固有射

同義語:proper morphism固有な射プロパー射

概要

固有射(proper morphism)とは、スキームの射 $f\colon X\to Y$ のうち、分離・有限型かつ普遍閉(任意の底変換が閉写像)であるものをいう。位相空間論のコンパクト Hausdorff 空間や固有写像にあたる性質を Zariski 位相のもとで正しく働く形にしたもので、付値環からの射の延長がただ 1 つ存在するという付値判定法で特徴づけられる。射影射・閉埋め込み・有限射・ブローアップは固有であり、固有射は合成・底変換・積で閉じる。体上固有なスキームを完備といい、$\mathbb{A}^1_k$ や開埋め込みは固有でない。固有射は連接層の高次順像を連接に保ち(有限性定理)、Chow の補題により射影射に帰着でき、Stein 分解をもつ。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: スキーム, 有限型射, 分離射, ファイバー積, 閉写像, 付値環, 射影空間

定義

固有射は、スキームの射のうち、位相空間の連続写像における「コンパクト空間からの写像」や固有写像(コンパクト集合の逆像がコンパクトな写像)にあたる性質を、Zariski位相のもとでも正しく働く形に言い換えたものである。まず「普遍閉」を定義し、次に固有射を定義する。

普遍閉な射

スキームの射 $f\colon X\to Y$ が普遍閉(universally closed)であるとは、任意のスキームの射 $Y'\to Y$ に対して、底変換 $f'\colon X\times_YY'\to Y'$ が下部の位相空間の写像として閉写像(閉集合の像がつねに閉集合)であることをいう。

$Y'=Y$ ととれば、普遍閉な射自身は閉写像である。逆は成り立たない(ex-proper-morphism-affine-line)。

固有射の定義

スキームの射 $f\colon X\to Y$ が固有(proper)である、または固有射(proper morphism)であるとは、次の 3 条件をみたすことをいう。

  1. $f$ は分離射である。すなわち対角射 $\Delta_f\colon X\to X\times_YX$ が閉埋め込みである。
  2. $f$ は有限型射である。すなわち $Y$ の各アフィン開集合 $\operatorname{Spec}B$ の逆像が有限個のアフィン開集合 $\operatorname{Spec}A_i$ で覆え、各 $A_i$ が有限生成 $B$ 代数(有限生成代数)である。
  3. $f$ は普遍閉である。
    体 $k$ 上のスキーム $X$ について、構造射 $X\to\operatorname{Spec}k$ が固有であるとき、$X$ は $k$ 上固有である、または完備(complete)であるという。

3 条件はいずれも底 $Y$ 上局所的($Y$ の開被覆の各開集合の上で確かめればよい)で、固有性も $Y$ 上局所的である。定義は Har77 II.4、EGA2 5.4.1 と同じである。

固有性の付値判定法

$f\colon X\to Y$ を有限型かつ準分離な射(準分離射。$X$ が Noetherスキームなら自動的にみたされる)とする。$f$ が固有であるための必要十分条件は、次が成り立つことである。任意の付値環 $R$ とその商体 $K$、任意の射 $s\colon\operatorname{Spec}R\to Y$、および $s$ と両立する任意の射 $u\colon\operatorname{Spec}K\to X$($f\circ u$ が $\operatorname{Spec}K\to\operatorname{Spec}R\xrightarrow{s}Y$ に等しい)に対して、射 $t\colon\operatorname{Spec}R\to X$ で、$\operatorname{Spec}K$ への制限が $u$ に等しく $f\circ t=s$ をみたすものがただ 1 つ存在する。
このような $t$ の存在だけを要求した条件は($f$ が準コンパクトなら)$f$ が普遍閉であることと同値であり、一意性だけを要求した条件は($f$ が準分離なら)$f$ が分離であることと同値である。

付値判定法の出典

証明は Har77 II 定理 4.7($X$ が Noether スキームの場合)、EGA2 7.3.8、および Stacks Tag 0BX5(有限型かつ準分離な射)に譲る。$X$ が Noether スキームなら $R$ を離散付値環に限ってよい(Har77 II 演習 4.11、EGA2 7.3.10)。thm-proper-morphism-projective の証明で用いる。

