Eulerの公式(指数関数)(Euler's formula)とは、指数関数と三角関数を結ぶ等式 $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$ のことで、実数 $\theta$ では点 $e^{i\theta}$ が単位円の上の弧度 $\theta$ の点であることを表す。指数関数と三角関数を冪級数で定めると、すべての複素数 $z$ について $e^{iz}=\cos z+i\sin z$ が成り立ち、$\cos z$ と $\sin z$ は $e^{\pm iz}$ で表せる。ここから指数関数の周期が $2\pi i$ であること、複素数の正弦・余弦の零点が実数に限ること、$e^{i\pi}+1=0$ が従う。加法定理・倍角の公式・三角関数の和や積分を指数法則と等比数列の計算に置き換える道具として、Fourier 級数や線形微分方程式で使われる。
Euler の公式(Euler's formula)は、指数関数と三角関数を複素数で結ぶ等式
$$
e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta
$$
である。実数 $\theta$ について読めば、点 $e^{i\theta}$ は複素平面の単位円の上で、点 $1$ から反時計回りに弧の長さ $\theta$ だけ進んだ点である。指数関数と三角関数を冪級数で定義すると、この等式はすべての複素数 $\theta$ について成り立つ定理になる。
この公式によって、三角関数の加法定理は指数法則 $e^{i(\alpha+\beta)}=e^{i\alpha}e^{i\beta}$ に、倍角の公式は冪 $(e^{i\theta})^n=e^{in\theta}$ に、三角関数の和や積分は等比数列の和や指数関数の積分に置き換わる。複素数の指数関数が周期 $2\pi i$ をもつこと、複素数の正弦・余弦の零点が実数に限ることも、この公式から導かれる。
同じ「Euler の公式」の名で呼ばれるものに、平面グラフの頂点・辺・面の個数の関係 $v-e+f=2$ がある。こちらは Eulerの公式(平面グラフ) で扱う。実数 $\theta$ に限って $\cos\theta+i\sin\theta$ を $e^{i\theta}$ と書く約束から出発し、複素数の掛け算を回転として読む見方は 複素数の掛け算は回転と拡大 にある。
複素数 $z$ について、指数関数・余弦・正弦を冪級数
$$
e^z:=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{z^n}{n!},\qquad \cos z:=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^kz^{2k}}{(2k)!},\qquad \sin z:=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^kz^{2k+1}}{(2k+1)!}
$$
で定める(指数関数 の記事の定義「複素数の指数関数」、三角関数 の記事の定義「冪級数による余弦と正弦」)。3 つの級数はすべての複素数で絶対収束し、実数 $x$ ではそれぞれ実数の指数関数・余弦・正弦に一致する。以下では次の 2 つの事実を使う。
すべての複素数 $z$ について
$$
e^{iz}=\cos z+i\sin z,\qquad e^{-iz}=\cos z-i\sin z
$$
が成り立つ。したがって
$$
\cos z=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2},\qquad \sin z=\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i}
$$
であり、実数 $x,y$ について
$$
e^{x+iy}=e^x(\cos y+i\sin y)
$$
である。特に実数 $\theta$ について $\cos\theta=\operatorname{Re}e^{i\theta}$、$\sin\theta=\operatorname{Im}e^{i\theta}$ である。
$F(z):=e^{-iz}(\cos z+i\sin z)$ とおく。$F$ は $\mathbb{C}$ 上の正則関数の積なので正則であり(正則関数 の記事の命題「正則関数の四則と合成」)、積の微分の公式と上の導関数から
$$
F'(z)=-ie^{-iz}(\cos z+i\sin z)+e^{-iz}(-\sin z+i\cos z)=e^{-iz}\bigl(-i\cos z+\sin z-\sin z+i\cos z\bigr)=0
$$
