チェックディジット(check digit)とは、数字の列の最後に付ける検査のための 1 桁で、各桁に重みを掛けた和が法 $n$ で $0$ と合同になるように決め、番号の誤りは、誤りによる和の変化が $n$ で割り切れないときに見つかる。ISBN-10(重み $10,9,\dots,1$、法 $11$、最後の桁の $10$ は $\mathrm{X}$ と書く)では、11 が素数なので、1 桁の誤りと 2 つの異なる数字の入れ替え(隣り合わなくてもよい)は必ず見つかる。ISBN-13(重み $1,3,1,3,\dots$、法 $10$)では、1 桁の誤りは必ず見つかるが、隣り合う 2 つの異なる数字 $a,b$ の入れ替えは $\lvert a-b\rvert=5$ のときに限って見つからない。どちらの方式でも、見つからない 2 か所の誤りがある。
前提知識: 合同式の計算規則, 合同式の割り算と逆元
本には ISBN という番号がついていて、本を注文するときや図書館で探すときに使われる。番号を手で書き写したりキーボードで打ったりすると、1 桁を打ち間違えたり、隣り合う 2 つの数字を逆に打ったりすることがある。ISBN には、そのような間違いを見つけるための仕掛けがある。最後の 1 桁が、ほかの桁から計算で決まる 検査のための数字 になっているのである。
曜日の計算 では、日付の各部分に決まった数を掛けて足し、7 で割った余りを見た。ここでも同じように、各桁に重みを掛けて足し、ある数で割った余りを見る。
ある数学書の奥付には、10 桁の ISBN として 0-521-83378-7 が印刷されている(- は区切りで、数としては意味をもたない)。左から順に、桁に重み $10,9,8,\dots,1$ を掛けて足すと
$$
10\cdot0+9\cdot5+8\cdot2+7\cdot1+6\cdot8+5\cdot3+4\cdot3+3\cdot7+2\cdot8+1\cdot7
$$
$$
=0+45+16+7+48+15+12+21+16+7=187=11\cdot17
$$
で、11 で割り切れる(図 1)。10 桁の ISBN は、このように重みつきの和が 11 で割り切れるように作られている。
ISBN-10 の 0-521-83378-7 の 10 桁に、左から重み 10, 9, …, 1 を掛けた表。積の和は 187 で、11 × 17 になる。最後の桁が検査のための数字
どちらの間違いも見つかった。これはたまたまなのか、それとも必ずそうなるのか。この記事では次の問いに答える。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 重みを掛けて足し、余りを見る | 検査の式 | 線形な検査式(法 $n$ での内積) |
| $\gcd(a,n)=1$ なら法 $n$ で割り算できる | 1 桁の誤りが見つかる条件 | 法 $n$ の可逆元 |
| 素数 $p$ が $ab$ を割れば $a$ か $b$ を割る | 入れ替えが見つかる理由 | 体には零因子がない |
| 1 か所変えると必ず式が崩れる | 誤りの検出 | 最小距離 2 の符号 |
正の整数 $n$(法)と整数 $w_1,w_2,\dots,w_k$(重み)を決める。数字の列 $x_1x_2\cdots x_k$ が
$$
w_1x_1+w_2x_2+\cdots+w_kx_k\equiv0\pmod n
$$
をみたすとき、この列を 正しい番号 という。この式を 検査の式 という。最初の $k-1$ 桁を決めたとき、検査の式をみたすように決める最後の 1 桁 $x_k$ を チェックディジット(検査数字)という。
番号の誤りとして、次の 2 種類を考える。
(R1) 1 桁の誤り:ある 1 つの位置の数字が、別の数字に替わる。
(R2) 入れ替え:異なる 2 つの位置の、異なる 2 つの数字が入れ替わる(例:$\cdots18\cdots$ が $\cdots81\cdots$ になる)。2 つの位置が隣り合う場合を 隣り合う入れ替え という。
正しい番号に誤りが起きた列が検査の式をみたさないとき、その誤りは 見つかる という。検査の式をみたしてしまうと、その列も正しい番号に見えるので、誤りは見つからない。条件 (ii) で「異なる 2 つの数字」としたのは、同じ数字どうしを入れ替えても列は変わらず、誤りにならないからである。
誤りが起きると、検査の式の左辺がどれだけ変わるかを見ればよい。位置 $i$ の数字が $x_i$ から $x_i'$ に替わると、左辺は
$$
