被約環(reduced ring)とは、$0$ 以外に冪零元をもたない可換環、すなわち冪零根基が $\{0\}$ である可換環のことである。これはすべての素イデアルの共通部分が $\{0\}$ であることと同値であり、環の元が素スペクトルの各点での値によって決まること、すなわち環が体の直積の部分環として実現できることを意味する。整域、体の直積、体上のアフィン代数的集合の座標環は被約環であり、$k[x]/(x^2)$ や $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ は被約環でない。被約性は部分環・直積・局所化・多項式環で保たれるが剰余環では保たれず、被約環の零因子全体は極小素イデアルの和集合になる。
前提知識: 可換環, 冪零元, 冪零根基, 素イデアル
被約環は、$0$ 以外に冪零元をもたない可換環である。可換環の元を素イデアル全体の集合 $\operatorname{Spec}A$ の上の「関数」とみると、冪零元はどの点でも値が $0$ なのに $0$ でない元であり、点の上の値では見えない「無限小の厚み」を表す。被約環はこの厚みをもたない環であり、元が各点での値によって決まる環、すなわち体の直積環の部分環として実現できる環と言い換えられる。整域、体上の座標環、体の直積はいずれも被約環であり、$k[x]/(x^2)$ のように冪零元をもつ環は被約環でない。本記事では、環は乗法の単位元 $1$ をもつ可換環とし(可換環 の記事の流儀)、零環も許す。
可換環 $A$ が 被約環(reduced ring)であるとは、$0$ 以外に冪零元をもたないこと、すなわち
$$
x\in A,\ n\ge1,\ x^n=0\ \Longrightarrow\ x=0
$$
が成り立つことをいう。このとき $A$ は 被約(reduced)であるともいう。
$A$ の冪零元全体の集合を $\operatorname{nil}(A)$ と書くと、これは $A$ のイデアルであり、冪零根基と呼ばれる(冪零根基 の記事の定義「冪零根基」)。$0$ はつねに冪零なので、$A$ が被約環であることは $\operatorname{nil}(A)=\{0\}$ と同値である。この定義は 可換環 の記事の定義「冪零元と冪零根基」、冪零元 の記事の定義「冪零元全体の集合と被約性」、冪零根基 の記事の定義で述べられている「被約」と同じである。零環 $\{0\}$ は $\operatorname{nil}(\{0\})=\{0\}$ なので被約環である。
可換でない環についても、$0$ 以外に冪零元をもたない環を被約環と呼ぶ。本記事では可換環だけを扱う。
1 ⇒ 2 は $n=2$ の場合である。
2 ⇒ 1。$x^n=0$($n\ge1$)とし、$2^m\ge n$ となる $m\ge0$ をとる。$x^{2^m}=x^nx^{2^m-n}=0$ である。$m\ge1$ なら $(x^{2^{m-1}})^2=x^{2^m}=0$ なので、2 により $x^{2^{m-1}}=0$ である。これを繰り返して $x^{2^0}=x=0$ を得る。
1 ⇔ 3。冪零根基 の記事の定理「素イデアル全体の共通部分としての冪零根基」により、$\operatorname{nil}(A)$ はすべての素イデアルの共通部分に等しい($A$ が零環のときは素イデアルがなく、空な共通部分は $A=\{0\}$ である)。したがって $\operatorname{nil}(A)=\{0\}$ と 3 は同じ条件である。
3 ⇒ 4。各素イデアル $\mathfrak{p}$ について、$A/\mathfrak{p}$ は整域であり(素イデアル の記事の命題「剰余環が整域であることとの同値」)、その商体を $\kappa(\mathfrak{p})$ と書く(これは $\mathfrak{p}$ における剰余体と同型である)。合成 $A\to A/\mathfrak{p}\to\kappa(\mathfrak{p})$ は環準同型であり、整域から商体への写像は単射なので、その核は $\mathfrak{p}$ である。これらを並べた
$$
\iota\colon A\to\prod_{\mathfrak{p}\in\operatorname{Spec}A}\kappa(\mathfrak{p}),\qquad a\mapsto\bigl(a\bmod\mathfrak{p}\bigr)_{\mathfrak{p}}
$$
