Penroseの敷き詰め

同義語:ペンローズの敷き詰めペンローズ・タイルPenrose tiling

概要

Penroseの敷き詰め(Penrose tiling)とは、凧と矢とよばれる 2 種類の四角形(辺の長さは $1$ と黄金比 $\varphi=\frac{1+\sqrt5}2$、角は $36^\circ$ の倍数)を、頂点に付けた印がそろうように並べて平面を覆う敷き詰めである。凧と矢の面積の比は $\varphi$ である。凧と矢をそれぞれ 2 枚の二等辺三角形(半凧・半矢)に分けると、半凧は $\frac1\varphi$ 倍の半凧 2 枚と半矢 1 枚に、半矢は半凧 1 枚と半矢 1 枚に切り分けられる。この切り分けをくり返すと、半凧と半矢の枚数は Fibonacci 数の漸化式にしたがい、その比は $\varphi$ に近づく。なお、凧と矢に色の印を付けて並べ方を制限する規則(MathWorld の頁の規則)のもとでは、周期的でない敷き詰めしかできないことが知られている。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 正五角形と黄金比, 余弦定理(高校数学), 三角形の面積の公式, 数列の極限

高校での出発点:正五角形の中の 2 つの三角形

1 辺の長さが $1$ の正五角形 $ABCDE$ では、対角線の長さはすべて黄金比
$$ \varphi=\frac{1+\sqrt5}2=1.6180\ldots $$
である(正五角形と黄金比)。対角線を引くと、形の違う 2 種類の二等辺三角形が現れる。

正五角形の中の 2 つの二等辺三角形

正五角形の内角は $108^\circ$ である。
(1) 三角形 $ABC$ は、2 辺 $AB=BC=1$、底辺 $AC=\varphi$ の二等辺三角形で、頂角は $\angle ABC=108^\circ$、底角は $\dfrac{180^\circ-108^\circ}2=36^\circ$ である。
(2) 三角形 $ACD$ は、2 辺 $AC=AD=\varphi$、底辺 $CD=1$ の二等辺三角形である。頂点 $C$ の内角 $108^\circ$ から $\angle BCA=36^\circ$ を引くと $\angle ACD=72^\circ$ なので、底角は $72^\circ$、頂角は $\angle CAD=180^\circ-2\cdot72^\circ=36^\circ$ である。
(3) 面積を三角形の面積の公式で求めると
$$ \triangle ABC=\frac12\cdot1\cdot1\cdot\sin108^\circ=0.4755\ldots,\qquad\triangle ACD=\frac12\cdot\varphi\cdot\varphi\cdot\sin36^\circ=0.7694\ldots $$
で、比は $\dfrac{0.7694\ldots}{0.4755\ldots}=1.6180\ldots$ となり、$\varphi$ に近い。

  1. の三角形(角が $36^\circ$、$72^\circ$、$72^\circ$)を 鋭角の黄金三角形、(1) の三角形(角が $108^\circ$、$36^\circ$、$36^\circ$)を 鈍角の黄金三角形 とよぶことにする。鋭角の黄金三角形を 2 枚、長い辺どうしで貼り合わせると 凧、鈍角の黄金三角形を 2 枚、短い辺どうしで貼り合わせると 矢 とよばれる四角形ができる(図 1)。
    凧(左)と矢(右)。辺の長さは φ と 1 で、角は 36° の倍数。頂点の白丸と黒丸は並べ方の印 凧(左)と矢(右)。辺の長さは φ と 1 で、角は 36° の倍数。頂点の白丸と黒丸は並べ方の印
    凧と矢を、頂点の印(図 1 の白丸と黒丸)がそろうように並べて平面を覆ったものを Penrose の敷き詰め という(正確な定義は def-pt-tiling)。図 6 はその一部である。この記事で答える問いは次の 3 つである。
  1. 凧と矢の面積の比は何か。→ thm-pt-area
  2. 凧と矢を小さな凧と矢に切り分ける規則はあるか。→ lem-pt-deflate
  3. 切り分けをくり返すと、凧と矢の枚数の比はどうなるか。→ thm-pt-count
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    正五角形の対角線と辺の比 $\varphi$凧と矢の辺の長さ自己相似の縮小率
    三角形の面積 $\dfrac12ab\sin C$凧と矢の面積の比 $\varphi$タイルの体積(面積)の比
    漸化式 $a_{n+1}=2a_n+b_n$、$b_{n+1}=a_n+b_n$細分による枚数の変化置換行列と Perron–Frobenius 固有値
    Fibonacci 数の比の極限枚数の比が $\varphi$ に近づく周期的でない敷き詰めのタイルの頻度

