Rouchéの定理

同義語:Rouché's theoremルーシェの定理

概要

Rouchéの定理(Rouché's theorem)とは、閉曲線の上で 2 つの正則関数 $f,g$ が $|f-g|<|f|+|g|$(古典的には $|g-f|<|f|$)を満たすとき、曲線が囲む零点の個数が $f$ と $g$ で等しいという定理である。有理型関数では零点の個数から極の個数を引いた値が等しくなる。曲線の上で $g/f$ が負の実軸を避けるので像の曲線の回転数が等しくなり、それを偏角の原理で零点の個数に読みかえて証明される。関数を連続に動かす族や関数列の極限でも零点の個数は保たれ(Hurwitz の定理)、多項式の根が係数に連続に依存することや、超越方程式の解の個数の決定に使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 偏角の原理, 回転数, 有理型関数, 零点の位数

正則関数 $f$ の零点を直接求めるのは難しくても、$f$ に近くて零点の分かっている関数 $g$ があれば、ある曲線の内側にある零点の 個数 は $g$ と同じだと結論できることがある。これが Rouché の定理(Rouché's theorem)で、古典的な形では「閉曲線の上で $|g-f|<|f|$ ならば、$f$ と $g$ は曲線の内側に同じ個数の零点をもつ」と述べられる。証明の核心は、曲線の上で $g/f$ が負の実軸を避けるので、像の曲線 $g\circ\gamma$ と $f\circ\gamma$ が原点のまわりを同じ回数だけ回る、という観察であり、そこから 偏角の原理 によって回転数を零点の個数に読みかえる。
円周の上で対称な不等式 $|f-g|<|f|+|g|$ を仮定する形は 偏角の原理 の記事の定理「Rouché の定理」で証明されている。この記事では、それを凸な集合に含まれる一般の閉曲線と有理型関数に広げた形、関数を連続的に動かす族の形、関数列の形(Hurwitz の定理との関係)を証明し、多項式の根の連続性と超越方程式の解の個数に応用する。

定義と主定理

以下、曲線は区分的に滑らかなものとし、閉曲線 $\gamma$ の像を $\gamma^*$、点 $a\notin\gamma^*$ に関する回転数を $n(\gamma,a)=\frac{1}{2\pi i}\oint_\gamma\frac{dz}{z-a}$ と書く。領域 とは連結な 開集合 のことである。有理型関数 $f$ と点 $a$ について、$\operatorname{ord}_af$ を、$a$ が位数 $k$ の零点なら $k$、位数 $m$ の極なら $-m$、そのどちらでもなければ $0$ と定める。

閉曲線が囲む零点と極の個数

$W$ を開集合、$f$ を $W$ 上の有理型関数、$\gamma$ を $W$ 内の閉曲線とし、$\gamma^*$ は $f$ の零点も極も通らず、$f$ の零点と極で $n(\gamma,a)\neq0$ となるものは有限個であるとする。
$$ N_\gamma(f):=\sum_{a\text{:零点}}n(\gamma,a)\operatorname{ord}_af,\qquad P_\gamma(f):=\sum_{b\text{:極}}n(\gamma,b)\,(-\operatorname{ord}_bf) $$
を、$\gamma$ が囲む $f$ の 零点の個数 と 極の個数 という。

これは 偏角の原理 の記事の定義「零点と極を回転数で数えた和」と同じものである。$\gamma$ が反時計回りの円周なら、$N_\gamma(f)$ は円板の内部の零点の個数を位数の重複を込めて数えたものになる。自分自身と交わらない閉曲線なら、内部の点での回転数はすべて $1$ かすべて $-1$ である(回転数 の記事の注意「単純閉曲線の回転数」)。
偏角の原理は、単連結な領域と有限個の零点・極という仮定のもとで述べられている。実際の応用では、曲線が円板・長方形・半円板などの 凸な 集合の境界であることが多い。そこで、まず凸なコンパクト集合のまわりで偏角の原理を使える形にしておく。

