ホモトピー整合的脈体(homotopy coherent nerve)とは、単体的豊穣圏 $\mathcal{C}$ に対し、標準単体を太らせた単体的豊穣圏 $\mathfrak{C}[\Delta^n]$ から $\mathcal{C}$ への単体的関手を $n$ 単体とする単体的集合 $N_{\mathrm{hc}}(\mathcal{C})$ であり、通常の圏の脈体の一般化である。その単体は、合成が等式でなくホモトピーで、しかもホモトピーどうしが高次のホモトピーで整合する形で可換な射の列を表す。写像空間がすべて Kan 複体なら $N_{\mathrm{hc}}(\mathcal{C})$ は準圏になり、左随伴 $\mathfrak{C}$ とともに単体的豊穣圏と準圏という∞圏の $2$ つのモデルを結ぶ。空間の∞圏はこの構成で定義される。単体的脈体ともいう。
ホモトピー整合的脈体は、単体的豊穣圏(写像空間が単体的集合である圏)から単体的集合を作る構成であり、通常の圏の脈体の一般化である。通常の脈体の $n$ 単体は合成可能な $n$ 本の射の列だが、写像空間をもつ圏では、合成は等式ではなくホモトピーを込めて、しかもそのホモトピーどうしが高次のホモトピーで整合する形で記録するのが自然である。ホモトピー整合的脈体はこの「ホモトピー整合的な射の列」を単体とする。写像空間がすべて Kan 複体である単体的豊穣圏では、ホモトピー整合的脈体は準圏(∞圏)になり、単体的豊穣圏による∞圏のモデルと準圏によるモデルを結ぶ。空間の∞圏はこの構成で定義される。
単体的豊穣圏の記号は 単体的豊穣圏 に従う。写像空間を $\operatorname{Map}_{\mathcal C}(x,y)$、小さな単体的豊穣圏と単体的関手の圏を $\mathbf{Cat}_{\Delta}$ と書き、写像空間の頂点を射とする通常の圏(台となる圏)を $\mathcal C_0$ と書く。順序集合 $P$ の脈体を $N(P)$ と書く(脈体)。
$J$ を空でない有限全順序集合とする。単体的豊穣圏 $\mathfrak C[\Delta^J]$ を次で定める。
脈体は積を保つ(脈体 の命題「脈体は積を保つ」)ので合成は単体的写像であり、結合律と単位律は和集合の性質から従う。$J=[n]$ の場合は 単体的豊穣圏 の定義「標準単体の単体的豊穣化 $\mathfrak C[\Delta^n]$」と同じものである(HTT09 Definition 1.1.5.1)。
$i< j$ ごとの頂点 $p_{ij}=\{i,j\}\in\operatorname{Map}(i,j)$ は「$i$ から $j$ へ直接行く射」を表す。$i< k< j$ なら $p_{kj}\circ p_{ik}=\{i,k,j\}\neq p_{ij}$ なので合成の等式は成り立たず、その代わりに辺 $\{i,j\}\subset\{i,k,j\}$ が $p_{ij}$ から $p_{kj}\circ p_{ik}$ へのホモトピーを与える。
順序を保つ写像 $\alpha\colon J\to J'$ に対し、対象を $i\mapsto\alpha(i)$、写像空間の間を順序を保つ写像 $P_{i,j}\to P_{\alpha(i),\alpha(j)}$、$I\mapsto\alpha(I)$ の脈体で定めると、単体的関手 $\mathfrak C[\alpha]\colon\mathfrak C[\Delta^J]\to\mathfrak C[\Delta^{J'}]$ が得られ、$\mathfrak C[\beta\circ\alpha]=\mathfrak C[\beta]\circ\mathfrak C[\alpha]$、$\mathfrak C[\mathrm{id}]=\mathrm{id}$ である。
$I\in P_{i,j}$ なら $I$ は $i,j$ を含み $i$ 以上 $j$ 以下の元からなるので、$\alpha$ が順序を保つことから $\alpha(I)$ は $\alpha(i),\alpha(j)$ を含み $\alpha(i)$ 以上 $\alpha(j)$ 以下の元からなる。よって $\alpha(I)\in P_{\alpha(i),\alpha(j)}$ であり、$I\subset I''$ なら $\alpha(I)\subset\alpha(I'')$ なので写像は順序を保つ。合成を保つことは $\alpha(I\cup I')=\alpha(I)\cup\alpha(I')$、恒等射を保つことは $\alpha(\{i\})=\{\alpha(i)\}$ による。関手性は $(\beta\circ\alpha)(I)=\beta(\alpha(I))$ による。$\blacksquare$
これにより $[n]\mapsto\mathfrak C[\Delta^n]$ は、単体圏 $\Delta$ から $\mathbf{Cat}_{\Delta}$ への関手になる(HTT09 Definition 1.1.5.3 とその後の段落)。
単体的豊穣圏 $\mathcal C$ のホモトピー整合的脈体(homotopy coherent nerve)$N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)$ とは、
$$
N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)_n=\operatorname{Hom}_{\mathbf{Cat}_{\Delta}}(\mathfrak C[\Delta^n],\mathcal C)
$$
