空間の平面と法線ベクトル

同義語:平面の方程式法線ベクトル点と平面の距離normal vector of a plane

概要

空間の平面と法線ベクトル(normal vector of a plane)とは、平面を $ax+by+cz=d$($n=(a,b,c)\ne0$)と表すときの $n$(法線ベクトル)である。平面は線形汎関数 $x\mapsto n\cdot x$ の等位集合で、$n$ は定数倍($\ne0$)を除いて決まる。$\mathbb{R}^3$ の線形汎関数はどれもあるベクトルとの内積なので、平面の方程式は必ず 1 次式である。点 $P$ と平面の距離 $|n\cdot P-d|/|n|$ は法線方向への正射影の長さである。平行でない 2 平面のなす角は法線のなす角(鈍角ならその補角)に等しい。外積 $a\times b$ は $(a\times b)\cdot c=\det(a,b,c)$ を満たし、$a,b$ に垂直で、長さは $a,b$ の張る平行四辺形の面積である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ベクトル, ベクトルの内積(高校数学), 行列式, 正射影

高校での出発点:平面の方程式と点と平面の距離

空間の点 $A$ を通り、零でないベクトル $n=(a,b,c)$ に垂直な平面は、点 $X=(x,y,z)$ について「$\overrightarrow{AX}\perp n$」という条件
$$ n\cdot(X-A)=0,\qquad\text{すなわち}\qquad ax+by+cz=d\quad(d:=n\cdot A) $$
で表される。このとき $n$ をこの平面の法線ベクトルという。

平面の方程式

点 $(1,0,2)$ を通り $n=(2,-1,2)$ に垂直な平面は、$d=n\cdot(1,0,2)=2+0+4=6$ なので $2x-y+2z=6$ である。

高校では、点 $P=(x_0,y_0,z_0)$ と平面 $ax+by+cz=d$ の距離の公式
$$ \frac{|ax_0+by_0+cz_0-d|}{\sqrt{a^2+b^2+c^2}} $$
を習う。

点と平面の距離

点 $P=(3,1,4)$ と ex-pnv-plane-eq の平面 $2x-y+2z=6$ の距離は $\frac{|6-1+8-6|}{3}=\frac73$ である。

3 点を通る平面

3 点 $A(1,0,0)$, $B(0,2,0)$, $C(0,0,3)$ を通る平面を求めるには、法線ベクトル $n$ を $n\cdot\overrightarrow{AB}=0$, $n\cdot\overrightarrow{AC}=0$ から求めるか、切片の形 $\frac x1+\frac y2+\frac z3=1$ を使う。どちらでも $6x+3y+2z=6$ を得る。

この記事では、次の問いに答える。

  • 平面の方程式が必ず 1 次式になり、その係数がなぜ「垂直なベクトル」になるのか。→ prop-pnv-riesz、prop-pnv-normal-unique
  • 距離の公式は何を計算しているのか(答:正射影の長さ)。→ thm-pnv-distance
  • 2 つのベクトルに垂直なベクトルを連立方程式を解かずに書く方法(外積)と、その長さ・向きの意味。→ thm-pnv-cross
    高校の計算と大学の概念は、次のように対応する。
    高校の計算大学の概念
    平面の方程式 $ax+by+cz=d$線形汎関数の等位集合(def-pnv-plane)
    係数 $(a,b,c)$ が法線ベクトル線形汎関数の内積による表示(prop-pnv-riesz)
    点と平面の距離の公式法線方向への正射影の長さ(thm-pnv-distance)
    2 平面のなす角を法線で測るthm-pnv-angle
    連立方程式で法線ベクトルを求める外積(thm-pnv-cross)
    四面体の体積行列式と平行六面体の体積(cor-pnv-volume)

取り出す構造:線形汎関数と等位集合

以下、空間のベクトルと点を $\mathbb{R}^3$ の元 $x=(x_1,x_2,x_3)$ で表し、内積を $x\cdot y=x_1y_1+x_2y_2+x_3y_3$、長さを $|x|=\sqrt{x\cdot x}$ とする。

$\mathbb{R}^3$ 上の線形汎関数

写像 $f\colon\mathbb{R}^3\to\mathbb{R}$ が、すべての $x,y\in\mathbb{R}^3$ と実数 $t$ について
$$ f(x+y)=f(x)+f(y),\qquad f(tx)=t\,f(x) $$
を満たすとき、$f$ を $\mathbb{R}^3$ 上の線形汎関数という。値が数(スカラー)である線形写像のことである。

