ℓ進コホモロジー(ℓ-adic cohomology)とは、スキーム $X$ 上で素数 $\ell$ が可逆なとき、有限係数のエタールコホモロジー $H^i(X,\mu_{\ell^\nu}^{\otimes n})$ の $\nu$ についての射影極限として定まる $\mathbb Z_\ell$ 加群 $H^i(X,\mathbb Z_\ell(n))$ である。$n=1$ で各段が有限なら、捩れ部分は一つ低い次数の $\mu_{\ell^\infty}$ 係数のコホモロジーの有限商に、捩れで割った商は同じ次数の $\mu_{\ell^\infty}$ 係数のコホモロジーの Tate 加群に一致する。代数閉体上の連結・被約な固有スキームでは $H^1(X,\mathbb Z_\ell(1))$ が Picard 群の Tate 加群になり、$H^2$ は Brauer 群と結びつく。
前提知識: エタールコホモロジー, Kummer完全列, Tate加群, 射影極限
代数多様体の「位相的な」コホモロジーを、複素数体に限らず任意の体の上で考えたい。エタールコホモロジーはそのための道具だが、有限性や複素数体上の比較定理といった良い性質が成り立つのは、主に有限係数(捩れ係数)の場合である。そこで素数 $\ell$ を一つ固め、係数 $\mathbb Z/\ell^\nu$ のコホモロジーを $\nu\to\infty$ で束ねたものを考える。これが ℓ 進コホモロジーであり、係数環は $\ell$ 進整数環 $\mathbb Z_\ell$ になる。$\mathbb Q_\ell$ を係数に広げれば標数 $0$ の係数のコホモロジーが得られ、Weil 予想の証明などで中心的な役割を果たした。
この記事では、Grothendieck が Brauer 群の論文で用いた形、すなわち「有限係数のコホモロジーの射影極限」として ℓ 進コホモロジーを定義し、各段が有限であるときに、捩れ係数 $\mu_{\ell^\infty}$ のコホモロジーとの関係を完全に記述する。
以下、$X$ はスキーム、$\ell$ は $X$ 上で可逆な素数(すなわち $\ell\in\Gamma(X,\mathcal O_X)^\times$)とし、コホモロジーはすべてエタール位相でとる。
$\nu\geq1$ に対し、$\mu_{\ell^\nu}$ を $X$ の小エタール景上の層 $U\mapsto\{s\in\Gamma(U,\mathcal O_U)^\times : s^{\ell^\nu}=1\}$ とする。これは $\mathbb Z/\ell^\nu$ 加群の層である。整数 $n\geq0$ に対し
$$
\mu_{\ell^\nu}^{\otimes n}:=\underbrace{\mu_{\ell^\nu}\otimes_{\mathbb Z/\ell^\nu}\cdots\otimes_{\mathbb Z/\ell^\nu}\mu_{\ell^\nu}}_{n\ \text{個}}
$$
($n=0$ のときは定数層 $\mathbb Z/\ell^\nu$)とおく。$\ell$ 乗写像 $\mu_{\ell^{\nu+1}}\to\mu_{\ell^\nu}$、$s\mapsto s^\ell$ は各因子ごとに作用させることで射
$$
\pi_\nu:\mu_{\ell^{\nu+1}}^{\otimes n}\longrightarrow\mu_{\ell^\nu}^{\otimes n}
$$
を誘導する。この逆系 $(\mu_{\ell^\nu}^{\otimes n})_\nu$ を $\mathbb Z_\ell(n)$ と書き、Tate捻りと呼ぶ。
また、包含 $\mu_{\ell^\nu}\subseteq\mu_{\ell^{\nu+1}}$ に沿った層の帰納極限を
$$
\mu_{\ell^\infty}:=\varinjlim_\nu\mu_{\ell^\nu}
$$
とおく。
整数 $i\geq0$、$n\geq0$ に対し、$\mathbb Z_\ell$ 加群
$$
H^i(X,\mathbb Z_\ell(n)):=\varprojlim_\nu H^i(X,\mu_{\ell^\nu}^{\otimes n})
$$
を $X$ の(係数 $\mathbb Z_\ell(n)$ の)ℓ進コホモロジーという。ここで遷移写像は $\pi_\nu$ が誘導する写像である。さらに
