Vaughtの定理(可算モデルの個数)(Vaught's never-two theorem)とは、可算言語の完全な理論で無限のモデルをもつものが、同型を除いてちょうど 2 個の可算なモデルをもつことはないという定理である。可算なモデルが 2 個以上で高々可算個なら、型は可算個しかなく、素モデルと可算飽和モデルがあって両者は同型でない。さらに、孤立していない型を実現する組を定数で名付けた理論の素モデルが、どちらとも同型でない第 3 のモデルになる。ちょうど 3 個の可算なモデルをもつ理論は Ehrenfeucht が与えた。
前提知識: 素モデルと原子モデル, Ryll-Nardzewskiの定理, 型(モデル理論), Morleyの範疇性定理
可算言語の完全な理論 $T$ が、同型を除いて何個の可算なモデルをもつかを考える。この個数を $I(T,\aleph_0)$ と書く。端点のない稠密な線形順序の理論のように $I(T,\aleph_0)=1$ となる理論は $\omega$-範疇的な理論であり、Ryll-Nardzewskiの定理 によって型の個数で特徴づけられる。有理数体上のベクトル空間の理論では、可算なモデルは次元 $1,2,\dots,\aleph_0$ で分類され、$I(T,\aleph_0)=\aleph_0$ である。
Vaught の定理(Vaught's never-two theorem)は、$I(T,\aleph_0)=2$ となる理論がないことを述べる。可算なモデルが 1 個でない理論は、少なくとも 3 個の可算なモデルをもつ。この証明では、モデルの中で「いちばん小さい」素モデルと「いちばん大きい」可算飽和モデルを作り、両者が違えば、もう 1 つのモデルを素モデルの考え方で作る。Vaught はこの結果を 1959 年の講演とそれに続く 1961 年の論文で示し、講演の終わりに、ちょうど $\aleph_1$ 個の可算なモデルをもつ完全な理論の存在を連続体仮説なしに証明できるかを問うた。これが現在も未解決の Vaught 予想である(PT25 §1)。この記事では Vaught の定理を完全に証明し、可算モデルの個数の例を調べる。
以下この記事を通じて、$L$ は可算な一階言語、$T$ は無限のモデルをもつ $L$ の完全な理論とする。$T$ のモデルはすべて無限であり、可算無限なモデルをもつ(素モデルと原子モデル の節「定義」の冒頭)。型・型の空間 $S_n(T)$・孤立・$\operatorname{tp}^M(\bar a)$ は 型(モデル理論) のとおりとし、素モデル・原子モデルは 素モデルと原子モデル の定義「素モデルと原子モデル」のとおりとする。
$T$ の可算なモデルの同型類の個数を $I(T,\aleph_0)$ と書く。可算なモデルは台集合を $\mathbb N$ にとりかえられ、$\mathbb N$ を台集合とする $L$ 構造は可算言語の記号の解釈の組なので $2^{\aleph_0}$ 個しかない。よって $1\le I(T,\aleph_0)\le2^{\aleph_0}$ である。
$I(T,\aleph_0)\ne2$ である。より詳しく、$1< I(T,\aleph_0)\le\aleph_0$ ならば、$T$ は素モデル $M_0$ と可算飽和モデル $M_1$ をもち、$M_0$、$M_1$ のどちらとも同型でない可算なモデルがある。とくに $I(T,\aleph_0)\ge3$ である。
$I(T,\aleph_0)$ が非可算のときは $2$ と等しくないので主張は自明である(連続体仮説を仮定しなければ、非可算な値が $2^{\aleph_0}$ に限るかどうかは分からない。後の rem-vt-conjecture)。中身は、可算なモデルが高々可算個しかない理論の構造にある。証明は後の節「定理の証明」で与える。可算飽和モデルは次の節で定義する。
Morleyの範疇性定理 の定義「飽和モデル」を可算なモデルに当てると、次のようになる。
$T$ の可算なモデル $M$ が 可算飽和モデル(countable saturated model)であるとは、$M$ の任意の有限部分集合 $A$ について、$S^M_1(A)$ のすべての型が $M$ の元で実現されることをいう。
$S^M_1(A)$ は $A$ の元を定数で名付けた理論の $1$-型の空間である(型(モデル理論) の節「パラメータの上の型」)。Morleyの範疇性定理 の定理「飽和モデルの一意性」により、$T$ の可算飽和モデルは存在すれば同型を除いてただ 1 つである。可算飽和モデルはパラメータのない型もすべて実現する。