固定したベクトル $n$ との内積 $x\mapsto n\cdot x$ はいつも線形汎関数であり、逆も成り立つ。

線形汎関数は内積で書ける

$f$ が $\mathbb{R}^3$ 上の線形汎関数ならば、ベクトル $n$ がただ 1 つ存在して、すべての $x$ について $f(x)=n\cdot x$ となる。具体的には $e_1=(1,0,0)$, $e_2=(0,1,0)$, $e_3=(0,0,1)$ として $n=\bigl(f(e_1),f(e_2),f(e_3)\bigr)$ である。

基本ベクトルでの値を並べる

$x=x_1e_1+x_2e_2+x_3e_3$ なので、線形性から $f(x)=x_1f(e_1)+x_2f(e_2)+x_3f(e_3)=n\cdot x$ である。一意性:$n\cdot x=n'\cdot x$ がすべての $x$ で成り立てば、$x=e_i$ として $n$ と $n'$ の第 $i$ 成分が一致する。$\square$

係数を読みとる

$f(x)=2x_1-x_2+2x_3$ は線形汎関数であり、$f(e_1)=2$, $f(e_2)=-1$, $f(e_3)=2$ なので $n=(2,-1,2)$ である。ex-pnv-plane-eq の平面 $2x-y+2z=6$ は、この $f$ の値が $6$ になる点の集合である。

平面と法線ベクトル

零でないベクトル $n$ と実数 $d$ について、集合
$$ H(n,d):=\{x\in\mathbb{R}^3: n\cdot x=d\} $$
を平面といい、$n$ をその法線ベクトルという。言い換えると、平面とは零でない線形汎関数 $f(x)=n\cdot x$ の等位集合(値が一定値 $d$ になる点の集合)$f^{-1}(d)$ である。

$A\in H(n,d)$ なら $d=n\cdot A$ なので $H(n,d)=\{x:n\cdot(x-A)=0\}$ であり、高校の定義と一致する。同じ $n$ で $d$ だけを変えた平面たちは互いに平行であり、空間は等位集合 $f^{-1}(d)$($d\in\mathbb{R}$)で隙間なく重ならずに埋めつくされる。地図の等高線の 3 次元版である。
法線ベクトルは平面から「定数倍を除いて」決まる。

法線ベクトルは定数倍を除いて一意

$n,n'\ne0$ とする。$H(n,d)=H(n',d')$ となるのは、0 でない実数 $\lambda$ があって $n'=\lambda n$ かつ $d'=\lambda d$ となるときであり、そのときに限る。

直交分解

$n'=\lambda n$, $d'=\lambda d$ なら $n'\cdot x=d'\iff\lambda(n\cdot x-d)=0\iff n\cdot x=d$ である。
逆に $H:=H(n,d)=H(n',d')$ とする。$A:=\frac d{|n|^2}n$ は $n\cdot A=d$ を満たすので $A\in H$ である。$\lambda:=\frac{n\cdot n'}{|n|^2}$ とおき、$w:=n'-\lambda n$ とすると $n\cdot w=0$ である。すると $n\cdot(A+w)=d$ なので $A+w\in H$ であり、$A,A+w$ の両方が $H(n',d')$ に入るから $n'\cdot w=n'\cdot(A+w)-n'\cdot A=d'-d'=0$ である。よって
$$ |w|^2=w\cdot w=(n'-\lambda n)\cdot w=n'\cdot w-\lambda\,n\cdot w=0 $$
となり $w=0$、すなわち $n'=\lambda n$ である。$n'\ne0$ なので $\lambda\ne0$ であり、$d'=n'\cdot A=\lambda\,n\cdot A=\lambda d$ である。$\square$

同じ平面を表す方程式

$2x-y+2z=6$ と $-4x+2y-4z=-12$ は $\lambda=-2$ で同じ平面を表す。$2x-y+2z=7$ は法線ベクトルが同じ($\lambda=1$)だが $d$ が違う($7\ne6$)ので別の平面で、$2x-y+2z=6$ と平行である。

主定理:距離は正射影、なす角は法線で測る

点と平面の距離

点と平面の距離

平面 $H=H(n,d)$ と点 $P$ について、
$$ P_0:=P-\frac{n\cdot P-d}{|n|^2}\,n $$
とおく。このとき $P_0\in H$ であり、$H$ のすべての点 $Q$ について
$$ |P-Q|^2=|P-P_0|^2+|P_0-Q|^2 $$
が成り立つ。したがって $H$ の点のうち $P$ に最も近い点は $P_0$ ただ 1 つであり、その距離は
$$ \operatorname{dist}(P,H)=|P-P_0|=\frac{|n\cdot P-d|}{|n|} $$
である。

