三角形除去補題

同義語:三角形の除去補題triangle removal lemma

概要

三角形除去補題(triangle removal lemma)とは、任意の $\varepsilon>0$ に対しある $\delta>0$ があって、三角形が $\delta n^3$ 個未満の $n$ 頂点のグラフは $\varepsilon n^2$ 本未満の辺を除いて三角形を含まないようにできる、という定理である。三角形が $o(n^3)$ 個なら $o(n^2)$ 本の辺の除去で足りるという意味で、Ruzsa と Szemerédi が正則性補題と数え上げ補題から示した。系として (6,3) 定理と、3 項の等差数列を含まない $\{1,\dots,N\}$ の部分集合の要素数が $o(N)$ であるという Roth の定理が従う。Behrend の構成から $\delta$ は $\varepsilon$ の多項式にとれない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Szemerédiの正則性補題, ハイパーグラフ, Szemerédiの定理

三角形除去補題(triangle removal lemma)は、三角形が少ないグラフは、少ない本数の辺を取り除くだけで三角形をまったく含まないグラフにできる、という定理である。ここで「三角形が少ない」とは $n$ 頂点のグラフで三角形が $o(n^3)$ 個($n^3$ に比べて無視できる個数)であること、「辺が少ない」とは $o(n^2)$ 本であることを指す。I. Z. Ruzsa と E. Szemerédi が 1978 年に示し、Szemerédiの正則性補題 の最初の大きな応用の一つになった。
主張は純粋にグラフについてのものだが、整数の加法の問題に応用がある。この記事では、正則性補題と三角形の数え上げ補題から三角形除去補題を証明し、系として次の 2 つを導く。

  1. (6,3) 定理:3 元集合を辺とするハイパーグラフで、どの 6 頂点も 3 本以上の辺を含まないものは $o(n^2)$ 本の辺しかもたない。
  2. 3 項等差数列についての Roth の定理:$\{1,\dots,N\}$ の部分集合で 3 項の等差数列を含まないものの要素数は $o(N)$ である。これは Szemerédiの定理 の $k=3$ の場合で、Diophantine 近似の Rothの定理 とは別の定理である。
    逆向きに、3 項の等差数列を含まない大きな集合を作る Behrend の構成からは、各辺がちょうど 1 つの三角形に含まれるグラフの辺の本数 $o(n^2)$ を $O(n^{2-c})$($c>0$ は定数)に改良できないこと、三角形除去補題の $\delta$ を $\varepsilon$ の多項式にとれないことが分かる。

主張

この記事では、グラフは頂点が $n\ge1$ 個の有限の単純グラフ $G=(V,E)$ とする。互いに隣接する 3 頂点の集合を 三角形 といい、$G$ の三角形の個数を $t(G)$ と書く。辺の集合 $F\subset E$ を取り除いたグラフを $G-F:=(V,E\setminus F)$ と書く。記号 $e(X,Y)$、$d(X,Y)$、ε-正則な対、ε-正則分割は Szemerédiの正則性補題 の定義「ε-正則な対」「ε-正則分割」と同じとする。

三角形除去補題

任意の $\varepsilon>0$ に対して、次を満たす $\delta>0$ がある:$n$ 頂点のグラフ $G$ が $t(G)<\delta n^3$ を満たすならば、$\lvert F\rvert<\varepsilon n^2$ で $G-F$ が三角形を含まないような $F\subset E$ がある。