凸なコンパクト集合のまわりの偏角の原理

$W$ を領域、$K\subset W$ を凸なコンパクト集合、$\gamma$ を $\gamma^*\subset K$ となる閉曲線とする。$f$ を $W$ 上の恒等的に $0$ でない有理型関数で、$\gamma^*$ の上に零点も極ももたないものとする。このとき、$f$ の零点と極で $n(\gamma,a)\neq0$ となるものは有限個でどれも $K$ に属し、
$$ N_\gamma(f)-P_\gamma(f)=n(f\circ\gamma,0) $$
が成り立つ。

$K$ の外の点。 $a\notin K$ なら、$\gamma^*$ は $a$ を含まない凸集合 $K$ に含まれるので、回転数 の記事の系「ホモトピー不変性の帰結」の 2 により $n(\gamma,a)=0$ である。
$K$ の凸な近傍。 $W=\mathbb{C}$ なら $\delta:=1$、そうでなければ $\delta$ を、コンパクト集合 $K$ と閉集合 $\mathbb{C}\setminus W$ の距離(正である)とし、
$$ U:=\{z\in\mathbb{C}\mid\operatorname{dist}(z,K)< \delta/2\} $$
とおく。$U$ は開集合で、凸である。実際、$z_1,z_2\in U$ について $k_j\in K$ を $|z_j-k_j|< \delta/2$ となるようにとると、$0\le s\le1$ について $(1-s)k_1+sk_2\in K$ であり、
$$ |((1-s)z_1+sz_2)-((1-s)k_1+sk_2)|\le(1-s)|z_1-k_1|+s|z_2-k_2|< \delta/2 $$
となる。よって $U$ は単連結な領域である。$U$ の閉包は有界閉集合 $\{\operatorname{dist}(z,K)\le\delta/2\}$ に含まれ、これはコンパクトで $W$ に含まれる。
零点と極の有限性。 $W$ は連結で $f$ は恒等的に $0$ でないので、$f$ の零点の集合は $W$ の中に集積点をもたず(有理型関数 の記事の命題「有理型関数のなす体」の 2)、極の集合も有理型関数の定義により $W$ の中に集積点をもたない。したがって、それがコンパクト集合 $\{\operatorname{dist}(z,K)\le\delta/2\}$ と交わる部分は有限集合であり、とくに $U$ の中の零点と極は有限個である。
偏角の原理の適用。 $f|_U$ と $U$ 内の閉曲線 $\gamma$ に 偏角の原理 の記事の定理「偏角の原理」を使うと、$U$ の中の零点・極 $a$ についての和 $\sum_an(\gamma,a)\operatorname{ord}_af$ が $n(f\circ\gamma,0)$ に等しい。$U$ の外の零点・極は $K$ の外にあるので回転数が $0$ であり、和に寄与しない。よってこの和は $N_\gamma(f)-P_\gamma(f)$ に等しい。

Rouché の定理

$W$ を領域、$K\subset W$ を凸なコンパクト集合、$\gamma$ を $\gamma^*\subset K$ となる閉曲線とする。$f,g$ を $W$ 上の恒等的に $0$ でない有理型関数で、$\gamma^*$ の上に極をもたず、$\gamma^*$ の各点で
$$ |f(z)-g(z)|<|f(z)|+|g(z)| $$
を満たすものとする。このとき $f$ と $g$ は $\gamma^*$ の上に零点をもたず、
$$ N_\gamma(f)-P_\gamma(f)=N_\gamma(g)-P_\gamma(g) $$
が成り立つ。とくに $f,g$ が $W$ 上で正則なら $N_\gamma(f)=N_\gamma(g)$ であり、$\gamma^*$ の各点で $|g(z)-f(z)|<|f(z)|$ が成り立つときも同じ結論が成り立つ。

