尖点表現

同義語:cuspidal representation

概要

尖点表現(cuspidal representation)とは、真の放物型部分群からの放物型誘導に現れない既約表現であり、有限簡約群の表現を組み立てる基本成分である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 有限群の表現, 有限体, 一般線形群, 放物型誘導表現

概要

尖点表現(cuspidal representation)とは、真の放物型部分群からのHarish--Chandra誘導に現れない既約表現であり、有限簡約群の表現を組み立てる基本成分である。より小さいLevi部分群から誘導して得られないという消滅条件が、誘導を始める「原子」を切り出す。
本記事では、具体性のため
$$ G=\operatorname{GL}_n(\mathbb F_q) $$
の有限次元複素表現を中心に扱う。有限簡約群一般でも、Frobenius写像で安定な放物型部分群とLevi部分群を用いて同じ定義が置かれる。本記事の尖点表現を、非アルキメデス局所体上の簡約群の超尖点表現や、大域的なカスプ形式から生じる保型表現と同一視してはいけない。

放物型部分群と二つの関手

$n=n_1+\cdots+n_r$ を正整数の和として表す。対応する標準放物型部分群 $P$ は、対角ブロックの大きさが $n_1,\ldots,n_r$ であるブロック上三角行列全体である。そのLevi部分群と冪単根基は
$$ L\cong\prod_{i=1}^r\operatorname{GL}_{n_i}(\mathbb F_q), \qquad U=\{u\in P:\text{各対角ブロックが恒等行列}\} $$
であり、$P=L\ltimes U$ となる。$r\geq2$ のとき $P$ は真の放物型部分群である。

Harish--Chandra誘導と制限

$W$ を $L$ の複素表現とする。$U$ が自明に作用するように $W$ を $P$ 表現へ膨張し、その通常の誘導表現を
$$ R_L^G(W):=\operatorname{Ind}_P^G(\operatorname{Inf}_L^P W) $$
と書く。これをHarish--Chandra誘導という。
$V$ を $G$ の複素表現とするとき、
$$ {}^*R_L^G(V):=V^U =\{v\in V:uv=v\ \text{for every }u\in U\} $$
をHarish--Chandra制限という。$U$ は $L$ により正規化されるので、$V^U$ は自然に $L$ 表現になる。

有限群上の複素表現では、群環が半単純であり、誘導表現も不変部分も完全可約である。これは後に「商として現れる」と「直和因子として現れる」を同値にする重要な入力である。

Harish--Chandra誘導の次元

$W$ が有限次元なら
$$ \dim_{\mathbb C}R_L^G(W)=[G:P]\dim_{\mathbb C}W $$
である。

Harish--Chandra誘導の次元の証明

$G/P$ の左剰余類 $tP$ の代表の集合を $T$ とする。右 $\mathbb C[P]$ 加群として
$$ \mathbb C[G]=\bigoplus_{t\in T}t\mathbb C[P] $$
だから、
$$ \mathbb C[G]\otimes_{\mathbb C[P]}W \cong\bigoplus_{t\in T}t\otimes W $$
である。直和因子は $|T|=[G:P]$ 個あり、それぞれ $W$ と同じ次元をもつ。

Harish--Chandra相互律

$L$ 表現 $W$ と $G$ 表現 $V$ に対して自然な同型
$$ \operatorname{Hom}_G(R_L^G(W),V) \cong\operatorname{Hom}_L(W,V^U) $$
が存在する。

Harish--Chandra相互律の証明

通常のFrobenius相互律により
$$ \operatorname{Hom}_G(\operatorname{Ind}_P^G\operatorname{Inf}_L^PW,V) \cong \operatorname{Hom}_P(\operatorname{Inf}_L^PW,\operatorname{Res}_P^GV) $$
である。右辺の $P$ 準同型 $f\colon W\to V$ を考える。$U$ は $W$ 上で自明に作用するため、$u\in U$ に対して
$$ u f(w)=f(uw)=f(w) $$
となり、$f(W)\subseteq V^U$ である。従って $f$ は $L$ 準同型 $W\to V^U$ を定める。逆に任意の $L$ 準同型 $W\to V^U$ は、$U$ が始域と像の両方へ自明に作用するので $P$ 準同型である。この二つの対応は互いに逆である。

