無限積(infinite product)とは、複素数の列 $u_n$ の有限積 $u_1\cdots u_N$ の極限であり、$0$ になる因子が有限個で、それを除いた尾部の積が $0$ でない値に収束するとき収束するという。$\prod(1+a_n)$ は $\sum|a_n|<\infty$ なら収束し、値は因子の並べ方によらず、$0$ になるのは因子のどれかが $0$ のときに限る。正則関数の積は各コンパクト集合上で一様に絶対収束すれば正則な極限をもち、零点と対数微分を因子ごとに読める。これにより正弦関数の積表示 $\sin\pi z=\pi z\prod(1-z^2/n^2)$ が示され、$\sum1/n^2=\pi^2/6$、Wallis の積、Γ関数の相反公式が従う。
無限積は、複素数の列 $u_1,u_2,\ldots$ の有限積 $u_1\cdots u_N$ の $N\to\infty$ での極限である。$0$ を掛けると以降の情報が消えるので、収束の定義では極限が $0$ になる場合を除く。
無限積を $\prod_{n}(1+a_n)$ と書くと、収束の判定は級数 $\sum_n|a_n|$ の判定に帰着する。この判定から、正弦関数の積表示
$$
\sin\pi z=\pi z\prod_{n=1}^\infty\Bigl(1-\frac{z^2}{n^2}\Bigr)
$$
が導かれる。これは多項式の根による因数分解を零点が無限個ある関数に広げたもので、$\sum_n1/n^2=\pi^2/6$、Wallis の積、Γ関数の相反公式がここから従う。
以下、$u_n$, $a_n$ は複素数とし、$u_n=1+a_n$ と書く。有限積を $P_N:=\prod_{n=1}^Nu_n$ とおく。
複素数列 $(u_n)_{n\ge1}$ について、無限積 $\prod_{n=1}^\infty u_n$ が収束するとは、次の 2 条件が成り立つことをいう。
条件 2 は $N_0$ のとり方によらない。この定義では、無限積の値が $0$ になるのは因子のどれかが $0$ のときに限る。極限 $0$ を収束に含めると $\prod_{n\ge1}\frac12$ も収束することになり、次の prop-ip-necessary が成り立たない。
$\prod_nu_n$ が収束するなら $u_n\to1$ である。すなわち $\prod_n(1+a_n)$ が収束するなら $a_n\to0$ である。
def-ip-convergence の $N_0$ をとり、$Q_N:=\prod_{n=N_0+1}^Nu_n$ とおく。$Q_N\to Q\ne0$ なので、$N>N_0+1$ に対し $u_N=Q_N/Q_{N-1}\to Q/Q=1$ である。$\square$
$\sum_{n=1}^\infty|a_n|<\infty$ のとき、無限積 $\prod_{n=1}^\infty(1+a_n)$ は絶対収束するという。
複素数 $a_1,\ldots,a_N$ に対し
$$
\Bigl|\prod_{n=1}^N(1+a_n)-1\Bigr|\le\prod_{n=1}^N(1+|a_n|)-1\le\exp\Bigl(\sum_{n=1}^N|a_n|\Bigr)-1
$$
が成り立つ。
積を展開すると $\prod_{n=1}^N(1+a_n)-1=\sum_{S}\prod_{n\in S}a_n$ である。ここで $S$ は $\{1,\ldots,N\}$ の空でない部分集合全体を動く。三角不等式により左辺は $\sum_S\prod_{n\in S}|a_n|=\prod_{n=1}^N(1+|a_n|)-1$ 以下である。実数 $x\ge0$ に対し $1+x\le e^x$ なので、2 つ目の不等式も従う。$\square$
$\sum_{n=1}^\infty|a_n|<\infty$ とする。このとき次が成り立つ。
$A:=\sum_n|a_n|$, $T_N:=\sum_{n>N}|a_n|$ とおく。$T_N\to0$ である。
有限積の収束:lem-ip-basic-inequality により $|P_N|\le\prod_{n\le N}(1+|a_n|)\le e^{A}$ である。$M>N$ なら $P_M-P_N=P_N\bigl(\prod_{N< n\le M}(1+a_n)-1\bigr)$ なので、再び lem-ip-basic-inequality により
$$
|P_M-P_N|\le e^{A}\bigl(e^{T_N}-1\bigr)
$$
である。右辺は $N\to\infty$ で $0$ に近づくので $(P_N)$ は Cauchy 列であり、極限 $P$ をもつ。