言葉の準備:黄金比の計算規則と 2 種類のタイル

この記事の計算は、次の関係だけで進む。

黄金比の計算規則

$\varphi=\dfrac{1+\sqrt5}2$ について
$$ \varphi^2=\varphi+1,\qquad\frac1\varphi=\varphi-1,\qquad\frac1{\varphi^2}=2-\varphi,\qquad2\cos36^\circ=\varphi,\qquad2\cos72^\circ=\frac1\varphi $$
が成り立つ。

展開と正五角形の余弦

要点:はじめの 3 つは $\varphi^2$ を展開して $\varphi^2=\varphi+1$ を得て、それを $\varphi$ で割ったり 2 乗したりすれば出る。余弦の 2 つは 正五角形と黄金比 の系「36° と 72° の余弦」である。

詳しい証明を開く

$\varphi^2=\dfrac{1+2\sqrt5+5}4=\dfrac{3+\sqrt5}2=\dfrac{1+\sqrt5}2+1=\varphi+1$ である。両辺を $\varphi$ で割ると $\varphi=1+\dfrac1\varphi$、つまり $\dfrac1\varphi=\varphi-1$ である。これを 2 乗して $\varphi^2=\varphi+1$ を使うと $\dfrac1{\varphi^2}=\varphi^2-2\varphi+1=(\varphi+1)-2\varphi+1=2-\varphi$ である。$\cos36^\circ=\dfrac\varphi2$、$\cos72^\circ=\dfrac{\varphi-1}2$ は 正五角形と黄金比 の系「36° と 72° の余弦」である。$\dfrac1\varphi=\varphi-1$ から $2\cos72^\circ=\varphi-1=\dfrac1\varphi$ である。$\square$

凧・矢・半タイル
  1. 半凧:2 辺が $\varphi$、底辺が $1$ の二等辺三角形(鋭角の黄金三角形)。頂角は $36^\circ$、底角は $72^\circ$ である。
  2. 半矢:2 辺が $1$、底辺が $\varphi$ の二等辺三角形(鈍角の黄金三角形)。頂角は $108^\circ$、底角は $36^\circ$ である。
  3. 凧:2 枚の半凧を、長さ $\varphi$ の辺の 1 本どうしで、互いに鏡に映した向きに貼り合わせた四角形。
  4. 矢:2 枚の半矢を、長さ $1$ の辺の 1 本どうしで、互いに鏡に映した向きに貼り合わせた四角形。
    貼り合わせた辺を、凧と矢の 軸 という。凧と矢の頂点のうち、軸の両端で角が $72^\circ$ の方を 先端、もう一方を くぼみ側の頂点、軸の上にない 2 つを 脇の頂点 とよぶ。

半凧の角が $36^\circ$、$72^\circ$、$72^\circ$ であることは ex-pt-start (2) と同じ計算で分かる(2 辺が $\varphi$、底辺が $1$ の三角形は、ex-pt-start の三角形 $ACD$ と 3 辺が等しく合同である)。半矢も三角形 $ABC$ と合同である。

凧と矢の角と辺
  1. 凧:半凧の頂角 $36^\circ$ の頂点どうしを重ねるので、先端の角は $2\cdot36^\circ=72^\circ$ である。軸のもう一方の端(くぼみ側の頂点)では底角が 2 つ重なって $2\cdot72^\circ=144^\circ$、脇の頂点は $72^\circ$ である。4 つの角の和は $72^\circ+144^\circ+72^\circ+72^\circ=360^\circ$ である。辺は、先端から出る 2 本が $\varphi$、くぼみ側の頂点から出る 2 本が $1$ である。
  2. 矢:半矢の底角 $36^\circ$ の頂点どうしを重ねた方が先端で、角は $72^\circ$ である。軸のもう一方の端は頂角 $108^\circ$ が 2 つ重なって $216^\circ$ で、$180^\circ$ を超えるので内側にへこむ。脇の頂点は $36^\circ$ である。和は $72^\circ+216^\circ+36^\circ+36^\circ=360^\circ$ である。辺は、先端から出る 2 本が $\varphi$、くぼみ側の頂点から出る 2 本が $1$ である。

凧と矢の辺はどちらも「$\varphi$ が 2 本、$1$ が 2 本」なので、長さの等しい辺どうしを合わせて並べられる。しかし、自由に並べると周期的な模様も作れてしまう(ex-pt-cx-rhombus)。そこで頂点に印を付けて並べ方を制限する。

頂点の印と Penrose の敷き詰め

凧と矢の頂点に、次のように白と黒の印を付ける(図 1)。
(R1) 凧:先端とくぼみ側の頂点が白、2 つの脇の頂点が黒。
(R2) 矢:先端とくぼみ側の頂点が黒、2 つの脇の頂点が白。
合同な凧と矢を、すき間も重なりもなく、辺と辺をちょうど合わせて並べ、どの頂点でもそこに集まる印の色がすべて同じになるようにして平面全体を覆ったものを、この記事では Penrose の敷き詰め という。