$$
H^i(X,\mathbb Q_\ell(n)):=H^i(X,\mathbb Z_\ell(n))\otimes_{\mathbb Z_\ell}\mathbb Q_\ell
$$
とおく。$n=0$ のときは単に $H^i(X,\mathbb Z_\ell)$ と書く。
$n<0$ の捻りも、$\mu_{\ell^\nu}^{\otimes(-n)}$ の $\mathbb Z/\ell^\nu$ 双対を用いて同様に定義されるが、この記事では $n\geq0$ に限る。
この定義についての注意を二つ述べる。
$\ell$ が $X$ 上で可逆なら、エタール景上の層の次の列は完全である。
$$
0\to\mu_\ell\to\mu_{\ell^{\nu+1}}\xrightarrow{\ s\mapsto s^\ell\ }\mu_{\ell^\nu}\to0,\qquad
0\to\mu_{\ell^\nu}\to\mu_{\ell^\infty}\xrightarrow{\ s\mapsto s^{\ell^\nu}\ }\mu_{\ell^\infty}\to0.
$$
核についての主張は定義から明らかである。全射性を示す。$U\to X$ をエタール射、$\zeta\in\mu_{\ell^\nu}(U)$ とする。$U':=\operatorname{Spec}_U\mathcal O_U[T]/(T^\ell-\zeta)\to U$ は階数 $\ell$ の有限自由射であり、$T^\ell-\zeta$ の $T$ による微分 $\ell T^{\ell-1}$ は $U'$ 上で可逆である($\ell$ は可逆で、$T^{\ell^{\nu+1}}=\zeta^{\ell^\nu}=1$ より $T$ も可逆)。よって $U'\to U$ はエタールかつ全射で、エタール被覆である。$U'$ 上で $T\in\mu_{\ell^{\nu+1}}(U')$ かつ $T^\ell=\zeta$ だから、$\zeta$ は局所的に $\ell$ 乗の像になる。これが第1の列の全射性である。これは Kummer完全列 の全射性と同じ議論である。
第2の列について:$\mu_{\ell^\infty}$ の切断は局所的にはある $\mu_{\ell^m}$ の切断であり、第1の列の全射性を $\nu$ 回繰り返すと、局所的に $\mu_{\ell^{m+\nu}}$ の切断の $\ell^\nu$ 乗として書ける。$\ell^\nu$ 乗写像の核は $\mu_{\ell^\nu}$ である。
ℓ 進コホモロジーの計算では、射影極限が完全列を保つかどうかが要になる。一般には保たないが、有限群の逆系では保つ。
有限アーベル群の短完全列の逆系 $0\to A_\nu\to B_\nu\to C_\nu\to0$ に対し、
$$
0\to\varprojlim_\nu A_\nu\to\varprojlim_\nu B_\nu\to\varprojlim_\nu C_\nu\to0
$$
は完全である。
$\varprojlim$ が左完全であることは一般に成り立つので、右端の全射性だけを示す。$c=(c_\nu)\in\varprojlim C_\nu$ をとり、$S_\nu\subseteq B_\nu$ を $c_\nu$ の逆像とする。$S_\nu$ は空でない有限集合で、遷移写像は $S_{\nu+1}$ を $S_\nu$ へ移す。
各 $\nu$ について、$S_{\nu+j}$ の $S_\nu$ への像は $j$ について減少する空でない部分集合の列であり、$S_\nu$ が有限なのである所から一定になる。その一定の値を $S'_\nu$ とすると、$S'_\nu\neq\emptyset$ である。
遷移写像が $S'_{\nu+1}$ を $S'_\nu$ の上へ移すことを示す。$j$ を十分大きくとり、$S_{\nu+1+j}$ の $S_\nu$ への像が $S'_\nu$ に、$S_{\nu+1}$ への像が $S'_{\nu+1}$ に一致するようにする。$s\in S'_\nu$ に対し、$s$ の逆像 $u\in S_{\nu+1+j}$ をとり、$u$ の $S_{\nu+1}$ への像を $t$ とすると、$t\in S'_{\nu+1}$ で $t\mapsto s$ である。