直感

位相空間論では、Hausdorff空間 $X$ がコンパクトであることは、任意の空間 $T$ に対して射影 $X\times T\to T$ が閉写像であることと同値である(Kuratowski の定理)。Zariski 位相では体上有限型のスキームはどれも準コンパクトで、$\mathbb{A}^1_k\to\operatorname{Spec}k$ も閉写像なので、準コンパクト性や閉写像性だけでは $\mathbb{A}^1$ と $\mathbb{P}^1$ を区別できない。しかし $\mathbb{A}^1\times\mathbb{A}^1\to\mathbb{A}^1$ は双曲線 $xy=1$ を $\mathbb{A}^1\setminus\{0\}$ に写して閉写像でなく、普遍閉の条件はこの現象を捉える。分離性は Hausdorff 性にあたり、付値判定法の言葉では「極限の一意性」が分離性、「極限の存在」が普遍閉性である。$\operatorname{Spec}R$ は曲線の芽(生成点 $\operatorname{Spec}K$ と閉点)と思えるので、付値判定法は「$X$ の中の曲線の芽が $Y$ の中で極限をもてば、その極限は $X$ の中にただ 1 つある」という点列コンパクト性の類似である。$\mathbb{C}$ 上有限型の分離スキーム $X$ が固有であることは、複素点の集合 $X(\mathbb{C})$ が古典位相でコンパクトであることと同値である(Har77 Appendix B、GAGA)。

例と反例

射影スキームと射影多様体

射影射は固有である(thm-proper-morphism-projective)。とくに $\mathbb{P}^n_S\to S$ は固有で、体 $k$ 上の射影多様体 $X\subset\mathbb{P}^n_k$ は $k$ 上完備である。たとえば $\mathbb{P}^1_k$、平面 3 次曲線 $y^2z=x^3+axz^2+bz^3$、Grassmann多様体は完備である。

閉埋め込みと有限射

閉埋め込みは固有である(prop-proper-morphism-closed-immersion)。有限射も固有である(prop-proper-morphism-finite)。たとえば体の拡大 $L/K$ が有限次のとき $\operatorname{Spec}L\to\operatorname{Spec}K$、整域 $A$ の整閉包 $\tilde{A}$ が有限 $A$ 加群のとき正規化 $\operatorname{Spec}\tilde{A}\to\operatorname{Spec}A$、$x\mapsto x^n$ で定まる $\mathbb{A}^1_k\to\mathbb{A}^1_k$($k[x]$ は $k[x^n]$ 上階数 $n$ の自由加群)はいずれも有限射であり、したがって固有である。

ブローアップと特異点解消

Noetherスキーム $X$ の連接層であるイデアル層 $\mathcal{I}$ によるブローアップ $\pi\colon\operatorname{Bl}_{\mathcal{I}}X\to X$ は $\mathbf{Proj}\bigoplus_{d\ge0}\mathcal{I}^d$ の構造射であり、$\mathcal{I}$ が連接なので EGA2 の意味で射影的(rem-proper-morphism-projective-definition。$X$ が Noether 環上準射影的(準射影スキーム)なら Har77 II.7 の意味でも射影的)で、したがって固有である。$X$ が整スキームで $\mathcal{I}\ne0$ なら $\pi$ は固有かつ双有理写像である。特異点解消 $X'\to X$ も固有な双有理射である。

