同値関係(equivalence relation)とは、「等しい」という概念を目的に応じて緩めたもので、反射律・対称律・推移律を満たす二項関係である。同値関係が与えられると、互いに同値な元をひとまとめにした同値類への分割が得られ、「区別しないことにしたものを本当に1つの対象として扱う」商集合の構成が可能になる。合同式・商群・商空間・濃度など、現代数学の至る所に現れる最重要概念の一つである。
集合 $A$ 上の二項関係 $\sim$ が同値関係 (equivalence relation) であるとは、次の3条件が成り立つことをいう。
$\sim$ を $A$ 上の同値関係とする。$a \in A$ に対し
$$
[a] = \{x \in A \mid x \sim a\}
$$
を $a$ の同値類 (equivalence class)、$a$ を $[a]$ の代表元という。同値類全体の集合
$$
A/{\sim} = \{[a] \mid a \in A\}
$$
を $A$ の $\sim$ による商集合という(商集合)。
同値関係とは「この違いは無視する」という宣言の数学的な形である。整数を7で割った余りだけに注目するとき、$3$ と $10$ の違いは無視すると決める——これが合同 $3 \equiv 10 \pmod 7$ である。3つの公理は、「無視の仕方」が破綻しないための最小条件になっている: 自分自身と区別しない(反射)、無視は双方向(対称)、無視のつながりを辿っても矛盾しない(推移)。
そして核心は次の一点にある: 同値関係を与えることと、集合を互いに素な部分に分割することは、完全に同じ情報である(下の性質)。「関係」という動的な見方と「分割」という静的な見方を自由に行き来できることが、この概念の威力の源である。
初学者が誤解しやすい点を挙げる。
整数の組 $(a,b)$($b \neq 0$)の集合上で $(a,b) \sim (c,d) \iff ad = bc$ と定めると同値関係になり、商集合が有理数 $\mathbb{Q}$ の構成を与える。$\frac{1}{2} = \frac{2}{4}$ とは「$(1,2)$ と $(2,4)$ が同じ同値類に属する」ことの略記である。数の体系そのものが商集合として作られる例。
位相空間の点 $x, y$ に対し「$x$ から $y$ への連続な道が存在する」は同値関係であり、その同値類が弧状連結成分である(弧状連結空間)。推移律の証明には道の連結(貼り合わせ)を使う。幾何における「つながり方の分類」も同値関係の言葉で書かれる。
$\mathbb{R}$ 上の関係 $x \sim y \iff |x - y| \le 1$ は反射的・対称的だが推移的でないため、同値関係ではない。これを無理に「分類」に使おうとすると、$0$ と $2$ は直接は似ていないのに $1$ を介して繋がってしまい、すべてが一つの類に潰れる(推移閉包を取ると全関係になる)。「似ている」による分類が本質的に難しい理由がここにある。
集合 $A$ 上の同値関係 $\sim$ に対し、その同値類の全体 $A/{\sim}$ は $A$ の分割(互いに素な空でない部分集合の族で、和が $A$ になるもの)である。逆に、$A$ の任意の分割 $\mathcal{P}$ に対し「同じブロックに属する」という関係は同値関係であり、この2つの対応は互いに逆である。すなわち、$A$ 上の同値関係と $A$ の分割は一対一に対応する。
証明の要点のみ記す(詳細は商集合で扱う): $a \in [a]$(反射律)より各類は空でなく和は $A$ を覆う。$[a] \cap [b] \neq \emptyset$ なら $c \sim a$, $c \sim b$ なる $c$ が取れ、対称律と推移律から $[a] = [b]$。よって異なる類は交わらない。
任意の写像 $f \colon A \to B$ に対し、$a \sim a' \iff f(a) = f(a')$ は $A$ 上の同値関係である($f$ の同値核)。逆に、任意の同値関係は標準射影 $A \to A/{\sim}$ の同値核として得られる。つまり同値関係とは「何かの写像で行き先が同じになること」に他ならない。
$A$ 上の任意の二項関係 $R$ に対し、$R$ を含む最小の同値関係が存在する(反射・対称・推移閉包を順に取ればよい)。貼り合わせによる空間の構成(商位相)や群の表示など、「これとこれを同一視せよ」という指定から出発する構成の基礎である。
同値関係は全分野に現れるが、何を同一視するかが分野の個性そのものである。
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