Jones多項式

同義語:Jones polynomialジョーンズ多項式

概要

Jones多項式(Jones polynomial)とは、向き付けられた絡み目 $L$ に $t^{1/2}$ の整数係数の Laurent 多項式 $V_L(t)$ を対応させる不変量で、自明な結び目で $1$ となり、スケイン関係式 $t^{-1}V_{L_+}-tV_{L_-}=(t^{1/2}-t^{-1/2})V_{L_0}$ をみたす。図式の状態和である Kauffman の括弧式をねじれ数で補正して得られ、Reidemeister 移動で変わらない。鏡像では $t$ が $t^{-1}$ に替わるので、右手系の三葉結び目 $t+t^3-t^4$ は左手系のものと同値でない。連結で被約な交代図式では次数の幅が交差の個数に等しく、交代結び目の交差数が求まる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Reidemeister移動, 結び目, 絡み数, Laurent多項式

Jones 多項式(Jones polynomial)とは、向き付けられた絡み目 $L$ に $t^{1/2}$ の整数係数の Laurent 多項式 $V_L(t)$ を対応させる絡み目の不変量で、自明な結び目では $1$ になり、$1$ か所だけ異なる $3$ つの絡み目の間のスケイン関係式
$$ t^{-1}V_{L_+}(t)-t\,V_{L_-}(t)=\bigl(t^{1/2}-t^{-1/2}\bigr)V_{L_0}(t) $$
をみたす。V. F. R. Jones が作用素環(von Neumann 環)の研究から 1984 年に発見した(Jon85、CK14 §2)。
この記事では、Kauffman による図式の状態和(Kauffman の括弧式)から Jones 多項式を構成し(Kau04 §9)、Reidemeister移動 で変わらないことを証明する。続いて、スケイン関係式と、自明な絡み目・Hopf 絡み目・三葉結び目・8 の字結び目の値を求め、三葉結び目が鏡像と同値でないことを示す。最後に、交代図式の交差の個数が Jones 多項式の次数の幅で決まること(Kauffman・村杉・Thistlethwaite の定理)を証明し、交代結び目の交差数を求める。

Kauffman の括弧式

絡み目の図式は Reidemeister移動 の定義「正則な射影と図式」に従い、交差の符号 $\varepsilon_c$ とねじれ数 $w(D)=\sum_c\varepsilon_c$ も同記事の定義に従う。図式の交差の個数を $n(D)$ と書く。
交差 $c$ の近くで、図式は平面を $4$ つの角に分ける。上の線を $c$ のまわりに反時計回りに少し回すとき掃く $2$ つの角(向かい合っている)を A の角、残りの $2$ つを B の角という。この区別は図式の向きによらない。

平滑化と状態

図式 $D$ の交差 $c$ の小さな円板の中の $2$ 本の線を、交わらない $2$ 本の弧に取り替えて $c$ を消す操作を平滑化という。$2$ つの A の角がつながるように取り替えるものを A の平滑化、$2$ つの B の角がつながるものを B の平滑化という。各交差にどちらの平滑化を施すかの選び方 $S$ を $D$ の状態といい、すべての交差を $S$ のとおりに平滑化すると、交差のない互いに交わらない単純閉曲線の和が得られる。その個数を $\lvert S\rvert$、A・B の平滑化の個数を $a(S)$、$b(S)$ と書く。すべて A の状態を $S_A$、すべて B の状態を $S_B$ とし、$s_A(D):=\lvert S_A\rvert$、$s_B(D):=\lvert S_B\rvert$ とおく。

交差(上の線は左下から右上へ)と 2 通りの平滑化。上の線を反時計回りに回すと上と下の角を掃くので、それが A の角で、A の平滑化は上と下の角をつなぐ。 交差(上の線は左下から右上へ)と 2 通りの平滑化。上の線を反時計回りに回すと上と下の角を掃くので、それが A の角で、A の平滑化は上と下の角をつなぐ。

Kauffman の括弧式

図式 $D$(向きは使わない)の Kauffman の括弧式を
$$ \langle D\rangle:=\sum_{S}A^{a(S)-b(S)}\,\delta^{\lvert S\rvert-1}\in\mathbb{Z}[A,A^{-1}],\qquad \delta:=-A^2-A^{-2} $$
で定める。和は $D$ の $2^{n(D)}$ 個の状態にわたる。

