HNN拡大

同義語:HNN extensionHNN construction

概要

HNN拡大(HNN extension)とは、群 $G$ の部分群の同型 $\varphi\colon A\to B$ に対し、$G$ に新しい元 $t$ を加えて関係式 $tat^{-1}=\varphi(a)$($a\in A$)だけを課した群 $G\ast_\varphi$ のことである。その元は正規形とよぶ語でただ 1 通りに書け、そこから $G$ が $G\ast_\varphi$ に単射に埋め込まれることと、$t$ を含む語が $tat^{-1}$($a\in A$)や $t^{-1}bt$($b\in B$)の形の部分を含まなければ単位元でないこと(Britton の補題)が従う。同じ位数の元を共役にする埋め込みや、Hopf 的でない Baumslag–Solitar 群 $\mathrm{BS}(2,3)$ の証明に使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 群の表示, 自由積, 正規閉包, 群の作用

群 $G$ の二つの部分群 $A,B$ が同型 $\varphi\colon A\to B$ で結ばれているとき、$G$ を含むもっと大きな群で、$A$ と $B$ が一つの元 $t$ による共役で移り合うもの、すなわち $tat^{-1}=\varphi(a)$ となるものを作りたい。そのような群のうち最も一般的なものが HNN 拡大(HNN extension)である。名は G. Higman・B. H. Neumann・H. Neumann の頭文字による(Dav07 付録 E の Notes、p. 463)。
HNN 拡大の基本定理は、その元が「正規形」とよぶ語でただ 1 通りに書けることである。ここから、もとの群 $G$ が HNN 拡大に単射に埋め込まれること、$t$ を含む語が単位元になるには「$tat^{-1}$($a\in A$)か $t^{-1}bt$($b\in B$)の形の部分」が必ず現れること(Britton の補題)が従う。この記事では HNN 拡大を定義し、例を挙げ、正規形定理を群の作用を使って証明する。応用として、同じ位数の元を共役にする埋め込みと、Baumslag–Solitar 群 $\langle a,t\mid ta^2t^{-1}=a^3\rangle$ が Hopf 的でないことを示す。

定義

以下、群 $G$ の部分群 $A,B$ と同型 $\varphi\colon A\to B$ を固定する。群の表示は 群の表示 の記事の記法 $\langle X\mid R\rangle$ に従い、関係子 $uv^{-1}$ を関係式 $u=v$ の形でも書く。

HNN 拡大

$G$ と無限巡回群 $\langle t\rangle$ の 自由積 $G\ast\langle t\rangle$ を、元 $tat^{-1}\varphi(a)^{-1}$($a\in A$)全体の正規閉包 $N$ で割った群
$$ G\ast_\varphi:=(G\ast\langle t\rangle)/N=\langle G,t\mid tat^{-1}=\varphi(a)\ (a\in A)\rangle $$
を、$G$ の $\varphi$ による HNN 拡大 という。$G$ を 底群、$t$ を 安定文字(stable letter)、$A,B$ を 結合部分群 という。$G$ の元と $t$ の $G\ast_\varphi$ での像も同じ文字で書く。

$\varphi$ を明示しないときは $G\ast_A$ とも書く。定義から、$G$ から $G\ast_\varphi$ への写像 $g\mapsto g$ は準同型だが、これが単射であることは自明でない(cor-hnn-embedding)。$G$ が表示 $\langle X\mid R\rangle$ をもち、$A$ が部分集合 $Y$ で生成されるなら、$G\ast_\varphi=\langle X,t\mid R,\ tyt^{-1}=\varphi(y)\ (y\in Y)\rangle$ である。$\varphi(y)$ は $X$ の語で書いておく。実際、$tyt^{-1}\varphi(y)^{-1}$($y\in Y$)の正規閉包を $N'$ とすると、$a\mapsto tat^{-1}N'$ と $a\mapsto\varphi(a)N'$ はどちらも $A$ から $(G\ast\langle t\rangle)/N'$ への準同型で、生成系 $Y$ の上で一致するので $A$ 全体で一致する。よって $N'=N$ であり、$G\ast\langle t\rangle$ の表示は 自由積 の系「群の表示による自由積の記述」による。

普遍性

群 $K$ について、準同型 $G\ast_\varphi\to K$ は、準同型 $\psi\colon G\to K$ と元 $k\in K$ で、すべての $a\in A$ について $k\,\psi(a)\,k^{-1}=\psi(\varphi(a))$ を満たす組 $(\psi,k)$ と一対一に対応する($t\mapsto k$)。自由積の普遍性(自由積 の命題「自由積は群の圏の余積」)と、正規閉包で割った群の普遍性による。

