Mengerの定理

同義語:Menger's theoremメンガーの定理

概要

Mengerの定理(Menger's theorem)とは、有限グラフで 2 つの頂点の集合、または 2 頂点を結ぶ互いに交わらない道の最大本数が、両者を切り離すために除く頂点や辺の最小の個数に等しいという定理である。頂点を共有しない形と辺を共有しない形、無向と有向の別により、集合の間の形・頂点版(2 頂点が隣接しないとき)・辺版・弧版がある。証明には辺の本数に関する帰納法と、最大流最小カット定理からの導出がある。2 頂点以上のグラフが $k$-連結であることを、任意の 2 頂点が $k$ 本の内部頂点素な道で結ばれることで言い換える Whitney の定理はその系である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: グラフ, 道(グラフ), 有向グラフ, ネットワークフロー

Menger の定理(Menger's theorem)は、グラフの 2 か所を結ぶ「互いに交わらない道」の最大本数が、その 2 か所を切り離すのに取り除かなければならない頂点(または辺)の最小の個数に等しい、という定理である。道を $k$ 本並べれば切り離すには少なくとも $k$ 個を取り除く必要があるので、最大本数が最小個数以下であることはすぐ分かる。定理の内容は逆向きの不等式、つまり「切り離しにくいグラフには、実際に交わらない道がそれだけある」ことにある。K. Menger が 1927 年に示した。
交わらないことの意味(頂点を共有しない・辺を共有しない)と、グラフに向きがあるかどうかで、いくつかの形がある。この記事では、頂点の集合 $A,B$ の間の形を流れを使わない帰納法で証明し、そこから無向グラフの頂点版を導く。次に、有向グラフの弧版・頂点版を最大流最小カット定理から、無向グラフの辺版を有向グラフの弧版から導く。最後に、$k$-連結性を道の本数で言い換える Whitney の定理と、無限グラフでの注意を述べる。

定義

この記事のグラフ $G=(V,E)$ は有限の単純無向グラフとし、道は 道(グラフ) の記事の定義「歩道と道」による(長さ $0$ の道、すなわち 1 頂点だけの道も含める)。$X\subset V$ について、$X$ の頂点とそれに接する辺を除いたグラフを $G-X$ と書く。

$A$–$B$ 道と分離集合

$A,B\subset V$ とする。

  1. 道 $P=(x_0,\dots,x_\ell)$ が $A$–$B$ 道 であるとは、$P$ の頂点のうち $A$ に属するのは $x_0$ だけ、$B$ に属するのは $x_\ell$ だけであることをいう。$x_0\in A\cap B$ なら長さ $0$ の道 $(x_0)$ も $A$–$B$ 道である。
  2. 道の族が 互いに素 であるとは、どの 2 本も共通の頂点をもたないことをいう。
  3. $X\subset V$ が $A$ と $B$ を分離する とは、すべての $A$–$B$ 道が $X$ の頂点を含むことをいう。$X$ は $A$ や $B$ の頂点を含んでもよい。

$A$ の頂点から $B$ の頂点へ行く道は、最後に $A$ を通る頂点から、その後で最初に $B$ に入る頂点までの部分が $A$–$B$ 道になる。したがって $X$ が $A$ と $B$ を分離することは、$A$ の頂点から $B$ の頂点へ行くどの道も $X$ と交わることと同じである。
2 頂点 $s\ne t$ を結ぶ道については、次の言葉を使う。$s$–$t$ 道の族が 内部頂点素 であるとは、どの 2 本も $s,t$ 以外の頂点を共有しないことをいい、辺素 であるとは、どの 2 本も共通の辺をもたないことをいう。$X\subset V\setminus\{s,t\}$ で、$G-X$ に $s$–$t$ 道がないものを $s$–$t$ 頂点分離集合、$F\subset E$ で、$F$ の辺を除いたグラフに $s$–$t$ 道がないものを $s$–$t$ 辺カット という。有向グラフでは、道を有向道に、辺を弧(有向辺)に替えて、弧素、内部頂点素、頂点分離集合、弧カット を同じように定める。有向グラフは ネットワークフロー の記事と同じく、同じ始点と終点をもつ弧が複数あってもよいとする。
どの形でも、互いに交わらない道が $k$ 本あれば、それらを断つ集合はそれぞれの道から別々の頂点(または辺・弧)を含むので、大きさは $k$ 以上である。したがって「道の最大本数 $\le$ 分離に要る最小の個数」はいつも成り立ち、各定理で示すのは逆の不等式である。

