Weil対

同義語:Weil pairingWeilペアリング

概要

Weil対(Weil pairing)とは、体 $K$ 上の楕円曲線 $E$ と標数で割れない整数 $n$ に対し、$n$ 等分点の群 $E[n]$ の 2 点に 1 の $n$ 乗根を対応させる写像 $e_n\colon E[n]\times E[n]\to\mu_n$ で、$E$ 上の有理関数の因子を使って定義される。$e_n$ は双線型で交代的、非退化であり、絶対 Galois 群の作用と両立する。帰結として、$E[n]$ の点がすべて $K$ 有理なら $K$ は 1 の $n$ 乗根をすべて含み、$E[n]$ の Galois 表現の行列式は円分指標に等しい。アーベル多様体 $A$ では、$A[n]$ と双対アーベル多様体の $A^\vee[n]$ の間の Cartier 双対による対として定める。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 楕円曲線, 因子, 1の冪根, 固定体, 絶対Galois群

楕円曲線 $E$ の $n$ 等分点のなす群 $E[n]$ は、$n$ が標数と素なら $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^2$ と同型である。階数 $2$ の自由 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ 加群には行列式という交代的な対があるが、基底を選ばないと定まらず、Galois 群の作用とも両立しない。そこで値を $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ ではなく 1 の $n$ 乗根の群 $\mu_n$ にとり、$E$ の上の有理関数だけを使って内在的に作ったものが Weil 対(Weil pairing)
$$ e_n\colon E[n]\times E[n]\to\mu_n $$
である。Weil 対は双線型で交代的、非退化で、Galois 群の作用と両立する。基底を選べば $e_n$ は「$\zeta^{\det}$」($\zeta$ は原始 $n$ 乗根)の形になり、行列式を Galois 同変に書き直したものとみなせる。
以下では楕円曲線の Weil 対を関数の因子で定義して 4 つの基本性質を証明し、帰結として「$E[n]$ の点がすべて $K$ 有理なら $\mu_n\subset K$」と「$E[n]$ の Galois 表現の行列式は円分指標」を示す。最後にアーベル多様体の場合を述べる。

設定と記号

$K$ を体、$\bar K$ をその代数閉包、$p$ を $K$ の標数(標数 $0$ なら $p=0$)とし、$n\ge1$ を $p$ で割れない整数とする。$\mu_n:=\{\zeta\in\bar K\mid\zeta^n=1\}$ は位数 $n$ の巡回群である(1の冪根)。
$E$ を $K$ 上の楕円曲線、$O$ を原点とし、点はすべて $E(\bar K)$ の点とする。$E[n]:=\{P\in E(\bar K)\mid nP=O\}$ とおき、$[n]\colon E\to E$ を $n$ 倍写像、$\tau_Q\colon X\mapsto X+Q$ を $Q$ による平行移動とする。$\bar K(E)$ を $E$ の $\bar K$ 上の関数体とし、$0$ でない $\phi\in\bar K(E)$ の因子を $\operatorname{div}(\phi)=\sum_P\operatorname{ord}_P(\phi)\,(P)$ と書く(因子)。射 $\psi\colon E\to E$ に対し $\phi\circ\psi$ は $\psi$ による引き戻しである。
$\sigma\in G_K:=\operatorname{Gal}(\bar K/K)$(絶対Galois群)は点の座標に作用し、また $\bar K(E)$ の元に対しては係数に作用して $\phi^\sigma$ を定める。$E$ と加法は $K$ 上で定義されているので、定義から
$$ \phi^\sigma(P^\sigma)=\phi(P)^\sigma,\qquad(P+Q)^\sigma=P^\sigma+Q^\sigma,\qquad(\phi\circ\tau_Q)^\sigma=\phi^\sigma\circ\tau_{Q^\sigma},\qquad(\phi\circ[n])^\sigma=\phi^\sigma\circ[n] $$
が成り立ち、$\operatorname{div}(\phi^\sigma)=\sum_P\operatorname{ord}_P(\phi)\,(P^\sigma)$ である。
楕円曲線について、次の事実を使う。

