巡回群の指標と直交関係

同義語:characters of cyclic groups and orthogonality

概要

巡回群の指標と直交関係(characters of cyclic groups and orthogonality)とは、有限アーベル群 $G$ から $0$ でない複素数への写像で $\chi(g+h)=\chi(g)\chi(h)$ を満たすもの(指標)と、その平均についての関係である。巡回群 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の指標は $\chi_t(\overline k)=\zeta_n^{tk}$($\zeta_n=\cos\frac{2\pi}n+i\sin\frac{2\pi}n$、$t=0,\dots,n-1$)のちょうど $n$ 個である。異なる 2 つの指標は $G$ 上の平均で直交し、$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ では指標についての平均で元が区別できる。1 の冪根による振り分けの公式はこの第 2 の関係にあたる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 1の冪根による振り分けの公式, 合同式と余りの世界, 複素数

この記事で考えること

1の冪根による振り分けの公式 の鍵は、$1$ の原始 $n$ 乗根 $\zeta$ について
$$ \frac1n\sum_{t=0}^{n-1}\zeta^{tk}=\begin{cases}1&(n\mid k)\\ 0&(n\nmid k)\end{cases} $$
が成り立つことだった。この記事では、この式を群の言葉で見直す。注目するのは、$k\mapsto\zeta^{tk}$ が「足し算を掛け算に変える」ことである。

足し算が掛け算に変わる

$n=4$、$\zeta=i$、$t=1$ とし、$k$ に $i^k$ を対応させる。

  1. $2+3=5$ に対して $i^2\cdot i^3=(-1)\cdot(-i)=i=i^5$。
  2. $1+3=4$ に対して $i^1\cdot i^3=i\cdot(-i)=1=i^4=i^0$。
    また $i^k$ は $k$ を 4 で割った余りだけで決まる($i^5=i^1$、$i^4=i^0$)。つまり $i^k$ は「4 で割った余り」の足し算を、複素数の掛け算に写している。

この性質を取り出したものが指標である。この記事で答える問いと、振り分けの公式との対応は次のとおりである。

振り分けの公式の側群の側ボックス
添字 $k$ を $n$ で割った余り群 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の元 $\overline k$def-chc-zn
$k\mapsto\zeta^{tk}$($t=0,\dots,n-1$)$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の指標 $\chi_t$(ちょうど $n$ 個)prop-chc-cyclic
$\frac1n\sum_t\zeta^{tk}$ は $n\mid k$ のとき $1$、それ以外は $0$指標の直交関係thm-chc-orthogonality
振り分けの公式直交関係 (2) に係数を掛けて足したものrem-chc-filter
可換でない場合1 次元の指標が足りないex-chc-s3

以下、数と言えば複素数とする。

準備:有限アーベル群と $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$

有限アーベル群と $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$

有限集合 $G$ に演算 $+$ が定まっていて、すべての $g,h,l\in G$ について
$$ (g+h)+l=g+(h+l),\qquad g+h=h+g $$
が成り立ち、$g+0=g$ となる元 $0\in G$(単位元)があり、各 $g$ に $g+(-g)=0$ となる元 $-g\in G$(逆元)があるとき、$G$ を有限アーベル群という。元の個数を $|G|$ と書く。
正の整数 $n$ について、整数 $k$ を $n$ で割った余りのクラス($k$ と合同な整数全体)を $\overline k$ と書く。$\overline0,\overline1,\dots,\overline{n-1}$ の $n$ 個の集合に $\overline k+\overline l:=\overline{k+l}$ で足し算を定めたものを $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ と書く。

$\overline k+\overline l$ が代表 $k,l$ の選び方によらずに決まることは、合同式の計算規則($k\equiv k'$、$l\equiv l'$ なら $k+l\equiv k'+l'$)による(合同式と余りの世界)。$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ は単位元 $\overline0$、逆元 $-\overline k=\overline{-k}$ の有限アーベル群で、$|\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}|=n$ である。$\overline1$ を足し続けるとすべての元が現れるので、巡回群ともいう。