上の頂点の 2 色の印は、この記事で使う印である。Wei26 は、凧と矢に付けた色の印が一致するように置く規則を図で示し、特に凧と矢をひし形に組んではいけないことを注意している。この記事の印でもひし形は作れない(ex-pt-cx-rhombus)。この記事の印が Wei26 の印と同じ並べ方を許すかどうかは、この記事では確かめない。

太陽と星
  1. 5 枚の凧を、先端を 1 点に集めて並べる。先端の角は $72^\circ$ なので $5\cdot72^\circ=360^\circ$ で、すき間なく 1 周する。隣り合う凧は長さ $\varphi$ の辺で接し、その両端は先端(白)と脇の頂点(黒)どうしなので、印の色がそろう。この配置を 太陽 という。
  2. 5 枚の矢を、先端を 1 点に集めて並べても $5\cdot72^\circ=360^\circ$ で 1 周し、中心はどれも黒、長さ $\varphi$ の辺の外側の端はどれも白(脇の頂点)なので印がそろう。この配置を 星 という。
    どちらも 1 点のまわりの $72^\circ$ の回転で自分自身に重なる、5 回対称の配置である。

主定理 1:凧と矢の面積の比

凧と矢の面積の比

def-pt-tiles の凧の面積を $K$、矢の面積を $D$ とすると、$\dfrac KD=\varphi$ である。半凧と半矢の面積の比も $\varphi$ である。

正弦を 2 倍角の公式で比べる

段 1(面積を書く)。半凧は 2 辺 $\varphi$ とその間の角 $36^\circ$ の三角形、半矢は 2 辺 $1$ とその間の角 $108^\circ$ の三角形なので、三角形の面積の公式から
$$ (\text{半凧の面積})=\frac12\varphi^2\sin36^\circ,\qquad(\text{半矢の面積})=\frac12\sin108^\circ $$
である。凧と矢はそれぞれその 2 倍なので、$K=\varphi^2\sin36^\circ$、$D=\sin108^\circ$ である。
段 2($\sin108^\circ$ を書き直す)。$\sin108^\circ=\sin(180^\circ-72^\circ)=\sin72^\circ$ で、2 倍角の公式から $\sin72^\circ=2\sin36^\circ\cos36^\circ$ である。
段 3(比を求める)。fml-pt-phi の $2\cos36^\circ=\varphi$ を使うと
$$ \frac KD=\frac{\varphi^2\sin36^\circ}{2\sin36^\circ\cos36^\circ}=\frac{\varphi^2}{2\cos36^\circ}=\frac{\varphi^2}\varphi=\varphi $$
である($\sin36^\circ>0$ で約分した)。半凧と半矢の比も、両方を $2$ で割るだけなので同じく $\varphi$ である。$\square$

面積を数値で確かめる

$\sin36^\circ=0.5877\ldots$、$\sin72^\circ=0.9510\ldots$、$\varphi^2=\varphi+1=2.6180\ldots$ なので
$$ K=2.6180\ldots\times0.5877\ldots=1.5388\ldots,\qquad D=0.9510\ldots,\qquad\frac KD=1.6180\ldots $$
である。ex-pt-start (3) の比も、半凧と半矢の面積の比として同じ値だった。
凧と矢を同じ枚数ずつ使うと、凧の面積の合計は矢の約 $1.618$ 倍になる。逆に、凧の枚数が矢の $\varphi$ 倍なら、凧の面積の合計は矢の $\varphi^2=2.618\ldots$ 倍になる。

細分:半タイルを小さな半タイルに切り分ける

半凧と半矢は、どちらも $\dfrac1\varphi$ 倍に縮めた半凧と半矢に切り分けられる。この切り分けを 細分(deflation。タイルが小さく細かくなる向きの操作)という。以下、$\dfrac1\varphi$ 倍の半凧(2 辺 $1$、底辺 $\dfrac1\varphi$、頂角 $36^\circ$)を 小さな半凧、$\dfrac1\varphi$ 倍の半矢(2 辺 $\dfrac1\varphi$、底辺 $1$、頂角 $108^\circ$)を 小さな半矢 とよぶ。