w_ix_i'-w_ix_i=w_i(x_i'-x_i)
$$
だけ変わる。位置 $i,j$ の数字が入れ替わると、左辺は
$$
(w_ix_j+w_jx_i)-(w_ix_i+w_jx_j)=(w_i-w_j)(x_j-x_i)
$$
だけ変わる(展開して確かめられる)。元の列は検査の式をみたしているので、誤りが見つかるのは、この変化が $n$ で割り切れないときである。
ISBN-10 は 10 桁の番号 $x_1x_2\cdots x_{10}$ で、$x_1,\dots,x_9$ は $0$ から $9$ までの数字、$x_{10}$ は $0$ から $10$ までの数($10$ は X と書く)であり、次の検査の式をみたす。
$$
10x_1+9x_2+8x_3+\cdots+2x_9+1\cdot x_{10}\equiv0\pmod{11}
$$
つまり法は $11$、重みは $w_i=11-i$($i=1,2,\dots,10$)である。
ISBN-10 と次の節の ISBN-13 の検査の式、X の使い方、ISBN-10 から ISBN-13 への書き換えは Wei26 にある。
最初の 9 桁を決めると、$x_{10}$ はただ 1 つに決まる。$S=10x_1+9x_2+\cdots+2x_9$ とおくと、検査の式は $x_{10}\equiv-S\pmod{11}$ で、$0$ 以上 $10$ 以下の整数のうち 11 で割った余りが $-S$ と同じものはちょうど 1 つあるからである。$-S$ を 11 で割った余りが $10$ になることもあるので、最後の桁には $0$ から $9$ の数字のほかに X($10$)が要る。
$n$ を 2 以上の整数、$w$ を $\gcd(w,n)=1$ をみたす整数とする。整数 $e$ が $n$ で割り切れなければ、$we$ も $n$ で割り切れない。
方針:$we\equiv0$ と仮定し、$w$ の逆元を掛けて $e\equiv0$ を導く(背理法)。
$\gcd(w,n)=1$ なので、合同式の割り算と逆元 の定理「逆元をもつ条件」により、$w$ は法 $n$ で逆元 $u$ をもつ。つまり $uw\equiv1\pmod n$ となる整数 $u$ がある。$we\equiv0\pmod n$ だったとすると、両辺に $u$ を掛けて(合同式の計算規則 の定理「和・差・積の合同」)
$$
e\equiv1\cdot e\equiv(uw)e=u(we)\equiv u\cdot0=0\pmod n
$$
となり、$e$ が $n$ で割り切れることになって仮定に反する。よって $we$ は $n$ で割り切れない。$\square$
$n$ が素数 $p$ なら、$p$ で割り切れない $w$ はすべて $\gcd(w,p)=1$ をみたすので、lem-chk-coprime は「$p$ で割り切れない 2 つの数の積は $p$ で割り切れない」と言いかえられる。これは 合同式の割り算と逆元 の系「素数を法とする積が 0 と合同なら」の対偶である。
正しい ISBN-10 に起きた次の誤りは、必ず見つかる。
方針:誤りによる検査の式の左辺の変化を、def-chk-scheme の後で求めた形に書き、それが 11 で割り切れないことを lem-chk-coprime で示す。11 は素数なので、11 で割り切れない数はすべて 11 と互いに素である。
段 1(1 桁の誤り)。位置 $i$ の数が $x_i$ から $x_i'$($x_i'\ne x_i$)に替わると、左辺は $w_i(x_i'-x_i)$ だけ変わる。重み $w_i=11-i$ は $1$ 以上 $10$ 以下なので、11 で割り切れず、11 と互いに素である。また $x_i,x_i'$ はどちらも $0$ 以上 $10$ 以下なので、$e=x_i'-x_i$ は $-10\le e\le10$、$e\ne0$ をみたし、11 で割り切れない。lem-chk-coprime($n=11$、$w=w_i$)により $w_i(x_i'-x_i)$ は 11 で割り切れず、誤りは見つかる。
段 2(入れ替え)。位置 $i< j$ の異なる数 $x_i\ne x_j$ が入れ替わると、左辺は $(w_i-w_j)(x_j-x_i)$ だけ変わる。$w_i-w_j=(11-i)-(11-j)=j-i$ で、$1\le i< j\le10$ から $1\le j-i\le9$ なので、11 と互いに素である。$e=x_j-x_i$ は段 1 と同じく $-10\le e\le10$、$e\ne0$ で、11 で割り切れない。lem-chk-coprime により変化は 11 で割り切れず、誤りは見つかる。$\square$
