双有理写像(birational map)とは、代数多様体 $X$ から $Y$ への有理写像(稠密な開集合の上で定義された射の同値類)であって、逆の有理写像をもつもののことである。$X$ と $Y$ の間に双有理写像があるとき両者は双有理同値といい、これは関数体 $K(X)$ と $K(Y)$ が $k$ 上同型であること、また同型な空でない開集合をもつことと同値である。ブローアップは双有理だが同型でない射の典型例であり、$\mathbb{P}^2$ の Cremona 変換 $[x:y:z]\mapsto[yz:zx:xy]$ は射に延びない双有理写像の例である。滑らかな射影曲線の間では双有理写像はつねに同型に延びるが、次元 2 以上ではそうでなく、種数・小平次元・多重種数などの双有理不変量によって双有理同値類を区別する。
前提知識: スキーム, 代数多様体, 開集合, 稠密, 整域, 関数体, 射影空間
双有理写像は、代数多様体の間の「ほとんど至るところで定義された同型」である。多様体の空でない開集合はつねに稠密なので、稠密な開集合の上でだけ定義されたスキームの射を考えることに意味がある。これが有理写像であり、逆をもつ有理写像が双有理写像である。以下、体 $k$ を固定し、多様体とは $k$ 上の整スキーム(既約空間かつ被約スキーム)であって $k$ 上分離スキームかつ有限型の射をもつものをいう。多様体の間の射はつねに $k$ 上の射とする。
$X,Y$ を多様体とする。空でない開集合 $U\subset X$ と射 $f\colon U\to Y$ の組 $(U,f)$ を考え、2 つの組 $(U,f)$、$(V,g)$ が同値であるとは、空でない開集合 $W\subset U\cap V$ で $f|_W=g|_W$ となるものが存在することをいう。この同値関係による同値類を $X$ から $Y$ への有理写像(rational map)といい、$f\colon X\dashrightarrow Y$ と書く。組 $(U,f)$ を有理写像 $f$ の代表という。
有理写像 $f\colon X\dashrightarrow Y$ が支配的(dominant)であるとは、ある代表 $(U,f)$ について像 $f(U)$ が $Y$ で稠密であることをいう。
$X$ は既約なので、空でない 2 つの開集合の共通部分は空でなく、したがって稠密である。このことから上の関係が同値関係であることが従う。反射律・対称律は明らかで、推移律は、$(U,f)\sim(V,g)$ を $W$ が、$(V,g)\sim(V',h)$ を $W'$ が保証するとき、$W\cap W'$ が空でない開集合で、その上で $f=g=h$ となることによる。支配性が代表の取り方によらないことも同様である。$(U,f)$ と $(V,g)$ が同値で $f(U)$ が稠密なら、$W\subset U\cap V$ を上のようにとると $f(W)=g(W)\subset g(V)$ であり、$W$ は $U$ で稠密なので $f(W)$ は $f(U)$ で稠密、したがって $Y$ で稠密である。よって $g(V)$ も稠密である。
多様体の分離性と被約性は、次の補題を通じて効いてくる。この補題により、有理写像の 2 つの代表は「重なる部分の一部で一致する」だけでなく「重なる部分の全体で一致する」。
$X$ を被約スキーム、$Y$ を $k$ 上分離的なスキームとし、$f,g\colon X\to Y$ を $k$ 上の射とする。開集合 $W\subset X$ が $X$ で稠密で $f|_W=g|_W$ ならば、$f=g$ である。
$\Delta\colon Y\to Y\times_kY$ を対角射とし、$(f,g)\colon X\to Y\times_kY$ を $f$ と $g$ が定める射とする。$Y$ が $k$ 上分離的とは $\Delta$ が閉埋め込みであることであるから、ファイバー積 $Z:=X\times_{Y\times_kY}Y$($(f,g)$ による $\Delta$ の底変換)は $X$ の閉部分スキームであり、$i\colon Z\to X$ は閉埋め込みである。ファイバー積の普遍性により、射 $h\colon T\to X$ が $i$ を経由することと $f\circ h=g\circ h$ とは同値である。
仮定 $f|_W=g|_W$ から、開埋め込み $W\hookrightarrow X$ は $i$ を経由する。とくに集合として $W\subset Z$ であり、$Z$ は閉で $W$ は稠密なので $Z$ の台は $X$ 全体である。$Z$ を定めるイデアル層を $\mathcal{I}\subset\mathcal{O}_X$ とすると、任意のアフィンスキームである開集合 $\operatorname{Spec}A\subset X$ 上で $\mathcal{I}$ はイデアル $I\subset A$ に対応し、$V(I)=\operatorname{Spec}A$ であるから $I$ はすべての素イデアルに含まれ、$I\subset\sqrt{0}$ である。$X$ は被約なので $\sqrt{0}=0$、よって $I=0$ であり、$\mathcal{I}=0$、すなわち $Z=X$ である。したがって恒等射 $\mathrm{id}_X$ が $i$ を経由し、$f=f\circ\mathrm{id}_X=g\circ\mathrm{id}_X=g$ を得る。$\square$