である。$\mathbb{C}$ は連結な開集合なので、$F$ は定数である(正則関数 の記事の命題「導関数が消える正則関数」)。$F(0)=e^0(\cos0+i\sin0)=1$ だから、すべての $z$ で $F(z)=1$ である。両辺に $e^{iz}$ を掛け、指数法則 $e^{iz}e^{-iz}=1$ を使うと $\cos z+i\sin z=e^{iz}$ を得る。
$\cos$ は偶数次の項だけ、$\sin$ は奇数次の項だけをもつので $\cos(-z)=\cos z$、$\sin(-z)=-\sin z$ である。第 1 式の $z$ を $-z$ に替えると第 2 式を得る。2 式の和と差を 2 と $2i$ で割れば $\cos z$ と $\sin z$ の表示を得る。最後の式は指数法則 $e^{x+iy}=e^xe^{iy}$ に第 1 式を代入したものである。$x$ が実数なら $\cos x,\sin x$ は実数なので、$e^{ix}$ の実部と虚部はそれぞれ $\cos x$ と $\sin x$ である。
三角関数 の記事の定理「Euler の公式」は、級数 $\sum(iz)^n/n!$ の部分和を偶数次と奇数次に分けて同じ等式を示している。上の証明は級数の並べ方に触れず、「導関数が $0$ なら定数」という事実だけを使う。実数 $\theta$ に限った同じ型の議論(微分方程式 $f'=if$、$f(0)=1$ の解の一意性)は 複素数の掛け算は回転と拡大 の定理「$e^{i\theta}$ の微分方程式による特徴づけ」にある。逆に、$e^z$ を先に定め、$\cos z:=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}2$、$\sin z:=\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i}$ を定義とする流儀もあり、そのときは冪級数の形が定理になる(Leb2 §11.4.2、Proposition 11.4.2、pp. 164–165)。実数の指数関数と三角関数を既知として、$e^{x+iy}:=e^x(\cos y+i\sin y)$ を複素数の指数関数の定義とする流儀もある(LebGCCA26 §1.2.1、pp. 14–15)。どの流儀でも同じ 3 つの関数が得られる。
$\theta=\pi$ とおくと、$\cos\pi=-1$、$\sin\pi=0$(三角関数 の記事の定理「周期と零点」の 1)により
$$
e^{i\pi}=-1,\qquad\text{すなわち}\qquad e^{i\pi}+1=0
$$
である。同じ定理から $e^{i\pi/2}=i$、$e^{2\pi i}=1$ である。
実数 $t$ を時刻と考えて点 $p(t):=e^{it}$ の動きを見る。thm-efe-main により $|p(t)|^2=\cos^2t+\sin^2t=1$ なので、$p(t)$ はつねに単位円の上にある。速度は $p'(t)=ie^{it}=ip(t)$ であり、$i$ を掛けることは原点のまわりの $90^\circ$ の回転だから、速度はつねに位置ベクトルに直交し、長さは $1$ である。したがって $p(t)$ は単位円の上を速さ $1$ で反時計回りに回り、時刻 $t$ までに進む道のりは $t$、すなわち弧度 $t$ の角に対応する点に着く。Euler の公式は「速度が位置の $i$ 倍である運動は等速円運動である」という事実の式による表現である。
一方、実数 $a$ について $e^{at}$ は速度が位置の $a$ 倍の運動で、原点からまっすぐ遠ざかる($a>0$)か近づく($a<0$)。$e^{(a+ib)t}=e^{at}e^{ibt}$ はこの 2 つの合成で、原点のまわりを回りながら半径が指数的に変わる螺旋を描く。
1:thm-efe-main により $e^{x+iy}=e^x(\cos y+i\sin y)$ で、$e^x>0$、$\cos^2y+\sin^2y=1$(三角関数 の記事の系「余弦と正弦の平方の和」)だから $|e^{x+iy}|=e^x$ である。$\cos$ が偶関数、$\sin$ が奇関数であることから $\overline{e^{i\theta}}=\cos\theta-i\sin\theta=e^{-i\theta}$ であり、指数法則により $e^{-i\theta}=1/e^{i\theta}$ である。
2:$e^z$ の級数の部分和 $\sum_{n\le N}z^n/n!$ の共役は $\sum_{n\le N}\bar z^n/n!$ であり、共役をとる操作は連続だから、極限をとって $\overline{e^z}=e^{\bar z}$ を得る。
3:$w/|w|=a+ib$ とおくと $a^2+b^2=1$ である。三角関数 の記事の定理「単位円の媒介変数表示」により $(\cos\theta,\sin\theta)=(a,b)$ となる $\theta$ があり、そのような $\theta$ 全体はある 1 つの値に $2\pi$ の整数倍を足したものである。thm-efe-main により $e^{i\theta}=a+ib$ だから $w=|w|e^{i\theta}$ である。
