同値関係

同義語:equivalence relation

概要

同値関係(equivalence relation)とは、「等しい」という概念を目的に応じて緩めたもので、反射律・対称律・推移律を満たす二項関係である。同値関係が与えられると、互いに同値な元をひとまとめにした同値類への分割が得られ、「区別しないことにしたものを本当に1つの対象として扱う」商集合の構成が可能になる。合同式・商群・商空間・濃度など、現代数学の至る所に現れる最重要概念の一つである。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 集合, 二項関係, 直積集合

定義

同値関係

集合 $A$ 上の二項関係 $\sim$ が同値関係 (equivalence relation) であるとは、次の3条件が成り立つことをいう。

  1. 反射律: すべての $a \in A$ で $a \sim a$
  2. 対称律: $a \sim b$ ならば $b \sim a$
  3. 推移律: $a \sim b$ かつ $b \sim c$ ならば $a \sim c$
同値類と商集合

$\sim$ を $A$ 上の同値関係とする。$a \in A$ に対し
$$ [a] = \{x \in A \mid x \sim a\} $$
を $a$ の同値類 (equivalence class)、$a$ を $[a]$ の代表元という。同値類全体の集合
$$ A/{\sim} = \{[a] \mid a \in A\} $$
を $A$ の $\sim$ による商集合という(商集合)。

直感

同値関係とは「この違いは無視する」という宣言の数学的な形である。整数を7で割った余りだけに注目するとき、$3$ と $10$ の違いは無視すると決める——これが合同 $3 \equiv 10 \pmod 7$ である。3つの公理は、「無視の仕方」が破綻しないための最小条件になっている: 自分自身と区別しない(反射)、無視は双方向(対称)、無視のつながりを辿っても矛盾しない(推移)。
そして核心は次の一点にある: 同値関係を与えることと、集合を互いに素な部分に分割することは、完全に同じ情報である(下の性質)。「関係」という動的な見方と「分割」という静的な見方を自由に行き来できることが、この概念の威力の源である。
初学者が誤解しやすい点を挙げる。

  • 推移律は「見た目が近い」関係では簡単に破れる。「差が1以下」という $\mathbb{R}$ 上の関係は反射・対称だが推移的でない($0 \sim 1$, $1 \sim 2$ だが $0 \not\sim 2$)。「似ている」を同値関係にできないことは、分類がしばしば難しいことの原因そのものである。
  • 同値類は元ではなく集合である。$\mathbb{Z}/7\mathbb{Z}$ の元 $[3]$ は「3」ではなく $\{\ldots, -4, 3, 10, \ldots\}$ という無限集合であり、それを1つの対象として扱う、という頭の切り替えが商構成のすべてである。
  • 代表元の取り方によらないこと(well-defined性)の確認が常に必要。商集合上で演算や写像を定義するときは、$[a]=[a']$ なら結果が同じになることを検証しなければならない(well-definedness)。この検証を怠るのが商構成の最も典型的な誤りである。

例

合同式

$n \ge 1$ を固定し、$\mathbb{Z}$ 上で $a \sim b \iff n \mid (a - b)$ と定めると同値関係になる(合同式)。商集合 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ は $n$ 個の同値類からなり、代表元によらずに加法・乗法が定まって剰余群・剰余環になる。同値関係→商→代数構造という流れの原型である。

有理数の構成

整数の組 $(a,b)$($b \neq 0$)の集合上で $(a,b) \sim (c,d) \iff ad = bc$ と定めると同値関係になり、商集合が有理数 $\mathbb{Q}$ の構成を与える。$\frac{1}{2} = \frac{2}{4}$ とは「$(1,2)$ と $(2,4)$ が同じ同値類に属する」ことの略記である。数の体系そのものが商集合として作られる例。

図形の合同・相似、集合の対等

平面図形の合同・相似はそれぞれ同値関係であり、「形の分類」とは商集合を記述することに他ならない。また集合 $A, B$ の間に全単射があるとき $A \sim B$(対等)と定めると、これは同値関係の公理を満たし、その「同値類」の代表として濃度(基数)の概念が生まれる。