括弧式の関係式
  1. 交差のない円の図式 $O$ について $\langle O\rangle=1$ である。
  2. 図式 $D$ と、$D$ と交わらない交差のない円 $O$ の和について $\langle D\sqcup O\rangle=\delta\langle D\rangle$ である。
  3. 交差 $c$ を A、B で平滑化した図式を $D_A^c$、$D_B^c$ とすると、$\langle D\rangle=A\langle D_A^c\rangle+A^{-1}\langle D_B^c\rangle$ である。

1 は状態が $1$ つで $\lvert S\rvert=1$ だからである。2 は、$D\sqcup O$ の状態は $D$ の状態と同じで、どの状態でも円が $1$ つ増えるからである。3 は、状態の和を $c$ での平滑化で $2$ つに分けたものである。$\square$

平滑化を 1 つ替えると円は 1 つ増減する

状態 $S$ の $1$ つの交差での平滑化だけを替えた状態を $S'$ とすると、$\lvert S'\rvert=\lvert S\rvert\pm1$ である。

円の左右を比べる

要点:替える交差の $2$ 本の弧が別の円にあれば円は $1$ つ減り、同じ円にあれば Jordan 曲線定理により円は $2$ つに分かれる。

詳しい証明を開く

交差 $c$ の小さな円板 $U$ の境界の上の $4$ つの端点を反時計回りに $e_1,e_2,e_3,e_4$ とし、$S$ では $U$ の中で弧 $\alpha$ が $e_1,e_2$ を、弧 $\beta$ が $e_3,e_4$ を結び、$S'$ では $e_2,e_3$ と $e_4,e_1$ を結ぶとする。$\alpha,\beta$ が $S$ の別の円 $C_1,C_2$ にあれば、$S'$ では $C_1$ と $C_2$ がつながって $1$ つの円になり、$\lvert S'\rvert=\lvert S\rvert-1$ である。

$\alpha,\beta$ が同じ円 $C$ にあるとき、$C$ から $\alpha,\beta$ を除いた $2$ 本の弧 $\gamma_1,\gamma_2$ の結び方は、(i) $\gamma_1$ が $e_2$ と $e_3$、$\gamma_2$ が $e_4$ と $e_1$ を結ぶか、(ii) $\gamma_1$ が $e_2$ と $e_4$、$\gamma_2$ が $e_3$ と $e_1$ を結ぶかである。(i) なら $S'$ では $\gamma_1$ と $\gamma_2$ がそれぞれ閉じて $\lvert S'\rvert=\lvert S\rvert+1$ である。(ii) が起こらないことを示す。(ii) では $C$ を $e_1\to e_2\to e_4\to e_3\to e_1$ の順に回り、$\alpha$ は $e_1$ から $e_2$ へ、$\beta$ は $e_4$ から $e_3$ へ進む。$U$ の中の $\alpha$ と $\beta$ に挟まれた部分 $U_0$ は連結で $C$ と交わらず、進む向きの左に $U_0$ があるのは $\alpha$ の側だけで、$\beta$ では $U_0$ は右にある。$U_0$ は $\mathbb{R}^2\setminus C$ の $1$ つの成分(内部か外部)に含まれるので、その成分は $\alpha$ では左に、$\beta$ では右にあり、内部も $\alpha$ と $\beta$ で $C$ の反対の側にあることになるが、これは 多角形のJordan曲線定理 の系「辺の両側と内部の向き」の 2 に反する。$\square$

図式に向きがあるとき、交差の向きに沿った平滑化とは、入ってくる $2$ 本の線の端を、それぞれもう一方の線の出ていく端につなぐ平滑化である。図 1 の交差で $2$ 本の線がともに上へ進むとすると、上の線の向き $(1,1)$ と下の線の向き $(-1,1)$ の行列式は $2$ で、交差は正である。A の平滑化は下の $2$ つの端を上の $2$ つの端に縦につなぐので、向きに沿った平滑化である。上下を入れ替えると A と B の角が入れ替わる。したがって、正の交差では A の平滑化、負の交差では B の平滑化が、向きに沿った平滑化である。

Reidemeister 移動での振る舞い

括弧式と Reidemeister 移動
  1. $D'$ が $D$ から平面イソトピー、II 型または III 型の Reidemeister 移動で得られるなら、$\langle D'\rangle=\langle D\rangle$ である。
  2. $D'$ が $D$ から I 型の移動で得られ、新しい交差の符号が $\varepsilon$($1$ 本の線の自分自身との交差なので、向きのとり方によらない)なら、$\langle D'\rangle=-A^{3\varepsilon}\langle D\rangle$ である。
移動の円板の中で平滑化する