$M$ を $T$ の可算飽和モデルとすると、すべての $n\ge1$ と $p\in S_n(T)$ について、$p$ は $M$ のある組で実現される。
$n$ についての帰納法で、変数を 1 つずつ実現する。
$T$ は完全で $M\models T$ なので、$\operatorname{Th}(M)$ は $T$ の帰結の全体であり、$S^M_1(\emptyset)=S_1(T)$ である。よって $n=1$ は定義から従う。$p(x_1,\dots,x_n,y)\in S_{n+1}(T)$ とし、$p$ に属する $x_1,\dots,x_n$ だけの論理式の全体 $p'$ は $S_n(T)$ の元なので、帰納法の仮定によりそれを実現する $\bar a\in M^n$ がある。$q(y):=\{\varphi(\bar a,y)\mid\varphi(\bar x,y)\in p\}$ とおく。$p$ の有限個の元の連言 $\varphi$ について $\exists y\,\varphi\in p'=\operatorname{tp}^M(\bar a)$ なので、$q$ は $M$ で有限充足可能であり、各論理式かその否定を含む。型(モデル理論) の命題「$A$ 上の型と有限充足可能性」により $q\in S^M_1(\{a_1,\dots,a_n\})$ で、飽和性により $q$ を実現する $b\in M$ がある。$p\subset\operatorname{tp}^M(\bar a,b)$ と完全性から $p=\operatorname{tp}^M(\bar a,b)$ である。$\square$
とくに、可算飽和モデルがあれば $S_n(T)$ は可算である(可算なモデルの $n$ 個の元の組は可算個しかない)。逆も成り立つ。
素モデルが「実現しなくてよい型はすべて省略する」モデルであるのに対して、可算飽和モデルは「有限個のパラメータの上で実現できる型はすべて実現する」モデルである。両者が一致するのは、実現しなくてよい型がない場合、すなわち $\omega$-範疇的な場合である。
$(\mathbb Q,<)$ は $\mathrm{DLO}$ の素モデルであり(素モデルと原子モデル の例「素モデルと原子モデルの最初の例」)、同時に可算飽和モデルでもある。$A\subset\mathbb Q$ を有限集合、$q\in S^{\mathbb Q}_1(A)$ とする。量化記号消去 の定理「DLO の量化記号消去」により、$A$ の元をパラメータとする論理式は、$x$ と $A$ の元の大小と等号の組み合わせと同値なので、$q$ は「$x=a$($a\in A$)」か「$x$ が $A$ の隣り合う 2 元の間(または $A$ の最小元より下、最大元より上)にある」のどれか 1 つの指定で決まる。前者は $a$ が、後者はその区間の有理数(端点がなく稠密なので存在する)が実現する。
$\mathrm{DLO}$ では素モデルと可算飽和モデルが同じ $(\mathbb Q,<)$ になり、$I(\mathrm{DLO},\aleph_0)=1$ である。$\omega$-範疇的でない理論では、thm-vt-main の証明の段 1 のとおり両者は必ず違う。
各 $n\ge1$ について $S_n(T)$ が可算ならば、$T$ は可算飽和モデルをもつ。
有限部分集合の上の型を可算個ずつ実現する初等鎖を 2 重に作る。
段 1(有限集合の上の型は可算個). $M\models T$ と $A=\{a_1,\dots,a_k\}\subset M$ について、$p(x)\in S^M_1(A)$ に $p^*:=\{\varphi(\bar y,x)\mid\varphi(\bar a,x)\in p\}$($\varphi$ は $L$ の論理式)を対応させる。$p$ は $M$ のある初等拡大 $M^*$ の元 $b$ で実現され(モデル理論 の命題「型の実現定理」)、$p^*=\operatorname{tp}^{M^*}(\bar a,b)\in S_{k+1}(T)$ である。$L_A$ の論理式はどれも $\varphi(\bar a,x)$ の形なので $p$ は $p^*$ から決まり、$p\mapsto p^*$ は単射である。よって $S^M_1(A)$ は可算である。
