Tsenの定理

同義語:ツェンの定理Tsen's theorem

概要

Tsenの定理(Tsen's theorem)とは、代数閉体 $k$ 上の 1 変数代数関数体 $K$($k$ 上有限生成で超越次数 $1$ の体、たとえば $k(t)$)が $C_1$ 体であること、すなわち次数 $d\ge1$ の斉次多項式は変数の個数が $d$ より多ければ $0$ でない零点をもつ、という定理である。$k(t)$ では解を多項式の形で探して未知数と方程式の個数を比べ、一般の $K$ へはノルムを使って移る。中心斜体の被約ノルムが次数 $n$、変数 $n^2$ 個の斉次多項式であることから、$K$ とその有限次拡大の Brauer 群は $0$ になり、$K$ のコホモロジー次元は $1$ 以下になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 代数閉体, 超越次数, 斉次多項式, 中心単純環

代数閉体 $k$ の上では、変数の個数より少ない個数の斉次方程式はつねに $0$ でない共通の解をもつ。Tsen の定理(Tsen's theorem)は、この性質の「1 段弱い」形が、$k$ 上の 1 変数の代数関数体 $K$(たとえば有理関数体 $k(t)$、代数曲線の関数体)で成り立つことを述べる。すなわち $K$ の上では、次数 $d\ge1$ の斉次多項式は、変数の個数 $n$ が $d$ より大きければ $0$ でない零点をもつ。この性質をもつ体を $C_1$ 体という。
$C_1$ 体の上では、斜体の被約ノルムが「次数 $n$、変数 $n^2$ 個」の斉次多項式になることから、自明でない中心斜体が存在しない。こうして Tsen の定理から、代数閉体上の 1 変数代数関数体の Brauer群 が $0$ であること、さらにその コホモロジー次元 が $1$ 以下であることが従う。この記事では、未知数と方程式の個数を数える議論で定理を証明し、Brauer 群への帰結を導く。

定義

$C_1$ 体

体 $K$ が $C_1$ 体($C_1$ field)、または 準代数閉体(quasi-algebraically closed field)であるとは、$d\ge1$、$n>d$ を満たす任意の整数と、係数が $K$ に属する $n$ 変数の次数 $d$ の任意の斉次多項式 $f\in K[x_1,\dots,x_n]$ について、$f(a)=0$ となる $a\in K^n\setminus\{0\}$ が存在することをいう。

$f$ が零多項式なら条件は自明である。より一般に、正の整数 $r$ について「$n>d^r$ なら $0$ でない零点がある」という条件を $C_r$ という(GS06 Remarks 6.2.2, p. 141)。$r=0$ でも同じ条件を $C_0$ と呼ぶ。$C_0$ 体は代数閉体にほかならない(1 変数多項式を斉次化した 2 変数の斉次多項式の $0$ でない零点から元の多項式の根が得られ、逆に代数閉体の上では、lem-tsen-common-zero を $r=1< M=n$ で使えば $n\ge2$ 変数の正の次数の斉次多項式は $0$ でない零点をもつ)。

1 変数代数関数体

体 $k$ の拡大体 $K$ が $k$ 上有限生成で、超越次数が $1$ であるとき、$K$ を $k$ 上の 1 変数代数関数体という。

$k$ 上の整な代数曲線の 関数体 は、関数体 の記事の定理「次元と超越次数」によりこの意味の 1 変数代数関数体である。有理関数体 $k(t)$ はその最も簡単な例である。

主定理

Tsen の定理

$k$ を代数閉体、$K$ を $k$ 上の 1 変数代数関数体とする。このとき $K$ は $C_1$ 体である。

証明の組み立て

まず有理関数体 $k(t)$ の場合を、多項式の解を探して未知数と方程式の個数を比べることで示し(prop-tsen-rational)、次に $C_1$ 体の有限次拡大が $C_1$ 体であることをノルムで示す(lem-tsen-finite-extension)。$K$ は $k(t)$ の有限次拡大なので、この 2 つを合わせて定理が従う(prf-tsen)。