三平方の定理

$t:=\frac{n\cdot P-d}{|n|^2}$ とおくと $P_0=P-tn$ であり、$n\cdot P_0=n\cdot P-t|n|^2=d$ なので $P_0\in H$ である。$Q\in H$ なら $n\cdot(P_0-Q)=d-d=0$ なので、$P-P_0=tn$ と $P_0-Q$ は直交する。よって
$$ |P-Q|^2=|(P-P_0)+(P_0-Q)|^2=|P-P_0|^2+2t\,n\cdot(P_0-Q)+|P_0-Q|^2=|P-P_0|^2+|P_0-Q|^2 $$
である。右辺の第 2 項は $Q=P_0$ のときだけ 0 なので、最も近い点は $P_0$ だけである。最後に $|P-P_0|=|t||n|=\frac{|n\cdot P-d|}{|n|}$ である。$\square$

垂線の足

ex-pnv-distance-hs の $P=(3,1,4)$、平面 $2x-y+2z=6$ では $t=\frac{7}{9}$ で、
$$ P_0=(3,1,4)-\frac79(2,-1,2)=\Bigl(\frac{13}9,\frac{16}9,\frac{22}9\Bigr) $$
である。$2\cdot\frac{13}9-\frac{16}9+2\cdot\frac{22}9=6$ なので $P_0$ は平面上にあり、$|P-P_0|=\frac79\cdot3=\frac73$ は高校の公式の値と一致する。

$P_0$ は $P$ から $H$ に下ろした垂線の足であり、$P-P_0=tn$ は、$A\in H$ から見たベクトル $P-A$ の $n$ 方向への正射影
$$ \frac{n\cdot(P-A)}{|n|^2}\,n=\frac{n\cdot P-d}{|n|^2}\,n $$
に等しい。距離の公式は、$\overrightarrow{AP}$ を法線方向に正射影した長さを計算している。分子の絶対値をはずした量 $\frac{n\cdot P-d}{|n|}$ を符号付き距離という。その符号は、$P$ が平面のどちら側にあるか($n$ の向いている側か、反対側か)を表す。
法線方向への正射影を一般の部分空間への正射影に広げる話は 正射影と射影行列 で扱う。

2 平面のなす角

平行でない 2 平面は 1 本の直線で交わる。交線に垂直な平面でそれぞれを切ったときにできる 2 直線のなす角を、2 平面のなす角という。

2 平面のなす角

平面 $H_1=H(n_1,d_1)$, $H_2=H(n_2,d_2)$ の法線ベクトルが平行でないとする。交線の方向ベクトルは $u:=n_1\times n_2$(次節で定義する外積)であり、$H_i$ 内で $u$ に垂直な方向は $v_i:=u\times n_i$ である($i=1,2$)。このとき
$$ \frac{v_1\cdot v_2}{|v_1||v_2|}=\frac{n_1\cdot n_2}{|n_1||n_2|} $$
が成り立つ。すなわち、2 平面のなす角 $\theta$($0^\circ<\theta\le90^\circ$)は、法線ベクトルのなす角が $90^\circ$ 以下ならそれに等しく、鈍角ならその補角に等しい。どちらの場合も $\cos\theta=\frac{|n_1\cdot n_2|}{|n_1||n_2|}$ である。

証明は外積の性質を使うので、次節のthm-pnv-crossのあとに置く。
内積で角を定められる根拠である Cauchy–Schwarz の不等式は Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学) で扱う。

外積:2 つのベクトルに垂直なベクトル

定義と性質

$3$ つのベクトル $a,b,c$ を行とする $3\times3$ 行列の行列式を $\det(a,b,c)$ と書く。Sarrus の方法で展開すると
$$ \det(a,b,c)=a_1b_2c_3+a_2b_3c_1+a_3b_1c_2-a_3b_2c_1-a_2b_1c_3-a_1b_3c_2 $$
である。行を巡回的に入れ替えても($a,b,c$ を $b,c,a$ にしても)6 つの項が入れ替わるだけなので $\det(a,b,c)=\det(b,c,a)$ であり、2 つの行が等しければ値は $0$ である(項が 2 つずつ打ち消し合う)。