  • 主因子の判定:因子 $D=\sum_Pn_P(P)$ が主因子であるための必要十分条件は、$\sum_Pn_P=0$ かつ $E$ の加法で $\sum_P[n_P]P=O$ となることである(Sil09 III.3.5, p. 63)。これは 楕円曲線 の定理「群構造と因子類群」の写像 $\kappa$ が単射な準同型であることの言い換えである。
  • 捩れ点と次数:$[n]$ は次数 $n^2$ の同種写像で、$\#E[n]=n^2$、$E[n]\cong(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^2$ である(楕円曲線 の定理「$n$ 捩れ点の構造」、Sil09 III.6.4, p. 86)。ここで次数は関数体の拡大次数 $[\bar K(E):[n]^*\bar K(E)]$ であり、$[n]^*\bar K(E):=\{\phi\circ[n]\mid\phi\in\bar K(E)\}$ である。
  • 不分岐性:$[n]$ の分岐指数はどの点でも $1$ である。楕円曲線 の同じ定理の証明のとおり、$[n]\circ\tau_X=\tau_{nX}\circ[n]$ から分岐指数 $e_{[n]}$ はどの点でも等しく、$O$ の上で分岐指数を足すと次数になる(Sil09 II.2.6(a), p. 23)ので $n^2=e_{[n]}\cdot\#E[n]=e_{[n]}\,n^2$ である。
    これらは $p$ で割れない任意の整数について成り立つ。因子の引き戻しを $[n]^*(Q):=\sum_{nX=Q}(X)$ と定め、線型に延ばす。$nX$ での一意化元 $t$ を使って $\phi=u\,t^{\,v}$($u$ は単元)と書くと、不分岐性から $t\circ[n]$ は $X$ での一意化元なので $\operatorname{ord}_X(\phi\circ[n])=\operatorname{ord}_{nX}(\phi)$ である。よって次の引き戻しの公式が成り立つ。
    $$ \operatorname{div}(\phi\circ[n])=[n]^*\operatorname{div}(\phi)\qquad(\phi\in\bar K(E)^\times) $$

定義

Weil対を作る関数

$T\in E[n]$ とし、$nT'=T$ を満たす点 $T'$ を 1 つとる。

  1. $D_T:=[n]^*\bigl((T)-(O)\bigr)=\sum_{R\in E[n]}\bigl((T'+R)-(R)\bigr)$ は主因子である。
  2. $\operatorname{div}(f_T)=n(T)-n(O)$ を満たす $f_T$ と $\operatorname{div}(g_T)=D_T$ を満たす $g_T$ が存在し、$f_T$ を定数倍して $f_T\circ[n]=g_T^{\,n}$ とできる。

$nX=T$ となる $X$ の全体は $T'+E[n]$ なので、$D_T$ の 2 つの表示は一致する。$D_T$ の次数は $0$ であり、点の和は $\sum_R(T'+R)-\sum_RR=[n^2]T'=[n]T=O$ である($\#E[n]=n^2$)。主因子の判定により $D_T$ は主因子である。$n(T)-n(O)$ も次数 $0$ で点の和が $nT=O$ だから主因子であり、$f_T$ がとれる。引き戻しの公式により $\operatorname{div}(f_T\circ[n])=n\,[n]^*\bigl((T)-(O)\bigr)=n\,D_T=\operatorname{div}(g_T^{\,n})$ なので、$f_T\circ[n]=\lambda\,g_T^{\,n}$($\lambda\in\bar K^\times$)であり、$f_T$ を $\lambda^{-1}f_T$ に替えればよい。$\square$

$S\in E[n]$ とすると $[n]\circ\tau_S=\tau_{nS}\circ[n]=[n]$ なので、
$$ (g_T\circ\tau_S)^n=f_T\circ[n]\circ\tau_S=f_T\circ[n]=g_T^{\,n} $$
である。よって $\rho:=(g_T\circ\tau_S)/g_T\in\bar K(E)$ は $\rho^n=1$ を満たす。体 $\bar K(E)$ の中で $Z^n-1=\prod_{\zeta\in\mu_n}(Z-\zeta)$ だから、$\rho$ は $\mu_n$ のある元に等しい。

