岡の連接定理

同義語:Okaの連接定理Oka's coherence theoremOka coherence theorem

概要

岡の連接定理(Oka's coherence theorem)とは、$\mathbb{C}^n$ の開集合の上の正則関数の層 $\mathcal{O}$ が連接層であること、すなわち有限個の正則関数の組 $F_1,\dots,F_q$ の間の関係式 $\sum_jc^jF_j=0$ の芽のなす加群が、各点の近傍で、その近傍のすべての点に共通な有限個の正則な関係式によって生成されることを述べる定理である。岡潔が 1950 年に発表し、Weierstrass の予備定理と割り算定理を用いて、関係式を変数が 1 つ少ない空間の上の連立 1 次方程式に帰着させる、変数の個数についての帰納法で証明される。複素多様体や複素解析空間の構造層の連接性を与え、連接解析層の理論と、Stein 多様体の上の Cartan の定理などの大域理論の出発点になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Weierstrassの予備定理, 収束冪級数環, 連接層, 層, 多重円板

岡の連接定理は、$\mathbb{C}^n$ の開集合の上の正則関数の層が連接層であることを述べる、多変数関数論の局所理論の基本定理である。中身は具体的で、有限個の正則関数 $F_1,\dots,F_q$ の間の関係式 $c^1F_1+\cdots+c^qF_q=0$(係数 $c^j$ は正則関数の芽)について、各点の近くで、近くのすべての点の関係式を同時に生成する有限個の正則な関係式がとれる、というものである。1 点ごとに関係式の加群が有限生成であることは 収束冪級数環 が Noether 環であることから直ちに従うが、生成元を近傍の点に共通にとれることは、それとは別の、より深い主張である。
この定理は岡潔(Kiyoshi Oka, 1901–1978)が多変数関数論の連作論文の第 7 篇(1950 年)で示した(Hor90 第 VI 章の Notes、p. 176)。証明は Weierstrassの予備定理 と割り算定理を使った変数の個数についての帰納法で、各点の関係式を、変数が 1 つ少ない空間の上の連立 1 次方程式の解に帰着させる。この定理によって、複素多様体や複素解析空間の上の連接層(連接解析層)の理論が成り立ち、Cartanの定理A・B をはじめとする大域理論が展開できる。

記号と定義

$\mathbb{C}^n$ の開集合 $\Omega$ の上の正則関数の層を $\mathcal{O}=\mathcal{O}_\Omega$、点 $z$ での茎(正則関数の芽の環)を $\mathcal{O}_z$、$\Omega$ 上の正則関数の環を $\mathcal{O}(\Omega)$ と書く。$\mathcal{O}_z$ は $z$ を中心とする収束冪級数の環と同型な Noether 局所環であり、整域である(収束冪級数環)。$p$ 個の正則関数の組 $F\in\mathcal{O}(\Omega)^p$ の点 $z$ での芽を $F_z\in\mathcal{O}_z^p$ と書く。

関係式の加群と関係式の層

$p,q\ge1$、$F_1,\dots,F_q\in\mathcal{O}(\Omega)^p$ とする。$z\in\Omega$ に対し
$$ R_z(F_1,\dots,F_q):=\Bigl\{(c^1,\dots,c^q)\in\mathcal{O}_z^q\ \Bigm|\ \sum_{j=1}^qc^j\,(F_j)_z=0\Bigr\} $$
を $F_1,\dots,F_q$ の $z$ での関係式の加群という。これは $\mathcal{O}_z^q$ の部分加群である。$R_z$ を茎とする $\mathcal{O}^q$ の部分層、すなわち開集合 $U$ 上の切断が $\sum_jc^jF_j=0$ を満たす $(c^1,\dots,c^q)\in\mathcal{O}(U)^q$ である層を $\mathcal{R}(F_1,\dots,F_q)$ と書き、関係式の層という。

$\mathcal{R}(F_1,\dots,F_q)$ は、層の射 $\mathcal{O}^q\to\mathcal{O}^p$、$(c^j)_j\mapsto\sum_jc^jF_j$ の核である。$p$ 個の成分ごとに見れば、関係式とは $p$ 本の方程式 $\sum_jc^jF_j^i=0$($F_j=(F_j^1,\dots,F_j^p)$、$1\le i\le p$)を同時に満たす係数の組のことである。

