Perron–Frobeniusの定理(Perron–Frobenius theorem)とは、成分がすべて $0$ 以上の既約な正方行列 $T$ について、スペクトル半径 $r$ が正の単根の固有値で、成分がすべて正の固有ベクトルをもち、非負の固有ベクトルは $r$ に属するものに限るという定理である。ある冪がすべて正になる原始行列ではほかの固有値の絶対値が $r$ より真に小さく、周期 $d$ の既約行列では絶対値 $r$ の固有値が $r$ と $1$ の $d$ 乗根の積として $d$ 個現れる。グラフの隣接行列や Markov 連鎖の定常分布に使われる。
Perron–Frobenius の定理(Perron–Frobenius theorem)とは、成分がすべて $0$ 以上の正方行列(非負行列)のうち「既約」なものについて、絶対値が最大の固有値が正の実数で、その固有空間が 1 次元で、成分がすべて正の固有ベクトルをもつことを主張する定理である。成分がすべて正の行列についての Perron の定理を、Frobenius が既約な非負行列へ広げた。
非負行列は、グラフの隣接行列、Markov 連鎖の推移行列、個体数や経済の成長を表す線形模型など、「量が負にならない」状況のいたるところに現れる。そうした行列の冪 $T^k$ の成長の速さと、長い時間ののちの配分の比は、この定理の与える最大の固有値(Perron 根)と正の固有ベクトル(Perron ベクトル)で決まる。
この記事では、既約な非負行列についての定理を、比 $(Tx)_i/x_i$ の最小値を最大にするという方法(最大最小の特徴づけ)で完全に証明する。原始行列(ある冪がすべて正になる行列)では、ほかの固有値の絶対値が真に小さいことも証明する。
$n\ge1$ とし、実 $n\times n$ 行列 $T=(t_{ij})$ とベクトル $x\in\mathbb R^n$ を考える。$T\ge0$($T>0$)はすべての成分が $0$ 以上(正)であることを表し、ベクトルについても同様に書く。$x\le y$ は $y-x\ge0$ の意味である。複素ベクトル $x$ について $|x|:=(|x_1|,\dots,|x_n|)$ とする。$T$ の固有値の絶対値の最大値を $T$ の スペクトル半径 といい $\rho(T)$ と書く。
$T\ge0$ を $n\times n$ 行列とする。
定義は BH11 §2.2(p. 22)に従った。同書は、周期が $i$ の選び方によらないことも述べている。成分がすべて正の行列は原始的で、原始行列は既約である。既約でない非負行列を 可約 という。
$T\ge0$ とする。$(T^k)_{ij}>0$ であることと、$\Gamma_T$ に $i$ から $j$ への長さ $k$ の有向歩道があることは同値である。とくに、$n\ge2$ のとき $T$ が既約であることと、$\Gamma_T$ の任意の 2 頂点 $i\ne j$ について $i$ から $j$ への有向歩道があること($\Gamma_T$ が 強連結 であること)は同値である。
行列の積の定義から
$$
(T^k)_{ij}=\sum_{i_1,\dots,i_{k-1}}t_{ii_1}t_{i_1i_2}\cdots t_{i_{k-1}j}
$$
であり、各項は $0$ 以上である。よって $(T^k)_{ij}>0$ は、すべての因子が正となる列 $i,i_1,\dots,i_{k-1},j$、すなわち長さ $k$ の有向歩道があることと同値である。
後半:既約なら強連結であることは前半から明らかである。逆に強連結で $n\ge2$ なら、$i\ne j$ については前半から $(T^k)_{ij}>0$ となる $k$ がある。$i$ から別の頂点 $j$ へ行き、$j$ から $i$ へ戻る有向歩道をつなげば $i$ から $i$ への有向歩道が得られるので、$(T^k)_{ii}>0$ となる $k\ge1$ もある。$\square$
この言い換えは BH11 §2.2(p. 22)にある。例えば、グラフの 隣接行列 は、グラフが連結なとき($n\ge2$)に既約である。
$T\ge0$ が既約なら、$(I+T)^{n-1}>0$ である。また $T$ のどの行も零ベクトルでない。