Weil対

$S,T\in E[n]$ に対し、$e_n(S,T)\in\mu_n$ を
$$ g_T\circ\tau_S=e_n(S,T)\cdot g_T,\qquad\text{すなわち}\qquad e_n(S,T)=\frac{g_T(X+S)}{g_T(X)} $$
で定める(右辺は $g_T(X+S)$、$g_T(X)$ がともに定義されて $0$ でない任意の点 $X$ で計算してよい)。$e_n\colon E[n]\times E[n]\to\mu_n$ を $E$ の Weil 対(Weil pairing)という。

$D_T$ は $T'$ の選び方によらず、$g_T$ は $\operatorname{div}(g_T)=D_T$ で定数倍を除いて決まる。定数倍は比で打ち消し、上の議論は $g_T^{\,n}$ が $f_T\circ[n]$ の定数倍であることしか使わないので、$e_n(S,T)$ は選び方によらない。

基本性質

Weil対の基本性質

$S,S_1,S_2,T,T_1,T_2\in E[n]$ とする。

  1. (双線型性)$e_n(S_1+S_2,T)=e_n(S_1,T)\,e_n(S_2,T)$、$e_n(S,T_1+T_2)=e_n(S,T_1)\,e_n(S,T_2)$。
  2. (交代性)$e_n(T,T)=1$。したがって $e_n(S,T)=e_n(T,S)^{-1}$。
  3. (非退化性)すべての $S\in E[n]$ について $e_n(S,T)=1$ なら $T=O$。2 により、すべての $T$ について $e_n(S,T)=1$ なら $S=O$。
  4. (Galois 同変性)$\sigma\in G_K$ について $e_n(S^\sigma,T^\sigma)=e_n(S,T)^\sigma$。
第1成分の双線型性

$\tau_{S_1+S_2}=\tau_{S_2}\circ\tau_{S_1}$ なので、$g:=g_T$ について
$$ g\circ\tau_{S_1+S_2}=(g\circ\tau_{S_2})\circ\tau_{S_1}=e_n(S_2,T)\,(g\circ\tau_{S_1})=e_n(S_2,T)\,e_n(S_1,T)\,g $$
である。$\square$

第2成分の双線型性

$T_3:=T_1+T_2$ とする。因子 $(T_3)-(T_1)-(T_2)+(O)$ は次数 $0$ で点の和が $O$ なので、主因子の判定により $\operatorname{div}(h)=(T_3)-(T_1)-(T_2)+(O)$ となる $h$ がある。$[n]^*$ は線型なので
$$ D_{T_3}-D_{T_1}-D_{T_2}=[n]^*\bigl((T_3)-(T_1)-(T_2)+(O)\bigr)=\operatorname{div}(h\circ[n]) $$
であり(引き戻しの公式)、$g_{T_3}=\lambda\,g_{T_1}g_{T_2}\,(h\circ[n])$($\lambda\in\bar K^\times$)である。$S\in E[n]$ なら $h\circ[n]\circ\tau_S=h\circ[n]$ なので、両辺を $\tau_S$ で引き戻して比をとると $e_n(S,T_3)=e_n(S,T_1)\,e_n(S,T_2)$ を得る。$\square$