反例:アフィン直線

$k$ を体とし、$f\colon\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[x]\to\operatorname{Spec}k$ を構造射とする。$f$ は分離・有限型であり、閉写像でもある($\operatorname{Spec}k$ は 1 点)。しかし $f$ は普遍閉でない。実際、$Y'=\mathbb{A}^1_k=\operatorname{Spec}k[y]$ による底変換は射影 $p\colon\mathbb{A}^2_k=\operatorname{Spec}k[x,y]\to\operatorname{Spec}k[y]$ であり、閉集合 $Z=V(xy-1)$ の像は $\mathbb{A}^1_k\setminus\{0\}=D(y)$ で閉でない。$Z$ の点は $k[x,y]/(xy-1)\cong k[y,y^{-1}]$ の素イデアルに対応し、その $k[y]$ への制限は $y$ を含まない素イデアル全体をちょうど尽くすからである。付値判定法でいえば、$R=k[x^{-1}]_{(x^{-1})}$、$K=k(x)$ とし、$u\colon\operatorname{Spec}K\to\mathbb{A}^1_k$ を $k[x]\subset K$ で定めると、$x\notin R$ なので $u$ は $\operatorname{Spec}R$ に延びない。破る含意:「閉写像ならば普遍閉」は成り立たない。

反例:開埋め込み

開埋め込み $j\colon U=\mathbb{A}^1_k\setminus\{0\}=\operatorname{Spec}k[x,x^{-1}]\to\mathbb{A}^1_k$ は分離(アフィン射)かつ有限型であるが、像 $U$ が閉でないので閉写像でなく、したがって固有でない。一般に開埋め込み $j\colon U\to X$ が固有であるのは $U$ が開かつ閉集合のときに限る。固有なら $U=j(U)$ は閉であり、逆に $U$ が開かつ閉なら $j$ は閉埋め込みでもあるから prop-proper-morphism-closed-immersion により固有である。破る含意:「単射な有限型の射で像が稠密ならば固有」は成り立たない。

反例:原点を 2 重にした射影直線

$\mathbb{P}^1_k$ の 2 つのコピー $X_1,X_2$ を開集合 $\mathbb{P}^1_k\setminus\{0\}$ に沿って恒等写像で貼り合わせたスキーム $X$ を考える(原点が 2 重になった射影直線)。$X$ は $k$ 上有限型で普遍閉であるが、分離でない。普遍閉であること:任意の $T\to\operatorname{Spec}k$ について $X_T=X\times_kT$ は開集合 $(X_1)_T,(X_2)_T$ で覆われ、それぞれ $\mathbb{P}^1_T$ と同型で $T$ 上閉写像である(thm-proper-morphism-projective)。$X_T$ の閉集合 $Z$ に対し $Z\cap(X_i)_T$ の像 $Z_i$ は $T$ で閉であり、$Z$ の像は $Z_1\cup Z_2$ で閉である。分離でないこと:2 つの原点 $0_1,0_2$ について、$X\times_kX$ の点 $(0_1,0_2)$ は対角線の像の閉包に含まれるが対角線の像には含まれない(Har77 II 例 4.0.1、分離射)。付値判定法では、延長 $\operatorname{Spec}R\to X$ が存在するが一意でない($0_1$ に収束するものと $0_2$ に収束するものがある)。破る含意:「有限型かつ普遍閉ならば固有」は成り立たない。

反例:射影的でない固有スキーム

固有射は射影射の一般化であるが、逆は成り立たない。Hironaka は、$\mathbb{C}$ 上完備で非特異な 3 次元の代数多様体で射影的でないものを構成した(Har77 Appendix B 例 3.4.1。2 本の曲線に沿うブローアップの順序を場所ごとに入れ替えて貼り合わせる)。Nagata は完備で射影的でない特異曲面を構成した。一方、完備な代数曲線と完備で非特異な代数曲面はつねに射影的である(Zariski。以上 Har77 II 注意 4.10.2)。トーリック多様体にも完備で射影的でない 3 次元の例がある。破る含意:「固有ならば射影的」は成り立たない。Chow の補題(thm-proper-morphism-chow)は、固有スキームが射影スキームに双有理に支配されることを示し、この隔たりを埋める。