要点:移動の円板の中の交差を prop-jp-rules の 3 で平滑化し、現れる小さな円を 2 で外して係数を比べる。

詳しい証明を開く

平面イソトピー。 向きを保つ同相写像は交差の上の線の回る向きを保つので A・B の角を保ち、状態の円の個数も保つ。

I 型。 新しい交差 $c$ の $2$ つの平滑化の一方では輪が閉じて小さな円になり、他方では輪がほどけて $D$ に戻る。どちらかの向きを与えると、$c$ では $1$ 本の線がいったん $c$ を通り、輪を回ってもう一度 $c$ を通る。向きに沿った平滑化は、輪から $c$ に戻ってくる端を輪へ出ていく端につなぐので、輪が円になる。正の交差では A の平滑化、負の交差では B の平滑化が向きに沿った平滑化なので $\varepsilon=1$ なら $\langle D'\rangle=A\delta\langle D\rangle+A^{-1}\langle D\rangle=-A^3\langle D\rangle$、$\varepsilon=-1$ なら $\langle D'\rangle=A\langle D\rangle+A^{-1}\delta\langle D\rangle=-A^{-3}\langle D\rangle$ である。

II 型。 $2$ つの交差 $c_1,c_2$ の間の小さな $2$ 角形 $P$ は、上の線の同じ側にある。上の線を $c_1$ から $c_2$ へ進むとき $P$ が左にあるとすると、$c_1$ では $P$ は上の線の $c_2$ へ向かう半分の反時計回りの隣なので A の角であり、$c_2$ では $c_1$ へ向かう半分の時計回りの隣なので B の角である。$4$ 通りの平滑化のうち、$c_1$ で A・$c_2$ で B(係数 $A\cdot A^{-1}$)は $P$ を両端で開いて移動前の $2$ 本の線に戻る。$c_1$ で B・$c_2$ で A(係数 $A^{-1}\cdot A$)は $P$ を閉じて小さな円を作り、残りは $2$ 本の線を両端で折り返した形 $D_\cup$ になる。$c_1,c_2$ とも A(係数 $A^2$)と、とも B(係数 $A^{-2}$)は、どちらも $D_\cup$ になる。よって $\langle D'\rangle=\langle D\rangle+(A^2+A^{-2}+\delta)\langle D_\cup\rangle=\langle D\rangle$ である。

III 型。 上の $2$ 本 $T,M$ の交差を prop-jp-rules の 3 で平滑化する。移動の前後とも、平滑化した $2$ 本の弧の下を $B$ が通る。$T\cap M$ の $4$ つの角のうち、$B$ が移動の前に通る角と後に通る角は向かい合っている。この $2$ つの角をつなぐ平滑化では、$B$ は前後とも $2$ 本の弧と $1$ 回ずつ交わり、つながった角を通って $B$ を滑らせると前後は平面イソトピーで写り合う。もう一方の平滑化では、$B$ は前後とも一方の弧の下を $2$ 回くぐり、II 型の移動で外すとどちらも同じ図式になる。交差 $T\cap M$ は移動で変わらないので、前後で A・B の角と係数は同じで、II 型での不変性から $\langle D'\rangle=\langle D\rangle$ である。$\square$

I 型の移動での係数 $-A^{\pm3}$ は、ねじれ数が $\pm1$ だけ変わることと同じ形をしている(Reidemeister移動 の命題「ねじれ数と Reidemeister 移動」)。そこで次のように補正する。

Jones 多項式の不変性

向き付けられた絡み目 $L$ の図式 $D$ について
$$ f(D):=\bigl(-A^{3}\bigr)^{-w(D)}\langle D\rangle $$
とおく。

  1. $f(D)$ は $D$ のとり方によらず、$L$ だけで決まる。
  2. $L$ の成分の個数を $\mu$ とすると、$f(D)$ に現れる $A$ の指数はすべて $2(\mu-1)$ と $4$ を法として合同である。
    2 により $f(D)$ は $A^{\pm2}$ の Laurent 多項式なので、$A^{2}=t^{-1/2}$(すなわち $A=t^{-1/4}$)とおいたものを
    $$ V_L(t):=f(D)\big|_{A^2=t^{-1/2}}\in t^{(\mu-1)/2}\,\mathbb{Z}[t,t^{-1}] $$
    と書き、$L$ の Jones 多項式という。とくに結び目の Jones 多項式は $t$ の Laurent 多項式である。
補正と指数の偶奇