半タイルの切り分け
  1. 半凧 $TSI$($TS=TI=\varphi$、$SI=1$、$\angle T=36^\circ$)で、辺 $TI$ の上に $TX=1$ となる点 $X$、辺 $TS$ の上に $SY=1$ となる点 $Y$ をとる。このとき、三角形 $SIX$ と $SYX$ は小さな半凧、三角形 $TXY$ は小さな半矢である。したがって、半凧は小さな半凧 2 枚と小さな半矢 1 枚に切り分けられる。
  2. 半矢 $TSI$($TS=\varphi$、$TI=SI=1$、$\angle T=\angle S=36^\circ$)で、辺 $TS$ の上に $TY=1$ となる点 $Y$ をとる。このとき、三角形 $TYI$ は小さな半凧、三角形 $SIY$ は小さな半矢である。したがって、半矢は小さな半凧 1 枚と小さな半矢 1 枚に切り分けられる。
余弦定理で 3 辺を求める

要点:(1) では $XI=TY=\varphi-1=\dfrac1\varphi$ で、余弦定理と $2\cos36^\circ=\varphi$ から $SX^2=\varphi^2+1-\varphi\cdot\varphi=1$、$XY^2=1+\dfrac1{\varphi^2}-\dfrac1\varphi\cdot\varphi=\dfrac1{\varphi^2}$ となる。三角形 $SIX$、$SYX$ は 2 辺が $1$ で底辺が $\dfrac1\varphi$、三角形 $TXY$ は 2 辺が $\dfrac1\varphi$ で底辺が $1$ である。(2) では $YI^2=2-2\cos36^\circ=2-\varphi=\dfrac1{\varphi^2}$ で、三角形 $TYI$ は 2 辺が $1$ で底辺が $\dfrac1\varphi$、三角形 $SIY$ は 2 辺が $\dfrac1\varphi$ で底辺が $1$ である。3 辺が等しい三角形は合同なので、それぞれ小さな半凧・小さな半矢である。

詳しい証明を開く

方針:それぞれの三角形の 3 辺の長さを求め、def-pt-tiles の三角形を $\dfrac1\varphi$ 倍したものと 3 辺が等しいことを確かめる(3 辺が等しい三角形は合同)。$\dfrac1\varphi=\varphi-1$、$2\cos36^\circ=\varphi$(fml-pt-phi)を何度も使う。

段 1((1) の $X$、$Y$ の位置)。$TX=1<\varphi=TI$ なので $X$ は辺 $TI$ の内部にあり、$XI=\varphi-1=\dfrac1\varphi$ である。同じく $SY=1<\varphi$ なので $Y$ は辺 $TS$ の内部にあり、$TY=\varphi-1=\dfrac1\varphi$ である。

段 2((1) の $SX$)。三角形 $TSX$ で $TS=\varphi$、$TX=1$、$\angle T=36^\circ$ なので、余弦定理から

$$SX^2=\varphi^2+1-2\cdot\varphi\cdot1\cdot\cos36^\circ=\varphi^2+1-\varphi\cdot\varphi=1$$

で、$SX=1$ である。

段 3((1) の $XY$)。三角形 $TXY$ で $TX=1$、$TY=\dfrac1\varphi$、$\angle T=36^\circ$ なので

$$XY^2=1+\frac1{\varphi^2}-2\cdot1\cdot\frac1\varphi\cos36^\circ=1+\frac1{\varphi^2}-\frac1\varphi\cdot\varphi=\frac1{\varphi^2}$$

で、$XY=\dfrac1\varphi$ である。

段 4((1) の 3 枚)。三角形 $SIX$ は $SI=1$、$SX=1$、$IX=\dfrac1\varphi$、三角形 $SYX$ は $SY=1$、$SX=1$、$YX=\dfrac1\varphi$ で、どちらも 2 辺が $1$、底辺が $\dfrac1\varphi$ なので小さな半凧である。三角形 $TXY$ は $TX=1$、$TY=YX=\dfrac1\varphi$ で、2 辺が $\dfrac1\varphi$、底辺が $1$ なので小さな半矢である。線分 $SX$ と $XY$ は半凧を 3 つの三角形に分けるので、(1) が示された。

段 5((2))。$TY=1<\varphi=TS$ なので $Y$ は辺 $TS$ の内部にあり、$YS=\varphi-1=\dfrac1\varphi$ である。三角形 $TYI$ で $TY=TI=1$、$\angle T=36^\circ$ なので

$$YI^2=1+1-2\cos36^\circ=2-\varphi=\frac1{\varphi^2}$$

で、$YI=\dfrac1\varphi$ である。三角形 $TYI$ は 2 辺が $1$、底辺が $\dfrac1\varphi$ なので小さな半凧、三角形 $SIY$ は $SI=1$、$IY=YS=\dfrac1\varphi$ なので小さな半矢である。$\square$

半凧 TSI は、小さな半凧 SIX と SYX(青)と小さな半矢 TXY(だいだい色)に分かれる 半凧 TSI は、小さな半凧 SIX と SYX(青)と小さな半矢 TXY(だいだい色)に分かれる
半矢 TSI は、小さな半凧 TYI(青)と小さな半矢 SIY(だいだい色)に分かれる 半矢 TSI は、小さな半凧 TYI(青)と小さな半矢 SIY(だいだい色)に分かれる