有限アーベル群の例
  1. $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}=\{\overline0,\overline1,\overline2,\overline3\}$:$\overline3+\overline2=\overline5=\overline1$、$-\overline1=\overline3$。
  2. $G=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$:$0,1$ の組 $(a,b)$ の 4 個に、成分ごとに 2 で割った余りで足す演算を入れたもの。$(1,0)+(1,1)=(0,1)$ で、どの元も 2 回足すと $(0,0)$ に戻る。$\overline1$ に当たる「足し続けると全部が現れる元」はないので、巡回群ではない。

指標

有限アーベル群の指標

$G$ を有限アーベル群とする。写像 $\chi\colon G\to\mathbb{C}\setminus\{0\}$ が、すべての $g,h\in G$ について
$$ \chi(g+h)=\chi(g)\chi(h) $$
を満たすとき、$\chi$ を $G$ の指標という。すべての $g$ で $\chi(g)=1$ となる指標を自明な指標といい、$\chi_0$ と書く。

指標であるもの、ないもの

$G=\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ とする。

  1. $\chi(\overline k):=i^k$ は指標である。$i^4=1$ なので $i^k$ は $\overline k$ だけで決まり、$\chi(\overline k+\overline l)=i^{k+l}=i^ki^l=\chi(\overline k)\chi(\overline l)$ である(ex-chc-add-to-mul)。
  2. $\chi(\overline k):=(-1)^k$ も指標である($(-1)^4=1$ なので $\overline k$ だけで決まる)。
  3. すべての $\overline k$ に $2$ を対応させる写像 $f$ は指標でない。$f(\overline0+\overline0)=f(\overline0)=2$ だが、$f(\overline0)f(\overline0)=4$ である。
  4. $\chi(\overline k):=\zeta_3^k$($\zeta_3=\omega$)は $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ の上で定まらない。$\overline0=\overline4$ なのに $\omega^0=1$、$\omega^4=\omega$ と値が違うからである。
指標の基本性質

$\chi$ を有限アーベル群 $G$ の指標とする。

  1. $\chi(0)=1$、$\chi(-g)=\chi(g)^{-1}$ である。
  2. 各 $g\in G$ について、$m\cdot g:=g+\cdots+g$($m$ 個)$=0$ となる正の整数 $m$ があり、$\chi(g)^m=1$ である。特に $|\chi(g)|=1$ で、$\overline{\chi(g)}=\chi(g)^{-1}=\chi(-g)$ である($\overline{\ \cdot\ }$ は共役複素数)。
定義式に 0 や $g$ を入れる

段 1:$\chi(0)=\chi(0+0)=\chi(0)\chi(0)$ で、$\chi(0)\ne0$ なので両辺を $\chi(0)$ で割って $\chi(0)=1$ である。また $\chi(g)\chi(-g)=\chi(g+(-g))=\chi(0)=1$ なので $\chi(-g)=\chi(g)^{-1}$ である。
段 2:$G$ は有限なので、$1\cdot g,2\cdot g,3\cdot g,\dots$ の中に同じ元が現れる。$a< b$ で $a\cdot g=b\cdot g$ とすると、両辺に $-(a\cdot g)$ を足して $(b-a)\cdot g=0$ となる。$m:=b-a$ とおけばよい。定義式をくり返し使うと $\chi(m\cdot g)=\chi(g)^m$ なので、$\chi(g)^m=\chi(0)=1$ である。
段 3:$|\chi(g)|^m=|\chi(g)^m|=1$ で $|\chi(g)|>0$ なので $|\chi(g)|=1$ である。絶対値 $1$ の複素数 $z$ は $z\overline z=|z|^2=1$ を満たすので $\overline z=z^{-1}$ であり、段 1 と合わせて $\overline{\chi(g)}=\chi(-g)$ である。$\square$