$\delta$ は $\varepsilon$ だけで決まり、$n$ や $G$ によらない。この形から次の言い換えが従う:頂点の個数 $n_m$ のグラフの列 $G_m$ について $t(G_m)/n_m^3\to0$ ならば、$G_m$ の三角形をなくすのに取り除く辺の最小の本数 $\rho(G_m)$ は $\rho(G_m)/n_m^2\to0$ を満たす。実際、$\varepsilon>0$ に対する $\delta$ をとると、十分大きな $m$ で $t(G_m)<\delta n_m^3$ なので $\rho(G_m)<\varepsilon n_m^2$ である。
三角形の個数の最大値は $\binom n3$ で $n^3$ の程度、辺の本数の最大値は $\binom n2$ で $n^2$ の程度である。三角形を 1 つずつ壊すなら、各三角形から 1 本ずつ辺を除けば足りるので $t(G)$ 本で済むが、$t(G)$ が $n^2$ より大きいとこの評価は役に立たない。三角形除去補題は、三角形の個数が $n^3$ に比べて小さいだけで、除く辺が $n^2$ に比べて小さくて済むことを述べている。

証明

証明は Szemerédiの正則性補題 の節「正則性の方法と応用」の 3 段に従う。正則性補題の定理「Szemerédiの正則性補題」により、$\varepsilon'>0$ に対して $\varepsilon'$ だけで決まる $M(\varepsilon')$ があって、どのグラフも部分が $M(\varepsilon')$ 個以下の $\varepsilon'$-正則分割をもつ。同じ記事の定理「三角形の数え上げ補題」は、空でない $X,Y,Z\subset V$ について、3 つの対 $(X,Y)$、$(Y,Z)$、$(Z,X)$ が $\varepsilon'$-正則で辺の密度がどれも $2\varepsilon'$ 以上なら、3 辺がすべて $G$ の辺である $(x,y,z)\in X\times Y\times Z$ が $(1-2\varepsilon')\prod(d-\varepsilon')\cdot\lvert X\rvert\lvert Y\rvert\lvert Z\rvert$ 個以上あることを述べる($\prod$ は 3 つの密度 $d$ にわたる)。

正則でない対・疎な対・小さな部分の辺を除く

$\varepsilon>1$ なら、すべての辺を除けば $\lvert E\rvert\le n^2/2<\varepsilon n^2$ なので、どの $\delta$ でもよい。以下 $0<\varepsilon\le1$ とし、$M:=M(\varepsilon/4)$ として
$$ \delta:=\frac16\Bigl(1-\frac\varepsilon2\Bigr)\Bigl(\frac\varepsilon4\Bigr)^3\Bigl(\frac{\varepsilon}{4M}\Bigr)^3 $$
とおく。$G$ を $t(G)<\delta n^3$ を満たす $n$ 頂点のグラフとする。
段 1(分割)。 正則性補題により、$G$ の $\varepsilon/4$-正則分割 $\{V_1,\dots,V_m\}$($m\le M$)をとる。
段 2(辺を除く)。 $x\in V_i$、$y\in V_j$ を結ぶ辺 $xy$ のうち、次のどれかに当たるものの集合を $F$ とする。

  • (a) $(V_i,V_j)$ が $\varepsilon/4$-正則でない。
  • (b) $d(V_i,V_j)<\varepsilon/2$ である。
  • (c) $\lvert V_i\rvert<\varepsilon n/(4m)$ または $\lvert V_j\rvert<\varepsilon n/(4m)$ である。
    $x\in V_i$、$y\in V_j$ を結ぶ辺は $e(V_i,V_j)$ で少なくとも 1 回数えられる。(a) の辺は $\sum_{(i,j)\text{ が正則でない}}e(V_i,V_j)\le\sum_{(i,j)\text{ が正則でない}}\lvert V_i\rvert\lvert V_j\rvert\le\frac\varepsilon4n^2$ 本以下である。(b) の辺は $\sum_{d(V_i,V_j)<\varepsilon/2}d(V_i,V_j)\lvert V_i\rvert\lvert V_j\rvert\le\frac\varepsilon2\sum_{i,j}\lvert V_i\rvert\lvert V_j\rvert=\frac\varepsilon2n^2$ 本以下である。(c) の辺は大きさが $\varepsilon n/(4m)$ 未満の部分の頂点を端点にもち、そのような頂点は $m\cdot\varepsilon n/(4m)=\varepsilon n/4$ 個未満(そのような部分がなければ $0$ 個)で、各頂点の次数は $n-1$ 以下なので、(c) の辺は、そのような部分があれば $\varepsilon n^2/4$ 本未満、なければ $0$ 本である。合わせて $\lvert F\rvert<\varepsilon n^2$ である。