交代性

$f:=f_T$、$g:=g_T$ とし、$nT'=T$ とする。$f\circ\tau_{iT}$ は $(1-i)T$ に $n$ 位の零点、$-iT$ に $n$ 位の極をもつので、
$$ \operatorname{div}\Bigl(\prod_{i=0}^{n-1}f\circ\tau_{iT}\Bigr)=n\sum_{i=0}^{n-1}\bigl(((1-i)T)-((-i)T)\bigr)=n\bigl((T)-((1-n)T)\bigr)=0 $$
である($nT=O$ より $(1-n)T=T$)。よって $F:=\prod_if\circ\tau_{iT}$ は定数である。次に $G:=\prod_{i=0}^{n-1}g\circ\tau_{iT'}$ とおく。$[n]\circ\tau_{iT'}=\tau_{iT}\circ[n]$ だから
$$ G^n=\prod_{i=0}^{n-1}f\circ[n]\circ\tau_{iT'}=\prod_{i=0}^{n-1}f\circ\tau_{iT}\circ[n]=F\circ[n] $$
は定数 $\lambda$ であり、$G$ は $Z^n-\lambda$ の根なので $\bar K$ に属する定数である。$G\circ\tau_{T'}=G$ を書き下すと
$$ \prod_{i=1}^{n}g\circ\tau_{iT'}=\prod_{i=0}^{n-1}g\circ\tau_{iT'} $$
であり、両辺から $i=1,\dots,n-1$ の因子を約すと $g\circ\tau_{nT'}=g$、すなわち $g\circ\tau_T=g$ を得る。よって $e_n(T,T)=1$ である。後半は、1 により $1=e_n(S+T,S+T)=e_n(S,S)\,e_n(S,T)\,e_n(T,S)\,e_n(T,T)=e_n(S,T)\,e_n(T,S)$ となることによる。$\square$

非退化性

$L:=\bar K(E)$、$L_n:=[n]^*L$ とおく。$Q\in E[n]$ に対し $\tau_Q^*\colon\phi\mapsto\phi\circ\tau_Q$ は $L$ の $\bar K$ 上の自己同型で、$[n]\circ\tau_Q=[n]$ より $L_n$ を固定する。$\tau_{Q+Q'}^*=\tau_Q^*\circ\tau_{Q'}^*$ なので、$H:=\{\tau_Q^*\mid Q\in E[n]\}$ は $\operatorname{Aut}(L)$ の部分群である。$Q\neq O$ なら $\tau_Q^*\neq\mathrm{id}$ である。実際、$O$ にだけ極をもつ定数でない関数 $\phi$(たとえば Weierstrass 座標 $x$)をとると、$\phi\circ\tau_Q$ は $-Q\neq O$ に極をもつので $\phi\circ\tau_Q\neq\phi$ である。したがって $|H|=\#E[n]=n^2$ であり、$L_n\subset L^H$ かつ $[L:L_n]=\deg[n]=n^2=|H|$ である。固定体 の系「有限群の固定体の判定」の (i) により $L_n=L^H$ である。
いま、すべての $S\in E[n]$ について $e_n(S,T)=1$ とする。これは $g_T\circ\tau_S=g_T$、すなわち $g_T\in L^H=L_n$ を意味するので、$g_T=h\circ[n]$ となる $h\in L$ がある。すると $h^n\circ[n]=g_T^{\,n}=f_T\circ[n]$ であり、$\phi\mapsto\phi\circ[n]$ は体の準同型として単射だから $h^n=f_T$ である。よって $n\operatorname{div}(h)=n(T)-n(O)$、$\operatorname{div}(h)=(T)-(O)$ であり、主因子の判定(点の和は $T$)から $T=O$ である。$\square$

Galois同変性

$\sigma\in G_K$ とする。$T'^\sigma$ は $n\,T'^\sigma=T^\sigma$ を満たし、$R$ が $E[n]$ を動くとき $R^\sigma$ も $E[n]$ を動くので、$\operatorname{div}(g_T^\sigma)=\sum_R\bigl((T'^\sigma+R^\sigma)-(R^\sigma)\bigr)=D_{T^\sigma}$ である。よって $g_T^\sigma$ は $T^\sigma$ に対する $g_{T^\sigma}$ としてとれる。$g_T\circ\tau_S=e_n(S,T)\,g_T$ の両辺に $\sigma$ を施すと $g_T^\sigma\circ\tau_{S^\sigma}=e_n(S,T)^\sigma\,g_T^\sigma$ となり、$e_n(S^\sigma,T^\sigma)=e_n(S,T)^\sigma$ を得る。$\square$