$m\cdot g=0$ となる正の整数 $m$(prop-chc-basic の 2 で存在を示した)のうち最小のものを $g$ の位数という(群の元の個数を群の位数ということもある。この記事では群の元の個数は $|G|$ と書く)。同じ考え方を掛け算で行うと、$n$ と互いに素な整数 $a$ について「$a^m\equiv1\pmod n$ となる最小の正の整数 $m$」になる(互いに素でないと、そのような $m$ はない)。こちらは 冪の余りの周期と元の位数 で扱う。

巡回群の指標

巡回群の指標の決定

$\zeta_n=\cos\frac{2\pi}n+i\sin\frac{2\pi}n$ とする。$G=\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の指標は、$t=0,1,\dots,n-1$ について
$$ \chi_t(\overline k):=\zeta_n^{tk} $$
で定まる $n$ 個であり、これらは相異なる。

1 での値で決まる

段 1($\chi_t$ は指標):$k\equiv k'\pmod n$ なら $k'=k+nm$ で、$\zeta_n^{tk'}=\zeta_n^{tk}(\zeta_n^n)^{tm}=\zeta_n^{tk}$ なので、$\chi_t$ は $\overline k$ だけで決まる写像である。$\chi_t(\overline k+\overline l)=\zeta_n^{t(k+l)}=\zeta_n^{tk}\zeta_n^{tl}=\chi_t(\overline k)\chi_t(\overline l)$ なので指標である。
段 2(相異なる):$\chi_t(\overline1)=\zeta_n^t$ は $t=0,\dots,n-1$ で相異なる($\zeta_n^t$ は単位円上の偏角 $\frac{2\pi t}n$ の点で、偏角が $0$ 以上 $2\pi$ 未満の範囲で異なる)。よって $\chi_t$ も相異なる。
段 3(ほかにない):$\chi$ を $G$ の指標とする。定義式をくり返し使うと $\chi(\overline1)^n=\chi(n\cdot\overline1)=\chi(\overline n)=\chi(\overline0)=1$ なので、$\chi(\overline1)$ は $1$ の $n$ 乗根である。$1$ の $n$ 乗根は $\zeta_n^0,\dots,\zeta_n^{n-1}$ のどれかである(1の冪根による振り分けの公式 の系)から、ある $t$ について $\chi(\overline1)=\zeta_n^t$ である。$k\ge0$ について $\chi(\overline k)=\chi(\overline1+\cdots+\overline1)=\chi(\overline1)^k=\zeta_n^{tk}=\chi_t(\overline k)$ であり、$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の元はすべて $0\le k< n$ の $\overline k$ で表されるので、$\chi=\chi_t$ である。$\square$

$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ の指標の表

$\zeta_4=i$ なので、$\chi_t(\overline k)=i^{tk}$ の表は次のとおりである。

$\overline0$$\overline1$$\overline2$$\overline3$
$\chi_0$$1$$1$$1$$1$
$\chi_1$$1$$i$$-1$$-i$
$\chi_2$$1$$-1$$1$$-1$
$\chi_3$$1$$-i$$-1$$i$

表は行と列を入れ替えても同じ($\chi_t(\overline k)=i^{tk}$ は $t$ と $k$ について対称)である。ex-chc-character-check の 1 は $\chi_1$、2 は $\chi_2$ である。

Z/6Z の指標の表。各マスの矢印は単位円上の値で、行ごとに回る速さが違う Z/6Z の指標の表。各マスの矢印は単位円上の値で、行ごとに回る速さが違う
図 1 は $n=6$ の表を、各値 $\zeta_6^{tk}$ を単位円上の矢印で描いたものである。$\chi_t$ の行では、右へ 1 マス進むごとに矢印が $\frac{2\pi t}6$ ずつ回る($\zeta_6^t$ を掛けることが角 $\frac{2\pi t}6$ の回転になることは 複素数の掛け算は回転と拡大 で扱う)。$\chi_3$ の行は $1,-1$ を交互にとり、$\chi_0$ の行はすべて $1$ である。