頂点の集合の間の Menger の定理

集合の間の Menger の定理

有限グラフ $G=(V,E)$ と $A,B\subset V$ について、$A$ と $B$ を分離する頂点の集合の最小の大きさを $k$ とすると、互いに素な $A$–$B$ 道が $k$ 本存在する。したがって、互いに素な $A$–$B$ 道の最大本数は $k$ に等しい。

辺の本数に関する帰納法

要点:辺 $e=xy$ を 1 本選び、$e$ を縮約したグラフで小さい分離集合を見つけ、それをもとに $x,y$ を含む大きさ $k$ の分離集合 $X$ を作る。$e$ を除いたグラフで $A$ から $X$ へ、$X$ から $B$ へ $k$ 本ずつ道を引き、$X$ でつなぐ。
すべての有限グラフと $A,B$ について、辺の本数 $|E|$ に関する帰納法で示す。$E=\emptyset$ なら、$A$–$B$ 道は $A\cap B$ の頂点 1 つからなる道だけなので、$X$ が分離することは $A\cap B\subset X$ と同値であり、$k=|A\cap B|$ で、それらの $k$ 本の道が互いに素である。
$E\ne\emptyset$ とし、辺 $e=xy$ をとる。$e$ を縮約したグラフ $G/e$ を、$x,y$ を新しい 1 頂点 $v_e$ に置き換え、$x$ か $y$ に隣接していた頂点を $v_e$ と隣接させたものとする。$G/e$ では、$x$ か $y$ が $A$ に属するとき $v_e$ を $A$ の頂点とみなした集合を $A'$ とし、$B'$ も同様に定める。$G/e$ の辺は $G$ より少ない。
段 1($G/e$ に道が足りる場合)。 $G/e$ に互いに素な $A'$–$B'$ 道が $k$ 本あれば、$G$ にも互いに素な $A$–$B$ 道が $k$ 本ある。実際、$v_e$ を通らない道はそのまま $G$ の $A$–$B$ 道である。$v_e$ を通る道 $P$ については、$P$ の $v_e$ 以外の頂点と $x,y$ を合わせた集合で $G$ を制限したグラフは連結で、$A$ と $B$ の頂点を含むので、その中に $A$–$B$ 道がある($A$ の頂点から $B$ の頂点への道のうち最短のものをとればよい)。他の道は $v_e$ を通らないので $x,y$ を含まず、互いに素であることは保たれる。
段 2(分離集合 $X$)。 以下、$G/e$ に互いに素な $A'$–$B'$ 道が $k$ 本はないとする。帰納法の仮定から、$G/e$ には $A'$ と $B'$ を分離する $k-1$ 個以下の頂点の集合 $Y$ がある。$G$ の $A$–$B$ 道 $P$ の $x,y$ を $v_e$ に置き換える(続けて現れる $v_e$ は 1 つにまとめる)と $G/e$ の $A'$ の頂点から $B'$ の頂点への歩道になり、その中の $A'$–$B'$ 道の頂点は $Y$ と交わる。$v_e\notin Y$ なら、その頂点は $P$ の頂点で $Y$ に属し、$Y$ は $G$ で $A$ と $B$ を分離して $k$ の最小性に反する。よって $v_e\in Y$ であり、$X:=(Y\setminus\{v_e\})\cup\{x,y\}$ は(同じ議論で)$G$ で $A$ と $B$ を分離する。$|X|=|Y|+1\le k$ と $k$ の最小性から $|X|=k$ である。
段 3($e$ を除いたグラフ)。 $G-e$ を $G$ から辺 $e$ だけを除いたグラフとする。$Z$ が $G-e$ で $A$ と $X$ を分離すれば、$Z$ は $G$ で $A$ と $B$ を分離する。実際、$G$ の $A$–$B$ 道 $P$ は $X$ と交わり、$P$ の始点から最初に $X$ に入る頂点までの部分は $X$ の頂点を終点にしか含まないので、両端が $X$ に属する辺 $e$ を通らず、$G-e$ の $A$ の頂点から $X$ の頂点への道で、$Z$ と交わる。よって $|Z|\ge k$ であり、$X$ 自身は $A$ と $X$ を分離するので、$G-e$ での最小の大きさはちょうど $k$ である。帰納法の仮定から、$G-e$ に互いに素な $A$–$X$ 道 $P_1,\dots,P_k$ がある。同様に互いに素な $X$–$B$ 道 $Q_1,\dots,Q_k$ がある。$|X|=k$ なので、各 $v\in X$ はちょうど 1 本の $P_i$ の終点、ちょうど 1 本の $Q_j$ の始点であり、それらを $P_v$、$Q_v$ と書く。
段 4(つなぐ)。 $P_v$ と $Q_w$ が $X$ の外の頂点 $u$ を共有したとすると、$P_v$ の始点から $u$ まで、$u$ から $Q_w$ の終点までの部分はどちらも $X$ と交わらず、つなぐと $X$ を避ける $A$ の頂点から $B$ の頂点への歩道になって、$X$ が分離することに反する。よって $P_v$ と $Q_w$ は $X$ の頂点しか共有せず、$P_v\cap X=\{v\}$、$Q_w\cap X=\{w\}$ だから、$v\ne w$ なら交わらず、$v=w$ なら $v$ だけを共有する。$P_v$ と $Q_v$ を $v$ でつないだ道は $A$ の頂点から $B$ の頂点への道であり、その中の $A$–$B$ 道をとれば、互いに素な $A$–$B$ 道が $k$ 本得られる。$\square$