多様体は被約かつ分離的なので、この補題は多様体の間の射にそのまま使える。以下「代表は重なりの上で一致する」と言うときは、この補題による。
$X,Y$ を多様体とする。有理写像 $f\colon X\dashrightarrow Y$ が双有理写像(birational map)であるとは、$f$ が支配的であり、支配的な有理写像 $g\colon Y\dashrightarrow X$ で、有理写像として $g\circ f=\mathrm{id}_X$ かつ $f\circ g=\mathrm{id}_Y$ となるものが存在することをいう。この $g$ を $f$ の逆という。$X$ と $Y$ の間に双有理写像が存在するとき、$X$ と $Y$ は双有理同値(birationally equivalent)、あるいは単に双有理であるという。
多様体の射 $f\colon X\to Y$ が双有理射(birational morphism)であるとは、$f$ が定める有理写像(代表 $(X,f)$ の同値類)が双有理写像であることをいう。
ここで支配的な有理写像の合成は、次のように定義する。$f\colon X\dashrightarrow Y$ を支配的な有理写像、$g\colon Y\dashrightarrow Z$ を有理写像とし、代表 $(U,f)$、$(V,g)$ をとる。$f(U)$ は $Y$ で稠密で $V$ は空でない開集合なので $f(U)\cap V\ne\emptyset$、したがって $f^{-1}(V)\subset U$ は空でない開集合である。合成 $g\circ f\colon f^{-1}(V)\to Z$ の同値類を $g\circ f\colon X\dashrightarrow Z$ と定める。代表の取り方によらないことは、代表を取り替えても稠密な開集合の上で同じ射になることから従う。$f$ が支配的でないと $f^{-1}(V)$ が空になりうるので、有理写像は一般には合成できない。双有理写像の定義で $f$ と $g$ にあらかじめ支配性を課しているのはこのためである。
多様体の同型 $f\colon X\to Y$ は双有理射である(逆射が逆の有理写像を与える)。逆は成り立たない。双有理射は「稠密開集合の上で同型」であるが、その外では点をつぶしたり、ファイバーが高次元になったりしてよい。典型例はブローアップである(ex-birational-map-blowup)。
$f\colon X\dashrightarrow Y$ を多様体の間の有理写像とする。$f$ の代表 $(U_i,f_i)$ 全体にわたる和集合 $U_{\max}:=\bigcup_iU_i$ をとると、$U_{\max}$ 上の射 $f_{\max}\colon U_{\max}\to Y$ で、各 $i$ について $f_{\max}|_{U_i}=f_i$ となるものがただ 1 つ存在する。とくに $(U_{\max},f_{\max})$ は $f$ の代表であり、$f$ のどの代表 $(U,f)$ についても $U\subset U_{\max}$ かつ $f=f_{\max}|_U$ である。
2 つの代表 $(U_i,f_i)$、$(U_j,f_j)$ をとる。同値の定義から、空でない開集合 $W\subset U_i\cap U_j$ で $f_i|_W=f_j|_W$ となるものがある。$U_i\cap U_j$ は空でない開集合で($X$ の既約性)、$W$ はその稠密な開集合である。$U_i\cap U_j$ は被約スキーム(被約スキームの開部分スキームは被約)で $Y$ は分離的なので、lem-birational-map-reduced-separated により $f_i|_{U_i\cap U_j}=f_j|_{U_i\cap U_j}$ である。
すなわち射の族 $(f_i)$ は重なりの上で一致するので、射の貼り合わせにより $U_{\max}$ 上の射 $f_{\max}$ で $f_{\max}|_{U_i}=f_i$ となるものがただ 1 つ存在する(射は開被覆上の制限で決まる)。$(U_{\max},f_{\max})$ は $(U_i,f_i)$ と $U_i$ 上で一致するので $f$ の代表である。最後の主張は $U_{\max}$ の定義と貼り合わせの一意性から従う。$\square$