ベクトルの外積

$a=(a_1,a_2,a_3)$, $b=(b_1,b_2,b_3)$ の外積(ベクトル積)を
$$ a\times b:=(a_2b_3-a_3b_2,\ a_3b_1-a_1b_3,\ a_1b_2-a_2b_1) $$
で定める。

外積の計算

$e_1\times e_2=e_3$, $e_2\times e_3=e_1$, $e_3\times e_1=e_2$ である。また $(1,2,3)\times(4,5,6)=(2\cdot6-3\cdot5,\ 3\cdot4-1\cdot6,\ 1\cdot5-2\cdot4)=(-3,6,-3)$ であり、$(-3,6,-3)\cdot(1,2,3)=0$, $(-3,6,-3)\cdot(4,5,6)=0$ である。

外積の性質

$a,b,c,d\in\mathbb{R}^3$ について次が成り立つ。

  1. $a\times b$ は $a$ についても $b$ についても線形であり、$b\times a=-a\times b$、$a\times a=0$ である。
  2. $(a\times b)\cdot c=\det(a,b,c)=a\cdot(b\times c)$。特に $a\times b$ は $a$ とも $b$ とも直交する。
  3. (Lagrange の恒等式)$(a\times b)\cdot(c\times d)=(a\cdot c)(b\cdot d)-(a\cdot d)(b\cdot c)$。特に $|a\times b|^2=|a|^2|b|^2-(a\cdot b)^2$ であり、$a,b\ne0$ のなす角を $\theta$ とすると $|a\times b|=|a||b|\sin\theta$ は $a,b$ の張る平行四辺形の面積に等しい。
  4. $a\times b=0$ となるのは、$a,b$ の一方が他方の実数倍のとき(平行のとき)であり、そのときに限る。
  5. $(a\times b)\times c=(a\cdot c)\,b-(b\cdot c)\,a$。
  6. $a,b$ が平行でなく、$w$ が $a$ とも $b$ とも直交するならば、ある実数 $\lambda$ について $w=\lambda\,(a\times b)$ である。
成分計算と基本ベクトルでの確認

1:各成分 $a_ib_j-a_jb_i$ が $a$ についても $b$ についても線形であり、$a$ と $b$ を入れ替えると符号が変わる。$b=a$ とすれば $a\times a=-a\times a$ なので $a\times a=0$ である。
2:$(a\times b)\cdot c=(a_2b_3-a_3b_2)c_1+(a_3b_1-a_1b_3)c_2+(a_1b_2-a_2b_1)c_3$ を展開すると Sarrus の 6 項に一致する。同じ計算で $(b\times c)\cdot a=\det(b,c,a)$ であり、これは巡回の入れ替えにより $\det(a,b,c)$ に等しい。$c=a$ または $c=b$ とすると行が重なるので $(a\times b)\cdot a=(a\times b)\cdot b=0$ である。
3:1 により両辺とも $a,b,c,d$ のそれぞれについて線形なので、$a=e_i$, $b=e_j$, $c=e_k$, $d=e_l$ の場合に示せば十分である(一般の場合は $a=\sum a_ie_i$ などを代入して展開すればよい)。右辺は $\delta_{ik}\delta_{jl}-\delta_{il}\delta_{jk}$ である($\delta_{ik}$ は $i=k$ なら $1$、それ以外は $0$)。$i=j$ または $k=l$ なら両辺とも $0$ である。$i\ne j$ かつ $k\ne l$ なら、$e_i\times e_j$ は $\{i,j\}$ に入らない番号 $m$ について $\pm e_m$ であり、$e_k\times e_l$ も同様である。左辺が $0$ でないのは $\{k,l\}=\{i,j\}$ のときだけで、$(k,l)=(i,j)$ なら左辺 $=1=$ 右辺、$(k,l)=(j,i)$ なら $e_j\times e_i=-e_i\times e_j$ から左辺 $=-1=$ 右辺である。$\{k,l\}\ne\{i,j\}$ なら右辺も $0$ である。後半は $c=a$, $d=b$ とし、$a\cdot b=|a||b|\cos\theta$ を代入すれば $|a\times b|^2=|a|^2|b|^2(1-\cos^2\theta)$ となる。平行四辺形の面積は底辺 $|a|$ と高さ $|b|\sin\theta$ の積である。
4:$b=0$ なら明らかである。$b\ne0$ なら $t:=\frac{a\cdot b}{|b|^2}$ とおくと、3 により
$$ |a-tb|^2=|a|^2-2t\,a\cdot b+t^2|b|^2=|a|^2-\frac{(a\cdot b)^2}{|b|^2}=\frac{|a\times b|^2}{|b|^2} $$
である。よって $a\times b=0$ なら $a=tb$ である。逆に一方が他方の実数倍なら、1 により $a\times b=0$ である。
5:任意の $d$ について、2($x=a\times b$, $y=c$, $z=d$ として $(x\times y)\cdot z=x\cdot(y\times z)$)と 3 により
$$ \bigl((a\times b)\times c\bigr)\cdot d=(a\times b)\cdot(c\times d)=(a\cdot c)(b\cdot d)-(a\cdot d)(b\cdot c)=\bigl((a\cdot c)b-(b\cdot c)a\bigr)\cdot d $$
である。$d=e_1,e_2,e_3$ として成分が一致する。
6:$n:=a\times b$ は 4 により $0$ でない。5 により $n\times w=(a\cdot w)b-(b\cdot w)a=0$ なので、4 により $w=\lambda n$ となる $\lambda$ がある。$\square$