3 の $\theta$ が $w$ の偏角であり、$w=re^{i\theta}$ が極形式である(複素数 の記事の定義「偏角と極形式」)。極形式では積が $re^{i\alpha}\cdot se^{i\beta}=rse^{i(\alpha+\beta)}$ と計算でき、絶対値は掛け算、偏角は足し算になる。
複素数 $w$ について、$e^w=1$ となるのは $w$ が $2\pi i$ の整数倍のときであり、そのときに限る。したがって複素数 $z,w$ について
$$
e^z=e^w\iff z-w\in2\pi i\mathbb{Z}
$$
である。また $\exp\colon\mathbb{C}\to\mathbb{C}\setminus\{0\}$ は全射であり、足し算の群 $\mathbb{C}$ から掛け算の群 $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ への準同型で、その核は $2\pi i\mathbb{Z}$ である。
$w=x+iy$($x,y$ は実数)とする。$e^w=1$ なら、cor-efe-polar の 1 により $e^x=|e^w|=1$ だから $x=0$ である(実数の指数関数は単射)。すると $e^{iy}=1$ であり、これは $y$ が $2\pi$ の整数倍であることと同値である(三角関数 の記事の定理「周期と零点」の 4)。逆に $w=2\pi ik$($k\in\mathbb{Z}$)なら、指数法則により $e^w=(e^{2\pi i})^k=1$ である。
$e^z=e^w$ は、両辺に $e^{-w}$ を掛けて $e^{z-w}=1$ と同値なので、前半から $z-w\in2\pi i\mathbb{Z}$ と同値である。準同型であることは指数法則そのもので、核は前半により $2\pi i\mathbb{Z}$ である。全射性:$0$ でない $w$ を cor-efe-polar の 3 により $w=re^{i\theta}$ と書けば、実数の対数 $\log r$ について $e^{\log r+i\theta}=e^{\log r}e^{i\theta}=w$ である。
この定理から、$e^w=z$ を満たす $w$($z$ の対数)は $z\neq0$ ごとに存在するが、$2\pi i$ の整数倍の差を除いてしか決まらない。対数をどう 1 つに選ぶかは 対数関数 の記事の節「複素数の対数」で扱い、選び方が道に沿って連続的に変わる様子は 解析接続 で扱う。
複素数 $z$ について、$\sin z=0$ となるのは $z\in\pi\mathbb{Z}$ のときに限り、$\cos z=0$ となるのは $z-\frac\pi2\in\pi\mathbb{Z}$ のときに限る。特に、$\sin$ と $\cos$ の複素数の零点はすべて実数である。
thm-efe-main により、$\sin z=0$ は $e^{iz}=e^{-iz}$、すなわち $e^{2iz}=1$ と同値である。thm-efe-kernel によりこれは $2iz\in2\pi i\mathbb{Z}$、すなわち $z\in\pi\mathbb{Z}$ と同値である。
次に、$e^{i\pi/2}=i$ と $e^{-i\pi/2}=-i$ を使うと
$$
\sin\Bigl(z+\frac\pi2\Bigr)=\frac{e^{iz}\cdot i-e^{-iz}\cdot(-i)}{2i}=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}2=\cos z
$$
であるから、$\cos z=0$ は $z+\frac\pi2\in\pi\mathbb{Z}$、すなわち $z-\frac\pi2\in\pi\mathbb{Z}$ と同値である。
thm-efe-main の表示に $z=iy$ を代入すると、実数 $y$ について
$$
\cos(iy)=\frac{e^{-y}+e^{y}}2=\cosh y,\qquad \sin(iy)=\frac{e^{-y}-e^{y}}{2i}=i\sinh y
$$
である(双曲線関数)。加法定理(複素数についても成り立つことが 三角関数 の記事の定理「加法定理」の直後に述べられている)と合わせると、実数 $x,y$ について
$$
\sin(x+iy)=\sin x\cosh y+i\cos x\sinh y,\qquad |\sin(x+iy)|^2=\sin^2x\cosh^2y+\cos^2x\sinh^2y=\sin^2x+\sinh^2y
$$
である(最後は $\cosh^2y=1+\sinh^2y$ による)。右辺が $0$ になるのは $\sin x=0$ かつ $y=0$ のときだけで、cor-efe-zeros がもう一度確かめられる。また $|\sin(iy)|=|\sinh y|\to\infty$($y\to\pm\infty$)なので、複素数の正弦は有界でない。