定義

尖点表現

$G=\operatorname{GL}_n(\mathbb F_q)$ の既約複素表現 $(\pi,V)$ が尖点表現(cuspidal representation)であるとは、すべての真の標準放物型部分群 $P=LU$ に対して
$$ V^U=0 $$
となることをいう。

定義ではすべての放物型部分群でなく、標準放物型部分群だけを調べればよい。任意の放物型部分群は標準放物型部分群の共役であり、$U'=gUg^{-1}$ なら $v\mapsto gv$ が $V^U\cong V^{U'}$ を与えるからである。

指標による消滅判定

尖点条件は不変部分空間の次元として、指標から数値的に判定できる。

冪単根基上の指標平均

$V$ を有限次元複素 $G$ 表現、$\chi_V$ をその指標とする。任意の部分群 $U\subseteq G$ について
$$ \dim V^U=\frac{1}{|U|}\sum_{u\in U}\chi_V(u) $$
が成り立つ。従って既約表現 $V$ が尖点的であるための必要十分条件は、すべての真の標準放物型部分群 $P=LU$ について右辺が $0$ になることである。

指標平均公式の証明

平均作用素
$$ e_U:=\frac{1}{|U|}\sum_{u\in U}\pi(u)\in\operatorname{End}_{\mathbb C}(V) $$
を考える。任意の $u_0\in U$ に対し $\pi(u_0)e_U=e_U$ なので $\operatorname{Im}(e_U)\subseteq V^U$ である。逆に $v\in V^U$ なら $e_Uv=v$ であるから、$\operatorname{Im}(e_U)=V^U$ を得る。また
$$ e_U^2=\frac{1}{|U|^2}\sum_{u,v\in U}\pi(uv)=e_U $$
なので $e_U$ は冪等作用素であり、そのトレースは像の次元に等しい。一方、トレースの線形性により
$$ \operatorname{tr}(e_U)=\frac{1}{|U|}\sum_{u\in U}\operatorname{tr}(\pi(u)) =\frac{1}{|U|}\sum_{u\in U}\chi_V(u). $$
以上から公式が従う。最後の主張は尖点表現の定義を各 $U$ に適用したものである。

この公式は「尖点性は指標表から検査できる」ことを示す。ただし、冪単根基の各共役類との交わりを数える必要があり、大きな群では分類理論を置き換える簡単な計算法になるとは限らない。

性質と証明

尖点性の誘導による特徴づけ

$G$ の既約複素表現 $V$ について、次は同値である。

  1. $V$ は尖点表現である。
  2. 任意の真の標準放物型部分群 $P=LU$ と任意の既約 $L$ 表現 $W$ に対して
    $$ \operatorname{Hom}_G(R_L^G(W),V)=0 $$
    である。
  3. $V$ は、真の放物型部分群から放物型誘導された表現の既約直和因子として現れない。

放物型Frobenius相互律により
$$ \operatorname{Hom}_G(R_L^G(W),V) \cong\operatorname{Hom}_L(W,V^U) $$
である。$V^U=0$ なら右辺は任意の $W$ に対して零である。
逆に $V^U\neq0$ とする。$L$ は有限群で係数体は $\mathbb C$ だから、Maschkeの定理により $V^U$ は完全可約である。したがって、ある既約 $L$ 表現 $W$ から $V^U$ への非零準同型が存在する。相互律により $R_L^G(W)\to V$ という非零 $G$ 準同型が得られる。$V$ は既約なのでこの写像は全射であり、再びMaschkeの定理により分裂する。ゆえに $V$ は $R_L^G(W)$ の直和因子である。
以上により1と2が同値であり、完全可約性によって2と3も同値である。$\square$

例と反例

一次一般線形群

$G=\operatorname{GL}_1(\mathbb F_q)=\mathbb F_q^\times$ には真の放物型部分群がない。したがって定義の条件は空虚に満たされ、$G$ のすべての既約複素表現は尖点表現である。