主定理

岡の連接定理

$\Omega\subset\mathbb{C}^n$ を開集合、$p,q\ge1$、$F_1,\dots,F_q\in\mathcal{O}(\Omega)^p$ とする。任意の点 $a\in\Omega$ に対し、$a$ の開近傍 $\omega\subset\Omega$ と有限個の $G_1,\dots,G_s\in\mathcal{O}(\omega)^q$ があって、次が成り立つ。

  1. 各 $G_l=(G_l^1,\dots,G_l^q)$ は $\omega$ 上の関係式である:$\sum_jG_l^jF_j=0$。
  2. すべての $z\in\omega$ について、$R_z(F_1,\dots,F_q)$ は芽 $(G_1)_z,\dots,(G_s)_z$ で $\mathcal{O}_z$ 加群として生成される。
    すなわち、関係式の層 $\mathcal{R}(F_1,\dots,F_q)$ は有限型である。
主張の要点と証明の場所

肝心なのは 2 で、同じ $G_1,\dots,G_s$ が $\omega$ のすべての点で生成元になっている。各点 $z$ ごとに $R_z$ が有限生成であることは、$\mathcal{O}_z$ が Noether 環で $R_z$ が有限生成加群 $\mathcal{O}_z^q$ の部分加群であることから分かるが、そこで得られる生成元は $z$ ごとに別々に選ばれた芽で、近くの点の生成元になるとは限らない。証明は節「証明」で与える(prf-thm-oka-main)。

正則関数の層の連接性
  1. $\Omega\subset\mathbb{C}^n$ を開集合とする。$\mathcal{O}_\Omega^p$ の部分層 $\mathcal{S}$ が有限型(各点の近傍で有限個の切断で生成される)ならば、$\mathcal{S}$ は連接である。とくに $\mathcal{O}_\Omega$ と $\mathcal{O}_\Omega^p$ は連接である。
  2. 複素多様体 $M$ の正則関数の層 $\mathcal{O}_M$ は連接である。

1:連接層 の定義「連接層の定義」の条件 1 は仮定である。条件 2 を示す。開集合 $U\subset\Omega$ と $\mathcal{O}_U$ 加群の射 $u\colon\mathcal{O}_U^q\to\mathcal{S}|_U$ をとり、$\mathcal{O}_U^q$ の標準基底の像を $s_1,\dots,s_q\in\mathcal{S}(U)\subset\mathcal{O}(U)^p$ とする。$u$ は $(c^j)\mapsto\sum_jc^js_j$ で与えられるので、$\ker u=\mathcal{R}(s_1,\dots,s_q)$ であり、thm-oka-main($\Omega$ を $U$ に替えて使う)によりこれは有限型である。$\mathcal{O}_\Omega^p$ 自身は標準基底の $p$ 個の切断で生成されるので、$\mathcal{S}=\mathcal{O}_\Omega^p$ としてよい。
2:連接性は局所的な性質である(連接層 の定義のあとの説明)。$M$ の座標近傍は $\mathbb{C}^n$ の開集合 $D$ と双正則であり、この同一視で $\mathcal{O}_M$ の制限は $\mathcal{O}_D$ に移る。1 により $\mathcal{O}_D$ は連接なので、$\mathcal{O}_M$ は連接である。$\square$

構造層 $\mathcal{O}$ が連接なので、$\mathcal{O}$ 加群の層については「連接」と「局所的に $\mathcal{O}^{p}\to\mathcal{O}^{q}$ の余核として書ける」ことが一致し、連接層の射の核・像・余核や拡大はまた連接になる(連接層 の命題「連接性と有限表示」、定理「連接層の 2 out of 3」)。これが連接解析層の理論の出発点である。

例

座標関数 2 つの関係式

$\Omega=\mathbb{C}^2$、$p=1$、$F_1=z_1$、$F_2=z_2$ とする。$G:=(z_2,-z_1)$ は関係式であり、すべての点 $z$ で $R_z(z_1,z_2)=\mathcal{O}_z\,G_z$ である。
実際、$(c^1,c^2)\in R_z$ とする。$z_1\ne0$ の点では $z_1$ の芽は単元なので、$c^1=-c^2z_2/z_1$ であり、$(c^1,c^2)=-(c^2/z_1)\,G_z$ である。$z_2\ne0$ の点も同様である。原点では、$c^1z_1=-c^2z_2$ と、$\mathcal{O}_0$ が一意分解整域で $z_1$、$z_2$ が互いに素な素元であること(収束冪級数環 の定理「収束冪級数環は一意分解整域」)から $z_1\mid c^2$ である。$c^2=-hz_1$ とおくと $c^1=hz_2$ となり、$(c^1,c^2)=h\,G_0$ である。こうして 1 つの $G$ が全平面の生成元になる。