2 は外積の意味を教えてくれる。$a,b$ を固定すると $c\mapsto\det(a,b,c)$ は線形汎関数なので、prop-pnv-riesz によってただ 1 つのベクトルとの内積で書ける。そのベクトルが $a\times b$ である。cor-pnv-volume により $|\det(a,b,c)|$ は平行六面体の体積なので、$a\times b$ は「$c$ を与えると符号付き体積を返す」汎関数を表すベクトルである。また $a,b$ が平行でなければ $\det(a,b,a\times b)=|a\times b|^2>0$ なので、$a,b,a\times b$ は $e_1,e_2,e_3$ と同じ向き(右手系)に並ぶ。

3 点を通る平面・交線・体積

3 点を通る平面

3 点 $A,B,C$ が一直線上にない($u:=B-A$ と $v:=C-A$ が平行でない)とき、$n:=u\times v\ne0$ であり、
$$ \{A+su+tv: s,t\in\mathbb{R}\}=H(n,\,n\cdot A) $$
である。三角形 $ABC$ の面積は $\frac12|n|$ である。

残りのベクトルが外積の実数倍になることを使う

$n\ne0$ は thm-pnv-cross の 4 による。$n\cdot u=n\cdot v=0$ なので左辺は右辺に含まれる。逆に $x$ が右辺の点なら $w:=x-A$ は $n\cdot w=0$ を満たす。$\alpha,\beta$ についての連立方程式
$$ \alpha|u|^2+\beta\,u\cdot v=w\cdot u,\qquad \alpha\,u\cdot v+\beta|v|^2=w\cdot v $$
は係数の行列式が $|u|^2|v|^2-(u\cdot v)^2=|n|^2\ne0$(thm-pnv-cross の 3)なので解をもつ。$r:=w-\alpha u-\beta v$ とおくと $r\cdot u=r\cdot v=0$ なので、thm-pnv-cross の 6 により $r=\lambda n$ であり、$r\cdot n=w\cdot n=0$ から $\lambda|n|^2=0$、$r=0$ である。よって $x=A+\alpha u+\beta v$ は左辺に入る。面積は thm-pnv-cross の 3 の平行四辺形の半分である。$\square$

2 平面のなす角の証明

$n_1,n_2$ が平行でないので $u=n_1\times n_2\ne0$ である。まず交線を求める。$x=\alpha n_1+\beta n_2$ の形で $n_1\cdot x=d_1$, $n_2\cdot x=d_2$ を解く連立方程式は、係数の行列式が $|n_1|^2|n_2|^2-(n_1\cdot n_2)^2=|u|^2\ne0$ なので解をもつ。その点を $A$ とすると、$x\in H_1\cap H_2$ は $x-A$ が $n_1,n_2$ の両方に直交することと同値であり、thm-pnv-cross の 2・6 により $x-A=\lambda u$ と同値である。よって $H_1\cap H_2=\{A+\lambda u:\lambda\in\mathbb{R}\}$ は方向 $u$ の直線である。
$v_i=u\times n_i$ は $n_i$ と $u$ に直交するので(thm-pnv-cross の 2)、$A+sv_i$ は $H_i$ に含まれ、交線に垂直な直線である。Lagrange の恒等式と $u\cdot n_i=0$ から
$$ v_1\cdot v_2=(u\cdot u)(n_1\cdot n_2)-(u\cdot n_2)(n_1\cdot u)=|u|^2\,n_1\cdot n_2,\qquad |v_i|^2=|u|^2|n_i|^2 $$
である。辺々割れば主張を得る。$\square$