反例:自明表現は高階では尖点的でない

$n\ge2$ とし、$G=\operatorname{GL}_n(\mathbb F_q)$ の自明表現 $\mathbf 1$ を考える。真の標準放物型部分群の冪単根基 $U$ は $\mathbf 1$ に自明に作用するので、$\mathbf 1^U=\mathbf1\neq0$ である。よって自明表現は尖点表現ではない。破れる条件は $V^U=0$ である。

同じ理由で、$n\geq2$ の $\operatorname{GL}_n(\mathbb F_q)$ において、行列式を通じて得られる一次元表現 $\chi\circ\det$ は尖点的でない。冪単行列の行列式は $1$ なので、任意の冪単根基 $U$ が自明に作用し、$V^U=V\neq0$ となるからである。
「任意の一次元表現」と一般化してはいけない。例外的に $\operatorname{GL}_2(\mathbb F_2)\cong S_3$ では符号指標が存在し、真の放物型部分群の冪単根基は位数2の部分群である。符号指標はその生成元に $-1$ を与えるので不変ベクトルをもたず、尖点的である。

$\operatorname{GL}_2$ の主系列

$G=\operatorname{GL}_2(\mathbb F_q)$ とし、$B=TU$ を上三角行列のBorel部分群とする。このとき
$$ T\cong\mathbb F_q^\times\times\mathbb F_q^\times, \qquad U=\left\{\begin{pmatrix}1&x\\0&1\end{pmatrix}:x\in\mathbb F_q\right\}. $$
$T$ の二つの指標 $\chi_1,\chi_2$ から得られる
$$ R_T^G(\chi_1\boxtimes\chi_2) $$
を主系列表現という。その既約直和因子は真の放物型部分群 $B$ からの誘導に現れるので、尖点表現ではない。この例で破れる尖点条件は $V^U=0$ である。

主系列がすべての既約表現を尽くすわけではない。$\operatorname{GL}_2(\mathbb F_q)$ では $\mathbb F_{q^2}^{\times}$ の適切な指標から尖点表現が構成される。一般の $\operatorname{GL}_n(\mathbb F_q)$ でも、$\mathbb F_{q^n}^{\times}$ のFrobenius軌道が最大になる正則指標が尖点表現のパラメータを与える。ただしこの分類はGreenおよびDeligne--Lusztig理論を要するため、本記事では消滅条件と誘導理論に焦点を置く。

基本性質

同型による不変性

既約表現 $V$ と $V'$ が $G$ 表現として同型ならば、$V$ が尖点表現であることと $V'$ が尖点表現であることは同値である。

冪単根基上で自明な指標による捩り

$\chi\colon G\to\mathbb C^\times$ を、すべての真の標準放物型部分群の冪単根基 $U$ 上で自明な一次元指標とする。既約表現 $V$ が尖点的であることと $V\otimes\chi$ が尖点的であることは同値である。特に行列式を通じて得られる指標はこの条件を満たす。

一次元指標による捩りの証明

仮定により $\chi|_U=1$ なので、$U$ 表現として $V\otimes\chi$ と $V$ は同じ作用をもち、
$$ (V\otimes\chi)^U=V^U\otimes\chi|_L $$
となる。右辺が零であることと $V^U=0$ は同値である。すべての真の放物型部分群について適用すれば主張を得る。

双対表現は尖点性を保つ

$V$ が尖点表現なら、その反傾表現 $V^\vee$ も尖点表現である。

双対表現の尖点性の証明

有限群 $U$ 上で平均冪等元
$$ e_U=\frac{1}{|U|}\sum_{u\in U}u $$
を考える。$V^U=e_UV$ であり、双対表現における $e_U$ の像は $(V^\vee)^U$ である。$e_U$ の作用の行列を双対化しても階数は変わらないから
$$ \dim (V^\vee)^U=\dim V^U $$
である。従って $V^U=0$ なら $(V^\vee)^U=0$ であり、すべての真の放物型部分群について尖点条件が成り立つ。