$I$ と $T$ は可換なので $(I+T)^{n-1}=\sum_{k=0}^{n-1}\binom{n-1}{k}T^k$ であり、各項は $0$ 以上である。対角成分は $k=0$ の項から $1$ 以上である。$i\neq j$ とすると、既約性と lem-pf-walks により $i$ から $j$ への有向歩道がある。そのうち最短のものは同じ頂点を 2 度通らない(通れば間を省いてより短くできる)ので、長さ $k$ は $n-1$ 以下で、$(T^k)_{ij}>0$ である。よって $(I+T)^{n-1}$ の $(i,j)$ 成分は正である。
後半:第 $i$ 行が零ベクトルなら、どの $k\ge1$ でも $(T^k)_{ij}=\sum_lt_{il}(T^{k-1})_{lj}=0$ となり、既約性に反する。$\square$
$T\ge0$ を既約な $n\times n$ 行列とし、$r:=\rho(T)$ とする。
$r$ を $T$ の Perron 根、正規化した $x_0$(例えば成分の和を $1$ にしたもの)を Perron ベクトル という。定理の主張は BH11 Theorem 2.2.1 (i)(ii)(iv)(p. 22)にあり、以下の証明は同書(pp. 22–24)の筋に従う。
証明のために、$B:=\{x\in\mathbb R^n\mid x\ge0,\ x\ne0\}$ とし、$x\in B$ について
$$
\gamma(x):=\min_{i:\,x_i>0}\frac{(Tx)_i}{x_i}=\max\{\,c\in\mathbb R\mid cx\le Tx\,\}
$$
とおく。2 つの表示が等しいのは、$cx\le Tx$ が $x_i>0$ の成分では $c\le(Tx)_i/x_i$ を、$x_i=0$ の成分では常に成り立つ $0\le(Tx)_i$ を意味するからである。$\gamma(x)\ge0$ であり、$c>0$ について $\gamma(cx)=\gamma(x)$ である。また $P:=(I+T)^{n-1}$ とおくと、lem-pf-positive-power により $P>0$ で、$PT=TP$ である。
段 1($P$ で $\gamma$ は増える).$x\in B$ とする。$P>0$ なので $Px>0$ である。$\gamma(x)x\le Tx$ の両辺に $P\ge0$ を掛けると $\gamma(x)Px\le PTx=T(Px)$ なので $\gamma(Px)\ge\gamma(x)$ である。さらに $Tx\ne\gamma(x)x$ なら、$w:=Tx-\gamma(x)x\in B$ で $Pw>0$、すなわち $T(Px)-\gamma(x)Px>0$ であり、$Px>0$ で割ると $(T(Px))_i/(Px)_i>\gamma(x)$ がすべての $i$ で成り立つ。有限個の $i$ の最小値をとって $\gamma(Px)>\gamma(x)$ である。
段 2(最大値の存在).$C:=\{x\ge0\mid x_1+\dots+x_n=1\}$ はコンパクトなので、その連続像 $P[C]$ もコンパクトで、段 1 により $P[C]$ の元はすべて正のベクトルである。正のベクトルの上では $\gamma(y)=\min_i(Ty)_i/y_i$ は連続関数の最小値なので連続であり、$\gamma$ は $P[C]$ の上で最大値をとる。その点を $x_0=Pz_0$($z_0\in C$)とし、$r_0:=\gamma(x_0)$ とおく。任意の $x\in B$ について、$s:=x_1+\dots+x_n>0$ とすると $x/s\in C$ なので、段 1 により $\gamma(x)=\gamma(x/s)\le\gamma(P(x/s))\le r_0$ である。よって $r_0=\max_B\gamma$ である。
段 3(最大点は固有ベクトル).$Tx_0\ne r_0x_0$ とすると、段 1 により $\gamma(Px_0)>r_0$ となり、$Px_0\in B$ なので段 2 に反する。よって $Tx_0=r_0x_0$ で、$x_0=Pz_0>0$ である。lem-pf-positive-power により $T$ の各行は零でないので $(Tx_0)_i>0$ であり、$r_0>0$ である。