性質

基本的な固有射と閉じている操作

閉埋め込みの固有性

閉埋め込み $i\colon Z\to X$ は固有である。

閉埋め込みの 3 条件の確認

$\mathcal{I}\subset\mathcal{O}_X$ を $Z$ のイデアル層とする。$X$ のアフィン開集合 $V=\operatorname{Spec}B$ に対し $i^{-1}(V)=\operatorname{Spec}B/I$($I=\mathcal{I}(V)$)であるから $i$ は有限型である。閉埋め込みの底変換は閉埋め込みである($V$ 上で $B/I\otimes_BB'=B'/IB'$。Har77 II 演習 3.11)。とくに $i$ 自身による底変換 $Z\times_XZ\to Z$ は、$Z$ の閉部分スキームでイデアル層 $\mathcal{I}\mathcal{O}_Z=0$ が定めるもの、すなわち $Z$ 自身への同型である。対角射 $\Delta_i$ はその逆写像だから同型で、とくに閉埋め込みであり、$i$ は分離である。最後に、閉埋め込みは閉集合の上への同相写像なので閉写像であり、底変換がふたたび閉埋め込みなので $i$ は普遍閉である。

合成・底変換・積で閉じること
  1. 固有射の合成は固有である。
  2. 固有射の底変換は固有である。すなわち $f\colon X\to Y$ が固有で $Y'\to Y$ が任意の射なら $X\times_YY'\to Y'$ は固有である。
  3. $S$ 上の固有射 $f\colon X\to Y$、$f'\colon X'\to Y'$ の積 $f\times_Sf'\colon X\times_SX'\to Y\times_SY'$ は固有である。
  4. $f\colon X\to Y$、$g\colon Y\to Z$ について、$g\circ f$ が固有で $g$ が分離なら $f$ は固有である。
ファイバー積による証明

分離射および有限型射が合成と底変換で閉じることは既知とする(Har77 II 系 4.6、II 演習 3.13)。

  1. $f\colon X\to Y$、$g\colon Y\to Z$ を固有とする。任意の $Z'\to Z$ に対し、$X\times_ZZ'\cong X\times_Y(Y\times_ZZ')$ であるから、$g\circ f$ の底変換 $X\times_ZZ'\to Z'$ は、$f$ の底変換 $X\times_Y(Y\times_ZZ')\to Y\times_ZZ'$ と $g$ の底変換 $Y\times_ZZ'\to Z'$ の合成である。閉写像の合成は閉写像なので $g\circ f$ は普遍閉である。
  2. 底変換の底変換は底変換である($(X\times_YY')\times_{Y'}Y''\cong X\times_YY''$)から、普遍閉は底変換で保たれる。分離と有限型も保たれる。
  3. $f\times_Sf'$ は、$X\times_SX'\to Y\times_SX'$($f$ の $Y\times_SX'\to Y$ による底変換)と $Y\times_SX'\to Y\times_SY'$($f'$ の $Y\times_SY'\to Y'$ による底変換)の合成であるから、1 と 2 により固有である。
  4. グラフ射 $\Gamma_f=(\mathrm{id}_X,f)\colon X\to X\times_ZY$ は、$g$ の対角射 $\Delta_g\colon Y\to Y\times_ZY$ の $f\times_Z\mathrm{id}_Y\colon X\times_ZY\to Y\times_ZY$ による底変換である。$g$ が分離なので $\Delta_g$ は閉埋め込みであり、閉埋め込みは底変換で保たれるから $\Gamma_f$ は閉埋め込みで、prop-proper-morphism-closed-immersion により固有である。一方、射影 $p_2\colon X\times_ZY\to Y$ は $g\circ f\colon X\to Z$ の $g\colon Y\to Z$ による底変換であるから、2 により固有である。$f=p_2\circ\Gamma_f$ なので 1 により $f$ は固有である。
固有射の像と閉部分スキーム

固有射 $f\colon X\to Y$ の像 $f(X)$ は閉集合である。固有スキーム $X\to Y$ の閉部分スキーム $Z\subset X$ は $Y$ 上固有である。2 つの固有な $Y$ スキームの間の $Y$ 射は固有である。

定義と定理の適用

普遍閉な射は閉写像であるから $f(X)$ は閉である。$Z\to X\to Y$ は閉埋め込みと固有射の合成なので固有である。$X\to Y$、$X'\to Y$ が固有で $h\colon X\to X'$ が $Y$ 射なら、$X'\to Y$ は分離だから thm-proper-morphism-permanence の 4 により $h$ は固有である。