この証明は Die25 Theorem 3.3.1 の最初の証明(pp. 71–72)の筋による。同所には別の証明が 2 つあり、その 1 つは交互に進む歩道を使う。

無向グラフの頂点版

$s,t$ を隣接しない相異なる頂点とする。内部頂点素な $s$–$t$ 道の最大本数は、$s$–$t$ 頂点分離集合の最小の大きさに等しい。

$s$ の隣接頂点の集合を $N(s)$ と書く。$H:=G-\{s,t\}$、$A:=N(s)$、$B:=N(t)$ として thm-menger-sets を使う。$G$ の $s$–$t$ 道 $(s,w_1,\dots,w_m,t)$ は、$s,t$ が隣接しないので $m\ge1$ で、$w_1\in A$、$w_m\in B$ だから、$(w_1,\dots,w_m)$ は $H$ の $A$ の頂点から $B$ の頂点への道であり、$A$–$B$ 道を含む。逆に $H$ の $A$–$B$ 道の前に $s$、後ろに $t$ を付けると $G$ の $s$–$t$ 道になる。したがって、$X\subset V\setminus\{s,t\}$ が $s$–$t$ 頂点分離集合であることと、$H$ で $A$ と $B$ を分離することは同値である。また、互いに素な $A$–$B$ 道 $k$ 本に $s,t$ を付ければ内部頂点素な $s$–$t$ 道が $k$ 本得られる。よって最大本数は最小の大きさ以上であり、逆の不等式は定義の後に述べた。$\square$

有向グラフと辺の形

有向グラフの形は、ネットワークフロー の記事の定理「最大流最小カット定理」「整数性定理」「フローの分解」から導くのが早い。

有向グラフの Menger の定理

$D=(V,A)$ を有限有向グラフ、$s,t$ を相異なる頂点とする。

  1. (弧版)互いに弧素な $s$–$t$ 有向道の最大本数は、$s$–$t$ 弧カットの最小の大きさに等しい。
  2. (頂点版)$s$ から $t$ への弧がないとき、内部頂点素な $s$–$t$ 有向道の最大本数は、$s$–$t$ 頂点分離集合の最小の大きさに等しい。