を $n$ 単体の集合とし、順序写像 $\alpha\colon[m]\to[n]$ に対する構造写像を $G\mapsto G\circ\mathfrak C[\alpha]$ で定めた単体的集合である。単体的関手 $F\colon\mathcal C\to\mathcal D$ は後合成によって単体的写像 $N_{\mathrm{hc}}(F)\colon N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)\to N_{\mathrm{hc}}(\mathcal D)$ を誘導する。
lem-hcn-functoriality により $N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)$ は単体的集合である。定義は HTT09 Definition 1.1.5.5 による。HTT09 はこれを単体的脈体(simplicial nerve)と呼んで $N(\mathcal C)$ と書き、Rie14 Chapter 16 は homotopy coherent nerve と呼ぶ。この記事では、台となる圏の通常の脈体 $N(\mathcal C_0)$ と区別するために $N_{\mathrm{hc}}$ と書く(両者は一般に異なる。prop-hcn-underlying)。
$0$ 単体は $\mathcal C$ の対象、$1$ 単体は写像空間の頂点、つまり $\mathcal C_0$ の射である($\operatorname{Map}_{\mathfrak C[\Delta^1]}(0,1)=N(P_{0,1})$ は $1$ 点)。$2$ 単体は、対象 $x_0,x_1,x_2$、頂点 $f_{01},f_{12},f_{02}$ と、$\operatorname{Map}(x_0,x_2)$ の辺 $\theta$ で $f_{02}$ から $f_{12}\circ f_{01}$ へ向かうものの組である(単体的豊穣圏 の命題「ホモトピー整合的脈体の $2$ 単体」)。つまり $2$ 単体は、ホモトピー $\theta$ によって可換になる三角形である。
$0\leq i< j\leq n$ とし、$m=j-i-1$ とおく。
(R1) $I\mapsto(\chi_I(i+1),\ldots,\chi_I(j-1))$($\chi_I(k)$ は $k\in I$ なら $1$、そうでなければ $0$)は順序集合の同型 $P_{i,j}\cong[1]^m$ を与え、$\operatorname{Map}_{\mathfrak C[\Delta^n]}(i,j)\cong(\Delta^1)^m$ である。$m=0$ のときは $1$ 点 $\Delta^0$ である。
(R2) $\operatorname{Map}(i,j)$ の頂点は、$i=k_0< k_1<\cdots< k_r=j$ となる列ごとの合成 $p_{k_{r-1}k_r}\circ\cdots\circ p_{k_0k_1}$ であり、これらはすべて異なる。
(R3) $i< k< j$ に対し、合成 $\operatorname{Map}(k,j)\times\operatorname{Map}(i,k)\to\operatorname{Map}(i,j)$ は、(i) の同一視のもとで、$k$ に対応する座標を $1$ とおく包含 $(\Delta^1)^{j-k-1}\times(\Delta^1)^{k-i-1}\to(\Delta^1)^{j-i-1}$ である。
要点:$I\in P_{i,j}$ は両端を必ず含むので、内側の元 $i+1,\ldots,j-1$ をそれぞれ含むかどうかで決まる。これが (i) の同型であり、脈体が積を保つことから立方体が得られる。(ii)(iii) は合成が和集合であることを座標で書いたものである。
(i):$I\in P_{i,j}$ は $i,j$ を必ず含むので、$\{i+1,\ldots,j-1\}$ との共通部分で決まり、逆にその部分集合を任意に選んで $i,j$ を加えれば $P_{i,j}$ の元になる。包含の順序は特性関数の成分ごとの順序に対応するので、$P_{i,j}\cong[1]^m$ である。脈体は積を保ち(脈体 の命題「脈体は積を保つ」)、$N([1])=\Delta^1$ なので $\operatorname{Map}(i,j)=N(P_{i,j})\cong N([1])^m=(\Delta^1)^m$ である。$m=0$ なら $P_{i,j}=\{\{i,j\}\}$ である。
(ii):頂点は $P_{i,j}$ の元 $I$ である。$I=\{k_0< k_1<\cdots< k_r\}$($k_0=i$、$k_r=j$)と書くと、合成が和集合で与えられることから $p_{k_{r-1}k_r}\circ\cdots\circ p_{k_0k_1}=\{k_0,k_1\}\cup\cdots\cup\{k_{r-1},k_r\}=I$ である。異なる列は異なる集合を与える。
(iii):$I\in P_{i,k}$、$I'\in P_{k,j}$ に対し $I\cup I'\in P_{i,j}$ の座標は、$i< l< k$ では $\chi_I(l)$、$l=k$ では $1$、$k< l< j$ では $\chi_{I'}(l)$ である。これは (i) の同一視で、座標を並べて $k$ の位置に $1$ を入れる写像であり、単射で順序を保つ。脈体をとれば主張の包含になる。$\blacksquare$