Brauer 群とコホモロジー次元

thm-tsen の $K$ について、次が成り立つ。

  1. $K$ の任意の有限次拡大体 $L$ について $\operatorname{Br}(L)=0$ である。とくに $K$ 上の中心斜体は $K$ 自身だけである。
  2. $K$ の任意の有限次拡大体 $L$ について、ノルム写像 $N_{L/K}\colon L^\times\to K^\times$ は全射である。
  3. $\operatorname{cd}(K)\le1$ である。

系は thm-tsen と、一般の $C_1$ 体についての thm-tsen-c1-brauer・prop-tsen-norm-surjective から従う(prf-tsen-brauer)。

直感

$K=k(t)$ の場合を考える。係数が $k[t]$ に属する斉次多項式 $f$ の零点を、次数 $N$ 以下の多項式 $x_i=\sum_{j=0}^Na_{ij}t^j$ の形で探す。未知数 $a_{ij}\in k$ は $n(N+1)$ 個ある。一方 $f(x_1,\dots,x_n)$ は $t$ について次数が約 $dN$ の多項式で、その係数がすべて $0$ という方程式は約 $dN$ 個である。$n>d$ なら、$N$ を大きくすると未知数の個数が方程式の個数を上回り、代数閉体 $k$ の上の「方程式より未知数が多い斉次方程式系」になる。これは $0$ でない解をもつ。一般の $K$ は $k(t)$ の有限次拡大なので、ノルムを使って $k(t)$ の場合に帰着させる。

証明

斉次方程式系の共通零点

方程式より未知数が多い斉次方程式系

$k$ を代数閉体、$f_1,\dots,f_r\in k[x_1,\dots,x_M]$ を次数が正の斉次多項式とする。$r< M$ なら、$f_1,\dots,f_r$ は $k^M$ に $0$ でない共通の零点をもつ。

$A=k[x_1,\dots,x_M]$、$\mathfrak{m}=(x_1,\dots,x_M)$、$I=(f_1,\dots,f_r)$ とおく。各 $f_i$ は定数項をもたないので $I\subset\mathfrak{m}$ である。
$I\subset Q\subset\mathfrak{m}$ を満たす素イデアル $Q$ の全体は $\mathfrak{m}$ を含むので空でない。素イデアルの全順序な族の共通部分は素イデアルなので、Zorn の補題により、この全体の中に包含について極小な $\mathfrak{p}$ がある。$I\subset Q'\subset\mathfrak{p}$ となる素イデアル $Q'$ は $\mathfrak{m}$ にも含まれるので $Q'=\mathfrak{p}$ であり、$\mathfrak{p}$ は $I$ の上で極小な素イデアルである。Krullの単項イデアル定理 の記事の定理「Krullの一般高さ定理」により $\operatorname{ht}\mathfrak{p}\le r$ である。一方、同じ記事の節「等号となる例と極小性の必要性」により $\operatorname{ht}\mathfrak{m}=M>r$ なので、$\mathfrak{p}\neq\mathfrak{m}$ である。
$\mathfrak{p}$ の零点集合を $V(\mathfrak{p})\subset k^M$ とする。$\mathfrak{p}\subset\mathfrak{m}$ なので $\mathfrak{p}$ の元はすべて原点で $0$ になり、$0\in V(\mathfrak{p})$ である。Hilbertの零点定理 の記事の定理「Hilbertの零点定理」の 3 により、$V(\mathfrak{p})$ 上で $0$ になる多項式の全体は $\sqrt{\mathfrak{p}}=\mathfrak{p}$ である。もし $V(\mathfrak{p})=\{0\}$ なら、原点で $0$ になる多項式の全体 $\mathfrak{m}$ が $\mathfrak{p}$ に等しくなり、$\mathfrak{p}\neq\mathfrak{m}$ に反する。よって $V(\mathfrak{p})$ は $0$ でない点 $a$ を含む。$I\subset\mathfrak{p}$ なので $f_1(a)=\cdots=f_r(a)=0$ である。$\square$

