Whitneyのはめ込み定理(Whitney immersion theorem)とは、$n\ge1$ のとき Hausdorff かつ第 2 可算な $n$ 次元の滑らかな多様体に、各点で微分が単射な滑らかな写像(はめ込み)$M\to\mathbb{R}^{2n}$ が存在するという定理である。はめ込みは自己交差を許すので、埋め込みの次元 $2n+1$ より 1 つ低い次元に入る。証明では、長さ $1$ の接ベクトルの集合が接束の $2n-1$ 次元の部分多様体であることを正則値定理で示し、Sard の定理で接線の向きを避ける方向に射影する。コンパクトな多様体は $\mathbb{R}^n$ にはめ込めないので、$n=1$ では $2n$ が最良である。
前提知識: Whitneyの埋め込み定理, 接束, Sardの定理, 正則値定理, はめ込みと埋め込み(可微分多様体)
Whitney のはめ込み定理(Whitney immersion theorem)は、$n$ 次元($n\ge1$)の滑らかな多様体が $\mathbb{R}^{2n}$ にはめ込めること、すなわち各点で微分が単射な滑らかな写像 $M\to\mathbb{R}^{2n}$ が存在することを主張する。埋め込み(Whitneyの埋め込み定理)では像が自分自身と交わってはいけないが、はめ込みでは交わってよい。そのぶん条件がゆるく、周りの空間の次元を 1 つ下げられる。
証明は埋め込み定理と同じく「一般の方向への射影」による。射影ではめ込みが壊れるのは、射影の方向がどこかの接線の向きに一致するときだけである。接線の向きは、多様体の点($n$ 次元)と、その点での接ベクトルの向き($n-1$ 次元)で決まるので、全体で $2n-1$ 次元分しかない。これを $2n$ 次元の球面の中で避けるのに Sard の定理を使う。そのために、接束の中の「長さ $1$ の接ベクトルの集合」が $2n-1$ 次元の多様体であることを、正則値定理で確かめる。
以下、多様体は Hausdorff かつ第 2 可算な $C^\infty$ 級多様体(可微分多様体)とし、写像は $C^\infty$ 級とする。$M$ は $n$ 次元とする。$C^\infty$ 級写像 $F\colon M\to N$ がはめ込みであるとは、すべての点 $p$ で微分 $dF_p\colon T_pM\to T_{F(p)}N$ が単射であることをいう(はめ込みと埋め込み(可微分多様体)の記事の定義「はめ込みと埋め込み」)。はめ込みは単射である必要はない。
$n\ge1$ とする。$n$ 次元の多様体 $M$ に対し、はめ込み $M\to\mathbb{R}^{2n}$ が存在する。
はめ込みは単射とは限らないので、自己交叉があってよい。たとえば $S^1$ から $\mathbb{R}^2$ への 8 の字のような曲線はめ込みがある。ここで示すのは次元 $2n$ の弱い形であり、Whitney は $n\ge2$ なら $\mathbb{R}^{2n-1}$ へのはめ込みも存在することを示した(この記事では扱わない)。$n=1$ では $\mathbb{R}^{1}$ への $S^1$ のはめ込みは存在しない(コンパクトなので、$S^1$ 上の関数は最大点で微分が $0$ になる)ので、$2n$ がそのまま最良になる。
$n=0$ のときは、$M$ は可算個の点からなる離散空間であり、どの写像 $M\to\mathbb{R}^0$ も(接空間が $0$ なので)はめ込みである。以下 $n\ge1$ とする。
証明では、埋め込み定理の記事と同じく、単位ベクトル $v\in S^{N-1}$ に沿った直交射影 $P_v(y):=y-\langle y,v\rangle v$ と、$v^\perp$ から $\mathbb{R}^{N-1}$ への線形な等長同型 $Q_v$ を合成した線形写像 $\pi_v:=Q_v\circ P_v\colon\mathbb{R}^N\to\mathbb{R}^{N-1}$ を使う。$\pi_v$ の核は直線 $\mathbb{R}v$ である。
はめ込み $G\colon M\to\mathbb{R}^N$ があれば、$\lvert dG_p(X)\rvert$ で接ベクトル $X\in T_pM$ の長さを測れる。
$G\colon M\to\mathbb{R}^N$ をはめ込みとし、
$$