(ii) により合成は頂点としてはすべて異なるが、立方体は可縮なので、どの $2$ つの合成も「標準的にホモトピック」であり、$\pi_0$ をとると通常の圏 $[n]$ に戻る。HTT09 Remark 1.1.5.2 はこれを「$[n]$ を太らせ、結合性を等式でなく整合的なホモトピーとして課したもの」と説明している。その直前の段落は、幾何学的実現の立方体を $p(i)=p(j)=1$ となる関数 $p\colon\{i,\ldots,j\}\to[0,1]$ の空間として書いている。
$n=3$ では $\operatorname{Map}(0,3)$ は正方形であり、非退化な $2$ 単体は $2$ つの鎖 $\{0,3\}\subset\{0,1,3\}\subset\{0,1,2,3\}$ と $\{0,3\}\subset\{0,2,3\}\subset\{0,1,2,3\}$ である。
C[Δ³] の写像空間 Map(0,3)。4 つの頂点は 0 から 3 への 4 通りの合成、下と左の辺は 2 つの面から、右と上の辺は合成から来る
図の $4$ つの頂点は、$p_{03}$、$p_{13}\circ p_{01}$、$p_{23}\circ p_{02}$、$p_{23}\circ p_{12}\circ p_{01}$ にあたる。右の辺 $\{0,1,3\}\subset\{0,1,2,3\}$ は $\operatorname{Map}(1,3)$ の辺 $\{1,3\}\subset\{1,2,3\}$ と $p_{01}$ の合成、上の辺 $\{0,2,3\}\subset\{0,1,2,3\}$ は $p_{23}$ と $\operatorname{Map}(0,2)$ の辺 $\{0,2\}\subset\{0,1,2\}$ の合成であり((iii))、下と左の辺、対角線、$2$ つの三角形は合成では得られない新しい単体である。
$N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)$ の $3$ 単体を具体的に書く。以下、写像空間の頂点 $f$ と辺 $\theta$ の合成 $\theta\circ f$ は、$\theta$ と $f$ を退化させた辺 $s_0f$ との合成(次数 $1$ の合成)を表す。
単体的関手 $G\colon\mathfrak C[\Delta^3]\to\mathcal C$($N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)$ の $3$ 単体)は、次のデータと $1$ 対 $1$ に対応する。
要点:prop-hcn-cube により $\mathfrak C[\Delta^3]$ の写像空間は $1$ 点、辺 $\Delta^1$($\operatorname{Map}(0,2)$、$\operatorname{Map}(1,3)$)、正方形($\operatorname{Map}(0,3)$)なので、単体的関手はそれぞれの像(頂点、辺 $\theta_{012},\theta_{123}$、$2$ つの三角形)の指定であり、合成を保つ条件が補題の等式になる。
写像空間は、$\operatorname{Map}(0,1),\operatorname{Map}(1,2),\operatorname{Map}(2,3)$ が $1$ 点、$\operatorname{Map}(0,2)=N(\{\{0,2\}\subset\{0,1,2\}\})$ と $\operatorname{Map}(1,3)$ が辺 $\Delta^1$、$\operatorname{Map}(0,3)$ が正方形 $N(P_{0,3})$、自己写像空間が $1$ 点、逆向きが空である。単体的関手 $G$ は、対象の像 $x_i$ と、写像空間ごとの単体的写像 $G_{ij}$ で、合成と恒等射を保つものである。
写像空間ごとのデータ:$G_{01},G_{12},G_{23}$ は頂点 $f_{01},f_{12},f_{23}$ の指定である。$G_{02}$ は辺 $\theta_{012}$ の指定で、その両端 $f_{02}=G(\{0,2\})$ と $G(\{0,1,2\})$ を持つ。$G_{13}$ も同様に $\theta_{123}$ を与える。$N(P_{0,3})$ は $2$ つの非退化 $2$ 単体($a=\{0,3\}$、$b=\{0,1,3\}$、$d=\{0,2,3\}$、$c=\{0,1,2,3\}$ として鎖 $a< b< c$ と $a< d< c$)の和で、両者の共通部分は辺 $a< c$ の脈体である。$N(P_{0,3})$ のどの単体もどちらかの鎖に含まれるので、$G_{03}$ は $2$ つの $2$ 単体 $\tau_b=G_{03}(a< b< c)$、$\tau_d=G_{03}(a< d< c)$ で $d_1\tau_b=d_1\tau_d$(辺 $a< c$ の像)となるものの指定と同じである(脈体 の補題「ホーンからの写像」と同じ貼り合わせの議論)。$f_{03}=G(a)$、$f_{13}=G(\{1,3\})$ とおき、$\theta_{013}=G_{03}(a< b)$、$\theta_{023}=G_{03}(a< d)$ とおく。