恒等的に 0 でない 1 つの関数

$\Omega$ を連結、$p=q=1$、$F_1\in\mathcal{O}(\Omega)$ を恒等的に $0$ でない関数とする。一致の定理 により $F_1$ の芽はどの点でも $0$ でなく、$\mathcal{O}_z$ は整域なので $R_z(F_1)=0$ である。関係式の層は $0$ で、$s=0$(または $G_1=0$)でよい。一方 $F_1\equiv0$ なら $R_z(F_1)=\mathcal{O}_z$ で、$G_1=1$ が生成元である。$\Omega$ が連結でないと、成分ごとにこの 2 つの場合が混ざる。

証明

証明の筋は Hor90 Theorem 6.4.1(pp. 165–167)による。まず関係式の本数 $p$ を $1$ に減らし(lem-oka-rows)、$p=1$ の場合を、Weierstrass の予備定理で多項式の関係式に帰着させて(lem-oka-polynomial)、変数の個数 $n$ についての帰納法で示す。

方程式の本数を減らす

方程式の本数の帰納

$p\ge2$ とする。$\mathbb{C}^n$ の任意の開集合の上で、方程式が $1$ 本の場合と $p-1$ 本の場合に(任意の $q$ について)thm-oka-main の結論が成り立つとする。このとき $p$ 本の場合にも成り立つ。

要点:1 本目の方程式の関係式の生成元 $H_k$ の一次結合で一般の関係式を書き、その係数が満たす残り $p-1$ 本の方程式に仮定を使う。

詳しい証明を開く

$F_j=(F_j^1,F_j')$、$F_j^1\in\mathcal{O}(\Omega)$、$F_j'\in\mathcal{O}(\Omega)^{p-1}$ と分ける。1 本の場合の仮定により、$a$ の開近傍 $\Omega'$ と $H_1,\dots,H_t\in\mathcal{O}(\Omega')^q$ で、各点 $z\in\Omega'$ で $R_z(F_1^1,\dots,F_q^1)$ を生成する関係式がある。$K_k:=\sum_jH_k^jF_j'\in\mathcal{O}(\Omega')^{p-1}$($1\le k\le t$)とおき、$p-1$ 本の場合の仮定を $\Omega'$ 上の $K_1,\dots,K_t$ に使うと、$a$ の開近傍 $\omega\subset\Omega'$ と、各点 $z\in\omega$ で $R_z(K_1,\dots,K_t)$ を生成する関係式 $C_1,\dots,C_s\in\mathcal{O}(\omega)^t$ がある。$G_l:=\sum_kC_l^kH_k\in\mathcal{O}(\omega)^q$ とおく。

$\sum_jG_l^jF_j^1=\sum_kC_l^k\sum_jH_k^jF_j^1=0$、$\sum_jG_l^jF_j'=\sum_kC_l^kK_k=0$ なので $G_l$ は関係式である。逆に $z\in\omega$、$c\in R_z(F_1,\dots,F_q)$ とすると、$c\in R_z(F_1^1,\dots,F_q^1)$ なので $c=\sum_kb^k(H_k)_z$($b^k\in\mathcal{O}_z$)と書ける。すると $0=\sum_jc^jF_j'=\sum_kb^kK_k$ なので $b=(b^k)_k\in R_z(K_1,\dots,K_t)$ であり、$b=\sum_le^l(C_l)_z$($e^l\in\mathcal{O}_z$)と書ける。代入すると $c=\sum_le^l(G_l)_z$ である。