段 3(残ったグラフに三角形はない)。 $G-F$ に三角形 $\{x,y,z\}$ があり、$x\in V_i$、$y\in V_j$、$z\in V_k$($i,j,k$ は相異なるとは限らない)とする。辺 $xy,yz,zx$ は $F$ に入らないので、3 つの対 $(V_i,V_j)$、$(V_j,V_k)$、$(V_k,V_i)$ は $G$ で $\varepsilon/4$-正則で、$G$ での辺の密度はどれも $\varepsilon/2=2\cdot\frac\varepsilon4$ 以上であり、3 つの部分の大きさは $\varepsilon n/(4m)\ge\varepsilon n/(4M)$ 以上である。$G$ で数え上げ補題を $\varepsilon'=\varepsilon/4$ として当てると、各密度について $d-\varepsilon/4\ge\varepsilon/4$ なので、3 辺が $G$ の辺である $(x',y',z')\in V_i\times V_j\times V_k$ は
$$ \Bigl(1-\frac\varepsilon2\Bigr)\Bigl(\frac\varepsilon4\Bigr)^3\lvert V_i\rvert\lvert V_j\rvert\lvert V_k\rvert\ge\Bigl(1-\frac\varepsilon2\Bigr)\Bigl(\frac\varepsilon4\Bigr)^3\Bigl(\frac{\varepsilon n}{4M}\Bigr)^3=6\delta n^3 $$
個以上ある。このような組の 3 点は $G$ の三角形をなし、1 つの三角形は組として高々 $3!=6$ 回現れるので、$t(G)\ge\delta n^3$ となって仮定に反する。よって $G-F$ は三角形を含まない。$\square$

δ の大きさ

証明で得た $\delta$ は $M(\varepsilon/4)^{-3}$ の程度で、$M$ は $2$ の冪を高さ $2\lceil(4/\varepsilon)^5\rceil$ まで重ねた塔なので、$\delta$ は極めて小さい。J. Fox(2011 年)は別の方法で、$\delta$ を、高さが $\log(1/\varepsilon)$ の定数倍の塔の逆数にとれることを示した(Zha23 Remark 2.3.4、p. 67。この記事では証明しない)。一方、cor-trr-not-polynomial で見るように、$\delta$ を $\varepsilon$ の多項式にとることはできない。

系 1:各辺がちょうど 1 つの三角形に含まれるグラフ

各辺がちょうど1つの三角形に含まれるグラフ

任意の $\varepsilon>0$ に対してある $n_0$ があって、$n\ge n_0$ のとき、どの辺もちょうど 1 つの三角形に含まれる $n$ 頂点のグラフ $G$ は $\lvert E\rvert<3\varepsilon n^2$ を満たす。とくに、そのようなグラフの辺の本数は $o(n^2)$ である。

辺を 1 本除くと三角形は高々 1 つ壊れる

thm-trr-main の $\delta$ をとり、$n_0>1/(6\delta)$ とする。各三角形は 3 本の辺をもち、各辺はちょうど 1 つの三角形に含まれるので、$t(G)=\lvert E\rvert/3\le n^2/6<\delta n^3$ である($n\ge n_0$)。よって $\lvert F\rvert<\varepsilon n^2$ で $G-F$ が三角形を含まない $F$ がある。$F$ の辺はそれぞれ 1 つの三角形にしか含まれないので、$F$ の辺を含む三角形は $\lvert F\rvert$ 個以下である。すべての三角形が $F$ の辺を含むので $t(G)\le\lvert F\rvert$、すなわち $\lvert E\rvert/3<\varepsilon n^2$ である。$\square$