段 2(1 段の拡大). 可算な $M\models T$ に対して、$M\preccurlyeq M'$ となる可算な $M'$ で、$M$ のすべての有限部分集合 $A$ について $S^M_1(A)$ の型をすべて $M'$ で実現するものを作る。$M$ の有限部分集合は可算個なので、段 1 によりそのような型の全体を $p_0,p_1,\dots$($p_i\in S^M_1(A_i)$)と並べられる。$N_0:=M$ とし、可算な $N_i\succcurlyeq M$ ができたとき、$M\preccurlyeq N_i$ より $\operatorname{Th}((N_i)_{A_i})=\operatorname{Th}(M_{A_i})$ なので $p_i$ は $N_i$ の $A_i$ 上の型でもある。型の実現定理で $p_i$ を実現する $b$ をもつ初等拡大 $N^*\succcurlyeq N_i$ をとり、初等部分モデル の定理「下向き Löwenheim–Skolem の定理」で $N_i\cup\{b\}$ を含む可算な $N_{i+1}\preccurlyeq N^*$ をとる。同記事の命題「推移性と中間の構造」により $N_i\preccurlyeq N_{i+1}$ で、$\operatorname{tp}^{N_{i+1}}(b/A_i)=\operatorname{tp}^{N^*}(b/A_i)=p_i$ である。$M':=\bigcup_iN_i$ は可算で、同記事の定理「初等鎖の和」により $N_i\preccurlyeq M'$ なので、$M'$ は各 $p_i$ を実現する。
段 3(鎖の和). $T$ の可算なモデル $M_0$ から始めて、段 2 で $M_{k+1}:=M_k'$ と定め、$M_\omega:=\bigcup_kM_k$ とおく。$M_\omega$ は可算で、各 $M_k\preccurlyeq M_\omega$ である。$M_\omega$ の有限部分集合 $A$ はある $M_k$ に含まれ、$\operatorname{Th}((M_k)_A)=\operatorname{Th}((M_\omega)_A)$ なので $S^{M_\omega}_1(A)=S^{M_k}_1(A)$ である。その元 $p$ は $M_{k+1}$ の元 $b$ で実現され、$\operatorname{tp}^{M_\omega}(b/A)=\operatorname{tp}^{M_{k+1}}(b/A)=p$ である。よって $M_\omega$ は可算飽和モデルである。$\square$
型の個数は、可算なモデルの個数からも抑えられる。
$I(T,\aleph_0)\le\aleph_0$ ならば、各 $n\ge1$ について $S_n(T)$ は可算である。
$T$ の可算なモデルの同型類の代表 $M_0,M_1,\dots$(高々可算個)をとる。$p\in S_n(T)$ はあるモデルの組 $\bar a$ で実現され、初等部分モデル の定理「下向き Löwenheim–Skolem の定理」により $\bar a$ を含む可算な初等部分モデルでも実現される(省略型定理 の系「同型でない可算なモデル」の証明と同じ)。そのモデルはある $M_i$ と同型で、同型写像は型を保つので、$p$ は $M_i$ のある組の型である。各 $M_i$ の $n$ 個の元の組は可算個なので、$S_n(T)$ は可算集合の可算個の和に含まれ、可算である。$\square$
素モデルを $M_0$、可算飽和モデルを $M_1$ とする。$T$ が $\omega$-範疇的でなければ両者は違い、第 3 のモデルは、$M_1$ の中で孤立していない型を実現する組を定数で名付けた理論の素モデルとして得られる。
$1< I(T,\aleph_0)\le\aleph_0$ とする。lem-vt-few-models により各 $S_n(T)$ は可算なので、素モデルと原子モデル の定理「型が可算個なら素モデルがある」により素モデル $M_0$ が、thm-vt-saturated-exists により可算飽和モデル $M_1$ がある。