$z\in\gamma^*$ で $f(z)=0$ なら、仮定は $|g(z)|<|g(z)|$ となって成り立たない。よって $f$ は $\gamma^*$ の上で $0$ にならず、$g$ も同様である。
$\gamma\colon[\alpha,\beta]\to W$ とし、$\varphi(t):=g(\gamma(t))/f(\gamma(t))$ とおく。$\varphi$ は $0$ を通らない閉曲線である。仮定を $|f(\gamma(t))|$ で割ると
$$ |\varphi(t)-1|<|\varphi(t)|+1 $$
となる。$\varphi(t)$ が $0$ 以下の実数 $-x$($x\ge0$)なら左辺は $x+1$、右辺も $x+1$ となって不等式に反するので、$\varphi(t)$ は半直線 $(-\infty,0]$ に属さない。$1$ と $\varphi(t)$ を結ぶ線分が $0$ を通るのは $\varphi(t)\in(-\infty,0]$ のときだけだから、回転数 の記事の系「ホモトピー不変性の帰結」の 3(値 $1$ の定数の曲線と比べる)により $n(\varphi,0)=0$ である。$g\circ\gamma=(f\circ\gamma)\varphi$ なので、回転数 の記事の命題「回転数の基本性質」の 4 により
$$ n(g\circ\gamma,0)=n(f\circ\gamma,0)+n(\varphi,0)=n(f\circ\gamma,0) $$
である。$f$ と $g$ のそれぞれに lem-rt-convex を使うと、左辺は $N_\gamma(g)-P_\gamma(g)$、右辺は $N_\gamma(f)-P_\gamma(f)$ に等しい。
正則なら極はないので $P_\gamma(f)=P_\gamma(g)=0$ である。最後の主張は $|g-f|<|f|\le|f|+|g|$ からしたがう。

不等式 $|f-g|\le|f|+|g|$ は三角不等式によっていつも成り立つので、仮定の中身は「等号が $\gamma^*$ の上で一度も起こらない」ことにある。等号は $g/f$ が $0$ 以下の実数になるときに限るから、仮定は「曲線の上で $f$ と $g$ が逆向きを向かない」と言いかえられる。古典的な仮定 $|g-f|<|f|$ は「$g$ が $f$ を中心とする半径 $|f|$ の円の中にある」ことで、こちらは 回転数 の記事の補題「犬の散歩の補題」の形である。飼い主 $f(z)$ が原点の木のまわりを回る回数と、綱の長さがいつも木までの距離より短い犬 $g(z)$ が回る回数は等しい。
$K$ としては、閉円板のほかに、閉じた長方形・三角形・半円板などがとれる。$\gamma$ が $K$ の境界を反時計回りに 1 周する単純閉曲線なら、$N_\gamma(f)$ は $K$ の内部の零点の個数である。

連続的に動かす形

Rouché の定理は「零点の個数は、曲線の上で $0$ にならないかぎり、関数を動かしても変わらない」という原理の一例である。この原理そのものを定理として述べておく。

連続な族に対する Rouché の定理

$W$ を開集合、$\gamma\colon[\alpha,\beta]\to W$ を閉曲線とし、$H\colon[0,1]\times W\to\mathbb{C}$ を連続写像で、各 $s\in[0,1]$ について $H_s:=H(s,\cdot)$ は $W$ 上で正則であり、
$$ H(s,z)\neq0\qquad(0\le s\le1,\ z\in\gamma^*) $$
を満たすとする。このとき $n(H_s\circ\gamma,0)$ は $s$ によらない。さらに $W$ が領域で、$\gamma^*$ が $W$ に含まれる凸なコンパクト集合 $K$ に含まれるなら、$N_\gamma(H_s)$ は $s$ によらない。とくに $N_\gamma(H_0)=N_\gamma(H_1)$ である。