prop-birational-map-domain の $U_{\max}$ を有理写像 $f\colon X\dashrightarrow Y$ の定義域(domain of definition)といい、$\operatorname{dom}(f)$ と書く。$\operatorname{dom}(f)$ の点を $f$ が定義される点、補集合 $X\setminus\operatorname{dom}(f)$ の点を $f$ の不確定点(indeterminacy point)という。有理写像 $f$ が射であるとは $\operatorname{dom}(f)=X$ のことをいう。
定義域はつねに空でない開集合であり、不確定点の集合は $X$ の真の閉集合である。射 $f\colon X\to Y$ が定める有理写像の定義域は、代表 $(X,f)$ があるので $X$ 全体である。逆に有理写像の定義域が $X$ 全体なら、$f_{\max}$ が射であり、これを同じ文字 $f$ で書く。
双有理写像は、多様体を「一般の点の近くでの様子」だけで比べる道具である。$X$ と $Y$ が双有理であるとは、それぞれから適当な低次元の閉集合を取り除くと、残りが同型になるということである(prop-birational-map-open-iso)。したがって双有理写像は、特異点や特別な部分多様体のような「余次元の高い場所」の情報を無視し、関数体 $K(X)=K(Y)$ という代数的なデータだけを見る(thm-birational-map-function-field)。有理写像 $X\dashrightarrow Y$ は、座標で書けば $Y$ の座標を $X$ 上の有理関数(分母をもつ関数)で表したものであり、分母が消える点では定義できない。この意味で「有理」という名がついている。同型が「どの点でも同じ」を要求するのに対し、双有理は「一般の点では同じ」を要求する。多様体を双有理同値で分類することが双有理幾何学の目標であり、種数(種数)や小平次元のような双有理不変量、ブローアップとその逆の縮約がその基本的な道具になる。
アフィン空間 $\mathbb{A}^n_k$ は射影空間 $\mathbb{P}^n_k$ の開集合 $\{x_0\ne0\}$ と同型なので、開埋め込み $\mathbb{A}^n\hookrightarrow\mathbb{P}^n$ は双有理射であり(逆は恒等射 $\{x_0\ne0\}\to\mathbb{A}^n$ が定める有理写像)、$\mathbb{A}^n$ と $\mathbb{P}^n$ は双有理同値である。同型ではない($\mathbb{P}^n$ は $k$ 上固有(固有射)だが、$n\ge1$ のとき $\mathbb{A}^n$ はそうでない)。
$\mathbb{A}^1\dashrightarrow\mathbb{A}^1$、$x\mapsto1/x$ は、開集合 $\{x\ne0\}$ 上の射で代表される有理写像であり、自分自身を逆にもつ双有理写像である。定義域は $\{x\ne0\}$ で、原点は不確定点である。実際、原点を含む開集合 $U$ 上の射 $g\colon U\to\mathbb{A}^1$ が $\{x\ne0\}\cap U$ 上で $1/x$ に一致すれば、$g$ に対応する $k$ 代数の準同型 $k[y]\to\mathcal{O}(U)\subset k(x)$ は $y\mapsto1/x$ でなければならず、$1/x$ は原点で正則でない($1/x\notin\mathcal{O}_{\mathbb{A}^1,0}=k[x]_{(x)}$)ので矛盾する。一方、$\mathbb{P}^1$ の自己同型 $[x_0:x_1]\mapsto[x_1:x_0]$ は $\{x_0x_1\ne0\}$ 上で $x\mapsto1/x$ に一致する。すなわち、行き先を $\mathbb{A}^1$ から $\mathbb{P}^1$ に広げれば不確定点は消える。これは thm-birational-map-curve の一例である。
より一般に、点 $p=[1:0:\dots:0]$ からの射影 $\mathbb{P}^n\dashrightarrow\mathbb{P}^{n-1}$、$[x_0:x_1:\dots:x_n]\mapsto[x_1:\dots:x_n]$ は定義域 $\mathbb{P}^n\setminus\{p\}$ をもつ支配的な有理写像であるが、$n\ge2$ のときは双有理でない(各点のファイバーが $p$ を通る直線から $p$ を除いたものであり、稠密開集合の上で同型になりえない)。
$\sigma\colon\mathbb{P}^2\dashrightarrow\mathbb{P}^2$、$[x:y:z]\mapsto[yz:zx:xy]$ を、開集合 $U:=\{xyz\ne0\}$ 上の射で代表される有理写像とする。