段 1($M_0\not\cong M_1$). $T$ は $\omega$-範疇的でないので、Ryll-Nardzewskiの定理 の 3 ⇒ 1 の対偶により、孤立していない完全型 $p\in S_n(T)$ がある。lem-vt-realize により $p$ は $M_1$ のある組 $\bar a$ で実現される。$M_0$ は原子モデル(素モデルと原子モデル の定理「素モデルは可算な原子モデル」)なので $p$ を実現しない。同型写像は型を保つので $M_0\not\cong M_1$ である。
段 2(第 3 のモデル). 新しい定数記号 $c_1,\dots,c_n$ を加えた言語を $L'$ とし、$c_i$ を $a_i$ と解釈した $L'$ 構造 $(M_1,\bar a)$ の理論を $T':=\operatorname{Th}(M_1,\bar a)$ とする。$T'$ は可算言語の完全な理論で、無限のモデルをもつ。$L'$ の論理式 $\psi(\bar y)$ は $L$ の論理式 $\varphi(\bar x,\bar y)$ の $x_i$ に $c_i$ を代入したもの $\varphi(\bar c,\bar y)$ として書けるので、$r\in S_m(T')$ に $r^*:=\{\varphi(\bar x,\bar y)\mid\varphi(\bar c,\bar y)\in r\}$ を対応させる写像は単射である。$r$ を $T'$ のモデル $(N',\bar e)$ の組 $\bar d$ で実現すれば $r^*=\operatorname{tp}^{N'}(\bar e,\bar d)\in S_{n+m}(T)$ なので、$S_m(T')$ は可算である。よって $T'$ は素モデルをもつ。それを $(N,\bar e)$ と書く($e_i$ は $c_i$ の解釈)。$N$ は $T$ の可算なモデルで、$\operatorname{tp}^N(\bar e)=\{\varphi(\bar x)\mid\varphi(\bar c)\in T'\}=\operatorname{tp}^{M_1}(\bar a)=p$ である。$N$ は孤立していない型 $p$ を実現するので原子モデルでなく、$N\not\cong M_0$ である。
段 3($N\not\cong M_1$). $N\cong M_1$ と仮定すると、$N$ は可算飽和モデルである。$N$ の有限部分集合 $A$ について、$L'_A$ の論理式は $A\cup\{e_1,\dots,e_n\}$ の元をパラメータとする $L$ の論理式と同じものなので、$(N,\bar e)$ の $A$ 上の $1$-型は $N$ の有限集合 $A\cup\{e_1,\dots,e_n\}$ 上の $1$-型であり、$N$ で実現される。よって $(N,\bar e)$ は $T'$ の可算飽和モデルで、lem-vt-realize により $T'$ のすべての完全型を実現する。一方 $(N,\bar e)$ は $T'$ の素モデルなので原子モデルであり、そこで実現される型はすべて孤立している。したがって $T'$ のすべての完全型は孤立していて、Ryll-Nardzewskiの定理 の 3 ⇒ 2 により各 $S_m(T')$ は有限である。
ところが、$q\in S_m(T)$ は lem-vt-realize により $M_1$ のある組 $\bar b$ で実現され、$T'$ の完全型 $\operatorname{tp}^{(M_1,\bar a)}(\bar b)$ に含まれる $L$ の論理式の全体は $q$ である。$S_m(T')$ の元からこのように $L$ の論理式だけを取り出す写像は $S_m(T)$ への全射なので、$S_m(T)$ も有限である。Ryll-Nardzewskiの定理 の 2 ⇒ 1 により $T$ は $\omega$-範疇的となり、$I(T,\aleph_0)>1$ に反する。よって $N\not\cong M_1$ である。
以上で $M_0,M_1,N$ は互いに同型でない $T$ の可算なモデルであり、$I(T,\aleph_0)\ge3$ である。$I(T,\aleph_0)>\aleph_0$ の場合(このとき $I(T,\aleph_0)\ne2$ は明らか)と $I(T,\aleph_0)=1$ の場合を合わせて、$I(T,\aleph_0)\ne2$ である。$\square$