1.prop-jp-moves と Reidemeister移動 の命題「ねじれ数と Reidemeister 移動」により、平面イソトピーと II 型・III 型の移動では $\langle D\rangle$ も $w(D)$ も変わらない。I 型で符号 $\varepsilon$ の交差が加わると、$\langle D\rangle$ は $-A^{3\varepsilon}$ 倍、$(-A^3)^{-w}$ は $(-A^3)^{-\varepsilon}$ 倍になり、$-A^{3\varepsilon}\cdot(-A^3)^{-\varepsilon}=1$ なので $f$ は変わらない。Reidemeister移動 の系「図式から不変量を作る」により、$f(D)$ は $L$ だけで決まる。
2.$\delta^k=(-1)^kA^{2k}(1+A^{-4})^k$ の指数は $2k$ と $4$ を法として合同なので、状態 $S$ の項の指数はすべて $a(S)-b(S)+2(\lvert S\rvert-1)$ と合同である。$1$ つの交差の平滑化を替えると、$a-b$ は $\pm2$、lem-jp-switch により $2(\lvert S\rvert-1)$ も $\pm2$ だけ変わるので、この値は $4$ を法として状態によらない。そこで、正の交差では A、負の交差では B の平滑化をとる状態 $S_0$ で計算する。これは各交差を向きに沿って平滑化する状態で、$a(S_0)-b(S_0)=w(D)$ である。向きに沿った平滑化は、別の $2$ 成分の交差なら $2$ 成分を $1$ つにつなぎ、$1$ 成分の自分自身との交差ならそれを $2$ つに分けるので、$1$ 回ごとに成分の個数は $\pm1$ だけ変わる。よって $\lvert S_0\rvert\equiv\mu+n(D)\equiv\mu+w(D)\pmod2$ である。$f(D)$ の指数は
$$ -3w(D)+w(D)+2(\lvert S_0\rvert-1)\equiv-2w(D)+2(\mu+w(D)-1)\equiv2(\mu-1)\pmod 4 $$
と合同である。指数 $e$ の項は $t^{-e/4}$ になり、$e\equiv2(\mu-1)\pmod4$ から $-e/4\in\frac{\mu-1}2+\mathbb{Z}$ である。$\square$

スケイン関係式と計算

スケイン関係式

向き付けられた絡み目の図式 $D_+,D_-,D_0$ が $1$ つの小さな円板の外で一致し、円板の中ではそれぞれ正の交差、負の交差、それを向きに沿って平滑化した $2$ 本の弧であるとする。それらの絡み目を $L_+,L_-,L_0$ とすると
$$ t^{-1}V_{L_+}(t)-t\,V_{L_-}(t)=\bigl(t^{1/2}-t^{-1/2}\bigr)V_{L_0}(t) $$
が成り立つ。

正の交差では A の平滑化が向きに沿った平滑化 $D_0$ で、B の平滑化を $D_\infty$ と書くと、prop-jp-rules の 3 により $\langle D_+\rangle=A\langle D_0\rangle+A^{-1}\langle D_\infty\rangle$ である。負の交差では A と B の役割が入れ替わり、$\langle D_-\rangle=A\langle D_\infty\rangle+A^{-1}\langle D_0\rangle$ である。$\langle D_\infty\rangle$ を消去して
$$ A\langle D_+\rangle-A^{-1}\langle D_-\rangle=(A^2-A^{-2})\langle D_0\rangle $$
を得る。$w(D_\pm)=w(D_0)\pm1$ なので、両辺を $(-A^3)^{w(D_0)}$ で割ると $-A^4f(D_+)+A^{-4}f(D_-)=(A^2-A^{-2})f(D_0)$ となる。$A^2=t^{-1/2}$、$A^4=t^{-1}$ とおき、$-1$ 倍すればよい。$\square$

自明な絡み目と Hopf 絡み目

自明な結び目は交差のない円の図式をもつので $V=1$ である。$\mu$ 成分の自明な絡み目は互いに交わらない $\mu$ 個の円の図式をもち、prop-jp-rules の 2 により $V=\bigl(-t^{1/2}-t^{-1/2}\bigr)^{\mu-1}$ である。
$2$ 交差の Hopf 絡み目の図式で、$2$ つの交差がともに正になる向き(絡み数 $1$)のものを $H_+$ とする。$1$ つの交差について、$D_+=H_+$、$D_-$ は上下を入れ替えた図式で、II 型の移動で $2$ つの円の図式になり、$D_0$ は $1$ 交差の輪の図式で、I 型の移動で円の図式になる。スケイン関係式から
$$ t^{-1}V_{H_+}-t\bigl(-t^{1/2}-t^{-1/2}\bigr)=t^{1/2}-t^{-1/2},\qquad V_{H_+}(t)=-t^{1/2}-t^{5/2} $$
である。