1 と 2:$T_{N_0}\le\frac12$ となる $N_0$ をとる。$n>N_0$ なら $|a_n|\le\frac12$ なので $1+a_n\ne0$ であり、$1+a_n=0$ となる $n$ は $N_0$ 以下に限られ、有限個である。$Q_N:=\prod_{n=N_0+1}^N(1+a_n)$ に lem-ip-basic-inequality を使うと $|Q_N-1|\le e^{1/2}-1<0.65$ なので $|Q_N|>0.35$ である。上と同じ議論で $Q_N$ は収束し、極限 $Q$ は $|Q|\ge0.35>0$ を満たす。よって無限積は収束し、値は $P=\bigl(\prod_{n\le N_0}(1+a_n)\bigr)Q$ である。$Q\ne0$ なので、$P=0$ となるのは $n\le N_0$ の因子のどれかが $0$ のときに限る。
3:$\sum_n|a_{\sigma(n)}|=A$ なので、1 により並べ替えた積も収束する。その有限積を $P'_M$ とおく。$N$ を固定し、$\sigma(\{1,\ldots,M\})\supset\{1,\ldots,N\}$ となるほど $M$ を大きくとると、$S:=\sigma(\{1,\ldots,M\})\setminus\{1,\ldots,N\}$ は $N$ より大きい番号の有限集合で、$P'_M=P_N\prod_{n\in S}(1+a_n)$ である。lem-ip-basic-inequality により $|P'_M-P_N|\le e^{A}(e^{T_N}-1)$ である。$M\to\infty$ とすると $|\lim_MP'_M-P_N|\le e^{A}(e^{T_N}-1)$ であり、$N\to\infty$ とすれば $\lim_MP'_M=P$ を得る。$\square$
因子が実数で符号が一定のときは、逆向きも成り立つ。
どちらも $\sum_na_n<\infty$ なら thm-ip-absolute により収束する。逆を示す。
1:展開すると $\prod_{n\le N}(1+a_n)\ge1+\sum_{n\le N}a_n$ である。$\sum_na_n=\infty$ なら有限積は $+\infty$ に発散し、収束しない。
2:$1-x\le e^{-x}$($x\ge0$)により $0<\prod_{n\le N}(1-a_n)\le\exp\bigl(-\sum_{n\le N}a_n\bigr)$ である。$\sum_na_n=\infty$ なら右辺は $0$ に近づくので、因子がすべて $0$ でないまま有限積が $0$ に近づき、積は $0$ に発散する。$\square$
$n\ge2$ に対し $1-\frac1{n^2}=\frac{(n-1)(n+1)}{n\cdot n}$ なので、有限積は隣り合う因子が打ち消し合って
$$
\prod_{n=2}^N\Bigl(1-\frac1{n^2}\Bigr)=\frac{1\cdot3}{2\cdot2}\cdot\frac{2\cdot4}{3\cdot3}\cdots\frac{(N-1)(N+1)}{N\cdot N}=\frac{N+1}{2N}
$$
となり、$\prod_{n=2}^\infty(1-1/n^2)=\frac12$ である。$\sum_n1/n^2<\infty$ なので thm-ip-absolute の場合にあたる。一方 $\prod_{n=2}^N(1-\frac1n)=\prod_{n=2}^N\frac{n-1}{n}=\frac1N\to0$ であり、$\prod_{n\ge2}(1-1/n)$ は $0$ に発散する。これは thm-ip-nonnegative の 2 で $\sum1/n=\infty$ の場合である。
関数の無限積では、収束が一様であることが正則性を保証する。以下で使う Weierstrass の定理は、「開集合 $U$ 上の正則関数の列が $U$ の各コンパクト集合上で一様収束するなら、極限は正則で、導関数の列も各コンパクト集合上で極限の導関数に一様収束する」という主張である(この記事では証明しない。Ahl66 Chapter 5 §1.1, Theorem 1)。
$U\subset\mathbb{C}$ を開集合、$f_n$ を $U$ 上の正則関数とし、$U$ の各コンパクト集合 $K$ について $\sum_{n}\sup_{z\in K}|f_n(z)|<\infty$ とする。このとき次が成り立つ。
1:コンパクト集合 $K$ 上で $A_K:=\sum_n\sup_K|f_n|$, $T_{K,N}:=\sum_{n>N}\sup_K|f_n|$ とおく。prf-ip-absolute の評価を各点で使うと $\sup_K|F_M-F_N|\le e^{A_K}(e^{T_{K,N}}-1)$($M>N$)であり、右辺は $N\to\infty$ で $0$ に近づく。よって $F_N$ は $K$ 上一様収束し、Weierstrass の定理により極限 $F$ は $U$ 上正則である。