図 2・図 3 は lem-pt-deflate の切り分けである。これを凧と矢の単位で見たものが図 4・図 5 である。

凧を細分すると、小さな凧 2 枚と、先端のまわりの小さな半矢 2 枚になる 凧を細分すると、小さな凧 2 枚と、先端のまわりの小さな半矢 2 枚になる
矢を細分すると、小さな凧 1 枚と、脇の小さな半矢 2 枚になる 矢を細分すると、小さな凧 1 枚と、脇の小さな半矢 2 枚になる

図 4 で、凧の 2 枚の半凧から出る小さな半凧 4 枚は、2 枚ずつ組になって小さな凧 2 枚を作る(先端がもとの凧の脇の頂点にある)。小さな半矢 2 枚(薄い色)は、それぞれもとの凧の長さ $\varphi$ の辺に沿っていて、その辺の向こう側のタイルから出る小さな半矢と組になって小さな矢を作る。図 5 で、矢の 2 枚の半矢から出る小さな半凧 2 枚は、先端を共有する小さな凧 1 枚を作り、小さな半矢 2 枚(薄い色)は隣のタイルの半矢と組になる。

長さを数値で確かめる

半凧を座標に置いて lem-pt-deflate (1) の長さを計算すると、$SX=1.0000\ldots$、$XY=0.6180\ldots=\dfrac1\varphi$ となり、補題と一致する。

座標での計算を開く

$\varphi=1.6180\ldots$、$\dfrac1\varphi=0.6180\ldots$ である。lem-pt-deflate (1) の半凧で、$T$ を原点、$I=(0,\varphi)$、$S=(\varphi\sin36^\circ,\varphi\cos36^\circ)=(0.9510\ldots,1.3090\ldots)$ ととると、$X=(0,1)$ である。$Y$ は $T$ から $S$ の向きに距離 $TY=\dfrac1\varphi$ の点なので、$Y=\dfrac1\varphi(\sin36^\circ,\cos36^\circ)=(0.3632\ldots,\,0.5)$ である($y$ 座標は $\dfrac{\cos36^\circ}\varphi=\dfrac12$)。よって

$$SX=\sqrt{0.9510^2+0.3090^2}=1.0000\ldots,\qquad XY=\sqrt{0.3632^2+0.5^2}=0.6180\ldots$$

となり、prf-pt-deflate の段 2・段 3 の値と一致する。

細分した後の小さな凧と矢も、def-pt-tiling の印の規則を満たすように並ぶ。図 6 は、太陽(ex-pt-sun)から細分を 4 回くり返したものである。どの頂点でも印の色がそろい、頂点のまわりのタイルの並び方は 7 種類であることを、コンピュータで確かめた。細分がいつでも印の規則を保つことは、この記事では証明しない。
太陽から細分を 4 回くり返した凧(青)と矢(だいだい色)の敷き詰め。薄い色は外周で組になっていない半タイル 太陽から細分を 4 回くり返した凧(青)と矢(だいだい色)の敷き詰め。薄い色は外周で組になっていない半タイル

主定理 2:枚数の比は黄金比に近づく

lem-pt-deflate から、細分をくり返したときの枚数が漸化式で決まる。

細分と半タイルの枚数

有限個の半凧と半矢の集まり(半凧 $a_0$ 枚、半矢 $b_0$ 枚、$a_0+b_0\ge1$)から始めて、すべての半タイルを lem-pt-deflate のとおりに切り分ける操作を $n$ 回くり返したときの、半凧の枚数を $a_n$、半矢の枚数を $b_n$ とする。このとき次が成り立つ。
(1) $a_{n+1}=2a_n+b_n$、$b_{n+1}=a_n+b_n$ である。
(2) $n\ge1$ で $b_n\ge1$ であり、
$$ \left\lvert\frac{a_n}{b_n}-\varphi\right\rvert\le\frac{\lvert a_0-\varphi b_0\rvert}{\varphi^{2n}} $$
が成り立つ。特に $\dfrac{a_n}{b_n}$ は $n\to\infty$ で $\varphi$ に収束する。