2 平面のなす角

平面 $x+y=1$ と $y+z=1$ では $n_1=(1,1,0)$, $n_2=(0,1,1)$ で $\cos\theta=\frac12$、なす角は $60^\circ$ である。交線の方向は $u=n_1\times n_2=(1,-1,1)$、$v_1=u\times n_1=(-1,1,2)$, $v_2=u\times n_2=(-2,-1,1)$ で $\frac{v_1\cdot v_2}{|v_1||v_2|}=\frac36=\frac12$ である。

平行六面体の体積

$a,b$ が平行でないとき、$a,b,c$ の張る平行六面体の体積(底面積 $\times$ 高さ)は $|\det(a,b,c)|$ に等しい。

高さは点と平面の距離

底面は $a,b$ の張る平行四辺形で、その面積は $|a\times b|$ である(thm-pnv-cross の 3)。底面を含む平面は $H(a\times b,0)$ であり(cor-pnv-three-points で $A=0$)、高さは点 $c$ とこの平面の距離なので、thm-pnv-distance により $\frac{|(a\times b)\cdot c|}{|a\times b|}$ である。積は $|(a\times b)\cdot c|=|\det(a,b,c)|$ である。$\square$

平面での行列式が符号付き面積の拡大率であることは 1次変換と行列式:面積の拡大率 で扱う。

点と直線の距離

点 $A$ を通り方向 $u\ne0$ の直線 $L=\{A+tu:t\in\mathbb{R}\}$ と点 $P$ の距離は $\dfrac{|(P-A)\times u|}{|u|}$ である。

垂線の足と Lagrange の恒等式

$w:=P-A$, $t_0:=\frac{w\cdot u}{|u|^2}$, $P_1:=A+t_0u$ とおくと $(P-P_1)\cdot u=w\cdot u-t_0|u|^2=0$ なので、thm-pnv-distance の証明と同じく $|P-(A+tu)|^2=|P-P_1|^2+(t-t_0)^2|u|^2$ であり、距離は $|P-P_1|$ である。$|P-P_1|^2=|w|^2-\frac{(w\cdot u)^2}{|u|^2}=\frac{|w\times u|^2}{|u|^2}$(thm-pnv-cross の 3)である。$\square$

点と直線の距離

原点を通り方向 $(1,1,0)$ の直線と点 $(1,0,1)$ の距離は、$(1,0,1)\times(1,1,0)=(-1,1,1)$ から $\frac{\sqrt3}{\sqrt2}=\sqrt{\frac32}$ であり、垂線の足は $(\frac12,\frac12,0)$ である。

高校の計算は特別な場合:1 次式と双対空間

  • 法線ベクトルの求め方:高校で $n\cdot\overrightarrow{AB}=0$, $n\cdot\overrightarrow{AC}=0$ を解いて求める $n$ は、thm-pnv-cross の 6 によって必ず $\overrightarrow{AB}\times\overrightarrow{AC}$ の実数倍である。
  • 平面上の点と直線の距離:点 $(x_0,y_0)$ と直線 $ax+by=c$ の距離 $\frac{|ax_0+by_0-c|}{\sqrt{a^2+b^2}}$ は thm-pnv-distance の 2 次元版である。$\mathbb{R}^m$ の超平面 $\{x:n\cdot x=d\}$($n\ne0$)でも同様である。
    線形汎関数全体の集合を $(\mathbb{R}^3)^*$ と書き、双対空間という。和とスカラー倍を $(f+g)(x):=f(x)+g(x)$, $(tf)(x):=t\,f(x)$ で定めるとベクトル空間になり、prop-pnv-riesz の対応 $n\mapsto(x\mapsto n\cdot x)$ は $\mathbb{R}^3$ から $(\mathbb{R}^3)^*$ への線形な全単射である。座標関数 $x\mapsto x_1,x_2,x_3$ が $(\mathbb{R}^3)^*$ の基底(双対基底)をなす。
    平面の方程式が 1 次式なのは、線形汎関数がすべて $ax+by+cz$ の形だからである(prop-pnv-riesz)。係数 $(a,b,c)$ が本来表すのは線形汎関数であり、それを「平面に垂直なベクトル」と読めるのは内積による対応を通すからで、この対応は座標軸の直交に依存する。
反例:斜交座標では係数ベクトルは垂直でない