したがって $b_1\in S'_1$ を選び、$b_2\in S'_2$ を $b_2\mapsto b_1$ となるように選び、以下同様に帰納的に選べる。$b=(b_\nu)\in\varprojlim B_\nu$ は $c$ に移る。
アーベル群 $M$ と素数 $\ell$ に対し、$M[\ell^\nu]$ を $\ell^\nu$ 倍で消える元のなす部分群とし、$\ell$ 倍写像 $M[\ell^{\nu+1}]\to M[\ell^\nu]$ による逆系の極限
$$
T_\ell(M):=\varprojlim_\nu M[\ell^\nu]
$$
を $M$ の Tate 加群という(Tate加群)。$M$ の最大可除部分群を $M_{\mathrm{div}}$ と書く。比較定理で使う事実をまとめておく。
$M$ を $\ell$ 準素な捩れアーベル群(すべての元の位数が $\ell$ の冪)で、$M[\ell]$ が有限なものとする。このとき次が成り立つ。
1. これはアーベル群論の標準的な構造定理(可除群は直和因子として分離でき、$\ell$ 準素な可除群は $\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell$ の直和であり、$M[\ell]$ が有限な $\ell$ 準素群の可除部分を除いた残りは有限であること)であり、ここでは引用する([Kap69]。証明は Tate加群 で扱う)。$d$ は $(\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell)^d[\ell]=(\mathbb Z/\ell)^d$ から $d\leq\dim_{\mathbb F_\ell}M[\ell]$ を満たす。$R$ は有限な $\ell$ 群なので $\ell^mR=0$ となる $m$ があり、$j\geq m$ で $\ell^jM=M_{\mathrm{div}}$ となるから、最後の等式が従う。
2. $x\mapsto\ell^\nu x$ は $M[\ell^{\nu+1}]\to M[\ell]$ を与え、その核は $M[\ell^\nu]$ である。よって $|M[\ell^{\nu+1}]|\leq|M[\ell^\nu]|\cdot|M[\ell]|$ で、帰納法により主張を得る。
3. 逆系は $M[\ell^\nu]=M_{\mathrm{div}}[\ell^\nu]\oplus R[\ell^\nu]$ と分解する。$\nu\geq m$ では $R[\ell^\nu]=R$ で、遷移写像は $R$ 上の $\ell$ 倍であり、$m$ 回合成すると $0$ になる。よって $R$ の部分の極限は $0$ で、$T_\ell(M)=T_\ell(M_{\mathrm{div}})$ である。$\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell$ については $(\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell)[\ell^\nu]=\ell^{-\nu}\mathbb Z_\ell/\mathbb Z_\ell\cong\mathbb Z/\ell^\nu$ で、$\ell$ 倍の遷移は自然な射影 $\mathbb Z/\ell^{\nu+1}\to\mathbb Z/\ell^\nu$ に対応するので、極限は $\mathbb Z_\ell$ である。
4. $x\otimes\ell^{-\nu}=(\ell x)\otimes\ell^{-(\nu+1)}$ であり、$(\ell x)_{\nu+1}=\ell x_{\nu+1}=x_\nu$ だから $\theta$ は矛盾なく定まる。3 の同一視のもとで $\theta$ は $\mathbb Q_\ell^d\to(\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell)^d$ の自然な射影にあたり、全射で核は $\mathbb Z_\ell^d$ である。
$\ell$ を $X$ 上で可逆な素数とし、ある $j$ について $H^j(X,\mu_\ell)$ が有限であるとする。このとき