黄金比からのずれが毎回 $\frac1{\varphi^2}$ 倍になる

段 1(漸化式)。lem-pt-deflate により、半凧 1 枚は半凧 2 枚と半矢 1 枚に、半矢 1 枚は半凧 1 枚と半矢 1 枚になる。$a_n$ 枚の半凧と $b_n$ 枚の半矢から、半凧は $2a_n+b_n$ 枚、半矢は $a_n+b_n$ 枚できるので、(1) が成り立つ。
段 2($b_n\ge1$)。$b_1=a_0+b_0\ge1$ で、(1) から $b_{n+1}=a_n+b_n\ge b_n$ なので、$n\ge1$ ではいつも $b_n\ge1$ である。
段 3(ずれの漸化式)。$d_n=a_n-\varphi b_n$ とおく。(1) と fml-pt-phi の $2-\varphi=\dfrac1{\varphi^2}$、$1-\varphi=-\dfrac1\varphi$ を使うと
$$ d_{n+1}=(2a_n+b_n)-\varphi(a_n+b_n)=(2-\varphi)a_n+(1-\varphi)b_n=\frac{a_n}{\varphi^2}-\frac{b_n}\varphi=\frac{a_n-\varphi b_n}{\varphi^2}=\frac{d_n}{\varphi^2} $$
である。くり返し使うと $d_n=\dfrac{d_0}{\varphi^{2n}}$ である。
段 4(評価と極限)。$n\ge1$ のとき、段 2 の $b_n\ge1$ を使って
$$ \left\lvert\frac{a_n}{b_n}-\varphi\right\rvert=\frac{\lvert a_n-\varphi b_n\rvert}{b_n}=\frac{\lvert d_n\rvert}{b_n}\le\lvert d_n\rvert=\frac{\lvert d_0\rvert}{\varphi^{2n}} $$
である。$\varphi^2>1$ なので $0<\dfrac1{\varphi^2}<1$ で、$\left(\dfrac1{\varphi^2}\right)^n\to0$ である(数列の極限)。はさみうちの原理により $\dfrac{a_n}{b_n}\to\varphi$ である。$\square$

太陽から始める

太陽(ex-pt-sun)は凧 5 枚、つまり半凧 $a_0=10$ 枚、半矢 $b_0=0$ 枚である。thm-pt-count (1) で計算すると次の表になる。最後の列は prf-pt-count の段 3 の $d_n=a_n-\varphi b_n$ で、毎回 $\varphi^2=2.618\ldots$ で割られている。

$n$$a_n$$b_n$$\dfrac{a_n}{b_n}$$a_n-\varphi b_n$
$0$$10$$0$—$10$
$1$$20$$10$$2$$3.8196\ldots$
$2$$50$$30$$1.6666\ldots$$1.4589\ldots$
$3$$130$$80$$1.625$$0.5572\ldots$
$4$$340$$210$$1.6190\ldots$$0.2128\ldots$
$5$$890$$550$$1.61818\ldots$$0.0813\ldots$
$6$$2330$$1440$$1.61805\ldots$$0.0310\ldots$

$\dfrac{a_n}{10}$ は $1,2,5,13,34,89,233$、$\dfrac{b_n}{10}$ は $0,1,3,8,21,55,144$ で、Fibonacci 数 $F_0=0$、$F_1=1$、$F_{k+2}=F_{k+1}+F_k$ の 1 つおきの項 $a_n=10F_{2n+1}$、$b_n=10F_{2n}$ になっている。実際、$a_n=10F_{2n+1}$、$b_n=10F_{2n}$ なら
$$ b_{n+1}=a_n+b_n=10\left(F_{2n+1}+F_{2n}\right)=10F_{2n+2},\qquad a_{n+1}=2a_n+b_n=10\left(F_{2n+1}+F_{2n+2}\right)=10F_{2n+3} $$
なので、数学的帰納法で全部の $n$ について成り立つ。$n=6$ の比 $\dfrac{2330}{1440}=\dfrac{233}{144}$ は、Fibonacci 数の隣り合う項の比である(正五角形と黄金比 の例「Fibonacci 数の比」)。

星から始める例と、面積の合計が変わらないことの確かめを開く

星(ex-pt-sun (2))は矢 5 枚なので $(a_0,b_0)=(0,10)$ である。$(10,10)$、$(30,20)$、$(80,50)$、$(210,130)$、$(550,340)$ と進み、比は $1$、$1.5$、$1.6$、$1.6153\ldots$、$1.6176\ldots$ と下から $\varphi$ に近づく。太陽から始めたとき($2$、$1.666\ldots$、$1.625,\dots$)は上から近づいた。$d_0=a_0-\varphi b_0$ が太陽では $10>0$、星では $-10\varphi<0$ で、$d_n=\dfrac{d_0}{\varphi^{2n}}$ の符号が変わらないからである。

面積の確かめ:半凧の面積を $A$ とすると、thm-pt-area より半矢の面積は $\dfrac A\varphi$ である。細分すると長さが $\dfrac1\varphi$ 倍、面積が $\dfrac1{\varphi^2}$ 倍になるので、細分した後の面積の合計は $\dfrac{(2a+b)A+(a+b)\frac A\varphi}{\varphi^2}$ である。$\dfrac1\varphi=\varphi-1$ を使うと分子は $A\left(2a+b+(a+b)(\varphi-1)\right)=A\left(a(1+\varphi)+b\varphi\right)=A\left(a\varphi^2+b\varphi\right)$ で、$\varphi^2$ で割ると $A\left(a+\dfrac b\varphi\right)$、つまり細分する前の面積の合計 $aA+b\dfrac A\varphi$ にもどる。