$M_0$ は $T$ のどのモデルにも初等的に埋め込める。一方、可算飽和モデル $M_1$ には $T$ のどの可算なモデルも初等的に埋め込める(Morleyの範疇性定理 の補題「型を写して実現する」をくり返し使えばよい)。可算なモデルの全体の中で $M_0$ は最小、$M_1$ は最大の位置にある。証明の第 3 のモデル $N$ は、$p$ を実現する組 $\bar e$ の上の素モデル(素モデルと原子モデル の節「パラメータの上の素モデル」)であり、その間に位置する。
証明の要点は、$\omega$-範疇的でないことが 2 回使われることにある。1 回目は素モデルと可算飽和モデルを区別するためで、孤立していない型 $p$ が $M_1$ に現れ $M_0$ に現れないことによる。2 回目は第 3 のモデル $N$ が可算飽和でないことを示すためで、もし $N$ が飽和なら、定数を加えた理論 $T'$ は「素モデルが飽和」となって $\omega$-範疇的になり、型の個数が有限になってしまう。可算なモデルがちょうど 2 個だとすると、その 2 個は素モデルと可算飽和モデルでなければならないが、第 3 のモデル $N$ がどちらにもなれないので矛盾する、というのが定理の筋である。
標数 $0$ の代数閉体の理論 $\mathrm{ACF}_0$ で、証明に現れるモデルは次のとおりである。素モデル $M_0$ は $\overline{\mathbb Q}$(素モデルと原子モデル の例「代数閉体の素モデル」)。可算飽和モデル $M_1$ は、超越次数 $\aleph_0$ の可算な代数閉体 $K:=\overline{\mathbb Q(t_1,t_2,\dots)}$。孤立していない型 $p$ は超越元の型で、その実現 $a\in K$ をとると、第 3 のモデル $N$ は $\overline{\mathbb Q(a)}$(超越次数 $1$)である。
$K$ が飽和であることは、有限集合 $A$ 上の型が「代数的な型」か「超越的な型」かに分けて確かめる。$N$ が $T'$ の素モデルであることは、$\overline{\mathbb Q}$ の場合と同じ埋め込みの議論である。
$K$ は可算飽和. $A=\{a_1,\dots,a_k\}\subset K$、$F:=\mathbb Q(A)$、$q\in S^K_1(A)$ とする。整数係数の多項式 $g(x,\bar y)$ で、$g(x,\bar a)$ が $x$ の多項式として $0$ でないものを考える。(i) $q$ がそのような $g$ について $g(x,\bar a)=0$ を含むとき、$K$ での解の集合 $Z$ は有限である。どの $z\in Z$ も $q$ を実現しないなら、$z$ ごとに $z$ で偽な $\psi_z\in q$ がとれ、$g(x,\bar a)=0\land\bigwedge_z\psi_z$ は $q$ に属するのに $K$ で解をもたず、$q$ が $K$ で有限充足可能であることに反する。(ii) そうでないとき、$q$ はそのような $g$ について $\lnot\,g(x,\bar a)=0$ をすべて含む。$K$ の超越次数は $\aleph_0$ で $F$ の超越次数は $k$ 以下なので、$F$ 上超越的な $b\in K$ がある($K$ が $F$ 上代数的なら、$F$ の $k$ 個以下の元からなる超越基底が $K$ の超越基底にもなり、超越次数 の定理「超越基底の濃度の一意性」に反する)。$b$ と $q$ は原子論理式 $g(x,\bar a)=0$ の真偽で一致する($g(x,\bar a)$ が $x$ の多項式として $0$ なら両方で真、$0$ でなければ両方で偽)。量化記号消去 の定理「代数閉体の量化記号消去」により、$q$ の各元 $\varphi(x,\bar a)$ は $K$ で量化記号のない論理式 $\psi(x,\bar a)$ と同値なので、$b$ は $q$ を実現する。