この性質と、次の主定理 2 の性質は、Wei26 にも述べられている。証明で効いているのは、法 $11$ が素数で、しかも重みとその差($1$ から $10$ まで、$1$ から $9$ まで)と数字の差($-10$ から $10$ まで)がどれも 11 の倍数にならないほど、11 が大きいことである。
隣り合う位置 $i,i+1$ では $w_i-w_{i+1}=1$ なので、入れ替えによる変化は $x_{i+1}-x_i$ である。ex-chk-start の 0-521-83378-7 で、隣り合う 2 桁を入れ替えた 9 通りの変化を並べる。
| 入れ替える位置 | 1・2 | 2・3 | 3・4 | 4・5 | 5・6 | 6・7 | 7・8 | 8・9 | 9・10 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2 つの数字 | 0, 5 | 5, 2 | 2, 1 | 1, 8 | 8, 3 | 3, 3 | 3, 7 | 7, 8 | 8, 7 |
| 和の変化 | $5$ | $-3$ | $-1$ | $7$ | $-5$ | $0$ | $4$ | $1$ | $-1$ |
6・7 桁目は同じ数字 3 なので、入れ替えても番号は変わらず、誤りにならない。それ以外の 8 通りでは変化が 11 で割り切れず、どれも見つかる。4・5 桁目の変化 $7$ は ex-chk-start-errors の (2) と一致する。
0-521-83378-7 の 2 桁目の 5 と 9 桁目の 8 を入れ替えて 0-821-83375-7 とすると、$w_2-w_9=9-2=7$、$x_9-x_2=8-5=3$ なので、和は $7\cdot3=21$ 変わって $208=11\cdot18+10$ になる。11 で割り切れないので見つかる。
ISBN-13 は 13 桁の番号 $x_1x_2\cdots x_{13}$ で、どの桁も $0$ から $9$ までの数字であり、次の検査の式をみたす。
$$
x_1+3x_2+x_3+3x_4+\cdots+3x_{12}+x_{13}\equiv0\pmod{10}
$$
つまり法は $10$、重みは奇数番目の位置で $1$、偶数番目の位置で $3$ である。
ISBN-10 と同じく、最初の 12 桁を決めると $x_{13}$ は $0$ から $9$ の中にただ 1 つに決まる($x_{13}$ の重みは $1$ なので、$x_{13}\equiv-(x_1+3x_2+\cdots+3x_{12})\pmod{10}$)。法が $10$ なので、X は要らない。ISBN-10 の番号に対応する ISBN-13 は、先頭に 978 を付けて最初の 9 桁を続け、チェックディジットを計算し直したものである。
正しい ISBN-13 について、次が成り立つ。
方針:主定理 1 と同じく左辺の変化を調べる。ただし法 $10$ は素数ではないので、重みと 10 が互いに素かどうか、変化が 10 の倍数になるのはどんなときかを、具体的に調べる。
段 1(1 桁の誤り)。位置 $i$ の数字が $x_i$ から $x_i'$ に替わると、左辺は $w_i(x_i'-x_i)$ 変わる。$w_i$ は $1$ か $3$ で、$\gcd(1,10)=\gcd(3,10)=1$ である。$e=x_i'-x_i$ は $-9\le e\le9$、$e\ne0$ なので 10 で割り切れない。lem-chk-coprime($n=10$)により変化は 10 で割り切れず、誤りは見つかる。
段 2(隣り合う入れ替えの変化)。隣り合う位置 $i,i+1$ の重みは $1$ と $3$ か、$3$ と $1$ なので、$w_i-w_{i+1}=\pm2$ である。位置 $i$ の数字を $a$、位置 $i+1$ の数字を $b$($a\ne b$)とすると、入れ替えによる変化は
$$
(w_i-w_{i+1})(b-a)=\pm2(b-a)
$$
である。
段 3(10 で割り切れる条件)。$\pm2(b-a)$ が 10 で割り切れるのは、$2(b-a)=10m$ となる整数 $m$ があるとき、つまり $b-a=5m$ のとき、すなわち $b-a$ が 5 の倍数のときである。$a,b$ は $0$ から $9$ の異なる数字なので $-9\le b-a\le9$、$b-a\ne0$ で、この範囲の 5 の倍数は $\pm5$ だけである。よって、変化が 10 で割り切れる(誤りが見つからない)のは $\lvert a-b\rvert=5$ のときに限り、それ以外では誤りが見つかる。$\square$
