充満忠実関手(∞圏)

概要

充満忠実関手(∞圏)(fully faithful functor of infinity-categories)とは、各写像空間の間に同値を誘導する関手である。ホモトピー圏だけでは不足する理由、米田埋め込み、圏同値と豊穣表示との関係を説明する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 圏, 充満忠実関手, ∞-圏, 関手(∞圏), 写像空間(∞圏)

定義

$\mathcal C,\mathcal D$ を準圏で表示した $(\infty,1)$-圏(∞-圏)とする。関手(関手(∞圏))$F:\mathcal C\to\mathcal D$ は単体的写像である。各二対象の間の写像空間(写像空間(∞圏))$\operatorname{Map}_{\mathcal C}(x,y)$ は、射とそのすべての高次ホモトピーを保持する。右写像空間 $\operatorname{Hom}^R$・左写像空間 $\operatorname{Hom}^L$・円柱モデルのどれで表示してもよく、これらは互いに弱同値である(HTT09 §4.2.1)。

∞圏の充満忠実関手

関手 $F$ が充満忠実であるとは、すべての $x,y\in\mathcal C$ に対して誘導される
$$ \operatorname{Map}_{\mathcal C}(x,y)\longrightarrow \operatorname{Map}_{\mathcal D}(Fx,Fy) $$
が空間の同値であることをいう。

空間の同値は、Kan複体による表示では弱ホモトピー同値として判定できる。すなわち連結成分だけでなく各基点のすべてのホモトピー群を保つ。定義は HTT09 §1.2.10 Definition 1.2.10.1 に対応する。
ホモトピー圏(∞圏のホモトピー圏)$h\mathcal C$ は、射集合を $\pi_0\operatorname{Map}_{\mathcal C}(x,y)$ として得る通常の圏である。$hF$ が通常の意味で充満忠実であるだけでは、上の条件より弱い。

直感

∞圏の充満忠実性は「射のホモトピー類を回復する」だけでなく、「射の変形やその高次の対称性も回復する」ことを意味する。通常の充満忠実関手がHom集合を回復するのに対し、ここでは写像空間全体を回復する。
対象の対応が単射であることは要求しない。また、像の外に対象があることも許される。射の情報の保存と、すべての対象が像に入ることは別条件である。

例

通常の充満忠実関手

通常の関手 $F:A\to B$ について、脈体の写像 $N(F)$ が∞圏の意味で充満忠実であることと、$F$ が通常の意味で充満忠実であることは同値である。脈体の写像空間がHom集合の離散表示になるためである。

充満部分∞圏

$\mathcal D$ の頂点の一部を選び、すべての頂点がその部分に属する単体を集めると、充満部分∞圏を得る。その包含は写像空間を変えないので充満忠実である。

米田埋め込み

小さい $\mathcal C$ に対し、$y(x)=\operatorname{Map}_{\mathcal C}(-,x)$ とする米田埋め込みは、空間の∞圏(空間の∞圏)$\mathcal S$ への前層の∞圏について
$$ \operatorname{Map}_{\mathcal C}(x,y)\simeq \operatorname{Map}_{\operatorname{Fun}(\mathcal C^{\mathrm{op}},\mathcal S)} (y(x),y(y)) $$
を満たし、充満忠実である。これは∞圏の米田の補題(米田の補題(∞圏))の帰結である。HTT09 §5.1.3 Proposition 5.1.3.1。

反例:ホモトピー圏の同値だけでは足りない

基点を選んだ2次元球面のホモトピー型を $X$ とし、関手 $*\to X$ を考える。$X$ は連結かつ単連結なので、$hX$ は終圏と同値であり、$h(*\to X)$ は圏同値になる。
しかし基点の自己写像空間はループ空間 $\Omega X$ であり、$\pi_1(\Omega X)=\pi_2(S^2)\cong\mathbb Z$ を持つ。一点から $\Omega X$ への写像は同値ではないので、元の∞関手は充満忠実ではない。この例では球面の基本的なホモトピー群の計算を用いている。

性質

ホモトピー圏への帰結

充満忠実な $F$ は、ホモトピー圏上で通常の充満忠実関手を誘導する。特に同値射を反映する。HTT09 §1.2.10。

連結成分を取る

写像空間の同値に $\pi_0$ を適用すると、ホモトピー圏のHom集合の全単射を得る。$F(f)$ が同値射なら $hF([f])$ は同型であり、その逆を充満性で持ち上げ、忠実性で逆の等式を反映できる。従って $[f]$ は同型で、$f$ は同値射である。

合成と消去

$F,G$ が充満忠実なら $GF$ もそうである。また $G,GF$ が充満忠実なら $F$ もそうである。

空間の同値の性質

各写像空間で誘導写像は合成される。空間の同値は合成で保たれ、2つの写像の合成と一方が同値ならもう一方も同値であるという性質を持つので、各 $x,y$ で結論が従う。

本質的全射性と圏同値

すべての $d\in\mathcal D$ がある $Fx$ と同値であるとき、$F$ を本質的全射という。$F$ が圏同値(圏同値(∞圏))であることと、充満忠実かつ本質的全射であることは同値である。この判定は 圏同値(∞圏) の記事の定理であり、出典も同記事に記す。
ここで圏同値は、逆向きの関手と、両合成から恒等関手への自然同値(自然変換(∞圏))を持つという意味である。対象数や辺の数の一致を要求する単体的集合の同型より弱い。

豊穣表示との接続

局所Kanな単体的圏(単体的豊穣圏)の間の関手では、Homごとの弱ホモトピー同値がこの充満忠実性を表す。豊穣圏の厳密な充満忠実性ではHom対象の同型を要求するので、両者は区別する。
さらにホモトピー圏上の本質的全射性を加えた条件がDK同値(Dwyer–Kan 同値、DK同値)である。単体的モデル圏のbifibrant部分圏と、単体的局所化の表示を比較するときも、Homを単なる $\pi_0$ へ落とすのでなく、この条件で比較する。HTT09 §§2.2.4–2.2.5。

関連項目

参考文献

[1]
Jacob Lurie, Higher Topos Theory, Annals of Mathematics Studies 170, Princeton University Press, 2009, §§1.2.10, 2.2.4–2.2.5, 4.2.1, 5.1.3; Definition 1.2.10.1; Proposition 5.1.3.1

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