Cremona 変換は、3 つの座標点をブローアップし、3 本の座標直線の固有変換(互いに交わらない 3 本の $(-1)$ 曲線になる)を縮約したものとして得られる(Har77 V.4.2.3)。すなわち双有理だが同型でない自己写像の最も古典的な例である。$\mathbb{P}^2$ の双有理自己写像の全体は群をなし(Cremona 群)、Noether–Castelnuovo の定理によれば、$k$ が代数閉体のときこの群は射影変換と上の $\sigma$ で生成される(証明はここでは扱わない。Har77 V §5 の注意と演習を参照)。
$X$ を多様体、$Y\subsetneq X$ を空でない閉部分スキームとすると、ブローアップ $\pi\colon\mathrm{Bl}_YX\to X$ は $X\setminus Y$ の上で同型であり、$\mathrm{Bl}_YX$ は再び多様体で、$\pi$ は固有な双有理射である(証明はブローアップの記事の命題「整スキームのブローアップ」)。$X=\mathbb{A}^2$、$Y=\{0\}$ のとき、$\pi^{-1}(0)\cong\mathbb{P}^1$ であるから $\pi$ は同型ではない。すなわち双有理射は同型とは限らない。ブローアップは双有理射の基本例であるだけでなく、逆に滑らかな射影曲面の間の双有理射はブローアップの合成に分解する(thm-birational-map-surface)。
$n$ 次元の多様体 $X$ が有理(rational)であるとは、$X$ が $\mathbb{P}^n_k$ と双有理同値であることをいう。$X$ が単有理(unirational)であるとは、ある $m$ について支配的な有理写像 $\mathbb{P}^m_k\dashrightarrow X$ が存在することをいう。
有理多様体は単有理である。逆は次元 $1$(Lürothの定理、Har77 IV.2.5.5)と、$k$ が標数 $0$ の代数閉体なら次元 $2$(Castelnuovo の有理性判定による。Bea96 V.1)で成り立つが、次元 $3$ 以上では成り立たない(Artin–Mumford、Clemens–Griffiths、Iskovskikh–Manin の例。本記事では扱わない)。有理多様体の例として、$k$ 有理点 $p$ をもつ滑らかな 2 次超曲面 $Q\subset\mathbb{P}^{n+1}_k$ がある。$p$ を通らない超平面 $H\cong\mathbb{P}^n$ への $p$ からの射影 $Q\dashrightarrow H$ は双有理写像であり($p$ を通る一般の直線は $Q$ と $p$ 以外のちょうど 1 点で交わる)、$k=\mathbb{R}$、$Q$ が球面のときは立体射影にほかならない(Har77 I §4 の演習にある古典的な例)。$k$ が無限体で $Q$ が $k$ 有理点をもたないとき(たとえば $\mathbb{R}$ 上の $x_0^2+x_1^2+x_2^2=0$)は、$Q$ は $k$ 上有理ではない($k$ が無限体なら $\mathbb{P}^n_k$ の空でない開集合は $k$ 有理点をもち、双有理写像の定義域の $k$ 有理点の像は $k$ 有理点だから)。有理性は基礎体に依存する性質である。
$C:=\operatorname{Spec}k[x,y]/(y^2-x^3)\subset\mathbb{A}^2$ とし、$\nu\colon\mathbb{A}^1\to C$、$t\mapsto(t^2,t^3)$ とする($k$ 代数の準同型 $k[x,y]/(y^2-x^3)\to k[t]$、$x\mapsto t^2$、$y\mapsto t^3$ に対応する射。$C$ は $y^2-x^3$ が既約なので多様体である)。
$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ と $\mathbb{P}^2$ はどちらも $\mathbb{A}^2$ を開集合として含む($\mathbb{A}^1\times\mathbb{A}^1\cong\mathbb{A}^2$)ので、prop-birational-map-open-iso により双有理同値であり、$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ は有理曲面である。しかし同型ではない。
楕円曲線 $E$($k$ 上滑らかな種数 $1$ の射影曲線)は $\mathbb{P}^1$ と双有理同値でない。thm-birational-map-curve の系により、双有理同値なら $E\cong\mathbb{P}^1$ となり、種数 $g(E)=1\ne0=g(\mathbb{P}^1)$ に反する。すなわち種数は曲線の双有理不変量である(cor-birational-map-genus)。高次元では、小平次元 $\kappa(X)$ や $h^0(X,\Omega^p_X)$ が同じ役割を果たす(thm-birational-map-invariants)。たとえば $\mathbb{P}^n$ は $\kappa=-\infty$、アーベル多様体は $\kappa=0$ なので、アーベル多様体は有理でない。