系 2:(6,3) 定理

ハイパーグラフ の記事の定義のとおり、すべての辺が 3 元集合であるハイパーグラフ $\mathcal H=(V,\mathcal E)$ を 3-一様 という。相異なる 3 本の辺で、和集合の元が $6$ 個以下であるものがないとき、$\mathcal H$ は (6,3) の配置をもたない ということにする。頂点が 6 個以上なら、これは「どの 6 頂点も、それに含まれる辺を 3 本以上もたない」ことと同じである。

(6,3)定理

任意の $\varepsilon>0$ に対してある $n_1$ があって、$n\ge n_1$ のとき、(6,3) の配置をもたない $n$ 頂点の 3-一様ハイパーグラフの辺は $\varepsilon n^2$ 本未満である。すなわち辺の本数は $o(n^2)$ である。

これは Ruzsa と Szemerédi が 1978 年に示した形で、三角形除去補題はもともとこの問題のために考えられた(Zha23 Theorem 2.3.5、p. 67)。

2 点を共有する辺を除き、三角形のグラフに直す

$\mathcal H$ を (6,3) の配置をもたない $n$ 頂点の 3-一様ハイパーグラフとする。
段 1(2 点を共有する辺は孤立した組をなす)。 相異なる辺 $e,f$ が 2 点を共有するとし、$U:=e\cup f$(4 点)とおく。ほかの辺 $g$ が $U$ と交われば $\lvert e\cup f\cup g\rvert\le4+2=6$ となるので、$e,f$ 以外の辺は $U$ と交わらない。とくに $e$ と 2 点を共有する辺は $f$ だけである。よって、ほかの辺と 2 点を共有する辺の集合 $\mathcal E_2$ は、互いに交わらない 4 点集合をもつ組に分かれ、$\lvert\mathcal E_2\rvert\le2\cdot\frac n4=\frac n2$ である。$\mathcal E':=\mathcal E\setminus\mathcal E_2$ とおくと、$\mathcal E'$ の相異なる 2 辺は高々 1 点しか共有せず、$(V,\mathcal E')$ も (6,3) の配置をもたない。
段 2(グラフを作る)。 $V$ を頂点とし、$\mathcal E'$ のある辺に含まれる 2 点を結んだグラフを $G$ とする。2 点を含む $\mathcal E'$ の辺は高々 1 本なので、$\mathcal E'$ の各辺 $\{a,b,c\}$ は $G$ の 3 本の辺 $ab,bc,ca$ を与え、これらは辺ごとに異なり、$\lvert E(G)\rvert=3\lvert\mathcal E'\rvert$ である。
段 3($G$ の三角形は $\mathcal E'$ の辺だけ)。 $\{x,y,z\}$ を $G$ の三角形とし、$xy,yz,zx$ を含む $\mathcal E'$ の辺を $e_1,e_2,e_3$ とする。2 つが等しければ、たとえば $e_1=e_2$ なら $e_1\supset\{x,y,z\}$ で $e_1=\{x,y,z\}$ である。3 つが相異なれば、$e_1\cup e_2\cup e_3$ は $\{x,y,z\}$ と各 $e_i$ の残りの 1 点からなり、元は $6$ 個以下なので、(6,3) の配置をもたないことに反する。よって $G$ の三角形はちょうど $\mathcal E'$ の辺であり、$G$ の各辺は、それを含む $\mathcal E'$ のただ 1 つの辺がなす三角形にだけ含まれる。
段 4(合わせる)。 cor-trr-unique を $\varepsilon/6$ で使い、$n_1\ge\max\{n_0(\varepsilon/6),\,1/\varepsilon\}$ とすると、$n\ge n_1$ で $3\lvert\mathcal E'\rvert=\lvert E(G)\rvert<\frac\varepsilon2n^2$ である。よって $\lvert\mathcal E\rvert\le\lvert\mathcal E'\rvert+\frac n2<\frac\varepsilon6n^2+\frac\varepsilon2n^2<\varepsilon n^2$ である($n\ge1/\varepsilon$ から $\frac n2\le\frac\varepsilon2n^2$)。$\square$