合成を保つ条件:恒等射を含む合成については条件がない。残りは $i< j< k$ の $4$ 通りである。$(0,1,2)$:$\{0,1\}\cup\{1,2\}=\{0,1,2\}$ から $G(\{0,1,2\})=f_{12}\circ f_{01}$、つまり $d_0\theta_{012}=f_{12}\circ f_{01}$。$(1,2,3)$:同様に $d_0\theta_{123}=f_{23}\circ f_{12}$。$(0,1,3)$:$\operatorname{Map}(1,3)\times\operatorname{Map}(0,1)\to\operatorname{Map}(0,3)$ は辺 $\{1,3\}\subset\{1,2,3\}$ を辺 $b< c$ へ送るので、$G_{03}(b< c)=\theta_{123}\circ f_{01}$、つまり $d_0\tau_b=\theta_{123}\circ f_{01}$ であり、頂点では $G(b)=f_{13}\circ f_{01}$、すなわち $d_0\theta_{013}=f_{13}\circ f_{01}$ である。$(0,2,3)$:同様に辺 $\{0,2\}\subset\{0,1,2\}$ と $\{2,3\}$ の合成が辺 $d< c$ なので $d_0\tau_d=f_{23}\circ\theta_{012}$、$G(d)=f_{23}\circ f_{02}$ である。$3$ つ以上の合成の条件(たとえば $G(c)=f_{23}\circ f_{12}\circ f_{01}$)はこれらから従う。$d_1\theta_{ijk}=f_{ik}$ は頂点 $\{i,k\}$ の像の定義である。
逆に、補題のデータがこれらの等式を満たせば、各写像空間の単体的写像は合成と恒等射を保ち、単体的関手を定める。面については、$\mathfrak C[\delta^k]$ は $\mathfrak C[\Delta^2]$ の辺 $\{0,2\}\subset\{0,1,2\}$ を、$[3]\setminus\{k\}=\{u< v< w\}$ に対する辺 $\{u,w\}\subset\{u,v,w\}$ へ送る。$k=0,1,2,3$ でこれは順に $\{1,3\}\subset\{1,2,3\}$、$a< d$、$a< b$、$\{0,2\}\subset\{0,1,2\}$ であり、その像が $\theta_{123},\theta_{023},\theta_{013},\theta_{012}$ である。$\blacksquare$
この補題の正方形は、図のとおり、$4$ つの面から来る $4$ 本の辺のうち $2$ 本(下と左)と、合成から来る $2$ 本(右と上)で囲まれている。$3$ 単体を与えることは、$4$ つの三角形のホモトピーを与えたうえで、それらを貼り合わせた正方形の境界を $2$ つの三角形で埋めること、つまり「ホモトピーの間のホモトピー」を与えることである。Rie14 Example 16.3.3 は、同じ正方形を形状 $[3]$ のホモトピー整合的図式として描いている。
単体的豊穣圏 $\mathcal C$ に対し、写像空間の高次の単体を捨てた台となる圏 $\mathcal C_0$ の通常の脈体 $N(\mathcal C_0)$ も考えられる。これはホモトピー整合的脈体の一部として含まれるが、一般には一致しない。
$\pi\colon\mathfrak C[\Delta^n]\to[n]$ を、対象の上で恒等的で、各写像空間をただ $1$ 点へ送る単体的関手とする($[n]$ は離散的な単体的圏とみなす)。関手 $u\colon[n]\to\mathcal C_0$ に対し、$u$ を離散的な単体的圏からの単体的関手とみなして $u\circ\pi$ を対応させると、単射な単体的写像
$$
N(\mathcal C_0)\to N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)
$$
が得られる。$\mathcal C$ が離散的な単体的圏(通常の圏)なら、これは同型である。
要点:$\pi$ は写像空間を $1$ 点へつぶす単体的関手で、$\mathfrak C[\alpha]$ と両立するので、前合成 $u\mapsto u\circ\pi$ は単体的写像であり、$\pi$ が写像空間の上で全射なので単射である。離散的な場合は、連結な立方体から定値単体的集合への単体的写像が定値であることから全射が従う。
$\pi$ が単体的関手であること:$[n]$ の写像空間は $i\leq j$ で $1$ 点、$i>j$ で空であり、$\mathfrak C[\Delta^n]$ の写像空間が空になるのも $i>j$ のときだけなので、$\pi$ は写像空間ごとの単体的写像として定まり、$1$ 点への写像なので合成と恒等射を保つ。順序写像 $\alpha$ について $\alpha\circ\pi=\pi\circ\mathfrak C[\alpha]$(両辺とも対象を $\alpha$ で送り、写像空間を $1$ 点へ送る)なので、対応は構造写像と両立し、単体的写像になる。関手 $[n]\to\mathcal C_0$ は、$\operatorname{Map}_{\mathcal C}$ の頂点、つまり $\Delta^0$ からの単体的写像で合成と恒等射を保つものの族なので、離散的な $[n]$ からの単体的関手と同じである。
単射であること:$u\circ\pi=u'\circ\pi$ とする。$\pi$ は対象の上で恒等的で、$i\leq j$ の写像空間の上で全射なので、$u$ と $u'$ は対象と射の上で一致する。
離散的な場合:$\mathcal C$ の写像空間が定値単体的集合なら、連結な単体的集合からの単体的写像は定値である(辺の両端は同じ元へ行く)。prop-hcn-cube により $\mathfrak C[\Delta^n]$ の写像空間は立方体で連結なので、単体的関手 $G\colon\mathfrak C[\Delta^n]\to\mathcal C$ は各写像空間を $1$ 点へ送り、$G=u\circ\pi$ と書ける。ここで $u(i\leq j)$ は $G_{ij}$ の値であり、$G$ が合成を保つことから $u$ は関手である。よって写像は全射でもある。$\blacksquare$