$G(t,s):=H(s,\gamma(t))$ は $[\alpha,\beta]\times[0,1]$ 上の連続写像で、$\gamma(\alpha)=\gamma(\beta)$ よりすべての $s$ で $G(\alpha,s)=G(\beta,s)$ であり、仮定により値は $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ に入る。よって閉曲線 $H_0\circ\gamma$ と $H_s\circ\gamma$ は $\mathbb{C}\setminus\{0\}$ の中で閉曲線としてホモトピックであり、回転数 の記事の定理「回転数のホモトピー不変性」により $n(H_s\circ\gamma,0)=n(H_0\circ\gamma,0)$ である。
後半について:$H_s$ は $\gamma^*$ の上で $0$ にならないので恒等的に $0$ ではなく、極ももたない。lem-rt-convex により $N_\gamma(H_s)=n(H_s\circ\gamma,0)$ であり、これは前半により $s$ によらない。

古典的な形の Rouché の定理は、この定理から次のようにも得られる。$\gamma^*$ の上で $|g-f|<|f|$ なら、$H_s:=f+s(g-f)$ について
$$ |H_s(z)|\ge|f(z)|-s|g(z)-f(z)|>0\qquad(z\in\gamma^*,\ 0\le s\le1) $$
なので、thm-rt-family により $N_\gamma(f)=N_\gamma(H_0)=N_\gamma(H_1)=N_\gamma(g)$ である。対称な不等式 $|f-g|<|f|+|g|$ のもとでは、$f$ と $g$ が逆向きを向かないので、同じ線分 $H_s$ が $\gamma^*$ の上で $0$ にならない。こちらも thm-rt-family から thm-rt-main の正則な場合が出る。

根を動かす族

$H_s(z):=z^3-3sz+1$($0\le s\le1$)と単位円周 $|z|=1$ を考える。$s=0$ では $z^3+1$ の零点は $-1,e^{\pm\pi i/3}$ で、すべて円周の上にあるので thm-rt-family は使えない。そこで半径 $\frac12$ の円周 $|z|=\frac12$ をとると、$|z^3+1|\ge1-\frac18=\frac78$、$|3sz|\le\frac32s$ なので、$s< \frac7{12}$ の範囲では $H_s$ はこの円周の上で $0$ にならず、円板 $|z|< \frac12$ の中の零点の個数は $H_0=z^3+1$ と同じ $0$ 個である。一方 $s=1$ のとき $H_1(z)=z^3-3z+1$ は $|z|=\frac12$ の上で $|{-3z}|=\frac32>\frac98\ge|z^3+1|$ を満たし、$-3z$ と同じ $1$ 個の零点を $|z|< \frac12$ にもつ(数値的には $0.3473$)。$s$ を $0$ から $1$ まで動かす途中で、零点が 1 つ円周 $|z|=\frac12$ を横切って中に入ってきたことになる。実際、$s=\frac{9}{12}=\frac34$ では $z=\frac12$ が $H_{3/4}$ の零点である。

関数列の形と Hurwitz の定理

関数の族の媒介変数を連続な $s$ から自然数 $n\to\infty$ に替えると、関数列の極限で零点の個数が保たれるという Hurwitz の定理 になる。円板の場合は 偏角の原理 の記事の定理「Hurwitz の定理」が証明している。Rouché の定理からは、閉曲線と有理型関数の形がそのまま得られる。

閉曲線に沿う Hurwitz の定理

$W$ を領域、$K\subset W$ を凸なコンパクト集合、$\gamma$ を $\gamma^*\subset K$ となる閉曲線とする。$f_n$($n=1,2,\dots$)と $f$ を $W$ 上の恒等的に $0$ でない有理型関数で、$\gamma^*$ の上に極をもたないものとし、$f$ は $\gamma^*$ の上に零点をもたず、$\gamma^*$ の上で $f_n\to f$ が一様であるとする。このとき、ある $N$ があって、$n\ge N$ ならば
$$ N_\gamma(f_n)-P_\gamma(f_n)=N_\gamma(f)-P_\gamma(f) $$
である。