段 4($r_0$ は最大の絶対値).$\lambda$ を $T$ の固有値、$x\in\mathbb C^n$ をその固有ベクトルとする。三角不等式により $|\lambda||x_i|=|\sum_jt_{ij}x_j|\le\sum_jt_{ij}|x_j|$、すなわち $|\lambda||x|\le T|x|$ であり、$|x|\in B$ なので $|\lambda|\le\gamma(|x|)\le r_0$ である。$r_0$ 自身が固有値なので $r_0=\rho(T)=r$ である。これで 1 が示された。
段 5($Tz\ge rz$ なら固有ベクトル).$z\in B$、$Tz\ge rz$ とする。$\gamma(z)\ge r$ と段 2 から $\gamma(z)=r$ である。$Tz\ne rz$ なら段 1 により $\gamma(Pz)>r$ となって段 2 に反するので、$Tz=rz$ である。このとき $(I+T)z=(1+r)z$ から $Pz=(1+r)^{n-1}z$ で、$Pz>0$ なので $z>0$ である。$\square$
段 6(固有空間は 1 次元).$x\in\mathbb R^n$ を $Tx=rx$ をみたす $0$ でないベクトルとする。必要なら $-x$ に替えて、$x$ は正の成分をもつとしてよい。$c:=\min_{i:\,x_i>0}x_{0,i}/x_i>0$($x_{0,i}$ は $x_0$ の第 $i$ 成分)とおき、$y:=x_0-cx$ とする。$x_i>0$ の成分では $c$ の定め方から $y_i\ge0$、$x_i\le0$ の成分では $y_i\ge x_{0,i}>0$ であり、最小値をとる $i$ では $y_i=0$ である。$Ty=ry$ なので、$y\ne0$ なら $y\in B$、$Ty\ge ry$ となり、段 5 により $y>0$ となって $y_i=0$ に反する。よって $y=0$、すなわち $x=x_0/c$ である。複素ベクトル $x=u+\sqrt{-1}\,v$($u,v$ 実)が $Tx=rx$ をみたせば、$T$ と $r$ は実なので $Tu=ru$、$Tv=rv$ であり、$u,v$ はともに $x_0$ の実数倍である。よって固有空間は $x_0$ で張られる。
段 7(左固有ベクトルと 3・4).転置 $T^{\mathsf T}$ も非負で、$(T^{\mathsf T})^k=(T^k)^{\mathsf T}$ なので既約である。固有多項式は $T$ と同じなのでスペクトル半径も $r$ である。段 1〜5 を $T^{\mathsf T}$ に当てはめると、$T^{\mathsf T}y_0=ry_0$、すなわち $y_0^{\mathsf T}T=ry_0^{\mathsf T}$ となる $y_0>0$ が得られる。これが 4 である。次に $x\in B$、$Tx=\lambda x$ とすると
$$
r\,y_0^{\mathsf T}x=y_0^{\mathsf T}Tx=\lambda\,y_0^{\mathsf T}x
$$
であり、$y_0>0$、$x\in B$ から $y_0^{\mathsf T}x>0$ なので $\lambda=r$ である。prf-pf-existence の段 5 により $x>0$ で、3 が示された。
段 8(単根であること).$N:=T-rI$ とし、固有値 $r$ の代数的重複度を $m$ とする。$m\ge2$ と仮定する。Jordan標準形 の記事の補題「広義固有空間への分解」により、広義固有空間 $\ker N^m$(複素ベクトル空間として)は $m$ 次元で、段 6 により $\ker N$ は 1 次元なので、$\ker N\subsetneq\ker N^m$ である。もし $\ker N^2=\ker N$ なら、$v\in\ker N^{k+1}$($k\ge1$)について $N^{k-1}v\in\ker N^2=\ker N$ から $v\in\ker N^k$ となり、帰納的に $\ker N^m=\ker N$ となって矛盾する。よって $w\in\ker N^2\setminus\ker N$ がある。$Nw\ne0$、$N(Nw)=0$ なので段 6 により $Nw=cx_0$($c\ne0$)である。左から $y_0^{\mathsf T}$ を掛けると、$y_0^{\mathsf T}N=y_0^{\mathsf T}T-ry_0^{\mathsf T}=0$ なので