1. 冪根の層の完全列の第1の列から、長完全列の一部
$$
H^j(X,\mu_\ell)\to H^j(X,\mu_{\ell^{\nu+1}})\to H^j(X,\mu_{\ell^\nu})
$$
が完全である。中央の群は、右の群の部分群を左の群の商で拡大したものなので、$\nu$ についての帰納法で有限である。
2. 第2の列を $\nu=1$ で使うと $H^j(X,\mu_\ell)\to H^j(X,\mu_{\ell^\infty})\xrightarrow{\ \ell\ }H^j(X,\mu_{\ell^\infty})$ が完全である。すなわち $H^j(X,\mu_{\ell^\infty})[\ell]$ は $H^j(X,\mu_\ell)$ の像であり、有限である。
次が、この記事の中心となる比較定理である。$H^i(X,\mu_{\ell^\infty})$ などの群は加法的に書く($\ell$ 乗写像は $\ell$ 倍になる)。
$X$ を準コンパクト準分離なスキーム、$\ell$ を $X$ 上で可逆な素数、$i\geq0$ とし、$H^{i-1}(X,\mu_\ell)$ と $H^i(X,\mu_\ell)$ が有限であるとする($H^{-1}:=0$)。
$$
N:=H^{i-1}(X,\mu_{\ell^\infty}),\qquad M:=H^i(X,\mu_{\ell^\infty})
$$
とおく。このとき次が成り立つ。
1. $X$ は準コンパクト準分離なので $M=\varinjlim_mH^i(X,\mu_{\ell^m})$ であり(定義の節の注意)、各 $H^i(X,\mu_{\ell^m})$ は $\ell^m$ 倍で消える。よって $M$ は $\ell$ 準素な捩れ群である。$N$ も同様。$M[\ell]$、$N[\ell]$ の有限性は有限性の伝播の命題の 2 による。
2. 冪根の層の第2の列の長完全列
$$
N\xrightarrow{\ \ell^\nu\ }N\xrightarrow{\ \partial\ }H^i(X,\mu_{\ell^\nu})\to M\xrightarrow{\ \ell^\nu\ }M
$$
から、$\partial$ の像が $N/\ell^\nu N$、右側の写像の像が $M[\ell^\nu]$ として読める。遷移について:層の射の三つ組 $(\pi_\nu,\ \ell,\ \mathrm{id})$ は、$\nu+1$ 段の列
$0\to\mu_{\ell^{\nu+1}}\to\mu_{\ell^\infty}\xrightarrow{\ell^{\nu+1}}\mu_{\ell^\infty}\to0$
から $\nu$ 段の列への射を与える(左の四角はどちらの道も $s\mapsto s^\ell$、右の四角はどちらの道も $s\mapsto s^{\ell^{\nu+1}}$)。長完全列の自然性から、左の項(第3項 $\mu_{\ell^\infty}$ の $H^{i-1}$ の商)には恒等写像が誘導する射影が、右の項(中央 $\mu_{\ell^\infty}$ の $H^i$ の部分)には $\ell$ 倍が誘導される。
3. 1 と余有限な ℓ 準素群の補題により $N=N_{\mathrm{div}}\oplus R_N$、$R_N$ は有限で $\ell^mR_N=0$ となる $m$ がある。$N_{\mathrm{div}}$ は可除なので $N/\ell^\nu N=R_N/\ell^\nu R_N$ であり、$\nu\geq m$ ではこれは $R_N$ そのもので、遷移写像は恒等写像である。よって極限は $R_N\cong N/N_{\mathrm{div}}$ で、有限である。
4. 2 の列の三つの項はすべて有限である:中央は有限性の伝播の命題の 1、右は補題の 2、左は中央の部分群である。有限群の逆系の極限の完全性の補題により、2 の列の極限をとった列は完全である。左の極限は 3、中央の極限は定義により $H^i(X,\mathbb Z_\ell(1))$、右の極限は 2 の遷移の記述により $T_\ell(M)$ である。$T_\ell(M)\cong\mathbb Z_\ell^d$ は自由(補題の 3)なので、全射 $H^i(X,\mathbb Z_\ell(1))\to T_\ell(M)$ は分裂する。$N/N_{\mathrm{div}}$ は有限だから捩れであり、$T_\ell(M)$ は捩れをもたないので、捩れ部分はちょうど $N/N_{\mathrm{div}}$ の像である。
