Lagrangeの定理(Lagrange's theorem)とは、有限群 $G$ とその部分群 $H$ に対し $|G|=[G:H]|H|$ が成り立ち、特に $|H|$ が $|G|$ を割ることを述べる定理である。剰余類が $G$ を $H$ と同じ大きさのブロックに分割することから従い、元の位数、素数位数群、準同型の核と像の大きさを制約する。一方、$A_4$ は位数12だが位数6の部分群をもたないため、その逆命題は一般に成り立たない。
有限群 $G$ の部分群 $H$ を一つ選ぶと、$G$ は $H$ と同じ大きさの左剰余類へ分割される。したがって「全体の元数」は「一つのブロックの元数」と「ブロックの個数」の積になる。これが群論における Lagrangeの定理(Lagrange's theorem)の内容である。
この定理は部分群を作る定理ではない。位数 $d$ の部分群が既に与えられたときに $d\mid |G|$ を与える必要条件であり、$d\mid |G|$ から位数 $d$ の部分群の存在は一般に従わない。後者の存在問題には Cauchy の定理や Sylow の定理が必要になる。
$G$ を群、$H\leq G$ を部分群とする。$G$ 上の関係を
$$
x\sim_H y\quad\Longleftrightarrow\quad x^{-1}y\in H
$$
で定めると、$\sim_H$ は同値関係であり、$x$ の同値類は左剰余類 $xH$ である。したがって異なる左剰余類は交わらず、それらの合併は $G$ に等しい。
$x^{-1}x=e\in H$ より反射律が成り立つ。$x^{-1}y\in H$ なら $(x^{-1}y)^{-1}=y^{-1}x\in H$ なので対称律が成り立つ。また $x^{-1}y,y^{-1}z\in H$ なら
$$
x^{-1}z=(x^{-1}y)(y^{-1}z)\in H
$$
なので推移律が成り立つ。
$x\sim_H y$ と $x^{-1}y\in H$ は同値であり、後者はある $h\in H$ によって $y=xh$ と書けることと同値である。よって $x$ の同値類は $xH$ である。同値類全体は集合を分割するので、残りの主張も従う。
任意の $g\in G$ に対し、
$$
\lambda_g\colon H\longrightarrow gH,\qquad h\longmapsto gh
$$
は全単射である。特に $H$ が有限なら $|gH|=|H|$ である。
$g^{-1}$ を左から掛ける写像
$$
gH\longrightarrow H,\qquad x\longmapsto g^{-1}x
$$
は良定義であり、$\lambda_g$ と互いに逆写像である。
$G$ における $H$ の左剰余類の個数を 指数といい、$[G:H]$ と書く。$G$ が有限なら剰余類の個数も有限である。
$G$ を有限群、$H\leq G$ を部分群とする。このとき
$$
|G|=[G:H]\,|H|
$$
が成り立つ。特に $|H|$ は $|G|$ を割る。
prop-left-cosets-partition により、$G$ は $[G:H]$ 個の左剰余類の互いに素な合併である。prop-cosets-equipotent により各剰余類は $|H|$ 個の元をもつ。有限集合の元数を数えれば
$$
|G|=\underbrace{|H|+\cdots+|H|}_{[G:H]\text{ 個}}=[G:H]\,|H|
$$
を得る。DF04 §3.2 も参照。
剰余類による分割と $H\cong gH$ は無限群でも成り立つ。しかし無限基数の積 $|G|=[G:H]|H|$ からは、有限整数の整除のような強い制約は得られない。「部分群の位数が群の位数を割る」という算術的な結論に有限性が必要である。
有限群 $G$ の任意の元 $g$ に対し、$\operatorname{ord}(g)$ は $|G|$ を割る。特に
$$
g^{|G|}=e
$$
である。
$g$ が生成する巡回部分群 $\langle g\rangle$ の位数は $\operatorname{ord}(g)$ に等しい。Lagrangeの定理を $\langle g\rangle\leq G$ に適用すれば $\operatorname{ord}(g)\mid |G|$ を得る。$|G|=m\operatorname{ord}(g)$ と書けば
$$
g^{|G|}=\bigl(g^{\operatorname{ord}(g)}\bigr)^m=e
$$
である。
位数が素数 $p$ の群は巡回群であり、$\mathbb Z/p\mathbb Z$ と同型である。
単位元でない $g\in G$ を取る。直前の系により $\operatorname{ord}(g)$ は $p$ の約数であり、$g\neq e$ なので $\operatorname{ord}(g)\neq1$ である。従って $\operatorname{ord}(g)=p$ であり、$\langle g\rangle=G$ となる。
$G$ を有限群とし、$K\leq H\leq G$ とすると
$$
[G:K]=[G:H][H:K]
$$
が成り立つ。
Lagrangeの定理を $H\leq G$ と $K\leq H$ に適用すると
$$
|G|=[G:H]|H|=[G:H][H:K]|K|
$$
である。一方 $|G|=[G:K]|K|$ でもあるから、正整数 $|K|$ を消去すれば結論を得る。
$f\colon G\to K$ を有限群 $G$ からの群準同型とすると
$$
|G|=|\ker f|\,|\operatorname{im}f|
$$
が成り立つ。
$\ker f$ の左剰余類 $g\ker f$ に $f(g)$ を対応させると、$G/\ker f$ から $\operatorname{im}f$ への全単射を得る。実際、$g\ker f=g'\ker f$ と $g^{-1}g'\in\ker f$ は同値であり、これは $f(g)=f(g')$ と同値である。従って
$$
[G:\ker f]=|\operatorname{im}f|.