有理関数体の場合

有理関数体は $C_1$ 体

$k$ を代数閉体とする。有理関数体 $k(t)$ は $C_1$ 体である。

$f\in k(t)[x_1,\dots,x_n]$ を次数 $d\ge1$ の斉次多項式、$n>d$ とする。$f=0$ なら主張は自明なので $f\neq0$ とする。係数の分母の積を掛けても零点は変わらないので、係数はすべて $k[t]$ に属するとしてよい。係数の $t$ についての次数の最大値を $R$ とし、
$$ f=\sum_{|\alpha|=d}c_\alpha(t)\,x^\alpha\qquad(c_\alpha\in k[t],\ \deg c_\alpha\le R) $$
と書く。ここで $\alpha=(\alpha_1,\dots,\alpha_n)$ は和が $d$ の非負整数の組、$x^\alpha=x_1^{\alpha_1}\cdots x_n^{\alpha_n}$ である。
$n(R+1)$ 個の未知数 $a_{ij}$($1\le i\le n$、$0\le j\le R$)を用意し、$x_i=\sum_{j=0}^Ra_{ij}t^j$ とおく。$x^\alpha$ は $x_i$ の $d$ 個の積なので、$t$ について次数 $dR$ 以下であり、$t^l$ の係数は $a_{ij}$ についての次数 $d$ の斉次多項式(または $0$)である。$c_\alpha(t)$ を掛けて足し合わせると
$$ f(x_1,\dots,x_n)=\sum_{l=0}^{(d+1)R}F_l(a)\,t^l $$
となり、各 $F_l$ は $a=(a_{ij})$ についての次数 $d$ の斉次多項式で係数は $k$ に属する(または $F_l=0$)。
方程式 $F_l=0$ の個数は $(d+1)R+1$ 以下であり、未知数の個数は $n(R+1)$ である。$n\ge d+1$ と $d\ge1$ から
$$ n(R+1)\ge(d+1)(R+1)=(d+1)R+d+1>(d+1)R+1 $$
である。$0$ でない $F_l$ だけを集めて lem-tsen-common-zero を使うと(すべて $0$ なら任意の $a$ でよい)、すべての $F_l$ を $0$ にする $a\in k^{n(R+1)}\setminus\{0\}$ が得られる。このとき $x_1,\dots,x_n\in k[t]$ のうち少なくとも 1 つは $0$ でなく、$f(x_1,\dots,x_n)=0$ である。$\square$

有限次拡大への移行

有限次拡大 $L/K$(次数 $e$)と $z\in L$ について、$z$ 倍の写像 $L\to L$ は $K$ 線形であり、その行列式を $N_{L/K}(z)\in K$ と書く(ノルム)。行列式の乗法性から $N_{L/K}(zw)=N_{L/K}(z)N_{L/K}(w)$ であり、$z\neq0$ なら $z$ 倍は可逆なので $N_{L/K}(z)\neq0$ である。$a\in K$ なら $N_{L/K}(a)=a^e$ である。

ノルムを合成した多項式

$L/K$ を次数 $e$ の有限次拡大、$\omega_1,\dots,\omega_e$ をその $K$ 基底、$f\in L[x_1,\dots,x_n]$ を次数 $d$ の斉次多項式とする。変数 $y_{ij}$($1\le i\le n$、$1\le j\le e$)について $x_i=\sum_jy_{ij}\omega_j$ とおくと、$K^{ne}$ 上の関数 $y\mapsto N_{L/K}(f(x_1,\dots,x_n))$ は、$K$ に係数をもつ $y$ の次数 $de$ の斉次多項式(または零多項式)で表される。