段 3 で $2$ を約したところに、法 $10$ が素数でないことが現れている。$2$ は $10$ と互いに素でないので、lem-chk-coprime が使えず、$b-a$ が 10 の倍数でなくても $2(b-a)$ は 10 の倍数になりうる。見つからない隣り合う組 $(a,b)$ は $(0,5),(1,6),(2,7),(3,8),(4,9)$ とその逆の 10 組で、異なる 2 つの数字の並び 90 組のうちの 10 組である(図 2)。
ex-chk-isbn13 の 978-0-521-83378-3 の 4 桁目と 5 桁目は 0 と 5 で、差が 5 である。入れ替えて 978-5-021-83378-3 とすると、和は
$$
9+21+8+15+0+6+1+24+3+9+7+24+3=130
$$
で 10 で割り切れ、誤りは見つからない。変化は $130-120=10$ で、段 2 の $2(b-a)$ の形では、4 桁目の重みが 3、5 桁目の重みが 1 なので $(3-1)(5-0)=10$ である。
一方、7 桁目と 8 桁目の 1 と 8(差 7)を入れ替えた 978-0-528-13378-3 では、変化は $(1-3)(8-1)=-14$ で、和は $106$ になり、見つかる。
隣り合う 2 つの数字 a, b を入れ替えたときに、誤りが見つかるかどうかを表した図。左の ISBN-10(数字 0 から 9 の範囲)ではすべて見つかり、右の ISBN-13 では差が 5 の 10 組(赤)だけ見つからない
ここまでを表にまとめる。比べのために、重みをすべて $1$ にして数字の和を 10 で割った余りを見る方式も並べた(この方式は ex-chk-cx-plain で調べる)。
| 方式 | 法 | 重み | 1 桁の誤り | 隣り合う入れ替え | 重みの異なる離れた入れ替え | 重みの同じ位置の入れ替え |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ISBN-10 | $11$ | $10,9,\dots,1$ | すべて見つかる | すべて見つかる | すべて見つかる | (重みはすべて異なる) |
| ISBN-13 | $10$ | $1,3,1,3,\dots,1$ | すべて見つかる | 差が 5 のときだけ見つからない | 差が 5 のときだけ見つからない | すべて見つからない |
| 数字の和 | $10$ | $1,1,\dots,1$ | すべて見つかる | すべて見つからない | すべて見つからない | すべて見つからない |
ISBN-13 で重みの異なる離れた 2 つの位置(奇数番目と偶数番目)の入れ替えも、変化は $\pm2(b-a)$ なので、段 3 と同じ理由で差が 5 のときだけ見つからない。重みの同じ 2 つの位置(どちらも奇数番目、またはどちらも偶数番目)の入れ替えでは、$w_i-w_j=0$ なので変化は $0$ で、まったく見つからない(ex-chk-cx-same)。
主定理 1・2 は、誤りが 1 つ(1 桁の誤りか、1 回の入れ替え)のときの話である。2 つの桁が同時に替わると、見つからないことがある。これは ISBN の工夫が足りないからではなく、検査のための数字が 1 桁しかないことから必ず起こる。
ISBN-10 でも ISBN-13 でも、どの正しい番号についても、その番号の 2 つの桁を替えて別の正しい番号にする方法がある。つまり、見つからない 2 か所の誤りが必ずある。
方針:最初の桁を替え、チェックディジットを計算し直す。1 桁の誤りが必ず見つかること(主定理 1・2 の 1)を使って、チェックディジットも替わることを示す。
ISBN-10 で考える(ISBN-13 でも同じ)。正しい番号 $x=x_1x_2\cdots x_{10}$ をとり、$x_1$ を別の数字 $x_1'$ に替える。def-chk-isbn10 の後で見たとおり、最初の 9 桁 $x_1'x_2\cdots x_9$ に対してチェックディジット $c$ がただ 1 つ決まり、$x'=x_1'x_2\cdots x_9c$ は正しい番号である。
