固有値(eigenvalue)とは、ベクトル空間 $V$ の線形変換 $T$(または正方行列 $A$)に対し、零でないベクトル $v$ が存在して $T(v)=\lambda v$ となるスカラー $\lambda$ のことであり、この $v$ を固有ベクトル、$\ker(T-\lambda\,\mathrm{id})$ を固有空間という。有限次元では $\lambda$ が固有値であることと固有多項式 $\det(xI-A)$ の根であることが同値で、固有多項式は相似で不変である。相異なる固有値の固有空間の和は直和で、$T$ が対角化可能であることは、固有空間の次元の和が $\dim V$ に等しいこと、また固有多項式が 1 次式の積に分解し各固有値の幾何重複度が代数重複度に一致することと同値である。$\sin\theta\ne0$ の実回転は固有値をもたない。
$K$ を体、$V$ を $K$ 上のベクトル空間、$T\colon V\to V$ を線形変換とする。スカラー $\lambda\in K$ と零でないベクトル $v\in V$ が
$$
T(v)=\lambda v
$$
を満たすとき、$\lambda$ を $T$ の固有値(eigenvalue)、$v$ を固有値 $\lambda$ に属する $T$ の固有ベクトル(eigenvector)という。固有値 $\lambda$ に対し、
$$
E_\lambda(T):=\ker(T-\lambda\,\mathrm{id}_V)=\{v\in V\mid T(v)=\lambda v\}
$$
を $\lambda$ に属する固有空間という。$E_\lambda(T)$ は $V$ の部分空間であり、その零でない元がちょうど $\lambda$ に属する固有ベクトルである。
$n$ 次正方行列 $A\in M_n(K)$ に対しては、$K^n$ の線形変換 $x\mapsto Ax$ の固有値・固有ベクトル・固有空間をそれぞれ $A$ の固有値・固有ベクトル・固有空間という。すなわち $\lambda$ が $A$ の固有値であるとは、$Av=\lambda v$ を満たす $v\ne0$ が存在することである。線形変換 $T$ の固有値・固有ベクトルを求める問題を固有値問題という。Axl15
$A\in M_n(K)$ に対し、変数 $x$ の多項式
$$
p_A(x):=\det(xI_n-A)\in K[x]
$$
を $A$ の固有多項式(特性多項式)といい、方程式 $p_A(x)=0$ を特性方程式という。$p_A$ は最高次の係数が $1$ の $n$ 次多項式である(prop-eigenvalue-characteristic)。有限次元のベクトル空間 $V$ の線形変換 $T$ に対しては、基底を 1 つ選んだときの表現行列 $A$ によって $p_T:=p_A$ と定める。これは基底の取り方によらない(prop-eigenvalue-similarity)。
固有値 $\lambda$ の $p_T$ の根としての重複度($(x-\lambda)^m$ が $p_T$ を割り切る最大の $m$)を $\lambda$ の代数重複度、固有空間の次元 $\dim E_\lambda(T)$ を $\lambda$ の幾何重複度という。HJ13
有限次元のベクトル空間 $V$ の線形変換 $T$ が、固有ベクトルだけからなる $V$ の基底 $v_1,\ldots,v_n$ をもつとき、$T$ は対角化可能であるという。このとき $T(v_j)=\lambda_jv_j$ であるから、この基底に関する $T$ の表現行列は対角成分が $\lambda_1,\ldots,\lambda_n$ の対角行列である。行列 $A\in M_n(K)$ については、正則行列 $P$ が存在して $P^{-1}AP$ が対角行列になるとき $A$ は対角化可能であるといい、そのような $P$ を求めることを $A$ の対角化という。$P^{-1}AP=\operatorname{diag}(\lambda_1,\ldots,\lambda_n)$ は $AP=P\operatorname{diag}(\lambda_j)$、すなわち「$P$ の第 $j$ 列が固有値 $\lambda_j$ に属する $A$ の固有ベクトル」と同値であるから、行列の対角化可能性は線形変換 $x\mapsto Ax$ の対角化可能性と一致する。Axl15
線形変換は一般にベクトルの向きも長さも変えるが、固有ベクトルは「向きが変わらない(あるいは反転するだけの)方向」であり、固有値はその方向での拡大率である。固有ベクトルからなる基底がとれれば、線形変換はその基底の各方向への独立な拡大・縮小に分解され、表現行列は対角行列になる。これが対角化であり、$T^k$ の計算($P^{-1}A^kP=D^k$)、線形微分方程式や線形漸化式の解法、2次形式の標準化など多くの応用の基礎である。