Euler の公式の実用上の働きは、三角関数の計算を指数関数の計算に置き換えることにある。指数関数は掛け算と微分・積分が単純なので、三角関数のままでは手間のかかる計算が等比数列や指数法則の計算になる。
すべての複素数 $z$ と整数 $n$ について
$$
(\cos z+i\sin z)^n=\cos nz+i\sin nz
$$
が成り立つ。
thm-efe-main により左辺は $(e^{iz})^n$ であり、指数法則から $n\ge0$ については帰納法で $(e^{iz})^n=e^{inz}$、$n<0$ については $(e^{iz})^{n}=\bigl((e^{iz})^{-1}\bigr)^{-n}=(e^{-iz})^{-n}=e^{inz}$ である。$e^{inz}$ に thm-efe-main を使えば右辺になる。
実数 $\theta$ について $(\cos\theta+i\sin\theta)^3$ を二項展開して実部と虚部を比べると、$\cos3\theta=\cos^3\theta-3\cos\theta\sin^2\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta$、$\sin3\theta=3\sin\theta-4\sin^3\theta$ という 3 倍角の公式が得られる。逆向きに、thm-efe-main の $\cos\theta=\frac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}2$ を 3 乗すると
$$
\cos^3\theta=\frac{e^{3i\theta}+3e^{i\theta}+3e^{-i\theta}+e^{-3i\theta}}8=\frac{\cos3\theta+3\cos\theta}4
$$
であり、冪を 1 次の三角関数の和に直す公式(次数下げ)が得られる。$\cos^3\theta$ の積分はこの形にすれば直ちに計算できる。
実数 $x$ が $2\pi$ の整数倍でないとき、$n\ge0$ について
$$
\sum_{k=0}^{n}\cos kx=\frac{\sin\frac{(n+1)x}2\,\cos\frac{nx}2}{\sin\frac x2},\qquad \sum_{k=0}^{n}\sin kx=\frac{\sin\frac{(n+1)x}2\,\sin\frac{nx}2}{\sin\frac x2}
$$
が成り立つ。特に $1+2\sum_{k=1}^{n}\cos kx=\dfrac{\sin\bigl(n+\frac12\bigr)x}{\sin\frac x2}$ である。
$q:=e^{ix}$ とおく。$x\notin2\pi\mathbb{Z}$ なので thm-efe-kernel により $q\neq1$ であり、$\sin\frac x2\neq0$ である(cor-efe-zeros)。指数法則と等比数列の和の公式から
$$
\sum_{k=0}^{n}e^{ikx}=\frac{q^{n+1}-1}{q-1}=\frac{e^{i(n+1)x/2}\bigl(e^{i(n+1)x/2}-e^{-i(n+1)x/2}\bigr)}{e^{ix/2}\bigl(e^{ix/2}-e^{-ix/2}\bigr)}=e^{inx/2}\,\frac{\sin\frac{(n+1)x}2}{\sin\frac x2}
$$
である(最後の等号は thm-efe-main の $\sin$ の表示を分子と分母に使った)。右辺の分数は実数なので、両辺の実部と虚部を比べ、$e^{inx/2}=\cos\frac{nx}2+i\sin\frac{nx}2$ を使えば 2 式を得る。最後の式は、第 1 式を 2 倍して $1$ を引き、積を和に直す公式 $2\sin A\cos B=\sin(A+B)+\sin(A-B)$($A=\frac{(n+1)x}2$、$B=\frac{nx}2$)を使えば
$$
\frac{2\sin\frac{(n+1)x}2\cos\frac{nx}2}{\sin\frac x2}-1=\frac{\sin\frac{(2n+1)x}2+\sin\frac x2}{\sin\frac x2}-1=\frac{\sin\bigl(n+\frac12\bigr)x}{\sin\frac x2}
$$
となる。
最後の式の右辺は Fourier 級数の部分和を積分で表すときに現れる関数(Dirichlet 核)である。三角関数の和を直接扱うと加法定理を何度も使う必要があるが、指数関数にすれば等比数列の和 1 回で済む。
整数 $m,n$ について
$$