基底による表示と全射性

基底による表示

$\{T_1,T_2\}$ を $E[n]\cong(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^2$ の基底とし、$\zeta:=e_n(T_1,T_2)$ とおく。このとき $\zeta$ は 1 の原始 $n$ 乗根であり、
$$ e_n(aT_1+bT_2,\ cT_1+dT_2)=\zeta^{\,ad-bc}\qquad(a,b,c,d\in\mathbb{Z}) $$
である。特に $e_n$ の値は $\mu_n$ 全体を動く。

双線型性と交代性($e_n(T_i,T_i)=1$、$e_n(T_2,T_1)=\zeta^{-1}$)を展開すると表示を得る。$\zeta$ の位数を $\nu$ とすると、表示からすべての $S,T$ について $e_n(S,\nu T)=e_n(S,T)^\nu=1$ であり、非退化性により $\nu T=O$ がすべての $T\in E[n]$ で成り立つ。$T_1$ の位数は $n$ なので $n\mid\nu$、よって $\nu=n$ である。$\square$

1 の冪根の有理性

$E[n]\subset E(K)$ ならば $\mu_n\subset K$ である。

prop-weil-pairing-basis の $\zeta=e_n(T_1,T_2)$ は原始 $n$ 乗根である。$T_1,T_2$ は $K$ 有理なので、Galois 同変性によりすべての $\sigma\in G_K$ について $\zeta^\sigma=e_n(T_1^\sigma,T_2^\sigma)=\zeta$ である。$\zeta$ は $p\nmid n$ より $K$ 上分離的な元($Z^n-1$ は重根をもたない)で、$\operatorname{Gal}(\bar K/K)$ のすべての元で固定されるので $K$ に属する。$\mu_n$ は $\zeta$ で生成されるので $\mu_n\subset K$ である。$\square$

Galois表現の行列式

$E[n]$ の基底 $\{T_1,T_2\}$ を固定し、$\sigma\in G_K$ の作用を行列 $\rho_n(\sigma)\in\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$ で表す($T_j^\sigma=\sum_i\rho_n(\sigma)_{ij}T_i$)。$\chi_n(\sigma)\in(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times$ を $\zeta^\sigma=\zeta^{\chi_n(\sigma)}$($\zeta\in\mu_n$)で定めると、
$$ \det\rho_n(\sigma)=\chi_n(\sigma) $$
である。

$\zeta:=e_n(T_1,T_2)$ は原始 $n$ 乗根である。$T_1^\sigma=aT_1+cT_2$、$T_2^\sigma=bT_1+dT_2$ と書くと $\rho_n(\sigma)=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}$ であり、prop-weil-pairing-basis と Galois 同変性から $\zeta^{ad-bc}=e_n(T_1^\sigma,T_2^\sigma)=\zeta^\sigma=\zeta^{\chi_n(\sigma)}$ である。$\zeta$ の位数は $n$ なので $ad-bc\equiv\chi_n(\sigma)\pmod n$ である。$\square$

すなわち、$E[n]$ の Galois 表現(Galois表現)の行列式は、1 の $n$ 乗根への作用を表す円分指標に等しい。たとえば $K=\mathbb{Q}$ では $\chi_n$ は $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times$ への全射なので(円分体)、$n\ge3$ なら $\rho_n$ の像は $\mathrm{SL}_2(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})$ に含まれない。

異なる $n$ の間の両立性

両立性

$m\ge1$ を $p$ で割れない整数とする。$S\in E[mn]$、$T\in E[n]$ について $e_{mn}(S,T)=e_n(mS,T)$ である。