多項式の関係式への帰着

以下 $n\ge1$ とし、$\mathbb{C}^n$ の点を $z=(z',w)$、$z'\in\mathbb{C}^{n-1}$、$w=z_n$ と書く。点 $\zeta=(\zeta',\zeta_n)$ を固定し、$\mathbb{C}^{n-1}$ の点 $\zeta'$ での正則関数の芽の環を $A:=\mathcal{O}_{\zeta'}(\mathbb{C}^{n-1})$ とする($n=1$ なら $A=\mathbb{C}$)。$A$ の元を $w$ によらない関数の芽とみて $A\subset\mathcal{O}_\zeta$ とし、$A$ 係数の $w$ の多項式の環 $A[w]$ も $\mathcal{O}_\zeta$ の部分環とみる。$A[w]$ の元が $\mathcal{O}_\zeta$ の元として $0$ になるのは、係数がすべて $0$ のときに限る。$\zeta'$ の近くの各 $z'$ で、$w$ の多項式が $\zeta_n$ の近くで恒等的に $0$ なら、その係数は $z'$ で $0$ だからである。
Weierstrassの予備定理 の定理は原点の芽について述べられているが、座標を平行移動すれば点 $\zeta$ でも同じことが成り立つ。$w-\zeta_n$ についての Weierstrass 多項式とは、$(w-\zeta_n)^b+\sum_{i< b}a_i\,(w-\zeta_n)^i$($a_i\in A$、$a_i(\zeta')=0$)の形の元である。これは $w$ の多項式として最高次の係数が $1$ の $b$ 次式である。

Weierstrass 多項式による商は多項式

$W\in A[w]$ を $w-\zeta_n$ についての $b$ 次の Weierstrass 多項式とし、$0\ne P\in A[w]$ が $\mathcal{O}_\zeta$ の中で $P=GW$($G\in\mathcal{O}_\zeta$)と書けるとする。このとき $G\in A[w]$ であり、$\deg_wG=\deg_wP-b$ である。

$W$ は $w$ の多項式として最高次の係数が $1$ なので、$A[w]$ の中で多項式の割り算ができ、$P=G_1W+H$($G_1,H\in A[w]$、$\deg_wH< b$)と書ける。$H$ は $w-\zeta_n$ の $b$ 次未満の $A$ 係数多項式でもある。$W(\zeta',w)=(w-\zeta_n)^b$ なので $W$ は $w-\zeta_n$ について $b$ 次の正則であり、Weierstrassの予備定理 の定理「Weierstrass の割り算定理」の一意性を $P=GW+0=G_1W+H$ に使うと $G=G_1$、$H=0$ である。$W$ の最高次の係数が $1$ なので $\deg_wP=\deg_wG+b$ である。$\square$

多項式の関係式による生成

$\Delta'\subset\mathbb{C}^{n-1}$ を開集合、$F_1,\dots,F_q$($q\ge1$)を係数が $\mathcal{O}(\Delta')$ に属する $w$ の多項式で、最高次の係数が $1$ のものとし、$\mu:=\max_j\deg_wF_j$ とおく。このとき任意の $\zeta\in\Delta'\times\mathbb{C}$ について、$R_\zeta(F_1,\dots,F_q)$ は、その元のうち各成分が $A[w]$ に属し $w$ について $\mu$ 次以下であるもの(以下、$\mu$ 次以下の多項式の関係式という)で生成される。

$F_q(\zeta',w)$ は $w$ の $\nu:=\deg_wF_q$ 次のモニック多項式で恒等的に $0$ でないので、$F_q$ は $w-\zeta_n$ についてある $b$ 次の正則である($b$ は $w=\zeta_n$ での根の重複度で、$0$ でもよい)。予備定理により $(F_q)_\zeta=hW$、$h\in\mathcal{O}_\zeta$ は単元、$W$ は $w-\zeta_n$ についての $b$ 次の Weierstrass 多項式である。lem-oka-quotient により $h\in A[w]$、$\deg_wh=\nu-b$ である。
$q=1$ なら、$F_1$ の芽は $0$ でなく $\mathcal{O}_\zeta$ は整域なので $R_\zeta=0$ であり、主張は自明である。$q\ge2$ とし、$1\le i\le q-1$ について
$$ \kappa_i:=F_q\,e_i-F_i\,e_q\qquad(e_i\text{ は }\mathcal{O}_\zeta^q\text{ の標準基底}) $$
とおく。$\kappa_i$ は成分が $A[w]$ に属し $\mu$ 次以下の関係式である。
$c=(c^1,\dots,c^q)\in R_\zeta$ をとる。$i\le q-1$ について、割り算定理で $c^i=t^iW+r^i$($t^i\in\mathcal{O}_\zeta$、$r^i\in A[w]$、$\deg_wr^i< b$)と割る。$t^iW=(t^i/h)F_q$ なので
$$ c-\sum_{i=1}^{q-1}\frac{t^i}{h}\,\kappa_i=(r^1,\dots,r^{q-1},r^q),\qquad r^q:=c^q+\sum_{i=1}^{q-1}\frac{t^i}{h}F_i $$
となる。左辺は関係式なので $r:=(r^1,\dots,r^q)\in R_\zeta$ であり、
$$ P:=r^qF_q=-\sum_{i=1}^{q-1}r^iF_i\in A[w],\qquad\deg_wP\le(b-1)+\mu $$
である。$P=(r^qh)W$ なので、$P\ne0$ なら lem-oka-quotient により $r^qh\in A[w]$、$\deg_w(r^qh)=\deg_wP-b\le\mu-1$ であり、$P=0$ なら $F_q$ の芽が $0$ でないので $r^q=0$ である。いずれの場合も
$$ h\,r=(hr^1,\dots,hr^{q-1},hr^q) $$
は各成分が $A[w]$ に属し、$\deg_w(hr^i)<(\nu-b)+b=\nu\le\mu$($i\le q-1$)、$\deg_w(hr^q)\le\mu-1$ を満たす関係式である。$h$ は単元なので
$$ c=\sum_{i=1}^{q-1}\frac{t^i}{h}\,\kappa_i+h^{-1}\,(h\,r) $$
であり、$c$ は $\mu$ 次以下の多項式の関係式 $\kappa_1,\dots,\kappa_{q-1},\,hr$ の $\mathcal{O}_\zeta$ 係数の一次結合である。$\square$