\int_0^{2\pi}e^{imx}\,\overline{e^{inx}}\,dx=\begin{cases}2\pi&(m=n)\\0&(m\neq n)\end{cases}
$$
である。ここで複素数値関数の積分は実部と虚部をそれぞれ積分したものとする。実部と虚部を比べると、$m,n\ge0$ について $\int_0^{2\pi}\cos mx\cos nx\,dx$、$\int_0^{2\pi}\sin mx\sin nx\,dx$ は $m\neq n$ なら $0$ であり、$\int_0^{2\pi}\cos mx\sin nx\,dx=0$ である。
cor-efe-polar の 1 により $\overline{e^{inx}}=e^{-inx}$ なので、被積分関数は $e^{ikx}$($k=m-n$)である。$k=0$ なら被積分関数は $1$ で、積分は $2\pi$ である。$k\neq0$ なら、実変数 $x$ の関数として $\frac{d}{dx}\frac{e^{ikx}}{ik}=e^{ikx}$ である(実部 $\frac{\sin kx}{k}$ と虚部 $-\frac{\cos kx}{k}$ をそれぞれ微分すればよい)。微分積分学の基本定理を実部と虚部に使うと
$$
\int_0^{2\pi}e^{ikx}\,dx=\frac{e^{2\pi ik}-1}{ik}=0
$$
である(thm-efe-kernel)。後半は、$e^{imx}e^{-inx}$ と $e^{imx}e^{inx}$ の積分を thm-efe-main で実部と虚部に分ければよい。たとえば $\cos mx\cos nx=\frac12\operatorname{Re}\bigl(e^{i(m+n)x}+e^{i(m-n)x}\bigr)$ であり、$m\neq n$ かつ $m,n\ge0$ なら $m+n\neq0$、$m-n\neq0$ なので積分は $0$ になる。$\sin mx\sin nx=\frac12\operatorname{Re}\bigl(e^{i(m-n)x}-e^{i(m+n)x}\bigr)$、$\cos mx\sin nx=\frac12\operatorname{Im}\bigl(e^{i(m+n)x}-e^{i(m-n)x}\bigr)$ も同様で、後者は $m=n$ のときも、$e^{0}=1$ の虚部が $0$ であることから積分は $0$ である。
この直交関係は Fourier級数 の係数を求める計算の出発点である。周期 $2\pi$ の関数を $\sum c_ne^{inx}$ の形に書けば、係数は $c_n=\frac1{2\pi}\int_0^{2\pi}f(x)e^{-inx}\,dx$ で取り出せる。
実数 $a,b$($(a,b)\neq(0,0)$)について、$c:=a+ib$ とおくと $\frac{d}{dx}\frac{e^{cx}}{c}=e^{cx}$ であり、$e^{cx}=e^{ax}(\cos bx+i\sin bx)$ である。$\frac1c=\frac{a-ib}{a^2+b^2}$ を使って $\frac{e^{cx}}c$ の実部と虚部を取ると
$$
\int e^{ax}\cos bx\,dx=\frac{e^{ax}(a\cos bx+b\sin bx)}{a^2+b^2},\qquad \int e^{ax}\sin bx\,dx=\frac{e^{ax}(a\sin bx-b\cos bx)}{a^2+b^2}
$$
を得る(積分定数を省く)。部分積分を 2 回繰り返して方程式を解く計算が、1 回の割り算に置き換わる。
定数係数の線形微分方程式 $y''+py'+qy=0$ で特性方程式が虚数解 $\alpha\pm i\beta$ をもつときに、実数の解 $e^{\alpha x}\cos\beta x$、$e^{\alpha x}\sin\beta x$ が現れるのも、複素数の解 $e^{(\alpha+i\beta)x}$ の実部と虚部をとった結果である(微分方程式としての指数関数・三角関数)。
Euler の公式とその帰結は、弧度で測った角、底 $e$ の指数、整数の冪という約束のもとで成り立つ。どれか 1 つを外すと、次のように式が崩れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 角を弧度で測る | $s(x):=\cos\frac{\pi x}{180}+i\sin\frac{\pi x}{180}$($x$ 度) | $s(x)=e^{i\pi x/180}$ であり、$s'(x)=is(x)$ が成り立たない($s'(0)=\frac{\pi i}{180}$) |
| 指数の底が $e$ | $2^{ix}:=e^{ix\log2}$ | $2^{ix}=\cos(x\log2)+i\sin(x\log2)$ であり、$x=\pi$ で $\cos x+i\sin x=-1$ と一致しない |