主定理:指標の直交関係

指標の直交関係
  1. $G$ を有限アーベル群とする。$G$ の指標 $\chi,\psi$ について
    $$ \frac1{|G|}\sum_{g\in G}\chi(g)\overline{\psi(g)}=\begin{cases}1&(\chi=\psi)\\ 0&(\chi\ne\psi)\end{cases} $$
    である。
  2. $G=\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ のとき、$g,h\in G$ について
    $$ \frac1n\sum_{t=0}^{n-1}\chi_t(g)\overline{\chi_t(h)}=\begin{cases}1&(g=h)\\ 0&(g\ne h)\end{cases} $$
    である。
全体をずらしても和は変わらない
  1. 方針:$\lambda:=\chi\overline\psi$ が指標であることを示し、$G$ 全体を $h$ だけずらしても和が変わらないことを使う。
    段 1:$\lambda(g):=\chi(g)\overline{\psi(g)}$ とおく。prop-chc-basic により $\overline{\psi(g)}=\psi(g)^{-1}$ なので $\lambda(g)=\chi(g)\psi(g)^{-1}$ である。$\lambda(g+h)=\chi(g)\chi(h)\psi(g)^{-1}\psi(h)^{-1}=\lambda(g)\lambda(h)$ なので、$\lambda$ も指標である。$\chi=\psi$ であることと、すべての $g$ で $\lambda(g)=1$($\lambda=\chi_0$)であることは同値である。
    段 2($\lambda=\chi_0$ のとき):和は $1$ を $|G|$ 個足した $|G|$ で、$|G|$ で割ると $1$ である。
    段 3($\lambda\ne\chi_0$ のとき):$\lambda(h)\ne1$ となる $h$ がある。$g$ が $G$ 全体を動くとき、$g+h$ も $G$ 全体をちょうど 1 回ずつ動く($g+h=g'+h$ なら両辺に $-h$ を足して $g=g'$ なので重なりがなく、個数も $|G|$ だから)。よって
    $$ \sum_{g\in G}\lambda(g)=\sum_{g\in G}\lambda(g+h)=\sum_{g\in G}\lambda(g)\lambda(h)=\lambda(h)\sum_{g\in G}\lambda(g) $$
    である。移項して $(1-\lambda(h))\sum_g\lambda(g)=0$、$\lambda(h)\ne1$ なので $\sum_g\lambda(g)=0$ である。
  2. $g=\overline k$、$h=\overline l$ とすると $\overline{\chi_t(h)}=\zeta_n^{-tl}$(prop-chc-basic)なので $\chi_t(g)\overline{\chi_t(h)}=\zeta_n^{t(k-l)}$ である。1の冪根による振り分けの公式 の冪の和の補題により、$t$ についての平均は $n\mid k-l$、すなわち $g=h$ のとき $1$、それ以外は $0$ である。$\square$
直交関係を $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ で確かめる