離散的な場合の同型は HTT09 Example 1.1.5.8 であり、単体的豊穣圏 の命題「離散的な単体的圏では通常の脈体に一致する」でも $\pi_0$ を使って示されている。Rie14 Remark 16.3.6 は、$\mathfrak C\dashv N_{\mathrm{hc}}$ と $\pi_0$ による豊穣化の取り替えを合成すると、基本圏と通常の脈体の随伴になることを述べている。離散的でない場合、この単射は一般には全射でない。
$\mathcal C=\mathfrak C[\Delta^2]$ とし、恒等関手 $\mathrm{id}\colon\mathfrak C[\Delta^2]\to\mathcal C$ を $N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)$ の $2$ 単体とみなす。その境界の $3$ 辺は $\mathcal C_0$ の射 $p_{01},p_{12},p_{02}$ だが、$\mathcal C_0$ では $p_{12}\circ p_{01}=\{0,1,2\}\neq\{0,2\}=p_{02}$ なので、この三角形は $\mathcal C_0$ で可換でない。したがって同じ境界をもつ $2$ 単体は $N(\mathcal C_0)$ になく、この $2$ 単体は prop-hcn-underlying の単射の像に入らない。
この例は「単体的豊穣圏の台となる圏の脈体をとる」素朴な構成とホモトピー整合的脈体の違いを示している。単体的豊穣圏では三角形は等式でなくホモトピー(ここでは辺 $\{0,2\}\subset\{0,1,2\}$)で可換になり、それを記録するのがホモトピー整合的脈体である。満たす性質は「$\mathcal C$ は単体的豊穣圏である」、満たさない性質は「$\mathcal C$ の写像空間が離散的である」であり、「$N(\mathcal C_0)\to N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)$ は同型」がこの例で成り立たない(HTT09 Warning 1.1.5.7、Rie14 §16.3 の冒頭)。
ホモトピー整合的脈体は、単体的集合から単体的豊穣圏を作る関手 $\mathfrak C$ の右随伴である。$\mathbf{Cat}_{\Delta}$ は小さな余極限をもつ(HTT09 §1.1.5、Example 1.1.5.9 の直前の段落)。
単体的集合 $X$ に対し、$X$ の単体の圏 $\Delta\downarrow X$(対象は単体 $\sigma\colon\Delta^n\to X$、射は $\sigma=\sigma'\circ\alpha$ となる順序写像 $\alpha$)上の図式 $\sigma\mapsto\mathfrak C[\Delta^n]$ の余極限を
$$
\mathfrak C[X]=\operatorname*{colim}_{(\sigma\colon\Delta^n\to X)\in\Delta\downarrow X}\mathfrak C[\Delta^n]
$$
と定める。単体的写像 $f\colon X\to Y$ は $\sigma\mapsto f\circ\sigma$ によって単体的関手 $\mathfrak C[f]\colon\mathfrak C[X]\to\mathfrak C[Y]$ を誘導する。
$X=\Delta^n$ のときは $\Delta\downarrow\Delta^n$ が終対象 $\mathrm{id}$ をもつので、余極限は $\mathfrak C[\Delta^n]$ そのものであり、記号は矛盾しない。
単体的集合 $X$ と単体的豊穣圏 $\mathcal C$ について、$X$ と $\mathcal C$ に関して自然な全単射
$$
\operatorname{Hom}_{\mathbf{Cat}_{\Delta}}(\mathfrak C[X],\mathcal C)\cong\operatorname{Hom}_{\mathbf{sSet}}(X,N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C))
$$
がある。つまり $\mathfrak C$ は $N_{\mathrm{hc}}$ の左随伴である。
余極限の普遍性、米田の補題($\operatorname{Hom}(\Delta^n,K)=K_n$)、$N_{\mathrm{hc}}$ の定義を順に使うと
$$
\operatorname{Hom}(\mathfrak C[X],\mathcal C)\cong\lim_{\sigma}\operatorname{Hom}(\mathfrak C[\Delta^n],\mathcal C)=\lim_{\sigma}N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)_n\cong\lim_{\sigma}\operatorname{Hom}(\Delta^n,N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C))\cong\operatorname{Hom}\bigl(\operatorname*{colim}_{\sigma}\Delta^n,N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)\bigr)