Harish--Chandra系列

尖点表現の役割は、それ自身を列挙することだけではない。$L$ の尖点表現 $X$ を固定し、$R_L^G(X)$ に現れる既約 $G$ 表現を集めたものを、対 $(L,X)$ に対応するHarish--Chandra系列という。

尖点支持の存在

$G$ の任意の既約複素表現 $V$ は、あるLevi部分群 $L$ の尖点表現 $X$ からのHarish--Chandra誘導 $R_L^G(X)$ の既約直和因子として現れる。

この定理は、$V$ 自身が尖点的なら $(G,V)$ から始まり、尖点的でなければHarish--Chandra制限が非零となる真のLevi部分群へ降りる、という有限降下の考え方を持つ。支持の共役までの一意性と、系列どうしが既約表現全体を分割することにはMackey公式が用いられる。詳しい定式化と証明は DM20(Chapter 5, Sections 5.2--5.3, pp. 83--90)を参照する。
存在だけなら降下の構造は次のように見える。$V$ が尖点的でなければ、ある真の $L$ に対して $V^U\neq0$ である。完全可約性により $V^U$ は既約 $L$ 表現 $W$ を含み、相互律から $R_L^G(W)\to V$ という非零写像を得る。$V$ の既約性と完全可約性により、$V$ はこの誘導表現の直和因子である。$W$ が尖点的でなければ、$L$ の真のLevi部分群へさらに降りる。階数は各段階で真に下がるので、有限回で尖点表現へ到達する。Harish--Chandra誘導の推移性により、最終的な尖点表現から $V$ が得られる。
一方、支持の一意性はこの降下だけからは出ない。異なる降下経路が共役な尖点対へ至ることを示すには、二つの誘導と制限の合成を二重剰余類で分解するMackey公式が必要である。この点が、単なる存在証明とHarish--Chandra系列による分類を分けている。

似た用語との区別

有限簡約群の尖点表現は、真のLevi部分群に対するHarish--Chandra制限の消滅で定義される。これに対して、$p$進簡約群の超尖点表現は、真の放物型部分群からの正規化誘導の部分商として現れない既約滑らかな表現である。そこでは表現空間が一般に無限次元であり、Jacquet加群、滑らかさ、許容性、モジュラー指標を扱う必要がある。
大域的なカスプ形式では、各真の放物型部分群の冪単根基に沿う定数項が消えることが条件になる。消滅条件と誘導の原子という思想は共通するが、有限群の不変部分 $V^U$ と保型形式の積分による定数項は同じ対象ではない。
また「尖点表現」と「尖点的ユニポテント表現」も同義ではない。後者は尖点表現のうちLusztig系列の特別な部分に属するものを指す。尖点的であることだけからユニポテントであることは従わない。

同型による不変性の証明

$G$ 同型 $T\colon V\to V'$ は各部分群 $U$ の作用と可換する。したがって $T$ は $V^U$ を $(V')^U$ へ同型に写す。ゆえにすべての真の標準放物型部分群について $V^U=0$ であることと $(V')^U=0$ であることは同値である。$\square$

共役な放物型部分群に対する不変性

$V$ が標準放物型部分群の冪単根基について $V^U=0$ を満たすなら、任意の真の放物型部分群の冪単根基 $U'$ についても $V^{U'}=0$ である。

共役な放物型部分群に対する不変性の証明

$\operatorname{GL}_n(\mathbb F_q)$ の任意の放物型部分群は標準放物型部分群の共役であるから、$U'=gUg^{-1}$ と書ける。写像 $v\mapsto gv$ は $V^U\to V^{U'}$ の同型であり、逆写像は $v\mapsto g^{-1}v$ である。よって $V^U=0$ なら $V^{U'}=0$ である。$\square$

Harish--Chandra誘導・制限、Mackey公式、尖点支持とHarish--Chandra系列については DM20(Chapter 5, pp. 79--90)を参照した。

関連項目

参考文献

[1]
François Digne; Jean Michel, Representations of Finite Groups of Lie Type, London Mathematical Society Student Texts 95, Cambridge University Press, Chapter 5, §§5.1–5.3

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