$\gamma^*$ はコンパクトで、$|f|$ はその上の正の連続関数なので、正の最小値 $\delta$ をもつ。一様収束により、$N$ を $n\ge N$ なら $\gamma^*$ の上で $|f_n-f|< \delta\le|f|$ となるようにとれる。このとき $|f-f_n|<|f|\le|f|+|f_n|$ なので、thm-rt-main を $f$ と $g=f_n$ に使えばよい。

逆向きの見方もできる。Hurwitz の定理は「列の極限で零点は消えたり湧いたりしない」こと、thm-rt-family は「連続な変形で零点は消えたり湧いたりしない」ことを主張しており、どちらも回転数が整数で連続に動くので一定である、という同じ事実の言いかえである。関数列が局所一様収束する状況では Hurwitz の形が、方程式の係数を動かす状況では族の形が使いやすい。

応用

多項式の根の連続性

多項式の根は係数の連続関数として動く。根に番号を付けて連続な関数として選ぶことは一般にはできない(係数を 1 周させると根が入れ替わることがある)が、「どの円板に何個あるか」という形なら、Rouché の定理からすぐに出る。

多項式の根の連続性

$p(z)=z^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots+a_0$ を複素係数の $n$ 次多項式($n\ge1$)とし、$\zeta_1,\dots,\zeta_r$ を $p$ の相異なる根、$m_1,\dots,m_r$ をその重複度とする。$\varepsilon>0$ を、$j\neq l$ なら $|\zeta_j-\zeta_l|>2\varepsilon$ となるようにとる。このとき $\delta>0$ があって、$|b_k-a_k|< \delta$($0\le k\le n-1$)を満たす任意の
$$ q(z)=z^n+b_{n-1}z^{n-1}+\cdots+b_0 $$
について、各 $j$ で $q$ は開円板 $|z-\zeta_j|< \varepsilon$ の中にちょうど $m_j$ 個の根(重複度を込める)をもち、$q$ の根はすべてこれらの円板のどれかに属する。

$C_j$ を円周 $|z-\zeta_j|=\varepsilon$ とする。$\varepsilon$ のとり方から、閉円板 $|z-\zeta_j|\le\varepsilon$ に含まれる $p$ の根は $\zeta_j$ だけであり、$p$ は $C_j$ の上で $0$ にならない。$\mu:=\min_j\min_{z\in C_j}|p(z)|$ とおくと、$\mu>0$ である(有限個のコンパクト集合の上の正の連続関数の最小値)。$\rho:=\max_j|\zeta_j|+\varepsilon$ とおくと、$C_j$ の上では $|z|\le\rho$ である。
$$ \delta:=\frac{\mu}{1+\rho+\rho^2+\cdots+\rho^{n-1}} $$
とする。$|b_k-a_k|< \delta$ なら、$C_j$ の上で
$$ |q(z)-p(z)|\le\sum_{k=0}^{n-1}|b_k-a_k||z|^k< \delta\sum_{k=0}^{n-1}\rho^k=\mu\le|p(z)| $$
である。$K$ を閉円板 $|z-\zeta_j|\le\varepsilon$、$\gamma$ を $C_j$ を反時計回りに 1 周する閉曲線として thm-rt-main の最後の主張を使うと、$N_\gamma(q)=N_\gamma(p)$ である。円周の回転数は内部で $1$、外部で $0$ なので(Cauchyの積分公式 の記事の命題「回転数の性質」の 3)、これは $q$ と $p$ が開円板 $|z-\zeta_j|< \varepsilon$ の中に同じ個数の根をもつことを意味し、$p$ の個数は $m_j$ である。
円板たちは互いに交わらないので、$q$ はそれらの中に合わせて $m_1+\cdots+m_r=n$ 個の根をもつ。$q$ の根は重複度を込めてちょうど $n$ 個なので(代数学の基本定理)、ほかに根はない。