$$
であり、極限はすべて $\Delta\downarrow X$ の上でとる。どの単体的集合も単体の圏の上で標準単体の余極限である($X\cong\operatorname{colim}_{\sigma\in\Delta\downarrow X}\Delta^n$。Rie16 Theorem 6.5.9、Rie14 Example 7.2.8)ので、右端は $\operatorname{Hom}(X,N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C))$ である。各段の全単射は $\mathcal C$ について自然であり、$X$ についても $\Delta\downarrow X$ の関手性から自然である。具体的には、単体的関手 $G\colon\mathfrak C[X]\to\mathcal C$ に対応する単体的写像は、$n$ 単体 $\sigma$ を合成 $\mathfrak C[\Delta^n]\to\mathfrak C[X]\xrightarrow{G}\mathcal C$ へ送る。$\blacksquare$
この議論は、余極限をもつ圏への関手を米田埋め込みに沿って延ばすと左随伴が得られる、という一般の命題(Rie16 Proposition 6.5.12)の場合である(HTT09 §1.1.5、Rie14 Chapter 16 の冒頭)。$\mathfrak C$ は $\mathfrak C[\Delta^\bullet]$ を米田埋め込み $y\colon\Delta\to\mathbf{sSet}$ に沿って延ばしたものである。
$$
\xymatrix{
\Delta \ar[r]^{y} \ar[dr]_{\mathfrak C[\Delta^\bullet]} & \mathbf{sSet} \ar[d]^{\mathfrak C} \\
& \mathbf{Cat}_{\Delta}
}
$$
図式の等式は $\mathfrak C[y([n])]=\mathfrak C[\Delta^n]$ である。随伴により、ホーン $\Lambda^n_k$ や境界 $\partial\Delta^n$ からの写像は、$\mathfrak C[\Lambda^n_k]$、$\mathfrak C[\partial\Delta^n]$ からの単体的関手として調べられる(次の節の注意)。
単体的豊穣圏 $\mathcal C$ は、すべての写像空間が Kan複体 であるとき局所 Kan という(単体的豊穣圏 の定義「局所 Kan、Dwyer–Kan 同値」)。準圏(∞圏)とは、内部のホーン $\Lambda^n_k\to X$($0< k< n$)がすべて $\Delta^n$ へ延びる単体的集合である。
(i):$\Lambda^2_1$ からの写像は、辺 $f_{01}\colon x_0\to x_1$ と $f_{12}\colon x_1\to x_2$ の組である(脈体 の補題「ホーンからの写像」)。$f_{02}=f_{12}\circ f_{01}$、$\theta=s_0f_{02}$(退化した辺)とおけば、単体的豊穣圏 の命題「ホモトピー整合的脈体の $2$ 単体」により $2$ 単体が得られ、その面 $d_2,d_0$ は $f_{01},f_{12}$ である。
(ii):$\Lambda^3_1$ の場合。脈体 の補題「ホーンからの写像」により、ホーンは $2$ 単体 $y_0,y_2,y_3$(面 $d_0,d_2,d_3$ になるもの)で共通の辺が一致する族である。$[3]$ のどの辺も $d_0,d_2,d_3$ のどれかの面に含まれるので、ホーンから対象 $x_0,\ldots,x_3$、$6$ つの頂点 $f_{ij}$、辺 $\theta_{123}$($y_0$ から)、$\theta_{013}$($y_2$ から)、$\theta_{012}$($y_3$ から)が得られ、$d_1\theta_{ijk}=f_{ik}$、$d_0\theta_{ijk}=f_{jk}\circ f_{ij}$ を満たす。lem-hcn-three-simplices により、延長を作るには $\theta_{023}$ と $2$ 単体 $\tau_b,\tau_d$ を見つければよい。
$K=\operatorname{Map}(x_0,x_3)$ は Kan 複体である。辺 $\theta_{013}$($f_{03}$ から $f_{13}f_{01}$ へ)と $\theta_{123}\circ f_{01}$($f_{13}f_{01}$ から $f_{23}f_{12}f_{01}$ へ)は $K$ のホーン $\Lambda^2_1$ を定めるので、$d_2\tau_b=\theta_{013}$、$d_0\tau_b=\theta_{123}\circ f_{01}$ となる $2$ 単体 $\tau_b$ がある。その辺 $g=d_1\tau_b$ は $f_{03}$ から $f_{23}f_{12}f_{01}$ へ向かう。次に、辺 $g$($d_1$ の位置)と $f_{23}\circ\theta_{012}$($f_{23}f_{02}$ から $f_{23}f_{12}f_{01}$ へ。$d_0$ の位置)は $K$ のホーン $\Lambda^2_2$ を定めるので、$d_1\tau_d=g$、$d_0\tau_d=f_{23}\circ\theta_{012}$ となる $2$ 単体 $\tau_d$ がある。$\theta_{023}=d_2\tau_d$ は $f_{03}$ から $f_{23}f_{02}$ への辺である。これで lem-hcn-three-simplices のデータがそろい、得られた $3$ 単体の面 $d_0,d_2,d_3$ は、それぞれ $\theta_{123},\theta_{013},\theta_{012}$ で表される与えられた $2$ 単体である。