$[mn]^*=[m]^*\circ[n]^*$(因子の引き戻し)なので、引き戻しの公式を $[m]$ に当てると $[mn]^*\bigl((T)-(O)\bigr)=[m]^*D_T=\operatorname{div}(g_T\circ[m])$ である。よって $e_{mn}$ の定義で $T$ に対する関数として $g_T\circ[m]$ がとれる($(g_T\circ[m])^{mn}=(f_T^{\,m})\circ[mn]$ で、$\operatorname{div}(f_T^{\,m})=mn(T)-mn(O)$)。$[m]\circ\tau_S=\tau_{mS}\circ[m]$ だから
$$ \frac{(g_T\circ[m])\circ\tau_S}{g_T\circ[m]}=\Bigl(\frac{g_T\circ\tau_{mS}}{g_T}\Bigr)\circ[m]=e_n(mS,T) $$
である。$\square$

Tate加群上のWeil対

$\ell\neq p$ を素数とする。$S,T\in E[\ell^{r+1}]$ について、双線型性と prop-weil-pairing-compatible($m=\ell$、$n=\ell^r$)から $e_{\ell^{r+1}}(S,T)^\ell=e_{\ell^{r+1}}(S,\ell T)=e_{\ell^r}(\ell S,\ell T)$ である。したがって $e_{\ell^r}$ は $\ell$ 倍写像 $E[\ell^{r+1}]\to E[\ell^r]$ と $\ell$ 乗写像 $\mu_{\ell^{r+1}}\to\mu_{\ell^r}$ に関して両立し、射影極限をとると Tate加群 の上の対
$$ e_\ell\colon T_\ell(E)\times T_\ell(E)\to\mathbb{Z}_\ell(1):=\varprojlim_r\mu_{\ell^r} $$
が得られる(Tate捻り)。$e_\ell$ は双線型・交代的・非退化・Galois 同変である(Sil09 III.8.3, p. 98)。

例と反例

2等分点の場合

$K$ の標数を $2$ 以外とし、$E\colon y^2=(x-\alpha_1)(x-\alpha_2)(x-\alpha_3)$($\alpha_i$ は相異なる)とすると、$E[2]=\{O,P_1,P_2,P_3\}$、$P_i=(\alpha_i,0)$ である。$\{P_1,P_2\}$ は基底で $P_3=P_1+P_2$ なので、prop-weil-pairing-basis($\zeta=-1$)により $e_2(P_i,P_i)=1$、相異なる $i,j$ について $e_2(P_i,P_j)=-1$ である。

有理数体と有限体の上の等分点

$K=\mathbb{Q}$ のとき、$\mathbb{Q}$ に含まれる 1 の冪根は $\pm1$ だけなので、cor-weil-pairing-roots-of-unity により $E[n]\subset E(\mathbb{Q})$ となるのは $n\le2$ に限られる。$n=2$ は実際に起こる。$E\colon y^2=x^3-x=x(x-1)(x+1)$ の 2 等分点 $(0,0)$、$(\pm1,0)$ はすべて有理点である。
$K=\mathbb{F}_q$ で $p\nmid n$ のとき、$\mathbb{F}_q^\times$ は位数 $q-1$ の巡回群なので、$E[n]\subset E(\mathbb{F}_q)$ なら $n\mid q-1$ である。

次の表の各行は、仮定を 1 つだけ外す。

外す条件反例成り立たなくなること
$n$ が標数 $p$ で割れない$K=\mathbb{F}_3$、$E\colon y^2=x^3+x^2+1$、$n=3$。$x^2$ の係数が $1\neq0$ なので $E$ は超特異でなく(Sil09 V.4.1(a), p. 148)、$E[3]\cong\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ である(Sil09 V.3.1(b), p. 145)$\mu_3(\bar K)=\{1\}$ なので $E[3]\times E[3]\to\mu_3$ の対はすべて自明で、非退化な対は存在しない
$E$ が射影的な種数 $1$ の曲線節点をもつ 3 次曲線の滑らかな部分のなす乗法群 $\mathbb{G}_m$(乗法群)で、$\mathbb{G}_m[n]=\mu_n$ は位数 $n$ の巡回群巡回群の上の交代的な双線型形式は $e(aT,bT)=e(T,T)^{ab}=1$ で自明なので、$n\ge2$ なら非退化な交代対は存在しない
cor-weil-pairing-roots-of-unity で $E[n]$ の点が「すべて」$K$ 有理$K=\mathbb{Q}$、$E\colon y^2=x^3+1$、$n=3$。点 $(0,1)$ は位数 $3$ の有理点(接線 $y=1$ が 3 重に接する)$E[3]$ の有理点は一部だけで、$\mu_3\not\subset\mathbb{Q}$