右手系の三葉結び目(3 つの交差はすべて正)と 8 の字結び目(正の交差 2 つと負の交差 2 つ)の図式。矢印は向き。 右手系の三葉結び目(3 つの交差はすべて正)と 8 の字結び目(正の交差 2 つと負の交差 2 つ)の図式。矢印は向き。

三葉結び目と 8 の字結び目

三葉結び目。 図 2 の右手系の三葉結び目 $K$ の $3$ 交差の図式の $1$ つの交差について、$D_+$ を元の図式とすると、$D_-$ はその交差と隣の交差を II 型の移動で外し、残る輪を I 型の移動で外すと円の図式になり、$D_0$ は $2$ つの交差がともに正の Hopf 絡み目 $H_+$ の図式になる。スケイン関係式と ex-jp-hopf から
$$ t^{-1}V_K=t+\bigl(t^{1/2}-t^{-1/2}\bigr)\bigl(-t^{1/2}-t^{5/2}\bigr)=-t^3+t^2+1,\qquad V_K(t)=t+t^3-t^4 $$
である。
8 の字結び目。 図 2 の 8 の字結び目 $E$ の図式の負の交差の $1$ つについて、$D_-$ を元の図式とすると、$D_+$ は Reidemeister 移動で円の図式にでき、$D_0$ は $H_+$ の図式になる。スケイン関係式から $t^{-1}-tV_E=\bigl(t^{1/2}-t^{-1/2}\bigr)\bigl(-t^{1/2}-t^{5/2}\bigr)$、すなわち
$$ V_E(t)=t^{2}-t+1-t^{-1}+t^{-2} $$
である。

鏡像と向きの反転
  1. 絡み目 $L$ を平面 $z=0$ で折り返した鏡像 $L^{*}$ について、$V_{L^{*}}(t)=V_L(t^{-1})$ である($t^{1/2}$ は $t^{-1/2}$ に替える)。
  2. $L$ の成分 $K$ の向きだけを逆にした絡み目 $L'$ について、$\lambda$ を $K$ とほかの成分との絡み数の和(図式で $K$ とほかの成分の間の交差の符号の和の半分。Reidemeister移動 の例「図式の絡み数」)とすると、$V_{L'}(t)=t^{-3\lambda}V_L(t)$ である。とくに結び目の Jones 多項式は向きによらない。

1.$L^{*}$ の図式は $L$ の図式のすべての交差の上下を入れ替えたもの $D^{*}$ である。上下を入れ替えると A の角と B の角が入れ替わるので、$\langle D^{*}\rangle$ は $\langle D\rangle$ の $A$ を $A^{-1}$ に替えたものになる。交差の符号はすべて逆になり $w(D^{*})=-w(D)$ なので、$f(D^{*})$ は $f(D)$ の $A$ を $A^{-1}$ に替えたものである。
2.括弧式は向きを使わないので変わらない。$K$ の自分自身との交差とほかの成分どうしの交差の符号は変わらず、$K$ とほかの成分との交差の符号はすべて逆になる。$\lambda$ の定め方により、それらの交差の符号の和は $2\lambda$ なので、$w(D')=w(D)-4\lambda$ である。よって $f(D')=(-A^3)^{4\lambda}f(D)=A^{12\lambda}f(D)$ で、$A^{12\lambda}=t^{-3\lambda}$ である。$\square$

三葉結び目は鏡像と同値でない

右手系の三葉結び目と左手系の三葉結び目は、どちらに向きを与えても同値でない。

左手系の三葉結び目は右手系のものの鏡像なので、prop-jp-mirror の 1 と ex-jp-trefoil によりその Jones 多項式は $t^{-1}+t^{-3}-t^{-4}$ で、$t+t^3-t^4$ と異なる。結び目の Jones 多項式は向きによらない(prop-jp-mirror の 2)ので、どの向きでも同値でない。$\square$

$V_E(t^{-1})=V_E(t)$ なので、8 の字結び目について Jones 多項式は鏡像との区別を与えない。

交代図式と交差数

図式は、射影の像 $\pi(L)$ が連結なとき連結であるという。結び目の図式は円の像なので連結である。交差 $c$ を $\pi(L)$ から除くと連結成分の個数が増えるとき、$c$ を無駄な交差(nugatory crossing)といい、無駄な交差のない図式を被約であるという。各成分に沿って進むと交差を上・下・上・下と交互に通る図式を交代図式という。結び目 $K$ と同値な結び目の正則な射影の図式の交差の個数の最小値を $K$ の交差数 $c(K)$ という。Laurent 多項式 $V$ の最高次と最低次の指数の差を $\operatorname{span}V$ と書く。