$$
0=y_0^{\mathsf T}Nw=c\,y_0^{\mathsf T}x_0
$$
となるが、$y_0>0$、$x_0>0$ から右辺は $0$ でない。これは矛盾なので $m=1$ であり、2 が示された。
段 9(最大最小の特徴づけ).最初の等号は段 2・3 そのものである($\gamma(x)$ が内側の最小値で、最大値は $x_0$ でとる)。$x>0$ について $\delta(x):=\max_i(Tx)_i/x_i$ とおくと $Tx\le\delta(x)x$ であり、左から $y_0^{\mathsf T}\ge0$ を掛けて $r\,y_0^{\mathsf T}x=y_0^{\mathsf T}Tx\le\delta(x)\,y_0^{\mathsf T}x$、よって $r\le\delta(x)$ である。$\delta(x_0)=r$ なので、2 つ目の等号も成り立つ。$\square$
段 8 の筋は BH11 と異なる(同書は固有多項式の微分が $r$ で正になることを示している。Theorem 2.2.1 の証明 (vii)、p. 24)。この記事では左固有ベクトル $y_0$ を使って Jordan 鎖が作れないことを示した。
$T\ge0$ が原始行列なら、$T$ の固有値 $\lambda\ne r$ はすべて $|\lambda|< r$ をみたす($r=\rho(T)$)。
原始行列は既約なので thm-pf-main が使える。$T^k>0$ とし、$Tx=\lambda x$、$x\ne0$、$|\lambda|=r$ とする。prf-pf-existence の段 4 と同じく $|\lambda||x|\le T|x|$、すなわち $T|x|\ge r|x|$ なので、同じ証明の段 5 により $T|x|=r|x|$ かつ $|x|>0$ である。よって $T^k|x|=r^k|x|$ であり、一方 $T^kx=\lambda^kx$ から
$$
\Bigl|\sum_j(T^k)_{ij}x_j\Bigr|=|\lambda|^k|x_i|=r^k|x_i|=\sum_j(T^k)_{ij}|x_j|
$$
がすべての $i$ で成り立つ。複素数の三角不等式で等号が成り立ち、係数 $(T^k)_{ij}$ はすべて正なので、$x_1,\dots,x_n$(どれも $0$ でない)の偏角はすべて等しい。つまり $x=e^{\sqrt{-1}\theta}|x|$ と書ける。すると $\lambda x=Tx=e^{\sqrt{-1}\theta}T|x|=e^{\sqrt{-1}\theta}r|x|=rx$ で、$\lambda=r$ である。$\square$
これは BH11 Theorem 2.2.1 (iii) の前半(p. 22、証明は p. 23)である。既約だが原始的でない行列では、絶対値が $r$ の固有値がほかにもある。この記事では証明しないが、次が成り立つ。
$T\ge0$ を既約で周期 $d$ の行列とする。絶対値が $r$ の固有値はちょうど $d$ 個あり、それらは $re^{2\pi\sqrt{-1}\,j/d}$($j=0,1,\dots,d-1$)で、どれも単根である。さらに $T$ のスペクトル全体は、複素平面の原点のまわりの角 $2\pi/d$ の回転で不変である。
$d=1$ のときは、絶対値 $r$ の固有値が $r$ だけという原始的な場合である。$T=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ は既約で周期 $2$ であり、固有値 $1,-1$ が絶対値 $r=1$ の $d=2$ 個で、スペクトルは角 $\pi$ の回転で不変である。既約性は外せない。単位行列 $I_2$ は既約でなく、絶対値 $1$ の固有値 $1$ は単根でない。