5. 4 より $H^i(X,\mathbb Z_\ell(1))\otimes\mathbb Q_\ell=T_\ell(M)\otimes\mathbb Q_\ell$ であり(有限な捩れは消える)、$H^i(X,\mathbb Z_\ell(1))$ の像は $T_\ell(M)$ の像に一致する。補題の 4 を当てはめればよい。後半は、$M$ と $M_{\mathrm{div}}$ の差が有限群 $M/M_{\mathrm{div}}$(補題の 1)、$H^i(X,\mathbb Z_\ell(1))$ とその捩れのない商の差が有限群 $N/N_{\mathrm{div}}$ であることによる。
係数を $\mu_{\ell^\nu}$ から定数層 $\mathbb Z/\ell^\nu$ に、$\mu_{\ell^\infty}$ を $\mathbb Q_\ell/\mathbb Z_\ell$ に替えても、同じ証明がそのまま通り、$H^i(X,\mathbb Z_\ell)$ について同じ形の比較定理が得られる(この場合は冪根の層の完全列の代わりに、定数層の完全列 $0\to\mathbb Z/\ell\to\mathbb Z/\ell^{\nu+1}\to\mathbb Z/\ell^\nu\to0$ などを使う)。他の捻り $n\geq2$ については、$\mu_{\ell^\infty}$ に対応する帰納系の遷移写像を別に定める必要があるので、この記事では扱わない。
Kummer 完全列 $0\to\mu_{\ell^\nu}\to\mathbb G_m\xrightarrow{\ \ell^\nu\ }\mathbb G_m\to0$($\ell$ が可逆なときエタール景で完全。Kummer完全列)と、$H^1(X,\mathbb G_m)\cong\operatorname{Pic}(X)$(Hilbert の定理 90 の一般化。[Mil80]Ch. III)を使うと、低い次数の ℓ 進コホモロジーは Picard 群と Brauer 群 $Br'(X):=H^2(X,\mathbb G_m)$ で書ける。
まず、Kummer 完全列の長完全列から、各 $\nu$ について完全列
$$
0\to\Gamma(X,\mathbb G_m)/\ell^\nu\to H^1(X,\mu_{\ell^\nu})\to\operatorname{Pic}(X)[\ell^\nu]\to0,
$$
$$
0\to\operatorname{Pic}(X)/\ell^\nu\to H^2(X,\mu_{\ell^\nu})\to Br'(X)[\ell^\nu]\to0
$$
が得られる。層の射の三つ組 $(\pi_\nu,\ s\mapsto s^\ell,\ \mathrm{id})$ は $\nu+1$ 段の Kummer 完全列から $\nu$ 段への射を与えるので、比較定理の証明の 2 と同じ理由で、$\nu$ を動かしたときの遷移写像は、左の項で自然な射影、右の項で $\ell$ 倍になる。
$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上固有・連結・被約なスキーム、$\ell$ を $k$ の標数と異なる素数とする。このとき $\nu$ について両立する同型 $H^1(X,\mu_{\ell^\nu})\cong\operatorname{Pic}(X)[\ell^\nu]$ があり、極限をとって
$$
H^1(X,\mathbb Z_\ell(1))\cong T_\ell(\operatorname{Pic}(X))
$$
を得る。
$X$ が代数閉体上固有・連結・被約なら $\Gamma(X,\mathcal O_X)=k$ である(固有射の連接コホモロジーの有限性から従う標準的事実。[EGA3]。ここでは引用する)。よって $\Gamma(X,\mathbb G_m)=k^\times$ であり、$k$ が代数閉なのでこれは可除群である。したがって上の第1の列の左端は $0$ で、$H^1(X,\mu_{\ell^\nu})\cong\operatorname{Pic}(X)[\ell^\nu]$ となる。遷移写像は両辺で対応し、右辺では $\ell$ 倍なので、極限は Tate 加群 $T_\ell(\operatorname{Pic}(X))$ である。
