一様空間

概要

一様空間(Uniform space)とは、位相空間論において、距離関数に依存せずに「一様連続性」や「コーシー列」、「完備性」といった解析的な概念を定義するために導入された空間である。距離空間と位相空間の中間に位置づけられ、空間全体にわたって「近さ」の基準を一律に定める構造(一様構造)を持つ。これにより、位相群やコンパクト空間など、距離を持たないが距離空間に似た性質を持つ対象を統一的に扱うことが可能となる。

$$$$

定義

一様空間は、集合 $X$ と、その上の「近さ」の基準を表す一様構造(Uniform structure)あるいは一様性(Uniformity)の組として定義される。
定義にはいくつかの等価な流儀があるが、最も標準的なAndré Weilによる「近縁(Entourage)」を用いた定義を述べる。

一様空間 (Entourage definition)

集合 $X$ と、$X \times X$ の部分集合族 $\mathcal{U}$ の組 $(X, \mathcal{U})$一様空間であるとは、$\mathcal{U}$ が以下の公理を満たすことをいう。このとき $\mathcal{U}$ の元を近縁(Entourage)と呼ぶ。

  1. 対角線の包含:
    任意の $U \in \mathcal{U}$ は対角集合 $\Delta = \{(x, x) \mid x \in X\}$ を含む($x$ は自分自身に近い)。
  2. 包含関係:
    $U \in \mathcal{U}$ かつ $U \subseteq V \subseteq X \times X$ ならば、$V \in \mathcal{U}$ である。
  3. 共通部分:
    $U, V \in \mathcal{U}$ ならば、$U \cap V \in \mathcal{U}$ である。
    (公理2, 3より、$\mathcal{U}$ は $X \times X$ 上のフィルターである)
  4. 対称性:
    $U \in \mathcal{U}$ ならば、その逆関係 $U^{-1} = \{(y, x) \mid (x, y) \in U\}$$\mathcal{U}$ に属する(あるいは対称な近縁を含む)。
  5. 三角不等式の一般化:
    任意の $U \in \mathcal{U}$ に対して、ある $V \in \mathcal{U}$ が存在して、$V \circ V \subseteq U$ が成り立つ。
    ここで $V \circ V = \{(x, z) \mid \exists y \in X, (x, y) \in V \land (y, z) \in V\}$ である。

この定義において、近縁 $U$ は「距離 $\epsilon$ 未満のペアの集合」の一般化と見なせる。特に公理5は、距離空間における三角不等式 $d(x, z) \le d(x, y) + d(y, z)$ に対応する構造的要請である。

直感的理解と位相の誘導

一様空間の概念は、位相空間よりも構造が強く、距離空間よりは柔軟である。

  • 距離空間との対比:
    距離空間では、各 $\epsilon > 0$ に対して $U_\epsilon = \{(x, y) \mid d(x, y) < \epsilon\}$ が近縁の基本系をなす。「数値 $\epsilon$」を使わずに集合の包含関係だけで「近さの程度」を制御するのが一様構造である。
  • 位相空間との関係:
    一様構造 $\mathcal{U}$ が与えられると、自然に位相 $\mathcal{O}$ が誘導される。
    $A \subseteq X$ が開集合であるとは、任意の $x \in A$ に対し、ある $U \in \mathcal{U}$ が存在して $U[x] \subseteq A$ となることと定義される。
    (ただし $U[x] = \{y \mid (x, y) \in U\}$$x$ の近傍)。
    位相空間が一様化可能(ある一様構造から誘導される)であるための必要十分条件は、その空間が完全正則(Tychonoff空間)であることである。

解析的概念の定義

一様空間を導入する最大の動機は、距離がない空間上で以下の概念を定義することにある。

一様連続性

2つの一様空間 $(X, \mathcal{U}), (Y, \mathcal{V})$ の間の写像 $f: X \to Y$一様連続(Uniformly continuous)であるとは、任意の $V \in \mathcal{V}$ に対して、
$$(f \times f)^{-1}(V) \in \mathcal{U}$$
が成り立つことをいう。
すなわち、出力側の「近さ」 $V$ を保証するために、入力側の「近さ」 $U$ を(場所によらず)一律にとることができる。

Cauchy列と完備性

一様空間においては、Cauchy列(より一般にはCauchyネットやCauchyフィルター)が定義できる。

  • Cauchy列: 点列 $\{x_n\}$ がCauchy列であるとは、任意の近縁 $U \in \mathcal{U}$ に対して、ある $N$ が存在し、$\forall n, m \ge N, (x_n, x_m) \in U$ となることである。
  • 完備性: 任意のCauchy列(ネット)が収束するとき、その空間は完備であるという。

具体例

数学の至る所に一様空間の構造が現れる。

具体例
  1. 距離空間:
    距離 $d$ から定まる標準的な一様構造を持つ。
  2. 位相群:
    位相群 $G$ は、距離付け不可能であっても自然な一様構造を持つ。
    -左一様構造: $U_N = \{(x, y) \mid x^{-1}y \in N\}$ ($N$ は単位元の近傍) を基本近縁系とする。
    -右一様構造: $V_N = \{(x, y) \mid xy^{-1} \in N\}$ を基本近縁系とする。
    これらにより、群上での一様連続性や完備化が議論できる。
  3. コンパクトHausdorff空間:
    コンパクト空間 $K$ がHausdorffならば、その位相と両立する一様構造はただ一つ存在する。すなわち、コンパクト空間上の連続写像は自動的に一様連続となる(Heineの定理の一般化)。
  4. 関数空間:
    集合 $S$ から一様空間 $Y$ への写像全体の集合に、一様収束位相を与える一様構造が入る。

注意点:位相との乖離

「同じ位相を持つが、異なる一様構造を持つ」場合があることに注意が必要である。一様構造は位相よりも多くの情報(完備性など)を持っている。

反例(位相は同じだが一様構造が異なる)

$\mathbb{R}$ 上の通常の位相を考える。

  1. 標準的な距離: $d(x, y) = |x - y|$
    -この一様構造では、$\mathbb{R}$完備である。
  2. 同相な有界距離: $\rho(x, y) = |\arctan x - \arctan y|$
    -位相は通常と同じだが、この距離による一様構造では、$\mathbb{R}$ は開区間 $(-\pi/2, \pi/2)$ と一様同型になるため、完備ではない(端点に近づくCauchy列が収束しない)。
    この例から、「完備性」は位相的性質ではなく、一様的性質(あるいは距離的性質)であることがわかる。

関連項目