多様体 $X$ の関数体 $K(X)$ とは、生成点 $\eta$ における茎 $\mathcal{O}_{X,\eta}$ のことで、空でないアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A\subset X$ に対して $K(X)$ は $A$ の分数体 $\operatorname{Frac}(A)$ である。$X$ は整なので、空でない開集合 $U$ について制限写像 $\mathcal{O}_X(U)\to K(X)$ は単射であり、以下 $\mathcal{O}_X(U)\subset K(X)$ とみなす。逆に $K(X)$ の各元は、ある空でない開集合の上の正則関数として表される(Har77 II §3 演習 3.6)。
$X,Y$ を $k$ 上の多様体とする。
この定理は、多様体と支配的有理写像のなす圏が、$k$ 上有限生成な体の拡大と $k$ 準同型のなす圏の反対圏と同値(圏同値)であることを意味する(Har77 I.4.4。そこでは $k$ を代数閉体として述べられているが、上の証明はそのまま一般の体で通用する)。$K(X)$ の $k$ 上の超越次数は $\dim X$ に等しいので、双有理同値な多様体は同じ次元をもつ。
$X,Y$ を多様体とする。
2 は、双有理射 $f\colon X\to Y$ が「$Y$ のある稠密開集合の上では同型」であることを述べている。この開集合を最大にとったときの補集合の逆像を $f$ の例外集合と呼ぶ。ブローアップ $\mathrm{Bl}_YX\to X$ では $X\setminus Y$ の上で同型であり、例外集合は例外因子である。
有理写像はいつ射に延びるか。もっとも基本的な答えは、出発点が滑らかな曲線で行き先が固有な場合である。
$C$ を $k$ 上の滑らかな曲線(1 次元の多様体で、滑らかな射 $C\to\operatorname{Spec}k$ をもつもの)、$Y$ を $k$ 上固有な多様体とする。任意の有理写像 $f\colon C\dashrightarrow Y$ は射 $C\to Y$ に(一意に)延びる。すなわち $\operatorname{dom}(f)=C$ である。
とくに、滑らかな射影曲線 $C,C'$ の間の双有理写像は同型であり、$C$ と $C'$ が双有理同値であることと同型であることは同値である。
証明の筋は次のとおりである。点 $p\in C$ の局所環 $\mathcal{O}_{C,p}$ は、$C$ が滑らかな曲線なので離散付値環であり、その分数体は $K(C)$ である。有理写像 $f$ は $\operatorname{Spec}K(C)\to Y$(生成点の像)を定め、$Y$ が $k$ 上固有なので付値判定法(Har77 II.4.7)により、これは $\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{C,p}\to Y$ に一意に延びる。$Y$ は $k$ 上有限型なので、$\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{C,p}$ からの射は $p$ のある開近傍 $U_p$ からの射に延びる($\mathcal{O}_{C,p}=\varinjlim\mathcal{O}_C(U)$ と、アフィン開集合 $\operatorname{Spec}B\subset Y$ の座標環 $B$ が有限生成であることによる)。この射は $f$ の代表と生成点で一致する。すると thm-birational-map-function-field の単射性の議論と同じく(両者の生成点の像を含むアフィン開集合 $\operatorname{Spec}B\subset Y$ の逆像の中にアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ をとると、対応する 2 つの環準同型 $B\to A\subset K(C)$ が一致する。ここで $f$ の支配性は要らない)、この射は $U_p$ の稠密開集合の上で $f$ と一致し、$p\in\operatorname{dom}(f)$ である。$k$ が代数閉体の場合の初等的な証明は Har77 I.6.8 にあり、一般の場合は Liu02 第 4 章 §4.1 の命題(正規スキームからの有理写像の延長)を参照。