例

自明な部分群と全体
  1. $A=B=\{e\}$ なら、関係式がないので $G\ast_\varphi=G\ast\langle t\rangle\cong G\ast\mathbb Z$ である。
  2. $A=B=G$ で $\varphi$ が $G$ の自己同型なら、$G\ast_\varphi$ は 半直積 $G\rtimes_\varphi\mathbb Z$($\mathbb Z$ の生成元が $\varphi$ で作用する)と同型である。
2 の同型の確かめを開く

半直積 $G\rtimes_\varphi\mathbb Z$ を、台集合 $G\times\mathbb Z$、積 $(g,k)(h,l):=(g\varphi^k(h),k+l)$ の群とする。$\psi(g):=(g,0)$、$k:=(e,1)$ とおくと $(e,1)(a,0)(e,-1)=(\varphi(a),0)$ なので、rem-hnn-universal により $g\mapsto(g,0)$、$t\mapsto(e,1)$ で準同型 $\Phi\colon G\ast_\varphi\to G\rtimes_\varphi\mathbb Z$ が定まる。逆向きに $\Psi(g,k):=gt^k$ とおくと、$G\ast_\varphi$ で $t^kh=\varphi^k(h)t^k$ が成り立つので $\Psi((g,k)(h,l))=g\varphi^k(h)t^{k+l}=gt^kht^l=\Psi(g,k)\Psi(h,l)$ である。$\Phi\circ\Psi$ と $\Psi\circ\Phi$ は生成元を固定するので恒等写像である。

Baumslag–Solitar 群

0 でない整数 $m,n$ について、無限巡回群 $G=\langle a\rangle$、$A=\langle a^m\rangle$、$B=\langle a^n\rangle$、$\varphi(a^{mk}):=a^{nk}$ の HNN 拡大
$$ \mathrm{BS}(m,n):=\langle a,t\mid ta^mt^{-1}=a^n\rangle $$
を Baumslag–Solitar 群 という。$\mathrm{BS}(1,1)\cong\mathbb Z^2$ であり、$\mathrm{BS}(1,-1)=\langle a,t\mid tat^{-1}=a^{-1}\rangle$ は Kleinの壺 の基本群である。$\mathrm{BS}(1,2)$ は、分母が $2$ の冪の有理数の加法群 $\mathbb Z[1/2]$ と $\mathbb Z$ の半直積と同型である(群の表示複体 の例「Baumslag–Solitar 群 BS(1,2)」)。

位相空間での実現

HNN 拡大は、空間の貼り合わせで現れる。$K(G,1)$ 空間に $K(A,1)\times[0,1]$ の両端を、包含 $A\hookrightarrow G$ と $\varphi$ を実現する写像で貼り付けた空間の基本群が $G\ast_\varphi$ であり、この空間は $K(G\ast_\varphi,1)$ 空間である(Hat02 Example 1B.13(p. 93)と Theorem 1B.11(p. 92)。この記事では証明しない)。$\mathrm{BS}(m,n)$ はこの形で、円周に円柱の両端を $|m|$ 重と $|n|$ 重の被覆で貼った空間の基本群になる(Hat02 §1.B の演習 5(p. 96)は $m=1$、$n=2$ の場合)。

正規形定理

$G$ の部分集合 $R_A$ で、$e\in R_A$ かつ各右剰余類 $Ag$ からちょうど 1 つの元を含むものを固定する。$G$ のどの元も $g=ar$($a\in A$、$r\in R_A$)とただ 1 通りに書ける。同様に $R_B$ を $B$ の右剰余類の代表系($e$ を含む)とする。$G\ast_\varphi$ では
$$ t\,a=\varphi(a)\,t\quad(a\in A),\qquad t^{-1}b=\varphi^{-1}(b)\,t^{-1}\quad(b\in B) $$
が成り立つので、$t^{\pm1}$ の右にある $A$ や $B$ の元は左へ移せる。

正規形

$n\ge0$、$g_0\in G$、$\varepsilon_i\in\{1,-1\}$、$g_i\in G$($1\le i\le n$)の列 $\omega=(g_0,\varepsilon_1,g_1,\dots,\varepsilon_n,g_n)$ が次の 2 条件を満たすとき、正規形 という。