逆向きの導出

逆に thm-trr-63 から cor-trr-unique の「辺が $o(n^2)$ 本」も導ける。要点:各辺がちょうど 1 つの三角形に含まれるグラフの三角形を辺とする 3-一様ハイパーグラフは (6,3) の配置をもたない。

詳細

三角形どうしは辺を共有しないので、相異なる 2 つの三角形は高々 1 点しか共有しない。相異なる 3 つの三角形 $\tau_1,\tau_2,\tau_3$ の和集合の元の個数は、包除原理により $9-\sum_{i< j}\lvert\tau_i\cap\tau_j\rvert+\lvert\tau_1\cap\tau_2\cap\tau_3\rvert\ge9-3=6$ で、$6$ になるのは 2 つずつがちょうど 1 点を共有し、3 つに共通の点がないときに限る(3 つに共通の点があれば $9-3+1=7$)。このとき $\tau_1\cap\tau_2=\{c\}$、$\tau_2\cap\tau_3=\{a\}$、$\tau_3\cap\tau_1=\{b\}$ とおくと $a,b,c$ は相異なり、$ab\subset\tau_3$、$bc\subset\tau_1$、$ca\subset\tau_2$ はどれもグラフの辺である。すると $\{a,b,c\}$ も三角形で、$\tau_1,\tau_2,\tau_3$ のどれとも異なる(たとえば $\tau_1$ は $a$ を含まない)ので、辺 $ab$ は $\tau_3$ と $\{a,b,c\}$ の 2 つの三角形に含まれ、仮定に反する。三角形の個数は辺の本数の $1/3$ なので、thm-trr-63 から辺は $o(n^2)$ 本である。$\square$

系 3:3 項等差数列についての Roth の定理

Szemerédiの定理 の定義「等差数列を含まない集合と上密度」と同じく、$[N]:=\{1,\dots,N\}$ の部分集合で 3 項の等差数列 $a,a+d,a+2d$($d\ge1$)を含まないものの要素数の最大値を $r_3(N)$ と書く。$A$ が 3 項の等差数列を含まないことは、「$a,b,c\in A$、$a+c=2b$ ならば $a=b=c$」と同値である。

3項等差数列についてのRothの定理

$r_3(N)/N\to0$($N\to\infty$)である。すなわち、任意の $\varepsilon>0$ に対してある $N_0$ があって、$N\ge N_0$ なら 3 項の等差数列を含まないどの $A\subset[N]$ も $\lvert A\rvert<\varepsilon N$ を満たす。

