関手圏(functor category)とは、関手を対象、自然変換を射とする圏である。図式全体を一つの対象として扱うことで、図式同士の比較や変形を圏の言葉で記述できる。値域が極限・余極限を持てば、関手圏でもそれらは各点ごとに計算される。
小圏 $\mathcal C$ と局所小圏 $\mathcal D$ に対し、関手圏(functor category)$[\mathcal C,\mathcal D]$ または $\operatorname{Fun}(\mathcal C,\mathcal D)$ を次で定める。
前提の小ささは、自然変換が集合 $\prod_c\operatorname{Hom}_{\mathcal D}(Fc,Gc)$ の部分集合になることを保証する。$\mathcal D$ も小さければ関手圏全体も小さい。通常の定義は Rie16 §§1.3–1.5, 1.7 に従う。
関手圏は「ある形をした図式」を一つの対象として扱う場所である。図式同士の射を自然変換とすることで、値を個別に比べるだけでなく、図式に沿った関係を保って比較できる。
一対象・恒等射だけの圏を $*$ とすると $[*,\mathcal D]\cong\mathcal D$。関手は一対象を選び、自然変換はその対象間の一射を選ぶ。空圏を添字にすると関手は空の割当て一つ、自然変換も空の族一つなので $[\emptyset,\mathcal D]\cong *$。
射が恒等射しかない二対象圏を添字にすると、対象は $\mathcal D$ の対象の組、射も射の組となる。従って関手圏は直積圏 $\mathcal D\times\mathcal D$ に一致する。
$[1]$ を二対象と一本の非恒等射 $0\to1$ からなる圏とする。$[\![1],\mathcal D]$ の対象は $\mathcal D$ の一つの射 $f:x\to y$。$f$ から $g:x'\to y'$ への射は、$g a=b f$ を満たす $a:x\to x'$、$b:y\to y'$ の組、すなわち可換な四角である。この関手圏 $[1,\mathcal D]$ は矢印圏と呼ばれる。
添字を $[1]$、値域を $\mathbf{Set}$ とする。$F$ を一点集合の定値図式、$G$ を二点集合の定値図式とし、$\alpha_0$ は $0$、$\alpha_1$ は $1$ を選ぶ関数とする。両者はそれぞれ射だが、$0\to1$ に関する自然性は $\alpha_0=\alpha_1$ を要求するため、自然変換ではない。
$\mathcal D=\mathbf{Set}$ とし、$\mathcal C$ を小圏 $\mathcal E$ の反対圏 $\mathcal E^{\mathrm{op}}$ とすると、$[\mathcal E^{\mathrm{op}},\mathbf{Set}]$ は $\mathcal E$ 上の前層(圏論)の圏に一致する。
上の恒等射・合成は自然変換を再び自然変換にし、圏の単位律と結合律を満たす。
$\alpha:F\to G$、$\beta:G\to H$ について
$$
H(u)\beta_c\alpha_c
=\beta_{c'}G(u)\alpha_c
=\beta_{c'}\alpha_{c'}F(u).
$$
従って合成も自然。恒等射の自然性は恒等式であり、単位律・結合律は各成分の $\mathcal D$ での等式から従う。
自然変換に逆があれば、成分を評価して各成分にも逆を得る。逆に各成分が可逆なら、$G(u)\alpha_c=\alpha_{c'}F(u)$ の左右に逆を掛けて
$$
F(u)\alpha_c^{-1}=\alpha_{c'}^{-1}G(u)
$$
を得る。従って逆の成分も自然変換となり、成分ごとの合成は恒等変換になる。
評価 $\operatorname{ev}_c:[\mathcal C,\mathcal D]\to\mathcal D$ は、関手を $Fc$、自然変換を $\alpha_c$ に送る関手である。「各点で計算する」は、これらすべての評価への適合を要求する。
$\mathcal D$ が $J$ 型の極限(圏論)を持てば、関手圏 $[\mathcal C,\mathcal D]$ も $J$ 型の極限を持ち、関手の族 $(F_j)_{j\in J}$ に対して
$$
\left(\varprojlim_j F_j\right)(c)=\varprojlim_j F_j(c)
$$
で与えられる。さらに評価関手 $\operatorname{ev}_c$ はこの極限を保つ。
各 $c\in\mathcal C$ で $\mathcal D$ における極限 $L(c)=\varprojlim_j F_j(c)$ とその極限錐 $(\pi_{j,c}:L(c)\to F_j(c))_j$ を選ぶ。射 $u:c\to c'$ に対し、族 $(F_j(u)\pi_{j,c})_j$ は $L(c)$ から各 $F_j(c')$ への錐をなすので、極限の普遍性により一意な射 $L(u):L(c)\to L(c')$ で $\pi_{j,c'}L(u)=F_j(u)\pi_{j,c}$ を満たすものが定まる。恒等射と合成への対応は各点での極限の普遍性から従い、$L$ は関手になる。各 $\pi_{j,\bullet}=(\pi_{j,c})_c$ は、$u$ に関する上の等式によって自然変換 $\pi_j:L\to F_j$ を与える。$(\pi_j)_j$ が $[\mathcal C,\mathcal D]$ における錐の普遍性を満たすことは、各点での普遍性から成分ごとに確認できる。評価関手 $\operatorname{ev}_c$ がこの極限を保つことは、$L(c)=\varprojlim_j F_j(c)=\varprojlim_j(\operatorname{ev}_c F_j)$ という構成そのものから従う。
$\mathcal D$ が $J$ 型の余極限(圏論)を持てば、同様に $[\mathcal C,\mathcal D]$ も $J$ 型の余極限を持ち、$\left(\varinjlim_j F_j\right)(c)=\varinjlim_j F_j(c)$ で与えられる。上の議論を $\mathcal D^{\mathrm{op}}$ に適用すればよい。
関手圏の構成は、Homを対象に取り替える豊穣圏の枠組みや、単体を用いる∞圏の枠組みでも並行して考えられる。自然変換の集合は
$$
\operatorname{Nat}(F,G)
=\left\{(\alpha_c)\in\prod_c\operatorname{Hom}(Fc,Gc)
\ \middle|\ G(u)\alpha_c=\alpha_{c'}F(u)\text{ for all }u:c\to c'\right\}
$$
と表せる。Homを対象へ替える豊穣版では、この整合性をエンドによって表し、適切な完備性の下で豊穣関手圏を構成する。単位対象からの要素だけで済ませず、Hom対象の普遍性を使う(Kel82 §§2.1–2.2)。
準圏 $\mathcal D$ に対する関手∞圏は、$n$-単体を $\mathcal C\times\Delta^n\to\mathcal D$ として定義する。通常圏 $A,B$ の脈体なら、各次数は関手 $A\times[n]\to B$ と一致するため $\operatorname{Fun}(NA,NB)\cong N\operatorname{Fun}(A,B)$。一方、任意の単体的豊穣圏の厳密関手全体をそのまま取るだけでは、導来された関手∞圏を一般には計算できない。置換と比較が必要になる(HTT09 §1.2.7)。
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