$\Lambda^3_2$ の場合は、左と上の辺から始めて同じ $2$ 段を逆の順に行う。$\blacksquare$
図で見ると、$\Lambda^3_1$ の延長は、正方形の下・右・上の $3$ 辺が与えられたときに、まず右下の三角形を Kan 性で埋めて対角線を作り、次に左上の三角形を埋めて左の辺を作ることにあたる。(i) で局所 Kan を仮定しないのは、$n=2$ では埋めるべき写像空間の単体が退化した辺でよいからである。
$\mathcal C$ が局所 Kan なら、$N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)$ は準圏(∞圏)である。
HTT09 Proposition 1.1.5.10、Rie14 Lemma 16.4.10 による(単体的豊穣圏 の定理「局所 Kan な単体的圏の脈体は準圏である」と同じ主張)。この記事では $n\leq3$ の場合だけを証明した。一般の $n$ では、随伴(thm-hcn-adjunction)により内部ホーンの延長は単体的関手 $\mathfrak C[\Lambda^n_k]\to\mathcal C$ の $\mathfrak C[\Delta^n]$ への延長になる。$\mathfrak C[\Lambda^n_k]$ は $\mathfrak C[\Delta^n]$ と $\operatorname{Map}(0,n)$ だけが違い、そこは立方体 $(\Delta^1)^{n-1}$ から内部と $1$ つの面を除いたものなので、問題はその部分からの写像を立方体全体へ延ばすことになる。この包含は弱ホモトピー同値な単射であり、Kan 複体への写像はいつも延びる。thm-hcn-low-horns は、この延長を $n=3$ で三角形ごとに行ったものである(米田の補題(∞圏) の節「ホモトピー整合的脈体の具体的な定義」にも筋書きがある)。
$\mathfrak C[\Delta^3]$ の正方形 $\operatorname{Map}(0,3)=N(P_{0,3})$ の頂点を $a=\{0,3\}$、$b=\{0,1,3\}$、$d=\{0,2,3\}$、$c=\{0,1,2,3\}$ とし、$P_{0,3}$ から関係 $a< d$ だけを除いた順序集合を $Q$ とする($a< b< c$、$a< c$、$d< c$ は残す。推移律を満たすので順序集合である)。単体的豊穣圏 $\mathcal C'$ を、$\mathfrak C[\Delta^3]$ と同じ対象・写像空間をもち、$\operatorname{Map}(0,3)$ だけを部分単体的集合 $N(Q)\subset N(P_{0,3})$ に取り替えたものとする。
$\mathcal C'$ は $\mathfrak C[\Delta^3]$ の部分単体的圏(合成で閉じている)であり、包含は単射な単体的写像 $N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C')\to N_{\mathrm{hc}}(\mathfrak C[\Delta^3])$ を誘導する。
反例の写像空間 N(Q)。a から b、b から c、d から c、a から c の辺と三角形 abc はあるが、a から d への辺はない
図のとおり $N(Q)$ には $a$ から $d$ への辺がなく、左上の三角形もない。この反例では、thm-hcn-low-horns の証明の第 $2$ 段($\Lambda^2_2$ の充填で左の辺を作る)がちょうど失敗している。
通常の小さな圏 $\mathcal A$ を離散的な単体的圏とみなすと、prop-hcn-underlying により $N_{\mathrm{hc}}(\mathcal A)$ は通常の脈体 $N(\mathcal A)$ である。離散的な写像空間は Kan 複体(Kan複体 の例「定値単体的集合」)なので $\mathcal A$ は局所 Kan であり、thm-hcn-quasicategory は「圏の脈体は準圏である」という事実(脈体 の命題「脈体のホーンと境界の充填」)を含む。
Kan 複体と単体的写像の単体的豊穣圏 $\mathbf{Kan}$(単体的豊穣圏 の例「Kan 複体の単体的圏」)は局所 Kan であり、そのホモトピー整合的脈体 $\mathcal S=N_{\mathrm{hc}}(\mathbf{Kan})$ が空間の∞圏である(空間の∞圏 の定義「空間の∞圏」)。$\mathcal S$ の対象は Kan 複体、$1$ 単体は単体的写像、$2$ 単体は写像の合成と写像の間のホモトピーの組であり、thm-hcn-quasicategory により $\mathcal S$ は準圏である。
写像空間が位相空間である圏(位相的な圏)$\mathcal D$ に対しては、各写像空間に特異単体的集合 $\operatorname{Sing}$ をとった単体的豊穣圏 $\operatorname{Sing}\mathcal D$ のホモトピー整合的脈体を、$\mathcal D$ の位相的脈体という(HTT09 Definition 1.1.5.5)。特異単体的集合は Kan 複体なので、位相的脈体はいつも準圏である(HTT09 Corollary 1.1.5.12)。位相空間の圏については、単体的豊穣圏 の例「位相空間の単体的圏」の単体的豊穣圏も局所 Kan であり、そのホモトピー整合的脈体の $2$ 単体は、連続写像 $f\colon X\to Y$、$g\colon Y\to Z$、$h\colon X\to Z$ とホモトピー $h\simeq g\circ f$ の組である。