固有値を見つける鍵は、$T(v)=\lambda v$ を $(T-\lambda\,\mathrm{id})(v)=0$ と書き直すことである。零でない解 $v$ が存在するのは $T-\lambda\,\mathrm{id}$ が単射でないとき、有限次元では正則行列でないとき、すなわち $\det(\lambda I-A)=0$ のときである。こうして固有値は固有多項式の根として特徴づけられ(prop-eigenvalue-characteristic)、固有値が分かれば固有ベクトルは斉次連立1次方程式 $(A-\lambda I)x=0$ を解いて求まる。
対角化できるかどうかは、固有多項式が $K$ 上で 1 次式の積に分解するかどうかと、各固有値について固有空間が十分大きいか(幾何重複度が代数重複度に一致するか)で決まる(thm-eigenvalue-diagonalizable)。$\mathbb{R}$ 上の回転は前者を、Jordan 細胞は後者を破る(rem-eigenvalue-counterexamples)。
$A$ が対角行列 $\operatorname{diag}(a_1,\ldots,a_n)$ なら $Ae_j=a_je_j$ であるから、各 $a_j$ は固有値で $e_j$ は固有ベクトルである。より一般に $A$ が上三角行列(または下三角行列)なら、$xI_n-A$ も三角行列であるから行列式の記事の命題「三角行列と区分三角行列の行列式」により $p_A(x)=(x-a_{11})\cdots(x-a_{nn})$ であり、固有値は対角成分 $a_{11},\ldots,a_{nn}$ にほかならない。ただし三角行列は対角化可能とは限らない(rem-eigenvalue-counterexamples)。
$A=\begin{pmatrix}2 & 1\\ 1 & 2\end{pmatrix}$ の固有多項式は
$$
p_A(x)=\det\begin{pmatrix}x-2 & -1\\ -1 & x-2\end{pmatrix}=(x-2)^2-1=(x-1)(x-3)
$$
であり、固有値は $1,3$ である。$(A-I)x=0$ を解くと $E_1=\operatorname{span}\{(1,-1)^{\top}\}$、$(A-3I)x=0$ を解くと $E_3=\operatorname{span}\{(1,1)^{\top}\}$ である。固有ベクトルを並べた $P=\begin{pmatrix}1 & 1\\ -1 & 1\end{pmatrix}$ は $\det P=2\ne0$ で正則であり、
$$
P^{-1}AP=\begin{pmatrix}1 & 0\\ 0 & 3\end{pmatrix}
$$
である。したがって $A^k=P\operatorname{diag}(1,3^k)P^{-1}$ が直ちに計算できる。実対称行列はつねに対角化可能で、固有ベクトルを互いに直交するようにとれる(スペクトル定理)。
$V$ の線形変換 $P$ が $P^2=P$ を満たす(冪等である、射影である)とする。$P(v)=\lambda v$($v\ne0$)なら $\lambda v=P(v)=P^2(v)=\lambda^2v$ であるから $\lambda^2=\lambda$、すなわち $\lambda\in\{0,1\}$ である。$E_0=\ker P$、$E_1=\operatorname{im}P$ であり($w=P(u)$ なら $P(w)=P^2(u)=w$)、任意の $v$ は $v=(v-P(v))+P(v)$ と $E_0$ の元と $E_1$ の元の和に書けるので $V=E_0\oplus E_1$ である。よって $P$ は対角化可能であり(thm-eigenvalue-diagonalizable)、$P\ne0,\mathrm{id}$ なら固有値はちょうど $0$ と $1$ である。
実数係数で次数 $n$ 以下の多項式の空間 $\mathbb{R}[x]_{\le n}$($n\ge1$)上の微分 $D\colon f\mapsto f'$ を考える。基底 $1,x,\ldots,x^n$ に関する表現行列は $(i,i+1)$ 成分が $i$($i=1,\ldots,n$)でそれ以外が $0$ の上三角行列であるから、$p_D(x)=x^{n+1}$ であり固有値は $0$ だけである。$E_0=\ker D$ は定数多項式全体で $1$ 次元である。したがって固有空間の次元の和は $1< n+1$ であり、$D$ は対角化可能でない(thm-eigenvalue-diagonalizable)。固有値 $0$ の代数重複度は $n+1$、幾何重複度は $1$ である。