$f(\sum_jy_{1j}\omega_j,\dots,\sum_jy_{nj}\omega_j)$ を展開し、$f$ の係数と $\omega_j$ の積を基底 $\omega_1,\dots,\omega_e$ で書き直すと、$\sum_{k=1}^ec_k(y)\,\omega_k$ の形になる。ここで $c_k\in K[y]$ は次数 $d$ の斉次多項式(または $0$)である。$\omega_k$ 倍の写像の行列を $M_k\in M_e(K)$ とすると、$y\in K^{ne}$ での値について $z=f(x)$ 倍の写像の行列は $\sum_kc_k(y)M_k$ であり、その成分は $y$ の次数 $d$ の斉次多項式である。$e$ 次の行列式は成分の $e$ 個の積の和なので、$N_{L/K}(f(x))=\det\bigl(\sum_kc_k(y)M_k\bigr)$ は次数 $de$ の斉次多項式で表される。$\square$

$C_1$ 体の有限次拡大

$K$ が $C_1$ 体なら、$K$ の任意の有限次拡大体 $L$ も $C_1$ 体である。

$e=[L:K]$ とし、$f\in L[x_1,\dots,x_n]$ を次数 $d\ge1$ の斉次多項式、$n>d$ とする。lem-tsen-norm-form により、$g(y):=N_{L/K}(f(x))$ は $ne$ 個の変数 $y_{ij}$ についての次数 $de\ge1$ の斉次多項式で、係数は $K$ に属する。$ne>de$ なので、$K$ が $C_1$ 体であることから $g(y)=0$ となる $y\in K^{ne}\setminus\{0\}$ がある($g$ が零多項式なら任意の $y\neq0$ でよい)。$\omega_j$ は $K$ 上一次独立なので、$x_i=\sum_jy_{ij}\omega_j$ のうち少なくとも 1 つは $0$ でない。$N_{L/K}(f(x))=0$ なので $f(x)=0$ である。$\square$

定理の証明

有理関数体の有限次拡大として

$K$ は $k$ 上超越次数 $1$ なので、$k$ 上超越的な $t\in K$ がある。$k(t)\subset K$ は有理関数体と同型であり、$K$ は $k(t)$ 上代数的である(超越次数が $1$ なので、$K$ の任意の元は $t$ と $k$ 上代数的に従属する)。$K$ は $k$ 上有限生成なので $k(t)$ 上も有限個の代数的な元で生成され、$K/k(t)$ は有限次拡大である。prop-tsen-rational により $k(t)$ は $C_1$ 体であり、lem-tsen-finite-extension により $K$ も $C_1$ 体である。$\square$

$k$ が代数閉体であることは prf-tsen-rational で lem-tsen-common-zero を使うところだけで使われ、$K/k(t)$ が分離的である必要はない。

$C_1$ 体の Brauer 群

この節の主張は $C_1$ 体一般について成り立つ。

ノルム写像の全射性

$K$ を $C_1$ 体、$L/K$ を有限次拡大とすると、$N_{L/K}\colon L^\times\to K^\times$ は全射である。

$e=[L:K]$、$\omega_1,\dots,\omega_e$ を $K$ 基底とし、$a\in K^\times$ とする。lem-tsen-norm-form($n=1$、$f=x_1$)により $N_{L/K}(\sum_jy_j\omega_j)$ は $y_1,\dots,y_e$ の次数 $e$ の斉次多項式なので、
$$ g(y_1,\dots,y_e,z):=N_{L/K}\Bigl(\sum_jy_j\omega_j\Bigr)-a\,z^e $$
は $e+1$ 変数の次数 $e$ の斉次多項式である。$C_1$ 体の定義から $0$ でない零点 $(y,z)$ がある。$z=0$ なら $N_{L/K}(\sum_jy_j\omega_j)=0$ から $\sum_jy_j\omega_j=0$、すなわち $y=0$ となって矛盾するので、$z\neq0$ である。$w:=z^{-1}\sum_jy_j\omega_j$ とおくと $N_{L/K}(w)=z^{-e}N_{L/K}(\sum_jy_j\omega_j)=a$ である。$\square$

