相加平均・相乗平均と凸関数は、正の数 $a,b$ についての相加相乗平均の不等式 $\sqrt{ab}\le\frac{a+b}2$(等号は $a=b$ のときに限る)から出発して、凸関数とその基本定理に進む 4 本の記事への案内である。両辺の対数をとると $\frac{\log a+\log b}2\le\log\frac{a+b}2$ となり、$y=\log x$ のグラフの弦の中点がグラフより下にあるという主張になる。区間上の関数 $f$ が凸関数であるとは、すべての $x,y$ と $0\le\lambda\le1$ について $f((1-\lambda)x+\lambda y)\le(1-\lambda)f(x)+\lambda f(y)$ が成り立つことである。2 数・3 数の不等式、曲線の凹凸と接線、Jensen の不等式、平均の大小関係の順に読むとよい。
高校で習う「相加平均 $\ge$ 相乗平均」は、2 つの正の数 $a,b$ についての不等式 $\frac{a+b}2\ge\sqrt{ab}$ である。この不等式は、対数関数のグラフの形(上に凸であること)と深く結びついており、そこから「凸関数」という大学数学の考え方に進むことができる。
この記事は、その道のりを 4 本の記事に分けて案内する入口である。ここでは主な言葉の意味と例だけを述べ、証明はそれぞれの記事で行う。
正の数 $a,b$ について、$\frac{a+b}2$ を相加平均、$\sqrt{ab}$ を相乗平均という。正の数 $a,b$ について
$$
\frac{a+b}2\ge\sqrt{ab}
$$
が成り立ち、等号は $a=b$ のときに限る。これを相加相乗平均の不等式という。
$a=1$、$b=9$ では、相加平均は $\frac{1+9}2=5$、相乗平均は $\sqrt9=3$ であり、$3\le5$ である。$a=b=4$ では、どちらも $4$ で等しい。
使い方の例:$x>0$ のとき、$x$ と $\frac4x$ の積は $4$ で一定なので、$x+\frac4x\ge2\sqrt4=4$ である。等号は $x=\frac4x$、つまり $x=2$ のときに成り立つので、$x+\frac4x$ の最小値は $4$ である。
$a=-1$、$b=-4$ とすると、$ab=4$ なので $\sqrt{ab}=2$ は計算できるが、$\frac{a+b}2=-\frac52$ であり、$-\frac52\ge2$ は成り立たない。相加相乗平均の不等式は、数が正(または $0$)であるという条件のもとでの不等式である。
相加相乗平均の不等式の両辺の自然対数をとると、$\log$ が増加関数であることから
$$
\frac{\log a+\log b}2\le\log\frac{a+b}2
$$
と同じ内容になる。左辺は $y=\log x$ のグラフ上の 2 点 $(a,\log a)$、$(b,\log b)$ を結ぶ線分(弦)の中点の高さ、右辺は同じ横座標でのグラフの高さである。
図1:y=log x の弦の中点はグラフより下にある。これが 1 と 9 の相乗平均 3 と相加平均 5 の大小そのものである
この「弦がグラフの下に来る」という形を、向きを逆にして定義にしたものが凸関数である。
区間 $I$ で定義された関数 $f$ が、$I$ のすべての $x,y$ と $0\le\lambda\le1$ について
$$
f\bigl((1-\lambda)x+\lambda y\bigr)\le(1-\lambda)f(x)+\lambda f(y)
$$
を満たすとき、$f$ を $I$ 上の凸関数(下に凸な関数)という。どの弦もグラフより下に来ない、という意味である。$-f$ が凸関数のとき、$f$ を凹関数(上に凸な関数)という。
$f(x)=x^2$ で $x=0$、$y=2$、$\lambda=\frac12$ とすると、左辺は $f(1)=1$、右辺は $\frac{0+4}2=2$ で、$1\le2$ である(弦がグラフより上にある)。$\log x$ は凹関数であり、図 1 はその $x=1$、$y=9$、$\lambda=\frac12$ の場合である。
| 高校の計算 | 大学での考え方 | 記事 |
|---|---|---|
| $\frac{a+b}2-\sqrt{ab}=\frac12(\sqrt a-\sqrt b)^2\ge0$、積が一定なら和が最小 | 不等式と、等号が成り立つ点の確認 | 相加平均と相乗平均 |
| $f''>0$ の区間で「下に凸」、$e^x\ge1+x$ | 凸関数の定義、2 階導関数による判定、接線の不等式 | 曲線の凹凸と接線 |
| 3 数の相加相乗平均、三角形の $\sin A+\sin B+\sin C$ の最大 | 重み付き平均と Jensen の不等式 | Jensenの不等式(高校数学) |
| 項を分けて相加相乗平均を使う、平均の速さ | 重み付きの相加相乗平均、調和・相乗・相加・2 乗平均の大小 | 平均の大小関係 |
4 本の記事で証明する結果を、数の例で 1 つずつ見ておく。証明はリンク先の記事にある。
$x\ge2$ の範囲で $x+\frac1x$ の最小値を考える。相加相乗平均から $x+\frac1x\ge2$ は正しいが、等号の点 $x=1$ は範囲の外にあるので、$2$ は最小値ではない。$x\ge2$ では $x+\frac1x$ は増加し、最小値は $x=2$ での $\frac52$ である。不等式を使って最小値を求めるときは、等号の点が範囲に入るかを必ず確かめる(相加平均と相乗平均)。
$y=e^x$ は下に凸で、$x=0$ での接線は $y=1+x$ である。下に凸なグラフは接線より上にあるので、すべての実数 $x$ について $e^x\ge1+x$ となる。たとえば $x=1$ では $e=2.718\ldots\ge2$、$x=-1$ では $e^{-1}=0.367\ldots\ge0$ である(曲線の凹凸と接線)。
$\sin x$ は $0\le x\le\pi$ で上に凸である。Jensen の不等式を三角形の内角 $A,B,C$(和が $\pi$)に使うと
$$
\frac{\sin A+\sin B+\sin C}3\le\sin\frac{A+B+C}3=\sin\frac\pi3=\frac{\sqrt3}2
$$
となり、$\sin A+\sin B+\sin C\le\frac{3\sqrt3}2=2.598\ldots$ が分かる。直角二等辺三角形では $1+\sqrt2=2.414\ldots$ で、確かにこれより小さい(Jensenの不等式(高校数学))。
$1$ と $4$ の調和平均は $\frac2{1+\frac14}=1.6$、相乗平均は $2$、相加平均は $2.5$、2 乗平均は $\sqrt{\frac{1+16}2}=2.915\ldots$ であり、この順に大きくなる。どんな正の数の組でもこの順に並び、全部が等しいのは数がすべて等しいときだけである(平均の大小関係)。
次の順に読むとよい。前の記事の結果を後の記事で使うが、使う事実はそのつど言い直してある。
凸関数は、大学では多変数の関数に広がり、最小値を求める問題(凸最適化)の基礎になる。凸関数の一般的な性質(連続性、片側微分、局所的な最小が全体の最小になること)は 凸関数 で扱う。
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