は、成分ごとに環準同型なので環準同型であり、核はすべての素イデアルの共通部分である。3 によりこれは $\{0\}$ なので、$\iota$ は単射である。$A$ が零環のときは空な直積(零環)への写像になり、これも単射である。
4 ⇒ 5。体は整域であり、単射な環準同型 $\iota$ の像 $\iota(A)$ は直積環の部分環で、$A$ と同型である。
5 ⇒ 1。まず、整域 $D$ は被約である。実際 $x\neq0$ なら、整域では $0$ でない元の積は $0$ でないので、帰納法により $x^n\neq0$ がすべての $n\ge1$ で成り立つ。次に、直積環 $\prod_\lambda D_\lambda$ では冪は成分ごとにとられるので、$(x_\lambda)^n=0$ なら各 $\lambda$ で $x_\lambda^n=0$、したがって $x_\lambda=0$ である。よって整域の直積環は被約である。最後に、被約環 $B$ の部分環 $C$ の元 $x$ が $C$ で $x^n=0$ を満たせば、$B$ でも $x^n=0$ なので $x=0$ であり、$C$ も被約である。被約性は環の同型で保たれるので、$A$ は被約である。
4 の写像 $\iota$ は、元 $a$ に各点 $\mathfrak{p}$ での「値」$a\bmod\mathfrak{p}$ を対応させる写像である。したがって被約環とは、元がすべての点での値によって決まる環のことである。
実数値関数の環では、$f^2=0$ なら各点で $f(x)^2=0$、したがって $f(x)=0$ であり、$f=0$ である。関数の環はつねに被約である。可換環 $A$ の元 $a$ も、$\operatorname{Spec}A$ の各点 $\mathfrak{p}$ で体 $\kappa(\mathfrak{p})$ に値をとる関数とみなせるが、一般の環では値が至るところ $0$ でも $a$ 自身が $0$ とは限らない。そのような元がちょうど冪零元である(冪零根基 の記事の「直感」)。
典型的な例は $A=k[x]/(x^2)$ である。$\operatorname{Spec}A$ はただ 1 点 $(\bar x)$ からなり、$\bar x$ はこの点で値 $0$ をとるが $\bar x\neq0$ である。$A$ の元 $a+b\bar x$ は、点での値 $a$ に加えて、「点から出る方向の 1 次の変化率」$b$ を記録している。幾何学的には、$A$ は原点に接線方向の無限小の厚みをもった点を表す。被約環はこのような厚みをもたない環であり、prop-reduced-ring-equivalent の 4 はそれを「体に値をとる関数の環として実現できる」と言い表している。
整域は被約環である(prop-reduced-ring-equivalent の証明の 5 ⇒ 1 の最初の段落)。とくに整数環 $\mathbb{Z}$、体、体上の多項式環 $k[x_1,\dots,x_n]$ は被約環である。
$n\ge2$ について、$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ が被約環であることと、$n$ が平方因子をもたない(どの素数 $p$ についても $p^2\nmid n$ である)ことは同値である。実際、$n$ の相異なる素因数の積を $r$ とすると $\operatorname{nil}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})=r\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ であり(可換環 の記事の例「整数の剰余環の冪零根基」)、これが $\{0\}$ であることは $r=n$ と同値である。たとえば $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ は被約環であり、$\mathbb{Z}/12\mathbb{Z}$ は $\bar6\neq\bar0$、$\bar6^{\,2}=\bar0$ なので被約環でない。$n=1$ のときは $\mathbb{Z}/1\mathbb{Z}$ は零環であり、被約環である。
被約環の任意の族の直積環は被約環である(冪は成分ごとにとられる)。とくに体の直積 $k\times k$ や $\mathbb{R}^n$(成分ごとの演算)は被約環である。集合 $X$ から体 $k$ への写像全体の環 $k^X$(各点ごとの和と積)も、$k$ の直積環にほかならないので被約環である。位相空間 $X$ 上の実数値連続関数(連続写像)の環 $C(X)$ は $\mathbb{R}^X$ の部分環なので被約環である。すべての元が $x^2=x$ を満たすBoole環は、$x^n=x$($n\ge1$)なので冪零元は $0$ だけであり、被約環である(可換環 の記事の例「Boole環の素イデアル」)。