S_G:=\{(p,X)\in TM\mid\lvert dG_p(X)\rvert=1\}
$$
とおく。$S_G$ は接束 $TM$ の $2n-1$ 次元の閉部分多様体であり、$M\ne\emptyset$ なら空でない。
$TM$ は $2n$ 次元の多様体である(接束の記事の定理「接束の滑らかな構造」)。
$$
h\colon TM\to\mathbb{R},\qquad h(p,X):=\lvert dG_p(X)\rvert^2
$$
とおく。接束の記事の命題「写像の微分は滑らかな束写像」により $dG\colon TM\to T\mathbb{R}^N$ は $C^\infty$ 級であり、$T\mathbb{R}^N$ の自然な座標 $\mathbb{R}^N\times\mathbb{R}^N$ で $dG(p,X)=(G(p),dG_p(X))$ の第 2 成分は $C^\infty$ 級なので、その長さの 2 乗 $h$ も $C^\infty$ 級である。$S_G=h^{-1}(1)$ である。
$1$ は $h$ の正則値である. $(p,X)\in S_G$ をとり、$TM$ の中の曲線 $c(t):=(p,tX)$($t\in\mathbb{R}$)を考える。$p$ のまわりの座標近傍 $(U,\varphi)$ が定める $TM$ の自然な座標では、$X$ の成分を $\xi$ とすると $c(t)$ は $(\varphi(p),t\xi)$ と表されるので、$c$ は $C^\infty$ 級の曲線である。$dG_p$ は線形なので
$$
h(c(t))=\lvert t\,dG_p(X)\rvert^2=t^2
$$
であり、$t=1$ で微分すると $dh_{(p,X)}(c'(1))=2\ne0$ である。よって $dh_{(p,X)}\colon T_{(p,X)}TM\to\mathbb{R}$ は全射であり、$S_G$ のすべての点は $h$ の正則点である。
結論. 正則値定理の記事の定理「正則値定理」により、$S_G=h^{-1}(1)$ は $TM$ の閉集合で、空でなければ $2n-1$ 次元の部分多様体である。$M\ne\emptyset$ なら、$n\ge1$ なので $p\in M$ と $0$ でない $X\in T_pM$ がとれ、$G$ ははめ込みなので $dG_p(X)\ne0$ であり、$X/\lvert dG_p(X)\rvert$ が $S_G$ に属する。$\square$
$G$ が $\mathbb{R}^N$ の部分多様体の包含写像なら、$S_G$ は $\mathbb{R}^N$ の内積で測った長さ $1$ の接ベクトルの集合(単位接束)である。たとえば $M=S^1\subset\mathbb{R}^2$ なら、$S_G$ は各点の 2 本の単位接ベクトルからなり、2 つの円周の非交和と微分同相である($2n-1=1$)。
$G\colon M\to\mathbb{R}^N$ をはめ込みとし、$N\ge2n+1$ とする。$\pi_v\circ G\colon M\to\mathbb{R}^{N-1}$ がはめ込みでないような $v\in S^{N-1}$ の全体は、$S^{N-1}$ の測度零集合に含まれる。とくに、$\pi_v\circ G$ がはめ込みとなる $v$ は $S^{N-1}$ で稠密に存在する。
接線の向きの写像. lem-wimm-unit-bundle の $S_G$ の上で
$$
\tau\colon S_G\to S^{N-1},\qquad\tau(p,X):=dG_p(X)
$$
と定める。値は長さ $1$ なので $S^{N-1}$ に入る。$\tau$ は $C^\infty$ 級写像 $(p,X)\mapsto dG_p(X)$($TM\to\mathbb{R}^N$)を部分多様体 $S_G$ に制限したもの(包含写像との合成)なので $C^\infty$ 級であり、値が部分多様体 $S^{N-1}$ に入るので $S^{N-1}$ への写像としても $C^\infty$ 級である(はめ込みと埋め込み(可微分多様体)の記事の命題「終域を部分多様体に制限する」)。
Sard の定理. $\dim S_G=2n-1$、$\dim S^{N-1}=N-1\ge2n$ であり、定義域の次元が終域の次元より小さい。したがって $\tau$ のすべての点は臨界点で、像全体が臨界値の集合であり、Sardの定理の記事の系「多様体の間の写像に対するSardの定理」により $\tau(S_G)$ は $S^{N-1}$ の測度零集合である。その補集合は稠密である(同じ記事の命題「局所座標による判定」)。