主定理の証明

$n$ についての帰納法で示す。主張 $S(n)$ を「$\mathbb{C}^n$ の任意の開集合 $\Omega$、任意の $p,q\ge1$、任意の $F_1,\dots,F_q\in\mathcal{O}(\Omega)^p$、任意の $a\in\Omega$ について thm-oka-main の結論が成り立つ」とする。
$n=0$.$\mathbb{C}^0$ は 1 点で $\mathcal{O}_z=\mathbb{C}$ だから、$R_z$ は $\mathbb{C}^q$ の線形部分空間である。その基底を $G_1,\dots,G_s$ とすればよい。
$n\ge1$.$S(n-1)$ を仮定する。lem-oka-rows により、$p$ についての帰納法で $p=1$ の場合に帰着する($p=1$ の場合が $\mathbb{C}^n$ のすべての開集合で示せれば、$p=2,3,\dots$ と順に従う)。そこで $p=1$、$F_1,\dots,F_q\in\mathcal{O}(\Omega)$ とし、平行移動して $a=0$ とする。
段 1($0$ になる芽を除く):$J:=\{j\mid(F_j)_0=0\}$ とする。$0$ を中心とする球 $B\subset\Omega$ を、$j\in J$ について $B$ 上 $F_j\equiv0$ となるようにとる。$z\in B$ では、$c\in R_z(F_1,\dots,F_q)$ であることと、$(c^j)_{j\notin J}\in R_z((F_j)_{j\notin J})$ であることは同値で、$c^j$($j\in J$)は任意である。よって $(F_j)_{j\notin J}$ について結論が得られれば、その生成元($J$ の成分を $0$ で埋めたもの)と標準基底 $e_j$($j\in J$)が $F_1,\dots,F_q$ の生成元になる。$J$ がすべてなら $e_1,\dots,e_q$ でよい。以下、$\Omega$ を $B$ に替え、どの $F_j$ の芽も $0$ でないとする。
段 2(座標の取り替え):$\mathcal{O}_0$ は整域なので積 $F_1\cdots F_q$ の芽は $0$ でない。Weierstrassの予備定理 の補題「一般の関数を $w$ 正則にする座標変換」により、$\mathbb{C}^n$ の線形な座標変換で積が $w$ について正則になるようにできる。線形な座標変換は芽の環の同型を引き起こし、関係式の加群を対応させるので、結論は座標によらない。このとき $\prod_jF_j(0,w)\not\equiv0$ だから各 $F_j(0,w)\not\equiv0$ であり、各 $F_j$ は $w$ についてある $b_j$ 次の正則である。
段 3(予備定理):$D(\rho):=\{w\in\mathbb{C}\mid|w|<\rho\}$ と書く。予備定理を各 $F_j$ に使い、得られた多重円板の共通部分をとって(必要なら小さくして)、原点を中心とする多重円板 $\Delta'\subset\mathbb{C}^{n-1}$ と $\rho>0$ で $\Delta'\times D(\rho)\subset\Omega$ かつ、その上で
$$ F_j=u_jW_j\qquad(1\le j\le q) $$
となるものをとる。ここで $u_j$ は零点をもたない正則関数、$W_j$ は係数が $\mathcal{O}(\Delta')$ に属する Weierstrass 多項式である。$W_j$ は $w$ の多項式として $\Delta'\times\mathbb{C}$ 全体で定義される。$z\in\Delta'\times D(\rho)$ について、$c\in R_z(F_1,\dots,F_q)$ であることと $(u_jc^j)_j\in R_z(W_1,\dots,W_q)$ であることは同値である。よって $W_1,\dots,W_q$ の関係式 $G_1,\dots,G_s$ が $\omega$ の各点で生成元になっていれば、$(G_l^j/u_j)_j$($1\le l\le s$)が $\omega\cap(\Delta'\times D(\rho))$ の各点で $F_1,\dots,F_q$ の関係式の生成元になる。