  1. $\varepsilon_i=1$ なら $g_i\in R_A$、$\varepsilon_i=-1$ なら $g_i\in R_B$ である($1\le i\le n$)。
  2. $1\le i\le n-1$ について、$g_i=e$ かつ $\varepsilon_{i+1}=-\varepsilon_i$ となることはない。
    正規形全体の集合を $\Omega$ とし、$\omega$ が表す元を $\langle\omega\rangle:=g_0t^{\varepsilon_1}g_1\cdots t^{\varepsilon_n}g_n\in G\ast_\varphi$ と書く。$n$ を $\omega$ の 長さ という。

2 は、$t\,e\,t^{-1}$ や $t^{-1}e\,t$ のように打ち消せる部分を含まないことを表す。1 のもとでは、$\varepsilon_i=1$ のとき $g_i\in A$ と $g_i=e$ は同値である($A$ の右剰余類 $A$ の代表は $e$)。

正規形定理

$G\ast_\varphi$ のどの元も、ただ 1 つの正規形 $\omega\in\Omega$ によって $\langle\omega\rangle$ と表される。

正規形の集合への作用

$\Omega$ の上に、$G$ と $t$ を置換として働かせる(van der Waerden の方法。自由積 の記事の注意「簡約語による構成の由来」と同じ考え方)。$h\in G$ には $h\cdot(g_0,\varepsilon_1,\dots)=(hg_0,\varepsilon_1,\dots)$ を対応させる。これは $G$ の $\Omega$ への作用である。写像 $T\colon\Omega\to\Omega$ を、$g_0=ar$($a\in A$、$r\in R_A$)と書いて
$$ T(\omega):=\begin{cases}(\varphi(a)g_1,\varepsilon_2,g_2,\dots,\varepsilon_n,g_n)&(r=e,\ n\ge1,\ \varepsilon_1=-1)\\(\varphi(a),1,r,\varepsilon_1,g_1,\dots,\varepsilon_n,g_n)&(\text{それ以外})\end{cases} $$
で定める。$A,B,\varphi,R_A$ を $B,A,\varphi^{-1},R_B$ に、符号 $1,-1$ を $-1,1$ に替えて同じ式で $T'$ を定める。どちらの値も正規形であり、$T'T=TT'=\mathrm{id}$ となって $T$ は全単射である(下の折りたたみ)。さらに $a\in A$ について $T(a\cdot\omega)=\varphi(a)\cdot T(\omega)$ が成り立つ。$g_0=a_0r$ なら $ag_0=(aa_0)r$ で $r$ が変わらず、場合分けも変わらないので、両辺は $\varphi(aa_0)=\varphi(a)\varphi(a_0)$ の違いしかないからである。
よって、rem-hnn-universal を置換群 $\operatorname{Sym}(\Omega)$ に当てはめて、$h\mapsto(h\cdot)$、$t\mapsto T$ で準同型 $\rho\colon G\ast_\varphi\to\operatorname{Sym}(\Omega)$ が定まる。正規形の定義の式をそのまま $G\ast_\varphi$ で読むと、
$$ \langle h\cdot\omega\rangle=h\langle\omega\rangle,\qquad\langle T(\omega)\rangle=t\langle\omega\rangle\qquad(h\in G,\ \omega\in\Omega) $$
が成り立つ(1 つ目の場合は $t\,a\,t^{-1}g_1=\varphi(a)g_1$、2 つ目の場合は $t\,ar=\varphi(a)\,t\,r$ を使う)。生成元で成り立つので、すべての $x\in G\ast_\varphi$ について $\langle\rho(x)\omega\rangle=x\langle\omega\rangle$ である。
長さ 0 の正規形 $\omega_0:=(e)$ について、正規形 $\omega$ は $\rho(\langle\omega\rangle)\omega_0=\omega$ を満たす。長さについての帰納法で示す。長さ 0 なら $\omega=(g_0)=g_0\cdot\omega_0$ である。$\omega=(g_0,\varepsilon_1,g_1,\dots)$ の長さが $n\ge1$ のとき、$\omega_1:=(g_1,\varepsilon_2,\dots,g_n)$ は長さ $n-1$ の正規形で、帰納法の仮定から $\rho(\langle\omega_1\rangle)\omega_0=\omega_1$ である。$\varepsilon_1=1$ とすると $g_1\in R_A$ なので $g_1=e\cdot g_1$ と書け、$g_1=e$ のときは正規形の条件 2 から $\varepsilon_2\ne-1$(または $n=1$)である。したがって $T$ の定義の「それ以外」の場合にあたり、$T(\omega_1)=(e,1,g_1,\varepsilon_2,\dots,g_n)$ となる。$g_0$ を左から作用させると $\omega$ になる。$\varepsilon_1=-1$ のときも $T'$ で同様である。
以上から、どの $x\in G\ast_\varphi$ も $x=x\langle\omega_0\rangle=\langle\rho(x)\omega_0\rangle$ と正規形で表され、$\langle\omega\rangle=\langle\omega'\rangle$ なら $\omega=\rho(\langle\omega\rangle)\omega_0=\rho(\langle\omega'\rangle)\omega_0=\omega'$ である。$\square$