この命題で $k$ が代数閉であることは、$k^\times$ が可除であるという一点で使われている。
$\ell$ を $X$ 上で可逆な素数とし、次を仮定する。
(a) と $\otimes\mathbb Z/\ell^\nu$ の右完全性から $P^0/\ell^\nu\to\operatorname{Pic}(X)/\ell^\nu\to NS(X)/\ell^\nu\to0$ が完全で、$P^0$ は可除なので $P^0/\ell^\nu=0$。よって $\operatorname{Pic}(X)/\ell^\nu\cong NS(X)/\ell^\nu$ であり、$NS(X)$ は有限生成だから $\varprojlim_\nu NS(X)/\ell^\nu=NS(X)\otimes\mathbb Z_\ell$ である。
(b) と有限性の伝播の命題により $H^2(X,\mu_{\ell^\nu})$ は有限であり、上の第2の列の三つの項はすべて有限である。有限群の逆系の極限の完全性の補題により、極限をとった列は完全である。右の項の極限は、遷移が $\ell$ 倍なので $T_\ell(Br'(X))$ である。
$X$ が代数閉体上の固有で滑らかな多様体であれば、(a) は Néron–Severi 群の有限生成性(基底定理)と Picard 多様体の点のなす群の可除性から、(b) はエタールコホモロジーの有限性定理から成り立つ。これらはここでは引用として述べるにとどめる([SGA4half]、[Mil80]Ch. V・VI)。このとき $T_\ell(Br'(X))$ は捩れをもたない(Tate 加群は常に捩れをもたない)ので、$NS(X)\otimes\mathbb Z_\ell$ の像は $H^2(X,\mathbb Z_\ell(1))$ の中で「捩れを除いて」飽和している。この事実が、曲面の Brauer 群の自己双対性の議論で判別式形式の定理を使う出発点になる。
$k$ を分離閉体、$\ell$ を $k$ の標数と異なる素数、$X$ を $k$ 上のスキームとする。$k$ の中に、$\zeta_\nu$ が 1 の原始 $\ell^\nu$ 乗根で $\zeta_{\nu+1}^\ell=\zeta_\nu$ を満たす列 $\zeta=(\zeta_\nu)_{\nu\geq1}$ が存在する。このような $\zeta$ を一つ選ぶと、層の同型 $\mathbb Z/\ell^\nu\to\mu_{\ell^\nu}^{\otimes n}$、$1\mapsto\zeta_\nu^{\otimes n}$ は $\nu$ について両立し、同型
$$
H^i(X,\mathbb Z_\ell)\xrightarrow{\ \cong\ }H^i(X,\mathbb Z_\ell(n))
$$
を誘導する。$\zeta$ を別の列 $\zeta'$ に取り替えると、ある $u\in\mathbb Z_\ell^\times$ があってこの同型は $u^n$ 倍だけ変わる。したがって $n\neq0$ のとき、この同型は一般に選択に依存する(標準的ではない)。
列の存在。$T^{\ell^\nu}-1$ は $k$ 上分離的(微分 $\ell^\nu T^{\ell^\nu-1}$ は根で消えない)なので、分離閉体 $k$ の中に相異なる $\ell^\nu$ 個の根をもつ。$\mu_{\ell^\nu}(k)$ は $k^\times$ の有限部分群なので巡回群であり、位数は $\ell^\nu$ である。$\ell$ 乗写像 $\mu_{\ell^{\nu+1}}(k)\to\mu_{\ell^\nu}(k)$ の核は位数 $\ell$ の $\mu_\ell(k)$ なので、像の位数は $\ell^\nu$ で、この写像は全射である。よって原始根 $\zeta_1$ から始めて、$\zeta_{\nu+1}^\ell=\zeta_\nu$ となる $\zeta_{\nu+1}$ を順に選べる。$\zeta_{\nu+1}$ の位数は $\ell^{\nu+1}$ を割り、その $\ell$ 乗の位数が $\ell^\nu$ なので、ちょうど $\ell^{\nu+1}$ である。