| 変数が実数 | $z=i$ | $\lvert e^{i\cdot i}\rvert=e^{-1}\neq1$、$\operatorname{Re}e^{i\cdot i}=e^{-1}\neq\cosh1=\cos i$ |
| 冪の指数が整数 | $\bigl(e^{2\pi i}\bigr)^{1/2}$ と $e^{\pi i}$ | 左辺は $1^{1/2}$ で主値は $1$、右辺は $-1$ であり、$(e^{i\theta})^t=e^{it\theta}$ が成り立たない |
表の各行を確かめる。
1 行目:$s(x)=e^{i\pi x/180}$ は thm-efe-main による。連鎖律により $s'(x)=\frac{\pi i}{180}s(x)$ であり、$s'(0)=\frac{\pi i}{180}\neq i=is(0)$ である。度で測った角の点も単位円上を回るが、速さが $\frac{\pi}{180}$ になる。
2 行目:実数 $a>0$ と複素数 $w$ について $a^w:=e^{w\log a}$ と定める($\log a$ は実数の対数)。$2^{ix}=e^{i(x\log2)}=\cos(x\log2)+i\sin(x\log2)$ であり、$x=\pi$ では $\pi\log2=2.177\ldots$ は $\pi$ の整数倍でないので、$\sin(\pi\log2)\neq0$ で $-1$ に一致しない。
3 行目:$e^{i\cdot i}=e^{-1}$ は正の実数で、絶対値は $e^{-1}$、実部も $e^{-1}=0.367\ldots$ である。一方 $\cos i=\cosh1=1.543\ldots$(ex-efe-hyperbolic)、$\sin i=i\sinh1$ であり、$\cos i+i\sin i=\cosh1-\sinh1=e^{-1}$ だから Euler の公式そのものは成り立つ。崩れるのは「実部が $\cos$、虚部が $\sin$」「絶対値が $1$」という読み方で、これらは $\cos z,\sin z$ が実数であることを使っている。
4 行目:$0$ でない複素数 $a$ と複素数 $t$ について、対数の主値 $\operatorname{Log}a$(対数関数 の記事の定義「対数の主値」)で $a^t:=e^{t\operatorname{Log}a}$ と定めるのが主値である。$e^{2\pi i}=1$ で $\operatorname{Log}1=0$ だから $(e^{2\pi i})^{1/2}=e^0=1$ だが、$e^{\pi i}=-1$ である。整数 $n$ については cor-efe-de-moivre により $(e^{i\theta})^n=e^{in\theta}$ が成り立ち、ずれは生じない。
4 行目の現象は、thm-efe-kernel により $e^{i\theta}$ から $\theta$ が $2\pi$ の整数倍の差を除いてしか決まらないことに由来する。$t$ が整数なら $e^{it(\theta+2\pi k)}=e^{it\theta}$ でずれが消えるが、$t$ が整数でなければ消えない。同じ理由で $i^i$ は主値では $e^{i\operatorname{Log}i}=e^{i\cdot i\pi/2}=e^{-\pi/2}=0.2078\ldots$ という正の実数になるが、別の対数 $i\pi/2+2\pi ik$ を選べば $e^{-\pi/2-2\pi k}$ になる。
指数関数の冪級数は正方行列 $A$ にも意味をもち(行列の指数関数)、$A^2=-I$ を満たす実行列、たとえば $J=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$ について、偶数次と奇数次に分けて
$$
e^{\theta J}=(\cos\theta)I+(\sin\theta)J=\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\\sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix}
$$
が成り立つ。$J$ は複素数 $i$ を掛ける写像を実 2 次元の行列で表したものであり、この式は Euler の公式の行列による書き直しで、右辺は角 $\theta$ の回転行列である。
Euler の公式を出発点とする読み方には、ほかに次のものがある。複素数の掛け算を回転と拡大の合成として読む見方(複素数の掛け算は回転と拡大)、$1$ の $n$ 乗根を $e^{2\pi ik/n}$ と書いて正多角形の頂点として扱う見方(1の冪根)、そして指数関数・三角関数を実軸から複素平面全体へ一意に延ばす見方(一致の定理 の例「指数関数の一意性」、解析接続)である。
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