後半は、双有理写像 $f\colon C\dashrightarrow C'$ とその逆 $g$ がともに射に延び、$g\circ f$ と $\mathrm{id}_C$ が稠密開集合の上で一致するので lem-birational-map-reduced-separated により $g\circ f=\mathrm{id}_C$、同様に $f\circ g=\mathrm{id}_{C'}$ となることによる。したがって、滑らかな射影曲線の分類は、その関数体($k$ 上超越次数 $1$ の有限生成拡大体)の分類と同じである(Har77 I.6.12)。
高次元への一般化として、$X$ が正規スキームである多様体、$Y$ が固有ならば、有理写像 $X\dashrightarrow Y$ は $X$ の余次元 $1$ の点すべてで定義される。すなわち不確定点の集合は余次元 $2$ 以上である(Liu02 第 4 章 §4.1。正規多様体の余次元 $1$ の点の局所環が離散付値環であることと付値判定法による)。この事実は、双有理不変量を作るときの基本的な道具である(Brauer群の双有理不変性 の記事を参照)。
ex-birational-map-cusp の尖点曲線は滑らかでないので、この定理の範囲外であり、実際に射に延びない有理写像($\nu$ の逆 $y/x$)をもつ。また prop-birational-map-cremona の Cremona 変換は、滑らかな射影曲面 $\mathbb{P}^2$ から $\mathbb{P}^2$ への双有理写像で射に延びないので、「滑らかな射影多様体の間の双有理写像は同型」は次元 $2$ 以上では成り立たない。
双有理射が同型になる条件を述べる。まず初等的に証明できる場合を挙げる。
有限射はアフィン射なので、$Y$ の任意のアフィン開集合 $V=\operatorname{Spec}B$ について $f^{-1}(V)=\operatorname{Spec}A$ であり、$A$ は $B$ 加群として有限生成(有限生成加群)である。$f^{-1}(V)$ が空でないことは $f$ の支配性による。対応する準同型 $\varphi\colon B\to A$ は単射である。実際、$f$ は支配的なので $\operatorname{Spec}A\to\operatorname{Spec}B$ の像は稠密であり、その閉包 $V(\ker\varphi)$ が $\operatorname{Spec}B$ 全体だから $\ker\varphi\subset\sqrt{0}=0$ である($B$ は整域)。
$f$ は双有理なので、thm-birational-map-function-field により $f^*\colon K(Y)=\operatorname{Frac}(B)\to K(X)=\operatorname{Frac}(A)$ は同型であり、$\varphi$ はその制限である。$K(X)$ を $f^*$ で $K(Y)$ と同一視すると、$B\subset A\subset\operatorname{Frac}(B)$ であり、$A$ は $B$ 上整(整拡大。有限生成加群だから)である。$Y$ は正規なので $B$ は整閉整域(正規性は局所環で定義したが、$B$ が整閉であることと各局所化 $B_{\mathfrak{p}}$ が整閉であることは同値、AM69 5.13)であり、したがって $A=B$ である。よって $f^{-1}(V)\to V$ は同型であり、$Y$ のアフィン開被覆のすべてで同型なので $f$ は同型である。$\square$
$Y$ が正規でないと成り立たない。ex-birational-map-cusp の $\nu\colon\mathbb{A}^1\to C$ は有限($k[t]$ は $k[t^2,t^3]$ 上 $1,t$ で生成される)かつ双有理だが同型でなく、$C$ は原点で正規でない。一般に、多様体 $X$ の正規化 $\tilde{X}\to X$ は有限な双有理射であり、$X$ が正規のときに限って同型である。
次の定理は、有限性を「ファイバーが有限」に弱めた形で、Zariski の主定理と呼ばれる。
$f\colon X\to Y$ を多様体の間の固有な双有理射とし、$Y$ は正規であるとする。
1 は Har77 III.11.4($f$ が射影的な場合。Stein分解を経由する証明)、および EGA3 4.3.1・4.4.3 による。2 は Zariski の主定理の本来の形(EGA3 4.4.3)であり、次のように言い換えられる。固有射のファイバーの次元は上半連続(半連続性)なので、ファイバーが有限な点の集合 $V\subset Y$ は開であり、$f^{-1}(V)\to V$ は準有限射かつ固有、したがって有限であり(EGA3 4.4.2)、prop-birational-map-finite により同型である。曲面の場合の証明は Har77 V.5.2 にある。より一般の Zariski の主定理(正規スキームへの分離的準有限射は開埋め込みと有限射の合成に分解する)については EGA3 4.4.3、Liu02 第 4 章 §4.4 を参照。