$K$ の元の数列全体 $K^{\mathbb{N}}$ 上の左ずらし $L(a_0,a_1,a_2,\ldots):=(a_1,a_2,a_3,\ldots)$ について、任意の $\lambda\in K$ に対し等比数列 $v_\lambda:=(1,\lambda,\lambda^2,\ldots)$ は $L(v_\lambda)=\lambda v_\lambda$ を満たすので、$K$ のすべての元が $L$ の固有値である。無限次元では固有値が無限個ありうる(有限次元では高々 $\dim V$ 個である)。無限次元では固有多項式が定義されず、関数解析では固有値を含むより広い概念であるスペクトルを扱う。
以下、$V$ は $n$ 次元($n\ge1$)のベクトル空間、$T$ はその線形変換、$A$ はある基底に関する $T$ の表現行列とする。$\mathrm{id}_V$ の表現行列は $I_n$ であり、$T-\lambda\,\mathrm{id}_V$ の表現行列は $A-\lambda I_n$ である(基底 $v_1,\ldots,v_n$ について $(T-\lambda\,\mathrm{id}_V)(v_j)=T(v_j)-\lambda v_j$ の座標は、$A$ の第 $j$ 列から $\lambda e_j$ を引いたものである)。
1 を示す。$T-\lambda\,\mathrm{id}_V$ は線形変換の差であるから線形であり(線形写像 の記事の命題「線形写像のなすベクトル空間」)、その核は部分空間である(同記事の命題「核と像は部分空間」)。$E_\lambda(T)$ の零でない元とは $T(v)=\lambda v$ を満たす $v\ne0$ のことであり、その存在が固有値の定義である。
2 を示す。$\lambda$ が固有値であることは $\ker(T-\lambda\,\mathrm{id}_V)\ne\{0\}$ と同値で、これは $T-\lambda\,\mathrm{id}_V$ が単射でないことと同値である(線形写像 の記事の命題「単射性と核」)。線形変換 $S:=T-\lambda\,\mathrm{id}_V$ と表現行列 $B:=A-\lambda I_n$ について、$S$ が単射であることは $Bx=0$ が自明な解しかもたないことと同値であり(座標をとれば $S(v)=0$ は $Bx=0$ になる)、行列式 の記事の定理「正則性の判定」により、それは $B$ が正則であること、また $\det B\ne0$ と同値である。$\det(\lambda I_n-A)=\det(-(A-\lambda I_n))=(-1)^n\det(A-\lambda I_n)$ であるから $\det(A-\lambda I_n)=0$ と $p_A(\lambda)=0$ は同値である。
3 を示す。$xI_n-A$ の $(i,j)$ 成分は $x\delta_{ij}-a_{ij}$ である。Leibniz の公式(行列式 の記事の定義)により
$$
p_A(x)=\sum_{\sigma\in S_n}\operatorname{sgn}(\sigma)\prod_{i=1}^{n}(x\delta_{i\sigma(i)}-a_{i\sigma(i)})
$$
である。$\sigma=\mathrm{id}$ の項は $\prod_i(x-a_{ii})=x^n-(a_{11}+\cdots+a_{nn})x^{n-1}+q(x)$($q$ は次数 $n-2$ 以下の多項式)である。$\sigma\ne\mathrm{id}$ なら $\sigma(i)\ne i$ となる $i$ は少なくとも 2 つあり(1 つだけなら残りの $n-1$ 個の値の行き先が決まらない)、それらの因子は定数 $-a_{i\sigma(i)}$ であるから、この項の次数は $n-2$ 以下である。よって $p_A$ は最高次係数 $1$ の $n$ 次多項式で $x^{n-1}$ の係数は $-\operatorname{tr}A$ である。定数項は $p_A(0)=\det(-A)=(-1)^n\det A$ である(各行から $-1$ をくくり出す。行列式 の記事の定理「多重線形性と交代性」の 1)。
4 を示す。2 により固有値は $n$ 次多項式 $p_A$ の根であり、体上の $n$ 次多項式の根は高々 $n$ 個である(多項式の根の個数)。$\square$
$P^{-1}(xI_n-A)P=xP^{-1}P-P^{-1}AP=xI_n-P^{-1}AP$ である。多項式環 $K[x]$ は可換環であり、積の行列式の公式は可換環を成分とする行列でも成り立つ(行列式 の記事の注意「可換環上の行列式」)から、