2:$z_0\in U$ を含む閉円板 $D\subset U$ をとり、$\sum_{n>N_0}\sup_D|f_n|\le\frac12$ となる $N_0$ をとる。$G_M:=\prod_{n=N_0+1}^{M}(1+f_n)$ とおくと、lem-ip-basic-inequality により $D$ 上で $|G_M-1|\le e^{1/2}-1<0.65$ であり、1 と同じく $G_M$ は $D$ 上一様収束して、極限 $G$ は $D$ 上で $|G|\ge0.35$ を満たす。$F=F_{N_0}G$ なので、$D$ における $F$ の零点は、位数も含めて有限積 $F_{N_0}=\prod_{n\le N_0}(1+f_n)$ の零点と一致する。$n>N_0$ の因子は $D$ 上で $0$ にならない。
3:2 の記号で、$D$ の内部の点 $z$ で $F(z)\ne0$ なら $F'/F=F_{N_0}'/F_{N_0}+G'/G$ である。Weierstrass の定理により $G_M'\to G'$ は $D$ の内部の各コンパクト集合上で一様収束し、$|G_M|\ge0.35$ なので $G_M'/G_M\to G'/G$ も同じ集合上で一様収束する。有限積の対数微分は $G_M'/G_M=\sum_{n=N_0+1}^M f_n'/(1+f_n)$ と和になるので、主張の級数の一様収束が $z_0$ の近くで従う。$U'$ のコンパクト集合はこのような円板の内部の有限個で覆えるので、主張を得る。$\square$
複素数列 $(c_n)$ が $\sum_n|c_n|<\infty$ を満たすとする。このとき $F(z):=\prod_{n=1}^\infty(1+c_nz)$ は $\mathbb{C}$ 上の整関数であり、その Taylor 展開は
$$
F(z)=\sum_{r=0}^\infty e_rz^r,\qquad e_r:=\sum_{n_1< n_2<\cdots< n_r}c_{n_1}c_{n_2}\cdots c_{n_r}\quad(e_0=1)
$$
である。$e_r$ を定める級数は絶対収束する。
$f_n(z)=c_nz$ は $|z|\le R$ で $|f_n|\le R|c_n|$ を満たすので、thm-ip-holomorphic により $F$ は整関数で、有限積 $F_N(z)=\prod_{n\le N}(1+c_nz)$ は $|z|\le1$ 上で $F$ に一様収束する。$F_N$ は多項式で、$z^r$ の係数は $e_r^{(N)}:=\sum_{n_1<\cdots< n_r\le N}c_{n_1}\cdots c_{n_r}$ である。
$\sum_{n_1<\cdots< n_r}|c_{n_1}\cdots c_{n_r}|\le\bigl(\sum_n|c_n|\bigr)^r<\infty$ なので $e_r$ の級数は絶対収束し、$e_r^{(N)}\to e_r$ である。一方、Cauchyの積分公式による係数の表示から
$$
\Bigl|\frac{F^{(r)}(0)}{r!}-e_r^{(N)}\Bigr|=\Bigl|\frac1{2\pi i}\oint_{|z|=1}\frac{F(z)-F_N(z)}{z^{r+1}}\,dz\Bigr|\le\sup_{|z|=1}|F-F_N|\longrightarrow0
$$
である。よって $F^{(r)}(0)/r!=e_r$ である。$\square$
正弦関数 $\sin\pi z$ の零点はちょうど整数全体で、すべて 1 位である。多項式が根で因数分解されるのと同じく、$\sin\pi z$ も零点で積に分解される。証明には余接関数の部分分数展開を使う。
$z\in\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}$ に対し
$$
\pi\cot\pi z=\frac1z+\sum_{n=1}^\infty\frac{2z}{z^2-n^2}
$$
が成り立つ。右辺の級数は $\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}$ の各コンパクト集合上で絶対かつ一様に収束する。
右辺を $g(z)$ とおく。$|z|\le R$ かつ $n\ge2R$ なら $|z^2-n^2|\ge n^2-R^2\ge\frac34n^2$ なので $\bigl|\frac{2z}{z^2-n^2}\bigr|\le\frac{8R}{3n^2}$ であり、有限個の項を除けば 一様収束の Weierstrass の優級数判定法が使える。よって $g$ は $\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}$ 上正則である。$\frac1{z-n}+\frac1{z+n}=\frac{2z}{z^2-n^2}$ なので、$g_N(z):=\sum_{n=-N}^N\frac1{z-n}$ とおくと $g(z)=\lim_{N\to\infty}g_N(z)$ である。$f(z):=\pi\cot\pi z$ とおき、$f$ と $g$ が同じ 2 つの性質をもつことを確かめる。