行列で見る

thm-pt-count (1) は、行列で
$$ \begin{pmatrix}a_{n+1}\\ b_{n+1}\end{pmatrix}=M\begin{pmatrix}a_n\\ b_n\end{pmatrix},\qquad M=\begin{pmatrix}2&1\\ 1&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&1\\ 1&0\end{pmatrix}^2 $$
と書ける(漸化式の行列表示)。$\begin{pmatrix}1&1\\ 1&0\end{pmatrix}$ は Fibonacci 数の漸化式の行列なので、1 回の細分は Fibonacci 数を 2 つ進めることにあたる。$M$ の固有値は $t^2-3t+1=0$ の解 $\dfrac{3\pm\sqrt5}2$、つまり $\varphi^2$ と $\dfrac1{\varphi^2}$ で、$\varphi^2$ の固有ベクトルは $\begin{pmatrix}\varphi\\ 1\end{pmatrix}$ である($M\begin{pmatrix}\varphi\\ 1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}2\varphi+1\\ \varphi+1\end{pmatrix}=\varphi^2\begin{pmatrix}\varphi\\ 1\end{pmatrix}$。$\varphi^3=\varphi\cdot\varphi^2=\varphi^2+\varphi=2\varphi+1$ を使う)。$\begin{pmatrix}a_n\\ b_n\end{pmatrix}$ は大きい方の固有値 $\varphi^2$ の固有ベクトルの向きに近づき、それが比 $\dfrac{a_n}{b_n}\to\varphi$ である。三項間漸化式と行列の固有値 と同じ見方である。

半凧 1 枚から

半凧 1 枚から始めて細分を 4 回くり返したときの半凧と半矢の枚数を求め、比と $\varphi$ の差が thm-pt-count (2) の評価を満たすことを確かめよ。

解答を開く

$(a_0,b_0)=(1,0)$ から $(2,1)$、$(5,3)$、$(13,8)$、$(34,21)$ である。$n=4$ で $\dfrac{34}{21}=1.61904\ldots$、$\left\lvert\dfrac{34}{21}-\varphi\right\rvert=0.00101\ldots$ で、評価の右辺は $\dfrac1{\varphi^8}=0.02128\ldots$ なので満たしている(左辺は右辺を $b_4=21$ で割ったものになっている)。

例と反例

外す条件反例成り立たなくなること
頂点の印をそろえる凧と矢を組んだひし形を平行移動で並べるひし形に組めない(周期的な敷き詰めを防ぐ)
辺の比が $\varphi:1$(角が $36^\circ$ の倍数)2 辺が $2$、底辺が $1$ の二等辺三角形 2 枚で作った凧凧 5 枚の先端が 1 点のまわりに 1 周する
反例:印を無視するとひし形で周期的に敷き詰められる

凧と矢を、長さ $1$ の辺 2 本どうしで貼り合わせる。凧のくぼみ側の頂点の角 $144^\circ$ と、矢のくぼみ側の頂点の角 $216^\circ$ の和は $360^\circ$ なので、すき間なく閉じる。外側に残る辺は凧の長さ $\varphi$ の辺 2 本と矢の長さ $\varphi$ の辺 2 本で、4 辺の長さが等しいので、できた四角形はひし形である。角は凧の先端 $72^\circ$、矢の先端 $72^\circ$、脇の頂点で $72^\circ+36^\circ=108^\circ$ が 2 つである。
ひし形は平行四辺形なので、2 本の辺のベクトルの整数倍だけずらした写しを並べると、平面をすき間なく覆う。こうしてできる敷き詰めは、辺のベクトルの平行移動で自分自身に重なる周期的な敷き詰めで、凧と矢の枚数は $1:1$、比は $1$ であって $\varphi$ ではない(図 8)。
この組み方は def-pt-tiling の印の規則に反する。凧の脇の頂点(黒)に矢の脇の頂点(白)が重なり、凧のくぼみ側の頂点(白)に矢のくぼみ側の頂点(黒)が重なるからである(図 7)。Wei26 も、凧と矢をひし形に組むことを禁じている。

凧と矢を短い辺どうしで合わせるとひし形になるが、矢印で示した 3 か所で印の色が食い違う 凧と矢を短い辺どうしで合わせるとひし形になるが、矢印で示した 3 か所で印の色が食い違う
凧と矢でできたひし形を平行移動で並べた周期的な敷き詰め 凧と矢でできたひし形を平行移動で並べた周期的な敷き詰め
反例:辺の比を変えた凧では太陽ができない