もし $c=x_{10}$ なら、$x'$ は $x$ と 1 桁目だけが違う正しい番号になる。すると、$x$ に「1 桁目を $x_1'$ にする」という 1 桁の誤りが起きても検査の式がみたされ、誤りが見つからないことになる。これは thm-chk-isbn10 の 1 に反する。よって $c\ne x_{10}$ であり、$x'$ は $x$ と 1 桁目と 10 桁目のちょうど 2 か所が違う正しい番号である。ISBN-13 でも、def-chk-isbn13 の後で見たチェックディジットのただ 1 つの決まり方と thm-chk-isbn13 の 1 を使えば、同じ議論ができる。$\square$
誤り訂正符号 の言葉では、正しい番号どうしの違う桁の個数の最小値(最小距離)が、ISBN-10 でも ISBN-13 でもちょうど $2$ だということである。主定理 1・2 の 1 は「最小距離が $2$ 以上」を、prop-chk-two は「最小距離が $2$ 以下」を述べている。最小距離が 2 の符号は、1 か所の誤りを見つけることはできても、どこが誤りかまでは分からない。
主定理 1・2 の証明で使ったのは、重み $w_i$ と法 $n$ が互いに素であること(1 桁の誤り)と、重みの差 $w_i-w_j$ と法 $n$ が互いに素であること(入れ替え)だった。これらを外すと、誤りを見逃す。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 重みの差 $w_i-w_j$ と法が互いに素(重みをすべて $1$ にすると、差は $0$ になる) | 数字の和を 10 で割る方式:314156 と 134156(ex-chk-cx-plain) | どの入れ替えも見つからない(1 桁の誤りは見つかる) |
| 重み $w_i$ と法が互いに素(法 $10$ で重み $2$ を使う。重みの差 $\pm1$ は 10 と互いに素のまま) | 重み $1,2,1,2,1$、法 $10$:31419 と 36419(ex-chk-cx-weight2) | 重み 2 の位置で、数字が 5 だけ替わる 1 桁の誤りが見つからない |
| 重みの差と法が互いに素(ISBN-13 では隣り合う重みの差 $\pm2$ が 10 と互いに素でない) | 978-0-521-83378-3 と 978-5-021-83378-3(ex-chk-isbn13-swap) | 差が 5 の隣り合う入れ替えが見つからない |
| 重みの差が $0$ でない(ISBN-13 の重みの同じ位置どうし) | 978-0-521-83378-3 と 975-0-821-83378-3(ex-chk-cx-same) | その位置の入れ替えはすべて見つからない |
| 誤りが 1 つだけ(定理の場合分けの外:2 か所の誤り) | 0-521-83378-7 と 0-521-83379-5(ex-chk-two) | 見つからない誤りがある(prop-chk-two) |
重みをすべて $1$、法を $10$ にして、数字の和が 10 で割り切れるように最後の桁を決める方式を考える。31415 に続けて $6$ を付けた 314156 は、和が $3+1+4+1+5+6=20$ で正しい番号である。
(1) 1 桁の誤りは見つかる。重み $1$ は 10 と互いに素なので、lem-chk-coprime が使える。たとえば 3 桁目の 4 を 9 にすると、和は 5 増えて 25 になり、10 で割り切れない。
(2) 入れ替えは見つからない。最初の 2 桁を入れ替えた 134156 も、和は同じ 20 である。足し算は順序によらないので、どこをどう入れ替えても和は変わらない。重みの言葉では $w_i-w_j=1-1=0$ で、変化 $(w_i-w_j)(x_j-x_i)$ がいつも $0$ になる。
和を 9 で割った余りを見ても同じで、倍数の判定法 の定理「各位の数字の和による判定」が示すとおり、数の各位の数字を並べ替えても 9 で割った余りは変わらない。この性質は Kaprekarの操作 で積極的に使う。
法を $10$、重みを $1,2,1,2,1$ とする。3141 に続けて最後の桁 $c$ を、$3+2\cdot1+4+2\cdot1+c=11+c$ が 10 で割り切れるように決めると $c=9$ で、31419 が正しい番号である。
2 桁目(重み $2$)の 1 を 6 に打ち間違えた 36419 では、和は $3+12+4+2+9=30$ で、10 で割り切れる。誤りは見つからない。変化は $2\cdot(6-1)=10$ で、ex-chk-coprime の (2) の $2\cdot5=10$ と同じことが起きている。重み $2$ の位置では、数字が $0\leftrightarrow5$、$1\leftrightarrow6$、$2\leftrightarrow7$、$3\leftrightarrow8$、$4\leftrightarrow9$ と替わる誤りがすべて見逃される。