周期性:$g_N(z+1)-g_N(z)=\sum_{m=-N-1}^{N-1}\frac1{z-m}-\sum_{n=-N}^{N}\frac1{z-n}=\frac1{z+N+1}-\frac1{z-N}\to0$ なので $g(z+1)=g(z)$ である。$f(z+1)=f(z)$ は明らかである。
倍角の関係式:$\frac1{z/2-n}=\frac2{z-2n}$, $\frac1{(z+1)/2-n}=\frac2{z-(2n-1)}$ なので、$n$ が $-N$ から $N$ を動くとき
$$
g_N\Bigl(\frac z2\Bigr)+g_N\Bigl(\frac{z+1}2\Bigr)=2\sum_{m=-2N-1}^{2N}\frac1{z-m}=2g_{2N}(z)+\frac2{z+2N+1}
$$
であり、$N\to\infty$ として $g(\frac z2)+g(\frac{z+1}2)=2g(z)$ を得る。$f$ については、$\cot\frac x2+\cot\frac{x+\pi}2=\cot\frac x2-\tan\frac x2=\frac{\cos^2(x/2)-\sin^2(x/2)}{\sin(x/2)\cos(x/2)}=2\cot x$ を $x=\pi z$ に使えば同じ式を得る。
差 $h:=f-g$ を考える。整数 $m$ の近くで $\sin\pi z=(-1)^m\pi(z-m)+O((z-m)^3)$, $\cos\pi z=(-1)^m+O((z-m)^2)$ なので $f(z)-\frac1{z-m}$ は $m$ の近くで正則に延び、$g(z)-\frac1{z-m}$ も $n=\pm m$ 以外の項が $m$ の近くで一様収束するので正則に延びる。よって $h$ は $\mathbb{C}$ 上の整関数に延びる。$f$ と $g$ はともに奇関数なので $h$ も奇関数で、$h(0)=0$ である。$h$ は周期 $1$ をもち、$\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}$ で倍角の関係式 $h(\frac z2)+h(\frac{z+1}2)=2h(z)$ を満たすので、連続性によりすべての $z$ で満たす。また $f,g$ は実軸上で実数値なので $h$ も実軸上で実数値である。
$h$ を実軸に制限すると、周期 $1$ の連続関数なので最大値 $M$ をある $x_0\in[0,1]$ でとる。$2M=h(\frac{x_0}2)+h(\frac{x_0+1}2)$ で右辺の 2 項はどちらも $M$ 以下なので、$h(\frac{x_0}2)=M$ である。これを繰り返すと $h(x_0/2^k)=M$ がすべての $k$ で成り立ち、$k\to\infty$ として $h(0)=M$、すなわち $M=0$ を得る。$-h$ に同じ議論を使うと最小値も $0$ である。よって $h$ は実軸上で恒等的に $0$ であり、一致の定理により $\mathbb{C}$ 上で $h\equiv0$ である。$\square$
すべての $z\in\mathbb{C}$ に対し
$$
\sin\pi z=\pi z\prod_{n=1}^\infty\Bigl(1-\frac{z^2}{n^2}\Bigr)
$$
が成り立つ(DLMF 4.22.1)。右辺の無限積は $\mathbb{C}$ の各コンパクト集合上で一様に絶対収束する。
$f_n(z):=-z^2/n^2$ は $|z|\le R$ で $|f_n|\le R^2/n^2$ を満たし、$\sum_nR^2/n^2<\infty$ である。thm-ip-holomorphic により $S(z):=\pi z\prod_{n\ge1}(1-z^2/n^2)$ は整関数で、零点は整数全体、すべて 1 位である。$S$ の零点の外、すなわち $z\in\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}$ で、thm-ip-holomorphic の 3 と lem-ip-cotangent により
$$
\frac{S'(z)}{S(z)}=\frac1z+\sum_{n=1}^\infty\frac{-2z/n^2}{1-z^2/n^2}=\frac1z+\sum_{n=1}^\infty\frac{2z}{z^2-n^2}=\pi\cot\pi z=\frac{(\sin\pi z)'}{\sin\pi z}
$$