有限射の固有性

有限射 $f\colon X\to Y$(アフィン射で、$Y$ の各アフィン開集合 $\operatorname{Spec}A$ の逆像が $\operatorname{Spec}B$、$B$ は有限生成 $A$ 加群)は固有である。

整拡大の lying over による証明

有限型:$B$ の $A$ 加群としての生成元は $A$ 代数としての生成元でもある。分離:$X\times_YX$ は開集合 $f^{-1}(V)\times_Vf^{-1}(V)$($V=\operatorname{Spec}A$ は $Y$ のアフィン開集合)で覆われ、対角射の各 $f^{-1}(V)\times_Vf^{-1}(V)=\operatorname{Spec}(B\otimes_AB)$ への制限は全射 $B\otimes_AB\to B$、$b\otimes b'\mapsto bb'$ に対応するので閉埋め込みである。閉埋め込みであることは行き先の上で局所的なので、対角射は閉埋め込みである。普遍閉:有限射の底変換は有限射である($B\otimes_AA'$ は $A'$ 加群として $b_i\otimes1$ で生成される)から、有限射が閉写像であることを示せばよく、$Y$ 上局所的なので $Y=\operatorname{Spec}A$、$X=\operatorname{Spec}B$ としてよい。$B$ は $A$ 上整拡大である(AM69 命題 5.1)。$X$ の閉集合 $V(J)$($J\subset B$ はイデアル)に対し $f(V(J))=V(J\cap A)$ を示す。$\subset$ は明らかである。逆に $\mathfrak{p}\supset J\cap A$ を $A$ の素イデアルとする。$A/(J\cap A)\to B/J$ は単射な整拡大であるから、lying over の定理(AM69 定理 5.10)により $B/J$ の素イデアル $\bar{\mathfrak{q}}$ で $A/(J\cap A)$ への制限が $\mathfrak{p}/(J\cap A)$ になるものがある。その $B$ への引き戻し $\mathfrak{q}$ は $J$ を含み、$\mathfrak{q}\cap A=\mathfrak{p}$ をみたす。よって $\mathfrak{p}\in f(V(J))$ である。

有限射は射影的でもあり(EGA2 6.1.11)、次の定理からも固有性が従う。

射影射の固有性

射影射の固有性

射影射 $f\colon X\to Y$、すなわち閉埋め込み $X\to\mathbb{P}^n_Y=\mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}}\times_{\operatorname{Spec}\mathbb{Z}}Y$ と射影 $\mathbb{P}^n_Y\to Y$ の合成として書ける射は固有である。