モデル圏のうち写像空間を単体的集合として備えた単体的モデル圏 $\mathcal M$ では、ファイブラントかつコファイブラントな対象の張る充満部分圏 $\mathcal M^{\circ}$ の写像空間は Kan 複体であり、$N_{\mathrm{hc}}(\mathcal M^{\circ})$ は $\mathcal M$ に付随する準圏になる(Rie14 Example 16.4.11)。ここで対象を制限するのは、一般の対象の間の写像空間は Kan 複体とは限らず、ex-hcn-not-quasicategory のように準圏にならないおそれがあるからである。
小さな圏 $\mathcal A$ と局所 Kan な単体的圏 $\mathcal C$ に対し、随伴(thm-hcn-adjunction)により、単体的写像 $N(\mathcal A)\to N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)$ は単体的関手 $\mathfrak C[N(\mathcal A)]\to\mathcal C$ と同じものである。これを形状 $\mathcal A$ のホモトピー整合的図式という。$\mathcal A=[n]$ なら $N([n])=\Delta^n$ で、ホモトピー整合的図式は $N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)$ の $n$ 単体そのものである。$\mathfrak C[N(\mathcal A)]$ は、$\mathcal A$ の射の列に括弧を重ねて付けたものを単体とする単体的豊穣圏(自由圏の余モナドによる分解)と同型であり(Rie14 Theorem 16.4.7)、この形のホモトピー整合的図式は Cordier と Porter が、局所 Kan な単体的圏で図式の対象をホモトピー同値なものに取り替える問題などに使った(Rie14 Propositions 16.3.1、16.3.2)。
ホモトピー整合的脈体は、∞圏の $2$ つのモデルの間の比較を与える。次の定理は言明と出典だけを挙げる。
単体的集合の圏には、コファイブレーションが単射で、ファイブラントな対象がちょうど準圏であるモデル構造(Joyal のモデル構造)がある。小さな単体的豊穣圏の圏 $\mathbf{Cat}_{\Delta}$ には、弱同値が Dwyer–Kan 同値で、ファイブラントな対象がちょうど局所 Kan な単体的圏であるモデル構造(Bergner のモデル構造)がある。随伴 $\mathfrak C\dashv N_{\mathrm{hc}}$ は、この $2$ つのモデル構造の間の Quillen 同値である。
HTT09 Theorem 2.2.5.1(Joyal のモデル構造を $\mathfrak C$ を使って特徴づけ、$(\mathfrak C,N_{\mathrm{hc}})$ が Quillen 同値であることを述べる)、Rie14 Theorem 16.1.2(Bergner のモデル構造)と Theorem 16.3.7(Quillen 同値)による。この記事では証明しない(HTT09 §2.2 全体と付録を要する)。Dwyer–Kan 同値の定義は 単体的豊穣圏 にある。位相的な圏については、$\mathcal D$ の対象 $X,Y$ に対し、余単位が写像空間の弱ホモトピー同値 $\lvert\operatorname{Map}_{\mathfrak C[N_{\mathrm{hc}}(\operatorname{Sing}\mathcal D)]}(X,Y)\rvert\to\operatorname{Map}_{\mathcal D}(X,Y)$ を与える(HTT09 Theorem 1.1.5.13)。
この定理により、局所 Kan な単体的圏とその間の Dwyer–Kan 同値で考えることと、準圏とその間の圏同値で考えることは、ホモトピー論として同じになる。単体的豊穣圏の側では合成が厳密に結合的で計算しやすく、準圏の側では極限・随伴などの∞圏論が展開しやすい。ホモトピー整合的脈体は前者で作った例(空間の∞圏など)を後者へ移す標準的な道具である(∞圏における基礎圏論 の定義「局所Kanな単体的圏と整合的脈体」)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 写像空間が Kan 複体(局所 Kan) | $\operatorname{Map}(0,3)$ を $N(Q)$ にした $\mathcal C'$ | $N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)$ が準圏である($\Lambda^3_1$ が埋まる) |
| 写像空間が離散的 | $\mathfrak C[\Delta^2]$ 自身 | $N(\mathcal C_0)\to N_{\mathrm{hc}}(\mathcal C)$ が同型である |
各行の確認は ex-hcn-not-quasicategory と ex-hcn-underlying-not-enough にある。
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