道で結べること

位相空間の点 $x, y$ に対し「$x$ から $y$ への連続な道が存在する」は同値関係であり、その同値類が弧状連結成分である(弧状連結空間)。推移律の証明には道の連結(貼り合わせ)を使う。幾何における「つながり方の分類」も同値関係の言葉で書かれる。

非例:推移律の破れ

$\mathbb{R}$ 上の関係 $x \sim y \iff |x - y| \le 1$ は反射的・対称的だが推移的でないため、同値関係ではない。これを無理に「分類」に使おうとすると、$0$ と $2$ は直接は似ていないのに $1$ を介して繋がってしまい、すべてが一つの類に潰れる(推移閉包を取ると全関係になる)。「似ている」による分類が本質的に難しい理由がここにある。

性質

同値関係と分割の対応

集合 $A$ 上の同値関係 $\sim$ に対し、その同値類の全体 $A/{\sim}$ は $A$ の分割(互いに素な空でない部分集合の族で、和が $A$ になるもの)である。逆に、$A$ の任意の分割 $\mathcal{P}$ に対し「同じブロックに属する」という関係は同値関係であり、この2つの対応は互いに逆である。すなわち、$A$ 上の同値関係と $A$ の分割は一対一に対応する。

証明の要点のみ記す(詳細は商集合で扱う): $a \in [a]$(反射律)より各類は空でなく和は $A$ を覆う。$[a] \cap [b] \neq \emptyset$ なら $c \sim a$, $c \sim b$ なる $c$ が取れ、対称律と推移律から $[a] = [b]$。よって異なる類は交わらない。

写像から定まる同値関係

任意の写像 $f \colon A \to B$ に対し、$a \sim a' \iff f(a) = f(a')$ は $A$ 上の同値関係である($f$ の同値核)。逆に、任意の同値関係は標準射影 $A \to A/{\sim}$ の同値核として得られる。つまり同値関係とは「何かの写像で行き先が同じになること」に他ならない。

同値関係の生成

$A$ 上の任意の二項関係 $R$ に対し、$R$ を含む最小の同値関係が存在する(反射・対称・推移閉包を順に取ればよい)。貼り合わせによる空間の構成(商位相)や群の表示など、「これとこれを同一視せよ」という指定から出発する構成の基礎である。

分野ごとの使われ方

同値関係は全分野に現れるが、何を同一視するかが分野の個性そのものである。

  • 代数学: 部分構造による合同(正規部分群・イデアル)が同値関係を定め、剰余群・剰余環が生まれる。「準同型定理」とは、同値核(上のprop)と商構成の対応を構造つきで述べたものであり、代数の商構成はすべてこの一つの型に載っている。
  • 幾何学: 点の同一視による商位相(貼り合わせ・軌道空間)と、写像や空間そのものを同一視するホモトピーの2階建てで使われる。「トーラスとは正方形の辺の同一視」のように、対象の構成法としての同値関係が主役。
  • 解析学: 「ほとんど至る所等しい」(ほとんど至るところ)が基本の同値関係で、$L^p$ 空間の元は関数ではなく関数の同値類である。これを意識しないと「$L^2$ の元の1点での値」のような無意味な問いに陥る。
  • 数論: 合同式がそのまま主役。さらにイデアル類群(イデアル類群)のように「どれだけ単項イデアルから離れているか」を測る同値類が深い不変量になる。
  • 数理論理学・基礎論: 商構成そのものが道具になる(Lindenbaum代数、超積のためのフィルターによる同一視、Cantorの対角線論法と並ぶ構成技法)。
  • 圏論の視点: 同値関係で割る操作はコイコライザの特別な場合であり、「同型な対象を区別しない」という圏論の作法(骨格・圏同値)は同値関係の思想の圏レベルへの持ち上げである。
    進む分野を問わず、「商を取ったらwell-definedを確認する」という一手だけは共通の必須動作である(証明技法カタログ「同値関係で割ってwell-definedに持ち込む論法」参照)。

関連項目

参考文献

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