1:すべての弧の容量を $1$ とし、整数値の最大流 $f$ と、$\operatorname{val}(f)=c(S)$ となるカット $S$ をとる(整数性定理と最大流最小カット定理)。$s$–$t$ 有向道は $S$ から外へ出る弧を必ず通るので、$S$ から出る弧の集合は大きさ $c(S)=\operatorname{val}(f)$ の弧カットである。一方、フローの分解により $f$ は正の整数係数の $s$–$t$ 有向道と有向閉路の和で、道の係数の和は $\operatorname{val}(f)$ である。容量が $1$ なので、ある弧を通る道は係数 $1$ のもの 1 本だけであり、道は $\operatorname{val}(f)$ 本の互いに弧素な有向道になる。よって最大本数 $\ge$ 最小の大きさである。
2:$s,t$ 以外の頂点 $v$ を 2 頂点 $v^-,v^+$ と弧 $v^-\to v^+$ に置き換え、$u\to v$ の弧を $u^+\to v^-$ に付け替えた有向グラフ $D'$ を作る($s,t$ は分けず、$s^\pm=s$、$t^\pm=t$ とみなす)。$s\to t$ の弧がないので、$D'$ の $s$–$t$ 有向道は $s,w_1^-,w_1^+,\dots,w_m^-,w_m^+,t$($m\ge1$)の形で、$D$ の有向道 $(s,w_1,\dots,w_m,t)$ と 1 対 1 に対応する。2 本の $D$ の道が内部頂点 $v$ を共有すれば、対応する $D'$ の道はどちらも $v^-\to v^+$ を通る。逆に $D'$ の 2 本の道が弧を共有すれば、その弧の端の $v^\pm$($v\ne s,t$)の $v$ を両方の $D$ の道が内部頂点にもつ。よって内部頂点素な道の最大本数 $k$ は $D'$ の弧素な道の最大本数に等しく、1 により大きさ $k$ の弧カット $Z$ がある。$s$–$t$ 有向道に現れる弧は少なくとも一方の端が $v^\pm$($v\ne s,t$)なので、$Z$ のそのような各弧にその $v$ を 1 つ対応させると、得られる $X\subset V\setminus\{s,t\}$ は $|X|\le k$ で、$D$ のすべての $s$–$t$ 有向道の内部頂点と交わる。$\square$

無向グラフの辺版は、各辺を互いに逆向きの 2 本の弧に置き換えた有向グラフから導ける。ただし、逆向きの 2 本の弧を別々の道が使うと、無向グラフでは同じ辺を共有してしまうので、それを組み替えで解消する。

無向グラフの辺版

$s,t$ を有限グラフ $G$ の相異なる頂点とする。互いに辺素な $s$–$t$ 道の最大本数は、$s$–$t$ 辺カットの最小の大きさに等しい。

逆向きの弧の組み替え

辺 $uw$ ごとに弧 $u\to w$ と $w\to u$ を置いた有向グラフを $D$ とし、thm-menger-directed の 1 で、弧カットの最小の大きさ $l$ と同じ本数の弧素な $s$–$t$ 有向道をとる。
まず辺カットについて:大きさ $l$ の弧カット $Z$ を除いた $D$ で $s$ から有向道で行ける頂点の集合を $S$ とすると $t\notin S$ で、$u\in S$、$w\notin S$ となる辺 $uw$ では弧 $u\to w$ が $Z$ に属する(属さなければ $w$ に行ける)。そのような辺の集合は大きさ $l$ 以下で、$s$–$t$ 道はどれも $S$ から出る辺を通るので、辺カットである。
次に道について:$l$ 本の弧素な $s$–$t$ 有向道の族のうち、使う弧の総数が最小のものをとる。2 本の道 $P,Q$ が逆向きの弧 $u\to w$ と $w\to u$ を使うとすると、$P$ の $s$ から $u$ までと $Q$ の $u$ から $t$ まで、$Q$ の $s$ から $w$ までと $P$ の $w$ から $t$ までをつなぐと 2 本の $s$–$t$ 有向歩道ができる。この 2 本は $P,Q$ の弧のうち $u\to w$、$w\to u$ 以外を重複なく分け合うので、それぞれに含まれる $s$–$t$ 有向道で $P,Q$ を置き換えると、弧の総数の小さい弧素な $l$ 本の族が得られて最小性に反する。よって逆向きの弧を使う 2 本の道はなく、向きを忘れた $l$ 本の $s$–$t$ 道は互いに辺素である。$\square$

無向グラフの頂点版(cor-menger-vertex)も、同じ $D$ に thm-menger-directed の 2 を使えば得られる。$D$ の内部頂点素な有向道は向きを忘れれば内部頂点素な道であり、頂点分離集合は $D$ と $G$ で同じだからである。

Whitney の定理

連結度(グラフ) の記事の定義「$k$-連結グラフ」のとおり、$G$ が $k$-連結であるとは、$|V|>k$ で、$k$ 個未満のどの頂点を除いても連結であることをいう。同様に、$|V|\ge2$ で、$k$ 本未満のどの辺を除いても連結なとき、$G$ は $k$-辺連結 であるという。