段 4(連立 1 次方程式への帰着):$\mu:=\max_j\deg_wW_j$ とし、$W_j=\sum_{i=0}^{\mu}\alpha_{j,i}(z')w^i$($\alpha_{j,i}\in\mathcal{O}(\Delta')$、$i$ が範囲外なら $\alpha_{j,i}:=0$)と書く。$\mu$ 次以下の多項式の組 $c^j=\sum_{k=0}^{\mu}c^j_kw^k$ について
$$ \sum_{j=1}^qc^jW_j=\sum_{m=0}^{2\mu}\Bigl(\sum_{j=1}^q\sum_{k=0}^{\mu}c^j_k\,\alpha_{j,m-k}\Bigr)w^m $$
である。$1\le j\le q$、$0\le k\le\mu$ について $\Phi_{j,k}:=(\alpha_{j,m-k})_{0\le m\le2\mu}\in\mathcal{O}(\Delta')^{2\mu+1}$ とおく。$A[w]$ の元が $0$ になるのは係数がすべて $0$ のときに限るので、$\zeta\in\Delta'\times\mathbb{C}$ において $c$ が関係式であることと、係数の組 $(c^j_k)_{j,k}$ が $R_{\zeta'}((\Phi_{j,k})_{j,k})$ に属することは同値である。$S(n-1)$ を $\Delta'$ と $\Phi_{j,k}$(方程式 $2\mu+1$ 本、未知数 $q(\mu+1)$ 個)に使うと、$0\in\mathbb{C}^{n-1}$ の開近傍 $\omega'\subset\Delta'$ と、各点 $\zeta'\in\omega'$ で $R_{\zeta'}((\Phi_{j,k}))$ を生成する関係式 $C_1,\dots,C_s\in\mathcal{O}(\omega')^{q(\mu+1)}$ がある。$G_l^j:=\sum_kC_l^{j,k}w^k$ とおくと、$G_l=(G_l^1,\dots,G_l^q)$ は $\omega'\times\mathbb{C}$ 上の $W_1,\dots,W_q$ の関係式である。
段 5(生成):$\zeta\in\omega'\times\mathbb{C}$ とする。lem-oka-polynomial により、$R_\zeta(W_1,\dots,W_q)$ は $\mu$ 次以下の多項式の関係式 $c$ で生成される。その係数の組は $R_{\zeta'}((\Phi_{j,k}))$ に属するので $\sum_le^l(C_l)_{\zeta'}$($e^l\in A$)と書け、$w$ の冪ごとに比べて $c=\sum_le^l(G_l)_\zeta$ となる。よって $(G_1)_\zeta,\dots,(G_s)_\zeta$ は $R_\zeta(W_1,\dots,W_q)$ を生成する。段 3 により、$\omega:=\omega'\times D(\rho)$ の上で $(G_l^j/u_j)_j$ が $F_1,\dots,F_q$ の関係式の生成元になり、$S(n)$ が示された。$\square$

段 4・5 が証明の核心である。多項式の関係式の係数は $z'$ だけの関数なので、「$\zeta$ の近くで共通の生成元」という問題が、$\mathbb{C}^{n-1}$ の上の同じ形の問題に下りる。そのために段 3 で、関数を $w$ について次数が一様に $\mu$ 以下の多項式に替えている。