2 辺が $2$、底辺が $1$ の二等辺三角形を 2 枚貼り合わせて、凧に似た四角形を作る。頂角を $\theta$ とすると、頂点から底辺に下ろした垂線で分けた直角三角形から $\sin\dfrac\theta2=\dfrac{1/2}2=\dfrac14$ で、$\dfrac\theta2=14.47\ldots^\circ$、$\theta=28.95\ldots^\circ$ である。先端の角は $2\theta=57.91\ldots^\circ$ で、$5$ 枚では $289.5\ldots^\circ$、$6$ 枚では $347.4\ldots^\circ$ で $360^\circ$ に届かず、$7$ 枚では $405.3\ldots^\circ$ で重なる。先端を 1 点に集めて、すき間も重なりもなく 1 周させることはできない。ex-pt-sun の太陽が作れたのは、凧の先端の角が $72^\circ=\dfrac{360^\circ}5$ だったからである。

大学数学で見る:周期的でないこと

敷き詰めが 周期的 であるとは、$\vec 0$ でない平行移動で敷き詰め全体が自分自身に重なることである。ex-pt-cx-rhombus のひし形の敷き詰めは、向きの違う 2 つの平行移動で重なる周期的な敷き詰めである。

凧と矢は周期的でない敷き詰めしかできない

Wei26 によれば、凧と矢は、Wei26 の色の印を合わせる規則のもとでは、周期的でない敷き詰めしかできない。この記事ではこの事実を証明せず、def-pt-tiling の頂点の印のもとで同じことが成り立つかどうかも扱わない。証明の筋の 1 つは次のとおりである。
もし向きの違う 2 つの平行移動で重なる敷き詰めがあれば、その 2 つの平行移動のベクトルが作る平行四辺形の中のタイルの並びが、平面全体にくり返される。大きな領域の中の凧と矢の枚数の比は、平行四辺形 1 つの中の枚数の比(整数の比、つまり有理数)に近づく。一方で「どの Penrose の敷き詰めでも、大きな領域の中の凧と矢の枚数の比は $\varphi$ に近づく」ことが示せれば、$\varphi$ は有理数でない(prop-pt-irrational)ので矛盾する。thm-pt-count が示したのは、細分をくり返してできる有限の配置での比であって、どの Penrose の敷き詰めでも比が $\varphi$ になることではない。後者と、1 つの向きの平行移動だけで重なる場合の扱いは、この記事では証明しない。

黄金比は無理数

$\varphi=\dfrac{1+\sqrt5}2$ は有理数でない。

$\sqrt5$ の無理性に帰着する

段 1($\sqrt5$ は無理数)。$\sqrt5=\dfrac mn$($m,n$ は正の整数で、公約数は $1$ だけ)と仮定する。$m^2=5n^2$ なので $m^2$ は $5$ の倍数で、$5$ は素数なので $m$ も $5$ の倍数である。$m=5k$ とおくと $25k^2=5n^2$、$n^2=5k^2$ で、同じ理由で $n$ も $5$ の倍数になる。$m$ と $n$ がともに $5$ の倍数になり、公約数が $1$ だけという仮定に反する。よって $\sqrt5$ は無理数である(無理数)。
段 2($\varphi$ は無理数)。$\varphi=\dfrac pq$($p,q$ は整数、$q\ne0$)と仮定すると、$\sqrt5=2\varphi-1=\dfrac{2p-q}q$ は有理数になり、段 1 に反する。$\square$

5 回対称と結晶学的制限

ex-pt-sun の太陽と星は 5 回対称である。平面全体に 2 つの向きでくり返す模様の回転対称は 2 回・3 回・4 回・6 回に限られる(壁紙模様の対称性 の定理「結晶学的制限」)。Penrose の敷き詰めは周期的でないので、この制限を受けない。図 6 のように、5 回対称に近い形があちこちに現れる。

Wei26 は、凧と矢のほかに、太いひし形と細いひし形の 2 種類を使う Penrose のタイルもあり、そちらは印の規則が少し複雑であると述べている。

さらに先へ

  • 立体の話に進む次の記事 Prince Rupertの立方体 では、立方体の断面を座標で調べる。
  • 前の記事 Kürschákのタイル では、2 種類の三角形のタイルの枚数を数えて、正十二角形の面積を求めた。この記事でも、2 種類の三角形(半凧と半矢)の枚数を数えている。
  • 黄金比の性質は 黄金比、Fibonacci 数とその比の極限は Fibonacci数 で扱う。
  • 2 項の漸化式を行列の固有値で解く方法は 三項間漸化式と行列の固有値 にある。

関連項目

参考文献

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