である。よって $q(z):=S(z)/\sin\pi z$ は $\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}$ で $q'=q\bigl(S'/S-\pi\cot\pi z\bigr)=0$ を満たし、$\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}$ は連結なので $q$ は定数 $c$ である。$z\to0$ のとき $S(z)/(\pi z)\to1$(無限積は連続で、$z=0$ での値は $1$)、$\sin\pi z/(\pi z)\to1$ なので $c=1$ である。$S=\sin\pi z$ は $\mathbb{C}\setminus\mathbb{Z}$ で成り立ち、整数点では両辺とも $0$ である。$\square$
正の整数 $r$ に対し
$$
\sum_{1\le n_1< n_2<\cdots< n_r}\frac1{n_1^2n_2^2\cdots n_r^2}=\frac{\pi^{2r}}{(2r+1)!}
$$
が成り立つ。とくに $\sum_{n\ge1}\frac1{n^2}=\frac{\pi^2}6$($r=1$)であり、さらに $\sum_{n\ge1}\frac1{n^4}=\frac{\pi^4}{90}$ である。
$c_n:=-1/n^2$ に prop-ip-coefficients を使うと、$G(w):=\prod_{n\ge1}(1-w/n^2)$ は整関数で、$w^r$ の係数は $(-1)^re_r$($e_r$ は主張の左辺)である。一方 $\sin\pi z/(\pi z)=\sum_{r\ge0}(-1)^r\pi^{2r}z^{2r}/(2r+1)!$ であり、thm-ip-sine により $G(z^2)=\sin\pi z/(\pi z)$ である。整関数 $\Phi(w):=\sum_r(-1)^r\pi^{2r}w^r/(2r+1)!$ は $\Phi(z^2)=G(z^2)$ を満たし、すべての複素数 $w$ は平方 $z^2$ と書けるので $\Phi=G$ である。係数を比べて主張を得る。最後の式は $\sum_n\frac1{n^4}=\bigl(\sum_n\frac1{n^2}\bigr)^2-2e_2=\frac{\pi^4}{36}-\frac{2\pi^4}{120}=\frac{\pi^4}{90}$ による。$\square$
$r=1$ の値は Basel問題 の答えである。左辺は 多重ゼータ値 $\zeta(2,2,\ldots,2)$ にあたり、同じ論法は因子を $1+c_nX$ の形に変えた多くの無限積に使える。
$$ \frac\pi2=\prod_{n=1}^\infty\frac{(2n)^2}{(2n-1)(2n+1)}=\frac21\cdot\frac23\cdot\frac43\cdot\frac45\cdot\frac65\cdot\frac67\cdots $$
thm-ip-sine で $z=\frac12$ とおくと $1=\frac\pi2\prod_{n\ge1}\bigl(1-\frac1{4n^2}\bigr)=\frac\pi2\prod_{n\ge1}\frac{(2n-1)(2n+1)}{(2n)^2}$ である。有限積は $0$ でない極限 $2/\pi$ に収束するので、逆数の有限積は $\pi/2$ に収束する。$\square$
整数でない複素数 $z$ に対し
$$
\Gamma(z)\Gamma(1-z)=\frac{\pi}{\sin\pi z}
$$
が成り立つ。とくに $\Gamma(\frac12)=\sqrt\pi$ である。
Γ関数の定理「Weierstrass の乗積表示」と注意「乗積表示による解析接続」により、すべての $z\in\mathbb{C}$ で
$$
\frac1{\Gamma(z)}=z\,e^{\gamma z}\prod_{n=1}^\infty\Bigl(1+\frac zn\Bigr)e^{-z/n}
$$
であり(左辺は $z\in\{0,-1,-2,\ldots\}$ で $0$ と読む)、無限積は収束する。$z$ と $-z$ の式を掛けると、収束する無限積どうしの積は因子ごとの積の無限積になるので
$$
\frac1{\Gamma(z)\Gamma(-z)}=-z^2\prod_{n=1}^\infty\Bigl(1+\frac zn\Bigr)\Bigl(1-\frac zn\Bigr)=-z^2\prod_{n=1}^\infty\Bigl(1-\frac{z^2}{n^2}\Bigr)=-\frac{z\sin\pi z}{\pi}
$$