Kauffman・村杉・Thistlethwaite の定理
  1. 任意の連結な図式 $D$ について $\operatorname{span}\langle D\rangle\le4n(D)$ である。したがって、連結な図式 $D$ をもつ絡み目 $L$ について $\operatorname{span}V_L\le n(D)$ である。
  2. $D$ が連結で被約な交代図式なら、$\operatorname{span}\langle D\rangle=4n(D)$、$\operatorname{span}V_L=n(D)$ である。
名前と証明の方針

村杉は結び目理論の村杉邦男(Kunio Murasugi)である。証明は次の 3 つの補題による。状態 $S$ の項 $A^{a(S)-b(S)}\delta^{\lvert S\rvert-1}$ の最高次は $a(S)-b(S)+2(\lvert S\rvert-1)$ で、lem-jp-switch により $\lvert S\rvert$ は $S_A$ からの平滑化の替え方で抑えられる。交代図式では、$S_A$ と $S_B$ の円が平面の領域の塗り分けと対応し、最高次と最低次の項がほかの状態の項と打ち消し合わない。

次数の評価

任意の図式 $D$(交差 $n$ 個)について、$\langle D\rangle$ の最高次は $n+2s_A(D)-2$ 以下、最低次は $-n-2s_B(D)+2$ 以上である。さらに、B の平滑化が $1$ つだけのどの状態 $S$ でも $\lvert S\rvert< s_A(D)$ なら(A 適切という)、$A^{n+2s_A-2}$ の係数は $(-1)^{s_A-1}$ である。B についても同様である。

B の平滑化が $k$ 個の状態 $S$ は $S_A$ から平滑化を $k$ 回替えて得られるので、lem-jp-switch により $\lvert S\rvert\le s_A+k$ で、項の最高次は $(n-2k)+2(\lvert S\rvert-1)\le n+2s_A-2$ である。A 適切なら、$k\ge1$ のとき最初の $1$ 回で円が減るので $\lvert S\rvert\le s_A+k-2$ で、最高次は $n+2s_A-6$ 以下である。よって $A^{n+2s_A-2}$ の係数は $S_A$ の項 $A^n\delta^{s_A-1}$ の最高次の係数 $(-1)^{s_A-1}$ に等しい。B の側は $A$ と $A^{-1}$ を入れ替えて同様である。$\square$

状態の円の個数の上界

連結な図式 $D$ について $s_A(D)+s_B(D)\le n(D)+2$ である。

交差の個数による帰納法

要点:連結性を保つ平滑化が必ずあることを示し、平滑化で交差を $1$ つ減らす。

詳しい証明を開く

$n=n(D)$ の帰納法による。$n=0$ なら $D$ は $1$ つの円で、$s_A=s_B=1$ である。$n\ge1$ とし、交差 $c$ をとる。$\pi(L)$ から $c$ の小さな近傍を除いたものを $G$ とすると、$G$ の各連結成分は、交差の近くで $4$ 本の線が出会う点(次数 $4$)と、$c$ の近くの $4$ つの端点(次数 $1$)からなるグラフとみなせ、次数の和が偶数なので端点を偶数個含む。$D$ は連結なので、$G$ の各成分は端点を少なくとも $1$ つ含む。端点を反時計回りに $1,2,3,4$ とし、A の平滑化が $\{1,2\}$ と $\{3,4\}$ を、B の平滑化が $\{2,3\}$ と $\{4,1\}$ を結ぶとする。$D_A^c$ と $D_B^c$ がどちらも連結でないなら、$G$ の成分による端点の分け方は $\{\{1,2\},\{3,4\}\}$ の細分で、$\{\{2,3\},\{4,1\}\}$ の細分でもあるので、各成分は端点を $1$ つずつしか含まず、偶数個であることに反する。そこで $D_A^c$ が連結としてよい(B なら A と B を入れ替える)。

$D_A^c$ の交差は $n-1$ 個で、$S_A(D_A^c)$ は $S_A(D)$ と同じ円を与えるので $s_A(D)=s_A(D_A^c)$ である。$c$ では A、ほかの交差では B の平滑化をとる $D$ の状態を $S'$ とすると、$S'$ の円は $S_B(D_A^c)$ の円と同じで、$S_B(D)$ は $S'$ と $c$ での平滑化だけが異なるので、lem-jp-switch により $s_B(D)\le s_B(D_A^c)+1$ である。帰納法の仮定から $s_A(D)+s_B(D)\le(n-1)+2+1=n+2$ である。$\square$