$$
p_{P^{-1}AP}(x)=\det\bigl(P^{-1}(xI_n-A)P\bigr)=\det(P^{-1})\det(xI_n-A)\det P=p_A(x)
$$
である($\det(P^{-1})\det P=\det I_n=1$)。固有値は固有多項式の根であるから(prop-eigenvalue-characteristicの 2)相似な行列で一致し、跡と行列式は固有多項式の係数であるから(同 3)一致する。別の基底に関する表現行列は $P^{-1}AP$ の形である(線形代数学 の記事の定理「表現行列と基底の取り替え」の 3)から $p_T$ は矛盾なく定まる。最後の主張は、$T(v)=\lambda v$ が座標では $Ax=\lambda x$ と書けることによる。$\square$
1 を示す。$v_1+\cdots+v_k=0$ で、ある $v_i$ が $0$ でないと仮定する。$0$ でない $v_i$ たちだけを残すと、それらは相異なる固有値に属する固有ベクトルであり、係数がすべて $1$ の非自明な線形関係をもつ。これは相異なる固有値に属する固有ベクトルの線形独立性(線形代数学 の記事の定理「相異なる固有値に属する固有ベクトル」)に反する。
2 を示す。$E_i$ の基底を $e_{i1},\ldots,e_{id_i}$($d_i=\dim E_i$)とし、線形関係 $\sum_{i=1}^{k}\sum_{j=1}^{d_i}a_{ij}e_{ij}=0$ をとる。$w_i:=\sum_ja_{ij}e_{ij}\in E_i$ とおくと $w_1+\cdots+w_k=0$ であるから、1 によりすべての $w_i=0$ である。各 $i$ について $e_{i1},\ldots,e_{id_i}$ は線形独立であるから $a_{ij}=0$ である。よって合わせた族は線形独立であり、その元の個数 $\sum_id_i$ は $\dim V=n$ を超えない(基底と次元 の記事の命題「有限次元空間における独立系と生成系」の 1)。$\square$
$T$ の任意の固有値 $\lambda$ について、幾何重複度は代数重複度以下である。すなわち $g:=\dim E_\lambda(T)$ とすると $(x-\lambda)^g$ は $p_T(x)$ を割り切る。HJ13
$E_\lambda(T)$ の基底 $v_1,\ldots,v_g$ をとり、線形代数学 の記事の補題「部分空間の基底と基底の延長」により $v_{g+1},\ldots,v_n$ を付け加えて $V$ の基底にする。$T(v_j)=\lambda v_j$($j\le g$)であるから、この基底に関する $T$ の表現行列は
$$
A'=\begin{pmatrix}\lambda I_g & B\\ O & D\end{pmatrix}\qquad(B\in M_{g,n-g}(K),\ D\in M_{n-g}(K))
$$
の形である。$xI_n-A'$ も同じ形の区分上三角行列であるから、行列式 の記事の命題「三角行列と区分三角行列の行列式」の 2(可換環 $K[x]$ 上でも成り立つ)により
$$
p_T(x)=p_{A'}(x)=\det\bigl((x-\lambda)I_g\bigr)\det(xI_{n-g}-D)=(x-\lambda)^g\,p_D(x)
$$
である。よって $(x-\lambda)^g$ は $p_T$ を割り切り、$\lambda$ の代数重複度は $g$ 以上である。$\square$
$\lambda_1,\ldots,\lambda_k$ を $T$ の相異なる固有値のすべてとし、$E_i:=E_{\lambda_i}(T)$ とおく。次は同値である。
1 ならば 2。固有ベクトルからなる基底 $v_1,\ldots,v_n$ をとる。各 $v_j$ はいずれかの $E_i$ に属するから $V=\operatorname{span}\{v_1,\ldots,v_n\}\subset E_1+\cdots+E_k\subset V$ であり、prop-eigenvalue-direct-sumの 1 によりこの和は直和である。
2 ならば 3。各 $E_i$ の基底を合わせた族はprop-eigenvalue-direct-sumの 2 により線形独立であり、2 により $V$ を生成するから $V$ の基底である。その元の個数 $\sum_i\dim E_i$ は $\dim V=n$ に等しい(基底と次元 の記事の定理「次元の一意性」)。