$$
Lagrangeの定理 $|G|=[G:\ker f]|\ker f|$ と合わせればよい。
$3$ 次対称群 $S_3$ の部分群は
$$
\{e\},\quad
\langle(1\,2)\rangle,\quad
\langle(1\,3)\rangle,\quad
\langle(2\,3)\rangle,\quad
\langle(1\,2\,3)\rangle,\quad
S_3
$$
の 6個 である。それぞれの位数は $1,2,2,2,3,6$ であり、すべて $|S_3|=6$ を割る。旧Mathpediaの「5個」という記載は、実際に6個を列挙していたため、6個へ訂正した。
$H=\langle(1\,2)\rangle$ とすれば、$S_3$ は3個の左剰余類に分かれ、各剰余類は2元をもつ。したがって $6=3\cdot2$ である。$H$ が正規部分群でなくても、Lagrangeの定理には影響しない。
加法群 $\mathbb Z/12\mathbb Z$ で $[4]$ が生成する部分群は
$$
H=\{[0],[4],[8]\}
$$
であり、$|H|=3$ である。その剰余類は $H,[1]+H,[2]+H,[3]+H$ の4個なので
$$
12=[\mathbb Z/12\mathbb Z:H]|H|=4\cdot3
$$
となる。
$n\geq2$ とし、単数群 $(\mathbb Z/n\mathbb Z)^\times$ を考える。この群の位数は Euler 関数 $\varphi(n)$ である。$\gcd(a,n)=1$ なら $[a]$ はこの群の元なので、cor-element-order-divides-group-order より
$$
[a]^{\varphi(n)}=[1],
$$
すなわち $a^{\varphi(n)}\equiv1\pmod n$ を得る。
$|A_4|=12$ であり $6\mid12$ であるが、交代群 $A_4$ に位数6の部分群は存在しない。従って
$$
d\mid |G|\quad\Longrightarrow\quad
\text{$G$ に位数 $d$ の部分群が存在する}
$$
という「Lagrangeの定理の逆」は一般に偽である。
位数6の部分群 $H\leq A_4$ が存在すると仮定する。Lagrangeの定理より $[A_4:H]=2$ なので、$H$ は正規部分群である。実際、左剰余類と右剰余類はどちらも $H$ とその補集合の二つだけなので一致する。
$A_4$ の単位元でない元は、3個の二重互換と8個の3サイクルである。$H$ は単位元を含む6元集合なので、二重互換だけでは元数が足りず、ある3サイクル $x$ を含む。
$S_4$ の元による共役は $A_4$ の自己同型を定めるので、必要なら $H$ もその像で置き換えることにより $x=(1\,2\,3)$ としてよい。$A_4$ で $x$ と可換な元は $\langle x\rangle$ の3元だけである。実際、$x$ と可換な置換は $x$ の固定点4を保ち、$\{1,2,3\}$ 上で $x$ の冪である。したがって共役類の大きさは
$$
[A_4:C_{A_4}(x)]=12/3=4
$$
である。直接共役を計算すると $x$ の共役類は
$$
\{(1\,2\,3),(1\,4\,2),(1\,3\,4),(2\,4\,3)\}
$$
であり、$x^{-1}=(1\,3\,2)$ を含まない。ゆえに8個の3サイクルは、$x$ と $x^{-1}$ が属する異なる二つの共役類に分かれる。部分群なので $x^{-1}\in H$ であり、正規性により $H$ は両共役類をすべて含む。ゆえに $H$ は8個の3サイクルと単位元を含み、$|H|\geq9$ となって $|H|=6$ に矛盾する。
素数 $p$ が $|G|$ を割るときに位数 $p$ の元が存在することは Cauchy の定理、$p^r$ が $|G|$ を割る最大の $p$ の冪のときに位数 $p^r$ の部分群が存在することは Sylow の定理である。これらは素数または素数冪という追加の構造を使う存在定理であり、Lagrangeの定理だけからは得られない。
$S_3$ の部分集合 $A=\{e,(1\,2),(1\,3)\}$ は3元をもち、3は6を割る。しかし $(1\,2)(1\,3)=(1\,3\,2)\notin A$ なので $A$ は部分群でない。Lagrangeの定理は「任意の部分集合の大きさが群の位数を割る」とは述べていない。
Lagrangeの定理に必要なのは $H$ が部分群であることだけで、正規性は不要である。正規性は剰余類集合 $G/H$ 自身に群構造を入れるときに必要になる。
まず剰余類が群を分割することと、各剰余類が部分群と全単射で対応することを理解する。次に元の位数と素数位数群の系を確認し、指数の積公式と核・像の位数公式へ進む。最後に $A_4$ の反例を通じて整除は必要条件にすぎないことを確認し、Cauchy の定理と Sylow の定理の存在主張と区別する。
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