像を避ければよい. $v\notin\tau(S_G)$ とする。$d(\pi_v\circ G)_p=\pi_v\circ dG_p$ である($\pi_v$ は線形)。$X\in T_pM$、$X\ne0$ で $\pi_v(dG_p(X))=0$ とすると、$dG_p(X)=tv$ となる $t\ne0$ がある($\pi_v$ の核は $\mathbb{R}v$、$G$ ははめ込みなので $dG_p(X)\ne0$)。$X':=X/t$ とおくと $dG_p(X')=v$ で、$\lvert v\rvert=1$ なので $(p,X')\in S_G$ かつ $\tau(p,X')=v$ となり、仮定に反する。よって $d(\pi_v\circ G)_p$ は単射であり、$\pi_v\circ G$ ははめ込みである。$\square$
埋め込みの場合(Whitneyの埋め込み定理の記事の補題「射影で単射はめ込みを保つ」)は、単射性を保つために弦の向きの写像(定義域が $2n$ 次元)も避ける必要があり、$N\ge2n+2$ が要った。はめ込みでは接線の向きだけを避ければよく、しかも接ベクトルを長さ $1$ に正規化して次元を $2n$ から $2n-1$ に減らしたので、$N=2n+1$ でも射影できる。
Whitneyの埋め込み定理の記事の定理「Whitneyの埋め込み定理」により、閉埋め込み $F\colon M\to\mathbb{R}^{2n+1}$ がある。$F$ はとくにはめ込みである。lem-wimm-projection を $G=F$、$N=2n+1$($N\ge2n+1$ を満たす)に当てると、$\pi_v\circ F\colon M\to\mathbb{R}^{2n}$ がはめ込みとなる $v\in S^{2n}$ がとれる。$\square$
証明で使ったのは、$M$ から $\mathbb{R}^{2n+1}$ へのはめ込みが 1 つあることだけである。埋め込み定理の全体を使わなくても、Whitneyの埋め込み定理の記事の補題「単射なはめ込みの存在」で足りる。一方、射影して得たはめ込みは一般に単射でなく、固有とも限らない。Whitney の原論文は近似の定理と組み合わせて、$\mathbb{R}^{2n}$ への固有なはめ込みを与えている(Whi36 Theorem 3、p. 655)。この記事では証明しない。
$n\ge1$ とし、$M$ を空でないコンパクトな $n$ 次元の多様体とする。はめ込み $M\to\mathbb{R}^n$ は存在しない。また、$m< n$ ならはめ込み $M\to\mathbb{R}^m$ は存在しない($M$ がコンパクトでなくても)。
後半:はめ込みなら $dF_p\colon T_pM\to\mathbb{R}^m$ は単射なので、次元定理により $n\le m$ である。
前半:はめ込み $F\colon M\to\mathbb{R}^n$ があったとする。各点で $dF_p$ は $n$ 次元の空間の間の単射な線形写像なので同型であり、逆関数定理の記事の定理「可微分多様体の間の写像の局所可逆性」により、各点 $p$ は $F(U)$ が開集合となる開近傍 $U$ をもつ。よって $F(M)$ は $\mathbb{R}^n$ の開集合である。一方 $M$ はコンパクトなので $F(M)$ はコンパクトであり、$\mathbb{R}^n$ の閉集合である。$\mathbb{R}^n$ は連結で $F(M)$ は空でないので $F(M)=\mathbb{R}^n$ となるが、$\mathbb{R}^n$($n\ge1$)はコンパクトでないので矛盾する。$\square$
したがって $n=1$ のとき、コンパクトな $1$ 次元の多様体(円周)については $2n=2$ が最良である。$n\ge2$ のコンパクトな多様体では、次元 $2n$ はさらに $2n-1$ まで下げられる(下の「補足」)。