$T$ の値が正規形であることと $T'T=\mathrm{id}$ の確かめを開く

正規形であること.1 つ目の場合は、$\omega$ の先頭の $(g_0,\varepsilon_1)$ を取り除いて $g_1$ に左から $\varphi(a)$ を掛けただけなので、残りの条件はそのまま成り立つ(先頭の $g_0$ には条件がない)。2 つ目の場合、新しい $g_1$ は $r\in R_A$ で $\varepsilon=1$ なので条件 1 を満たす。条件 2 が新しく問題になるのは「$r=e$ かつ $\varepsilon_1=-1$」のときだけで、それは 1 つ目の場合($n\ge1$ のとき)として除いてある。

$T'T=\mathrm{id}$.2 つ目の場合、$T(\omega)=(\varphi(a),1,r,\varepsilon_1,\dots)$ の先頭 $\varphi(a)$ は $B$ に属するので $\varphi(a)=\varphi(a)\cdot e$($e\in R_B$)と分解され、次の符号は $1$ である。これは $T'$ の 1 つ目の場合($\varepsilon$ の符号を入れ替えたもの)にあたり、$T'(T(\omega))=(\varphi^{-1}(\varphi(a))r,\varepsilon_1,g_1,\dots)=(ar,\varepsilon_1,\dots)=\omega$ である。1 つ目の場合、$\omega=(a,-1,g_1,\varepsilon_2,\dots)$($a\in A$)で $T(\omega)=(\varphi(a)g_1,\varepsilon_2,\dots)$ である。$g_1\in R_B$ なので $\varphi(a)g_1$ の分解は $\varphi(a)\cdot g_1$ である。$g_1\ne e$ なら $T'$ の 2 つ目の場合にあたる。$g_1=e$ なら $\omega$ の条件 2 から $\varepsilon_2=-1$ か $n=1$ で、やはり 2 つ目の場合にあたる。よって $T'(T(\omega))=(\varphi^{-1}(\varphi(a)),-1,g_1,\varepsilon_2,\dots)=\omega$ である。$TT'=\mathrm{id}$ も、文字を入れ替えた同じ計算で分かる。

底群の埋め込み

$g\mapsto g$ で定まる準同型 $G\to G\ast_\varphi$ は単射である。また、$t$ は無限位数である。

$g\in G$ は長さ 0 の正規形 $(g)$ が表す元で、thm-hnn-normal-form の一意性から、$g\ne g'$ なら $G\ast_\varphi$ で異なる。$k\ge1$ について $t^k$ は正規形 $(e,1,e,1,\dots,1,e)$(長さ $k$。符号がすべて等しいので条件 2 を満たす)が表す元で、長さ 0 の $(e)$ と異なるので $t^k\ne e$ である。$\square$

Britton の補題

$n\ge1$、$h_0,\dots,h_n\in G$、$\varepsilon_i\in\{1,-1\}$ とし、語 $w=h_0t^{\varepsilon_1}h_1\cdots t^{\varepsilon_n}h_n$ が、「$\varepsilon_i=1$、$h_i\in A$、$\varepsilon_{i+1}=-1$」となる $i$ も「$\varepsilon_i=-1$、$h_i\in B$、$\varepsilon_{i+1}=1$」となる $i$ ももたないとする。このとき $G\ast_\varphi$ で $w\ne e$ である。