Whitney の定理

$k\ge1$ とし、$G$ を 2 頂点以上の有限グラフとする。

  1. $G$ が $k$-連結であることと、相異なる任意の 2 頂点が $k$ 本の内部頂点素な道で結ばれることは同値である。
  2. $G$ が $k$-辺連結であることと、相異なる任意の 2 頂点が $k$ 本の辺素な道で結ばれることは同値である。

1 の「道があれば $k$-連結」:隣接しない 2 頂点があれば、その間の $k$ 本の道の内部頂点は相異なるので $|V|\ge k+2$ である。どの 2 頂点も隣接するなら $G$ は完全グラフ $K_n$ で、2 頂点の間の内部頂点素な道は辺 1 本と他の $n-2$ 頂点を 1 つずつ経由する道で高々 $n-1$ 本なので、$k\le n-1$ である。どちらでも $|V|>k$ である。$|X|< k$ の $X$ を除いても、$X$ の外の 2 頂点を結ぶ $k$ 本の道のうち $X$ と交わるのは $|X|$ 本以下なので、残る道があり $G-X$ は連結である。
1 の逆:$G$ が $k$-連結で、2 頂点 $a,b$ を結ぶ内部頂点素な道が $k$ 本ないとする。$a,b$ が隣接しなければ、cor-menger-vertex により $k-1$ 個以下の $a$–$b$ 頂点分離集合があり、それを除くと非連結になって $k$-連結に反する。よって $a,b$ は隣接する。$G':=G-ab$(辺 $ab$ だけを除く)に内部頂点素な $a$–$b$ 道が $k-1$ 本あれば、辺 $ab$ だけの道を加えて $G$ に $k$ 本できるので、$G'$ では $k-2$ 本以下である。$G'$ で $a,b$ は隣接しないので、cor-menger-vertex により $k-2$ 個以下の頂点分離集合 $X$ がある。$|V|>k$ なので $v\notin X\cup\{a,b\}$ がとれる。$G'-X$ で $a$ と $b$ は別の連結成分にあるので、$v$ はどちらかと別の成分にあり、たとえば $a$ と別なら、$G-(X\cup\{b\})$ で $v$ と $a$ は結ばれない。$|X\cup\{b\}|\le k-1$ なので $k$-連結に反する。
2:thm-menger-edge により、$k$ 本の辺素な道がないことと、$k$ 本未満の辺カットがあることは同値である。$\square$

この定理は Die25 Theorem 3.3.6(p. 76)にあり、証明も同所の筋による。1 頂点のグラフは「任意の 2 頂点」の条件を空に満たすが $1$-連結でないので、2 頂点以上という仮定が要る。

例

立方体のグラフ

3 次元立方体の頂点 $\{0,1\}^3$ を、1 か所だけ座標が異なるとき辺で結んだグラフ $Q_3$ を考える。$s=000$、$t=111$ は隣接しない。道 $000,100,110,111$、$000,010,011,111$、$000,001,101,111$ は内部頂点素である。一方 $s$ の隣接頂点 $\{100,010,001\}$ は $s$–$t$ 頂点分離集合である。よってどちらも $3$ で、cor-menger-vertex の等号が成り立つ。同じ 3 本の道は辺素でもあり、$s$ に接する 3 辺は辺カットである。

仮定を外した場合

外す条件・替える条件反例成り立たなくなること
cor-menger-vertex の「$s,t$ が隣接しない」三角形 $K_3$ の 2 頂点$s,t$ 以外のどの頂点を除いても辺 $st$ が残り、頂点分離集合がない
thm-menger-directed の 1 の「弧素」を「内部頂点素」に下の例の有向グラフ内部頂点素な道は 1 本、弧カットは 2 本要る
thm-menger-whitney の「2 頂点以上」1 頂点のグラフ $K_1$2 頂点の条件は空に成り立つが $1$-連結でない
有限性(分離の大きさが無限)下の注意濃度の等式は自明に成り立ち、内容を失う
表の反例の確認