体 $k$ 上のアフィン代数的集合 $X\subset k^n$ の座標環 $k[X]=k[x_1,\dots,x_n]/I(X)$ は被約環である(座標環 の記事の命題「座標環の基本性質」の 3)。$k$ が代数閉体なら逆も成り立ち、$k$ 上有限生成な環(体上有限生成環)で被約なものは、あるアフィン代数的集合の座標環と $k$ 上同型である(座標環 の記事の定理「代数閉体上の座標環の特徴づけ」の 1)。
代数閉体の仮定は外せない。$\mathbb{R}[x,y]/(x^2+y^2)$ は $(x^2+y^2)$ が素イデアルなので整域であり、とくに被約環で $\mathbb{R}$ 上有限生成であるが、どのアフィン代数的集合の座標環とも $\mathbb{R}$ 上同型でない(座標環 の記事の例「反例:座標環にならない環」の 2)。
$k$ を体とし、$A=k[x]/(x^2)$ とする。$x$ の類 $\bar x$ は $\bar x\neq0$($x\notin(x^2)$)かつ $\bar x^{\,2}=0$ を満たすので、$A$ は被約環でない。$A$ は極大イデアル $(\bar x)$ をただ 1 つもつ局所環であり、$k$ 上 2 次元のArtin環、とくにNoether環である。被約化(冪零根基 の記事の命題「被約化の性質」)は $A/(\bar x)\cong k$ である。同様に、素数 $p$ について $\mathbb{Z}/p^2\mathbb{Z}$ は $\bar p\neq\bar0$、$\bar p^{\,2}=\bar0$ なので被約環でない。
$k[x]$ は被約環であり、$A$ はその剰余環である。したがってこの例は含意「被約環の剰余環は被約環である」を破る。満たす性質は「被約環 $k[x]$ の剰余環である」「局所環である」「Artin環である」、満たさない性質は「被約」である。剰余環 $B/I$ が被約になるのは、$I$ が根基イデアルであるときに限る(冪零根基 の記事の命題「被約化の性質」の 1)。$(x^2)$ は $x\in\sqrt{(x^2)}$、$x\notin(x^2)$ なので根基イデアルでない。
$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$(ex-reduced-ring-z-mod-n)、体の直積 $k\times k$(ex-reduced-ring-functions)、$k[x,y]/(xy)$(冪零元 の記事の例「被約だが整域でない環」)は被約環であるが、$0$ でない零因子をもつので整域でない。$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ では $\bar2\cdot\bar3=\bar0$、$k\times k$ では $(1,0)(0,1)=(0,0)$、$k[x,y]/(xy)$ では $\bar x\bar y=0$ である。これらは含意「被約環は整域である」を破る。満たす性質は「被約」、満たさない性質は「$0$ でない零因子をもたない」である。整域は被約環であるが(ex-reduced-ring-domain)、逆は成り立たない。
$p$ を素数、$K=\mathbb{F}_p(t)$ を有理関数体とし、$A=K[x]/(x^p-t)$ とする。$x^p-t$ は $K$ 上既約なので $A$ は体であり、とくに被約環である。しかし $K'=K(u)$($u^p=t$)に係数を拡大した環 $A\otimes_KK'\cong K'[x]/((x-u)^p)$ では、$x-u$ の類が $0$ でない冪零元になる(完全体 の記事の例「反例:完全でない体の上では被約性が底変換で保たれない」)。この例は含意「体 $K$ 上の被約な代数を体の拡大 $K'/K$ で係数拡大(テンソル積)しても被約である」を破る。満たす性質は「$K$ 上被約」、満たさない性質は「係数拡大後も被約」である。$K$ が完全体ならこの含意は成り立つ(同記事)。
$A$ を可換環とする。
5 の証明で、冪級数の各係数が有限和で決まることを使った($f^n$ の $x^{nk}$ の係数は、$i_1+\cdots+i_n=nk$ となる係数の積の和で、$i_j\ge k$ から $i_1=\cdots=i_n=k$ の項だけが残る)。