層の同型。写像 $1\mapsto\zeta_\nu$ が層の同型 $\mathbb Z/\ell^\nu\cong\mu_{\ell^\nu}$ であることは、幾何的な点での茎で確かめればよい。茎の環は剰余体が分離閉な強ヘンゼル局所環 $A$ で、$\ell$ は $A$ で可逆である。$T^{\ell^\nu}-1$ は剰余体上分離的なので、Hensel の補題により $\mu_{\ell^\nu}(A)$ は剰余体の $\mu_{\ell^\nu}$ と一対一に対応し、位数 $\ell^\nu$ の巡回群である。$\zeta_\nu$ の剰余体での像は(体の準同型 $k\to$ 剰余体は単射なので)位数 $\ell^\nu$ のままであり、生成元になる。$n$ 個のテンソル積をとると $\mathbb Z/\ell^\nu\cong\mu_{\ell^\nu}^{\otimes n}$、$1\mapsto\zeta_\nu^{\otimes n}$ を得る。$\pi_\nu(\zeta_{\nu+1}^{\otimes n})=\zeta_\nu^{\otimes n}$ なので、自然な射影 $\mathbb Z/\ell^{\nu+1}\to\mathbb Z/\ell^\nu$ と両立する。コホモロジーをとって極限に移ればよい。
選択への依存。別の列 $\zeta'$ について、$\zeta'_\nu=\zeta_\nu^{u_\nu}$ となる $u_\nu\in(\mathbb Z/\ell^\nu)^\times$ が定まり、両立性から $(u_\nu)$ は $u\in\mathbb Z_\ell^\times$ を定める。すると $\zeta'^{\otimes n}_\nu=u_\nu^n\,\zeta_\nu^{\otimes n}$ だから、同型は $u^n$ 倍だけ変わる。
Grothendieck の原論文では、この同型は証明なしに述べられている。捻りの情報が同型の選び方に押し込まれることは、同じ次数のコホモロジーでも係数を $\mu_{\ell^\infty}$ にとるか $\mathbb Z_\ell(1)$ にとるかで別の対象が現れる理由の一つであり、有限体上のように $k$ が分離閉でない場合には、Galois 群の作用の違いとして捻りが本質的に効く。
$k$ を分離閉体、$\ell\neq\operatorname{char}k$、$X=\operatorname{Spec}k$ とする。$k$ 上のエタール代数は $k$ の有限個の直積なので、$X$ のエタール被覆は常に切断をもち、大域切断をとる関手は完全である。よって $i>0$ で $H^i(X,\mathcal F)=0$ であり、
$$
H^0(X,\mathbb Z_\ell(1))=\varprojlim_\nu\mu_{\ell^\nu}(k)=T_\ell(k^\times)\cong\mathbb Z_\ell,\qquad H^i(X,\mathbb Z_\ell(1))=0\ (i>0)
$$
である。$H^0$ の同型は、前節の列 $\zeta$ の選択による。
$X=\operatorname{Spec}\mathbb R$、$\ell=2$ とする。体のスペクトルのエタールコホモロジーは Galois コホモロジーに一致する([Mil80])ので、$G=\operatorname{Gal}(\mathbb C/\mathbb R)=\{1,\sigma\}$ の群コホモロジーを計算すればよい。$\sigma$ は $\mu_{2^\nu}(\mathbb C)\cong\mathbb Z/2^\nu$ および $\mu_{2^\infty}(\mathbb C)\cong\mathbb Q_2/\mathbb Z_2$ に $-1$ 倍で作用する。位数 $2$ の巡回群のコホモロジーは、$i\geq1$ について
$$
H^{i}(G,A)=\begin{cases}\ker(1-\sigma)/\operatorname{Im}(1+\sigma)&(i\ \text{偶数})\\ \ker(1+\sigma)/\operatorname{Im}(1-\sigma)&(i\ \text{奇数})\end{cases}