である(最後は thm-ip-sine)。$z$ が整数でなければ、関数等式により $\Gamma(1-z)=-z\Gamma(-z)$ なので、$\frac1{\Gamma(z)\Gamma(1-z)}=\frac{\sin\pi z}{\pi}$ を得る。$z=\frac12$ とおくと $\Gamma(\frac12)^2=\pi$ であり、$\Gamma(\frac12)=\int_0^\infty t^{-1/2}e^{-t}\,dt>0$ なので $\Gamma(\frac12)=\sqrt\pi$ である。$\square$
実数 $s>1$ に対し $\zeta(s):=\sum_{n\ge1}n^{-s}$ とすると、素数 $p$ 全体をわたる無限積について
$$
\zeta(s)=\prod_{p}\frac1{1-p^{-s}}
$$
が成り立ち、とくに $s>1$ で $\zeta(s)\ne0$ である。
実際、$\frac1{1-p^{-s}}=1+a_p$, $a_p:=\frac{p^{-s}}{1-p^{-s}}\le2p^{-s}$ であり、$\sum_pa_p\le2\zeta(s)<\infty$ なので積は絶対収束し、値は素数の並べ方によらない(thm-ip-absolute)。$x$ 以下の素数にわたる有限積は、各因子を等比級数 $\sum_{k\ge0}p^{-ks}$ に展開して掛け合わせると、素因数分解の一意性により「素因数がすべて $x$ 以下の正の整数 $n$」にわたる $n^{-s}$ の和になる。この和は $\sum_{n\le x}n^{-s}$ 以上 $\zeta(s)$ 以下なので、$x\to\infty$ で $\zeta(s)$ に近づく。因子はどれも $0$ でないので、thm-ip-absolute の 2 により $\zeta(s)\ne0$ である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 絶対収束 $\sum_n\lvert a_n\rvert<\infty$ | $a_n=\dfrac{(-1)^n}{\sqrt n}$($n\ge2$) | $\sum_na_n$ は収束するが、$\prod_n(1+a_n)$ は $0$ に発散する |
| thm-ip-nonnegative の符号の条件 $a_n\ge0$ | $a_{2k-1}=\dfrac1{\sqrt k}$, $a_{2k}=-\dfrac1{\sqrt k+1}$ | 「積が収束すれば $\sum_na_n$ も収束する」(thm-ip-nonnegative の 1)が崩れる:$\prod_n(1+a_n)=1$ と収束するが、$\sum_na_n$ は発散する |
| 定義の「尾部の積の極限が $0$ でない」 | $\prod_{n\ge2}\bigl(1-\frac1n\bigr)$ | 因子はどれも $0$ でないのに有限積が $0$ に近づく。これを収束に含めると「値が $0$ なら因子のどれかが $0$」が崩れる |
表の 3 行を順に確かめる。
1 行目:$\sum_n(-1)^n/\sqrt n$ は交代級数の判定法により収束する。$|x|\le\frac12$ の実数 $x$ に対し、$\log(1+x)=x-\frac{x^2}2+\sum_{k\ge3}\frac{(-1)^{k-1}x^k}k$ の剰余は $\frac{|x|^3}{3}\cdot\frac1{1-|x|}\le\frac23|x|^3\le\frac{x^2}3$ 以下なので、$\log(1+x)\le x-\frac{x^2}6$ である。$n\ge4$ では $|a_n|\le\frac12$ なので$$\sum_{n=4}^N\log(1+a_n)\le\sum_{n=4}^Na_n-\frac16\sum_{n=4}^N\frac1n\longrightarrow-\infty$$であり、尾部の有限積は $0$ に近づく。因子はどれも $0$ でないので、積は $0$ に発散する。
2 行目:$\bigl(1+\frac1{\sqrt k}\bigr)\bigl(1-\frac1{\sqrt k+1}\bigr)=\frac{\sqrt k+1}{\sqrt k}\cdot\frac{\sqrt k}{\sqrt k+1}=1$ なので、有限積は偶数番目までで $1$、奇数番目 $2k-1$ までで $1+\frac1{\sqrt k}$ となり、$1$ に収束する。一方 $a_{2k-1}+a_{2k}=\frac1{\sqrt k(\sqrt k+1)}\ge\frac1{2k}$ なので、偶数番目までの部分和は調和級数の半分以上で、$\sum_na_n$ は $+\infty$ に発散する。1 行目と合わせると、絶対収束を課さない限り、積の収束と和の収束はどちらからも他方が従わない。
3 行目:ex-ip-telescoping のとおり有限積は $1/N$ である。def-ip-convergence はこの積を「$0$ に発散する」と扱う。
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