この定理は BH11 Theorem 2.2.1 (iii)(p. 22、証明の概略は p. 23)にある。ただし、これらが単根であることは同書では述べておらず、次に引く Fro12 p. 456 にある。Frobenius は、既約な非負行列で絶対値が最大の固有値が $k$ 個あるとき、それらが単根で、$r$ との比が $1$ の $k$ 乗根であることを述べ、$k=1$ のものを原始的と呼んだ(Fro12 p. 456)。同じ箇所で、原始的な行列のある冪は正であることも述べている。したがって、既約な非負行列について、ある冪が正であることと、絶対値 $r$ の固有値が $r$ だけであることは同値であり、原始的という語をどちらで定義しても同じ行列を指す。
非負行列が既約でなくても、弱い形の主張は残る。$T\ge0$ なら $\rho(T)$ は $T$ の固有値で、成分が $0$ 以上の左右の固有ベクトルをもつ(BH11 §2.2 の Remark、p. 24。同書は連続性による議論を示唆している)。この記事ではこれを証明しない。
$T\ge0$ を既約、$S$ を $|S|\le T$(成分ごと)をみたす複素行列とし、$\mu$ を $S$ の固有値とする。このとき $|\mu|\le\rho(T)$ であり、$0\le S\le T$ で $|\mu|=\rho(T)$ なら $S=T$ である。
$r=\rho(T)$ とし、$Ss=\mu s$、$s\ne0$ とする。$|\mu||s|=|Ss|\le|S||s|\le T|s|$ なので $|\mu|\le\gamma(|s|)\le r$ である(prf-pf-existence の段 2)。$0\le S\le T$ かつ $|\mu|=r$ なら $T|s|\ge r|s|$ となり、同じ証明の段 5 により $T|s|=r|s|$ かつ $|s|>0$ である。すると $r|s|=|\mu||s|\le S|s|\le T|s|=r|s|$ から $(T-S)|s|=0$ であり、$T-S\ge0$ と $|s|>0$ から $T-S=0$ である。$\square$
この命題は BH11 Theorem 2.2.1 (v)・(vi)(p. 22)の一部である。例えば連結なグラフから辺を 1 本除くと、隣接行列のスペクトル半径は真に小さくなる(除いたあとのグラフが連結でなくてもよい)。
$T=\begin{pmatrix}2&1\\1&2\end{pmatrix}$ の固有値は $3$ と $1$ で、$r=3$、$x_0=(1,1)$ である。最大最小の特徴づけを確かめる。$x=(1,2)$ なら $Tx=(4,5)$ で、比は $4/1=4$ と $5/2=2.5$ なので、$\min=2.5\le3\le4=\max$ である。$x=(1,0)$ なら比をとる成分は第 1 成分だけで、$\min=2\le3$ である。どの $x$ でも $r$ は比の最小値と最大値のあいだにあり、$x=x_0$ で両方とも $r$ に等しくなる。
$F=\begin{pmatrix}1&1\\1&0\end{pmatrix}$ は正ではないが、$F^2=\begin{pmatrix}2&1\\1&1\end{pmatrix}>0$ なので原始行列である。固有多項式は $t^2-t-1$ で、$r=\varphi=\frac{1+\sqrt5}2$、Perron ベクトルは $(\varphi,1)$ に比例し、もう 1 つの固有値 $-1/\varphi\approx-0.618$ は絶対値が $r$ より小さい(thm-pf-primitive)。$F^k=\begin{pmatrix}F_{k+1}&F_k\\ F_k&F_{k-1}\end{pmatrix}$($F_k$ は Fibonacci数列)なので、$F_{k+1}/F_k$ は $\varphi$ に近づき、$F_k$ はおよそ $\varphi^k$ の速さで増える。
連結なグラフ($n\ge2$)の 隣接行列 $A$ は対称な既約行列である。隣接行列 の記事の定理「連結グラフの最大固有値」は、thm-pf-main の対称行列の場合にあたり、Rayleigh 商を使う別の証明がある。周期は閉じた歩道の長さの最大公約数で、辺を往復すれば長さ $2$ の閉じた歩道があるので $1$ か $2$ である。二部グラフでは閉じた歩道の長さはすべて偶数なので周期は $2$ であり、thm-pf-period により $-\rho(A)$ も固有値である。これは 隣接行列 の記事の定理「スペクトルによる二部グラフの判定」と整合する。