ex-chc-table-four の表を使う。

    1. で $\chi=\chi_1$、$\psi=\chi_3$:$\chi_1(\overline k)\overline{\chi_3(\overline k)}=i^k\cdot\overline{(-i)^k}=i^k\cdot i^k=(-1)^k$ で、平均は $\frac14(1-1+1-1)=0$。
    1. で $\chi=\psi=\chi_1$:$|i^k|^2=1$ で、平均は $1$。
    1. で $g=\overline1$、$h=\overline3$:列 $\overline1$ の値 $1,i,-1,-i$ と、列 $\overline3$ の値の共役 $1,i,-1,-i$ を掛けると $1,-1,1,-1$ で、平均は $0$。
  1. は表の行どうし、(2) は表の列どうしの関係である。$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ では表が対称なので、どちらも同じ冪の和の補題に帰着する。
    同じ形の直交関係を、和の代わりに積分で示すのが三角関数の直交性で、三角関数の直交性(高校数学) で扱う。
振り分けの公式は直交関係 (2) である
  1. で $g=\overline k$、$h=\overline r$ とすると
    $$ \frac1n\sum_{t=0}^{n-1}\chi_t(\overline k)\overline{\chi_t(\overline r)}=\frac1n\sum_{t=0}^{n-1}\zeta_n^{t(k-r)}=\begin{cases}1&(k\equiv r\pmod n)\\ 0&(\text{それ以外})\end{cases} $$
    である。これに多項式の係数 $a_k$ を掛けて $k$ について足すと、左辺は $\frac1n\sum_t\zeta_n^{-tr}\sum_ka_k\zeta_n^{tk}=\frac1n\sum_t\zeta_n^{-tr}f(\zeta_n^t)$、右辺は $k\equiv r$ の係数の和になる。これが振り分けの公式である。つまり振り分けの公式は、「ある余りのクラスに属するかどうか」という $0$ か $1$ の関数を、指標の 1 次結合で書いたものである。

巡回群でない例

$\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ の指標

$G=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$(ex-chc-groups の 2)の指標を求める。どの元 $g$ も $2\cdot g=0$ なので、prop-chc-basic の証明と同じく $\chi(g)^2=1$、すなわち $\chi(g)=\pm1$ である。$(a,b)=a\cdot(1,0)+b\cdot(0,1)$ なので、$\chi$ は $\chi(1,0)=\pm1$ と $\chi(0,1)=\pm1$ で決まり、高々 4 個である。実際 $\chi_{s,t}(a,b):=(-1)^{sa+tb}$($s,t\in\{0,1\}$)の 4 個が指標で、表は次のとおりである。

$(0,0)$$(1,0)$$(0,1)$$(1,1)$
$\chi_{0,0}$$1$$1$$1$$1$
$\chi_{1,0}$$1$$-1$$1$$-1$
$\chi_{0,1}$$1$$1$$-1$$-1$
$\chi_{1,1}$$1$$-1$$-1$$1$

どの 2 行も、成分ごとに掛けて足すと $0$ になり((1) の確認)、どの 2 列も同じく $0$ になる。巡回群でなくても、指標は $|G|=4$ 個あり、(2) の形の関係も成り立っている。

一般の有限アーベル群での第 2 の関係
  1. は一般の有限アーベル群 $G$ でも、指標全体についての和として $\frac1{|G|}\sum_\chi\chi(g)\overline{\chi(h)}=[g=h]$($g=h$ なら $1$、そうでなければ $0$)の形で成り立ち、$G$ の指標はちょうど $|G|$ 個ある。これは「$g\ne0$ なら $\chi(g)\ne1$ となる指標 $\chi$ がある」ことから (1) と同じずらしの議論で従う。その存在は、たとえば有限アーベル群が巡回群の直積に分解されること(有限アーベル群の基本定理)から従う(基本定理を使わない証明もある)。本記事ではこれを証明しない(SS03 Chapter 7 §2、Ser73 Chapter VI §1)。

例と反例

外した仮定崩れる結論ボックス
群が可換(アーベル群)指標で元を区別できる((2) の形の関係)ex-chc-s3
写像が足し算を掛け算に写す直交関係 (1)ex-chc-not-character
反例:非可換群では 1 次元の指標が足りない