アーベル多様体の Weil 対

$A$ を $K$ 上の $g$ 次元アーベル多様体、$A^\vee$ をその双対アーベル多様体、$A[n]:=\ker n_A$ とし、引き続き $p\nmid n$ とする。双対アーベル多様体 の定理「同種の双対とCartier双対」の 3 により、有限群スキームの標準的な同型 $A^\vee[n]\cong A[n]^D$(Cartier双対)があり、$\bar K$ 有理点の上では
$$ A^\vee[n](\bar K)\cong\operatorname{Hom}\bigl(A[n](\bar K),\mu_n\bigr) $$
となる。

アーベル多様体のWeil対

$a\in A[n](\bar K)$、$\xi\in A^\vee[n](\bar K)$ に対し、上の同型で $\xi$ に対応する準同型 $A[n](\bar K)\to\mu_n$ の $a$ での値を $e_n(a,\xi)$ と書く。$e_n\colon A[n](\bar K)\times A^\vee[n](\bar K)\to\mu_n$ を $A$ の Weil 対という。

アーベル多様体のWeil対の性質

$e_n$ は双線型で、両側で非退化であり、$\sigma\in G_K$ について $e_n(a^\sigma,\xi^\sigma)=e_n(a,\xi)^\sigma$ を満たす。

$a$ について線型なのは $\xi$ に対応するものが準同型だからであり、$\xi$ について線型なのは上の同型が群の同型だからである。$\xi$ の側の非退化性は同型であることによる。$a$ の側:アーベル多様体 の定理「$n$ 倍写像と捩れ点」の 2 により $A[n](\bar K)\cong(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{2g}$ であり、$\mu_n$ は位数 $n$ の巡回群なので、$a\neq0$ なら $a$ で $1$ にならない準同型 $A[n](\bar K)\to\mu_n$ がある(座標成分の 1 つに原始 $n$ 乗根を対応させればよい)。Galois 同変性は、上の同型が $K$ 上の群スキームの同型であり、$\operatorname{Hom}(A[n](\bar K),\mu_n)$ には $(\chi^\sigma)(a):=\chi(a^{\sigma^{-1}})^\sigma$ で作用することによる。$\square$

楕円曲線 $E$ では、双対アーベル多様体 の命題「楕円曲線の自己双対性」により $E^\vee$ を $E$ と同一視でき、この定義も $E[n]\times E[n]\to\mu_n$ の非退化な対を与える。

補足

文献

楕円曲線の Weil 対の定義と基本性質は Sil09 III.8(pp. 92–98)にある:性質は Proposition 8.1(p. 94)、1 の冪根の有理性は Corollary 8.1.1(p. 96)、Tate 加群の対は Proposition 8.3(p. 98)。同種写像 $\phi\colon E_1\to E_2$ と双対同種 $\hat\phi$、$S\in E_1[n]$、$T\in E_2[n]$ について $e_n(S,\hat\phi(T))=e_n(\phi(S),T)$ が成り立つことも同じ節にある(Sil09 III.8.2, p. 97)。

関連項目

参考文献

[1]
Joseph H. Silverman, The Arithmetic of Elliptic Curves, Springer, 2009, II.2.6(a)(p. 23)、III.3.5(p. 63)、III.6.4(p. 86)、III.8(Weil 対、pp. 92–98。Proposition 8.1 p. 94、Corollary 8.1.1 p. 96、Proposition 8.2 p. 97、Proposition 8.3 p. 98)、V.3.1(b)(p. 145)、V.4.1(a)(p. 148)

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