1 行目:$K_3$ の頂点を $s,t,x$ とすると、内部頂点素な道は $(s,t)$ と $(s,x,t)$ の 2 本で、$\{x\}$ を除いても $(s,t)$ が残る。
2 行目:弧 $s\to x$、$x\to t$、$s\to y$、$y\to x$、$x\to z$、$z\to t$ の有向グラフでは、$s$–$t$ 有向道はどれも $x$ を通るので内部頂点素な道は 1 本だが、$(s,x,t)$ と $(s,y,x,z,t)$ は弧素で、弧カットには 2 本の弧が要る($s\to x$ だけ除いても $s,y,x,t$ が、$x\to t$ だけ除いても $s,x,z,t$ が残る)。$x$ を分けて弧 $x^-\to x^+$ にすれば、頂点版どおり大きさ $1$ になる。
3 行目は thm-menger-whitney の後で述べた。

無限グラフ

有限の $k$ の場合

$G$ を無限グラフでもよいグラフ、$A,B\subset V$ とし、$A$ と $B$ を分離する頂点の集合の最小の大きさが有限の $k$ であるとする。このとき互いに素な $A$–$B$ 道が $k$ 本ある。

互いに素な $A$–$B$ 道の本数は $k$ 以下なので、本数が最大の族 $\mathcal P$ をとり、$|\mathcal P|< k$ と仮定する。

詳しい証明を開く

$\mathcal P$ の各道から 1 頂点ずつ選んだ集合 $X$ は大きさ $|\mathcal P|< k$ なので $A$ と $B$ を分離せず、$X$ を避ける $A$–$B$ 道 $P_X$ がある。道は有限なので $X$ の選び方は有限通りで、$\mathcal P$ の道とすべての $P_X$ の和 $H$ は有限グラフである。$H$ の頂点の集合 $Y$ で $|Y|\le|\mathcal P|$ のものは、$\mathcal P$ のどれかの道と交わらないか、各道とちょうど 1 頂点で交わる(つまり $X$ の 1 つである)ので、$H$ で $A\cap V(H)$ と $B\cap V(H)$ を分離しない。thm-menger-sets により $H$ に互いに素な $A$–$B$ 道が $|\mathcal P|+1$ 本あり、それらは $G$ の $A$–$B$ 道なので、$\mathcal P$ の最大性に反する。$\square$

これは Die25 Proposition 8.4.3(p. 250)である。分離の最小の大きさが無限のときは、互いに素な道の極大な族をとると、その道の頂点全体が分離集合になり、その濃度は道の本数に等しいので、濃度の等式は自明に成り立ってしまう(同所 p. 251)。代わりに、「互いに素な $A$–$B$ 道の族 $\mathcal P$ と、$\mathcal P$ の各道から 1 頂点ずつ選んでできる分離集合がある」という形が Erdős により予想され、Aharoni と Berger が任意の無限グラフで証明した(Die25 Theorem 8.4.4、p. 251。この記事では証明しない)。有限グラフではこの形は thm-menger-sets と同値である。

補足

最大流最小カット定理と Menger の定理は互いに導き合う関係にあり、どちらも「最大の詰め込み=最小の障害」という型の定理である。二部グラフの左右の頂点集合を $A,B$ とすると、互いに素な $A$–$B$ 道は辺 1 本ずつで、マッチングにあたり、分離集合は頂点被覆にあたる。こうして thm-menger-sets は、二部グラフの最大マッチングと最小頂点被覆の大きさが等しいという König の定理(マッチング(グラフ理論) の定理「二部グラフの最大マッチングと最小頂点被覆」)を含む(Die25 p. 72)。有向グラフの弧版・頂点版と無向グラフの辺版・頂点版は BM76 Theorem 11.4・11.5(p. 204)、Theorem 11.6・11.7(p. 205)にあり、同書もこれらを最大流から導いている。同書 Corollary 11.5(p. 204)と Corollary 11.7(p. 205)は thm-menger-whitney にあたる。なお、距離空間の中点についての 長さ空間 の定理「Menger の補題」は、同じ Menger の名を冠するが別の主張である。

関連項目

参考文献

[1]
Reinhard Diestel, Graph Theory, Graduate Texts in Mathematics 173, Springer, 2025, §3.3:Theorem 3.3.1 と最初の証明(pp. 71–72)、二部グラフへの適用(p. 72)、Theorem 3.3.6(p. 76)。§8.4:Proposition 8.4.3(p. 250)、Theorem 8.4.4(p. 251)
[2]
J. A. Bondy, U. S. R. Murty, Graph Theory with Applications, Macmillan / American Elsevier, 1976, §11.4:Theorem 11.4・11.5・Corollary 11.5(p. 204)、Theorem 11.6・11.7・Corollary 11.7(p. 205)

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