$3$ 文字 $\{1,2,3\}$ の並べ替え(置換)全体 $S_3$ は、写像の合成について 6 個の元からなる群をなし、可換でない(可換でない群のもう 1 つの例は、平面の回転と鏡映の群である。回転・鏡映と行列の群 で扱う)。$G=S_3$ についても「$\chi(gh)=\chi(g)\chi(h)$ を満たす $\chi\colon G\to\mathbb{C}\setminus\{0\}$」を考える。
段 1:2 文字だけを入れ替える互換 $\tau$ は $\tau^2=e$(恒等置換)なので $\chi(\tau)^2=1$、$\chi(\tau)=\pm1$ である。
段 2:互換 $\tau,\sigma$ について $\chi(\sigma\tau\sigma^{-1})=\chi(\sigma)\chi(\tau)\chi(\sigma)^{-1}=\chi(\tau)$ である。3 つの互換は互いにこの形で移り合う。たとえば $\sigma=(1\,2)$、$\tau=(2\,3)$ とすると、$\sigma^{-1}=\sigma$ で、$\sigma\tau\sigma^{-1}$ は $1\mapsto2\mapsto3\mapsto3$、$3\mapsto3\mapsto2\mapsto1$、$2\mapsto1\mapsto1\mapsto2$ と動かす(右の置換から順に施す)ので、$(1\,2)(2\,3)(1\,2)=(1\,3)$ である。同じように $(1\,3)(2\,3)(1\,3)=(1\,2)$ である。よって 3 つの互換での値はすべて等しい。
段 3:3 文字を巡回させる置換 $c$ は 2 つの互換の積なので $\chi(c)=(\pm1)^2=1$ である。すべての元は互換の積なので、$\chi$ は互換での値 $\pm1$ で決まり、高々 2 個しかない(実際には、自明な指標と、互換で $-1$ をとる「符号」の 2 個がある。符号が指標であることはここでは証明しない。以下の論証に使うのは「高々 2 個」だけである)。
すると $c\ne e$ なのに $\sum_\chi\chi(c)\overline{\chi(e)}=\sum_\chi1\ne0$ であり、thm-chc-orthogonality の (2) の形の関係が破れる。可換性の仮定を外すと、「指標で元を区別できる」ことが崩れる。非可換群では、$1$ 次元の指標の代わりに、行列に値をとる表現とその跡を使う必要がある。

反例:指標でない写像では直交しない

$G=\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ で、$\psi(\overline0)=\psi(\overline1)=1$、$\psi(\overline2)=\psi(\overline3)=-1$ と定める。$\psi(\overline1+\overline1)=\psi(\overline2)=-1$ だが $\psi(\overline1)\psi(\overline1)=1$ なので、$\psi$ は指標でない。$\psi$ と自明な指標 $\chi_0$ の平均は $\frac14(1+1-1-1)=0$ で直交するが、$\psi$ と $\chi_1$ では、$\overline{\chi_1(\overline k)}=1,-i,-1,i$ を使って $\frac14\bigl(1\cdot1+1\cdot(-i)+(-1)\cdot(-1)+(-1)\cdot i\bigr)=\frac14(2-2i)\ne0$ である。一方 $\psi\ne\chi_1$ である。「異なる 2 つは平均 $0$」という (1) の結論は、指標どうしでなければ成り立たない。

さらに先へ

  • Dirichlet の算術級数定理:$\gcd(a,n)=1$ なら $a,a+n,a+2n,\dots$ に素数が無限に含まれる。証明では、素数を「法 $n$ で $a$ に合同か」で振り分けるために、掛け算の群 $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times$ の指標(Dirichlet 指標)の直交関係を使う(本記事では証明しない。SS03 Chapter 8、Ser73 Chapter VI)。
  • 群の表現論:ex-chc-s3 のように非可換群では 1 次元の指標が足りないが、行列に値をとる表現の跡を指標とすれば、有限群でも直交関係が成り立つ(群の表現)。
  • 離散 Fourier 変換:関数を指標の 1 次結合で書く係数が、離散 Fourier 変換である(離散Fourier変換と反転公式)。
  • 一般の有限アーベル群の指標:一般の有限アーベル群の指標と、指標全体がなす群(双対群)の構造は、大学向けの 指標(有限アーベル群) で扱う。

関連項目

参考文献

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