$m_j=1$ のとき、円板 $|z-\zeta_j|< \varepsilon$ の中の $q$ のただ 1 つの根 $\zeta_j(q)$ は、偏角の原理 の記事の系「円周に沿う偏角の原理」を $h(z)=z$ として使うと
$$ \zeta_j(q)=\frac{1}{2\pi i}\oint_{C_j}\frac{z\,q'(z)}{q(z)}\,dz $$
と書ける。$C_j$ の上で $|q|\ge|p|-|q-p|$ は正の下限をもち、被積分関数は係数 $b_k$ について $C_j$ 上一様に連続に動くので、単純根は係数の連続関数である。重複根では、係数を少し動かすと根が $m_j$ 個に分かれることがあり、個々の根は連続に選べなくても、円板の中の個数は保たれる、というのが定理の内容である。

重根の分裂

$p(z)=z^2$ の重根 $0$ は、$q_t(z)=z^2-t$($t>0$)では $\pm\sqrt t$ の 2 つに分かれる。$t< \varepsilon^2$ なら 2 つとも $|z|< \varepsilon$ に入り、個数 $2$ は保たれる。一方 $t=e^{i\theta}\tau$($\tau>0$ を固定)として $\theta$ を $0$ から $2\pi$ まで動かすと、根 $\sqrt\tau e^{i\theta/2}$ は $\theta=2\pi$ で $-\sqrt\tau$ に移り、2 つの根が入れ替わる。このため、根を係数の連続関数として番号付けて選ぶことはできない。

方程式の解の個数

Rouché の定理による代数学の基本定理の証明

$p(z)=z^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots+a_0$ とし、$R>\max\{1,|a_0|+\cdots+|a_{n-1}|\}$ とする。$|z|=R$ では
$$ |p(z)-z^n|\le\sum_{k=0}^{n-1}|a_k|R^k\le R^{n-1}\sum_{k=0}^{n-1}|a_k|< R^n=|z^n| $$
なので、thm-rt-main により $p$ は $|z|< R$ に $z^n$ と同じ $n$ 個の零点をもつ。とくに $p$ は根をもつ(代数学の基本定理)。この証明の背景にある「大きな円周の像が原点のまわりを $n$ 回まわる」という事実は、回転数 の記事の定理「回転数による代数学の基本定理」でも使われている。

方程式 $e^z=az^n$ の解

$n\ge1$、$|a|>e$ とする。方程式 $e^z=az^n$ は単位円板 $|z|<1$ の中にちょうど $n$ 個の相異なる解をもつ。実際、$f(z)=az^n$、$g(z)=az^n-e^z$ とすると、$|z|=1$ で
$$ |g(z)-f(z)|=|e^z|=e^{\operatorname{Re}z}\le e<|a|=|f(z)| $$
なので、$g$ は $|z|<1$ に $f$ と同じ $n$ 個の零点(重複度を込める)をもつ。重複した零点 $z$ があれば $e^z=az^n$ と $e^z=naz^{n-1}$ が同時に成り立ち、$z\neq0$($e^z\neq0$ だから)なので割って $z=n$ を得るが、$|n|\ge1$ だから単位円板の中にはない。よって $n$ 個の零点は相異なる。たとえば $a=3$ では、$n=2$ なら $2$ 個、$n=3$ なら $3$ 個の解が単位円板の中にある(像の曲線の回転数を数値計算すると $2$ と $3$ になる)。