被約性は局所的な性質である。すなわち、$A$ が被約環であることと、すべての極大イデアル $\mathfrak{m}$ について $A_{\mathfrak{m}}$ が被約環であることは同値である(冪零根基 の記事の節「局所化との両立」)。これに対し、整域であることは局所的な性質でない。$k\times k$ の素イデアルは $k\times0$ と $0\times k$ の 2 つで(直積環 の記事の命題「有限個の環の直積の素イデアル」)、たとえば $\mathfrak{p}=0\times k$ での局所化では $(1,0)\notin\mathfrak{p}$ が単元になり、$(0,1)/1=(1,0)(0,1)/(1,0)=0$ となるので $(k\times k)_{\mathfrak{p}}\cong k$ である。したがってすべての局所化は体であるが、$k\times k$ 自身は整域でない。
$k$ を体、$f\in k[x]$ とする。$k[x]/(f)$ が被約環であることと、$f=0$ であるか、または $f\neq0$ がどの定数でない多項式の 2 乗でも割り切れないことは同値である。後者は、$f$ の既約多項式への分解 $f=c\,p_1^{e_1}\cdots p_r^{e_r}$($c\in k^\times$、$p_i$ は相異なるモニックな既約多項式)ですべての $e_i$ が $1$ であることと同じである。
$f=0$ なら $k[x]/(0)\cong k[x]$ は整域なので被約である。以下 $f\neq0$ とし、$f=c\,p_1^{e_1}\cdots p_r^{e_r}$ と分解する(既約多項式 の記事の注意「素元分解と体の構成」)。定数でない多項式 $g$ について $g^2\mid f$ なら、$g$ の既約因子 $p_i$ について $p_i^2\mid f$ となり $e_i\ge2$ である。逆に $e_i\ge2$ なら $g=p_i$ で $g^2\mid f$ である。よって 2 つの条件の言い換えは正しい。
ある $e_i\ge2$ とする。$g:=f/p_i$ は多項式であり、$\deg g<\deg f$ なので $f\nmid g$、すなわち $\bar g\neq0$ である。一方 $f/p_i^2$ も多項式で、$g^2=f\cdot(f/p_i^2)$ なので $\bar g^{\,2}=0$ である。よって $k[x]/(f)$ は被約でない。
すべての $e_i=1$ とする。$r=0$ なら $f=c$ は単元で、$k[x]/(f)$ は零環なので被約である。$r\ge1$ とする。既約多項式 の記事の命題「体上の多項式環における既約性の言い換え」により各 $(p_i)$ は極大イデアルで、$k[x]/(p_i)$ は体である。$i\neq j$ なら $(p_i)\neq(p_j)$ である(等しければ $p_i$ と $p_j$ は互いに割り切り合い、ともにモニックなので一致する)。相異なる極大イデアルの和は、どちらかを真に含むイデアルなので全体であり、$(p_i)+(p_j)=k[x]$、すなわち $(p_i)$ たちは対ごとに互いに素である。互いに素 の記事の定理「剰余環の直積への分解」の 3 により
$$
k[x]/(f)=k[x]/(p_1p_2\cdots p_r)\cong k[x]/(p_1)\times\cdots\times k[x]/(p_r)
$$
であり($c$ は単元なので $(f)=(p_1\cdots p_r)$)、右辺は体の直積なので被約である(prop-reduced-ring-constructions の 2)。
この命題は ex-reduced-ring-z-mod-n($\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ は $n$ が平方因子をもたないとき、かつそのときに限り被約)の多項式版である。証明が示すように、被約なとき $k[x]/(f)$ は体の直積に分解する。
2 乗で割り切れないことは、$f$ とその形式微分 $f'$ の最大公約多項式が $1$ であること($f$ が相異なる根だけをもつこと。分離拡大 の記事を参照)より弱い。実際 $q^2\mid f$、$f=q^2g$ なら $f'=q(2q'g+qg')$ なので $q$ は $f$ と $f'$ の公約多項式である。逆は一般に成り立たない。ex-reduced-ring-base-change の $x^p-t\in\mathbb{F}_p(t)[x]$ は既約なので 2 乗で割り切れないが、$f'=px^{p-1}=0$ なので $f$ と $f'$ の最大公約多項式は $f$ 自身である。$k$ が完全体なら既約多項式は重根をもたないので(完全体 の記事の定理「完全体の特徴づけ」)、2 つの条件は一致する。