$N$ は $T'$ の素モデル. $T'=\operatorname{Th}(K,a)$ とする。$N\subset K$ は代数閉体なので 量化記号消去 の系「代数閉体の理論の帰結」の 2 により $N\preccurlyeq K$ であり、$(N,a)\models T'$ である。$(E,b)\models T'$ とする。$T'$ は $0$ でない整数係数の多項式 $f$ について $\lnot\,f(c)=0$ を含むので、$b$ は $\mathbb Q$ 上超越的で、$a\mapsto b$ は体の同型 $\mathbb Q(a)\to\mathbb Q(b)$ に延びる。$E$ の中の $\mathbb Q(b)$ の相対的な代数閉包は $\mathbb Q(b)$ の代数閉包なので(代数閉包 の命題「代数閉体の中での相対的閉包」)、同記事の定理「代数拡大の埋め込み」によりこの同型は埋め込み $\iota\colon\overline{\mathbb Q(a)}\to E$ に延びる。像は代数閉体なので同系の 2 により $E$ の初等部分モデルであり、$\iota(a)=b$ なので $\iota$ は $L'$ 構造の初等埋め込み $(N,a)\to(E,b)$ である。$\square$
この例では $M_0,N,M_1$ の超越次数は $0,1,\aleph_0$ である。超越次数 $2,3,\dots$ のモデルもあり、$\mathrm{ACF}_0$ の可算なモデルは $\aleph_0$ 個ある(後の ex-vt-examples)。
| 理論 $T$ | 可算なモデル | $I(T,\aleph_0)$ |
|---|---|---|
| 端点のない稠密な線形順序 $\mathrm{DLO}$ | $(\mathbb Q,<)$ | $1$ |
| 有理数体上の $\{0\}$ でないベクトル空間 $T_{\mathbb Q}$ | 次元 $1,2,\dots,\aleph_0$ の空間 | $\aleph_0$ |
| 標数 $0$ の代数閉体 $\mathrm{ACF}_0$ | 超越次数 $0,1,\dots,\aleph_0$ の代数閉体 | $\aleph_0$ |
| 独立な述語の理論 $T_P$ | 実現する $1$-型の集合で区別される | $2^{\aleph_0}$ |
| Ehrenfeucht の理論 | 定数の列のふるまいで 3 通り | $3$ |
表の 1〜4 行目は次のとおりである。5 行目は後の rem-vt-ehrenfeucht で扱う。
1 行目:カテゴリー性 の定理「Cantor の定理」による。
2 行目:$T_{\mathbb Q}$ のモデルは $\{0\}$ でない $\mathbb Q$ 上のベクトル空間で、同型はそのまま線形同型である(カテゴリー性 の補題「有理数体上のベクトル空間の濃度」の前の説明)。基底の濃度(次元)は同型で保たれ、同じ次元の空間は基底の全単射から作る線形写像で同型になる。同記事の補題「有理数体上のベクトル空間の濃度」により、空間が可算であることと次元が $\aleph_0$ 以下であることは同値である。よって可算なモデルの同型類は次元 $1,2,\dots,\aleph_0$ と 1 対 1 に対応する。
3 行目:$\mathrm{ACF}_0$ の可算なモデル $K$ は、$\mathbb Q$ 上の超越基底 $B$ をとると $\mathbb Q(B)$ の代数閉包である($K$ は $\mathbb Q(B)$ 上代数的で代数閉体)。超越次数が同じなら $B$ の全単射が $\mathbb Q(B)$ の同型に延び、代数閉包 の定理「代数閉包の非標準な一意性」によりそれぞれの代数閉包の同型に延びる。逆に同型は超越基底を超越基底に写すので、超越次数 の定理「超越基底の濃度の一意性」により超越次数を保つ。可算な体の超越次数は $\aleph_0$ 以下で、各値 $0,1,\dots,\aleph_0$ は $\mathbb Q(t_1,t_2,\dots)$ の部分体の代数閉包として実現される。
4 行目:素モデルと原子モデル の定理「独立な述語の理論は素モデルをもたない」のあとの説明により、$T_P$ の $1$-型は $\sigma\in\{0,1\}^{\mathbb N}$($\sigma(i)=1$ は $P_i$ に属することを表す)と 1 対 1 に対応する。$\sigma$ に対応する型を $p_\sigma$ とする。有限個を除いて $0$ である列の全体を $D$ とし、$\sigma\notin D$ について、台集合を $D\cup\{\sigma\}$、$P_i:=\{\tau\mid\tau(i)=1\}$ とする $L_P$ 構造 $M_\sigma$ を考える。どの $\varepsilon\in\{0,1\}^n$ についても $\varepsilon$ で始まる $D$ の元は無限個あるので、$M_\sigma$ は $T_P$ の可算なモデルである。