾性 $\operatorname{Con}(\mathsf{ZF})\Rightarrow\operatorname{Con}(\mathsf{ZF}+\neg\mathsf{AC})$ を得るには、強制法 の節「独立性の議論との関係」と同じく、有限個の公理についての議論に置き換える。選択公理が ZF から証明できないという結論は Jech73 Theorem 5.16(p. 68)に述べられている。出発点に ZFC のモデルが要ることは、Gödel の構成可能宇宙により $\operatorname{Con}(\mathsf{ZF})\Rightarrow\operatorname{Con}(\mathsf{ZFC})$ であることで補われる(選択公理 の定理「Gödelによる選択公理の相対的無矛盾性」)。

置換モデルとの関係

ZFA の置換モデルでは、原子の置換の群と正規フィルターを使って、遺伝的に対称な集合の全体をとる。対称モデルはその ZF 版であり、def-symmetric-model の正規フィルターの定義も置換モデルと同じ形である。選択公理を満たす ZFA のモデルの中で作った置換モデルで成り立つ主張のうち、原子の集合 $A$ から冪集合をとる操作を順序数 $\alpha$ 回くり返した集合 $\mathcal P^\alpha(A)$ の中で述べられるもの($\alpha$ は任意の順序数)は、対称モデルに移せる。これが Jech–Sochor の埋め込み定理である(Jech73 Theorem 6.1、p. 85、Hal12 p. 334)。この記事では証明しない。これにより、置換モデルで示した選択公理の弱い形どうしの独立性の多くが ZF でも成り立つ。

条件を外したときの反例

thm-symmetric-model-dedekind-finite の構成から条件を一つずつ外すと、$A$ を数え上げる関数が残ってしまう。

外す条件反例成り立たなくなること
$\mathcal F$ が有限集合 $E$ の $\operatorname{fix}(E)$ で生成されること$\mathcal F$ を $\mathcal G$ のすべての部分群の集合にする$A$ が $N$ で Dedekind 有限であること
$\mathcal G$ が $\omega$ の置換から来る自己同型の群であること$\mathcal G=\{\mathrm{id}\}$、$\mathcal F=\{\mathcal G\}$$A$ が $N$ で Dedekind 有限であること
名前が遺伝的に対称であること対称な名前の値の全体 $N'=\{\tau^G\mid\operatorname{sym}(\tau)\in\mathcal F\}$推移的で、$A$ を数え上げる関数を含まないこと
表の反例の確認

$\sigma=\{(\operatorname{op}(\check n,\dot a_n),\mathbf 1)\mid n\in\omega\}$ を、数え上げ $n\mapsto a_n$ の名前とする。$\operatorname{op}(x,y)$ は順序対の標準的な名前 $\{(\{(x,\mathbf 1)\},\mathbf 1),(\{(x,\mathbf 1),(y,\mathbf 1)\},\mathbf 1)\}$ であり、$\hat\pi\operatorname{op}(x,y)=\operatorname{op}(\hat\pi x,\hat\pi y)$ である。
1 行目:$\mathcal G$ のすべての部分群の集合は正規フィルターであり、自明な部分群 $\{\mathrm{id}\}$ を含むので、すべての名前が遺伝的に対称になる。よって $N=M[G]$ であり、$\sigma^G$ は $N$ に属する単射 $\omega\to A$ である。
2 行目:$\mathcal G=\{\mathrm{id}\}$ では $\operatorname{sym}(\tau)=\mathcal G\in\mathcal F$ がすべての名前で成り立つので、やはり $N=M[G]$ である。
3 行目:$\tau=\{(\hat\pi\sigma,\mathbf 1)\mid\hat\pi\in\mathcal G\}$ は、$\hat\rho\tau=\{(\hat\rho\hat\pi\sigma,\mathbf 1)\}=\tau$ なので $\operatorname{sym}(\tau)=\mathcal G\in\mathcal F$ であり、$\tau^G\in N'$ である。$\tau^G$ の元 $(\hat\pi\sigma)^G=\{(n,a_{\pi(n)})\mid n\in\omega\}$ は単射 $\omega\to A$ である。よって $N'$ が推移的なら $A$ の数え上げを含む。$\sigma$ 自身は $\operatorname{sym}(\sigma)=\{\mathrm{id}\}\notin\mathcal F$ なので対称でない。

関連項目

参考文献

[1]
Thomas J. Jech, The Axiom of Choice, Dover Books on Mathematics, Dover Publications(North-Holland 1973 年版の復刻), 2008, §5.2:Lemma 5.13・Theorem 5.14(対称な名前と対称拡大、ZF のモデルであること、pp. 64–65);§5.3:基本 Cohen モデルと Lemma 5.15(pp. 66–68)、Theorem 5.16(p. 68);Theorem 6.1(First Embedding Theorem、p. 85)

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