$K$ 上の中心単純環 $D$ の次元は平方数 $n^2$ であり(中心単純環 の記事の定理「次元は平方数」)、$n$ を $D$ の次数という。次の補題の多項式 $\operatorname{Nrd}_D$ は $D$ の 被約ノルム(reduced norm)である(GS06 Construction 2.6.1, pp. 37–38、Proposition 2.6.2, p. 38。四元数環 の記事の定義「共役・被約トレース・被約ノルム」は $n=2$ の場合)。

被約ノルムは次数 $n$ の斉次多項式

$D$ を体 $K$ 上の次数 $n$ の中心単純環、$e_1,\dots,e_{n^2}$ をその $K$ 基底とする。$K$ に係数をもつ次数 $n$ の斉次多項式 $\operatorname{Nrd}_D\in K[y_1,\dots,y_{n^2}]$ で、次を満たすものがある:$D$ が斜体なら、すべての $y\in K^{n^2}\setminus\{0\}$ について $\operatorname{Nrd}_D(y)\neq0$。

中心単純環 の記事の定理「分離閉包上の分裂」の 2 により、有限次 Galois 拡大 $E/K$ と $E$ 代数の同型 $\varphi\colon D\otimes_KE\to M_n(E)$ がある。$A_i:=\varphi(e_i\otimes1)\in M_n(E)$ とおき、
$$ P(y):=\det\Bigl(\sum_{i=1}^{n^2}y_iA_i\Bigr)\in E[y_1,\dots,y_{n^2}] $$
と定める。成分が $y$ の 1 次式の $n$ 次行列の行列式なので、$P$ は次数 $n$ の斉次多項式であり、$1\in D$ の座標を代入すると $\det I=1$ になるので $0$ でない。
係数は $K$ に属する。 $\tau\in\operatorname{Gal}(E/K)$ をとり、$\tau$ を $M_n(E)$ には成分ごとに、$D\otimes_KE$ には $1\otimes\tau$ として作用させる。$\varphi^\tau:=\tau\circ\varphi\circ(1\otimes\tau)^{-1}$ は環の同型で、$\lambda\in E$ について $\varphi^\tau(\lambda x)=\tau(\tau^{-1}(\lambda)\varphi((1\otimes\tau)^{-1}x))=\lambda\varphi^\tau(x)$ なので $E$ 代数の同型である。よって $\varphi^\tau\circ\varphi^{-1}$ は $M_n(E)$ の $E$ 代数の自己同型であり、中心単純環 の記事の系「自己同型は内部自己同型」により、ある $h\in\mathrm{GL}_n(E)$ による共役 $X\mapsto hXh^{-1}$ である。$\varphi^\tau(e_i\otimes1)=\tau(A_i)$ なので $\tau(A_i)=hA_ih^{-1}$ である。$P$ の係数に $\tau$ を施した多項式は
$$ \det\Bigl(\sum_iy_i\tau(A_i)\Bigr)=\det\Bigl(h\Bigl(\sum_iy_iA_i\Bigr)h^{-1}\Bigr)=P(y) $$
であり(行列式の乗法性は多項式環 $E[y]$ 上でも成り立つ)、$P$ の係数は $\operatorname{Gal}(E/K)$ のすべての元で固定される。$E/K$ は Galois 拡大なので係数は $K$ に属する。$\operatorname{Nrd}_D:=P$ とおく。
斜体なら $0$ でない元で $0$ にならない。 $y\neq0$ なら $x=\sum_iy_ie_i\neq0$ であり、$D$ が斜体なので $x$ は可逆である。$x\otimes1$ は $D\otimes_KE$ で可逆なので $\varphi(x\otimes1)=\sum_iy_iA_i$ も可逆であり、$P(y)\neq0$ である。$\square$