平面 $\mathbb{R}^2$ で $u_1=(1,0)$, $u_2=(1,1)$ を基底にとり、点 $su_1+tu_2$ を座標 $(s,t)$ で表す。直線 $s+t=1$ 上の点は $su_1+(1-s)u_2=(1,1-s)$ なので、この直線は $x=1$ であり、垂直な方向は $(1,0)$ である。一方、係数 $(1,1)$ をこの座標でベクトルと読むと $u_1+u_2=(2,1)$ であり、直線に垂直でない。「方程式の係数を並べたベクトルは直線(平面)に垂直」という主張は、座標が正規直交(軸が直交し目盛りが等しい)という条件を外すと一般には成り立たない。

例と反例

外した仮定崩れる主張ボックス
座標が正規直交であること方程式の係数を並べたベクトルは直線(平面)に垂直ex-pnv-oblique
法線ベクトルの第 1 成分が $0$ でないこと法線ベクトルを $(1,b,c)$ とおけば求まるex-pnv-normal-ansatz
数の積であること(外積に置き換える)結合法則・交換法則ex-pnv-nonassoc
四面体での検算

$A(1,0,0)$, $B(0,2,0)$, $C(0,0,3)$ とする。$\overrightarrow{AB}\times\overrightarrow{AC}=(-1,2,0)\times(-1,0,3)=(6,3,2)$ で $|n|=7$、$n\cdot A=6$ なので平面 $ABC$ は $6x+3y+2z=6$ である。三角形 $ABC$ の面積は $\frac72$、原点との距離は $\frac67$ である。四面体 $OABC$ の体積を $\frac13\times$ 底面積 $\times$ 高さで 2 通りに計算すると、$\frac13\cdot\frac72\cdot\frac67=1$ と $\frac13\cdot\frac{1\cdot2}2\cdot3=1$ で一致する。

反例:法線ベクトルを $(1,b,c)$ とおくと解けないことがある

3 点 $(0,0,0)$, $(1,0,0)$, $(0,1,1)$ を通る平面の法線ベクトルを $n=(1,b,c)$ とおくと、$n\cdot(1,0,0)=0$ から $1=0$ となり解がない。実際の法線は $(1,0,0)\times(0,1,1)=(0,-1,1)$ で、平面は $y=z$ である。「法線ベクトルの第 1 成分は $0$ でない」という暗黙の仮定が外れると、この置き方は失敗する。

反例:外積は結合法則を満たさない

$(e_1\times e_1)\times e_2=0$ だが $e_1\times(e_1\times e_2)=e_1\times e_3=-e_2$ である。外積は $b\times a=-a\times b$ で可換でもない。数の積の性質のうち、結合法則・交換法則は外積では成り立たない。

数学オリンピックの問題から

2007 年第 6 問:平面で格子点を覆う

平面が 1 次式の零点集合であることを使う問題として、国際数学オリンピック(2007 年、ハノイ)第 6 問を取り上げる。

国際数学オリンピック(2007 年)第 6 問

Let $n$ be a positive integer. Consider $S=\{(x,y,z):x,y,z\in\{0,1,\dots,n\},\ x+y+z>0\}$ as a set of $(n+1)^3-1$ points in three-dimensional space. Determine the smallest possible number of planes, the union of which contains $S$ but does not include $(0,0,0)$.
和訳(本記事による):$n$ を正の整数とする。$S=\{(x,y,z):x,y,z\in\{0,1,\dots,n\},\ x+y+z>0\}$ を空間の $(n+1)^3-1$ 個の点の集合とみる。和集合が $S$ を含み、しかも原点 $(0,0,0)$ を含まないような平面の組の、平面の個数の最小値を求めよ。
— 第 48 回国際数学オリンピック(2007 年)第 6 問(Oly07)

解答では次の補題を使う。

交代二項和

正の整数 $n$ と $0\le a< n$ を満たす整数 $a$ について $\displaystyle\sum_{j=0}^n(-1)^j\binom nj j^a=0$ である($0^0=1$ とする)。

$n$ についての帰納法

左辺を $T(n,a)$ とおく。$a=0$ なら二項定理により $T(n,0)=(1-1)^n=0$ である。$a\ge1$ とする(このとき $n\ge2$)。$j\binom nj=n\binom{n-1}{j-1}$ を使い、$i=j-1$ とおいて $(i+1)^{a-1}$ を二項展開すると
$$ T(n,a)=\sum_{j=1}^n(-1)^jn\binom{n-1}{j-1}j^{a-1}=-n\sum_{i=0}^{n-1}(-1)^i\binom{n-1}i(i+1)^{a-1}=-n\sum_{b=0}^{a-1}\binom{a-1}b\,T(n-1,b) $$
である。$b\le a-1< n-1$ なので、帰納法の仮定により右辺の各 $T(n-1,b)$ は $0$ である。$\square$