右半平面の解の個数

$\lambda>1$ とする。方程式 $z+e^{-z}=\lambda$ は右半平面 $\operatorname{Re}z>0$ の中にちょうど $1$ 個の解をもち、それは区間 $(\lambda-1,\lambda)$ の中の実数である。
$f(z):=z-\lambda$、$g(z):=z-\lambda+e^{-z}$ とする。$R>\lambda$ について円周 $C_R\colon|z-R|=R$ を考える。$C_R$ の点は $\operatorname{Re}z\ge0$ を満たすので $|g(z)-f(z)|=e^{-\operatorname{Re}z}\le1$ である。また中心 $R$ と $\lambda$ の距離は $R-\lambda$ なので、$C_R$ の上で $|z-\lambda|\ge R-(R-\lambda)=\lambda>1$ である。よって $C_R$ の上で $|g-f|<|f|$ であり、thm-rt-main により $g$ は開円板 $|z-R|< R$ に $f$ と同じ $1$ 個の零点をもつ($f$ の零点 $\lambda$ はこの円板に入る)。
右半平面の点 $z$ は、$R$ を十分大きくとれば $|z-R|< R$ を満たす($|z-R|^2=|z|^2-2R\operatorname{Re}z+R^2$ だから、$2R\operatorname{Re}z>|z|^2$ ならよい)。したがって、$g$ が右半平面に重複度を込めて $2$ 個以上の零点をもてば、それらをすべて含む円板 $|z-R|< R$ がとれて矛盾する。よって右半平面の零点はちょうど $1$ 個である。$g$ は実軸上で実数値をとり、$g(\lambda-1)=e^{1-\lambda}-1<0$、$g(\lambda)=e^{-\lambda}>0$ なので、中間値の定理 により $(\lambda-1,\lambda)$ に実数の零点がある。これがただ 1 つの解である。数値的には $\lambda=2$ で $1.8414$、$\lambda=3$ で $2.9475$ である。
右半平面のような有界でない領域でも、それを内側から埋めつくす円板の列に Rouché の定理を使えば、零点の個数が分かる。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
thm-rt-main の不等号が狭義$f(z)=1$、$g(z)=z$、$\lvert z\rvert=1$どちらも円周上に零点をもたないが、内部の零点は $0$ 個と $1$ 個
thm-rt-main で $K\subset W$$W=\mathbb{C}\setminus\{0\}$、$f(z)=z$、$g(z)=z-\frac12$、$\lvert z\rvert=1$$\lvert g-f\rvert< \lvert f\rvert$ なのに $N_\gamma(f)=0$、$N_\gamma(g)=1$
零点だけを比べるとき $f,g$ が正則$f(z)=z$、$g(z)=z+\frac1{4z}$、$\lvert z\rvert=1$零点の個数は $1$ と $2$ で異なる(零点の個数 − 極の個数はどちらも $1$)
thm-rt-family で $\gamma^*$ 上に零点がない$H_s(z)=z-2s$、$\lvert z\rvert=1$$N_\gamma(H_0)=1$、$N_\gamma(H_1)=0$
thm-rt-roots で最高次の係数が $1$ に固定$p(z)=z$、$q_t(z)=tz^2+z$($t\to0$)$q_t$ の根 $-1/t$ がどの円板にも入らず無限遠に逃げる
零点を複素数の範囲で数える$f(z)=z^2$、$g(z)=z^2+t$($0< t<1$)、$\lvert z\rvert=1$円周上で $\lvert g-f\rvert< \lvert f\rvert$ だが、円板内の実数の零点は $2$ 個と $0$ 個
反例の確かめ

表の各行で、外した条件以外は満たされ、結論が崩れることを確かめる。

6 つの反例の確かめを開く

1 行目:$\lvert f-g\rvert=\lvert1-z\rvert\le2=\lvert f\rvert+\lvert g\rvert$ で、等号は $z=-1$ だけで起こる。そこで $g/f=-1$ は負の実数である。$f$ と $g$ は円周上で $0$ にならないが、$\lvert z\rvert<1$ の零点は $f$ が $0$ 個、$g$ が $1$ 個($z=0$)である。