$C_1$ 体の Brauer 群

$K$ を $C_1$ 体とする。$K$ の任意の有限次拡大体 $L$ について $\operatorname{Br}(L)=0$ である。

lem-tsen-finite-extension により $L$ も $C_1$ 体なので、$C_1$ 体 $K$ について $\operatorname{Br}(K)=0$ を示せばよい。Brauer群 の記事の命題「斜体による代表」により、$\operatorname{Br}(K)$ の各類は $K$ 上の中心斜体 $D$ を含む。$D$ の次数を $n$ とし、$n\ge2$ と仮定する。lem-tsen-reduced-norm の $\operatorname{Nrd}_D$ は $n^2$ 変数の次数 $n$ の斉次多項式で、$n^2>n$ なので $C_1$ 体の定義から $0$ でない零点をもつ。これは $D$ が斜体であることに反する。よって $n=1$、$D=K$ であり、その類は $\operatorname{Br}(K)$ の単位元である。$\square$

定理と命題の組み合わせ

1 と 2 は thm-tsen と thm-tsen-c1-brauer・prop-tsen-norm-surjective から従う。3:素数 $p$ が $K$ の標数と異なるとき、1 によりすべての有限次分離拡大 $L$ で $\operatorname{Br}(L)(p)=0$ なので、コホモロジー次元 の記事の定理「Brauer群による判定」により $\operatorname{cd}_p(K)\le1$ である。$K$ の標数が $p>0$ のとき、同じ記事の定理「標数 $p$ での $p$ 次元」により $\operatorname{cd}_p(K)\le1$ である。よって $\operatorname{cd}(K)\le1$ である。$\square$

一般に、$C_1$ 体の有限次拡大の Brauer 群が $0$ であることと $\operatorname{cd}\le1$ は GS06 Proposition 6.2.3(p. 141)にある。逆に、コホモロジー次元が $1$ でも $C_1$ 体でない体がある(GS06 Remark 6.2.5, p. 142)。

例

有理関数体上の四元数環

$K=\mathbb{C}(t)$ 上の四元数環 $(t,t+1)_K$ のノルム形式は $x^2-ty^2-(t+1)z^2+t(t+1)w^2$ である(四元数環)。$(x,y,z,w)=(1,\sqrt{-1},1,0)$ を代入すると $1+t-(t+1)=0$ なので、これは $0$ でない零点をもつ。四元数環 の記事の定理「分裂の判定」により $(t,t+1)_K\cong M_2(K)$ である。Tsen の定理は、$K$ 上のどの四元数環も(ノルム形式が 4 変数の 2 次形式なので)同じように分裂することを保証する。

円錐曲線の有理点

$K$ を代数閉体 $k$ 上の 1 変数代数関数体とする。$a,b,c\in K^\times$ について、2 次形式 $ax^2+by^2+cz^2$ は 3 変数の 2 次の斉次多項式なので、Tsen の定理により $0$ でない零点をもつ。すなわち $K$ 上の円錐曲線 $ax^2+by^2+cz^2=0$ はつねに $K$ 有理点をもつ。幾何学的には、$K=k(t)$ のとき、射影直線上の円錐曲線の族からなる曲面には、各ファイバーとちょうど 1 点で交わる曲線(切断)があることを意味する(GS06 Remarks 6.2.9 (2), pp. 143–144)。

ほかの $C_1$ 体

有限体は $C_1$ 体である(Chevalley の定理、GS06 Theorem 6.2.6, p. 142)。これと thm-tsen-c1-brauer から有限体の Brauer 群は $0$ であり、有限な斜体は可換であるという Wedderburn の定理が再び得られる(同書 Remark 6.2.7, pp. 142–143)。また代数閉体 $k$ 上の形式的 Laurent 級数体 $k(\!(t)\!)$ も $C_1$ 体である(Lang の定理、同書 Theorem 6.2.11, p. 144)。この記事ではこれらを証明しない。

反例

定理の仮定を 1 つずつ外すと結論が成り立たなくなることを表にまとめる(確認は表の下)。

外す条件反例成り立たなくなること
$k$ が代数閉体であること$K=\mathbb{R}(t)$ と $x^2+y^2+z^2$$C_1$ 体であること、$\operatorname{Br}(K)=0$
超越次数が $1$ であること$K=\mathbb{C}(s,t)$ と $x^2-sy^2-tz^2+stw^2$$C_1$ 体であること、$\operatorname{Br}(K)=0$
変数の個数が次数より大きいこと($n>d$ を $n\ge d$ にする)$K=\mathbb{C}(t)$ と $x^2-ty^2$$0$ でない零点の存在
反例の確認
表の各行の確認を開く