高校数学で解く

答は $3n$ である。
まず $3n$ 枚で足りる。平面 $x+y+z=k$($k=1,2,\dots,3n$)はどれも原点を通らず、$S$ の点は $x+y+z$ が $1$ 以上 $3n$ 以下なので、どれかに乗る。
次に、$3n$ 枚より少なくできないことを示す。$m$ 枚の平面が条件を満たすとし、$m<3n$ と仮定する。$i$ 番目の平面を $a_ix+b_iy+c_iz=d_i$ とすると、原点を通らないので $d_i\ne0$ である。多項式
$$ P(x,y,z):=\prod_{i=1}^m(a_ix+b_iy+c_iz-d_i) $$
は $S$ の各点で $0$ になり、$P(0,0,0)=\prod_i(-d_i)\ne0$ である。$w(t):=(-1)^t\binom nt$ とおき、重み付きの和
$$ \Sigma:=\sum_{x=0}^n\sum_{y=0}^n\sum_{z=0}^n w(x)w(y)w(z)\,P(x,y,z) $$
を 2 通りに計算する。$P$ は原点以外で $0$ なので $\Sigma=w(0)^3P(0,0,0)=P(0,0,0)\ne0$ である。一方、$P$ を展開すると次数 $\alpha+\beta+\gamma\le m<3n$ の単項式 $x^\alpha y^\beta z^\gamma$ の定数倍の和であり、単項式ごとに和は
$$ \sum_{x,y,z}w(x)w(y)w(z)x^\alpha y^\beta z^\gamma=T(n,\alpha)\,T(n,\beta)\,T(n,\gamma) $$
と分かれる。$\alpha+\beta+\gamma<3n$ なので $\alpha,\beta,\gamma$ のどれかは $n$ より小さく、lem-pnv-alternating によってその因子が $0$ になる。よって $\Sigma=0$ となり矛盾する。したがって $m\ge3n$ である。$\square$

大学数学で見ると

平面は零でない 1 次式(線形汎関数から定数を引いたもの)の零点集合なので、$m$ 枚の平面の和集合は $m$ 次多項式 $P$ の零点集合である。問題は「格子 $\{0,\dots,n\}^3$ のうち原点だけで $0$ にならない多項式の次数は $3n$ 以上か」という問いになる。
証明で使った $P\mapsto\Sigma$ は、多項式全体のベクトル空間上の線形汎関数である。補題は、この汎関数が次数 $3n$ 未満の多項式をすべて $0$ に送ることを言っている。一方、格子上で原点以外では $0$ になる多項式には、$\Sigma$ は原点での値そのものを返す。この 2 つが両立しないことが下界の正体である。このように多項式の次数を線形代数で抑える議論は多項式法と呼ばれ、Alon の Combinatorial Nullstellensatz(Alo99 の定理 1.1・1.2)はその一般的な定式化である(この記事では証明しない)。
原点を含んでよいなら、平面 $x=0,1,\dots,n$ の $n+1$ 枚で足りる。「原点を含まない」という 1 点だけの条件で、答は $3n$ まで大きくなる。

さらに先へ

  • $m$ 次元の法線ベクトル:$\mathbb{R}^m$ の $m-1$ 個のベクトル $a_1,\dots,a_{m-1}$ について $x\mapsto\det(a_1,\dots,a_{m-1},x)$ は線形汎関数なので、prop-pnv-riesz と同じ議論でただ 1 つのベクトルとの内積で書ける。これが外積の一般化であり、$a_1,\dots,a_{m-1}$ が 1 次独立なら、それらの張る超平面の法線ベクトルを与える(この記事では証明しない)。
  • 外積代数:外積 $a\times b$ は、向きのついた平行四辺形を表す $a\wedge b$ を内積でベクトルに読みかえたものである。
  • 双対空間:一般のベクトル空間 $V$ でも、線形汎関数の全体は双対空間 $V^*$ というベクトル空間をなす(Axl24 の §3F。そこでは $V'$ と書く)。超平面は零でない線形汎関数の等位集合として表され、$V^*$ は「超平面の方程式の空間」と見られる(この記事では証明しない)。有限次元の内積空間では prop-pnv-riesz と同じ主張が成り立ち、Riesz の表現定理と呼ばれる(Axl24 の 6.42)。

関連項目

参考文献

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