$k$ を代数閉体、$f\colon X\to Y$ を $k$ 上の滑らかな射影曲面の間の双有理射とする。このとき $f$ は有限個の点のブローアップの合成 $X=X_n\to X_{n-1}\to\cdots\to X_0=Y$ に分解する(各 $X_i\to X_{i-1}$ は $X_{i-1}$ の 1 点のブローアップ)。したがって、滑らかな射影曲面の間の任意の双有理写像 $X\dashrightarrow Y$ は、滑らかな射影曲面 $Z$ と、点のブローアップの合成 $Z\to X$、$Z\to Y$ を用いて $X\leftarrow Z\to Y$ と分解する。
前半は Har77 V.5.3、Bea96 II.11、後半(不確定点の解消)は Har77 V.5.5、Bea96 II.7 による。証明の要点は、$f$ が同型でなければ $Y$ のある点 $y$ でファイバーが曲線になり(thm-birational-map-zariski)、$f$ が $y$ のブローアップ $\mathrm{Bl}_yY\to Y$ を経由すること(Har77 V §5)、そして $f$ が点につぶす既約曲線の個数が各段で $1$ ずつ減るので過程が有限回で止まることである。高次元では、標数 $0$ の滑らかな固有多様体の間の双有理写像は滑らかな中心のブローアップとその逆の列に分解する(弱分解定理。本記事では扱わない)。また Hironaka の特異点解消により、標数 $0$ の任意の多様体は滑らかな射影多様体と双有理同値であり、双有理同値類の中から標準的な代表(極小モデル)を選ぶのが極小モデル理論の主題である(KM98)。
双有理同値な多様体の間で一致する量を双有理不変量という。関数体 $K(X)$ とそこから決まる量(次元、$K(X)$ の $k$ 上の性質)はその定義から双有理不変量である。幾何学的に重要なのは、固有な多様体の族の中で定義され、双有理写像の不確定点を「越えて」定まる量である。
$k$ 上の滑らかな射影多様体 $X,Y$ が双有理同値ならば、次が成り立つ。
1 は Har77 II.8.19($k$ 代数閉体、$p=\dim X$ の場合。同じ証明が一般の $p$ で通用する)。証明の筋は、rem-birational-map-curve-ref で述べた「不確定点の集合は余次元 $2$ 以上」と、正規多様体上の局所自由層の切断が余次元 $2$ 以上の閉集合を越えて一意に延びること(代数的 Hartogs の定理、Liu02 第 4 章)を組み合わせ、微分形式の引き戻し $H^0(Y,\Omega^p_Y)\to H^0(X,\Omega^p_X)$ を双方向に作って互いに逆であることを見ることである。2 も同じ証明による(Har77 II §8 演習 8.8、Bea96 III.20)。3 は Brauer群の双有理不変性 の記事による。
曲線の場合は、thm-birational-map-curve からただちに従う。
滑らかな射影曲線 $C,C'$ が双有理同値ならば、種数 $g(C)=g(C')$ である。逆に、$k$ が代数閉体のとき、種数 $0$ の滑らかな射影曲線は $\mathbb{P}^1_k$ と同型、したがって有理である。
前半:thm-birational-map-curve により $C\cong C'$ であり、種数 $g(C)=\dim_kH^1(C,\mathcal{O}_C)$ は同型で保たれる。後半:$k$ が代数閉体で $g(C)=0$ とし、閉点 $P\in C$ をとる。Riemann–Rochの定理により $\deg P=1>2g-2=-2$ なので $h^0(C,\mathcal{O}_C(P))=1-g+1=2$ であり、$h^0(C,\mathcal{O}_C)=1<2$ なので $P$ は線型系 $|P|$ の基点でなく、$P$ 以外の点では切断 $1$ が消えないので、$|P|$ は基点をもたず、次数 $\deg P=1$ の射 $C\to\mathbb{P}^1$ を定める。次数 $1$ の有限射は関数体の同型を誘導するので双有理射であり、前半と同じく thm-birational-map-curve により同型である(Har77 IV.1.3.5)。$\square$
Picard 群(ex-birational-map-p1p1)、Hodge数 $h^{p,q}$ のうち $p,q$ がともに正のもの、Betti数などは双有理不変量ではない。ブローアップは $\operatorname{Pic}$ に $\mathbb{Z}$ を、$H^2$ に例外因子の類を加えるからである。一方、基本群($k=\mathbb{C}$ の滑らかな射影多様体の位相的基本群)は双有理不変量であることが知られているが、本記事では扱わない。
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