交代図式の状態

$D$ を $n\ge1$ 個の交差をもつ連結な交代図式とする。

  1. $s_A(D)+s_B(D)=n+2$ である。
  2. $D$ が被約なら、$D$ は A 適切かつ B 適切である。
市松模様の塗り分け

要点:平面の領域を市松模様に塗ると、交代図式ではすべての交差の A の角が同じ色になり、状態の円の個数を領域の個数で下から抑えられる。

詳しい証明を開く

塗り分け。 $\mathbb{R}^2\setminus\pi(L)$ の各領域の点 $x$ から一般の方向に出る半直線が $\pi(L)$ と交わる回数の偶奇で、領域を黒と白に塗る。偶奇は半直線によらず(多角形のJordan曲線定理 の補題「交わりの数の偶奇は向きによらない」と同じ議論を各成分の閉じた折れ線に当てる)、辺をはさんで隣り合う領域の色は異なる。各交差の $4$ つの角は色が交互に並び、向かい合う A の $2$ つの角は同じ色である。

A の角の色。 交差 $c$ の上の線の半分 $h$ について、$h$ の反時計回りの隣の角は A の角である。$c$ から隣の交差 $c'$ へ進む図式の辺 $e$ が $c$ で上を通るとすると、交代図式なので $c'$ では下を通る。$e$ を $c$ から $c'$ へ進むときの左の領域は、$c$ では $h=e$ の反時計回りの隣なので A の角で、$c'$ では下の線の半分 $e$ の時計回りの隣、すなわち上の線の半分の反時計回りの隣なので、やはり A の角である。よって $c$ と $c'$ の A の角は同じ色で、$D$ が連結なのですべての交差の A の角は同じ色(黒とする)である。

1。 白い領域を $W$ とすると、すべて A の平滑化では白い角はどこでもつながらないので、$W$ に交差の近くの白い角の部分を加えたものは $\mathbb{R}^2\setminus S_A$ の $1$ つの成分である。黒い領域を含む成分はほかにあるので、$\mathbb{R}^2\setminus S_A$ の成分は (白い領域の個数) $+1$ 個以上ある。互いに交わらない $s$ 個の単純閉折れ線の補集合の成分はちょうど $s+1$ 個(平面グラフ の命題「連結成分の個数を入れたEulerの公式」を、閉折れ線を頂点と辺のグラフとみて当てる)なので、$s_A\ge$ (白い領域の個数) である。同様に $s_B\ge$ (黒い領域の個数) である。$\pi(L)$ を、交差と曲がり角を頂点とし、辺を $3$ 等分して単純グラフにした平面グラフとみると、頂点と辺の個数の差は $n-2n=-n$ で、平面グラフ の定理「Eulerの公式」から領域は $n+2$ 個ある。よって $s_A+s_B\ge n+2$ で、lem-jp-dual と合わせて等号が成り立つ。

2。 A 適切でないとすると、ある交差 $c$ の A の平滑化の $2$ 本の弧が $S_A$ の同じ円 $C$ にある。$S_A$ の各弧の片側は白い領域、反対側は黒い領域を含む成分に接し、$C$ の片側の細い帯は連結なので、$C$ が接する白い領域は $1$ つ $W$ である。$c$ の $2$ つの白い角はどちらも $C$ の弧に接するので $W$ に属する。$c$ から一方の白い角に入り、$W$ の中を通ってもう一方の白い角から $c$ に戻る単純閉折れ線 $\gamma$ をとると、$\gamma$ は $\pi(L)$ と $c$ でだけ交わり、$c$ に出入りする $4$ 本の線を $2$ 本ずつ $\gamma$ の内側と外側に分ける。多角形のJordan曲線定理 により、$\pi(L)\setminus\{c\}$ は内側と外側の両方に点をもつので連結でなく、$c$ は無駄な交差である。B についても同様である。$\square$

3 つの補題を合わせる

1.lem-jp-degree により $\operatorname{span}\langle D\rangle\le(n+2s_A-2)-(-n-2s_B+2)=2n+2(s_A+s_B)-4$ で、lem-jp-dual により右辺は $4n$ 以下である。$f(D)$ は $\langle D\rangle$ に単項式を掛けたもので、$A^{2}=t^{-1/2}$ とおくと指数は $-\frac14$ 倍になるので、$\operatorname{span}V_L=\frac14\operatorname{span}\langle D\rangle\le n$ である。2.$n=0$ なら両辺は $0$ である。$n\ge1$ なら、lem-jp-alternating の 2 と lem-jp-degree により最高次と最低次はちょうど $n+2s_A-2$ と $-n-2s_B+2$ で、lem-jp-alternating の 1 により $\operatorname{span}\langle D\rangle=2n+2(n+2)-4=4n$ である。$\square$