1. $x,y,z\in\mathbb{R}(t)$ が $x^2+y^2+z^2=0$ を満たし、すべてが $0$ ではないとする。分母を払って $x,y,z\in\mathbb{R}[t]$ としてよい。$0$ でないもののうち次数の最大値を $m$ とすると、$x^2+y^2+z^2$ の $t^{2m}$ の係数は、次数 $m$ のものの最高次係数の平方の和で正であり、矛盾する。よって 3 変数の 2 次形式 $x^2+y^2+z^2$ は $0$ でない零点をもたず、$\mathbb{R}(t)$ は $C_1$ 体でない。同じ議論で $(-1,-1)_{\mathbb{R}(t)}$ のノルム形式 $x^2+y^2+z^2+w^2$ も $0$ でない零点をもたないので、四元数環 の記事の定理「分裂の判定」により $(-1,-1)_{\mathbb{R}(t)}$ は斜体であり、$\operatorname{Br}(\mathbb{R}(t))\neq0$ である。$\mathbb{R}(t)$ は $\mathbb{R}$ 上の 1 変数代数関数体だが、$\mathbb{R}$ は代数閉体でない。

2. $K_0=\mathbb{C}(s)$ とし、$K=K_0(t)$ とみる。$s$ は $K_0$ で平方でない($s=(u/v)^2$、$u,v\in\mathbb{C}[s]$ なら $sv^2=u^2$ の両辺の次数の偶奇が合わない)。$x^2-sy^2=t(z^2-sw^2)$ が $0$ でない解をもつとする。分母を払い、共通の $t$ の冪で割って、$x,y,z,w\in K_0[t]$ のうち少なくとも 1 つは $t$ で割り切れないとしてよい。$t=0$ を代入すると $x(0)^2=s\,y(0)^2$ なので $x(0)=y(0)=0$、すなわち $x=tx_1$、$y=ty_1$ と書ける。代入して $t$ で割ると $z^2-sw^2=t(x_1^2-sy_1^2)$ となり、同様に $z(0)=w(0)=0$ である。よって 4 つとも $t$ で割り切れ、矛盾する。したがって 4 変数の 2 次形式 $x^2-sy^2-tz^2+stw^2$ は $0$ でない零点をもたず、$K$ は $C_1$ 体でない。これは四元数環 $(s,t)_K$ のノルム形式なので、四元数環 の記事の定理「分裂の判定」により $(s,t)_K$ は斜体であり、$\operatorname{Br}(K)\neq0$ である。$K$ は $\mathbb{C}$ 上有限生成で超越次数が $2$ である。

3. $x^2=ty^2$、$(x,y)\neq(0,0)$ なら $y\neq0$ であり、$t=(x/y)^2$ となる。$t$ は $\mathbb{C}(t)$ で平方でない(2 と同じ次数の偶奇の議論)ので矛盾する。2 変数の 2 次形式なので $n=d$ の場合にあたり、$n>d$ という条件は $n\ge d$ に弱められない。

関連項目

参考文献

[1]
Philippe Gille, Tamás Szamuely, Central Simple Algebras and Galois Cohomology, Cambridge Studies in Advanced Mathematics 101, Cambridge University Press, 2006, Construction 2.6.1・Proposition 2.6.2(pp. 37–38)、§6.2:Definition 6.2.1(p. 140)、Remarks 6.2.2・Proposition 6.2.3・Lemma 6.2.4(p. 141)、Remark 6.2.5・Theorem 6.2.6(p. 142)、Remark 6.2.7(pp. 142–143)、Theorem 6.2.8(p. 143)、Remarks 6.2.9(pp. 143–144)、Theorem 6.2.11(p. 144)

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