$$
で与えられる([Ser62]Ch. VIII)。$\sigma=-1$ なので $1+\sigma=0$、$1-\sigma=2$ であり、
$k$ を代数閉体、$\ell\neq\operatorname{char}k$、$X=\mathbb P^1_k$ とする。$\Gamma(X,\mathcal O_X)=k$、$\operatorname{Pic}(X)\cong\mathbb Z$ である。
$k$ を代数閉体、$\ell\neq\operatorname{char}k$、$C$ を $k$ 上の種数 $g$ の滑らかな射影曲線とする。次数写像 $\operatorname{Pic}(C)\to\mathbb Z$ の核は Jacobi 多様体 $J$ の $k$ 点の群 $J(k)$ であり、$\mathbb Z$ は捩れをもたないので $\operatorname{Pic}(C)[\ell^\nu]=J(k)[\ell^\nu]$ である。アーベル多様体について $J(k)[\ell^\nu]\cong(\mathbb Z/\ell^\nu)^{2g}$ が成り立つこと([Mum70]。ここでは引用)を認めると、Picard 群の Tate 加群の命題から
$$
H^1(C,\mathbb Z_\ell(1))\cong T_\ell(J(k))\cong\mathbb Z_\ell^{2g}
$$
を得る。これは種数 $g$ の閉曲面の $H^1$ の階数 $2g$ と一致する。
$X$ を $\mathbb C$ 上有限型の分離スキームとし、$X(\mathbb C)$ をその複素解析空間とする。比較定理 $H^i(X,\mathbb Z/\ell^\nu)\cong H^i(X(\mathbb C),\mathbb Z/\ell^\nu)$(Artin。[SGA4]Exp. XI(滑らかな場合)、Exp. XVI(一般の場合))と、$H^i(X(\mathbb C),\mathbb Z)$ が各次数で有限生成であることを引用として認める。普遍係数定理による完全列
$$
0\to H^i(X(\mathbb C),\mathbb Z)/\ell^\nu\to H^i(X(\mathbb C),\mathbb Z/\ell^\nu)\to H^{i+1}(X(\mathbb C),\mathbb Z)[\ell^\nu]\to0
$$
の極限をとると(各項は有限、右端の極限は有限群の Tate 加群で $0$)、
$$
H^i(X,\mathbb Z_\ell)\cong H^i(X(\mathbb C),\mathbb Z)\otimes\mathbb Z_\ell
$$
を得る。さらに捻りの同型により、$H^i(X,\mathbb Z_\ell(n))$ も同じ群と(標準的でなく)同型である。
次の二つの主張はどちらも偽である。
$k$ を標数 $p>0$ の代数閉体、$E$ を $k$ 上の通常楕円曲線($E(k)[p]\neq0$ となるもの)とし、$\ell=p$ として定義の式をそのまま使ってみる。$E$ は被約で、被約スキーム上エタールなスキームも被約だから、標数 $p$ の被約環で $s^{p^\nu}=1$ なら $(s-1)^{p^\nu}=0$ より $s=1$ である。よってエタール景上の層 $\mu_{p^\nu}$ は $0$ であり、定義の式は $H^1(E,\mathbb Z_p(1))=0$ を与える。一方、通常楕円曲線では $E(k)[p^\nu]\cong\mathbb Z/p^\nu$ であり([Sil09]Ch. III, §6 と Ch. V, §4。ここでは引用)、$T_p(\operatorname{Pic}(E))=T_p(E(k))\cong\mathbb Z_p\neq0$ となる。
Grothendieck の論文 Le groupe de Brauer III[Gro68]の §8 冒頭は、ℓ 進コホモロジーと Tate 加群の関係の整理から始まる。原論文は、有限体上の算術的な場合を Tate に譲り、基礎体または剰余体が代数閉である「幾何的な」場合に話を限っている。
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