反例:仮定を外した場合

外す条件反例成り立たなくなること
関数が正則$\mathbb{R}$ 上の $C^\infty$ 関数の層と、$x>0$ で $e^{-1/x}$、$x\le0$ で $0$ となる関数関係式の層が有限型
部分層が有限型(cor-oka-coherent の 1)開集合 $V\subsetneq\Omega$ の上で $\mathcal{O}$、外で $0$ となる部分層部分層が連接
反例の確かめ
  1. $C^\infty$ 関数の層 $\mathcal{E}$ では、その関数を掛ける写像 $\mathcal{E}\to\mathcal{E}$ の核の原点での茎が有限生成でない(連接層 の注意「解析空間と可微分多様体」)。$C^\infty$ 関数は一致の定理を満たさず、Weierstrass の予備定理のような割り算もできないことが原因である。
  2. $\Omega\subset\mathbb{C}^n$ を連結、$V\subsetneq\Omega$ を空でない開集合とし、$z\in V$ で $\mathcal{S}_z=\mathcal{O}_z$、$z\notin V$ で $\mathcal{S}_z=0$ となる部分層 $\mathcal{S}\subset\mathcal{O}$ を考える(開集合 $U$ 上の切断は、$U\setminus V$ の各点の近くで $0$ になる正則関数)。茎はどれも有限生成である。$\Omega$ は連結で $V$ は空でも $\Omega$ 全体でもない開集合なので、$\Omega$ の中で閉でなく、$V$ の境界点 $z^0\in\Omega\setminus V$ がある。$z^0$ を中心とする球 $U\subset\Omega$ の上の $\mathcal{S}$ の切断 $f$ は、$z^0\notin V$ の近くで $0$ なので、一致の定理 により $U$ 全体で $0$ である。一方 $U\cap V\ne\emptyset$ で、その点では $\mathcal{S}_z=\mathcal{O}_z\ne0$ である。よって $z^0$ のどの近傍でも $\mathcal{S}$ は有限個の切断で生成されず、$\mathcal{S}$ は有限型でないので連接でない(Hor90 §7.1 の Example、p. 183)。

補足

Hor90 は主定理を Theorem 6.4.1(p. 165)として述べて証明し、層の言葉による言い換え(cor-oka-coherent の 1)を Theorem 7.1.5(p. 183)としている。主定理は 1 点ごとの有限生成性(Noether 性)を近傍に広げた形で、証明でも Noether 性そのものは使わず、予備定理と割り算定理だけで帰納法が回る。$n=0$ の場合が線形代数に帰着するのもそのためである。
岡の連接定理から、連接な層を作る操作が次々に得られる。複素解析空間の局所模型 $\mathcal{O}_D/\mathcal{J}$ は連接層の連接な部分層による商なので、複素解析空間の構造層も連接である(複素解析空間 の注意「出典と帰結」)。さらに、$\mathbb{C}^n$ の開集合の解析的部分集合 $V$ の上で消える芽のなすイデアル層は、各点の近くで有限個の正則関数で生成され、連接である(Hor90 Theorem 6.5.2、p. 168。証明は pp. 174–176)。こちらは H. Cartan と岡潔による(同 p. 176)。証明は Cartanの連接定理 にあり、そこでは主定理を、素イデアルの零点集合の上で消える多項式の係数が満たす連立 1 次方程式の解を近くの点で同時に生成することと、イデアル層の共通部分を生成することに使う。
大域理論では、岡の連接定理は Cartanの定理A・B の証明の土台になる。Hor90 第 VII 章は、連接解析層を「局所的に有限個の切断で生成され、任意の有限個の切断の関係式の層も局所的に有限個の切断で生成される層」と定義し(Definition 7.1.4、p. 183)、構造層がこの意味で連接であることを出発点にして、Stein 多様体の上の定理 A(Theorem 7.2.8、p. 190)と定理 B(Theorem 7.4.3、pp. 199–200)を証明している。

関連項目

参考文献

[1]
Lars Hörmander, An Introduction to Complex Analysis in Several Variables, North-Holland, 1990, §6.4 Theorem 6.4.1(pp. 165–167);Theorem 6.5.2(p. 168、証明 pp. 174–176);第 VI 章 Notes(p. 176);§7.1 Definition 7.1.4・Theorem 7.1.5・Example(p. 183);Theorem 7.2.8(p. 190)、Theorem 7.4.3(pp. 199–200)

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