右から代表元に直す

仮定の条件を「挟み込みがない」とよぶ。$h_n$ を、$\varepsilon_n=1$ なら $h_n=cr$($c\in A$、$r\in R_A$)、$\varepsilon_n=-1$ なら $h_n=cr$($c\in B$、$r\in R_B$)と分解し、$t^{\varepsilon_n}c=c't^{\varepsilon_n}$($c'=\varphi(c)$ または $\varphi^{-1}(c)$)を使って $h_{n-1}$ を $h_{n-1}c'$ に、$h_n$ を $r$ に替える。$G\ast_\varphi$ の元としては同じである。$\varepsilon_{n-1}=-\varepsilon_n$ の場合、$\varepsilon_n=-1$ なら $c'\in A$ なので「$h_{n-1}c'\in A\iff h_{n-1}\in A$」、$\varepsilon_n=1$ なら $c'\in B$ なので「$h_{n-1}c'\in B\iff h_{n-1}\in B$」であり、挟み込みがないことは保たれる。一般の位置 $i$ で $h_i=cr$ を $r$ に替えるときも、$\varepsilon_i=1$ なら $h_i\in A\iff r\in A$、$\varepsilon_i=-1$ なら $h_i\in B\iff r\in B$ なので、位置 $i$ の挟み込みがないことは保たれる。同じ操作を $h_{n-1},\dots,h_1$ の順に行うと、長さ $n$ の列 $(h_0',\varepsilon_1,h_1',\dots,\varepsilon_n,h_n')$ で条件 1 を満たし、挟み込みがないものが得られる。条件 1 のもとでは、挟み込みがないことは正規形の条件 2 と同じである。よって $w$ は長さ $n\ge1$ の正規形が表す元で、thm-hnn-normal-form の一意性により、長さ 0 の正規形 $(e)$ が表す $e$ と異なる。$\square$

底群と共役の共通部分

$G\ast_\varphi$ で $tGt^{-1}\cap G=B$ である。

$B=\varphi(A)=tAt^{-1}\subset tGt^{-1}\cap G$ である。逆に $g\in G\setminus A$ と $g'\in G$ について、語 $t\,g\,t^{-1}g'^{-1}$ は $n=2$ で、$h_1=g\notin A$ なので挟み込みがない。cor-hnn-britton により $tgt^{-1}g'^{-1}\ne e$、すなわち $tgt^{-1}\ne g'$ である。よって $tgt^{-1}\in G$ となるのは $g\in A$ のときだけである。$\square$

応用

同じ位数の元を共役にする

二つの元を共役にする拡大

群 $G$ の元 $x,y$ の位数が等しい(どちらも無限位数でもよい)なら、$G$ を部分群として含む群 $G'$ と $s\in G'$ で $sxs^{-1}=y$ となるものがある。

位数が等しいので、$A=\langle x\rangle$ から $B=\langle y\rangle$ への $\varphi(x^k):=y^k$ は矛盾なく定まる同型である($x^k=x^l\iff y^k=y^l$)。$G':=G\ast_\varphi$、$s:=t$ とすれば $txt^{-1}=y$ であり、cor-hnn-embedding により $G$ は $G'$ の部分群とみなせる。$\square$

この操作を限りなく繰り返すと、どの群 $G$ も、同じ位数の元どうしがすべて共役になる群に埋め込める。

繰り返しの構成を開く

群の増大列 $H_0\le H_1\le\cdots$(あるいは整列集合で添字づけた増大列)の和集合は、各 $H_\alpha$ の演算をつなげて群になり、各 $H_\alpha$ はその部分群である。群 $K$ に対し、位数の等しい元の対の全体を整列させて $(x_\alpha,y_\alpha)_{\alpha < \lambda}$ とし、$K_0:=K$、$K_{\alpha+1}:=K_\alpha$ に prop-hnn-conjugate を $x_\alpha,y_\alpha$ について当てはめた群、極限順序数 $\beta$ では $K_\beta:=\bigcup_{\alpha < \beta}K_\alpha$ と定め、$K^\sharp:=\bigcup_{\alpha\le\lambda}K_\alpha$ とおく。$x_\alpha,y_\alpha$ の位数は部分群 $K\le K_\alpha$ で測っても $K_\alpha$ で測っても同じなので、各段で prop-hnn-conjugate が使える。$K^\sharp$ では $K$ の位数の等しい元がすべて共役になる。$G_0:=G$、$G_{j+1}:=G_j^\sharp$、$G^\ast:=\bigcup_jG_j$ とおくと、$G^\ast$ の位数の等しい 2 元はある $G_j$ に入り、$G_{j+1}$ で共役になる。