可換環 $A$ の素イデアルのうち、包含について極小なもの(それより真に小さい素イデアルがないもの)を極小素イデアルという。任意の素イデアルは少なくとも 1 つの極小素イデアルを含む(素イデアルの減少鎖の共通部分は素イデアルであることと Zornの補題 による。AM69 Chapter 1 の演習問題と同じ論法を、$\mathfrak{p}$ に含まれる素イデアル全体に適用する)。したがって、零環でない $A$ のすべての素イデアルの共通部分は極小素イデアル全体の共通部分に等しく、prop-reduced-ring-equivalent により、$A$ が被約環であることは極小素イデアル全体の共通部分が $\{0\}$ であることと同値である。
以下、$A$ の零因子全体の集合を $Z(A)$ と書く。零因子の定義は 零因子 の記事の定義「零因子」に従い、零環でない環では $0$ も零因子に含める。
$A$ を零環でない被約環とする。
$k$ を体、$A=k[x,y]/(xy)$ とする。$A$ は被約環であり(ex-reduced-ring-not-domain)、$A/(\bar x)\cong k[y]$、$A/(\bar y)\cong k[x]$ は整域なので $(\bar x)$ と $(\bar y)$ は素イデアルである。どの素イデアルも $\bar x\bar y=0$ を含むので $\bar x$ か $\bar y$ を含み、したがって $(\bar x)$ か $(\bar y)$ を含む。$(\bar x)$ と $(\bar y)$ は互いに他を含まないので、極小素イデアルはちょうどこの 2 つである。thm-reduced-ring-minimal-primes の 3 の写像は $A\to k[y]\times k[x]$、$\bar f\mapsto(f(0,y),f(x,0))$ であり、$Z(A)=(\bar x)\cup(\bar y)$ である。幾何学的には、2 本の座標軸の和集合を 2 つの既約成分に分け、関数をそれぞれへの制限の組で表している。
$A=k[x,y]/(x^2,xy)$ とする。$\bar x$ は冪零なのですべての素イデアルに含まれ、$A/(\bar x)\cong k[y]$ は整域なので、$(\bar x)=\operatorname{nil}(A)$ が $A$ のただ 1 つの極小素イデアルである(冪零根基 の記事の例「直線に埋め込まれた点をもつ環」)。一方 $\bar y\bar x=0$、$\bar x\neq0$ なので $\bar y$ は零因子であるが、$k[y]$ での像 $y$ が $0$ でないので $\bar y\notin(\bar x)$ である。したがって $Z(A)$ は極小素イデアルの和集合 $(\bar x)$ より真に大きい。この例は、被約性を外すと thm-reduced-ring-minimal-primes の 2 の含意「零因子全体は極小素イデアルの和集合である」が破れることを示す。満たす性質は「Noether環」、満たさない性質は「被約」である。
スキーム $X$ が被約であるとは、各点 $x$ の局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$ が被約環であることをいう。アフィンスキーム $\operatorname{Spec}A$ が被約であることは、被約性が局所的な性質であることから、$A$ が被約環であることと同値である(Har77 Chapter II の §2 の演習問題と §3)。とくに、アフィン代数的集合 $X$ の座標環 $k[X]$ が被約環であること(ex-reduced-ring-coordinate)は、アフィンスキーム $\operatorname{Spec}k[X]$ が被約であることを意味する。
冪零根基と被約環の基本事項は AM69 Chapter 1(本文と演習問題)、局所化との関係は同 Chapter 3 にある。Noether環の零因子全体が随伴素イデアルの和集合であること、および Noether環の極小素イデアルが有限個であることは Mat86 §6 にある。
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