等差数列を三角形に写す

$A\subset[N]$ が 3 項の等差数列を含まないとする。$M:=2N+1$ とし、$A$ を $\mathbb Z/M\mathbb Z$ の部分集合とみる($N< M$ なので $[N]\to\mathbb Z/M\mathbb Z$ は単射)。$M$ は奇数なので $2$ は $\mathbb Z/M\mathbb Z$ で可逆である。
段 1($\mathbb Z/M\mathbb Z$ でも等差数列はない)。 $a,b,c\in A$ が $a+c\equiv2b\pmod M$ を満たすとする。$a,b,c\in[N]$ から $\lvert a+c-2b\rvert\le2N-2< M$ なので $a+c=2b$ であり、仮定から $a=b=c$ である。
段 2(グラフ)。 頂点を $(\mathbb Z/M\mathbb Z)\times\{1,2,3\}$ の $3M$ 個とし、$(x,1)$ と $(y,2)$ を $y-x\in A$ のとき、$(y,2)$ と $(z,3)$ を $z-y\in A$ のとき、$(x,1)$ と $(z,3)$ を $(z-x)/2\in A$ のとき結んだグラフを $G$ とする。同じ番号の頂点どうしは結ばない。各 $x$ と $a\in A$ について $(x,1)$ と $(x+a,2)$ が結ばれ、ほかの 2 種類も同じなので、$\lvert E(G)\rvert=3M\lvert A\rvert$ である。
段 3(各辺はちょうど 1 つの三角形に含まれる)。 三角形は番号 $1,2,3$ の頂点を 1 つずつもつ。$(x,1),(y,2),(z,3)$ が三角形をなすことは、$a:=y-x$、$c:=z-y$、$b:=(z-x)/2$ がどれも $A$ に属することと同じで、このとき $a+c=z-x=2b$ である。段 1 から $a=b=c$ となる。よって辺 $(x,1)(y,2)$($y-x=a$)を含む三角形は $(z,3)=(y+a,3)$ のものだけで、実際 $(z-x)/2=a\in A$ なのでこれは三角形である。同じく、辺 $(y,2)(z,3)$ は $(2y-z,1)$ を加えた三角形に、辺 $(x,1)(z,3)$ は $(x+(z-x)/2,2)$ を加えた三角形にだけ含まれる。
段 4(合わせる)。 $\varepsilon>0$ に対し、cor-trr-unique を $\varepsilon/81$ で使う。$3M\ge n_0(\varepsilon/81)$ となる $N$ について、$3M\lvert A\rvert<3\cdot\frac\varepsilon{81}(3M)^2$、すなわち $\lvert A\rvert<\frac\varepsilon9M=\frac\varepsilon9(2N+1)\le\frac\varepsilon3N$ である。$\square$

この証明は Ruzsa と Szemerédi による(Zha23 Theorem 2.4.1、p. 67)。正則性補題を経るため定量的な評価は弱く、Szemerédiの定理 の定理「3項の等差数列についてのRothの定理」が Fourier 解析で示す $\lvert A\rvert<361N/\log\log N$ には及ばない。同じ考え方で、$[N]^2$ の部分集合で「角」$\{(x,y),(x+d,y),(x,y+d)\}$($d>0$)を含まないものの要素数が $o(N^2)$ であること(Ajtai–Szemerédi の定理)も三角形除去補題から導かれる(Zha23 Theorem 2.4.2、p. 68。この記事では証明しない)。

下からの評価:Behrend の構成

prf-trr-roth の構成を逆に使うと、3 項の等差数列を含まない大きな集合から、辺の多い「各辺がちょうど 1 つの三角形に含まれるグラフ」が得られる。Szemerédiの定理 の定理「Behrendの構成」は、$N\ge e^9$ のとき、3 項の等差数列を含まない $A\subset[N]$ で $\lvert A\rvert\ge N\exp(-5\sqrt{\log N})$ を満たすものがあることを証明している($\log$ は自然対数)。

Ruzsa–Szemerédiのグラフ

$N\ge e^9$ とし、$n:=6N+3$ とおく。どの辺もちょうど 1 つの三角形に含まれる $n$ 頂点のグラフで、辺が
$$ \frac{n^2}7\exp\bigl(-5\sqrt{\log n}\bigr) $$
本以上あるものがある。

Behrend の構成の集合 $A\subset[N]$ に prf-trr-roth の段 2 のグラフ $G$ を作る。段 1・段 3 は $A$ が 3 項の等差数列を含まないことだけを使っているので、$G$ の各辺はちょうど 1 つの三角形に含まれる。頂点は $3M=n$ 個、辺は $3M\lvert A\rvert=n\lvert A\rvert\ge nN\exp(-5\sqrt{\log N})$ 本である。$N\ge3$ から $n\le7N$ なので $N\ge n/7$ であり、$N< n$ から $\exp(-5\sqrt{\log N})\ge\exp(-5\sqrt{\log n})$ である。$\square$

どの定数 $c>0$ についても、$n\to\infty$ で $\exp(-5\sqrt{\log n})$ は $n^{-c}$ より大きい。したがって cor-trr-unique の $o(n^2)$ を $O(n^{2-c})$ に強めることはできない。三角形除去補題についても、同じグラフから次が分かる。