付値判定法による証明

prop-proper-morphism-closed-immersion と thm-proper-morphism-permanence の 1・2 により、$\mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}}\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ が固有であることを示せば十分である。$\mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}}$ は $n+1$ 個のアフィン開集合 $U_i=D_+(x_i)=\operatorname{Spec}\mathbb{Z}[x_0/x_i,\dots,x_n/x_i]$ で覆われるから有限型であり、$U_i\cap U_j=D_+(x_ix_j)$ がアフィンなので準分離でもある。よって thm-proper-morphism-valuative を適用できる。$R$ を付値環、$v$ をその付値、$K$ を商体とし、$u\colon\operatorname{Spec}K\to\mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}}$ を任意の射とする。
存在:$u$ の像はある $U_i$ に含まれるので、$u$ は環準同型 $\mathbb{Z}[x_0/x_i,\dots,x_n/x_i]\to K$、$x_k/x_i\mapsto a_k$ で与えられる($a_i=1$)。$a_k\ne0$ なる $k$ は有限個なので、そのうち $v(a_k)$ が最小になる $j$ を選ぶ。すると各 $k$ について $a_k/a_j$ は $0$ か $v(a_k/a_j)=v(a_k)-v(a_j)\ge0$ であり、いずれにせよ $R$ に属する。そこで $t\colon\operatorname{Spec}R\to U_j$ を $x_k/x_j\mapsto a_k/a_j$ で定める。$t$ の $\operatorname{Spec}K$ への制限は、$a_i/a_j=1/a_j$ が $K$ の単元なので $U_i\cap U_j$ に値をとり、その $U_i$ 座標は $(x_k/x_j)/(x_i/x_j)\mapsto(a_k/a_j)/(a_i/a_j)=a_k$ である。よって制限は $u$ に一致する。
一意性:$t,t'\colon\operatorname{Spec}R\to\mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}}$ が $\operatorname{Spec}K$ 上で一致するとする。$R$ の閉点 $\mathfrak{m}$ の像 $t(\mathfrak{m})$ はある $U_i$ に属し、$t^{-1}(U_i)$ は $\mathfrak{m}$ を含む開集合だから $\operatorname{Spec}R$ 全体である(空でない閉集合はすべて $\mathfrak{m}$ を含む)。よって $t$ は $U_i$ に値をとり $x_k/x_i\mapsto b_k\in R$ で与えられ、同様に $t'$ はある $U_j$ に値をとり $x_k/x_j\mapsto b'_k\in R$ で与えられる。$\operatorname{Spec}K$ 上で一致するので、$K$ の中で $b'_i\ne0$ かつ $b_k=b'_k/b'_i$ がすべての $k$ で成り立つ。とくに $b_jb'_i=1$ で、$b_j$ と $b'_i$ は $R$ の単元である。したがって $t,t'$ はともにアフィン開集合 $U_i\cap U_j=D(x_j/x_i)$ に値をとり、対応する 2 つの環準同型 $\mathcal{O}(U_i\cap U_j)\to R$ は $K$ への合成が一致する。$R\to K$ は単射だから 2 つは一致し、$t=t'$ である。
以上で $\mathbb{P}^n_{\mathbb{Z}}\to\operatorname{Spec}\mathbb{Z}$ は固有であり、その底変換 $\mathbb{P}^n_Y\to Y$ も固有、閉埋め込み $X\to\mathbb{P}^n_Y$ との合成 $f$ も固有である。

射影射の 2 つの定義

上の定義は Har77 II.4 のものである。EGA2 5.5.2 は有限型の準連接層 $\mathcal{E}$ の射影束 $\mathbb{P}(\mathcal{E})\to Y$ への閉埋め込みを経由する射を射影射と呼ぶが、この意味の射影射も固有である。固有性は $Y$ 上局所的で、小さいアフィン開集合 $V$ 上では $\mathcal{E}|_V$ が $\mathcal{O}_V^{\oplus(n+1)}$ の商なので $\mathbb{P}(\mathcal{E})|_V$ は $\mathbb{P}^n_V$ の閉部分スキームだからである。準射影射(開埋め込みと射影射の合成)は一般に固有でない(ex-proper-morphism-open-immersion)。

連接層の押し出しと大域切断

固有射による連接層の押し出し

$f\colon X\to Y$ を固有射、$Y$ を局所Noetherスキーム、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の連接層とする。このとき任意の $q\ge0$ について高次順像 $R^qf_*\mathcal{F}$ は $Y$ 上の連接層である。とくに体 $k$ 上固有なスキーム $X$ と連接層 $\mathcal{F}$ について、層コホモロジー $H^q(X,\mathcal{F})$ は有限次元 $k$ 線型空間である。

有限性定理の出典

証明は EGA3 3.2.1 に譲る。射影射の場合は Serre による(Har77 III 定理 8.8、$k$ 上射影的なら III 定理 5.2)。固有射の場合は Chow の補題(thm-proper-morphism-chow)で射影射の場合に帰着する。固有性を外すと $H^0(\mathbb{A}^1_k,\mathcal{O})=k[x]$ のように無限次元になりうる。

完備整スキームの大域切断

$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上固有な整スキームとすると $\Gamma(X,\mathcal{O}_X)=k$ である。

有限次元整域の議論

$A=\Gamma(X,\mathcal{O}_X)$ とおく。thm-proper-morphism-finiteness により $A$ は有限次元 $k$ 線型空間である。$X$ が整スキームなので、生成点での茎である関数体 $K(X)$ への制限写像 $A\to K(X)$ は単射であり(Har77 II 演習 3.6)、$A$ は整域である。$a\in A$、$a\ne0$ に対し、$a$ 倍写像 $A\to A$ は単射な $k$ 線型写像であり、$A$ が有限次元なので全射でもある。よって $ab=1$ をみたす $b$ があり、$A$ は体である。$A$ は $k$ の有限次拡大体で $k$ は代数閉体だから $A=k$ である。