3 ならば 1。各 $E_i$ の基底を合わせた族は線形独立で(prop-eigenvalue-direct-sumの 2)、元の個数が $n=\dim V$ であるから $V$ の基底である(基底と次元 の記事の命題「有限次元空間における独立系と生成系」の 1)。その元はすべて固有ベクトルであるから $T$ は対角化可能である。
1 ならば 4。固有ベクトルからなる基底に関する表現行列は対角行列 $\operatorname{diag}(\mu_1,\ldots,\mu_n)$(各 $\mu_j$ はいずれかの $\lambda_i$)であり、$p_T(x)=\prod_j(x-\mu_j)$ は 1 次式の積に分解する。$\lambda_i$ に等しい $\mu_j$ の個数を $d_i$ とすると、$\lambda_i$ の代数重複度は $m_i=d_i$ である。一方、$\lambda_i$ に対応する $d_i$ 個の基底ベクトルは $E_i$ の線形独立な元であるから $d_i\le\dim E_i$ であり、$\sum_id_i=n$ とprop-eigenvalue-direct-sumの 2($\sum_i\dim E_i\le n$)から $\dim E_i=d_i=m_i$ である。
4 ならば 3。$p_T$ が $n$ 次で 1 次式の積に分解するから $\sum_im_i=n$ であり、仮定により $\sum_i\dim E_i=\sum_im_i=n$ である。
最後の主張について。$T$ が $n$ 個の相異なる固有値をもてば、各固有空間は $1$ 次元以上であるから $\sum_i\dim E_i\ge n$ であり、prop-eigenvalue-direct-sumの 2 と合わせて $=n$ となり 3 が成り立つ。(この場合の直接の証明は 線形代数学 の記事の定理「相異なる固有値に属する固有ベクトル」にもある。)$\square$
$p_T$ は $n\ge1$ 次の多項式であるから、$K$ が代数閉なら $K$ に根 $\lambda$ をもち、prop-eigenvalue-characteristicの 2 により $\lambda$ は固有値である。代数閉体上では $n$ 次多項式は 1 次式の積に分解するので $p_T(x)=\prod_j(x-\lambda_j)$ と書ける。右辺を展開すると $x^{n-1}$ の係数は $-\sum_j\lambda_j$、定数項は $(-1)^n\prod_j\lambda_j$ であり、prop-eigenvalue-characteristicの 3 と比較して主張を得る。分解が $K$ 上で成り立てば同じ比較ができる。$\square$
対角化できない場合の標準形が Jordan標準形 である。代数閉体上の任意の正方行列は Jordan 細胞(対角に $\lambda$、その 1 つ上に $1$ を並べた行列)を対角に並べた行列に相似であり、対角化可能であることとすべての細胞の大きさが $1$ であることは同値である。言明と出典は 線形代数学 の記事の定理「Jordan標準形の存在と一意性」、証明は Jordan標準形 の記事に譲る。$\mathbb{C}$ 上の正規行列(とくに Hermite行列、実対称行列)はつねに対角化可能で、しかも固有ベクトルからなる正規直交基底がとれる。これがスペクトル定理であり、内積空間の理論と結びつく。固有値の摂動や数値計算については HJ13 Chapter 1 と Chapter 6 を参照。
固有多項式に行列自身を代入すると零行列になる。すなわち $p_A(A)=O$ である。これが Cayley–Hamiltonの定理 であり、証明は同記事および Lan02 Chapter XIV に譲る(余因子行列 $\operatorname{adj}(xI-A)$ を使う証明が標準的である)。この定理から、$A$ を零化する最小次数の多項式である最小多項式(線形代数)が $p_A$ を割り切ることが従い、対角化可能性は最小多項式が相異なる 1 次式の積であることとも同値である。
固有値(eigenvalue)の eigen はドイツ語で「固有の」を意味し、特性値・固有根ともよばれた。固有値問題は線形代数の中心的主題であり、線形微分方程式の解 $e^{\lambda t}v$、Markov連鎖の定常分布(固有値 $1$ の固有ベクトル)、主成分分析(共分散行列の固有ベクトル)、量子力学(観測量の固有値)、グラフの隣接行列のスペクトルなど、応用は広い。無限次元への一般化が作用素のスペクトルの理論であり、関数解析の主題である。固有値の基礎理論は Axl15 Chapter 5、行列の言葉での詳しい扱いは HJ13 Chapter 1 による。
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