一方、この方式では隣り合う重みの差が $\pm1$ で 10 と互いに素なので、隣り合う入れ替えはすべて見つかる。1 桁の誤りの検出だけが崩れている。
978-0-521-83378-3 の 3 桁目の 8 と 5 桁目の 5 を入れ替えると 975-0-821-83378-3 になる。3 桁目と 5 桁目の重みはどちらも $1$ なので、和は $120$ のまま変わらず、誤りは見つからない。2 つの数字の差は $3$ で、5 ではない。隣り合わない入れ替えでは、thm-chk-isbn13 の 2 の「差が 5 のときに限る」は成り立たない(定理の 2 は隣り合う入れ替えについての主張である)。
thm-chk-isbn10 の証明の核心は、「11 で割り切れない 2 つの数の積は 11 で割り切れない」ことだった。0 から $p-1$ までの余りの世界(法 $p$ の剰余類)は、$p$ が素数なら、0 以外のどの数でも割り算ができる 体 になっている(合同式の割り算と逆元 の系「素数を法とすると 0 以外は逆元をもつ」)。体では、0 でない数どうしの積は 0 にならない。ISBN-10 が 1 桁の誤りも任意の入れ替えも見つけられるのは、法 11 の世界が体で、しかも 11 が数字の差 $-10,\dots,10$ を 0 にしないほど大きいからである。
法 $10$ の世界では、$2\cdot5=10\equiv0$ のように、0 でない数どうしの積が 0 になることがある(このような数を零因子という)。ISBN-13 が差 5 の入れ替えを見逃すのは、重みの差 $2$ が零因子だからである。法を素数にすれば零因子はなくなるが、ISBN-10 のように 11 を法にすると余りが 11 通りになり、10 進法の 1 桁では書ききれないので X という記号が要る。
誤りが 1 桁で、その位置 $i$ が分かっているときは、正しい数字を 1 通りに決められる。検査の式は $w_ix_i\equiv-(\text{ほかの桁の重みつきの和})$ で、$w_i$ が法と互いに素なら逆元を掛けて $x_i$ が求まるからである(ISBN-10 では $x_i$ は $0$ 以上 $10$ 以下でただ 1 つ、ISBN-13 では $0$ 以上 $9$ 以下でただ 1 つ)。位置が分からないときに誤りを直すには、誤り訂正符号 のように検査のための桁を増やして最小距離を 3 以上にする必要がある。
ISBN-10 の 0-521-8□378-7 の □ が汚れて読めない。□ に入る数字を求めよ。
□ は 6 桁目で、重みは $5$ である。□ を $x$ とすると、和は $0+45+16+7+48+5x+12+21+16+7=172+5x$ で、これが 11 で割り切れればよい。$172=11\cdot15+7$ なので $5x\equiv-7\equiv4\pmod{11}$。$5$ の法 $11$ での逆元は $9$($5\cdot9=45=11\cdot4+1$)なので、$x\equiv9\cdot4=36\equiv3\pmod{11}$。$0\le x\le9$ から $x=3$ で、0-521-83378-7 にもどる。
ISBN-13 で、位置の分かっている 1 桁だけが読めないとき、その数字は $0$ から $9$ の中にただ 1 つに決まることを示せ。
読めない位置を $i$、その数字を $x$、ほかの桁の重みつきの和を $T$ とすると、検査の式は $w_ix+T\equiv0\pmod{10}$ である。$w_i$ は $1$ か $3$ で 10 と互いに素なので、法 $10$ での逆元 $u$($w_i=1$ なら $u=1$、$w_i=3$ なら $u=7$。$3\cdot7=21\equiv1$)がある。両辺に $u$ を掛けると $x\equiv-uT\pmod{10}$ となり、$0$ 以上 $9$ 以下の $x$ はただ 1 つに決まる。2 つの数字 $x,x'$ がともに式をみたすとすると、thm-chk-isbn13 の 1 の証明と同じく $w_i(x-x')\equiv0$ から $x=x'$ となる、と考えてもよい。
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