交代結び目の交差数

結び目 $K$ が $n$ 個の交差をもつ被約な交代図式をもてば、$c(K)=n$ である。とくに三葉結び目の交差数は $3$、8 の字結び目の交差数は $4$ である。

thm-jp-span の 2 により $\operatorname{span}V_K=n$ である。$K$ と同値な結び目の任意の図式 $D'$ は連結なので、thm-jp-span の 1 により $n=\operatorname{span}V_K\le n(D')$ である。図 2 の図式はどちらも連結・被約な交代図式で、交差は $3$ 個と $4$ 個である(ex-jp-trefoil の $V$ の幅もそれぞれ $3$ と $4$)。$\square$

反例

thm-jp-span の 2 の仮定を $1$ つずつ外すと、等式 $\operatorname{span}V_L=n(D)$ が成り立たなくなる。

外す条件図式 $D$$n(D)$$\operatorname{span}V_L$
交代三葉結び目の図式の $1$ つの交差の上下を入れ替えたもの$3$$0$
被約三葉結び目の図式に、交代のまま I 型の輪を $1$ つ加えたもの$4$$3$
連結三葉結び目の図式 $2$ つを離して並べたもの$6$$7$
反例の確かめ

1 行目:射影の像は三葉結び目の図式と同じなので連結で、どの交差を除いても像は連結のまま(被約)だが、入れ替えた交差で交代でなくなる。ex-jp-trefoil のとおり Reidemeister 移動で円の図式になるので $V=1$、$\operatorname{span}V=0$ である。2 行目:輪は $1$ 本の線が続けて $2$ 回通る交差で、線は輪の交差を上・下と続けて通るので、輪の前の交差で下を通っていれば交代のままにできる。輪の交差を除くと輪が切り離されるので無駄な交差で、被約でない。$V$ は三葉結び目のままなので幅は $3$ である。3 行目:$2$ つの図式 $D_1,D_2$ を離して並べた図式 $D$ では、状態は $D_1,D_2$ の状態の組で円の個数は和なので $\langle D\rangle=\delta\langle D_1\rangle\langle D_2\rangle$、$w(D)=w(D_1)+w(D_2)$ である。よって $V_L=\bigl(-t^{1/2}-t^{-1/2}\bigr)V_{K_1}V_{K_2}$ で、幅は $1+3+3=7$ である。$D$ は交代で、どの交差を除いても連結成分の個数は $2$ のまま(被約)だが、連結でない。thm-jp-span の 1 も連結の仮定なしには成り立たない。

補足

  • Jones 多項式が自明な結び目を見分けるか($V_K=1$ なら $K$ は自明か)は未解決である。一方、Jones 多項式が自明な絡み目と等しい、自明でない絡み目は知られている(Thistlethwaite の例。Kau04 §9・§9.1、pp. 91–96)。
  • 結び目 $9_{42}$ は鏡像と同値でないが、Jones 多項式は $t\leftrightarrow t^{-1}$ で不変で、鏡像を区別しない(Kau04 §9、p. 95)。
  • lem-jp-dual の不等式は、連結な図式 $D$ に付随する曲面の種数 $g_T(D)$(Turaev 種数)を使って $s_A+s_B=n+2-2g_T(D)$ という等式に精密化され、$\operatorname{span}V_L\le n(D)-g_T(D)$ が得られる(CK14 §2、p. 4)。交代な絡み目は交差の個数が最小の交代図式をもつという Tait の予想(CK14 §2 の Conjecture 2.1、p. 3)は、この種の評価で証明された。cor-jp-crossing-number は、結び目の被約な交代図式そのものが交差の個数の最小を実現することを示している。
  • Kauffman の括弧式を、次数付きのベクトル空間の鎖複体に持ち上げ、そのホモロジーの次数付き Euler 標数が(正規化を変えた)Jones 多項式になるようにしたものが Khovanov ホモロジーである(BN02 §1.1、p. 338)。

関連項目

参考文献

[3]
Abhijit Champanerkar, Ilya Kofman, A survey on the Turaev genus of knots, Acta Mathematica Vietnamica, 2014, pp. 497–514(§2 の Conjecture 2.1(Tait の予想)、括弧式による Jones 多項式の式、適切な図式、Turaev の双対状態補題と次数の幅の評価。arXiv:1406.1945 版の pp. 3–4)
[4]
Dror Bar-Natan, On Khovanov's categorification of the Jones polynomial, Algebraic & Geometric Topology, 2002, pp. 337–370(§1.1 Executive summary、p. 338)

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