半順序

概要

半順序(Partial Order)とは、集合の要素間に定義される二項関係の一種であり、反射律、反対称律、推移律の3つの公理を満たすものを指す。通常の数の大小関係(全順序)とは異なり、全ての要素のペアが必ずしも比較可能であるとは限らない(「どちらが大きいとも言えない」状態を許容する)点が特徴である。この性質により、集合の包含関係、整数の整除関係、タスクの依存関係など、分岐や合流を含む複雑な階層構造を数学的に厳密に記述することが可能となる。半順序集合(Partially Ordered Set)はしばしばPosetと略称される。

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定義

集合 $P$ とその上の二項関係 $\le$ の組 $(P, \le)$半順序集合(Partially Ordered Set, Poset)であるとは、$\le$ が以下の3つの公理を満たすことをいう。

半順序の公理

任意の $a, b, c \in P$ に対して、

  1. 反射律 (Reflexivity):
    $a \le a$
    (自分自身と比較可能である)
  2. 反対称律 (Antisymmetry):
    $a \le b$ かつ $b \le a$ ならば、$a = b$
    (互いに相手以下ならば、それらは同一である。順序のループが存在しない)
  3. 推移律 (Transitivity):
    $a \le b$ かつ $b \le c$ ならば、$a \le c$
    ($a$ が $b$ より小さく、$b$ が $c$ より小さいなら、$a$ は $c$ より小さい)

もし $a \le b$ かつ $a \neq b$ であるときは、$a < b$ と表記する。

直感的理解とハッセ図

「半(Partial)」という言葉は、「比較不能(incomparable)なペアが存在してもよい」ということを意味している。

  • 全順序: 任意の2元 $a, b$ について、$a \le b$ または $b \le a$ が必ず成り立つ(一直線に並ぶ)。
  • 半順序: $a \le b$ でも $b \le a$ でもない状態($a$$b$ は無関係)があり得る(分岐や並列がある)。
    半順序集合の構造は、ハッセ図(Hasse diagram)と呼ばれるグラフを用いて視覚化されることが多い。要素を点で表し、$a < b$ のとき $b$$a$ の上方に配置して線で結ぶ(推移律により自明な線は省略する)。

具体例

半順序は、数の大小以外にも、構造的な「強弱」や「包含」を表す場面で現れる。

代表的な例
  1. 集合の包含関係:
    ある集合 $S$ の冪集合 $\mathcal{P}(S)$ において、包含関係 $\subseteq$ は半順序である。
    • $S = \{a, b\}$ のとき、$\{a\} \subseteq \{a, b\}$ だが、$\{a\}$$\{b\}$ は互いに包含関係にない(比較不能)。
  2. 自然数の整除関係:
    自然数 $\mathbb{N}$ において、「$x$ が $y$ を割り切る($x \mid y$)」という関係は半順序である。
    • $2 \mid 6$ だが、$2$ と $3$ は比較不能である。
  3. タスクの依存関係:
    プロジェクト管理において、「タスクAが終わらないとタスクBが始まらない」という関係は半順序をなす。並行して実行可能なタスクは比較不能な元に対応する。

最大・最小と極大・極小

半順序集合において最も注意を要するのが、「一番大きい(Greatest)」と「これ以上大きくない(Maximal)」の区別である。全順序ではこれらは一致するが、半順序では明確に異なる概念となる。

特殊な元

部分集合 $A \subseteq P$ について:

  • 最大元 (Greatest / Maximum):
    $A$ のすべての元 $x$ に対して $x \le g$ となる $g \in A$。存在すればただ一つである。
  • 極大元 (Maximal):
    $A$ の元 $m$ であって、「$m$ より大きい元が $A$ の中に存在しない」もの($m \le x \implies m = x$)。複数存在しうる。
具体例での違い

集合 $A = \{2, 3, 4, 6\}$ に整除関係($x \mid y$)を入れる。ハッセ図を描くと、$2$$3$ が底にあり、$4$$2$ の上、$6$$2$$3$ の上にある。

  • 極大元: $4$$6$
    • $4$ の倍数は $A$ 内に存在しない($4 \mid 6$ ではない)。$6$ の倍数も存在しない。よって両方とも極大である。
  • 最大元: 存在しない
    • 全ての元から割り切られる数(例えば $12$ など)が $A$ に含まれていないため。

関連概念

半順序集合の構造を解析するための重要な概念を挙げる。

構造的特徴
  1. 鎖 (Chain):
    半順序集合 $P$ の部分集合であって、その中の任意の2元が比較可能である(全順序になっている)もの。
  2. 反鎖 (Antichain):
    $P$ の部分集合であって、その中の相異なる任意の2元が比較不能であるもの。
    • 例: 集合族における ${ {a}, {b}, {c} }$ など。
  3. 双対順序 (Dual order):
    $a \le b \iff b \ge_{op} a$ として定義される逆向きの順序。$(P, \ge_{op})$ もまた半順序集合となる。

応用と定理

  • Zornの補題: 「任意の鎖が上界を持つような半順序集合には、極大元が存在する」という定理。選択公理と同値であり、現代数学の存在定理の証明に不可欠である。
  • Dilworthの定理: 有限半順序集合において、最小の鎖分解のサイズは、最大の反鎖のサイズに等しい。

関連項目