Hopf 的でない群

群が Hopf 的 であるとは、全射な自己準同型がすべて単射であることをいう(組合せ群論 の定義「剰余有限群と Hopf 的な群」)。

BS(2,3) は Hopf 的でない

$\Gamma:=\mathrm{BS}(2,3)=\langle a,t\mid ta^2t^{-1}=a^3\rangle$ について、$a\mapsto a^2$、$t\mapsto t$ で定まる自己準同型 $f\colon\Gamma\to\Gamma$ は全射だが単射でない。

Britton の補題で核の元を見つける

$f(ta^2t^{-1})=ta^4t^{-1}=(ta^2t^{-1})^2=a^6=f(a^3)$ なので、関係式が保たれて $f$ は矛盾なく定まる。像は $a^2$ と $t$ を含むので $ta^2t^{-1}=a^3$ を含み、$a=a^3a^{-2}$ も含む。よって $f$ は全射である。
$w:=(tat^{-1})\,a\,(tat^{-1})^{-1}a^{-1}=t\,a\,t^{-1}\,a\,t\,a^{-1}\,t^{-1}\,a^{-1}$ とおく。$f(w)=(ta^2t^{-1})\,a^2\,(ta^2t^{-1})^{-1}a^{-2}=a^3a^2a^{-3}a^{-2}=e$ である。一方、$\Gamma$ は $G=\langle a\rangle$、$A=\langle a^2\rangle$、$B=\langle a^3\rangle$ の HNN 拡大で(ex-hnn-bs)、$w$ は $n=4$、符号 $1,-1,1,-1$、挟まれる元 $a,a,a^{-1}$ の語である。$a\notin A$、$a\notin B$、$a^{-1}\notin A$ なので挟み込みがなく、cor-hnn-britton により $w\ne e$ である。したがって $f$ の核は自明でない。$\square$

$\Gamma$ は 2 元で生成されるので、組合せ群論 の定理「有限生成の剰余有限群は Hopf 的」の対偶により、$\Gamma$ は剰余有限でない。Baumslag と Solitar は、0 でない整数 $l,m$ について、$l,m$ のどちらも他方を割らず、$l,m$ の素因数の集合が異なるとき、$\langle a,b\mid a^{-1}b^la=b^m\rangle$ が Hopf 的でないことを示した(BS62 Theorem 1 の (c)、p. 200。この記事では一般の場合を証明しない)。prop-hnn-non-hopfian の群は、$a$ を $t^{-1}$、$b$ を $a$ と読み替えたときの $l=2$、$m=3$ の場合である。

木への作用と分解

HNN 拡大と融合積(Van Kampenの定理)は、群のグラフの基本群という一つの構成の特別な場合で、群のグラフの基本群は木に作用し、その商が元のグラフになる(Bass–Serre の理論。Dav07 付録 E の Definition E.1.1・E.1.2・E.1.4(p. 450)・Theorem E.1.7(p. 451)。この記事では証明しない)。有限生成の群が 2 つ以上の端をもてば、有限部分群に沿った融合積か HNN 拡大に分解する(Stallings の定理。Dav07 Theorem 8.6.3(p. 159)。この記事では証明しない)。

反例:条件を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
$\varphi$ が単射(cor-hnn-embedding)$G=\langle a\rangle\cong\mathbb Z$、$A=G$、$B=\{e\}$、$\varphi$ は自明な準同型$G\to\langle G,t\mid tat^{-1}=e\rangle$ が単射であること
挟み込みがない(cor-hnn-britton)$a\in A\setminus\{e\}$ について $w=t\,a\,t^{-1}\varphi(a)^{-1}$$w\ne e$
正規形の条件 1(thm-hnn-normal-form)$a\in A\setminus\{e\}$ について列 $(e,1,a)$ と $(\varphi(a),1,e)$表し方の一意性
表の反例の確かめ

1 行目:関係式 $tat^{-1}=e$ から $a=t^{-1}et=e$ となり、無限巡回群 $G$ の全体が単位元に潰れる。
2 行目:関係式により $tat^{-1}=\varphi(a)$ なので $w=e$ である。この語は $n=2$ で、$\varepsilon_1=1$、$h_1=a\in A$、$\varepsilon_2=-1$ の挟み込みをもつ。
3 行目:$t\,a=\varphi(a)\,t$ なので、2 つの列は同じ元 $ta$ を表す。$(\varphi(a),1,e)$ は正規形だが、$(e,1,a)$ は $a\notin R_A$($A$ の代表は $e$)なので条件 1 を満たさない。2 つの列は異なるので、条件 1 を外すと一意性が成り立たない。

関連項目

参考文献

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