$M_\sigma$ の元 $\tau$ は $p_\tau$ を実現するので、$M_\sigma$ が実現する $1$-型は $\{p_\tau\mid\tau\in D\cup\{\sigma\}\}$ である。$\sigma\ne\sigma'$ なら $M_\sigma$ は $p_\sigma$ を実現し $M_{\sigma'}$ は実現しないので、両者は同型でない。$\{0,1\}^{\mathbb N}\setminus D$ は $2^{\aleph_0}$ 個の元をもつので、$I(T_P,\aleph_0)\ge2^{\aleph_0}$ であり、上の注意と合わせて等号が成り立つ。
Vaught の定理の「2」を「3」に替えることはできない。
言語 $\{<\}\cup\{c_0,c_1,\dots\}$ で、$<$ が端点のない稠密な線形順序であり $c_0< c_1< c_2<\cdots$ であるという理論は、ちょうど 3 個の可算なモデルをもつ。3 つのモデルは、定数の列が上に有界でないか、上限をもつか、上に有界だが上限をもたないかで区別される。色を表す 1 項述語を加えて変形すると、任意の $n\ge3$ について $I(T,\aleph_0)=n$ となる理論が得られる(PT25 §3、p. 7。この記事では証明しない)。
可算なモデルが 2 個以上で有限個の理論は Ehrenfeucht 理論とよばれる(PT25 §3)。Vaught の定理は、Ehrenfeucht 理論のモデルが少なくとも 3 個であることを述べている。
Vaught は、連続体仮説を仮定せずに $I(T,\aleph_0)=\aleph_1$ となる完全な理論が存在することを証明できるかを問うた。その否定を予想する形の主張が Vaught 予想 である。
Vaught 予想:可算言語の完全な理論 $T$ について、$I(T,\aleph_0)$ は可算であるか $2^{\aleph_0}$ に等しい。連続体仮説のもとでは自明に成り立つので、意味をもつのは連続体仮説を仮定しない場合である。Morley は 1970 年に、$I(T,\aleph_0)$ が無限ならば $\aleph_0$、$\aleph_1$、$2^{\aleph_0}$ のいずれかであることを証明した。これは一般の一階の理論について知られている最も強い結果である(PT25 §1、p. 1。この記事では証明しない)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $T$ が完全 | 言語 $\{P\}$ で、無限であることと $\forall x\,P(x)\lor\forall x\,\lnot P(x)$ を公理とする理論 | 可算なモデルが 2 個でないこと |
| 個数が 2(3 に替える) | Ehrenfeucht の理論(rem-vt-ehrenfeucht) | 可算なモデルが 3 個でないこと |
| $I(T,\aleph_0)\le\aleph_0$(証明の筋) | 独立な述語の理論 $T_P$ | 素モデルが存在すること |
1 行目は直接数え、2 行目は引用、3 行目は 素モデルと原子モデル による。
1 行目:この理論のモデルは、$P$ がすべての元を含む無限集合か、$P$ が空な無限集合である。可算なモデルはそれぞれ台集合の全単射で互いに同型になるので、同型類はちょうど 2 個である。文 $\forall x\,P(x)$ は一方で真、他方で偽なので、この理論は完全でない。完全な理論 $\operatorname{Th}$($P$ が全体)と $\operatorname{Th}$($P$ が空)にそれぞれ分ければ、どちらも可算なモデルは 1 個である。
2 行目:rem-vt-ehrenfeucht のとおり、可算なモデルがちょうど 3 個の完全な理論がある。
3 行目:$I(T_P,\aleph_0)=2^{\aleph_0}$ で(ex-vt-examples)、素モデルと原子モデル の定理「独立な述語の理論は素モデルをもたない」により $T_P$ は素モデルをもたない。Vaught の定理の結論そのものは $2^{\aleph_0}\ne2$ なので成り立つが、証明の段 1 の $M_0$ はとれない。
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