$P\ge0$ の各行の和が $1$ なら、$P\mathbf 1=\mathbf 1$ で $\mathbf 1>0$ である。$P$ が既約なら、thm-pf-main の 3 により $\rho(P)=1$ である。4 により $\pi^{\mathsf T}P=\pi^{\mathsf T}$ となる $\pi>0$ があり、2 により定数倍を除いて一意である。成分の和を $1$ にした $\pi$ は、推移行列 $P$ の Markov 連鎖のただ 1 つの定常分布であり、どの状態の確率も正である。これは Markov連鎖 の記事の定理「既約な有限連鎖の定常分布」を、Perron–Frobenius の定理から読み直したものである。$P$ が原始的なら、$1$ 以外の固有値は絶対値が $1$ より小さい。
$C$ を $n$ 次の巡回置換の行列($c_{i,i+1}=1$、$c_{n,1}=1$、ほかは $0$)とする。$\Gamma_C$ は有向閉路なので $C$ は既約で、$(C^k)_{ii}>0$ となるのは $k$ が $n$ の倍数のときだけだから、周期は $n$ である。固有値は $1$ の $n$ 乗根すべてで(BH11 §1.4.3、p. 8 の有向閉路)、どれも絶対値 $1=r$ をもち、スペクトルは角 $2\pi/n$ の回転で不変である。thm-pf-period の主張どおりである。
定理の仮定はどれも外せない。次の表の反例はすべて $2\times2$ 行列である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 既約性 | 単位行列 $I_2$ | $r=1$ が重根で(Perron 根が単純でない)、固有ベクトル $(1,0)$ は正でない |
| 既約性 | $\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix}$ | $r=1$ の代数的重複度が $2$、幾何的重複度が $1$ で、固有ベクトル $(1,0)$ は正でない |
| 既約性 | $\begin{pmatrix}1&0\\0&2\end{pmatrix}$ | 非負の固有ベクトル $(1,0)$ の固有値が $1\ne r=2$ で、主張 3 が成り立たない |
| 既約性 | $\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$ | $r=0$ で、$r>0$ が成り立たない |
| 原始性(周期 $2$) | $\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ | 固有値 $1$ と $-1$ の絶対値が等しく、thm-pf-primitive の結論が成り立たない |
| 非負性 | $\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}$ | 固有値は $\pm\sqrt{-1}$ で、$\rho=1$ は固有値でない |
各行の行列について、どの仮定が破れているかと、結論の破れ方を確かめる。
1 行目:$I_2$ の $\Gamma$ は各頂点のループだけで、$1$ から $2$ への歩道がないので可約である。固有多項式は $(t-1)^2$ で、すべてのベクトルが固有ベクトルである。
2 行目:$2$ から $1$ への歩道がないので可約である。固有多項式は $(t-1)^2$ だが、固有空間は $(1,0)$ で張られる 1 次元で、正の固有ベクトルはない。
3 行目:対角行列なので可約である。$(1,0)$ は固有値 $1$、$(0,1)$ は固有値 $2$ の固有ベクトルで、どちらも非負だが正ではない。
4 行目:可約で冪零(2 乗が零行列)なので、固有値は $0$ だけである。
5 行目:$\Gamma$ は長さ $2$ の有向閉路で既約だが、$T^k$ は $k$ が偶数なら $I$、奇数なら $T$ で、どの冪も正にならない。周期は $2$ で、thm-pf-period のとおり $\pm1$ が絶対値最大の固有値である。$T^kx$ は $x$ と $Tx$ を交互にとり、$(1,0)$ から始めると収束しない。
6 行目:負の成分をもつ。平面の $90^\circ$ 回転で、実の固有ベクトルをもたない。
注意を 2 つ挙げる。
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