円周 $S^1=\mathbb{R}/2\pi\mathbb{Z}$ から平面への写像 $\gamma([t]):=(\sin2t,\ \sin t)$ は、速度 $(2\cos2t,\cos t)$ が $0$ にならないのではめ込みであるが、$\gamma([0])=\gamma([\pi])=(0,0)$ なので単射でない(固有写像の記事の例「表の反例の確認」)。$n=1$、$2n=2$ のはめ込みの例である。円周は単射な写像 $[t]\mapsto(\cos t,\sin t)$ でも平面に埋め込めるので、この 8 の字は、はめ込みが単射でなくてよいことを示す例である。
単位円 $C=\{(\cos t,\sin t,0)\}\subset\mathbb{R}^3$ の包含写像を $G$ とする。$S_G$ は $(p,\pm T_p)$($T_p=(-\sin t,\cos t,0)$ は単位接ベクトル)の全体で、$\tau$ の像は赤道 $\{v\in S^2\mid v_3=0\}$ である。lem-wimm-projection のとおり、赤道に入らない $v$ に沿った射影ははめ込みである。たとえば $v=(0,0,1)$ なら射影は円をそのまま平面に写す。一方、赤道の点 $v=(1,0,0)$ に沿った射影 $(x_1,x_2,0)\mapsto(x_2,0)$ は、$v$ が接線の向きになる点 $(0,\pm1,0)$ で接ベクトルを $0$ に写し、はめ込みでない。赤道は $S^2$ の測度零集合であり、Sardの定理の記事の系が保証する「悪い方向は少ない」ことの具体例になっている。
実射影平面 $\mathbb{R}P^2$ は $\mathbb{R}^4$ に埋め込める(Whitneyの埋め込み定理の記事の例「球面と実射影平面」)ので、とくに $\mathbb{R}^4$($=\mathbb{R}^{2n}$)にはめ込める。さらに $\mathbb{R}P^2$ は $\mathbb{R}^3$ にはめ込める(Boy の曲面。Ben19 Remarks 19.51 と Figure 3、p. 347)が、$\mathbb{R}^3$ には埋め込めない(Sko06 p. 7。$\mathbb{R}P^{2^k}$ は $\mathbb{R}^{2^{k+1}-1}$ に埋め込めないという主張の $k=1$ の場合)。これらはこの記事では証明しない。「はめ込みなら埋め込みより低い次元に入る」例である。
| 外す条件・強める結論 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 次元を $2n$ から $n$ に下げる | 円周 $S^1$、トーラス $S^1\times S^1$ などのコンパクトな多様体 | $\mathbb{R}^n$ へのはめ込みが存在する |
| 終域の次元を $n$ 未満にする | 任意の $n$ 次元多様体 | はめ込みが存在する |
| 射影の方向を任意に選ぶ | 単位円 $C\subset\mathbb{R}^3$ と $v=(1,0,0)$ | 射影がはめ込みである |
| prop-wimm-compact-lower-bound のコンパクト性 | $\mathbb{R}^n$ の恒等写像 | $\mathbb{R}^n$ へのはめ込みが存在しない |
1 行目と 2 行目は prop-wimm-compact-lower-bound で示した。満たす性質は「$n$ 次元の多様体(1 行目はさらにコンパクト)」、満たさない性質は「$\mathbb{R}^n$(あるいは $\mathbb{R}^m$、$m< n$)にはめ込める」であり、破る含意は「$n$ 次元多様体は $\mathbb{R}^n$ にはめ込める」である。3 行目は ex-wimm-circle-projection で示した:満たす性質は「$G$ ははめ込みで $N=3\ge2n+1$」、満たさない性質は「$v$ が $\tau$ の像を避ける」であり、破る含意は「どの方向の射影もはめ込みを保つ」である。4 行目は、コンパクトでない多様体では下限 $n+1$ が成り立たないことを示す。恒等写像ははめ込みである。
Whitney の原論文では、はめ込み・埋め込みの存在は「任意の連続写像を、少しだけ動かしてはめ込みや単射な写像にできる」という近似の定理の系として述べられている(Whi36 Theorem 2 の (b)(c)、p. 654)。滑らかな写像による近似の部分は Whitneyの近似定理 の記事で扱う。
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