2 行目:$\lvert z\rvert=1$ で $\lvert g-f\rvert=\frac12<1=\lvert f\rvert$ である。$W$ は領域で $f,g$ は $W$ 上で正則だが、単位円周を含む凸なコンパクト集合は $0$ を含み、$W$ に含まれない。$f$ は $W$ に零点をもたないので $N_\gamma(f)=0$、$g$ の零点 $\frac12$ では回転数が $1$ なので $N_\gamma(g)=1$ である。回転数 $n(f\circ\gamma,0)=1$ に対応する零点 $0$ が $W$ の外にある。

3 行目:$\lvert z\rvert=1$ で $\lvert g-f\rvert=\frac14<1=\lvert f\rvert$ である。$g(z)=\frac{z^2+1/4}{z}$ は零点 $\pm\frac i2$ と極 $0$ をもち、どれも単位円板の中にある。$N_\gamma(g)-P_\gamma(g)=2-1=1=N_\gamma(f)-P_\gamma(f)$ であり、thm-rt-main の等式は成り立つが、零点の個数だけを比べると $1\neq2$ である。

4 行目:$H$ は連続で各 $H_s$ は正則だが、$s=\frac12$ で $H_{1/2}(1)=0$ となり、円周上に零点が来る。$H_0=z$ は単位円板に零点を $1$ 個、$H_1=z-2$ は $0$ 個もつ。

5 行目:$q_t$ の係数($z^2,z,1$ の順に $t,1,0$)は $t\to0$ で $p$ の係数 $0,1,0$ に近づく。$q_t$ の根は $0$ と $-1/t$ で、前者は $p$ の根 $0$ の近くにあるが、後者は $\lvert z\rvert< \varepsilon$ に入らない。最高次の係数が $0$ に近づくので、$q_t$ を最高次の係数で割った多項式の係数が有界でなくなり、定理の仮定から外れる。

6 行目:$\lvert z\rvert=1$ で $\lvert g-f\rvert=t<1=\lvert f\rvert$ である。$f$ は単位円板の中の実数に重複度 $2$ の零点 $0$ をもつが、実数 $x$ では $g(x)=x^2+t\ge t>0$ なので、$g$ は単位円板の中の実数に零点をもたない。複素数の範囲では $g$ の零点 $\pm i\sqrt t$ は単位円板の中にあり、thm-rt-main のとおり個数は $2$ である。

補足

文献にある形。 古典的な形「単純閉曲線の上で $|f|>|g|$ なら、$f+g$ と $f$ は曲線の内部に同じ個数の零点をもつ」は BMPS25 Theorem 9.3.3(p. 149)にある。対称な不等式 $|f-g|<|f|+|g|$ の形を、$0$ にホモローグなサイクルと有理型関数について述べたものは LebGCCA26 Theorem 5.4.2(p. 139)にあり、そこでは対称な形が Estermann(1962)によることと、犬の散歩による見方も述べられている。この記事では、サイクルの一般の形は証明せず、凸なコンパクト集合に含まれる閉曲線の場合(thm-rt-main)を証明した。
多項式への応用。 根の位置を Rouché の定理で絞る例は LebGCCA26 Example 5.4.4・5.4.5(p. 141)や BMPS25 Example 9.3.4(p. 149)にある。多項式の根の連続性(thm-rt-roots)は、固有値が行列の成分に連続に依存することの根拠にもなる。固有値は特性多項式の根であり、特性多項式の係数は成分の多項式だからである。
位置づけ。 Rouché の定理は 偏角の原理 と回転数のホモトピー不変性を組み合わせたものであり、その骨格は「整数値の連続関数は一定」という一点にある。留数定理 から偏角の原理を経て Rouché の定理に至る流れは、正則関数の零点を積分と位相の両方から捉える複素解析の典型である。開写像定理(複素解析) も、偏角の原理 の記事の命題「値をとる回数」のように Rouché の定理から導ける。

関連項目

参考文献

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