δはεの多項式にとれない

定数 $C>0$、$k>0$ をどうとっても、「$0<\varepsilon<1$ に対して $\delta:=\varepsilon^k/C$」は thm-trr-main の $\delta$ にならない。より詳しく、Behrend の構成の集合 $A\subset[N]$($N\ge e^9$)について $\varepsilon_N:=\lvert A\rvert/(18N+9)$ とおくと、$\varepsilon=\varepsilon_N$ に対する thm-trr-main の $\delta$ は
$$ \delta\le\varepsilon_N\exp\Bigl(-\frac1{25}\Bigl(\log\frac1{27\varepsilon_N}\Bigr)^2\Bigr) $$
を満たさなければならない。

三角形が少ないのに多くの辺を除く必要がある

要点:prop-trr-rs-graph のグラフは三角形が $M\lvert A\rvert$ 個しかないが、三角形をなくすには $M\lvert A\rvert$ 本の辺を除く必要がある。

詳しい証明を開く

$M=2N+1$、$n=3M$ とし、prf-trr-rs-graph のグラフ $G$ を考える。三角形は互いに辺を共有せず、$t(G)=\lvert E(G)\rvert/3=M\lvert A\rvert$ である。辺を 1 本除くと壊れる三角形は高々 1 つなので、三角形をなくすには $M\lvert A\rvert=\varepsilon_Nn^2$ 本以上の辺を除く必要がある($n^2=9M^2$、$\varepsilon_N=\lvert A\rvert/(9M)$)。よって $\varepsilon_Nn^2$ 本未満の辺の除去では足りず、$\delta$ が $\varepsilon_N$ に対して thm-trr-main を満たすなら $t(G)\ge\delta n^3$、すなわち $\delta\le M\lvert A\rvert/n^3=\varepsilon_N/n$ である。

$\lvert A\rvert\ge N\exp(-5\sqrt{\log N})$ と $9M\le27N$ から $\varepsilon_N\ge\frac1{27}\exp(-5\sqrt{\log N})$、すなわち $\sqrt{\log N}\ge\frac15\log\frac1{27\varepsilon_N}$ である。右辺が $0$ 以上なら 2 乗して $\log N\ge\frac1{25}(\log\frac1{27\varepsilon_N})^2$ を得る。右辺が負なら、$1<27\varepsilon_N<3/2$ から $(\log\frac1{27\varepsilon_N})^2<1<25\cdot9\le25\log N$ であり、同じ不等式が成り立つ。$\log n>\log N$ と $\delta\le\varepsilon_N/n$ から主張の評価を得る。

前半:$\lvert A\rvert\le N$ から $0<\varepsilon_N<1/18$ であり、thm-trr-roth から $\lvert A\rvert/N\to0$ なので $\varepsilon_N\to0$($N\to\infty$)である。$\delta=\varepsilon^k/C$ がつねに使えるなら、$\varepsilon=\varepsilon_N$ で $\varepsilon_N^{k-1}/C\le\exp(-\frac1{25}(\log\frac1{\varepsilon_N}-\log27)^2)$ となる。対数をとると、左辺は $-(k-1)\log\frac1{\varepsilon_N}-\log C$、右辺は $-\frac1{25}(\log\frac1{\varepsilon_N}-\log27)^2$ で、$\log\frac1{\varepsilon_N}\to\infty$ のとき右辺のほうが速く $-\infty$ に向かうので、$N$ が大きいと不等式が成り立たない。$\square$

評価の形 $\varepsilon\exp(-c(\log\frac1\varepsilon)^2)$ は $\varepsilon^{1+c\log(1/\varepsilon)}$ と書ける。Zha23 Remark 2.5.3(p. 71)も、同じ構成から、十分小さい定数 $c>0$ について $\delta=e^{-c(\log(1/\varepsilon))^2}$ ととれないことを述べている。$\delta$ としてとれることが分かっている値(塔の逆数)と、とれないことが分かっている値のあいだには大きな隔たりがあり、それを埋めることは未解決である(Zha23 Remark 2.3.4、p. 67)。