Chow の補題と Stein 分解

Chow の補題の言明

$S$ を Noether スキーム、$f\colon X\to S$ を固有射とする。このとき $S$ 上射影的なスキーム $X'$ と $S$ 射 $g\colon X'\to X$ で、$g$ が射影的かつ全射であり、$X$ のある稠密な開集合 $U$ の上で $g^{-1}(U)\to U$ が同型になるものが存在する。$X$ が既約なら $X'$ も既約にとれ、このとき $g$ は双有理である。

Chow の補題の出典

証明は EGA2 5.6.1 および Har77 II 演習 4.10 に譲る。固有射に関する多くの定理は、Chow の補題で射影射の場合に帰着して証明される。

Stein 分解と準有限な固有射

$f\colon X\to Y$ を固有射、$Y$ を局所 Noether スキームとする。

  1. (Stein 分解)$\mathcal{A}=f_*\mathcal{O}_X$ は連接な $\mathcal{O}_Y$ 代数であり、相対スペクトル $Y'=\mathbf{Spec}\,\mathcal{A}$ により $f$ は $X\xrightarrow{f'}Y'\xrightarrow{g}Y$ と分解する。$g$ は有限射、$f'$ は固有な全射で $f'_*\mathcal{O}_X=\mathcal{O}_{Y'}$ をみたし、$f'$ のファイバーはすべて連結(連結空間)である。
  2. $f$ が準有限射(すべてのファイバーが有限集合)ならば $f$ は有限射である。
Stein 分解の出典

証明は EGA3 4.3.1(分解の存在と連結性)、4.4.2(準有限な固有射は有限)および Har77 III 系 11.5 に譲る。2 は Zariskiの主定理の一形である(Stacks Tag 02LS)。1 により、固有射はつねに「連結ファイバーをもつ固有射と有限射の合成」である。

補足

関連する定理への案内

Nagata のコンパクト化定理によれば、準コンパクトかつ準分離な $Y$ 上の分離な有限型の射は、開埋め込みと固有射の合成に分解する(Nagataのコンパクト化)。エタールコホモロジーの固有底変換定理は、固有射 $f$ と捩れ層について $R^qf_*$ が任意の底変換と交換することを主張し、Chow環では固有射に沿った代数的サイクルの押し出し $f_*$ が定義される(コホモロジーでの対応物は Gysin写像)。$\mathbb{C}$ 上の固有スキームの解析化はコンパクトな複素解析空間であり、GAGA により連接層コホモロジーは代数的なものと一致する。

関連項目

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, II.4(例 4.0.1、系 4.6、定理 4.7、定理 4.9、注意 4.10.2、演習 4.10・4.11)、II 演習 3.6・3.11・3.13、II.7(ブローアップ)、III 定理 5.2・8.8、III 系 11.5、Appendix B 例 3.4.1
[2]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique II. Étude globale élémentaire de quelques classes de morphismes, Publications Mathématiques de l'IHÉS 8, 1961, 5.4.1(固有射の定義)、5.5.2(射影射)、5.6.1(Chow の補題)、6.1.11(有限射は射影的)、7.3.8・7.3.10(付値判定法)
[3]
Alexander Grothendieck, Jean Dieudonné, Éléments de géométrie algébrique III : Étude cohomologique des faisceaux cohérents, Première partie, Publications Mathématiques de l'IHÉS 11, pp. 5–167, 1961, 3.2.1(固有射の有限性定理)、4.3.1(Stein 分解)、4.4.2(準有限な固有射は有限)
[4]
Michael F. Atiyah, Ian G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley, 1969, Chapter 5(命題 5.1:有限生成加群なら整、定理 5.10:lying over)
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The Stacks Project Authors, The Stacks Project, The Stacks Project Authors, 閲覧日 2026年9月22日

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