例と反例

次の表の各行は、この記事の定理の仮定を 1 つだけ外した例である。

外す条件反例成り立たなくなること
thm-trr-main の「三角形が $\delta n^3$ 個未満」完全グラフ $K_n$三角形をなくすには $\frac{n^2}4-\frac n2$ 本以上の辺を除く必要があり、$\varepsilon<1/4$、$n\ge2/(1-4\varepsilon)$ なら $\varepsilon n^2$ 本未満では足りない
cor-trr-unique の「どの辺も三角形に含まれる」(「高々 1 つの三角形に含まれる」に弱める)完全二部グラフ $K_{m,m}$($n=2m$)三角形はないので条件は満たすが、辺は $n^2/4$ 本で $o(n^2)$ でない
thm-trr-63 の「(6,3) の配置をもたない」(「相異なる 2 辺は高々 1 点を共有する」に替える)$\mathbb F_3^k$ の点を頂点とし、直線 $\{p,\,p+v,\,p+2v\}$($v\ne0$)を辺とする 3-一様ハイパーグラフ($n=3^k$)辺は $n(n-1)/6$ 本で $o(n^2)$ でない
反例の確かめ

1 行目:$K_n$ から辺を除いて三角形をなくしたグラフは三角形を含まないので、Mantelの定理 により辺は $\lfloor n^2/4\rfloor$ 本以下である。よって除く辺は $\binom n2-\lfloor n^2/4\rfloor\ge\frac{n(n-1)}2-\frac{n^2}4=\frac{n^2}4-\frac n2$ 本以上である。$\frac{n^2}4-\frac n2\ge\varepsilon n^2$ は $n(1-4\varepsilon)\ge2$ と同値なので、$\varepsilon<1/4$、$n\ge2/(1-4\varepsilon)$ なら $\varepsilon n^2$ 本未満の除去では足りない。
2 行目:$K_{m,m}$ は二部グラフなので奇数の長さの閉路をもたず、三角形を含まない。
3 行目:相異なる 2 点 $p,q\in\mathbb F_3^k$ を通る直線は $\{p,\,q,\,2p+2q\}$ の 1 本だけである($v=q-p$ とすると $p+2v=2q-p=2q+2p$)。よって直線どうしは高々 1 点を共有し、直線の本数は $\binom n2/\binom32=n(n-1)/6$ である。一方、同一直線上にない 3 点 $p,q,s$ について、$p,q$ を通る直線、$q,s$ を通る直線、$s,p$ を通る直線は相異なり、和集合は $3+3=6$ 点なので、(6,3) の配置がある($k\ge2$)。

関連する結果

一般のグラフとハイパーグラフへの拡張
  • グラフ除去補題:三角形を任意のグラフ $H$ に替えても、$H$ の部分グラフとしての個数が $\delta n^{v(H)}$ 未満のグラフは $\varepsilon n^2$ 本未満の辺を除いて $H$ を含まないようにできる(Zha23 Theorem 2.6.5、p. 75。この記事では証明しない)。証明は Szemerédiの正則性補題 と、三角形の数え上げ補題を一般の $H$ に広げた数え上げ補題による。
  • ハイパーグラフ除去補題:$r$ 元集合を辺とするハイパーグラフについても同じ形の除去補題が成り立つ(Rödl らと Gowers による。Zha23 Theorem 2.10.1、p. 86。この記事では証明しない)。prf-trr-roth と同じように等差数列を単体の形の配置に写すと、一般の $k$ についての Szemerédiの定理 が導かれる。
  • (7,4) 予想:(6,3) 定理の次の場合である「どの 7 頂点も 4 本以上の辺を含まない 3-一様ハイパーグラフの辺は $o(n^2)$ 本」は、Brown・Erdős・Sós に帰される未解決の予想である(Zha23 Conjecture 2.3.7、p. 67)。

関連項目

参考文献

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